●特攻
黄昏の空をドラゴン達の影が次々と横切っていく。
彼らが目指す先は熊本城――その姿を捉えると、侵空竜エオスポロス達は頭を低く、加速する。躊躇う事無く、真っ直ぐに、城へと飛び込む。
土埃が収まらぬそこへ、追い打ちを掛けるように。一体、二体とドラゴンたちは熊本城に突撃し、自爆する。
地を揺らす轟音が、どれほど続いたであろう。
完全な廃墟と化した熊本城の内から――恐ろしい力を秘めた何かが姿を現した。
●前面衝突
「熊本市全域で行われた戦いは、最小限の被害で勝利できた……が、竜十字島より出撃した軍団がすぐそこまで迫ってきている」
忙しないことだが、目を細め、雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)はそう告げた。
敵の目的は『熊本城』に封じられた『魔竜王を復活させる事すらできる魔竜王の遺産の奪取』に間違いない。
しかしケルベロスの活躍によってグラビティ・チェインの略奪は阻止されたゆえ、未だ封印は破られていない。
――ゆえに、この封印を解くべく、ドラゴンの軍団は他のグラビティ・チェインを捧げることにした。
他ならぬドラゴン自身が、熊本城に特攻し自爆することで――自らのグラビティ・チェインを捧げ、封印を力尽くで解放しようというのだ。
「健気な話だ。途方も無く迷惑でしかないが――さて、貴様らは今すぐ熊本城へ向かい、現地のケルベロス達と合流し、遺産の防衛にあたってもらいたい」
敵の目的は二つ。
一つは『侵空竜エオスポロス』の軍団を熊本城に突撃させて自爆させ、魔竜王の遺産の封印を解除する事。
そしてもう一つは、覇空竜アストライオスと配下の四竜、廻天竜ゼピュロス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースの儀式により、封印を解除された魔竜王の遺産を、竜十字島に転移させる事である。
魔竜王の遺産が、竜十字島に転移されてしまえば、こちらから手出しする事は至難。ドラゴン勢力の野望を食い止める事は不可能となるだろう。
「これを阻止するためには、侵空竜エオスポロスを迎撃すると同時、儀式を行う覇空竜アストライオス及び四竜へ攻撃を仕掛ける必要がある」
辰砂は静かに告げると、ケルベロス達の様子をゆっくりと見つめる。
その覚悟を確かめるように。
――しかし、まずは。ひとつ間を置き『侵空竜エオスポロス』についての語り始めた。
侵空竜エオスポロスは、覇空竜アストライオス配下のドラゴンで、素早い機動と鋭い斬撃、電撃のブレスなどを得意としている。
かのドラゴンは熊本城突入の十二分後に自爆し、コギトエルゴスムとなる事で、封印解除の為のグラビティ・チェインを放出する。
つまりこれを阻止するためにはそれ以前に撃破しなければならない――万が一、間に合わなかった場合も、それまでに大ダメージを与えておけば、放出するグラビティ・チェインは減少するだろう。
決して易しい敵ではないが、諦めずに戦い抜くことだ、と辰砂は言い――そして、もうひとつの決戦について語り出す。
「平行し、儀式を行う覇空竜アストライオスと四竜への対策も必要だ。エオスポロスどもの自爆による封印の解除に失敗した場合、覇空竜アストライオスは、儀式を終了させた配下の四竜を犠牲に捧げてでも――魔竜王の遺産を手に入れ、竜十字島に送り届けようとするだろう」
儀式が完成する前に、覇空竜アストライオス或いは四竜の一体でも撃破できれば、これを阻止できる。
しかし覇空竜アストライオスと四竜は、侵空竜エオスポロスの軍団の背後にいる為、エオスポロスを突破しなければ戦いを挑む事は出来ぬ。
「そこで、検証の結果……エオスポロスと戦いつつ、少数の飛行可能なケルベロスを突破させ、覇空竜アストライオスと四竜を奇襲する作戦が成功の可能性が最も高いだろうということになった。非常に危険な作戦ではあるが、貴様らに賭けよう」
無論、ただ突破するだけではすまぬ。
覇空竜アストライオスと四竜は互いに連携して戦う事ができるため、突破した全戦力を一体の目標に集中させた場合、他の四竜が妨害してくる為、確実に撃退されてしまうだろう。
