●破壊される熊本城
夕闇迫る熊本城。
清閑な雰囲気すら漂うその場所に、恐るべき脅威が迫っていた。
――侵空竜エオスポロス。
魔竜王の遺産を狙うドラゴン、覇空竜アストライオスは、番犬達がその作戦を迎撃することを予期していた。
そして、その失点を補える戦力を用意していたのだ。
侵空竜エオスポロスの軍団は、一直線に熊本城を目指す。
そして、夥しい数の軍勢が一切の躊躇なく、熊本城へと突撃していく。
爆発する熊本城。
それはエオスポロスの軍団が自爆特攻したことによる爆発だ。
次々と飛び込んでいくエオスポロスの軍勢。
そうして熊本のシンボルたる城は木っ端微塵に破壊されてしまうのだった。
廃墟が残される。
その廃墟の中から、ぼんやりと光が漏れ出した。
邪悪さすら感じさせる、恐ろしい力を秘めた何かが姿を現そうとしていたのだ――。
●
集まった番犬達にクーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)が説明を開始した。
「熊本市全域で行われたドラゴン勢力との戦いは、最小限の被害で敵を撃退し勝利する事ができたのです。
しかし、竜十字島から出撃したドラゴンの軍団が、すぐそこまで迫ってきているのです」
クーリャによれば敵の目的は『熊本城』に封じられた『魔竜王を復活させる事すらできる魔竜王の遺産の奪取』に間違いないということだ。
しかし、番犬達の活躍により、グラビティ・チェインの略奪を阻止できたこともあり、魔竜王の遺産の封印は未だ破られてはいない。
「しかし、この封印を無理矢理こじ開けるべく、ドラゴンの軍団は熊本城に特攻、自爆する事で自らのグラビティ・チェインを捧げ、封印を解放しようとしているのです。
皆さんには、今すぐ、熊本城に向かい、熊本の戦いに参加したケルベロス達と合流、熊本城の防衛に参加してほしいのです!」
クーリャは一度呼吸を挟むと、概要について説明を続ける。
「敵の目的は二つあるのです。
一つは『侵空竜エオスポロス』の軍団を熊本城に突撃、自爆させ、魔竜王の遺産の封印を解除する事。
そして、もう一つは、覇空竜アストライオスと配下の四竜、廻天竜ゼピュロス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースの儀式により、封印を解除された魔竜王の遺産を竜十字島に転移させることなのです」
魔竜王の遺産が、竜十字島に転移させられてしまえば、こちらから手出しすることは至難となり、ドラゴン勢力の野望を食い止める事は不可能となるだろう。
「それを防ぐ為には、侵空竜エオスポロスを迎撃すると同時に、儀式を行う覇空竜アストライオスと四竜への攻撃を敢行する必要があるのです。
強大なドラゴンとの戦いとなるのですが、ここで敗北するわけにはいかないのです!!」
ぐっと拳を握るクーリャは咳払いを挟むと、敵性目標に関して分かっている情報を伝えてくる。
「まず皆さんには熊本城に突撃してくる『侵空竜エオスポロス』一体と戦ってもらうのです」
侵空竜エオスポロスは覇空竜アストライオス配下のドラゴンだ。
素早い機動と鋭い斬撃、電撃のブレスなどを得意としている。
「侵空竜エオスポロスは、熊本城突入の十二分後に自爆し、コギトエルゴスムとなる事で、封印解除の為のグラビティ・チェインを放出するのです。
これを完全に阻止する為には、十二分が経過する前に撃破する必要があるのです」
撃破ができなかった場合も大きなダメージを与える事ができれば、自爆の効果が弱まり封印を解除するグラビティ・チェインも減少することがわかっている。
可能な限りダメージを与え続けることが必要だろう。
「この戦いと同時に、儀式を行う覇空竜アストライオスと四竜への対策も必要となるのです」
覇空竜アストライオスは、自爆による封印解除に失敗した場合、儀式を終了させた配下の四竜を犠牲に捧げてでも、魔竜王の遺産を手に入れ竜十字島に送り届けようとするだろう。
これを阻止する為には、儀式が完成する前に、覇空竜アストライオス或いは四竜の一体でも撃破する必要がある。
「しかし、覇空竜アストライオスと四竜は侵空竜エオスポロスの軍団の背後にいる為、エオスポロスを突破しなければ戦いを挑む事は出来ないのです。
