熊本城ドラゴン決戦~地から天へ

作者:長谷部兼光

●種のために
 夕焼け空にひしめくは、数多羽搏く侵空竜。
 侵空竜たちは幾重にも熊本城を取り囲み、そして突撃する。
 その様子はさながら特攻だ。城へ辿り着いた竜たちは一切の躊躇なく自爆し、命を、グラビティチェインを手放していく。
 狂いではない。全ての犠牲は種のために。未来のために。
 そして数十度めの自爆の後、竜達は大きな歓声を上げる。
 廃墟の中より現れた、大いなる力を秘めし『それ』こそが、竜達の探し求めていた――。

●魔竜王の遺産・決戦
 熊本市全域で行われたドラゴン勢力との戦闘は、最小限の被害で敵を撃退する勝利する事ができた、と、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は現状を説明する。
「現地へ向かったケルベロス達はよくやってくれた。だが、ドラゴン達にとってはここからが本番だろうな」
 竜十字島から出撃したドラゴンの軍団が、熊本市のすぐ近くまで迫ってきている。
 敵の目的は『熊本城』に封じられた『魔竜王を復活させる事すらできる魔竜王の遺産の奪取』だ。
 グラビティ・チェインの略奪を阻止できた為、その封印はいまだ生きている。
 しかし、この封印を無理やりこじ開けるべく、ドラゴン達は熊本城に特攻、自爆する事で自らのグラビティ・チェインを捧げ、封印を解放しようとしていると言う。
「手はいくらでも欲しい状況だ。お前達も熊本城に向かい、現地に居る仲間達と合流、そして熊本城の防衛に参加してほしい」
 敵の目的は二つ。
 第一に『侵空竜エオスポロス』の軍団を熊本城に突撃させて自爆させ、魔竜王の遺産の封印を解除する事。
 そして、第二に覇空竜アストライオスと配下の四竜――廻天竜ゼピュロス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースの儀式により、封印が解除された魔竜王の遺産を、竜十字島に転移させる事。
 魔竜王の遺産が、竜十字島に転移させられてしまえば、こちらから手出しする事は至難となり、ドラゴン勢力の野望を食い止める事は不可能となる。
 これを防ぐ為には、侵空竜エオスポロスを迎撃すると同時に、儀式を行う、覇空竜アストライオスと四竜への攻撃を敢行する必要があるだろう。
 まず、熊本城に突撃してくる『侵空竜エオスポロス』一体との交戦について、侵空竜は熊本城突入の十二分後に自爆しコギトエルゴスムとなる事で、封印の解除の為のグラビティ・チェインを放出するようだ。
「撃破ができなかった場合でも、大ダメージを与える事ができれば、自爆の威力が弱まり、封印を解除するグラビティ・チェインも減少するので、可能な限りダメージを与え続けるようにしてほしい」
 覇空竜は、侵空竜の自爆による封印の解除に失敗した場合、儀式を終了させた配下の四竜を犠牲に捧げてでも、魔竜王の遺産を手に入れ竜十字島に送り届けようとする。
「一体で良い。儀式が完成する前に、覇空竜或いは配下の四竜のどれか一体を撃破する事が出来れば、奴らの目論見を阻止できるはずだ」
 しかし、覇空竜アストライオスと四竜は、侵空竜エオスポロスの軍団の背後にいる為、侵空竜エオスポロスを突破しなければ戦いを挑む事は出来ない。
 故に、侵空竜エオスポロスと戦いつつ、少数の飛行可能なケルベロスを突破させて、覇空竜アストライオスと四竜を奇襲する。
「だいぶ無茶をしなければならないが……これに勝たなければ、竜たちの野望は止めきれん」
 侵空竜の実力を考えれば、飛行できるからと言って無条件で通してくれるほど甘くは無いし、逸り過ぎれば覇空竜達に辿り着くことなくチームごと壊滅する可能性もある。
 戦闘中にポジションを変更するのも悪手だろう。明確な隙を、侵空竜が見逃す理由は無い。
『飛行中』……戦力的には不利なポジションだが、不利な戦力そのままに、今回ばかりは飛翔せねば勝ち目はない。
 侵空竜を突破できた場合でも考えることは多くある。
 覇空竜と配下の四竜は、互いに連携して戦う事ができるため、突破した全戦力を一体の目標に集中させた場合、他の四竜の妨害に遭い、確実に撃退されてしまうだろう。
 これを阻止する為には、本命への攻撃の他、残りの四体に対しても少数での攻撃を仕掛け、連携を妨害する必要がある。
 四竜は、覇空竜アストライオスの守護を最優先にする為、ある程度の戦力でアストライオスを攻撃しつつ、本命の攻撃を集中させる作戦は有効かもしれない。無論、至難だが、アストライオスを撃破できれば大金星だ。
「天と地……こちらの作戦に抜かりがあれば、竜たちは容赦なくそこを突いてくる。くれぐれも油断はするなよ。そして、必ず生きて還ってこい」