説明を終えると、辰砂は腕組み瞑目する。
「一体討てれば相手の作戦は阻止できることになるわけだが……簡単な話ではないだろう。アストライオスを討てればこれ以上ないだろうが、最良の結果を得られるよう、奮え」
参加者 | |
---|---|
ゼレフ・スティガル(雲・e00179) |
ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638) |
繰空・千歳(すずあめ・e00639) |
吉柳・泰明(青嵐・e01433) |
大神・凛(ちねり剣客・e01645) |
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754) |
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597) |
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869) |
●会
熊本城を背に、黄昏を仰ぎ――櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)がそっと息を吐く。
「やれやれ、長い一日だったがあと少しで終いかな」
穏やかだった風が不規則になり、彼の前髪を千々に乱す。
降り立ったのは、烈風――見上げるまでも無く、深い影がケルベロス達の頭上を覆う。
屈強な翼が羽ばたき巻き上げた土埃は、竜巻の如く。
全長は十二メートル程とドラゴンの中では中程度であろうエオスポロスであるが、対峙すればやはり巨大。備える鉤爪のひとつすら、人の背丈に匹敵するだろう。
じろりと地上を睨め付ける鋭い視線に怯むこと無く、ケルベロス達は立ち塞がる。
「意地と腕の見せ所、か」
そっと零し、吉柳・泰明(青嵐・e01433)が静かに前に進む。軽視できぬ敵との戦いの最中、遙か上空に存在するドラゴン達へ戦力を差し向ける――苦難と苛烈は承知の上で、彼はこの場を引き受けている。
「もともと私は砲台だ。飛ばすのなら得意でございますよ」
ひりつく空気の中でも、どこかのんびりと、ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)が請け負う。兜から覗く地獄の炎は竜の羽ばたきに揺らぐこともなく燃えている。
「カッカッカッ、それは心強いのう!」
翼を広げ、高く飛行しながら――ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)が腕組み笑う。
この先の強敵との戦いに昂揚しつつ、眼前の困難な状況も面白い、と。
――必ず、守りきる。
大神・凛(ちねり剣客・e01645)はその意志を胸に、すっと息を吐く。
いつもは対である愛刀も此度帯びるはひとふり。そこに覚悟を載せる。
「相手に不足なしってな」
煙草も吸わずに待った相手を前に、ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)が好戦的に笑うを、繰空・千歳(すずあめ・e00639)は溜息混じりに見つめる。
心配しているわけではない。そもそも彼女とて、どちらかといえば「そちらより」の性格をしている。ゆえに、皆を後ろから支える立ち回りへの緊張が少しあった。
――前に出て盾になった方が気楽ね、これは。
千歳は肩に入った力を抜くように、相棒へと声を掛ける。
「鈴、無理をさせちゃうけれど……頼りにしているわ」
ちりん、涼しげな音と共に、跳ねる小さな酒樽型のミミック。いつもと変わらぬその姿に、目許を綻ばせ――心を決める。
「さぁ、どこからでも来たらいいわ」
顔を上げれば、いつも通りの不敵な視線。敵を見据え、改めて、構える。
皆の士気は高い――それを改めて実感し、ゼレフ・スティガル(雲・e00179)の口元は笑みを刻む。その銀髪は朱金と鬱金が斑に染まっている。無二の戦友と交換した守りを胸に。
