熊本城ドラゴン決戦~空ゆかば

作者:あき缶

●熊本の黄昏
 真っ赤な夕方の空は、熊本城の甍も血色に染め上げていた。
 不吉な色の空には、不穏な暗雲が浮かぶ。
 いや、それは雲ではなかった。侵空竜エオスポロスの群れが雲霞の如く熊本城に迫る悪夢の光景であった。
 エオスポロスはその身を顧みず、城へと特攻をしかける。
 一体、また一体と竜がその体で城の守りを砕いていくと、何か怪しく光る球体が城の跡から現れた。
 正体不明のそれは、とても禍々しい力を秘めていた――。

●決死の相対
 蒼白な顔で、香久山・いかる(天降り付くヘリオライダー・en0042)はヘリポートにやってきた。
「熊本市全域での対ドラゴン戦は、最障害の被害でなんとか出来た」
 良い知らせのはずなのに、いかるの表情は暗い。
「けど、竜十字島からのドラゴンの援軍がすぐそこまで来とる。……奴らの狙いは……熊本城や」
 熊本城には、『魔竜王復活すら可能な魔竜王の遺産』がある。遺産の奪取こそ、ドラゴンたちの目的だろう。
 奪った遺産は、覇空竜アストライオスと配下の四竜が儀式を行って、竜十字島へ転移させるつもりだ。
「熊本で戦ってくれたケルベロスのお陰で、グラビティ・チェインの略奪は阻止できた。せやから、魔竜王の遺産の封印は無事のままや」
 だからこそドラゴンは自ら特攻し自爆することで、己の残り少ないグラビティ・チェインを捧げ、封印を解こうとしているのだ。
「皆、熊本へ急ごう。熊本で戦ってるケルベロスと合流して、熊本城を守るんや!」
 そう言って、いかるはヘリオンを呼ぶ。
「もし、覇空竜アストライオスが儀式に成功して、遺産を竜十字島に持ち帰ってしもうたら、こっちからの手出しは難しくなる。向こうの思う壺やな」
 儀式を阻止するために、特攻攻撃をしかけるドラゴンを迎撃すると同時に、覇空竜アストライオスと配下の四竜への攻撃を行わねばならない。
「わかってると思うけど、ドラゴンは……強い。決死の作戦をお願いすることになる」
 いかるは真っ青な顔で頭を下げる。
「けど……ここで負けるわけには……いかんのや……」
 ヘリオライダー達が立案した『決死の作戦』とは以下の通りだ。
 まずは城に特攻してくる『侵空竜エオスポロス』一体を撃墜する。
「侵空竜エオスポロスは、覇空竜アストライオスの配下や。城に突入して十二分後に自爆してコギトエルゴスムになる、時限爆弾みたいな役割を持ってる」
 コギトエルゴスム化する際のグラビティ・チェインで、封印を解除しようという魂胆である。
「つまり、十二分経過する前に倒さなあかん」
 万が一、十二分の間に倒せなくとも、残り体力が少なければ少ないほど、封印を解除するためのグラビティ・チェインは減るので、とにかくダメージを与え続けることが肝要だ。
 また、転移儀式を行う五体のドラゴンへの対策も必要だ。
「覇空竜アストライオスは、自爆による封印の解除に失敗した場合、儀式を終了させた配下の四竜を犠牲に捧げてでも、魔竜王の遺産を手に入れ竜十字島に送り届けるつもりや」
 儀式を失敗させるためには、儀式完成前に五体のうち一体でも撃破しなくてはならない。
「けど、五竜に挑むには侵空竜エオスポロスの群れを突破せなあかん」
 検証の結果、侵空竜エオスポロスと戦いつつ、少数の飛行可能なケルベロスを突破させ、覇空竜アストライオスと四竜を奇襲する作戦が成功の可能性が最も高い事が分かっている。
「……決死の作戦やろ?」
 いかるは乾いた笑いを漏らした。
 覇空竜アストライオスと配下の四竜――廻天竜ゼピュロス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースは、互いに連携して戦う事ができる。
 また、配下は覇空竜アストライオスの守護を最優先にする傾向があるようだ。
 目標を一点に集中すると、ケルベロスは敗北してしまうだろう。
「連携を妨害するには、本命の攻撃だけやなくて、残り四体にも抑えが必要やな」
 これは確実にドラゴンとの重要な一戦となる。ケルベロス達は背に冷たい汗がつたうのを感じていた。