参加者
ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)
樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916)
シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)
ルルド・コルホル(廃教会に咲くイフェイオン・e20511)
リィナ・アイリス(もふきゅばす・e28939)
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)
中村・憐(生きてるだけで丸儲け・e42329)
ドロッセル・パルフェ(黄泉比良坂の探偵少女・e44117)

■リプレイ

●戦端
 熊本城を睨めつける侵空竜達の眼中に、ケルベロスの姿は無い。
 彼らの目的は、飽くまで自身の命を贄とし、秘宝を顕現させる事。
 故に。荒廃した都市の風景も、夜が迫る空の色も、相容れぬ宿敵の存在も――塵芥程の些事に過ぎない。
 ……そう。彼らの儀式を、阻まない限りは。
「触らぬ神に祟り無し、だね。でも!」
 神(デウスエクス)に抗わなければ、未来は無い。もう、幾度となく繰り返してきたことだ。
 こちらを無視するなら好都合と、ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)は翼をはためかせ、宙にてオウガメタルを纏う。鬼鋼より放出された粒子が逢魔が時に瞬くと、ノーフィア同様、空を翔ぶシェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)の超感覚を覚醒させた。
 シェイは霹靂龍牙棒を砲撃形態に組み替えて、数多いる侵空竜の一体を見据える。
 文字通り、足場など存在しない空の真ん中、力を籠めることも出来なければ、狙いを定めるのにも難儀する。が、元々高い技量があり、さらにノーフィアの援護を受けた状態なら、外す道理は無い。
「やれやれ、今どき神風特攻なんて流行らないよ」
 砲撃は稲妻の如く轟くと、ノーフィアのボクスドラゴン・ペレのブレスと共に侵空竜の自死を遮る。
 攻撃を受けた侵空竜は邪魔をするなら容赦はせぬと、十メートルを優に超える巨体を駆使し、高速度でシェイに突撃する。
 その刹那、竜が奏でたのは、歪んだ絃の音。
 ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)が盾となり、シェイの身を護ったのだ。
 ウルトレスの瞼の裏、刻まれた時間は未だ一分にも満たず。逸る竜はこのまま減速せずに熊本城へ征くつもりだったったのだろうが、そうはいかない。
 侵空竜を叩いて距離を取り、ベースギターを激しく爪弾く。
「サイレンナイッ! フィーバァァァァッ――!!!」
 疾走感溢れるデスラッシュ・サウンドは、先程竜が鳴らした絃の惨い余韻を打ち消して、戦場に遍く響き渡る。
 ウルトレスの演奏を聴く中村・憐(生きてるだけで丸儲け・e42329)は、それに合わせて軽快なリズムを刻み、竜の砲口をエオスポロスに向けた。
「良いっすね。ご機嫌っす!」
 滾々と力が内より湧き出ずるこの感覚。ウルトレスの音楽が、自身の全細胞を活性化させてくれているのだろう。
「熊本を荒らす奴は加藤清正に代わって俺が殺るっす! 馬刺しならぬ、竜刺しにしてやるっす!」
 溢れ出す攻撃衝動を砲弾に乗せ、侵空竜へ放つ。重火力の一撃が、侵空竜の動きを鈍らせた。
「まだだ。悪いが、完全に足を奪る」
 憐の砲撃とほぼ同時、高く跳躍したルルド・コルホル(廃教会に咲くイフェイオン・e20511)はグリフォンブーツに重力を纏わせて、橙色の空を流星の如く突き進む。
『グリフォン』の銘は酒の上での与太話。真の素材は空を仰ぎ、地に生きる熊の革。だが。
「不足があるとは言わせねぇよ」
 果たして流星は竜に落ち、エオスポロスは声ならぬ呻きを上げる。言葉は一つも発しない。あるのはただ、滲むような敵意のみ。
「……そんな目で、見たって、退いてあげないのー」
 竜の敵意に曝されようとも、リィナ・アイリス(もふきゅばす・e28939)はペースを崩さない。ペイントブキを巧みに操って、後衛の後ろにこれでもかと言うほど勢い良く、一瞥すればそれだけでテンションの上がる背景を描き出した。
 皆を護り、癒す。その誓いが挫けることは決して無い。
「『目』。眼か……」
 樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916)はぼそりと呟く。
 相対したエオスポロスの目。死を決意した竜の瞳に映る卑小な自分は恐怖に脅え、
 否。
 その瞳が正彦を隈なく映すなら、映り込むのは卑小さだけでは決して無い。
 歌が聞こえる。その歌が例え既にグラビティを帯びていなくても、自身の、僅かばかりの気高さを奮い立たせるには十分で……。
「ソードセット!」
 正彦は笑む。恐怖を覆い、隠すために。
 歌に乗り、銃剣楽章が奏でる長剣の矢衾は竜の機動力を徹底的に殺し、封じる。
 地に撃ちつけられ、しかし尚空を目指す侵空竜。それを間近で見たドロッセル・パルフェ(黄泉比良坂の探偵少女・e44117)の身のこなしは、往時よりも幾分固い。
 竜と戦った経験は、ある。
 だが、この侵空竜は、かつて邂逅だけで終わった戦艦竜とは違い、云わば初めてまともに戦う竜(あいて)。
 緊張が麻痺毒の様に体を巡る。だが、立ち止ってはいられない。
「……いきますよ!」
 ドロッセルは息を吸い込んで、緊張を振り払うように強く叫んだ。
 ドロッセルの纏うオウガメタルも彼女の意気に応えるように大きく震え、前衛を光り輝く粒子で包みこむ。

