熊本城ドラゴン決戦~夕闇に舞う

作者:八幡

●夕闇に舞う
 夕闇の中に聳え立つ城の影。その影の上空を舞う、夥しい数の蝙蝠に似た何か。
 蝙蝠……否、城と比較してあまりにも大きすぎるそれは、ドラゴンと呼ばれるデウスエクスに違いなかった。
 そのドラゴンは暫く空を旋回した後に、次々と城へと向かって突撃して行き……城へ辿り着くと同時に、弾けるように飛び散る。
 狂気すら感じさせるドラゴンの突撃は幾度も繰り返され、ドラゴンが弾け散るたびに城の外壁が徐々に、徐々に削り取られて――いつしか外壁のほとんどを失った城の中から球体のようなものが現れる。
 その球体が何かは分からない……だがそれは、決してドラゴンの手に渡してはならないと、見ただけで直観させるに十分な力を感じさせるものだった。

●覚悟
「熊本市全域でのドラゴンとの戦いは、みんなのおかげで最小限の被害で勝つことができたんだよ!」
 小金井・透子(シャドウエルフのヘリオライダー・en0227)はケルベロスたちの前で話を始めると、まずは先の戦いについてケルベロスたちに賞賛の言葉を贈った。
 それから透子は少し目を伏せて、何かを考えるように言葉を紡ぐ。
「でも、竜十字島から出て来たドラゴンの軍団がすぐそこまで迫ってきてるんだ……ドラゴンたちの目的は『熊本城』に封じられた『魔竜王を復活させる事すらできる魔竜王の遺産の奪取』に間違いないんだよ」
 そのまま目を伏したまま、透子は何かに想いを馳せるように話す。
 先の戦いではケルベロスたちの活躍により、ドラゴン勢力にグラビティ・チェインを奪われることは無かった。それ故に、魔竜王の遺産の封印は破られていないのだが、
「魔竜王の遺産の封印は破られていないんだけど……封印を無理やり破るために、ドラゴンの軍団は熊本城に特攻して自爆してグラビティ・チェインを捧げて封印を解こうとしてるみたいなんだよ」
 ドラゴンの自爆特攻……あまり想像したくないものだ。
 しかし、自らの身を捧げるような作戦をとるほどまでにドラゴンたちにとって、この遺産は重要であると言うことだろう。
「みんなには、今すぐ熊本の戦いに参加したケルベロスたちと合流して熊本城の防衛に当たって欲しいんだ」
 透子は伏せていた目線を上げると、ここから先が本題だとばかりに正面に居るケルベロスたちを真っ直ぐに見つめる。
「ドラゴンたちの目的は二つあるみたいだよ……一つは『侵空竜エオスポロス』の軍団を熊本城に自爆特攻させて、魔竜王の遺産の封印を解除すること。あと一つは、覇空竜アストライオスと配下の四竜、廻天竜ゼピュロス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースの儀式で、封印を解除された魔竜王の遺産を竜十字島に転移させること」
 封印解除と運送。基本的な目的と言えるが、ドラゴンがその目的のために手段を選ばない、と言う状況は非常に厄介だ。
「魔竜王の遺産が、竜十字島に転移されちゃうと、ボクたちが手を出すことは至難になるんだよ」
 そして、転送されてしまえばもう手は出せない……それはつまりドラゴン勢力の野望を食い止める事は不可能となると言うことだ。
「それを防ぐ為には、侵空竜エオスポロスを迎撃すると同時に、儀式を行う覇空竜アストライオスと四竜を攻撃する必要があるんだ……強大なドラゴンとの戦いだけど、絶対に勝たないといけないんだよ!」
 だからこそ、一つ一つの戦いを勝ち続けなければいけないのだと、透子はケルベロスたちの目を見つめた。
 此処までの話を聞いて負けたくないではない。勝つのだと……その覚悟を決めたケルベロスたちへ透子は話を続ける。
