熊本城ドラゴン決戦~カミカゼ・デストラクション

作者:鹿崎シーカー

 夕刻に照らし出される、熊本城上空! 徐々に濃紺に染まりつつある空に黒い無数の点めいた影が映り込む。流星群めいて降り注ぐそれは褐色のウロコを持つ翼竜の群れ。翼をたたみ、熊本の城めがけてドラゴンダイブを敢行! 宙を切って城に激突し爆発! 続いたドラゴン達が次々にぶち当たっては爆発し、外壁や屋根瓦、天守閣を吹き飛ばし、礎をたわませ崩壊せしめる。爆炎が消えぬうちに第二波が城全体に連続で突っ込んで爆発! 絨毯爆撃によって城の材が弾け飛び、粉々になっては散っていく。熊本城を包む炎と、濃密な煙。その内側から薄紫のオーラが立ち上り、周囲に地鳴りが響き始めた。大地が震え、煙の中から巨大なアメジストじみた球体が徐々にせり上がって来る……!


「みんな、お疲れ様! お疲れ様なんだけど……もうひと仕事! 大本命が来たよ!」
 そう言って、跳鹿・穫は湯呑の茶を一気飲みして息を吐いた。
 熊本市全域で行われたドラゴン勢力との戦いは、どうにか最小限の被害で敵を撃退する事できた。
 しかし、これはあくまでも前哨戦。竜十字島から出撃した覇空竜アストライオス率いるドラゴンの軍団が、すぐそこまで迫ってきている。
 敵の目的は『熊本城』に封じられた『魔竜王を復活させる事すらできる魔竜王の遺産の奪取』。先の熊本市防衛戦においてグラビティ・チェインの略奪を阻止できた為、魔竜王の遺産の封印は破られていない……が、それを察知したドラゴン軍団は封印を無理やりこじ開けんと画策。熊本城に特攻・自爆して自らのグラビティ・チェインを捧げ、封印を解放しようとしているというのだ。
 皆には今すぐ熊本城に向かい、熊本市の防衛を果たしたケルベロス達と合流し、熊本城を守って欲しい。
 まず、熊本城に特攻をしかけるのは『侵空竜エオスポロス』というドラゴンだ。覇空竜アストライオス配下のドラゴンであり、高速機動と鋭い斬撃、電撃のブレスなどを駆使して戦う強力な相手である。
 このエオスポロスは、熊本城突入の十二分後に自爆することで、封印解除用のグラビティ・チェインを放出。後にコギトエルゴスム化する。
 つまり、封印解除を阻止する為には、突入したエオスポロスを十二分以内に撃破しなければならない。ただ、撃破ができなくとも大ダメージを与えれば、放出するグラビティ・チェインも減少する。可能な限りダメージを与えるのが重要だ。また、大量にいるとはいえ、エオスポロスはドラゴンであり強敵である。そのため、戦えるのはあくまで一体のみとなる。

 そして、この戦いと同時に、儀式を行なう覇空竜アストライオスと四竜への対策について説明する。
 アストライオスは、エオスポロスによる封印解除が失敗した場合、儀式を終了させた配下の四竜を犠牲に捧げてでも、魔竜王の遺産を竜十字島に送ろうとする。これを阻止する為には、儀式が完成する前に、アストライオス或いは四竜の一体でも撃破すればいいのだが、ひとつ問題がある。アストライオスと四竜は、エオスポロスの軍団の背後にいる為、エオスポロスを突破しなければ対面すら出来ないのだ。
 ではどうするか。それはエオスポロスと戦いつつ、少数の飛行可能なケルベロスを突破させ、覇空竜アストライオスと四竜に奇襲をしかける。非常に危険ではあるが、これが最も成功しやすい作戦となっている。
 敵は最強と名高いデウスエクス、ドラゴン。この戦いの行く末は、全てケルベロス達の力にゆだねられている。
「向こうもかなり必死みたいだけど、こっちも魔竜王の復活なんてさせられない! みんな、力を合わせてがんばって!」


参加者
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)
稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)
篁・メノウ(紫天の華・e00903)
呂・花琳(デウスエクス飯・e04546)
一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537)
尖・舞香(尖斗兆竜・e22446)
神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167)
鴻野・紗更(よもすがら・e28270)

■リプレイ

 熊本城、沈みかけの日、そして夕暮れの空を急降下する褐色のドラゴン! エオスポロスと距離を取って並走しながら、一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537)は腕のキャノン砲を突きつけた。
「食らいやがれ! ですッ!」
 マシンガンじみて連射された真紅の光弾が宙を舞う。だが侵空竜は翼をたたみ複雑軌道を描いて全弾回避! 急転身して茜に大口を開いた。喉奥に稲光を溜めるドラゴンの間に割り込む稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)!