「星の守番、参上ってね」
飄々と、宣言すると同時――両者の距離が収縮し、弾けた。
●裂
何が起こったのかと、戸惑うことはなかった。エオスポロスの喉元に稲光が走ったのを視認した泰明は、真っ先に駆けた。凛も鈴も続き、攻撃に備える余裕があった。
だが、それでも――瞬間の記憶が飛んだ。
轟音と眩い閃光が弾け、落雷に直撃したとも、雷雲の中心に投げ出されたようとも――呼吸すら許さぬ衝撃が帯となって戦場を駆けた。
焦げた臭いが漂い、地は黒く灼ける。
痛みが通り過ぎても、身体が強張り痺れるような感覚が残る。これがブレスの持つ力か、純粋なダメージによるものか、一瞬判断がつかぬ。
「これは手厳しいね」
解すように片手を振りつつ、ゼレフはそう零す。守りが合致してもなお、この威力。
オウガ粒子を放出させ――しかしこれは自身の傷を癒やすためのものではなく、後衛の攻撃を研ぎ澄ますための嚆矢である――目配せすれば、仲間達から一同に首肯が返る。
疑う余地は無い――このドラゴンは破壊に、全て注ぎ込むと決めているのだ。
「この威力でこの精度。羨ましいもんだ」
ハンナが軽口を叩けば、千歳は微笑む。
「攻撃を耐えきれば、汲みやすい相手という解釈もできるわ……鈴、いけるわね」
主の言葉に、ぴょんと酒樽型のミミックは軽い跳躍をして――明るい鈴の音で、返事をしながら敵へと食らいつきに行く。その小さな姿に不安がないとは言えぬ――だが、千歳は鈴を信じ、己の靴が奏でる音で応える。
花びらのオーラが降り注ぐ下、凛は白妖楼を千梨に向ける。淡くピンクに光る刀身より解き放たれたエネルギーが彼に宿ると同時、ラーヴァの鎧が一瞬銀色に変じたかと思うと、輝く粒子が戦場に広がった。
重ね、紙兵が舞う。それらを散らすように竜砲弾が空を貫いていく――ハンマーを構えた儘、ハンナは直ぐに距離を取る。その影が僅かにぶれて二重に見えるは、ドルフィンが分身を纏わせたゆえ。
砲撃が作った道へ、御業を下ろした千梨が掌を差向ければ、圧縮したエクトプラズムで作られた霊弾が、それを追うように奔る。
ドラゴンの鼻先と、肩――小さな爆発がそれぞれに起こる。
「精度に問題無し。後は……」
「どこまで削れるか、だな」
冷静に見極める千梨に重ね、武器を放り出したハンナが拳を構えて、好戦的に笑む。
「まあ、あたしは毎度この一撃で殺る、ってつもりだけどな」
飴色の酒がなみなみと溢れる――偽物のそれをドラゴンの起こす突風が蹴散らす。滑空しながら前進する竜は風の壁のようだ。強烈に巻き上げられた風でバランスを失った前衛達へと、それは再び強襲を仕掛ける。
今度の接触は、点。くるりと転回した竜爪が地を磨り潰すように振り下ろされると、泰明は持てる武器を駆使し、それを迎え撃つ。
がつり、と鈍い音が響く。
刃は、その爪を受け止めたが――強烈な一撃による衝撃破はそれを擦り抜け――裂傷となって赤い飛沫を上げた。
しかし、彼の身体はそこにドラゴンを留めた儘、微塵も揺るがぬ。
「未熟なれど、我が身と剣は護る為にこそ」
自らの血で貌を濡らしながら、その青灰の瞳で敵を見据え、
「飛び立つ者が、無辜の民が、憂いなくこの地へ戻れるよう――心血注ぎ此処は護り通す」
静かなる闘志を以て、押し返す。
距離をとった竜へ、すかさずゼレフが詰め寄る――オウガメタルを纏い、鋼の鬼と化した彼の拳は竜の強靱な鱗すら砕く。
「我が名は熱源。余所見をしてはなりませんよ」
そこへ、降り注ぐ炎の滝。
今までケルベロス達が与えた呪いを喰らい、膨れあがる炎が天に炎の幕を張る。
突破いいなあたのしそう――ラーヴァは空に思いを馳せつつ、
「まあ此方も悪くない。全力で邪魔させて戴きましょうね」
巨大な弓を手に、楽しげに――炎を揺らし、宣言する。
陽炎揺らめく戦場の中、千歳が飴を練り上げるように腕を広げる。
「甘いしあわせのお裾分けを。」
優しく囁くと、小さなハートの飴から飴細工の兵隊さんとバレリーナを作り上げる。
飴細工の恋人達は戦場にしあわせを振りまきながら、寄り添い歩き、泰明の傷を癒やす――それでも止まらぬ血を止めるよう、彼は裂帛の声を上げた。