「みんなには、まず熊本城に突撃してくる『侵空竜エオスポロス』の一体と戦ってもらうんだよ。この侵空竜エオスポロスは、覇空竜アストライオス配下のドラゴンで、素早い機動と鋭い斬撃、電撃のブレスを得意としてるんだよ」
 侵空竜エオスポロス。覇空竜アストライオス配下とは言え、これ一体でもかなりの強さを持つドラゴンだ。
「侵空竜エオスポロスは、熊本城突入の十二分後に自爆しちゃうんだけど……自爆してコギトエルゴスムとなることでグラビティ・チェインを放出して、遺産の封印を解除しようとするんだ。自爆を防ぐためには十二分立つ前に倒す必要があるんだよ」
 そのドラゴンが自爆特攻を仕掛けてくる……それほどまでの価値が遺産にはあり、それをすることに迷いが無いほどにドラゴンは遺産の重要性が分かっていると言うことだろう。
「もし倒せなくても、大きな傷を負わせていれば自爆の効果が弱まって、封印を解除するグラビティ・チェインも減少するから、できるだけ相手に傷を負わせてね」
 そんなドラゴンの自爆特攻の効果を削るにはやはりこちらも力で対応するしかない。
 十二分以内に撃破するか、少なくともかなり弱らせた状態にする必要があると、透子は説明する。
「あと、侵空竜エオスポロスとの戦いと同時に、儀式を行なう覇空竜アストライオスと四竜への対策も必要なんだよ……」
 既にこの時点で、相当な難易度のはずだが……透子は言いずらそうに胸を押さえて、覇空竜アストライオスと四竜への対処について説明する。
「覇空竜アストライオスは、自爆による封印の解除に失敗した場合、儀式を終了させた配下の四竜を犠牲にしてでも魔竜王の遺産を手に入れ竜十字島に送り届けようとするんだ。これを阻止する為には、儀式が完成する前に、覇空竜アストライオス或いは四竜の一体でも撃破する必要があるんだよ」
 二重、三重に保険をかけ、強大な力を持った配下を贄に捧げてでも、この作戦を成功させると言うことだろう。まさに何が何でもと言う状態のようだ。
「覇空竜アストライオスと四竜は、侵空竜エオスポロスの軍団の後ろにいるから、侵空竜エオスポロスを突破しないと戦いを挑むこともできないんだよ。でも、検証の結果、侵空竜エオスポロスと戦いながら、少数の飛行可能なケルベロスを突破させて、覇空竜アストライオスと四竜を奇襲する作戦が成功の可能性が最も高いことが分かったんだ」
 しかも覇空竜アストライオスと四竜は侵空竜エオスポロスの軍団の後方に居り、普通には手が出せないと言う。
 尚且つ、少数の戦力のみを突破させて強大な敵である、覇空竜アストライオスと四竜にぶつける……そんな危険な作戦。しかし、唯一希望があると判断された作戦。
「非常に危険な作戦だけど……上手くいくかどうかはみんなの勇気と力にかかっているんだよ!」
 危険なのは間違いがない。だが、待っていれば取り返しのつかないことになる。攻めなければ未来は無い。正に、参加するものの勇気と力が試される。そんな戦いだ。
 一通りの説明を終えた透子は、胸に手を当てたまま大きく息を吸い込む、
「とっても危ない戦いだよ。でも、危ないことを理解した上で参加してくれるなら……自分と仲間を信じて、戦い抜いてほしい!」
 それから力強くケルベロスたちを励ますように、声をかけたのだった。


参加者
寺本・蓮(幻装士・e00154)
クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)
一式・要(狂咬突破・e01362)
片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)
進藤・隆治(獄翼持つ黒機竜・e04573)
紗神・炯介(白き獣・e09948)
九十九折・かだん(スプリガン・e18614)