参加者
ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)
エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
スプーキー・ドリズル(シーファイア・e01608)
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)
揚・藍月(青龍・e04638)
小車・ひさぎ(二十歳高校三年生・e05366)
フェニックス・ホーク(戦乙女・e28191)

■リプレイ

●黒が迫る空
 熊本城を背にするケルベロスは、空が黒く染まるのを見ていた。
 あの大量のドラゴンは、侵空竜エオスポロス。その名の通り空を侵す者である。
「大きい……」
 誰ともなく呟いた。今まで対峙してきたドラゴンよりも大きいかもしれないエオスポロス。
 量産型とはいえ、雑魚ではない。それを、八人……否、それよりも少ない数で倒して熊本城を守れというのか。
 ごくり、と喉が鳴る。背を冷や汗が伝う。
 しかし怖気づくわけにはいかない。
 橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)は時計の長針の位置を確認し、戦いの火蓋を虹を伴う蹴りで切った。
 城へとまっしぐらに向かっていたエオスポロスは邪魔に気づくなり、凶爪を振り上げる。
「ぐうっ!」
 芍薬を裂く竜爪。しかし、芍薬の足も確かにドラゴンに届いた。
 テレビウム九十九が動画で主を鼓舞する。
「Be electrocuted!」
 鮮やかなまばゆいブルーの銃弾が黒竜を穿った。パチパチッと青い稲妻が弾けながらエオスポロスを包む。
 射手であるスプーキー・ドリズル(シーファイア・e01608)は空中でドラゴニアンの翼を羽ばたかせ、エオスポロスに相対する。
 彼の隣に、据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)もいた。
 二人はこのドラゴンの包囲から突破を目指すために、あらゆる戦略的立ち位置を放棄して、飛行に集中している。
 飛びながらでも、スナイパーやクラッシャーなど戦略的に優位なポジションをとることはできる。
 しかし、この包囲を突破するには、戦術を全てかなぐり捨てて、空を駆けることに全力を投じなくてならないのだ。
 赤煙は竜牙杖から地上のワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)に雷の賦活を与える。両者の距離は遠くとも、光の速度はものともしない。
 ブーストを受け取ったワルゼロムはすかさずオーラの弾丸を空めがけて放った。
「……涼しい顔をしおって……」
 ワルゼロムは眉を寄せた。
(「味方を二人送り出しつつこれほど強大な相手と戦えなど、なかなか無茶なことを言う……」)
 しかし、戦いとはこうでなくてはならない。ワルゼロムは口角を上げた。
 彼女のサーヴァント、タルタロン帝は芍薬の治癒を祈る。
 前衛を包むようにオウガ粒子が撒かれる。続けて、後衛に浄化の白い羽がゆらゆらと降ってきた。
 肩にウイングキャットのラズリを乗せるエレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)の口元は笑みが浮んでいる。心中は鉛を呑んだかのように不安で重い……それでも笑っていれば大丈夫だ、とエレは信じている。
 周囲も戦いを始めていて、喧騒が広がっていた。
 通信をしている暇はなさそうだし、状況は全員が激戦だ。とまで認識し、揚・藍月(青龍・e04638)は空高くからの蹴りを竜に見舞う。
 ボクスドラゴン紅龍もブレスで黒竜を牽制する。
 フェニックス・ホーク(戦乙女・e28191)の手から冥府の冷気がドラゴンに移る。ジュデッカの冷気は浅かったようだが、それでもジャマーの力がドラゴンを凍てつかせた。
 フェニックスが従えるまろーだー先輩も羽を前衛に撒いて支援する。
「あの島のドラゴンは定命化に怯えて引きこもり決め込んでるって思ってたのに」
 竜十字島からのドラゴン飛来に、小車・ひさぎ(二十歳高校三年生・e05366)は目を眇めた。そして、ニィと凶暴に笑う。
「なぁんだ、ちゃんと出てこれるんじゃん!」
 あの島には思うところがある。知人がそこで逝ったからだ。
「ここから先は、行かせないんよ」
 ひさぎは警告の意を込めて御業にて、敵を穿つ。
 大気を震わせ轟かせ、竜は電気ブレスを吐き散らした。
 後衛達の体に蚯蚓のように稲妻が這い回る。
「くうっ……」
 一列を薙ぐ攻撃でも、十二分に痛い。エレは痺れる体を思わず抱きしめた。
 芍薬は後衛を気遣いつつも、今最も危ないのは自身であることも理解していた。故に、自分に気力を溜めていく。
 九十九がエレを応援する。
 赤煙のブーストは、藍月を包んだ。
 スプーキーのエネルギー弾とワルゼロムのスイッチによる爆風が、竜の体を吹き飛ばし、細かな鱗が落ちていく。
 それでも敵の勢いは止まない。
 イガルカの凍気を秘めた、エレのパイルバンカーによって凍りつく異形の腹に、ラズリの爪が突き刺さる。
 藍月の伸ばした縛霊手は届かず、フェニックスの脚も避けられる。ひさぎの飛び蹴りが少しずつドラゴンの回避能力を削るも、まだ届く範囲には至らない。
 このレベルの竜に挑むにあたり、二人のレベルは、命中を研ぎ澄ませることが出来ないポジションにつくには足りなかったか。
 エオスポロスは邪魔気な羽虫や地虫を眺め回し、もう一度地上めがけてブレスを吐く。

