熊本城ドラゴン決戦~雷閃く空の果て

作者:ヒサ

 夕暮れに燃える熊本城に、幾体もの竜が飛来する。彼らは次々とその身を捧げ、城を、空を揺るがせて行く。
 自ら命を投げ出しグラビティ・チェインを放出した彼らによって、封印は解かれる──相次ぐ自爆の衝撃で崩れ行く城の奥、強大な力を秘めたものが、目を覚ます。

 熊本市の防衛は、被害を最小限に抑えての成功をおさめられた。
 だがこれで終わりではなく、熊本には更に竜十字島から『覇空竜アストライオス』の軍勢が迫っている。彼らの目的は『熊本城』に封じられた『遺産』の奪取。その封印は一度、ケルベロス達の手によって、人命共々護られた。だが。
「ひとの、グラビティ・チェインを利用出来ないなら自分達で、という事のようよ。アストライオスは、配下の『侵空竜エオスポロス』達を、お城へ突っ込ませて、自爆させて、そのグラビティ・チェインを使って封印を解こうとしているようなの」
 篠前・仁那(白霞紅玉ヘリオライダー・en0053)が眉をひそめた。ケルベロス達には敵の目論見を阻止して欲しいと彼女は言う。
「彼らは『遺産』の封印を解いたら、それを竜十字島に転移させようと考えているみたい。そのための儀式を彼らは陣後方で並行して進めて行くようだから、こっちへの対処もして貰えると助かるわ」
 儀式の完成を許してしまえば、こちらからの手出しが難しくなる。ゆえに、と仁那は、広げた地図の上にペンを持ち詳細の話に移る。

「あなた達にはまず、エオスポロスを一体、相手して欲しい。自爆が、ええと、お城突入から十二分後だそうだから、それまでに倒してくれると嬉しい……けれど、自爆に持ち込まれた場合でも、相手が弱っていれば被害を抑えられそうだから、難しそうだ、となっても、攻撃の手は緩めないでおいて貰ってもいいかしら。勿論、あなた達自身も十分に気を付けてね。あとは、自爆でグラビティ・チェインが放出された後にコギトエルゴスムが残るようなら叩……、危ない事になる前に破壊しておいて」
 熊本城へと向かう数本の矢印の先に、大きく×印が描かれた。それから彼女は敵陣後方にぐるりと大きな丸を一つ。
「アストライオスは、自爆での作戦が失敗した場合、儀式を進める配下を犠牲にして、遺産を回収しようとするようよ。それを防ぐためには、儀式自体を出来ないようにして貰う必要があるわ」
 儀式の進行にあたる配下は四体──廻天竜ゼピュロス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアース。このうちの最低一体、または、作戦の指揮を執る覇空竜アストライオスの撃破を目指して貰わねばその阻止は叶わない。
 地図上の×印の辺りから大きく矢印が飛び出し、丸印にぶつかった。
「そのためには、担当のエオスポロスを抑え込んでいる間に、空を飛べるひとに、アストライオス達へ突撃して貰う事になる」
 飛行しながらの戦闘は無論不利。その状態の少数を送り込む作戦となればなおのこと。危険極まりない策だが、検証にあたった者達は、こうするのが最も成功率が高いとの結論に達したという。

 ──以降は、空を飛べる者が参戦し、なおかつ戦える状態でいて貰えねば意味を成さない話となるが。
 飛行可能な者には、エオスポロスと接触してから六分以内に隙を見つけて突破して貰わねば間に合わない。地上で戦いつつ折を見て空へ、というのは、エオスポロス自身が侮り難い敵である以上、現実的な案とは言い難い。その為、いつでも離脱出来るよう備えつつの苦しい戦いとなるだろう。
 そして、アストライオス達への接触が叶ったケルベロス達は、五体の竜を相手に戦う事となる。一体でも倒せれば、とはいえ、彼らは連携し援護し合い応戦するであろうから、全戦力を一体に集中させては、妨害を受け返り討ちに遭う。本命以外へも少数をぶつけて彼らの連携を妨害した上での戦術が必要になるだろう。
「四体の竜は、アストライオスを守る事を最優先にするみたい。だから、そっちへある程度の戦力を割いて本命の一体とそれ以外を分断して、なんてのも……、うまく連携が取れそうなら、試す価値がある、かもしれない、わ」