■リプレイ

●夕暮
 茜色の空に帳を被せたように夜の闇が広がりつつある。
 そして、赤と黒の交わる空には何体もの大きなな翼をもつドラゴンの影が浮かび……それらが一斉に突撃してくる。
 ドラゴンの目的は大阪城、その中に眠る力持つ遺物。
 迎え撃つはケルベロス。この作戦の意味と重要性を理解し、それを可能とするだけの準備と覚悟を整えた者たち。
「また何を企んでるかは知らないけど。ドラゴンぶっ殺す、それだけでいい」
 漆黒の瞳に突撃してくるドラゴンの姿を映し、エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)はドラゴンへの憎悪を言葉にする。
「思い知らせ、後悔させ、そして屠りましょう。それが我々の役目です」
 明確な敵意に反して酷く冷たい口調で言い放ったエルスの言葉に、クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)は頷く。敵に対して仄暗い憎悪を燃やすのは自分も同じだ。それからクロハは翼を広げて羽ばたき、エルスと共に空へと飛びあがる。
 烈火の如くに燃える炎はすぐに燃え尽きる……が、クロハやエルスのように静かに燃える憎悪は、心に留まり続けて何時までも敵意の対象を苦しめ続けるだろう。
「良い天気……なんだけどねぇ」
 空の向こうに見えるのがおっかないドラゴンじゃ台無しだねぇと考えていた、一式・要(狂咬突破・e01362)は自分の後ろ上空を飛行するクロハたちに、どっちの方がおっかないかねぇと肩をすくめた。
 それから要は手にした青いナイフへ視線を落とすと、一度だけ感触を確かめるように握りしめてから鞘に納める。
「自爆の覚悟、か」
 要の所作を横目で確認して、要もまた何かを背負っているのだろうと、九十九折・かだん(スプリガン・e18614)は予想する。それから視線を正面へ戻して、急速に近づいてくるドラゴンの姿を真っ直ぐに見つめる。
 自爆覚悟で突っ込んでくるドラゴン。奴らも仲間の運命を背負っているのだろう。だからこその決死。
「こんなところで、負けるわけには」
 しかし、相手が決死の覚悟で突っ込んで来ようと勝ちを譲ってやる理由にはならないと、進藤・隆治(獄翼持つ黒機竜・e04573)は言う。
 仲間の命がかかっているのは此方も同じなのだ。故に負けることは許されず。だからこその譲れない命の奪い合いとなっている。
「強敵なれど二人送り届けて勝つのだわ!」
 隆治の言葉に当然だと頷くかだんの背中を見つつ、片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)が自分に気合を入れるように小さく跳ねて体をほぐしていると、
「何ともギリギリ続きだけど、頑張らないとね」
 紗神・炯介(白き獣・e09948)は落ち着いた口調で、それでいて強い意志を言葉にしてから、芙蓉の肩に手を置いた。
 フフフ当然ね! と返してきた芙蓉の口調は普段と変わらないものだったけれど……微かな震えが置いた手から炯介に伝わる。それが恐れのためか高揚のためかは分からないが、適度な緊張は必要なものだ。炯介は特に何も言わず、今度は少し力を込めて芙蓉の肩を叩いて、
「さぁ、悲劇に幕を引こうか」
 寺本・蓮(幻装士・e00154)が意気込みを声にすると――それに応じるように、強烈な風が蓮たちの目の前で巻き起こった。

