熊本城ドラゴン決戦~竜軍到来

作者:白石小梅

●甦る秘宝
 夕闇迫る、熊本城。
 築城の達人、加藤清正の作り上げた傑作にして、明治維新の近代戦にも耐えきった天下の名城。
 今再び、城下は燻る炎と煙に彩られ、城はいくさの時を迎える。
 そこを包囲するのは、人に非ず。
 その爪牙は如何なる刃よりも重く鋭く。
 その吐息は炸裂する砲弾を超え。
 一たび大地を蹴り上げれば、千里を飛翔する。
 翼持つ破壊者……ドラゴンの軍勢。
 アストライオス軍団の尖兵『侵空竜エオスポロス』の大群であった。
 後方より、四体の側近に近侍された首領『覇空竜アストライオス』が合図を出す。
 次の瞬間、エオスポロスの群れは、一斉に熊本城へと突貫した。
 まるで餌に群がる餓えた鼠の群れの如く、次々に外壁を打ち破り奥へと潜り込んでいく。
 そして、城から閃光が迸った。
 次の瞬間、エオスポロスたちは次々に自爆を重ね、護り手なき堅城は瞬く間に爆炎に呑み込まれていく。

 ……やがて熊本城は跡形もなくなり、吹き荒ぶ風が廃墟をなでるころ。
 地の底からせりあがるように、それは姿を現した。
 それは、繊細な硝子細工を思わせる台座の上に、竜の力を宿した宝珠。
 竜の自爆さえ児戯に思えるほどの力を秘めた何かが……今、甦ろうとしている。

●竜軍到来
「熊本市で行われたドラゴン配下9部隊との闘いは決着いたしました。全体的に最小限の被害で敵を撃退。十分な勝利と見てよいでしょう」
 そう言う望月・小夜の表情に、勝利の喜びはない。
「しかし竜十字島から出撃したドラゴン主力部隊『アストライオス軍団』はすぐそこまで迫っています」
 敵の目的は『熊本城』に封じられているという『魔竜王の遺産の奪取』。その遺産は『魔竜王自身の復活さえも可能とする』ほどの力を持つという。
「先遣部隊の活躍でグラビティ・チェイン略奪を阻止できた為、遺産の封印はまだ破られておりません。しかし敵は配下部隊が敗れる事態を想定し、次善策を用意していた模様です」
 敵軍は主力構成竜である『侵空竜エオスポロス』たちを熊本城内部で自爆させる事でグラビティ・チェインを捧げ、封印を打ち破る特攻作戦を敢行するという。
「更に敵はそれと並行し、敵将『覇空竜アストライオス』とその側近である四竜……『廻天竜ゼピュロス』、『喪亡竜エウロス』、『赫熱竜ノトス』、『貪食竜ボレアース』らが行う儀式により、封印解除された遺産を竜十字島に転移させようとします。封印解除と転移。この二つが、奴らの目的です」
 遺産を本拠地に確保されてしまえば手出しも出来ない。敵の野望を食い止める事は、不可能に近くなる。
「つまりそれを防ぐ為には、エオスポロスを迎撃すると同時に、敵将アストライオス及び麾下四竜を強襲する必要があるのです」
 その全てを、熊本に送り込めるだけの戦力と僅かな時間で行わなければならないということだ。
「ですがここで敗北するわけにはいきません。これより熊本城に向かい、先遣部隊と合流。敵本軍との決戦に臨む……以上が、今回の任務となります」