 すべては動ける人数次第となるが。それでもやはり、すべてに対処して貰う必要があるのだ。自爆の阻止も、儀式の阻止も。後方の竜へ少数であたらざるを得なくなった部隊が居たとしても上手く牽制をして貰えれば、あるいは。
「──だからどうか、気を付けてね。あなた達が動けなくなってしまっては……」
 仁那がペンを持つ手を止めた。じっと紙面を見ての言葉は半ばで潰えたが、やがて彼女は顔を上げてケルベロス達を見詰める。
「……あなた達でなくては出来ない事を、して来て欲しい。それで、無事に帰って来てくれると、わたしは嬉しい」
 そして彼女はそう、口の端を上げた。


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
シルク・アディエスト(巡る命・e00636)
罪咎・憂女(刻む者・e03355)
神宮時・あお(囚われの心・e04014)
明空・護朗(二匹狼・e11656)
ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)
ティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)

■リプレイ


 城を狙い低空を滑る侵空竜の姿をケルベロス達は捉えた。
「3、2、1──」
 時計を持つ面々がアラームをセットするのと、敵を迎え撃つよう宙を舞いつつ音ならぬ咆哮をあげ大気を正す罪咎・憂女(刻む者・e03355)及び地上に動く者達を障害と判断した竜が雷を吐くのはほぼ同時だった。
 竜の腹下を飛ぶ神宮時・あお(囚われの心・e04014)が凍結弾を撃ち、手近な瓦礫山の上からフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)が跳ぶ。
(「届き、ます」)
 雷に焼け爛れた腕に気付いた少女はけれど怯まず空を仰ぐ。拡散した雷とて、油断すれば墜落に追い込まれかねないほどの威力。難しい相手ではある。だが鍛錬を欠かさぬケルベロス達にとっては、決して絶望的な相手では無いと視えた。
「──吼エヨ」
 獄炎映す金瞳が獲物を見据える。笑みを浮かべた女の手により叩きつけられた大剣が敵の背を打ちその鱗上に熱が爆ぜた。
「敵は結構大きいのね」
 仲間達が小さく見えるとヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)が呟いた。振り下ろす一撃を受け、飛ぶ敵の脚が近隣の障害物を薙ぎ払った。砂礫が舞う中駆ける少女の裳裾には桜色をした光がちらついた。武装を変じたその姿は、人々のためでは無い。護らねばならぬ市民は幸い既にこの場には居ない。鼓舞すべきは自分自身。無理せず無事に、と交わしたのは些細な口約束。けれどそれを破る気は無いから。
「止めてみせるわ」
 地を蹴り跳んで、二刀を抜く。そのまま行けると思うなと、硬い皮膚を切り裂いた。
「囚われなさい!」
 晒した肌や髪を焦がされながらも携えた砲台から火を噴いて敵の前方へ回ったシルク・アディエスト(巡る命・e00636)がその火を敵の直下へ向けた。爆音と大気が唸る音がして、標的へと鎖を掛ける。彼女らの傷を癒すのは、明空・護朗(二匹狼・e11656)が御した銀光。敵の火力は彼一人で抗いきれるものとは言えなかったが、竜を倒すためには悠長にしていられない。今この瞬間だけでも常以上の力をと彼は、纏う友へと真摯に乞うて、傷ついた皆の体の奥深くを揺さぶり痛覚を鈍らせ運動神経を強く繋ぐ。
「プリンケプス、お願い!」
 ティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)の声を受け、小竜がヒメへと加護を。単純に耐久性を問うならばこの場では盾役として駆けるかの少女が一番だとの判断だ。皆無事に、と願えども、状況がそれを許さない事とて十分あり得る。『万一』など無いまま済ませられるよう全力を尽くす決意を抱くのと同じく、誰かを『捨て』る事を迫られる可能性についても、各々覚悟の上だった。
 敵が再度雷を放つ。
「こがらす丸!」
 見えていれどもその速さに対応するのは困難で、ならばせめてと北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)が指示を飛ばした。手近な壁やらを駆け上がるようにして宙へ跳ぶ。翼で舞う二名を庇う。機を見て送り出すべき彼女らには、極力万全に近い状態で居て欲しい。癒し手が今一度、彼女達に残る傷へと治癒を。
「流石、自爆特攻を仕掛けて来るだけはありますね。防御の事など度外視ですか」
 此方の反撃をろくに防ごうともせず浴びる竜を見上げた彼は、己も竜砲に火を。そしてそれでも、敵に怯んだ様子は未だ無い。
 その動きを鈍らせ、その身に傷を刻むべく、急ぐ。確実に、というにはやや不足と視ながらもヒメは刀に魔力を帯びさせ、仲間が与えた傷を体重を乗せ斬り抉る。
「ティ、プリンケプスに回復の補助を頼めないかしら」
「勿論です」
 そうして彼女は地へ下りたところで友人へ依頼する。この竜を降すには攻める手を止めるわけにはいかず、此方の被害は極力抑えねばならない。攻撃手が動けなくなるような事だけは避けたかった。援護の任に就いた小竜ならば、雷の後遺を祓う加護を期待出来よう。