●夕闇
 優に人の七倍はあろう大きさを誇るドラゴンは、蓮たちの目の前で突撃の速度を緩めるために羽を打つ。
 ドラゴンが羽を打った瞬間、突風が巻き起こり――間髪入れずにドラゴンは大きく息を吸い込むと、周囲に雷のブレスを撒き散らした。
 突風に紛れるように吐かれた雷のブレスは空気を切り裂く轟音を発しながら蓮たちの周囲を抉りとるが、隆治は蓮の目の前でオウガメタルを広げて防ぎ、かだんは風を切り裂くようにゲシュタルトグレイブを突き付けると、その帆先で雷を受け止める。
 防いだと言っても無傷で済むわけではない、貫通した雷が隆治の肩を焼き、受け止めきれなかった威力はかだんの指先を黒く染める。だが、それでも仲間たちは一歩も引くことは無く。
「じっと、していて」
 そんな、かだんが向ける矛先……地面すれすれを飛行する、大口を開けたままの侵空竜エオスポロスへと炯介は右手を差し出した。
 炯介が右手を差し出した瞬間、エオスポロスの体を包み込むように黒き荊棘が出現し、唐突に現れた荊棘を振り払おうとするエオスポロスに切なく狂おしく、もう放さないと抱擁するが如くに絡みつく。
 黒き荊棘によって全身から血を流すエオスポロスへと砲撃形態に変形させたドラゴニックハンマーを隆治とかだんが構え、それとほぼ同時に後方でクロハと要が全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出しすると、芙蓉たちの超感覚を覚醒させる。
 光輝く粒子が舞う中、荊棘に捕らわれ続けるエオスポロスへ隆治とかだんは竜砲弾を放ち……エオスポロスの両翼へ直撃させた。
 轟音と共に両翼から煙を上げるエオスポロスだが、その体躯からすれば与えた傷など微々たるものなのか、よろめくことすらない……だが、忌々しそうに唸る様を見るに確実に効果はあるようだ。
 芙蓉たちの足元に守護星座を描きつつ、エルスは竜の姿を見て沸き上がる胸を焼くような思いとは逆に、努めて冷静な頭でエオスポロスの様子を上空から観察する。
「補佐を付けるのだわーっ」
 上空に居るエルスへ一瞬視線を向けた芙蓉は、何処か遠く別の誰かとその姿を重ね……すぐに気を取り直して兎のエネルギーを生み出した。
 生み出された兎のエネルギーは炯介たちの体について武器を観察するように鼻を鳴らすと、光となって炯介たちの中へと消えていった。
「拘束しろ、参式!」
 そして芙蓉のテレビウムである梓紗が凶器を片手にエオスポロスへ突撃し、蓮が両手にソードオフしたショットガンを召喚しつつエオスポロスの足元へ突っ込み至近距離で引き金を引くと、小型のボーラがばら撒かれてエオスポロスの体を捕えた。

 自分の行動を阻害する、蓮たちの行動に苛立つようにエオスポロスは吠える。
 それから羽を大きく広げた勢いで上昇し、まとわりついていた小型のボーラを弾くと、続けざまに急降下して足の爪をかだんの脳天へ向けて振り下ろした。唐突に振り下ろされた爪をかだんは避け切れず……、
「知ってるか」
 それでも直撃する寸前に首を捻って直撃を避けたかだんの角へエオスポロスの爪が直撃した。頭蓋を砕かれるかのような衝撃と頭の中に直接鳴り響く激突音に意識を半分以上持っていかれながらもかだんは爪越しに頭上から自分を見下ろすエオスポロスを見つめる。
「最近のヘラジカは力を散々溜め込んで――後ろの儀式ごと攻撃が、出来る」
 そして淡々と事実であるかのように告げた。それは妄言に過ぎない。だが、渾身の爪を角で受け、鼻と耳から血を流しながらも倒れないかだんの言葉にはある種の迫力があり……エオスポロスは一瞬爪を引いた。
 爪を引いたエオスポロスの隙を見逃さずに炯介が骨から生成された青灰色のダイヤモンドハンマーから竜砲弾を放ち、同じくクロハも竜砲弾を放つ。放たれた竜砲弾は芙蓉の兎に導かれるようにエオスポロスの胸元に直撃して爆発し、爪を引こうとしていたエオスポロスを仰け反らせる。
 要と隆治はかだんの横を駆け抜けると、仰け反ったエオスポロスの爪を踏み台に飛び上がり、要は全身を覆うオウガメタルを鋼の鬼と化した拳を、隆治はヌンチャク型如意棒を、炯介とクロハがつけた傷口へ捻じ込んだ。
 エオスポロスが苦痛に身を捩る寸前、要と隆治は飛び退き、エルスが物質の時間を凍結する弾丸を先ほどまで要が居た場所へ直撃させる。
 そして芙蓉が満月に似たエネルギー光球をかだんにぶつけると、傷を癒しつつも凶暴性を高めたかだんは身を捩じったエオスポロスの足元へ一足で踏み込み、稲妻を帯びた超高速の突きで刺し、かだんのゲシュタルトグレイブを踏んで大きく飛びあがった蓮が電光石火の蹴りでエオスポロスの羽の付け根を貫いた。