●熊本城防衛戦
 そして小夜は具体的な作戦内容について説明する。
「まず皆さんは、熊本城に突撃してくる侵空竜エオスポロス1体と闘うことになります。エオスポロスはアストライオス配下のドラゴンで、素早い機動と鋭い斬撃、電撃のブレスを得意とする強敵です」
 エオスポロスは熊本城突入から『12分後に自爆』して宝玉化することで、封印解除の為のグラビティ・チェインを放出するという。完全な阻止には12分経過前に撃破しなければならない。
「撃破できなくとも大きなダメージを与える事ができればグラビティ・チェインが減少して自爆による封印解除効果は弱まります。敵が優勢でも諦めずに戦闘を継続してください」
 そしてこの闘いと並行して、転移儀式を行なうアストライオスと麾下四竜への強襲が必要になる。
「アストライオスは自爆による封印解除に失敗した場合、儀式を終了させた四竜を生贄に、魔竜王の遺産を竜十字島に送り届けようとします。これを阻止する為には、儀式完成の前に、覇空竜アストライオス或いは四竜のいずれかを討ち取らなければなりません」
 だがアストライオスと四竜はエオスポロスの群れの後方にいる為、敵陣を突破しなければ闘いを挑む事も出来ない。
「私たちが検証した結果『エオスポロスと闘っている間に、ごく少数の決死隊を飛行突破させて、後方の敵本陣を強襲する』……という作戦が最も成功可能性が高いと判明しました」
 それは、ドラゴンとの激闘の真っただ中で戦力を分けるということ。
 更に、後方に控える五匹の竜は互いに連携して闘える。
 突破できた全戦力を一体の目標に集中させてたとしても、他の四体が連携して妨害してくる為に確実に撃退されるというのだ。
「敵の連携を阻止する為には倒すべき本命へ攻撃する他に、残りの四体に対して少数で妨害攻撃を仕掛けて、連携を崩さなければならないのです」
 それは、糸を投げて針の穴に通すかのような作戦。気が遠くなるほど、希望はか細い。
「ええ。行ってくれとは言えません。これは、皆さんの知恵と勇気と力が全ての……非常に危険な作戦です。しかし希望があるならば、それに縋りたい。力なき私は、そう思ってしまいます」
 小夜は迷うように目を伏せた後、番犬たちを仰ぐ。
「行く覚悟のある方は、どうか……出撃準備をお願い申し上げます……!」


参加者
キース・クレイノア(送り屋・e01393)
ロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
名雪・玲衣亜(不屈のテンプレギャル・e44394)
ベルベット・ソルスタイン(身勝手な正義・e44622)
アメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765)

■リプレイ

●決戦
 熊本城を取り囲み、竜の群れはこちらの戦力を測るように旋回している。
 迎え撃つは、300人を超える番犬たち。
 城下では、今も市街に残った番犬たちが、懸命の救助と避難活動を続けている。
(「俺は……あの頃より、成長しているだろうか」)
 ふるふると怯えるシャーマンズゴースト、魚さんを撫でるのはキース・クレイノア(送り屋・e01393)。
 思い返すのは、燃え盛る飫肥城と、竜の島へと通じる回廊。友を見送った戦場だ。
 彼と共にここまで来た名雪・玲衣亜(不屈のテンプレギャル・e44394)が、自信なさげに呟いた。
「そのまま来たけど少し……こわいかな。ね、瑛華サン。アタシ帰れるかな?」
「名雪さん……震えていますね。大丈夫……わたしが守りますから」
 その肩に手を乗せるのは、一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)。
 湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659) は奏者の魂……ギターをヘリオンへ預けてきた。
(「必ず帰る……あの弦を、再び弾くために。きっと……」)
 その隣で、ベルベット・ソルスタイン(身勝手な正義・e44622)は、鮫の牙のようなチェーンソーの刃をそっと撫でる。
「……こんな武器を使うことになるなんてね。まあ、いいわ。美しい勝利のためだもの」
 竜の群れは布陣を終えたのか、それぞれが空中へと制止する。
 アメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765)は、その光景を見上げて、初めての闘いに想いを馳せる。竜を討ち果たした、過去の闘いを。
(「今回は……残霊じゃなく、本物。でも、共に闘う皆さんを信じ、自分の役目を果たします」)
 鎧の紐を締めあげたシルディ・ガード(平和への祈り・e05020)が、竜たちの後方を睨む。遥か彼方で覇空竜アストライオスの黒鎖が振られると、彼は紙兵を展開した。
「来るよ! みんな作戦は了解してるね! 何としても……! ここは、譲らない!」
 一斉に降下してくる、侵空竜エオスポロスたち。その咆哮へ向けて、ロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854)が翼を広げる。
「嘗て先達が封じた災厄……断じて放たせてなるものか! 行くぞ!」
 ロウガの舞わせた花吹雪が仲間たちの空間認識を密にし、ベルベットの放った銀光がその感覚を研ぎ澄ます。
 こちらへと迫る竜をコマ送りのように知覚しながら、瑛華が叫んだ。
「攻撃開始!」
 瞬間、迫りくる竜へ向けて、榴弾が、閃光が、斬撃が飛ぶ。
 熊本城よりの一斉攻撃が、烈火と化して周囲に放たれた。
 迫りくる破壊兵器を要塞が迎え撃つかの如く。
 闘いは、幕を開けた。