検証の結果、侵空竜エオスポロスと戦いつつ、少数の飛行可能なケルベロスを突破させて、覇空竜アストライオスと四竜を奇襲する作戦が、最も成功の可能性が高いことがわかったのです。
非常に危険な作戦となるのですが、全てはケルベロスの皆さんの勇気と力にかかっているのです。どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
説明を終えたクーリャはぺこりと頭を下げる。そうして、祈るような眼差しで、わかっている情報を付け加えた。
「覇空竜アストライオスと配下の四竜は、互いに連携して戦う事ができるため、突破した全戦力を一体の目標に集中させた場合、他の四竜が連携して妨害してくる為、確実に撃退されてしまうのです。
それを阻止する為には、本命の攻撃の他、残りの四体に対しても少数で攻撃を仕掛けて、連携を妨害する必要があるのです。
四竜は、覇空竜アストライオスを守ることを最優先にする為、ある程度の戦力でアストライオスを攻撃しつつ、本命の攻撃を集中させる作戦は有効かもしれないのです!」
両手を組み合わせ祈るように目を伏せるクーリャは、そうして決死の戦いに挑む番犬達を送り出すのだった。
参加者 | |
---|---|
京極・夕雨(時雨れ狼・e00440) |
西水・祥空(クロームロータス・e01423) |
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889) |
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986) |
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451) |
鈴原・瑞樹(アルバイト旅団事務員・e07685) |
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027) |
円谷・三角(アステリデルタ・e47952) |
●決死の迎撃戦
熊本城から東の空を睨めつければ、空に羽ばたくドラゴンの軍団が目に入る。
今にも始まろうとする強敵ドラゴンとの戦いを前に、番犬達は緊張と集中の渦の中にいた。
「――特攻ですか。ご立派なものですが、ここで食い止めさせて頂きます」
青からオレンジへと変わる夕暮れ空を仰ぐ京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)が覚悟を口にだす。
「ええ。加藤清正公が築城された天下の名城――熊本城を落城させるわけにはまいりません」
西水・祥空(クロームロータス・e01423)が頷く。歴史的建築物を守り、魔竜王の遺産を敵の手に渡すまいと、夕雨の覚悟に同調した。
「ハ、ドラゴン様の群れとはおっかねえこって。
だが、こっちはそれより怖ぇ地獄の番犬だ。――殺すぞッ!」
殺意を滾らせ手にした髑髏の仮面を身につけるは、相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)。背の翼をはためかせ飛行のポジションを取る。
「市街地での戦いからの連戦だ。疲れはとれたかい」
「はい。……強敵との戦いになります。背中は任せてください」
熊本市街地を襲ったドラゴン配下の軍勢との戦いの後、そのままこの場へ駆けつけたコロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)と鈴原・瑞樹(アルバイト旅団事務員・e07685)の二人はともに言葉を交わしながら心を落ち着けさせる。
「索敵反応。数四十以上。接近。……近づいてきたね。思っていたより大きい、かな」
自身の索敵範囲に入った敵ドラゴンに視線を向けて館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)が愛用の武器を構える。
「わはははははっ! いよいよじゃなぁ!」
内に燻る不安を払拭するように大声で笑い飛ばすは服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)。コロッサス、瑞樹、円谷・三角(アステリデルタ・e47952)と同じように熊本に進軍したドラゴン配下の軍勢との戦いから引き続いての参戦だ。
