熊本城ドラゴン決戦~開け、細き一条の血路を!

作者:そうすけ


 漆黒の鱗雨が夕闇迫る熊本城に降り注ぐ。
 時折、残照で赤く爆ぜる鱗雨の正体、それは――侵空竜エオスポロスの群れだった。
 ドラゴンたち猛烈な自爆特攻で熊本城は揺れに揺れた。
 天守閣が吹き飛び、壁も石垣も崩れ、もうもうとした砂塵で辺りが一足早く暗くなる。命ある者はこれまでに体験したことのない轟音と地響きにおびえ、砂塵の中で身をすくめる他なかった。
 侵空竜エオスポロスたちは黒い皮膜の翼を折りたたみ、なおも天から落ち続けた。日没と同時に城は完全に破壊され、廃墟となった。
 夜のとばりが降りたあとの静寂のなかで、おびただしい量の瓦礫とコギトエルゴスムに覆われた大地の中から、暗い紫のオーラを纏う使用体不明の大塔が忽然として湧き出してきた。


「ありがとう。みんなのおかげでドラゴン勢力との戦いは、最小限の被害で勝利する事ができたよ」
 ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は戻ってきたケルベロスたちをねぎらったが、その声も表情も暗く沈み込んでいた。
 これは何かあるな、とゼノの前に集まったケルベロスたちは身構える。
「実は……、竜十字島から出撃したドラゴンの軍団がすぐそこまで迫ってきているんだ」
 案の定、悪い報告を聞かされることになった。
 いや、予め見当がついていたというべきか。前哨戦にあたり、ヘリポートで竜十字島からドラゴンの軍団が飛び立っていることは聞かされていたのだから……。
「うん。そうだったね。でも、この中には今から戦いに参加する人もいるだろうから、簡単に状況説明させてね」
 ドラゴンの軍団の目的は『熊本城』に封じられた『魔竜王を復活させる事すらできる魔竜王の遺産の奪取』に間違いない。
 ケルベロスの活躍により、グラビティ・チェインの略奪を阻止できた為、魔竜王の遺産の封印はいまだ破られていなかった。
「ドラゴンの軍団はこの封印を無理やりこじ開けるべく、熊本城に特攻、自爆しようとしている。自らのグラビティ・チェインを捧げ、封印を解放するつもりらしい」
 そこでゼノはごめん、と頭を下げた。
「だから今すぐ、ボクと熊本城に向かって欲しいんだ」


 ケルベロスたちを乗せてヘリオンは飛び立った。
 スピーカーからゼノの声が流れる。
「まず、熊本城に突撃してくる『侵空竜エオスポロス』1体と戦わなくてはならないんだけど……。
 侵空竜エオスポロスは、熊本城突入の12分後に自爆しコギトエルゴスムとなる事で、封印の解除の為のグラビティ・チェインを放出するよ。これを完全に阻止する為には、12分が経過する前に侵空竜エオスポロスを撃破する必要があるんだ」
 撃破ができなかった場合も、大きなダメージを与える事ができれば自爆の効果が弱まり、封印を解除するグラビティ・チェインも減少する。なので、可能な限りダメージを与え続けるようにして欲しいと続く。
「ただ、それだけじゃダメなんだ。ボクたちはこの戦いと同時に、儀式を行なう覇空竜アストライオスと四竜への対策もしなくちゃいけない」
 自爆による封印の解除に失敗した場合、覇空竜アストライオスは儀式を終了させた配下の四竜を犠牲に捧げてでも、魔竜王の遺産を手に入れて竜十字島に送り届けようとするだろう。
 これを阻止する為には、儀式が完成する前に、覇空竜アストライオス或いは四竜のうち一体でも撃破する必要があるのだ。
 ゼノの説明を聞きながら、ケルベロスたちは配られた資料をめくった。
 侵空竜エオスポロスは覇空竜アストライオス配下のドラゴンで、素早い機動と鋭い斬撃、電撃のブレスなどを得意としている、と書かれている。
 覇空竜アストライオス、廻天竜ゼピュロス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースについては名前の下に絵がつけられているだけで、攻撃方法などの記載はなかった。
 覇空竜アストライオスと四竜については詳細が判明していないのだろう。
 ゼノの説明は続く。
「しかし、覇空竜アストライオスと四竜は、侵空竜エオスポロスの群れを突破しなければ戦いを挑む事すらできないんだ」
 検証の結果、侵空竜エオスポロスと戦いつつ、少数の『飛行可能なケルベロス』を突破させて、覇空竜アストライオスと四竜を奇襲する作戦がもっとも成功の可能性が高かった。
 それは非常に危険な作戦だが……全てはケルベロスたちの勇気と力にかかっている。
「突破した全戦力を一体の目標に集中させた場合、連携した他の四竜から攻撃を受け、確実に撃退されてしまうだろう。それを阻止する為には、本命以外の残る四体に対しても、少数での攻撃を仕掛けて、連携を妨害する必要がある」
 無論それは、侵空竜エオスポロスを突破した後の事。
 それぞれのチームが、侵空竜エオスポロスを1体を迎撃。戦闘中に隙を見て、一名ないし二名の決死隊を、後方で儀式をする四竜の元に送り届けなくてはならない。
「つまり、飛行できる人をかなり早いうちに先へ行かせて――もちろん、突破時にある程度は侵空竜エオスポロスが弱っていないとダメだ――残った人たちで自爆させないようにトドメを刺す……すごく難しいよね。でも、ボクは確信しているんだ。キミたちならきっと、成し遂げるって」