●蒼空を破け
 ドラゴンとの戦闘が始まって四分が経過した。
 ケルベロスは徐々に緊張が高まっていくのを感じていた。次のターンで飛行中の二人が突破を試みる予定だからだ。
 しかし気取らせまい。
 フェニックスを爪から庇った芍薬は、血が滴る傷を押さえながら気力を練る。
 命の危険はないのだが、痛いものは痛い。
 スプーキーは次に備えるべく己の位置を修正する。前代未聞の決死作戦の要になろうとしているのだ。スプーキーが元軍人であろうと、この喧騒の中でも、心臓の音が聞こえるほど動悸がするのも致し方ないことだろう。
「気脈の流れはグラビティチェインの流れ……」
 赤煙の鍼状オーラがエオスポロスをかすめていく。ワルゼロムの叩き落としたかかとが、痛烈にエオスポロスの頭蓋をひしゃぐ。
 たん、と華麗に着地しつつもワルゼロムの顔は浮かない。
(「全員でかかって、敵はあの程度の損傷か。突破が予定通り成功するとして、残るは六人とサーヴァント五体……いけるか……?」)
 全員の攻撃が届くであろう、敵への足止めが効き始めてからが勝負だが、エオスポロスとの戦いは十二分で強制的に敵の自爆で幕を引くことになっている。長期戦は望めない。
 こちらも、ヒールが手厚いお陰で、誰も倒れそうなほどの消耗はしていないのは幸いだが、離脱する予定の二人は、このチームの中でレベルと火力の高い者なのだ。
 エレのエクトプラズムがドラゴンを包んで縛る。
 藍月の絶空はまだ届かない。フェニックスの指もだ。
 ひさぎの気合のこもったゲシュタルトグレイブによる突撃が、竜の腹に深々と刺さる。
 ドラゴンはすばやく飛翔し、ひさぎをふるい落とすと共に傷を癒やしていく。
 時計は、五分経過を示した。
 芍薬が絶叫し、ケルベロスチェインを投擲するのが合図。
「行くわよトカゲ野郎、私達を嘗めるなッ!」
 じゃらりと絡みつき、エオスポロスを捕らえた鎖をぐいと握りしめる芍薬。
 彼女とほぼ同時にワルゼロムがドラゴンに気取らせまいと、爆発を起こす。
 ひさぎも別方向から御業を放ってドラゴンの注意をそらそうとする。
 畳み掛けるはパイルバンカーを抱えて跳躍するエレ、そしてフェニックスの唸るナックルだ。
 まろーだー先輩やラズリだけでなく、今までヒールに徹していたタルタロン帝、九十九も攻撃に加わる。
 その隙にスプーキーと赤煙は全力で空を駆けた。
 だが、エレから先のバトンが続かなかった。コンビネーションの鎖がここで途切れてしまっていた。