竜人から離れた場所で、翼をはためかせ飛行のポジションを取る。
「見えた……あれが儀式を行うという覇空竜と四竜だね。その儀式、成功させるわけにはいかない。必ず阻止してみせる!」
望遠レンズで覗き見た三角が、侵空竜エオスポロスの後ろに控える覇空竜アストライオスと配下の四竜の影を見つける。
今回の作戦は大規模な他班との合同作戦となる。
熊本城に眠る魔竜王の遺産を狙い、自爆特攻をしかけグラビティ・チェインを遺産に供給しようと狙うエオスポロスの軍団。そして目覚めた遺産を竜十字島へと転移させる儀式を行おうと企む覇空竜と四竜。
そのどちらも対処する必要がある本作戦はこれまでにない難易度の依頼となるだろう。
十分に作戦は練った。後は実行あるのみだ。
覚悟を決めた番犬達の前に、猛スピードで飛来する巨大な影。
侵空竜エオスポロス。その一体。
「大きい――!」
「ハ、でけぇだけだ! ビビるこたぁねぇ!」
全長十二メートル。巨大な翼をはためかせ、大きなうねりを生み出す尻尾を振るう。
侵空竜が聞く者すべてを恐怖に陥れる、咆哮を上げる。ただの威嚇にすぎないそれは、しかし番犬でなければ卒倒しかねないものだ。
ギロリと鋭い竜眼が番犬達を睨めつける。
尋常ではない殺気が番犬達の身体を反射的に動かした。同時に侵空竜の口より放たれる雷撃を伴うドラゴンブレス。
「くっ――!」
直撃を避けたというのにも関わらず全身を痺れさせてくる雷撃の痛みに奥歯を噛む。だがそんな番犬達の事など構うことなく咆哮をあげる侵空竜が鋭く伸びた爪を振るい、近場にいる者をその長い尻尾でなぎ払う。
巨大な体躯より生み出される一撃は重く強大だ。怒濤の連続攻撃は並の生物であれば、戦意を喪失したことだろう。
だが、立ち向かうは地獄の番犬ケルベロス。
「早速の手痛い歓迎、さすがはドラゴンというところでしょうか」
「その力、噂に違わぬというところか。だが――」
祥空とコロッサスが体勢を立て直し武器を構え前線のラインを作り出す。
「私達をそう簡単に倒せるとは思わないでもらいたいですね――!」
夕雨がグラビティを迸らせる。巨大な竜の足下へ駆け出しながら生み出した雨粒ほどの弾丸が、侵空竜の足を撃ち貫いていく。泥濘にはまるかのように重くなるその足をさらにナイフで傷つけ効果を倍増していった。
この敵の足を止める夕雨の動きに、祥空とコロッサスも同調する。
「我等こそは地獄の番犬。錨を巻き上げ、第五の牙を解き放て」
乗り物酔いに似た立ちくらみを覚えながら、詩月へと支援をかけた祥空が、コロッサスとともに、竜砲弾を嵐のようにたたき込む。徹底的な足止め狙いは侵空竜の足を鉄のように重くしていく。
その動きは詩月、三角も同様だ。
「専門ではないけれども、心得はあるからね」
「足下がお留守だぜ!」
詩月は、翼をはためかせ空へと逃げようとする侵空竜へと強化外装のスラスターで飛び移り、手にしたハンマーの石突で鱗を抉り取るように打ち付ける。
地上へと叩きつけられる格好となった侵空竜へ特殊な光を照射する三角。照準を鈍らせるその光に侵空竜の動きが鈍る。
だが、足を止めたところで、攻撃が弱くなるわけではない。幾度となく放たれる雷撃のブレスが番犬達を飲み込み、全身に麻痺に似た症状が広がると、動きが鈍ったところに致命を予感させる鋭き爪が襲いかかる。
「大丈夫、すぐに治癒します――!」
そんな番犬達を支えるのは瑞樹だ。持てるグラビティ全てを駆使し、仲間達を回復し、支える。
そして、作戦の要たる飛行中の二人もまた、全力をもってこの強大な竜へと挑む。
「おらあぁぁ――ッ!」
「ぬぅあああ――ッ!」
竜人の放つ竜砲弾とグラビティを中和させる光弾が侵空竜の攻め手を封じる。
飛行中でありながら果敢に攻め込み拳を振るって凍結させていく無明丸。
共に状態異常重視ながら、気合いの入ったグラビティが侵空竜に叩き込まれる。
「永遠に廊下に立ってやがれ――ッ!」
ワイルドスペースから生み出された雷のように爆ぜ暴れる光の強弓。影の矢で射貫けば侵空竜が雷撃に撃たれたように――影を縫い止められたかのように身体の動きが重くなる。
「まだまだ、終わりではないぞ! もういっぱぁつっっ!」
侵空竜の唸る尻尾を回避しながら肉薄した無明丸が、その腹部に拳を叩き込む。同時に生み出されたファミリアがその傷口を広げていく。