 これで一巡。
 オーブを巡る長い攻防の、ほんの一分。

●突破
 熊本城への道をケルベロスが阻み、四竜への道を侵空竜が阻む。
 硬直状態。
 このまま徒に時間が過ぎれば、得があるのは竜達の方だ。
 正彦はありったけのオーラを砲(ハンマー)に注ぎ込むと、空翔ぶ二人と視線を交わし、風穴を開けるために撃って出る。
「皆! 火力を一点に!」
 正彦が放った極大のオーラが侵空竜に着弾し、その傷跡がそこへ火力を集中すべしと伝える標に化けた。
 竜の脚は散々に奪った。後はただ、押し切ればいい。
 その合図を待ってたっすよ、と、攻撃の要である憐は笑む。
「加減はしないっすよ! これがケルベロスの真の力っす! くらえケルベロスビィィィーム!」
 憐が数度瞬くと、両目に青白の光が生まれ、やがて光は激しく迸り、二本のビームは主砲となって標を貫いた。
 青白く染まる空。こちらの攻勢を示す色。劣勢に立たされた侵空竜がそれを覆す創り出したのは、無色透明、空の刃――鎌鼬。
 烈風が吹き荒び、色無き刃は天を、地を、全てを両断しノーフィアに迫る。
「なん、の! 二人への直撃だけはさせませんよ!」
 ドロッセルは寸前ノーフィアを庇って鎌鼬を受け止め、風の反動で更に上空へと吹き飛ばされた。
 だが、ブーツに虹を奔らせるには都合がいい。
 青白の空を虹が駆け、竜の眼を怒りで染めたその直後、仲間の体力が十分ある事を確認したリィナは、グラビティで作った塗料で動物の絵を描く。
「……見惚れて、いたら……ケガ、するの……!」
 リィナが描いたのは、虎。そして絵に氷の魔法を吹き込めば、虎は仮初めの命を得る。
 氷虎が絶対零度の牙を剥き、侵空竜に相打つと、ルルドはさらに影狼を差し向ける。
「地に沈めよ、侵空竜」
 影狼――ブラックスライムが侵空竜の巨体を丸呑みし、さらに縛を強める。
 シェイが今が好機と翼を広げ、ノーフィアが彼の離脱を助けようしたその瞬間、影狼の奥より覗いた侵空竜の目は。
 怒りに濁りながらも間違いなく、空を翔ぶ、二人を見ていた。
「……簡単に突破させてくれない、か。どうにも困ったね。となると……」
 少しだけ強引に行かせてもらうよ、と、シェイは地を蹴る。
 その一瞬で地に刻んだのは足跡と、自らの気。
「北海の玄武よ、大地の猛威と共に敵を喰らえ」
 気は大地を伝う事でその加護を得、無数の蛇の如く広がり、竜の足下――死角より牙を突き立て襲い掛かる。拡散した蛇の追跡を、今の竜が振り切ることは不可能だ。
「大丈夫。チャンスはもう一度あるよ」
 ノーフィアがバスターライフルの銃口を向ければ、侵空竜は敵意のはらんだ眼差しをノーフィアに返す。やはり、見られている。万全を期すためにはもう少しだけ、攻撃を加えなければならないだろう。
 振り切れないのならばいっそ肉薄し、侵空竜の極至近でトリガーを引く。
 放たれた光弾が竜の力を削ぎ落し、続けてペレが体当たると、ウルトレスは虹に浸した足を上げ、喧嘩キックの要領で侵空竜を蹴り飛ばした。
 そして、ウルトレスの蹴撃で竜がぐらりと揺らいだこの瞬間こそが―――。
「GO!」
 アイズフォンが示したその『時』を、ウルトレスは告げる。
 シェイとノーフィアは頷き合い、竜の巨体を逆手にとって左右に大きく別れると、互いに空を――次の戦場を目指す。
 侵空竜は両翼両腕を大きく広げ、二人の突破を阻もうとするが、地上に残留するケルベロス達の猛攻がそれを許さない。
「それじゃあ行ってくるよ。お互いまた、元気な姿で会おう」
 シェイはいつも通り飄々とした調子でゼピュロスへ、
「じゃあペレ、こっち任せた!」
 ノーフィアは居残る半身に手を振りながらボレアースを目指し、戦場を離脱する。
 ペレはノーフィアの言葉に短く鳴いて応え、侵空竜へブレスをぶつけた。
 もはや二人の飛翔を見送るしかない侵空竜。悪あがきに、雷で二人を撃ち落とそうとする物の、
「何処を見ている。お前の相手は此方だろう」
 ウルトレスの構えたバスターライフルが、その足掻きすら凍結させ、竜はじろりと此方へ殺意を這わせる。
「それでいい。さあ、オレを壊してみせろ」
 再び、ベースギターの重低音が戦場に響く。
 嵐のような一瞬は過ぎ去った。
 ……ここから先は未知の領域。
 六人と一匹で――正真の竜との交戦を続けなければならないのだ。
 どんな結果が訪れても、不思議ではないだろう。