「させるもんですかッ! 花琳ちゃん、サポートお願い!」
「秦広王、初江王、宋帝王、五官王、閻魔王、変成王、泰山王、平等王、都市王、五道転輪王、十王決議を持ち此処に六道を分かつ。祖は風也、祖は風鳴、鉄囲山を越え果てより来たれ、六道隔てる地獄の旋風!」
 晴香の上空、周囲に黒赤色の漢字を浮かべた呂・花琳(デウスエクス飯・e04546)が振り上げた手に黒い風をまとわせ、晴香に振り下ろす。巻き起こる暴風が赤いリングコスチュームを包み込むと同時にエオスポロスが稲光のブレスを放った! 一条の閃光が風の壁をぶち抜き両腕を腰だめに据えた晴香に激突! 彼女の胴を焼き焦がす。
「ぐっ……ぐううううううううっ!」
 目が見開かれ、噛みしめた奥歯が砕けた。晴香にブレスを集中するドラゴンを下から見上げ、神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167)は叢雲・蓮(無常迅速・e00144)を抱えた尖・舞香(尖斗兆竜・e22446)の背中に手を当てる。白装束の腕から流れ込む緋色の花風じみた光。
「雅姉! 舞香姉! 早く早く! 晴香姉が!」
「焦るな蓮。大丈夫だ。私の目の前で竜の犠牲者は出さん……!」
 足をばたつかせる蓮に舞香の腕を伝って花風が流入。翼から銀の粒子を放出しながら、舞香は目下に素早く視線を走らせた。刺々しいウロコに覆われた翼がジェットじみて光の粒子を噴き出し始める。
「では舌を噛まないようにだけ。行きますよ!」
「わぅ!」
 返事を聞いた舞香が加速! エオスポロスまで一瞬で距離を詰めて蓮を投げ、蓮は鎖を巻いたドラゴンの首に刀を突き立てる。ブレスを止め苦しげに叫ぶ侵空竜の脳天に鴻野・紗更(よもすがら・e28270)の飛び蹴りが炸裂! 蹴りの勢いのまま足を曲げた姿勢で差し出す白手袋の手。
「叢雲様、お手を」
「はいなのだ!」
 飛びつく蓮を片手で抱きとめ、紗更は逆の手に重厚な巨大ハンマーを生み出した。侵空竜を軽く蹴って跳び、腕一本でハンマー殴打! 槌の頭部が爆発し、紗更を天高く打ち上げる。その上空、スミレ色の燐光をまとった篁・メノウ(紫天の華・e00903)が舞い、黒刀の柄尻の帯で輪を描く。黒い刃に紫光が収束!
「清き風、昇華し羽ばたけ! 篁流回復術、『黄雀風』!」
 振り下ろされた刀から拡散する紫の風が空を吹き荒れ仲間達を包み込む。納めた刀に手をかけた雅と舞香が羽ばたきもがくドラゴンを見据えて居合いの体勢を取った。
「尖殿!」
「いざ、星辰の如く……せぇーのっ、斬ッ!」
 同時居合いが閃光の斬撃を放ち、緋の花弁と星の光を引きながらX字に交叉。エオスポロスめがけて一直線に迫る。姿勢を立て直した侵空竜は飛ぶ斬撃をにらみ付け、直撃の寸前に咆哮を当てて消し飛ばした! 息継ぎする竜の射線に花琳と晴香が割って入る。
「ブレスが来るぞい! 構えよ稲垣殿!」
「ええ! 同じ手で二度もやられないわ!」
 花琳の両腕が黒赤色の渦に包まれ、晴香の全身に後光が巡る。直後にエオスポロスが吐いた雷光は大樹の枝めいて無数に分裂しながら空を裂き、広範囲を埋め尽くす! 晴香が四肢を限界まで伸ばして後光を、花琳が両手首をくっつけ地獄の風を巨大な障壁めいて展開! 二人に突き刺さる大量の稲光が雷鳴を轟かせながら食い破らんと荒れ狂う!