そうして、長いようで短い四分が経過した。
作戦実行の時が来た――。
●突破
作戦は、儀式を行う覇空竜と四竜の元へと飛行中である竜人と無明丸を送り出すことにあった。そのリミットはおよそ六分。
その為、四分間徹底的な足止めと、状態異常の付与に努めた番犬達の作戦は、突破を目指すという観点に立てば見事と言って良いだろう。
そして、リミットの迫る五分に差し掛かった時、番犬達は一斉に猛攻へと動きを転じた。
「えだまめ! 一気にいきますよ!」
サーヴァントと共に、自身の最大火力である『アイスエイジインパクト』、そして直撃を狙った『気咬弾』を叩き込む夕雨。
「我、神魂気魄の剛撃を以て獣心を討つ――」
顕現させた闇を纏う炎の神剣を手にコロッサスが疾駆する。巨躯のドラゴンを相手に一歩も引かず飛びかかり、手にした『黎明の剣』で斬りかかる。
同時に祥空も戦場を駆ける。
冥府の如き暗黒色の鉄塊剣を構え、卓越した技量からなる『達人の一撃』を見舞う。
「ドラゴンといえど、この攻撃に耐えられるかな」
飛びかかる詩月が、『スターゲイザー』を放ち重力の楔を打ち込むと同時、グラビティを迸らせ生命の進化可能性を奪う一撃、『アイスエイジインパクト』を叩き込む。
瑞樹も攻撃に参加する。
オウガメタルを身に纏い侵空竜めがけて突撃する。『戦術超鋼拳』による一撃が侵空竜の体勢を揺るがした。
「これならどうだい!」
カメラのレンズオープナーを模した鋭利な武器で侵空竜を攻撃する三角。
何度も、何度も、硬い装甲を剥がすように、『バリケードクラッシュ』を叩きつける。
「服部! 俺たちもやるぞ!」
「承知!」
竜人と無明丸もまた、仲間達に攻撃を合わせる。この一瞬で、相手の計算を上回るダメージを叩き出すために。
竜人が放つ『ワイルド・雷貫影矢』そして無明丸の夥しく発光する拳『無明転変』が炸裂する。
二分間に及ぶ番犬達の死力を尽くした猛撃は巨大で強大な侵空竜エオスポロスに直撃し、そしてついにその巨体を倒すに至る――!
「いまじゃな、行くとしようか」
「ちょっくら殺してくる。お前さんらもしっかりな――」
振り返ることはない。
竜人と無明丸は、全員が作り出した絶好の隙をついて一直線に儀式を行う覇空竜と四竜の元へと向かった。
「行ってらっしゃいませ。後のことはお任せくださいませ」
「互いに勝利の報告を――!」
残された六人が二人を見送ると、ゆっくりと立ち上がった侵空竜がこれまで以上の咆哮をあげた。
それは怒号。
人にわずかでも隙を与え、覇空竜の元へと突破を許してしまったという自身への怒りか。はたまた、人ごときがドラゴンである自身に刃向かうなどという行為に対する怒りか。
どちらにしても、侵空竜は怒り狂い、目の前に残る六人へとその強大な力を浴びせる。
「ずいぶんとお怒りのようですね」
「これは骨が折れるな」
不適に笑みを浮かべる番犬達。だが同時にその頬に冷や汗が流れていく。
戦いは終わっていない。むしろここからが本番である。
いまだ健在の悪しき竜を前に、残った番犬達の戦いは続く――。
●最後の力
――十二分。
それは予知されたこの戦いにおける事実上の制限時間だ。
刻々と迫る制限時間の中、番犬達は誰一人欠けることなく死力を尽くしたといって良いだろう。
制限時間ぎりぎりまで、基本戦術であるバッドステータスによる敵弱体化に専心し、最後の最後で大火力による撃破を目指す。
結果としてこの戦術は悪くなかった。そう悪くはなかったのだ。
だが、二人が突破したことによる戦力ダウンは見逃すことはできない穴だ。特に突破した二人は戦闘経験が班内でトップに位置する。その欠けたピースは大きい。
――番犬達の戦術は悪くなかった。
だが、この強大な敵を前にして、その欠けたピースを埋めるだけの後一つが足りなかったのだ。
回復不能ダメージの蓄積による戦闘不能が迫る中、番犬達は希望に縋って残す力を振り絞った一撃を侵空竜に放った。
――しかし。
「グァォォォ――!!!」
「くっ、そんな――!」
「まだ足りないというのか――ッ!」
爆煙を振り払い、戦場に響き渡る大咆哮。夕雨とコロッサスが苦しく呻きを漏らす。禍々しき竜眼が番犬達を捉えた。
「――いけません!」
雷撃のブレスが番犬達を飲み込み、辛うじて被害を免れた者もそのテイルによるなぎ払いで土を舐めることとなる。