 前後衛に多人数を配している為もあろうか。周囲の障害物を薙ぎ倒し地形を荒らしながら低空を進む竜は、雷の他は、その体躯に見合った長い尾で前衛を薙ぎ払う事を好んだ──前衛達が強力な爪撃への備えを固めて来たから、というのも理由の一つか。銀流体と薬液雨を扱う護朗の負担は極大だったが、未だ誰一人欠員を出さずに済んでいた。
 雷撃を受けて四肢の動きが鈍った事に気付いたあおが一旦攻撃の手を緩め自身を癒す。この後の事があるのだから己が状態にはよくよく気を配るように、と周りにきつく言われていた。
(「皆様、案じてくださる。……ボク、などが、授かっ、てしまった、翼、に……それでも、託して頂ける、のですから……必ず、応えません、と」)
 優しい人達を護る為に。攪乱に飛び回る憂女を見上げた少女は、その時を待ち低空で身をひそめる。
「吾が大刀──届キ足リ!」
 大剣に獄炎を纏うフラッタリーの声が大きく響いた。鈍く鱗を砕く音と共に、それは、攻勢に転ずべき機を報せる合図。攻めを確実に成果となすべく動いた者達の尽力により、その攻撃に耐え得る鱗の守りが力を減じつつあると彼女の目は読んだ。
 ならばとシルクが長銃を構えた。加速し跳んだ計都が動くに合わせ、大気が、敵の身が、凍える痛みに冒される。蹴りを打ち込んだ青年は即座に身を翻し次に備えた。竜に行動を変える気が無いのなら、次に盾たる彼が身を挺して護るべきはフラッタリーの筈と。唸りを上げ敵の肌を轢き裂いた相棒を後衛の警護へ遣って彼は、敵の背をも駆け追い縋れど厭うて翼をはためかせた竜に振り落とされた彼女の、落下地点へ先回りしその体を受け止める。戦いに臨む高揚のまま軋る声で短く礼を告げた娘が砂塵の中へ飛び出して行くのを彼は急ぎ追った。
 舞い散る瓦礫を足場にヒメが高く跳ぶ。敵の首後ろで機を窺っていた憂女と刹那視線を交わし得た。そうして、藍刃を備えた小刀と緋珠を抱いた長刀が、敵の前後から傷を刻む。重ねた攻撃ゆえにとうとう肉に届いて血が噴いて、各人の視界が更に煙る。
 竜の足が地面を抉る。轢かれる前にと巨体の陰から転がり出た護朗が銀光を御した。
(「次は、二人を治しておかないと」)
 前衛達の救護が遅れている事を案じながらも、彼は腕の時計に目を遣った。仲間達の殆どに、危うい時の備えはある。だが、それで攻撃が滞るような事があってはならない。皆が持ち堪えてくれる事を少年は強く願い、不自由な視界の中それでも目を凝らした。耳を澄まして、肌を緊張に晒して、決して見誤る事の無いように。
「今っ……!」
 敵の腹下へ取り付いたティが零距離から衝撃を打ち込んだ。銀の加護に研がれた知覚が腹の奥へと有効打を響かせる。直後に少女は敵の巨体に撥ねられ地面に転がったが、ケルベロスたる身には掠り傷。すぐさま起き上がり追跡を。小さな体でそれでも敵に食らいつくべく少女の頭を束の間借りたタマがきゅうんと彼女を気遣うよう鳴いて、だが直後は凛々しく敵を睨む。炎で以て敵を焦がし、かの身を冒す熱をより上げた。剥がれかけた鱗の下は、最早繕いようも無く炙られており、如何に竜とて痛まぬ筈は無い。
 次いで、敵の尾撃を攻め手の分も引き受けた計都は態勢を立て直しに。敵を苛む熱が巨体に轢かれた物らをも焦がす中、あおの術が更なる苦痛を用意する。飽くことなくかの竜を燃やし、硬い皮膚に刃を立てて、彼らが求めるものに果ては無く。
 だってまだまだ足りないのだ。仲間の助けを得て竜の首へと駆け上がったティが壇手を拳と握った。
「眩んで──!」
 敵の目元を殴りつける。直後に彼女は反動で地へ墜ちた。傍に振るわれた刀の峰に体を跳ね上げられ、その間に身を立て直し足からの着地に成功する。
「ありがとうございます」
 その拳撃は、敵の移動速度を僅かなれど落とす助けとなった。追いつくのが楽になり、各々間合いの調整に動く。
 告げられる報せと、敵の雷撃音はほぼ同時。俊敏な動きを得手とする憂女は、友人が浴びせた刀技の後遺ゆえに、僅かながら狙いを甘くした敵の雷、その走る先を見極め、逃れる事に成功した。とはいえ補佐に動く務めがあるからと、彼女は敵の死角を探し滞空する。
「五分経過!」
 翼持つ少女を、雷撃を自ら浴びに行く形で庇ったヒメは、報せる仲間の声を聞き、急ぎ敵へと距離を詰めに。
「行ってちょうだい、あお。出来そうなら、憂女の事も連れて行ってあげて」
 だが彼女は一度、己が護った年下の少女を振り返った。彼女が引き受けた苦痛にこそ胸を痛めるよう眉をひそめた少女がそれでも頷くのを見て、桜色を纏う刀剣姫は安心したよう微笑んで、敵へと向かって行く。
 先の備えがあった為に、行動は速やかに。地上に残る全員が、一人残らずその手を敵への攻撃に。炎が、風が、雷が、一息に嵐の如く吹き荒れる。その勢いには敵とて怯み、呻く如き吼え声が空を震わせた。
「後は、皆に任せよう」
 その振動の中。敵の目を逃れ空へと舞い上がり得た憂女とあおは、この先の戦場へと向かう為、離脱すべく急ぎ高度を上げる。
 この場は引き受ける、と。仲間達は皆傷つきながらも未だ全員が膝を折る事の無いまま、力強く背を押してくれたから。