●大空を侵す者
 リィナのグラフティに彩られた憐はハンマーを振るい、超重の氷撃を竜の顔面に叩き当てる。槌が憐に伝える衝撃は、確実に、冷徹に、侵空竜の体力を削り取っている証。
(「けれど……」)
 一瞬脳裡を掠めたその予測を、憐は頭を振って追い出した。
 まだだ。最後まで攻撃の手は緩めない。
「残り一分。だが……!」
 滲み纏わりつく血を払い、正彦は侵空竜を、いや、侵空竜『達』を睨む。
 自班と交戦している個体を含め、未だ数十の竜が空に在る。
 一分。
 残り一分で、全ての侵空竜を撃破できるだろうか。
 竜達の目的はあくまでオーブ。仮にここでケルベロスが退くなら、追撃はせずに喜んで自死に至るだろう。
 故に絶体絶命の窮地たり得ず。そんな侵空竜のスタンスが、こちらの奥の手――暴走を封じ込めてしまっている。
 ……それでも前に進むしかない。
 正彦は槌に宿るドラゴニック・パワーを全力噴射させ、全力全霊を竜にぶつけた。
 そうだとも。前に進むしかないのなら、最大加速で、前のめりだ。
「ペレくん……大丈夫?」
 リィナもまた槌を構えながら、ペレの様子を窺う。
 心なし、ペレの動きが鈍っている。主と離れた影響が大きいのだろう、不安がっている、とでもいうべきか。もしかするとペレはノーフィアの計画から離れ、独自の行動を取っているのかもしれない。
 それでもペレは勇気を振り絞り、自身の体の何倍も大きな竜と対峙する。
「そう、だね。みんなのこと、守りたい……絶対に、誰も、暴走させたく、にゃいの……!」
 リィナは残った力を振り絞り、ドラゴニックハンマーを振り翳す。槌とペレの箱で叩き下ろされた竜は星を散らしたようによろめくが、倒れない。
 態勢を立て直した竜が狙うのは、自身を虹で縛った一人であるドロッセル。
 音より速く空を裂き、微塵の慈悲なく彼女に突撃する。
「……この程度では倒れません! ドラゴンの逆鱗に触れるのは慣れているんですよ!」
 しかしドロッセルは波濤の如き侵空竜の速度を凌ぎ切り、そのまま弾かれる寸前に、星を竜へ蹴り込んだ。
 理力のオーラは侵空竜の肉体を軟化させ、彼が今まで負った傷を、落ち行く夕日の下に晒す。
 傷に塗れた侵空竜。とりわけ鋭利で深いあの傷は、さて、ルルドが黒い骨のククリでつけたものだったろうか。
 何れにせよ、ここまで来れば最早、ついた傷の区別などありはしない。
「影狼。全ての傷を呑み込んでやれ」
 大きな口を開く影狼。竜を二度丸呑み、絡め取る。
 捕食の終わりを知らせるのは、ウルトレスが携えるチェーンソー剣の駆動音。
「心地の良い音とは言い難いが……済まないな。手段を選んでいる暇はない」
 回転する刃は火花を散らし、竜の体を深く、深く切り裂いた。
 相当量の血と共に、噴火するのはあらゆる悪性(バッドステータス)。