瑞樹の治癒の差し込みは、しかしすでに限界を迎えた番犬達には対した効果を与えなかった。
立ちはだかる者がいなくなった戦場で、侵空竜が一歩づつ熊本城へと近づいていく。
「――仕方、ありませんね……」
「ええ、できることは成すべきでしょう。覚悟は既に――」
ゆらりと、夕雨と祥空が立ち上がる。
その目に宿る光は、全てを投げ捨てる者の覚悟だ。
――暴走。
番犬達が持つ真の切り札。だがそれは高い代償を支払う事となる。
二人はしかし、すでに覚悟を決めている。
だが――。
「二人ともよせ! 奴を倒しても戦いは続くかもしれん! 今、二人の力を失うわけには――!」
夕雨と祥空が切り札を切ろうとするのをコロッサスが傷ついた身体を引きずりながら止める。
「しかし――!」
切り札を切るか否か。その判断に一瞬の躊躇が生まれた時、時間はリミットを迎えた。
大きく羽ばたくエオスポロスが尋常ならざる速度で熊本城へと突撃した。
「――間に合わない、か」
冷静に事態を見守った詩月が言葉にするのと同時、侵空竜エオスポロスが熊本城を巻き込みながら自爆した。
爆炎が次々と巻き起こる。
それは、他の戦場も同じ状況にあったことを示すものだ。
中には撃破まで至ったチームもあった。だが、多数の侵空竜が、熊本城へと突撃し自爆という結果に至るのだった。
膨れあがる膨大な量のグラビティ。轟音響かせ、地響きを伴いながら空気が振動する。
立ち上る土煙の中、天守閣が崩れ落ちていくのが見えた。
「嗚呼――熊本城が……!」
砂煙舞う戦場で、番犬達は力なく膝を付くのだった――。
●禍々しき魔竜王の遺産
爆炎と土煙の中、次々と侵空竜がコギトエルゴスムへと姿を変えていく。
力なくそれを見続けることしかできなかった番犬達は、傍と気づく。
「ふ、封印。魔竜王の遺産の封印はどうなりましたか!?」
夕雨が声を上げた。
そう、たとえ撃破に成功しなくとも、多大な損害を与えれば封印を破る力は弱まる可能性が残されていた。
いかに強大なドラゴンと言えど、あれだけの猛攻を受けて無事な訳がないのだ。希望に縋るように魔竜王の遺産の痕跡を探す。
しばしの時の後、カメラを構えていた三角が指を差して声を上げた。
「みんな、あれを――」
三角の言葉に、天守閣があったであろう場所へと視線を向ける番犬達。
夕暮れの空の元、徐々に晴れていく砂煙。
何もないはずの空間に、ぼんやりと光る何かが見えた。
「あれは……なんだ」
大きさは三メートル程度。オーブのようなそれは怪しく光を放つ。
「あれが、魔竜王の遺産?」
疑問を声にした瞬間、周囲の空間が振動する。番犬達が近づこうとすると、その振動によってはじかれてしまう。近づくことができない。
「空間が歪んでいる……?」
「――いや、もっと禍々しいものだ」
三角の言葉をコロッサスが否定する。理由はわからないが、直感的にそう感じた。
近づくことはできず、干渉することもできない。何をするにしても情報不足だった。
「このままここにいるわけには行きませんね――」
祥空が諦観と共に指針を示した。
「残念だけれど……いったん脱出しようか」
詩月の言葉に頷いて、番犬達は撤退を開始する。
その最中、瑞樹がコロッサスに不安そうに声をかけた。
「覇空竜に向かった人たちは大丈夫でしょうか……」
「大丈夫だ」
そう答えるコロッサスは、瑞樹が隣にいる事に心から安堵していた。
共に死地へと赴くならばまだしも、翼持つ愛する少女が突破役となっていたら――。
(「もしそうなっていれば、翼無き我が身を恨んでいたかもしれんな……」)
そんな想いも知らず、コロッサスの言葉に少しの不安を解消した瑞樹は、竜人と無明丸が飛び去った東の空を仰ぎ見て、祈る。
(「聖王女様、どうかみなさんをお守りください」)
そうして祈りを終えれば視線を移し、浮遊する魔竜王の遺産へと目を向けた。
――魔竜王の遺産は、見るも禍々しき輝きを放ち続けるのだった――。
作者:澤見夜行 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年7月7日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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