参加者
椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768)
浅川・恭介(ジザニオン・e01367)
蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)
ステイン・カツオ(ガバガバ男性レーダーおばさん・e04948)
植原・八千代(淫魔拳士・e05846)
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)
天乃原・周(不眠の魔法使い・e35675)
宇迦野・火群(浮かれ狐の羽化登仙・e44633)

■リプレイ


 ケルベロスたちが発する熱気に包まれて、天守閣は夕闇に黒く沈んでいた。その上空、赤々と燃える空に夏の走りの風を受けて飛ぶ黒い灰――数多の侵空竜エオスポロスが熊本城上空を飛んでいる。
 黒い翼に遮られ、日没とともに次第に光を失っていく空の彼方に、ひときわ大きな竜たちが飛んでいるのが地上からかろうじて確認できる。ドラゴンオーブの封印を解かんとする覇空竜アストライオスとその配下の四竜だ。
(「おや、ドラゴンどもが雁首揃えているとは困ったねぇ……」)
 椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768)は蔑みに満ちた溜息を落とした。ゆるりと袖を振るってそよ風を起こす。
(「でも、お前たちも私の物語の一部にしてあげるざんしヨ。準備はよいかえ」)
 翼を広げて空へ飛びあがったケルベロスに気づいた一体の侵空竜エオスポロスが、黒い翼をはためかせて遥か高みより急降下してきた。
「さて、回復役としては誰ひとり倒れることなく、を理想とはしていますが……」
 浅川・恭介(ジザニオン・e01367)が腕まくりする。
 一丁やりますか、と隣でテレビウムの安田さんが、可愛い顔して血のついた鉄パイプを振り上げた。
 一体の突撃を機に、次々と天から流れ落ちる黒い流星――否、侵空竜エオスポロスたち。
 蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)は、銀嶺と銘打たれた懐中時計を取り出した。
 淡い星影が落ち出した夕暮れの中で、静かに時刻(とき)を確かめる。
「よし、始めようか。俺が最初にヤツを突破する。みんな、支援を頼むぞ」
 瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)は内心の動揺を隠すように、フンと鼻で笑った。
「我が身は今やこの星の御為ならば……」
 だが、すぐに不遜の仮面にひびが入り、声に弱気が混じる。
「あ~、……うん、みんなの為に頑張るよ」
 背中を丸めたヴァルキュリアの背を、ステイン・カツオ(ガバガバ男性レーダーおばさん・e04948)がしっかりしろよ、とどやしつけた。
「まあ、私たちに任せろ。こんな状況だ。自分の命の一つくらい使うさ、な?!」
「え? 命の一つって……使ったら死んじゃうじゃないですか」
 怖い事を言わないでください。命大事に、ゼノさんも言っていましたよ。
 泣き言に走るヴァルキュリアを、天乃原・周(不眠の魔法使い・e35675)が苦笑しながらなだめる。
「例えだよ、例え。それぐらいの気概を持って戦おうぜってこと。ああ、そうとも。細き一条の血路を死ぬ気で拓くぜ!」
 二人の後でシャーマンズゴーストのシラユキが、夕日に染まったたてがみを振りながらうんうんと何度もうなずく。
 植原・八千代(淫魔拳士・e05846)はビキニの細い肩紐を指で引っ張りあげると、弾いた。
 パチンと小気味いい音とともに、プルルンと巨乳が揺れる。これまでに八千代が食らったデウスエクスたちの魂が解放され、巨乳を呪紋の浮かぶ爆乳へ変貌させた。
「そのとおりです。ドラゴン達の企みをさっくりと破壊しちゃいましょう」
 胸の張りと重みに耐えかねて、先に身に着けているブラが破壊されそうだ。さすがサキュバス、戦いの場においても色気を忘れない。
 そんなケルベロスたちの軟派な雰囲気を爆砕せんと、侵空竜が雄叫びを上げて一直線に突進してきた。
 宇迦野・火群(浮かれ狐の羽化登仙・e44633)は大きく息を吸い込んだ。
「一人も欠けずに帰還できるよう頑張ろう!」
 狐娘は吼えるような気合いをあげると、獅子面の小手を胸の前で打ち合わせて開戦の火ぶたを切り落とした。