 信じ合い託し合って、地上に残るは六名と三体。望み得る最善の形で二名を送り出せたと言って良いだろう。その彼女らを手厚く看護していた護朗は急ぎ、任せきりにしていた前衛達の治癒に取り掛かった──本当に、後衛達を庇いながらであったのに、よく耐えてくれたものだ。安堵とも畏れともつかぬ震えを孕んだ息を、彼は細く吐いた。
 彼らがそう成し得たのは、早い段階で敵へと、牽制の刀撃と火力を減ず光弾が浴びせられた為もあったろう。そしてそれを活かし得たのは無論、敵を捉え傷を抉り枷を嵌める事に尽力した皆の戦術あってこそ。
 空へ逃れた赤い翼達を追う余裕など与えぬとばかり、休む事なく彼らは攻め続ける。方針は変わらない。どこまでも追い幾重にも熱を浴びせ傷を開き血煙に舞い駆ける。噴射の推進で敵眼前へ跳んだシルクの槍が振るわれる。派手に動くのは目眩ましだ。最高火力を叩きつける為だけに獄炎を纏う攻撃手の刃が、少しでも深い傷を成せるように。ティの斧が敵へと刻んだルーンの呪いが、その暴威を導くように瞬いた。
(「理力捨てたんだしシャウトの準備して来た方が良かったかなぁ」)
 順調だと安堵しつつも少女は、敵を観察しつつ胸中でごちる。後衛の人数が減った事で敵の狙いが散る事を期待出来そうではあるが、サーヴァントと力を分かち合う面々は、手厚く治癒を施したとて、当たり所が悪ければ危うい域に達していた。
 先程尾を振るった敵が、此度は雷を前衛へと墜とした。指示を受けたこがらす丸がフラッタリーを護る。逃がしきれなかった電流が金属の体の上を走り、蒼く瞬いたかと思うと、彼は炸裂音と煙を吐いて沈黙した。
「あと……五分弱! 待ってろ、後で直す」
 時計を一瞥し計都は、労いの言葉を相棒へと残してのちは、敵の追跡に集中し駆けて行く。
「次、北條さんを治すから、ごめん皆、頑張って!」
 身の内に祈りを魔力と練りながら護朗が声を張り上げる。幸い中衛が無傷で済んでいる為に、小竜の補助が期待出来た。
 ただ、そう言う彼自身も危うい状態にある。承知の上とはいえ、前半戦の負債を清算しに奔走している今、後衛を治癒する余裕は殆ど無い。状況と状態を見、何を捨てて何を活かすか、頭の中はめまぐるしく算盤を弾いている。一番脆いのは、少年自身だ。
 そして雷が迸る。二名で三名を護りきるなど不可能だ。少年の体が衝撃に仰け反って、
「諦めるもんか……!」
 焦げて爆ぜた肌が噴いた血に染まる手で、地面を叩いて跳ね起きる。二度目のアラームまで六十秒を切った。ならば今は、その後の為に憂いを祓いきるのが自分の仕事。体が限界を訴えたとて、倒れてなどいられない。薬液をぶちまける。射手達が最後まで敵を追えるように。盾役達が少しでも背後を顧みず済むように。
 そして終わりの報せが鳴る。これより先は、誰が倒れても怯んではならない。広範囲の攻撃で複数名が落とされるような事は、今ならば余程不運で無ければ起きぬ筈と各々前だけを。一度目の時と同様に、全員が攻撃の為に動く。
 振るわれた竜尾が地をも抉り砂嵐が巻き起こる。消耗の酷い計都をヒメが護り、フラッタリーは血を吐きながらも保たせて口の端を上げた。跳躍したシルクが先陣を切り槍を振るい、挙動の修正を強いられずに済んだ計都が速やかに六連射撃を為した。斧撃が、炎が、雷が、先とは違い散発的なれど着実に敵へと傷を与えて行く。脚を擦り、尾を擦り、城庭を荒らしながら進む敵は、疲弊しきっているというのにそれでも未だ止まらない。
「然アラバ今一度──」
 炎が空を焦がす。だが。
 その身すら顧みずに駆け抜けて、敵前方に立ち塞がり得たのはフラッタリー一人。竜は、それを排すべく爪を振り上げた。
「駄目──」
 今この瞬間、誰より護らねばならない娘へと、ヒメは体当たりを喰らわせた。鋭い衝撃が小柄な体を襲い、白桜は深紅に染まる。
(「お願いよ」)
 次はもう、無いのだ。護れた事に安堵して、少女は願う。刀を握る力を失くした手、その指に留まる馴染んだ金属の感触を、彼女はそっと抱き締めた。
「鎖よ、彼の者を大地に縫い止めなさい!」
 シルクの砲台が唸る。食らいつくならば最後まで。地にほど近い敵の身を、彼女の術がきつく繋いだ。
「野干吼ヨ、龍ヲ地獄二墜tOセ」
 惜しむ由など既に無い命を、それでも護られた。ゆえにと女は金の瞳に深淵を視る。雷呑み込む炎の華を。大地潤す血の華を。
 荒らされた樹木、地の奥に潰された虫達への贖いの如く。竜は、目標たる城へ至る事無く、その骸を地に沈めた。