●黄昏
 幾たびか繰り返された応酬の後。
 飛び退いた隆治たちがすぐさま武器を構え、エオスポロスは威を示すように大きく羽を広げる……と、
「いけるわね、かだん!」
 ちらりと腕に巻いた時計を確認した芙蓉が大声を上げ、その声にエオスポロスの羽が微かに揺れる。唐突に芙蓉が上げた声、それは合図。一斉攻撃に移り、活路を開くための合図だ。
 エオスポロスの様子を見たかだんは一歩大きく踏み出して、低く身構える。それから何時でも仕掛けられるぞと言わんばかりにエオスポロスを見上げて――、
『グルァアア!』
 かだんの挑発に乗ったエオスポロスは身を翻すように旋回すると尻尾を鞭のようにかだんたちへ叩き付ける。
 鞭のようにしなる丸太のごとき大きさの尻尾はかだんと隆治、それから蓮の体を薙ぎ払い……まともに受けてしまった隆治たちは数メートルの距離を吹っ飛ばされる。
 自らが吹き飛ばした隆治たちの様をエオスポロスは注意深く見つめ――ふと、視界の隅に黒い影を捉える。それは丁度クロハが大回り気味に自分の横を抜けて行こうとしているところで……クロハの姿を見つけたエオスポロスは大きく息を吸い込む。
「余所見をしている余裕があるのかい?」
 だが、エオスポロスがクロハへ気を取られている隙に距離を詰めた炯介がデス・メモリーを手に飛び上がり、エオスポロスがブレスを吐くよりも早くデス・メモリーを横腹に叩き付ける。
 叩き付けた横腹から生命の進化可能性を奪う超重の一撃を受けたエオスポロスは、奪われた可能性の分だけ身を凍らせながら堪らず身を捩り、
「地獄の翼を受けてみろ!」
 吹き飛ばされていた隆治は片手で地面を叩いて体を反転させるや否や地獄化した翼で羽ばたいて、その翼を出したことへの嫌悪感を乗せてエオスポロスへと突撃する。
 それからエオスポロスの目の前で先ほどのお返しとばかりに身を翻すと、地獄化した翼でエオスポロスの胸元を切り裂いた。
 胸元を割かれたエオスポロスは隆治を振り払うように羽を打って、後ろへ飛ぶ……と、クロハとは逆側に白い翼の姿を見つけた。エオスポロスはその白い翼、エルスの背中を撃つべく再び大きく息を吸い込むが、天空高く飛び上がったかだんが美しい虹を纏う踵落としをエオスポロスの鼻っ面に叩き込んだ。
 落とした踵と逆の足でエオスポロスの顎を蹴り、かだんが一息に地面に降りるのと入れ替わるように、エオスポロスの足から胴体までを駆け上がりながら要はジグザグに変形させたナイフでエオスポロスの体を回復しづらい形状に切り刻んでゆく。
 さらに、芙蓉が敵に喰らいつくオーラの弾丸を放ち、肩口まで刻んだ要がエオスポロスの体から飛び退くのと、要とは逆に背中からエオスポロスの体を駆け上った蓮は光り輝く左手の聖女の手甲でエオスポロスの肩を掴み、漆黒纏いし右手のDeus Ex Machinaをエオスポロスの脳天へと叩き込んだ。