 夜の闇を纏いつつある火国の大地に守護魔法陣がぽうっと淡い光を放って浮かび上がる。光の粒が火群の描いた魔法陣から放たれ、作戦の要となる癒し手と狙撃手たちに目に見えぬ盾を与えた。
 侵空竜の巨大な体が中空でふわりと静止する。
「さあさ、そんなところで止まっていないで……きなんしェ」
 侵空竜は眼前で白銀の翼を広げた笙月を、左前肢を振りあげて威嚇した。それでも引かぬとなると、黒い腕を超音速の唸りを立てて振り下した。
 ドラゴニアンは銀翼を畳むと、繰り出された剛腕の下を潜り抜けた。沸き起こった乱気流の中ですぐに体を回して翼を広げ、巨大な敵と向き合う。
『麗かなる香り、清浄なる謳、苛烈なる燃ゆる想い、静謐なる静寂の刻印。汝、契約に従い、はるか時の歪『カルマ・カルラ』より招来せし給え』
 パン、と音を響かせ柏手を打った。波打つ空気の壁に、異界の戸が開く。
 雄叫びを上げる一角の白虎が現世に召喚されるや、空に花火が閃いた。
 轟く落雷が侵空竜の後頭部を捉え打つ。
 空を割る凄まじい咆哮とともに、侵空竜の口から稲妻が噴いて出た。
 ひび割れた空を継ぐようにジグザクに走る稲妻が、ケルベロスたちに襲い掛かる。二股に割れた稲妻の一本は笙月の胸を貫き、もう一本は火群の腰を砕いた。
 苦痛に体を折った二人を見て、すっと細まった侵空竜の目が柔らかく曲がる。
「もしかして、いまのは……お返しのつもりですか?」
 だとすれば、案外子供っぽい。そこにつけ入る隙はあるだろうか。
 そんなことを考えながら、恭介は二人の防御力底上げにかかった。
 ケルベロスチェインを回して魔法陣を描き、守護の楯を飛ばして傷を癒す。だが、感電による肢体の痺れまでは取れない。
「安田さん! お願い!」
 二人同時にとはいかないが、ここは頼れる相棒の出番だろう。とくに指示せずとも、回復を優先すべき人物が誰かは解っているはず。
 ――任せな。
 渋くサムズアップを決めると、安田さんの顔が砂嵐になった。アンテナ代りに血のついた鉄パイプを立てて電波を受信する。
 ――GOGO、ケルベロス!
 賑やかなBGMとともに砂嵐が消えて、突破組・ドラゴニアンを応援する動画が流れ出す。
「あ、いいな。俺のバージョンもあるかい?」
 真琴はバスターライフルを構えた。
「もちろん。ね、安田さん」
 全員分ちゃんとある、とテレビウムは小さな胸を張った。
「あ、でもレディファーストだよ」
 当然だ、と安田さんが火群の前へ移動した。次に応援動画を受信するまで、盾になるつもりらしい。
 その動きが気に障ったのか、侵空竜が咢を開いて首を差し向けて来た。
「おっと、そのでかい図体で勝手気ままに動き回られては困る。くたばるまで凍っていろよ」
 真琴は引き金を絞った。ライフルの銃口に氷結花が咲く。同時に青、金、銀、白、乱反射する無数の閃光が撃ちだされて侵空竜の首を穿った。
 護符で覆い隠された光の翼の上に、赤い残光を弾く黒鱗の破片が降り注ぐ。凶竜の目を重ね張りされた護符から漏れ出る聖なる光が刺した。
 鋭い牙がガチガチと打ち鳴らされる。