「流石にあの爪は怖いな……連続で使ってくる事は無いと思うが」
千梨の分析に、そうかい、とゼレフが問う。
「次は恐らく突進が来ますね――後ろに行かないことを祈るか、ゼレフ様が落ちないことを祈るか、悩ましいところですね」
小さな炎を噴きながら、ラーヴァが淡淡と告げる。この立ち位置でのリスクは織り込み済みであるものの、実際に攻撃に曝され続けてみると――冗談が冗談でもないと感じる破壊力だった。
はは、とゼレフは笑みを浮かべながら、新月に虚の力を纏わせる。
「なぁに、見せ所だ」
受ける戦いは性に合わず。失った分は、牙を剥き奪う。
何があろうと――ドルフィンを先へと突破させるまで――否、倒し切るまで、倒れるつもりはない。
●破
流星の輝きの軌跡を描き、空を斬り裂くような蹴撃で竜と交差した千梨が、
「一旦退こう」
ちらりと何かを確認し、着地と同時、皆へと告げる。彼の表情は僅かに緊張し、姿勢は半身退いている――ケルベロス達と会話を交わすこともないエオスポロスであるが、その意味を理解できぬほど低脳な個体では無い。
彼の言葉はケルベロス達に緊張の漣を広げ――皆が、表情を改める。
「任せて」
千歳が、光輝く粒子を戦場に広げる――頷き答えるゼレフの、黄昏を映した髪を鋼の耀きが彩った――瞬間、
「逃がさない」
竜の懐に、彼はいた。
突き立てた刃から生ずる、螺旋の炎――高く燃ゆるは、烽火。
その炎が大きく高く広がって、視界を塗りつぶすように、紅が広がる。
「紅に、惑え」
静かなる千梨の声音。彼が降ろした御業は舞い散る紅葉――鮮烈な紅がひらひらと、舞い散る合間から、凶爪が鋭く迫り来る。
それは竜の喉元から肩までを深く抉り、瞬きする間に消えていく。
ともすれば幻影であったような御業の力。凛が放ったオーラの弾丸が掠めたことで、その痛みと傷が真であると、竜は気付いたか。
「奔れ」
泰明の低い命に、獣の唸りが応える。
空より黒狼の影が、雷宿す牙を剥き、獰猛に駆ける。宙を力強く蹴りつけ、竜の起こす風に負けぬ嵐と共に、肩口に食らいつく。
彼らの力は泰明と凛によって高められており――常日頃相手にする敵であれば、この時点で粉砕できたであろう。
されど、敵も然るもの。痛みと衝撃を虚を突かれた無様を厭うようにひとつ咆哮を上げたエオスポロスが首を下げて傷を守るように姿勢を変えると、そのまま滑空し――エクトプラズムで形成した武器を振り上げた鈴を、爪で斬りつけながら駆け抜ける。
「鈴、ここまでよく耐えた――喰らえ!」
消えゆく鈴へと声をかけ、ハンナは跳躍し、竜の背より撓る尾を潜り抜ける――金の髪を風に踊らせ、炎を纏う漆黒の三節棍を振り下ろす。
もうひとつ、ラーヴァが身丈を超える巨大な機械仕掛けの脚付き弓の引き金を引く――空の霊気を帯びた矢が、竜の進路を遮るように走る。
更に、氷結の螺旋が竜の翼に小さな穴を穿つ――ドルフィンのすれ違い様の置き土産、と出来れば良かっただろうが――風圧の壁に押され、そのまま突破することは敵わぬ。
再び身を起こし翼を広げた竜は強大で、天を覆うか如く。更に仰け反った喉にいくつかの稲光が走る。
「――次よ」
鈴を失ったことを振り返る遑はない。千歳は残る仲間を守るべく飴玉の鎖で魔法陣を描き――同時、ブレスが放たれる。
「通して、なるものか」
泰明がそれを妨害せんと、千歳を背に庇いながら気弾を咬ませ――凛が、ドルフィンの前に立ち塞がる。
眩い雷撃が、ハンナと千梨を呑んだ――が、二人はそのまま攻撃に移る。
あらん限り伸ばされた如意棒が竜の顎を突き上げ、角の先を、弧を描き飛来した大鎌の刃が斬り落としていった。
更に凍結光線の矢が、無防備になった首を貫く――完全に体勢が斜めに崩れたその瞬間、ラーヴァが炎を零しながら、さあ、今ですと声を上げ――ドルフィンが竜を追い越し、向こう側へと抜け出した。
させじと首を返そうとした竜へ追い打ちをかけたのは、投擲されたバール。
「確り頼んだよ、ドルフィン君」
「カッカッカッ! そちらは任せたのじゃ!」