 一点欠けてしまった猛攻が仇となったか、ドラゴンは自身よりも上位の竜を狙いに行こうとするケルベロスを見咎めてしまった。
 侵空竜はその身を張って、スプーキーと赤煙の道行きを阻む。エオスポロスは巨大で、二人共の軌道を塞ぐのは容易だった。
「くっ……」
 二人は歯噛みはしたが、次に賭けるべく今はとどまる。
「八卦炉招来! 急急如律令! 行くぞ紅龍! 今こそ俺達の力を見せる時だ!」
 藍月と紅龍による符術と炎弾の連打そしてボクスドラゴン自身のタックルは、ようやくドラゴンに届いた。
 エオスポロスは苛立たしげにブレスを後衛へと吐きつける。飛行中の二人を撃ち落とそうとしているのだ。
 すかさずスプーキーと赤煙を、タルタロン帝と九十九がかばう。
 しかしブレスの属性が得意でなかった九十九は、耐えきれずに電撃の中で溶けてしまった。
 ドラゴンの注意がサーヴァントに逸れる。
(「今だ」)
 スプーキーと赤煙は互いに目配せすると、お互い別方向からエオスポロスを回り込み、全力で飛び去る。
「……行けたか」
 遠ざかっていく二つの影を見送って、ワルゼロムはほっと安堵する。が、まだ終わっていない。この竜から熊本城を守るまでが仕事だ。
 気を引き締め、ワルゼロムは竜を斬る。
「燃えてくるじゃない。いいわ、ドラゴン達に目にもの見せてやりましょ!」
 芍薬はニッと笑い、残ったワルゼロムと藍月、そしてお手柄だったサーヴァントに栄養ドリンクを渡す。
「ファイトいっぱーつ! ってね♪」
 万が一にも追跡はさせまい、とエレはエクトプラズムでドラゴンを縛る。
 再び稲妻のごとくグレイブでの刺突を放ち、ひさぎは頷く。
「スプーキーさん、赤煙先生を送れたなら、あとは侵空竜を倒すだけ!」
 フェニックスは、この後の戦いが無茶であることは理解していた。
 それでも気合を入れるべく叫ぶ。
「やれるところまでがんばろー!」
 足止めの素地は整っている。もはや全員のグラビティが、エオスポロスに十分当たるのだ。
「立っている限り、撃ち込むよー!」
 フェニックスは手刀を放つ。ダメージよりも相手を凍らせることを優先した、単体相手への列攻撃だ。凍る確率低下はジャマーという布陣で補う。
 藍月の縛霊手は今度こそドラゴンを痛烈に殴りつける。紅龍のブレスは、ドラゴンの凍結部位をじわじわと増やしていった。
 敵の自爆まで残された時間はあと六分。
 エオスポロスとしては、こうなってはここで倒れないことが目的となる。故に、ドラゴンは自らの傷を癒すことに時間を使った。