 右院は普段抑えている翼の光量をマックスにした。
「俺のことは気にならないのですか? ぼやっとしていると、あなたを抜いて大将の所へいきますよ」
 オラトリオの光翼で侵空竜の気を引きながら、ルーンの棍棒の先を竜頭へと変形させる。
「ほらほら、こっちです」
 右院は飛び立つフリをした。
 侵空竜の黒い首が高く掲げられ、大きく口が開く。右院に向けて稲妻を放射するつもりだ。
「わわっ! 待って、さ、先に俺に撃たせて!」
 両手で持ち構えたルーンの棍棒の先を、慌てて侵空竜の開いた顎へ向ける。
 放った轟竜砲は真っ向から突くように進み、そのまま限界まで開ききった口腔を突き破った。
 前肢の大きな釣爪がクワっと開いて空を掻きこする。
 次の瞬間、侵空竜が突っ込んできた。巨体に言わせてケルベロスたちを突進するつもりらしい。
 数十トンにもなる竜のスピードが乗った体当たりをまともにくらえば、いかにケルベロスといえども無事ではいられないだろう。しかし――。
『こっちですよ』
 飛んできた光の矢に横面を強かに張られ、侵空竜は空でたたらを踏んだ。黒い翼が風を裂くように動く。暴風がステインのスカートの裾を激しくはためかせた。
 生足ムチムチの太ももにフルバック純白パンティが、血のような赤に染まる空の下で露わになる。
「私という『いい女』を無視して、一体どこへ行くつもりだったんですかね? このドすけべ蜥蜴が!」
 金玉ついているならかかってこいや、とステインが中指をたてて侵空竜を挑発する。どこまで効果があるか疑問ではあったが、デウスエクスにもしっかり愚弄の意は伝わったらしい。
 空中の巨体が滑るように動き出した。
「まだ動ける? なら、これでどうだ!」
 すかさず周がドラゴニックハンマーを全力で振って、侵空竜の右足の甲を打った。空を重く震わせる轟きとともに、灼熱の閃光が甲に押しつけたハンマーの平頭から迸る。
 そこへシラユキが炎を放った。
 ――グガァアー!
 周はたっぷりと勿体つけてドラゴニックハンマーを引き上げた。
 叫び声をあげた侵空竜の足の甲に、くっきりと竜の烙印が焼きついている。
「あらあら……すごくセクシー。足の甲にタトゥを入れた殿方に初めて会いましたわ」
 八千代は腰を振り、爆乳おっぱいをゆっさゆっさと揺らして侵空竜に近づいた。
「触ってもいいかしら?」
 もちろん、嫌といっても聞き入れるつもりはさらさらない。サキュバスは白い煙をあげる足の甲にさっと指を一本、突き入れた。
 ガッと短く呻いて巨体が仰け反る。
「火群さん、見て。指一本でこんなに反り返っちゃって。かわいい~」
「え! あ……ゼンゼン可愛くないよ!」
 うら若き乙女に指さしてまで何を見せるか。
 狐娘は目を固く閉じ、ドラゴンにしてはサイズが可愛いと酷評を下すステインの声を無視。まだ体に残る痺れを払うかのように、高く足を蹴り上げた。
 ブーツの先からフロストブルーの星が飛び、侵空竜の体にぶつかって砕ける。爆発した星の閃光が、一瞬、ほんの一瞬だけ夕闇を押しのけた。