 脳天に一撃を受けたエオスポロスは苦悶するように暴れ出し、体にとりついていた蓮を跳ねのける。
 そして、その時にはもうエルスはとっくに射程の外に出ており……それどころかクロハもまた息の届かない場所まで飛び去っていた。
 思い返せばクロハが姿を見せたのはわざとだろう……否、その前の挑発から全ての一連の動きが、このためだったと言うことか。それでも普段の力を出せれば一人くらいは止められたはずだが、しつこく絡みつく黒き荊棘や小型のボーラ、羽に受けた竜砲弾によって動きが緩慢になったせいでもある。
 エオスポロスは地面に落ちた蓮を忌々し気に見つめ、息を吸い込むと……今度こそ渾身の雷を周囲にばらまいた。

●闇夜
 一進一退と言うにはあまりにも分の悪い戦いが続く。
 六人でドラゴンを相手にしなければならない状況。しかも相手の目的は自爆特攻……となれば、守りに徹する訳にもいない。
 それ故に蓮たちは、前線を維持しながら針を通すような正確さでもって、エオスポロスの体を刻み続ける。
「まだ」
 雷のブレスを受け止めたかだんは、自分の肉が焦げる匂いなど気にもせずにエオスポロスを見つめる。
 幾度もの攻撃を受けて体のあちこちが炭化したように黒ずんでもなお揺らぐことの無い足元は、本当に倒れることなどないのではないかと相手に思わせるに十分だった。
 だがそれもそろそろ限界だ。隆治もかだんも悠然とエオスポロスの前に立っているが、体のあちこちに癒しきれない傷が目立ってきている。
 それでも倒れさせる訳にはいかないのだと、かだんと隆治の後ろにカラフルな爆発を起こして士気を上げた芙蓉は、
「決着をつけるわ!」
 時間が来たことを告げるように声を上げる。
 芙蓉の声に反応した炯介と要が駆け、それに抗うようにエオスポロスが爪を振るうが……振るわれた爪は、要の前に立った隆治が如意棒で受け止める。
 目の前で起こった固いもの同士がぶつかる轟音と骨の軋むような音を前に炯介は飛び上がると、隆治が受け止めているエオスポロスの爪を踏み台に、さらにもう一つ飛んで電光石火の蹴りでエオスポロスの羽を貫いた。
「もう少し、付き合いなさいな」
 炯介の蹴りでよろめいたエオスポロスへ続けざまに、要が水の闘気を纏わせた蹴りを放つ。相手の傷口を狙って放たれた粗い刃のようなその蹴りは、炯介が貫いた羽を更に抉り……羽を大きく抉られたエオスポロスの体は崩れるように地面へ落ちた。
「畳みかけるぞ!」
 目の前でエオスポロスの体が揺らぐ様を見た隆治はすぐさま懐へもぐりこんで、落下してくるエオスポロスの体を捌きつつ如意棒を叩き込む。
 そして、エオスポロスの体の上を駆けたかだんがオウガメタルを鋼の鬼と化した拳で顔面を砕き、芙蓉が作り出した半透明の御業がエオスポロスの体を掴む。
「これで終わりだ」
 芙蓉に捕まれたエオスポロスの体に蓮が右手を掲げ、そこから触れたもの全てを消滅させる不可視の虚無球体を放つと――エオスポロスの頭蓋が消え去ったのだった。

「何とかなったね」
 完全に動かなくなったエオスポロスを前に、要が息を吐く。
 それから、できれば他で戦っている仲間たちの支援に向かいたいところだが……と周囲を見回せば、城の中から次々と爆発音が聞こえてくる。
「何が起こっても良いように、備えよう」
 自分たちはエオスポロスの撃破に成功したが、大半はそうでは無かったと言うことだろう。蓮は崩れていく熊本城を見ながら眼鏡をかけなおし、芙蓉と炯介がその言葉に頷く。
 そしてかだんは決戦へ向かった仲間たちの成功を信じるように、闇色に染まる空を見上げた。

作者:八幡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月7日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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