 しかし安堵に息吐く余裕は無かった。間を置かず城で幾つもの爆発が起きたのだ。轟音と共に崩れ行く城が砂煙に覆われて行く。
「そうだ、自爆があるとコギトがって……」
 傷だらけの体に鞭打ちティが城へと走る。が、突如何かに弾かれて地面に倒れた。
「大丈夫ですか!?」
 案じて駆け寄った者達は、徐々に晴れ行く城跡の光景に目を瞠った。
 全壊し、瓦礫と化した城。その天守があった辺りに、禍々しく輝く宝珠が浮かんでいた。
「まさか、あれが?」
 封じられていた遺産だというのかと。かの宝珠の力によるものか、何やら力場が発生しているようで、一定以上は近づけない。
「放っておくわけにはー、参りませんがー」
 得物を握る手は血まみれだ。手ばかりでなく全身が。そうでない者も、火傷と埃でひどい有様で。
「このまま戦っても危ないです。せめて手当しないと」
「一時撤退するしかありませんね。上空の方々の事もありますし」
「のんびり整備もしてやれませんか」
 だが、成すべき事は遂げられた。ドラゴン達の戦力を減らせた事は無駄にはならない。
 後は皆が無事であるように。願い、彼らは離脱に移った。

作者:ヒサ 重傷:ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月7日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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