 竜は咆哮する。命を零しながらも空を飛び、決して挫けず城を目指す。
「誰も死なせんっす! 皆の想いを受けて、お前はここで果てろ!」
 彼方が捨て身なら、此方も捨て身で臨むしかない。
 地から天へ。
 憐の両眼から放たれた二つの光線は竜の顎下より口内を焼き切って脳天を貫く。
 あらゆる全てを味方につけた光の奔流は勢いを増し、より太く、眩く輝いて――。

 しかし。
 次の瞬間。
 命が爆ぜた。

●現出
 戦闘開始より十五分。もうもうと立ち込めていた砂煙が晴れる。
 熊本城は完全に崩壊し、恐らくは天守閣があったであろう辺りに、異様の宝玉(オーブ)が佇んでいた。
「倒しきれなかったっすか………」
 憐が瞳を瞬かせながら独り言つ。
 手応えは無かった。しかし、倒せる寸前まではいったのだ。
 だが十二分が経過すると同時、生残していた二十近い侵空竜達はほぼ同時に城へ突っ込んで自爆し、戦術も戦略も、全てを吹き飛ばした。
 憐の火力は申し分が無かった。だからせめて後一手、後一分あれば、竜の命に手が届いていただろう。
「……でも、誰も大きな怪我は、していない、のー」
 ペレを含む仲間の無事を確認したリィナは、ほっと胸を撫で下ろす。
 回復と防御に寄った陣形が功を奏したらしい。
 それは明確な戦果とも言えた。
「最悪を考えれば、勝ちは勝ち、か。今一つすっきりしないが……」
 ケルベロス達は誰一人として倒れず、出現したオーブが転送される気配はない。
 ルルドは夕焼け空を見遣る。ノーフィアとシェイが、うまく立ち回ってくれたのだろう。
「……空間が歪んでいる……? いえ、これは、もっと禍々しい……!!」
 ドロッセルが熊本城跡に近付こうとすると、何かしらの斥力が働いて、弾かれる。
 強引に突破できないことも無かろうが……現状では情報が少なすぎる。
 ただ、あれを放置しておけば、この周辺一帯の地図は使い物にならなくなるだろうという、嫌な確信だけがあった。
「全員無事なんです。まずは一旦退きましょう。あれは得体が知れない……ここに留まるのは危険かもしれません」
 ウルトレスの言葉に皆が頷くと、彼を殿に、ケルベロス達は周囲を最大限警戒しながら戦場を後にする。

(「死線は続く。まだまだ見栄を張る必要があるみたいだ」)
 正彦は気合を入れなおすように、帽子を間深く被り直す。
 一つの決戦が終った。
 だがそれは、新たな血戦の予兆に過ぎないのだろう。

作者:長谷部兼光 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月7日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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