熊本城ドラゴン決戦~天と地のオーブ闘争

作者:ハル


 ……空一面を黒が覆いつくしていた。
「グオオオオオオオオオオオオオオッッ!」
 見上げれば、耳を劈く咆哮を上げながら、漆黒の鱗を纏うドラゴンが熊本城に襲い来る。
 その速さは尋常ではなく、文字通りの決死。この勢いのまま熊本城に突っ込めば、ただでは済まない……どころではない。そんな事は、彼ら竜種ならば分かっているはずなのに。
 まるで雨のように、まるで矢のように。
 侵空竜エオスポロスが、次々と熊本城に激突しては、轟音と共にに粉塵と城の残骸を巻き散らす。そして、彼ら自身も弾けて消えた。
 そんな数多の犠牲の上に、不気味な輝きを放つ正体不明のナニカは顕現するのであった。


「熊本市全域で繰り広げられた激しいドラゴン勢力との戦闘は、我々が最小限の被害で敵を撃退するという喜ばしい結果を得ることでできました。これも、全て皆さんのおかげです!」
 山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)が、深く頭を下げる。
 だが、顔を上げた桔梗の表情は晴れやかとは程遠く、無論ケルベロス側もそうであった。
「ご存知の通り、竜十字島から出撃したドラゴンの軍団は、すぐそこまで……。目的は、熊本城に封じられた『魔竜王を復活させる事すらできる魔竜王の遺産の奪取』と見て間違いないでしょう。幸いにも皆さんの活躍によって、グラビティ・チェインは依然不足しており、魔竜王の遺産の封印解除には至っていません」
 だが、ドラゴン軍団は諦めるどころか、強硬手段に手を出そうとしているようだ。
「封印を無理やり解こうと、ドラゴンの軍団は熊本城に特攻、自爆する事で自らのグラビティ・チェインを捧げようとしているのです」
 何を馬鹿な! ケルベロス達が、思わず立ち上がりかける。
「すぐに熊本城に向かってください! そして、熊本で作戦に参加したケルベロスの方々と合流し、防衛に加わって欲しいのです!」
 桔梗は状況を簡潔に纏め、会議室のスクリーンに表示する。

「敵の目的は二つ。一つは、特攻自爆部隊――『侵空竜エオスポロス』の軍団を熊本城に差し向け、生贄とする事で魔竜王の遺産の封印を解除すること」
「二つ目は、覇空竜アストライオスと、その配下の四竜――廻天竜ゼピュロス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースで行う儀式により、顕現した魔竜王の遺産を竜十字島に転移することです」

 もし仮に遺産の転移が完了してしまえば、ケルベロス側が介入する事が至難となり、ドラゴン勢力の野望が達成させる事が確実視される事態となる。
「その事態を防ぐために、まずは特攻してきた侵空竜エオスポロスの迎撃を。そしてその後は、儀式を行う覇空竜アストライオスと四竜への攻撃を敢行しなくてはなりません」
 強大なドラゴンとの戦闘……状況によっては連戦も考慮に入れなくてはならない。だが、他に道はないのだ。負けるわけにはいかない。

 次いでスクリーンに、ドラゴンの姿が表示された。
「侵空竜エオスポロスは、覇空竜アストライオス配下で、似た姿をしております。極めて高い機動力を有し、爪による斬撃や、雷系統のブレスを駆使して襲ってくると考えられます」
 侵空竜エオスポロスは、熊本城突入の12分後に自爆する。そして、コギトエルゴスムとなる事で、封印の解除の為のグラビティ・チェインを放出するようだ。
「――と、いう事はです。自爆を完全に阻止するためには、12分経過以前に撃破しなくてはならないという事です。ですが、もし撃破できなくとも、攻撃の手は休めないでください。多大なダメージを与えられていれば、自爆時に放出するグラビティ・チェインも減少するからです」
 そして忘れてはならないのが、後方で儀式を行うドラゴン。覇空竜アストライオスと四竜への対策だ。
「覇空竜アストライオスは、侵空竜エオスポロスを差し向けてもな封印の解除を完了できなかった場合には、儀式を終了させた配下の四竜までを犠牲に捧げる腹積もりであるようです。魔竜王の遺産を手に入れようとする執念は、それだけ強固なもの、という事ですね」
 ゆえ、それを阻止するには、やはり四龍が儀式を完成させる前に、覇空竜アストライオス或いは四竜の内の一体を撃破しておかなければならない。
「ですが、これには大きな問題が。覇空竜アストライオスと四竜は、侵空竜エオスポロスの軍団の背後に控えています。侵空竜エオスポロスを突破しなければ、戦いを挑む事すらままならないのです」
 桔梗が、瞳を伏せる。覚悟を決めて瞳を開くと、スクリーンには危険な作戦概要が表示されていた。
「侵空竜エオスポロスと戦いつつ、少数の飛行可能なケルベロスを侵空竜エオスポロスの隙をついて突破させる。検証の結果、その方法が最も覇空竜アストライオスと四竜への奇襲において、成功率が高いと判明しました」
 あまりに危険すぎる戦略だ。全ては、ケルベロス達が蓄えてきた力と、心の強さに懸かっている。
「覇空竜アストライオスと四龍は、互いに連携して襲ってきます。1カ所に戦力を集中しようにも、他のドラゴンが援軍としてやってきてしまいうのです。ですので、どのドラゴンに対しても、ある程度の牽制は必要になるでしょう。また、四竜達は優先的に覇空竜アストライオスの援護に向かう点は、お伝えしておきますね」