「ぐッ、く……!」
「ぬおおおぉぉぉぉぉぉッ……!」
 脂汗を噴き出しながら耐える二人の防壁を貫いた数条の稲妻が滞空する紗更と舞香を強襲! 蛇の群れじみて二人に噛みかかる電気をそれぞれ梵天丸が掲げた錫杖の光とメノウの剣圧が打ち払う。さらにアギトを開くエオスポロス。その背後に茜が現れ、片足を横薙ぎに振りかぶる。
「そこの肉……誰か忘れてやしませんかねえ! オラァッ!」
 膝まで覆う機械足甲の回し蹴りがエオスポロスの首に命中! 反動を利用した逆回し蹴りを首の反対側に叩き込んだ茜は赤い帯のついた棍を竜の脳天に打ち下ろした。電撃を止めたドラゴンは振り向きざまに爪撃を繰り出して茜の胸部装甲を粉砕、奥の胸元まで切り裂いた。血飛沫を飛ばしながらも茜がニィと笑みを浮かべる。
「後ろ、注意っ!」
 茜が人差し指を突き出した瞬間、ドラゴン後頭部に急降下した蓮が逆手に構えた刀を突き刺す! 刀身先数ミリ埋まった刃を無理矢理引っ張り前後反転、侵空竜の体を一息に駆け下り鎖の尖った先端を楔めいて切り傷に打ち込んだ。それを飛び蹴りで埋め込む紗更! 手には光で出来た蛇腹剣!
「一津橋様、叢雲様をお願いします」
「了解しました! 下に、参りまーすッ!」
 ドラゴンから飛び降りた蓮をキャッチした茜が身をひるがえし、足甲靴裏からジェット噴射した。一方紗更がムチのように打ちつけた蛇腹剣は竜を翼ごと縛り上げ飛行阻害! 浮力を失い猛るエオスポロスから飛び降りた紗更が雅とすれ違う。
「神野様」
「ああ、わかっている。守られてばかりじゃいられないからな……!」
 白い吐息を吐き出した雅の目が冷たく光る。雪じみた装束から吹雪の如き冷気をまき散らし、伸ばした両手でやや離れた侵空竜を包み込むように構える。
「凍てつけ、我が腕の中で」
 手を閉じた直後、エオスポロスが巨大な氷の棺に閉ざされた。隕石のように落ちていく長方形の白氷から伸びる鎖を握った蓮は自身を抱える茜を見返る。
「茜姉、落っこちてくる!」
「じゃあ落っことしてやりましょう! 思いっきり!」
「わぅ! わかったのだ!」
 頭から地面に急降下していた茜は高速前転して足を地に向け、蓮を両手で持ち上げる。足裏が噴き出す炎を絞りつつ、ダンクシュートの要領で蓮を投擲! 投げられた蓮はコマめいて回転して鎖を巻きとり、円弧を描く氷塊を大地にぶつけた。地面が派手に陥没し、地鳴りと共に噴き出す粉塵。次の瞬間、土煙が跳ね飛び氷と蛇腹剣を破った竜が大翼を広げて怒号を上げた! 軽く羽ばたいて飛翔し地に足つけた蓮にアギトを開き雷撃! 爆発する地面を見、着地した茜は冷や汗を垂らした。
「ありゃ……怒らせちゃいましたかね?」
 つぶやく彼女を上から尻尾が叩き潰す! 浅いクレーターに突っ伏す茜の頭上で大きく胸を反らし息を吸うドラゴン。バチバチと稲妻を爆ぜさせる口をめがけ、上空から紫の嵐をまとった晴香が突っ込む!
「待ちなさぁぁぁぁあいッ!」
 冷気をまとった流星タックルが侵空竜の鼻面にぶつかりアギトを無理矢理閉じさせる。ドラゴン口内でブレスが暴発! 反動で後方に飛ばされながら、晴香は空に声を張った。
「メノウちゃん! 二人をお願い!」
 そのまま両手を前に突き出し閃光を発射! 飛行を乱したエオスポロスを強制ノックバックさせたところへ、黒刀を真っ直ぐ伸ばし、柄尻の帯を渦巻かせたメノウがハードランディング着地。両脚を踏ん張りつつ華麗に回転、その足元から夜桜じみた光を散らしてスミレ色の嵐が噴き出す!