●侵されゆく空
 エオスポロスの爪がぐっさりとワルゼロムに突き刺さる。
「ぐ、うううっ」
 苦痛に顔を歪めながらもワルゼロムはオーラ弾で一矢報いる。
 タルタロン帝の祈りに重ねるように、エレが大自然と負傷者をつないで傷を塞いでいく。突破確認まで攻撃一辺倒だったエレが、メディックとして本領を発揮しはじめた。
 芍薬の構えるバスターライフルから冷凍ビームが空をつんざく。
 光線を追いかけるようにラズリが駆け上がって爪を浴びせる。
 藍月は神火八卦陣を敷き、エオスポロスを焼く。
 自分も飛べる身ではあるし、ドラゴンは因縁の相手だ。しかしこの場に留まった。
(「……これもまたありだろう」)
 眼前の侵空竜エオスポロスも、ドラゴンに変わりはなく、しかも容易に御せる相手でもなくむしろ強敵なのだから。
 まろーだー先輩のリングに合わせ、フェニックスはバトルガントレットからのジェットで勢いづいた腕を黒竜に猛烈にぶち当てる。
「雪風巻!」
 と名を呼んでひさぎが投げるカードから放たれる槍騎兵が、空を駆け上ってドラゴンに突撃を仕掛ける。
 それでも六人とサーヴァントでの攻勢は、攻め手が足りないと言わざるを得ない。
 ドラゴンは確かに傷ついてはいるものの、あと五分未満で死ぬとは思えないのだ。
 だがケルベロスにはもう火力を増やす方策がない。
 手厚いヒールのおかげで、『絶体絶命』にはなりえない状況。つまり、安易に『暴走』して解決することもありえない。
 相手が自爆しないのであれば、このまま削り切ることは十分できる。
 ケルベロスに足りなかったのは、時間。
 もっと回復をかなぐり捨てて前のめりになっておけば? 初手から全員の攻撃が当たる布陣にしておけば? もっと火力を上げる手段を積んでおけば?
 否、今は考える暇はない。
 何度めかのブレスに耐えきれずに、藍月をかばったタルタロン帝が消え失せる。
「時間がない……」
 芍薬は時計を睨んで、眉を寄せるなり、ナイチンゲールから虹を放ち、ドラゴンの腹を苛立ち含めて思い切り蹴り上げた。
 自爆が免れられない未来ならば、そのダメージを少しでも減らすことに全力を上げるしかない。
 今できることは、攻め手を止めないことだけだ。
「イチかバチか……。詠唱不要! ワルゼッタァァァビーーーーーム!!」
 額に梵字を浮かび上がらせ、ワルゼロムは全力の法力を放出する。命中するかは、ギリギリの勝負だったが、エレのエクトプラズムも手伝って、紅生姜破壊光線はエオスポロスを見事に捕らえた。
 フェニックス達が重ねた氷が、ウイングキャット達の攻撃の度にドラゴンの傷を広げるが、死に至るには遠い。
 藍月の縛霊手とボクスドラゴンの体当たりに続けて、
「叩きのめす……っ!」
 ひさぎがグレイブを握りしめ、思い切り突き上げる。クリティカルが決まっても、まだドラゴンは動いている。
 戦闘開始から十二分。これが最後のターン。
 藍月は周囲を見回す。
 喧騒は少し静かになっていた。討伐できた組もいるようだ。だがまだ戦闘中のケルベロスが多い。このままでは、かなりのエオスポロスが熊本城で自爆してしまう。
 藍月が戦っているエオスポロスは、攻撃せずに自分の体を修復する。万が一にも死なないように。己の使命を果たせるように。
 ケルベロス全員が全力を上げて、今行える中で最も確実で最もドラゴンにダメージを与えるグラビティを選んで使った。
 それでも、ラスト一分――エオスポロスの死を迎えることは出来なかった。
 エオスポロスが内部から発光し、咆哮する。光の塊になった竜が、速力を上げ、戦場を離脱し、熊本城へと脇目も振らず一目散に突っ込んでいく。
 飛翔できる種族でも追いつけないスピードだった。
 四方八方から、十数体のドラゴンが城へと飛び込んでいった。そして一拍置いて、凄まじい爆発音。

●歪む空間
 もうもうとあがるきのこ雲が晴れた後にあったのは、無残な姿の熊本城だった。
 城は完全に崩壊し、かつての形状をとどめていない。
 代わりに、三メートルほどのオーブが天守閣の位置に浮いていた。
「これは……?」
 藍月は飛んで、オーブに近付こうとする。が、ブォンと空間が揺れて、弾き返されてしまった。
「空間が歪んでいる……?」
 芍薬が首を傾げる。ワルゼロムは答えるように呟いた。
「何にせよ、ろくでもないものだろうの」
 禍々しいものを感じ、エレは頬をこわばらせる。
「でも、オーブがここにあるままってことは、儀式は失敗させられたみたいだよ」
 ひさぎは冷静に状況を分析した。スプーキーと赤煙の安否はわからないが、とにかく飛行組は目標を達成できたようだ。
「そうだねー。一旦戻って、どうしようかって考えないとだねー」
 フェニックスが言い、ケルベロスは戦場から退くことにする。
 夕闇が迫る空のなかで不穏な光を放つオーブに背を向け、一同は後ろ髪を引かれる思いながら帰路につくのだった。

作者:あき缶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月7日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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