●突破を目指して
 突っ込んできた竜は一気に爆発に包まれ、滑落して城壁に突っ込んだ。
 その姿は、もうもうと立ち込める土煙の中へ消える。
(「この程度で……」)
 死ぬはずはない。
 番犬たちが身構えながらにじり寄った瞬間、土煙を裂いて紫電が迸った。
「後ろへ……!」
 辛うじてロウガを庇ったシルディごと、稲妻は後衛を打ち据えた。
(「っ……雷のブレス! パラライズ! いや、そんなことより……! 回復、しなくちゃ……!」)
 まるで冗談のように宙を舞いながら、玲衣亜が身を捻る。その手に握った小瓶を放てば、霧となった癒しの力が撃たれたような火傷の痕を塞ぎ始める。
 そして咆哮と共に、竜は土煙を突き破った。
 不意を打たれた後衛が態勢を整える間を築き上げるべく前衛が突撃していく。
「この威力……攻めること以外、見向きもしていない。麻痺の効果なんておまけもいいところね……!」
 竜をライフルで牽制しながらベルベットが舌を打つ。
 敵は、クラッシャー。麻痺の効果は大して恐ろしくはない。問題なのは、麻痺が顕在化するほど積もるころには、自分たちはとうに炭屑だという点だ。
「後衛は俺たちが身を挺して守るぞ、魚さん。さあ、お前の進軍は……ここで、一回休みだ」
 キースが指を振れば、目の前に氷壁が立ち上る。顔面から激突した竜に魚さんが火を浴びせる中、氷壁の上に飛び乗ったのは、美緒。
「ともかく、痺れさせますよ……! 動きを止めるんです。先には行かせない……!」
 放たれるギターピックが帯びた雷撃は、毒のようにその身にねじ込まれる。
 そして身をよじった竜の横面に、エクトプラズムの霊弾が激突した。
「地球の人をこれ以上苦しめるのは、許さないです……! さあ、今です、瑛華さん!」
 そう叫ぶのは、アメリー。言い終わるよりも先に、その顎の下には瑛華が飛び込んでいて。その蹴りが、竜の咢を打ち上げる。
 だが竜は華麗な連携を見せた彼女たちを殺意を以って睨み据えた。その背後で揺れる気配を視界に捉えた瞬間、黒鎖の巻き付いた尾が迸る。
「!」
 鎖は刺々しい尾の長さを超えて伸びあがり、毒蛇の如く仲間たちを切り裂く。狙われたのは、再び後衛。魚さんやキースが庇いに入るも、敵は集中的に後ろを狙う。
「……っ! 完全に後衛に狙いをつけられてます! サーヴァントは半人分と見たんだわ……!」
 裂かれた肩を抑えながら、瑛華が叫ぶ。
 ロウガは再び色とりどりの花びらを撒いて、仲間たちの傷を癒しにかかる。
(「後衛にあって皆に守られ、癒しの力も玲衣亜にまるで及ばない……これほど歯がゆいとはな……」)
 だが、歯噛みしているロウガの悔しさこそが、竜の戦術に一瞬の迷いを生む。
 番犬たちの布陣は後衛を固めているように見えるが、何故かあの男だけが弱い。狙いすます攻撃をするでもなく、回復力に長けるでもない。
 と。
「名雪さん、立ち上がって! ボクがいる限り、誰も落とさせるもんか!」
 シルディが戦言葉を投げ掛けながら、竜に突進していく。身を奮い立たせる活力を受けて、玲衣亜は立ち上がって。
「もちろん……! おばーちゃん、待ってんだかんね! ぜってー、帰るって!」
 彼女もまた、花びらを回せて後衛の傷を癒す。
 花吹雪く闘いは、苛烈さを増していく。