「篁流回復術、『夜半の嵐』! 正念場だ! 行くよッ!」
 腰をひねり剣閃と一緒に繰り出す暴風。周囲に広がりうなる風の声に混ざって小さな電子音が鳴る。遅れて着地した紗更はリストウォッチに目を落とし、アラームを止めた。手中で生成したスティックを回しながら背後に降り立つ雅に告げる。
「お時間です。突破のご用意を」
「わかった。……紗更」
 雅が執事服の肩に手を置いた。
「此処は任せたぜ。……死ぬなよ、絶対に」
「はい。神野様も、どうぞご無事で」
 雅の手が離れると同時に紗更が駆け出す。メノウの風を羽ばたきで吹き飛ばしたエオスポロスの懐に滑り込んで跳躍、下顎をスティックで突き上げる! 大きくのけ反る竜の胸を見据えた花琳の背中から黒い触手めいた物が大量に飛び出し、寄り集まってバリスタを編み上げる。弓に飛び乗った晴香は両脚でジャンプし弦をリングロープめいて背中で押した。
「準備オッケー! 最大級のロープワーク、見せつけてやろうじゃない……!」
「秦広王、初江王、宋帝王、五官王、閻魔王、変成王、泰山王、平等王、都市王、五道転輪王、十王決議を持ち此処に六道を束ねん。祖は矢也、祖は矢鳴、八つの嶋を越え果てより来たれ!」
 花琳の振り上げた右手から噴き出す黒赤色の漢字が晴香に集中! 直後、バリスタは晴香を弾丸じみてドラゴンに射出! 漆黒の風をまとったタックルが狙い違わずエオスポロスの胸にめり込み、破砕音を響かせた。その後方、低空飛行する雅の視線が紗更の半身にかぶりついて投げ、翼の爪で晴香を叩き落とした竜の目と交錯した瞬間、流星の如き舞香のキックがエオスポロスの鼻面に直撃し強制的に右を向かせた。
「あなたの相手は……私達ですッ!」
 駄目押しのドロップキックがエオスポロスの首を90度近く回転させる! ほぼ真後ろを向いたドラゴンヘッドにワインレッドの雷撃が命中。鎖を手に竜の背後を取った蓮が雅にウィンクしたのと同時、速度を上げる雅の両隣に茜とメノウが並んで走る。
「よっしゃ! 後は任せました! こっちは任せろ! ですッ!」
「武運を祈るよ。いってらっしゃい」
 言って急ブレーキをかけたメノウが黒刀で螺旋を描くように舞った。目の前に下ろした刃を横に向け、薙ぎ払う!
「清き風、魔を祓え! 篁流回復術、『断風』!」
 起こされた紫の突風が茜と雅の背を押し駆ける。斜め上に飛び立つ雅の後方、靴裏をジェット噴射させた茜は首を振り雷撃の余波を払うエオスポロスの頭上に到達! 背中を一杯に曲げて振りかぶるは無骨な黒い戦槌!
「祝砲いっぱぁぁぁぁぁつッ! うおりゃああああああッ!」
 全力の一撃がドラゴンの脳天に叩きつけられ真紅のブリザードが全方位に勢いよく噴出した。猛烈な追い風を受けて飛んでいく雅は一瞬仲間達を振り返り、大きく羽ばたいて飛んでいく。大地に顎から打ちつけられたエオスポロスが跳ね起き、空に雷球を複数吐き出す。中空で静止したそれらは激しく電気をまき散らし、大量の落雷を降り注がせる! 空中に居た蓮、舞香、茜が撃ち落とされ稲妻一色に塗りつぶされた地上から手負いの侵空竜が浮上する。轟雷が止み、焼け焦げた地面に突っ伏していた舞香が顔を上げ、いななくドラゴンを見上げる。
「ついに……本気で、怒ったといった……ところ、ですねッ……」
「まさしく、雷が落ちたということでございましょうか」
「上手いこと言うとる場合ではないぞ、鴻野殿」
 立ち上がり、よろめく花琳を梵天丸が抱いて支える。正座して息を整えたメノウの周囲に花弁と風が渦を巻いて吹き始め、味方の傷口をふさいでいく。空中から警戒めいてにらみつけ、口から蒸気と唾液、火花を散らすエオスポロスを見上げた晴香はボロボロの両手で頬を張った。
「いいじゃない。第二ラウンド上等! ここでケリつけましょう! 蓮君、立てる?」
「わぅ、平気なのだっ……!」
 軽くジャンプして立った蓮がぷるぷると首を振る。立ち直り、構える面々。生傷多くも瞳に絶えず燃え上がる闘志!