送るゼレフの台詞に常の高笑いを返し、決戦場を目指して加速していく。
残されたエオスポロスは傷付いた喉から、低い雷のような呻きを零す。ぴりぴりと高まる殺気は、まだまだそれが健在であることを示している。
「さあ本番でございます――まだまだいけるね?」
ラーヴァが弓を引きながら問う。
花のオーラに包まれながら、千梨は一転、穏やかに――然れど不敵に言い放つ。
「残念ながら退けなくてな。アンタの相手は此方だ、侵空竜殿――最後の一幕、共に仕上げようか」
●崩
戦力は一人減り、エオスポロスの勢いは衰えずとも――相手の守りは既に無に等しくなりつつあった。
然れど、油断はできぬ。相手が行動できれば、強烈な攻撃が振ってくるのは確実。それを削ぐ備えはなかったため、耐えて凌ぐより他に無い。
竜が再び、高度を上げる。
「私が!」
自身を鼓舞するように叫びながら、凛が前へと走る。傷は僅かに癒えたが、彼女のしなやかな肢体はその殆どが生傷で彩られ、赤く染まっている。
風を切り裂く唸りが迫る――頭上より振り下ろされた竜の爪を、白妖楼を下から薙ぐようにして、迎え撃つ。
衝撃が彼女の全身を撃つ。剣を弾き飛ばされると同時、直接の斬撃が、深々と腹から肩を斬り裂いていく。
鮮やかな朱が多量に弾け、彼女は崩れ落ちる。
――例え、これを受けるのが泰明であったとしても、結果は近しいものであったであろう。そして、此処からは尚更、窮地を繋がねばならぬ。彼は気迫の一声を上げ、竜を挑発するように睨め付ける。
どれほど難しい戦況であろうとも。
(「――天地共に成し遂げると、信じている」)
口にせずとも強い意志を滾らせる彼へ、ゼレフが頷き応じる。
「ああ……ここで砕こう」
大鎌を逆手に無造作に構えながら、口元に笑みを浮かべ、飄々と響く声音で皆へと告げれば、
「自分もズタボロで、よく言うぜ」
ハンナの軽口が飛んでくる。たちまち苦笑する彼を余所に、彼女は三節棍を手繰りながら振り返る。
「後ろは任せたぜ、千歳」
「ええ、ハンナが倒れたら――今度は私が抱えてあげるわ」
苛烈な応報であった。竜が全身を使った突進を泰明が身を挺して受け、ハンナが攻撃による相殺を狙う。華麗なる後ろ回し蹴りは、遙かに巨大な竜の頭部を見事に捉え――彼女も傷を負いながらも、バランスを崩した竜の速度が落ちる。
風圧に裂かれ創を作りながら、ゼレフが距離を詰めて鋼の拳を振るえば、ラーヴァが矢を射り、その守りを完全に剥ぎ取る。
ケルベロス達も満身創痍であったが、エオスポロスもまた、角や爪を不格好に削り取られ、首や翼を凍り付かせた無様な姿であった。
前衛の深手を千歳が覆い、千梨が冷静に御業を仕掛け――時間を読み上げる。
「時間だ、畳みかける」
彼の言葉に弾かれ、先んじたのは泰明。
「次手を封じられれば僥倖、――奔れ」
荒々しい黒狼の影を放ち、雷牙での牽制を狙う。ならばとラーヴァが応じ、空の霊気纏う矢で傷跡を正確に貫く。
そして――虚が、出来た。
ゼレフと競い合うように飛び出したハンナが、炎を纏う三節棍を下より振り上げる。
腹を強か打った一撃に、正体もなく下がった額へ、吸い込まれるように大鎌が深く刺さり、螺旋の炎が絡む。
夕闇に炎上する竜が一体、落ちていく――。
結界の中、季節外れの紅葉が舞い落ちる美しい世界で、鬼が、真っ黒に灼けた竜の頸を引き裂いた。
爆発音が続き、熊本城を砂塵が覆い隠す。そしてかつて天守閣があった場所に『それ』が浮かび上がる――細い嘆息は誰から零れたものか。
最後に千梨が疲れを滲ませながら、ささめく。
「……どうやら、まだ終わらないようだ」
作者:黒塚婁 |
重傷:大神・凛(ちねり剣客・e01645) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年7月7日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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