 その吐息は紫電の迸る雷雲の如く、その尾は身を打つ棘鞭の如く。
 必死になって味方を庇いに入っていた魚さんが目を付けられ、竜はその爪で走り回る精霊を踏み潰した。
「……! 魚さん……よくやったぞ」
 光と消える魚さんに、キースが呟く。
 敵は執拗に後衛を狙ってくるが、ロウガがさして強力でないことと、後衛をやたらと庇いに来る前衛の煩わしさに迷い、まず魚さんを潰したのだ。
 それこそ、番犬たちの望んだ行動。
 今こそ、機。
「戦闘開始より五分! 準備は整いました。全力で行きましょう! 一斉攻撃です!」
 跳び込んだ瑛華の影刃が竜の足元を裂くのを合図に、番犬たちは攻勢に転じる。
「了解! 行っくよー!」
 シルディの放った鳥が弾丸の如く敵に突き刺さる中を、竜槌を振りかぶった美緒が突進して。
「これで! 食い止めます……! さあ!」
 顎を横に抜いた一撃は、竜を眩ませて僅かに身を引かせる。
 時空凍結弾を放つのを止め、ロウガが傍らの少女を振り返って。
「今だ! 頼んだぞアメリー!」
「行きます! アストライオスの下へ! 必ず!」
 小さな肢体は大きく翼を広げ、その傍らに二人の戦士の幻影を生み出して飛び出した。
 ……! それが狙いか!
 竜が、そう気付いて顔を歪める。
 竜はまだふらつきつつも、牙をむいて立ちはだかった。その脇腹を戦士の影に斬りつけさせながら、アメリーは竜の背へと飛び抜いて……。
「……!」
 しかしその眼前に、黒鎖の尾が迫っていた。竜の執念に一撃で叩き落され、小さな肢体はバウンドしながら大地に叩きつけられる。
「やり、ましたよ……ロウガさん……!」
 だが少女は、微笑んだ。
「すまない! 皆、ここは頼んだ! 竜を倒す、オラトリオが使命! 必ず果たしてくる!」
 その尾を掠めるように、もう一人……金色の影が脇を掠める。
 ロウガ・ジェラフィード。
 そう。アメリーは囮。
 雌伏していた本命の突破者は、遂にこの時、竜の背を抜けた。
 今まで、後ろを顧みることのなかった竜が、怒号を上げながら振り返った。だがその瞬間、大気が紅色に揺らめき、爆炎が竜の態勢を崩す。ベルベットの『紅の拒絶』。
「美しくないわね! しくじったと見たら、尻を見せるなんて! ええ、ロウガさん! ここは私達が引き受けるわ! だから……!」
 その時、隕石の如くキースが蹴り込んで、飛び上がろうともがく竜を押し倒した。
「いってらっしゃい。どうか……武運を」
 全速で飛んでいくロウガを、限界の跳躍で追随していたのは玲衣亜。その手から、癒しの魔力を帯びた霞を彼に纏わせて。
「これで痺れは取れたよ! アタシらの分まで、頑張ってね! 親玉に、ヨロシク!」
 癒しの置き土産を残し、飛行能力のない彼女はそこで滑落していく。
 竜の絶叫の中、ロウガは親指を立てて飛び抜けて行った……。

 戦闘開始五分時点。番犬たちは突破を成功させ、残った全員は距離を取る。
 竜は起き上がり、空を仰ぎ見た。
 突破者を追えば、もう自爆に間に合わない。
 激怒に震え、竜は咆哮した。
 残るは……七人。
 そしてもはや、敵が後ろを顧みることは、ない。

●激闘
 戦闘開始より八分。
 竜の猛攻は、先ほどまでの比ではなかった。
 美緒がバールを投げる中、竜はその爪を振りかざして突撃する。
(「……敵の目的は、封印解除と転移」)
 決死隊が将の撃破に失敗しても、封印が解除されなければ転移されるものは存在しない。封印を解除されようと、転移儀式を途絶えさせれば遺産の確保はできない。
(「この覚悟……つまり、あなたもこちらも、誰も彼もが……負けられないんですね」)
 必死の攻撃でも竜を止めることは出来ず、美緒は目を閉じる。
 その爪が、風を裂いて振り降ろされ……。
「……っ」
 だが、それが突き刺さったのは、彼女を突き飛ばした、キースの背中だった。
「キースさん……!」
「俺は……こんな時……いつも見送る側なんだ」
 ぎりぎりと突き刺されて行く背を顧みず、キースは微笑む。
「だからせめて……このくらいは、しないとな」
 そしてドラゴンの咆哮と共に、彼はその爪に薙ぎ払われた。

「敵はヒールを持ってないわ! とにかく呪縛を続けて!」
 ベルベットがその背に乗って、チェーンソーを突き立てる。だが、身を突き破る鋸刃を気にも留めず竜は突進してくる。
 狙われていることに気付きつつも、血泥に塗れてぜいぜいと膝を折っているのは……。
「玲衣亜さん、避けて!」
 瑛華の叫びの中、シルディが後衛を庇いに走るも、もはや間に合わない。乙女はにやりと、力のない笑みを返した。
「あはは……みんな頑張ってるのにさ。足、引っ張れないよ。アタシじゃなくて、自分を癒してやって」
 そう言って彼女は、癒しの小瓶を前衛に放る。
 その瞬間、玲衣亜の身は鉄鎖に弾かれ、戦場から消えた。