「さあ、ドラゴンクッキングのお時間です! 美味しいお肉になぁれ、ですよ!」
 エオスポロスが咆哮し、猛禽めいて一気に急降下! 両拳を打ちつけた晴香と全身にオーラを燃やした花琳が真っ向から迎撃に入り地面スレスレをかすめる竜の足にそれぞれ組みついた。後ろに押し込まれながらも踏ん張る晴香のグローブから氷が育ち巨大な足裏を凍結せしめる。そのまま二人を踏み倒したエオスポロスの鼻面に跳躍した紗更のかかと落としが命中した。反動で跳ね返る彼に怒号混じりの反撃ブレス! クロスガードごと弾き飛ばされた紗更は後ろに転がって受け身を取るが横薙ぎテールスイングを食らって真横に吹き飛ぶ。コマめいて回転する竜の真上に陣取った蓮は高速回転して鎖を巻きとりながら垂直落下!
「でいっ!」
 着弾! 縦に開かれた傷に刀をねじ入れ、鎖を握る手に怨念めいたエネルギーを溜める。傷に埋まった鎖の先が怨霊じみた光を放って爆ぜ血と肉の飛沫を飛ばした。悲鳴を上げた竜の口から無茶苦茶にほとばしる雷! 荒れ狂う電気をステップ回避しながら走る梵天丸が槍投げの如く錫杖をドラゴンの眼球に投げて突き刺しブレスを止めさせる。地団太を踏んで暴れるエオスポロスから蓮が振り落とされた。
「わぅっ!?」
 背中から落ちる蓮を紫の風がふわりとキャッチ。腰を落とした姿勢のメノウがゆっくりと刀を振り抜くように回る。
「篁流回復術、『彼岸西風』……からの!」
 切っ先を下向けた黒刀を土に刺す。昇り螺旋を描く柄尻の帯!
「『青嵐』!」
 地面の六か所から竜巻が吹き上がった。二か所はエオスポロスの足の下から! 晴香と花琳が竜の足を下から立ち上がり、四肢をブチブチ言わせながら持ち上げる! 浮き上がった足に絡みつくのは蛇腹剣と鎖。ドラゴンの周囲を疾走旋回する紗更と蓮が竜の足首を縛り上げると同時に丸太じみた足を支える二人は目配せをした。
「せぇーのッ!」
「ふんっ!」
 放られ、地面に突っ伏す侵空竜の尻尾側から最高速度で飛行する舞香が飛び込み、神速の斬撃で背中の傷を斬り開いて竜頭を抜ける。刃の血とウロコを斬り払い、叫ぶ。
「一津橋さん!」
 エオスポロスの上空、両腕を翼めいて広げた茜の指から真紅のオーラ爪が伸びる。
「紅王ネイガルブルート……ドラゴン肉解体ショーの始まりですッ!」
 高速前転しながら落下し竜の頭から背中を駆け抜け後ろ端で急停止。傷に沿っていくつも噴き出す血の間欠泉に飛び入り、両手の爪を傷に刺し入れ力尽くで左右に開く!
「うらあああああああああッ!」
 竜の背中が派手に裂け、大量の血と稲妻をぶちまけた。激しい閃光をまき散らしながらエオスポロスはもがき、翼で地面を叩いて起き上がる。断末魔に吠えるドラゴンの腰に組みつく晴香! 血みどろになりながらも両脚を踏ん張り、背中を曲げる。
「カメラも歓声も無いのは残念だけど……見せてあげるわ! 必殺のぉぉぉぉおおッ! はァッ!」
 渾身のバックドロップがエオスポロスの脳天を地面にぶち込む! 遅れて大地がへこみ、吹き荒れる衝撃波! ほとばしる稲妻が弱まり、声を上げなくなった侵空竜の体に二つの剣閃が走る。反対側に立ったメノウと舞香は、各々の刃を鞘に滑らす。
「はい、スリーカウント」
「愚かな……星と散れ!」
 二人が刀を納めた瞬間、巨体が爆ぜる。バラバラと散る肉のブロックと鮮血の中、戦場は潮が引くように静まっていった。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月7日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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