「よし、このまま一気に攻め落とそう!」
 周が飛ばした激に応じ、ケルベロスたちは一斉に攻撃を始めた。
 防御を捨て、回復を後回しにして、各自が持つ最大火力で黒い飛竜を攻撃する。
 侵空竜も尾や前脚を振るって応戦するか、戦いの趨勢はケルベロス側にあった。
 ここまでは上出来だ。もしかすると予定より早く突破、いや、このまま早いうちに撃破できるのではないか。ケルベロスたちはみな興奮し、目を輝かせた。
 しかし、まずは突破組の二人を無事に送り出さねばならない。
 笙月が胸の前で印を結ぶと、星の出始めた空に半透明の大きな手が出現した。指を広げて侵空竜に掴みかかる。翼が折りたたまれると、巨体がそのまま真下に落ちた。ずん、と大地が揺れる。
「行け!」
「おう!」
 真琴は御符に覆われた光の翼を大きく広げた。ぐんぐん飛ぶスピードを上げて、侵空竜の頭上を通過しようとしたその時。
 ――グガガアアッ!
 咆哮を上げて侵空竜が飛んだ。
 一気に高度をあげると、大口を開けて真琴に喰らいかかる。
 恭介に手を引かれて空へ上がった安田さんが、顔面を強フラッシュさせた。まばゆい光が侵空竜の目を射抜く。
 真琴の鼻先をかすめて鋭い牙が落ち、顎が閉じた。生臭い風が起こり、二人と一体の小さな体が後方へ吹き飛ばされる。
「なら、私が――」
 雲を得た竜は、その長き翼を伸ばして笙月の突破を阻んだ。何があっても儀式は邪魔させん!
 意地。それは竜としての意地だった。
 竜の尾が夜の闇を巻きつけながら振り払われた。黒い鱗に覆われた肉塊が衝撃波を伴って地上のケルベロスたちに襲い掛かる。
 八千代を庇ったステインの右あばらが音を立てて砕けた。
「この程度……てめぇが死ぬまでくたばってやらねえよ。遠慮せず逝けってドラ公」
 口から血を吐きながらもチェーンソー剣の刃を回し、尾を切りにかかる。が、ステインの意図を察した侵空竜は素早く尾を引いた。
 八千代は急いで起き上がると、走って尾の端に飛び乗り、勢いのまま高く跳びあがった。
「私も逝くお手伝いをしますわ!」
 露わになった竜の急所に、電光石火の蹴りが入る。
 侵空竜は激しい痛みに耐えかねて体を折った。口からツバをまき散らし、がくん、と高度を下げる。が、それだけでは終わらない。終れない。激しく翼をばたつかせて足掻きながら、着地の前に口から吐き出すものを雷に変えた。
 激しい風の吹き荒れる闇を、一条の太い稲妻が斜めに貫く。それは真昼のように煌々と地を照らし、反撃の構えを見せるケルベロスたちを打ちのめした。
 シラユキの祈りを捧げる調べに乗せて、周が古代語魔法を詠唱する。魔術回路からあふれ出たマナがドラゴニックハンマーに集まり、魔法の光線となって発射される。
 火群は手を上げて恭介たちを止めた。すでに一度倒れている。いま回復してもらっても、そう長くは立っていられない。ならば――。
「ウチはいいから、ステインを助けて!」
 度々受けた攻撃でボロボロになりながらも、火群は九字護法を手に獣の掟を広げた。こうなったらもう一度、奥義を見舞ってやる。
 死霊の魂魄で珠を作り上げ、キツネ耳の上で輝かせる。
『白面呪法が忌伝の一! 淀み濁りて病み腐れ!』
 死の国を蒼く照らす満月のような珠を夜空へあげ、侵空竜に落とした。
「頑張って!」
 恭介は指先で光を放つマインドリングをくるりくるりと回した。無数の光の輪がリングから放たれ、傷ついた仲間に向かって飛んで行く。
 同時に安田さんの『戦うメイド』を応援する応援動画が流された。
 怒り狂った侵空竜は、翼を命いっぱい広げて壁を作った。口から稲妻を発して、飛び抜けようとした二人を撃墜する。
「駄目だ、あなたたちはそんなところで止まっちゃいけない! 『欠乏と束縛のナウシズよ、超克の力を齎せ!』 」
 右院は魔力を込めたニイドの石を真琴に投げて、小さな体から痺れを払った。
(「相変わらずやる時は執念深いな、ドラゴンは……」)
 真琴は空で体勢を整えると、三度目の突破を試みた。
「しかし俺とてオラトリオの端くれ。――やってやる!」
 振り上げられた前脚をかわし、左翼の上を飛び越える。
 ほぼ同時に笙月が右翼の下をかいくぐって突破。
 二人はそのまま覇空竜エオスポロスたちの元へ向かった。


「もうひと頑張だよ!」
 恭介と安田さんは全力で仲間たちを癒した。あとは目の前の敵を倒すのみだ。
 ――!?
 周囲に巨大な火球が生まれ、つぎつぎと爆発しだした。同じように突破を許してしまった侵空竜たちが、せめて儀式の役に立とうと自爆し始めたのだ。
 爆風を受けた熊本城の屋根が、壁が、吹き飛んで行く。
 赤く焼けた瓦が降り注ぎ、ケルベロスたちの体を叩く。
 火群が両膝をついた。
「あきらめるな!」
 右院と周が竜の脚を撃つ。
 ステインと八千代が落ちた竜の胴を打つ。
「あ、ああ……」
 だが、急激に膨れあっていく体を止められない。
 もはや残された者だけで討ち取れないと悟った刹那。
 エオスポロスは六人のすぐ目の前で自爆した。

作者:そうすけ 重傷:宇迦野・火群(浮かれ狐の羽化登仙・e44633) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月7日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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