 ロウガが抜け。キースと玲衣亜は倒れた。
 残るは五人。
 個体差はあろうが、この戦場では恐らく多くの敵が、攻め一極に力を組み上げている。
 突破者を放って以降、熊本城を囲む竜の布陣は一気に勢いを増していた。
(「これじゃ……二人突破させた班は、とても持ち堪えられない……!」)
 アメリーが、血に塗れながら振り返る。
 こちらは多くの班が二人を決戦場へと送り込む作戦を立てていた。
 戦線は、すでに崩壊寸前。
「残り二分! もはや守りは捨てます! 押し切ってください! 絶対に、ここは抜かせません!」
 叫んだのは、瑛華。膝立ちのまま、彼女は竜砲を構え、その引き金を引き続ける。
 爆炎の中を、血に塗れた竜と番犬は、癒しをかなぐり捨てて突撃した。
 迸る紫電に撃たれながら、アメリーは己も電撃を帯びて竜の背を抉る。
「その覚悟は……見ました! それでも、地球の人をこれ以上苦しめるのは、許さないです……!」
「ああ! 狙うなら、ボクを狙え……! 何度だって、立ち上がって見せるんだから……! さあ! 彼のものを退け、打ち倒し、そして滅せよ! 雷爆……心撃衝!」
 その肩口にしがみつくのは、シルディ。全身より電撃を放ち、己も感電しつつも、喰らい付く。
 竜もまた、いつその心臓が止まってもおかしくはないが、それでも止まりはしない。
 残りは一分少々。このまま熊本城まで走り抜け、自爆を成す構えだ。
 その頭上に、紅い影が降り立った。渾身の力を両手に込めた、ベルベットが。
「ふふ……根性比べみたいな泥臭い闘いは嫌いだけど。フィナーレは派手に行きましょう! さあ! 紅き奔流よ、醜悪なる者を打ち砕け!」
 迸った爆炎が、竜の頭で炸裂する。その角が弾け飛び、番犬たちも吹き飛んで。頭蓋を晒しながら、しかし竜は無理矢理に足を前に突き出そうとして……身を縛る痺れに、その足が止まった。
「捉えました……!」
 弾の尽きた竜槌を捨て、瑛華が愛銃を引き抜いた。竜を穿つには、あまりに小さな銃口ながら、その銃弾は竜の膝を撃ち抜き、敵は頭から大地に転んで。
「……キースさんや玲衣亜さんが私をここに連れてきてくれた意味を教えましょう。これで、終わりです……!」
 美緒の竜槌が、再び振り下ろされる。渾身の一撃が頭蓋を砕き、竜の頭を叩き潰した。轟音と土煙が噴き上がる中、遂に竜の前進は止まる。

「熊本城は……!」
 喜びに浸る間もなく、番犬たちは振り返る。
 多数の竜が周囲の布陣を打ち破り、城へとめり込んでいく。
 そして城は、閃光に包まれた。
 爆風の衝撃が雪崩のように身を呑み込む。
 一瞬は永遠のように引き伸ばされ、世界の音は消し飛んだ……。

●竜玉顕現
 もうもうと立ち込める土煙の中で、番犬は顔を上げる。
(「あれが……まさか……」)
 水晶のような竜腕に支えられた宝玉が、天守のあった辺りで大気を鳴動させている。
(「この、力……浮かんでいる、というより……」)
 寄ろうとして、凄まじい圧力に弾き返され、確信する。
 あれは力場と共に『ここに在る』のだ。
 存在を顕現させただけで城跡を全て呑み込み抉るほどの力と、憎悪を以って他者を掃い飛ばすような禍々しさこそ。
「ドラゴン、オーブ……」
 微電流のような危機感が、身の毛を逆立てる。圧力は冷や汗となって胸元を降る。
(「このままここには……いられない」)
 あれには敵意があり、扱い方も不明。
 拠点へ帰還し、調査と予知を待って動かなければならない。
 番犬は身を起こし、傷ついた仲間たちと合流しつつ、熊本城跡を脱する。

 ……熊本城決戦。
 各班の援護の中、包囲網を突破した決死隊は四竜へと挑みかかり『廻天竜ゼピュロス』を撃破。転送儀式は阻止された。
 しかし、多数の戦力を分割出撃させた本隊は苦戦を免れ得ず、二十体に近い数のエオスポロスが防衛網を突破。ドラゴンオーブの顕現を許した。
 ケルベロスとアストライオス軍団の激闘は、こうして決着する。

 熊本の地に、触れ得ざる竜玉を浮かべたままに……。

作者:白石小梅 重傷:キース・クレイノア(送り屋・e01393) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月7日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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