参加者
ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)
シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
鏡月・空(蜃気楼だけが見えている・e04902)
南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)
鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)
ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)
植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)

■リプレイ

●両者決死
 ギラリ、空が不吉に瞬いた。
 彼等――侵空竜エオスポロスは、まるで黒い流星のように、強烈な破壊の念を振りまきながら熊本城に向け死のダイブを敢行しようとしていた。
 全てを投げ打つ特攻を前に、立ち向かう者達はあまりにちっぽけだ。……そうケルベロスを知らぬ者は思うだろう。
 だが、
「やれやれ、次から次へとまあ。まったく気が休まる暇もありませんね」
 つい先程まで、触手大王の撃破に大きく貢献していた鏡月・空(蜃気楼だけが見えている・e04902)に気負いはなく、落ち着き払っている。
「まずは、シルフィディアさんが突破できるように全力を尽くしましょう」
「だ、大丈夫ですか……?」
「何を今更。それに、シルフィディアさんが一番やる気ではありませんか」
 苦笑するウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)が、飛行しながらオドオドと視線を彷徨わせるシルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)を見やる。一見戦いには無縁そうなシルフィディアだが、侵空竜エオスポロスを視界に捉えた瞬間から、彼女の怒りの炎は骨装具足の下で荒れ狂っていた。友人に内面を見抜かれていた事を悟ったシルフィディアは頰を一瞬赤らめると、すぐにその藍の瞳を酷薄な殺意で染める。
「ドラゴンオーブですか……なんだか世界の終末を呼び起こしかねない凄く危険な臭いがします!」
「エオポロスを倒すのはもちろん、儀式も絶対阻止しましょうっ!」
 普段は脳天気なロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)も、今だけは全身に真剣さと緊張感を漲らせる。
 そして、意気込むように南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)が両手を握りしめた瞬間!
「グオオオオオオッッ!」
 エオスポロスの咆哮と接近の衝撃で、突風が舞う。漆黒の鱗に覆われた尻尾は、ケルベロスを邪魔だと言わんばかりに薙ぎ払おうとするが。
「悪いですが、僕が盾役として立ってる限り……仲間を傷つけさせませんよ?」
「特にシルフィディアさんは……です!」
 尻尾をラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)とロージーが受け止めようと身を挺する。だがその強力な威力の前に、両者は否応なく吹き飛ばされてしまう。
「皆さんの期待に応えるためにも……!」
 悠長にしていられる暇は無い。シルフィディアは吹き飛ばされた二人を心配しつつ、だからこそカラフルな爆発で後衛を後押しする。
「厳しい戦いになるのは承知済みよ!」
 前回のドラゴン戦を踏まえ、オウガ粒子を放出する植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)は、傷を負った前衛の回復と同時に感覚を研ぎ澄ませられるように努めた。いくらエオスポロスが供物に近い立ち位置にいる量産型とはいえ、ドラゴンはそう甘い敵ではない。スノーも、碧の指示を待つまでもなく、意図を察して同列に蔓延る邪気を払う。
「でも、かの偉大なドラゴン種サマも、なりふり構っていられないって感じよねぇ……特に最近は、ね?」
 鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)が、艶然と頬笑む。
「これ以上の醜態を晒す前に、ここで終わらせてあげるのが優しさってものじゃないかしら?」
 底が見えたとでも言いたげな物言いと共に、胡蝶が竜砲弾を放つ。
 だが、小手調べの一撃は、エオスポロスの鱗に小さな傷をつけたに過ぎない。
「……さすがにこの段階では躱されますか」
 しかも、続く空の魔靴による煌めきを帯びた蹴り、そしてロージーのチェーンソー剣による一撃が立て続けに躱される。
 そしてようやく、ウィッカの轟竜砲がエオスポロスに命中した。
「キャスターといえど、私達からの攻撃ならばそれなりに通るようですね」
 ウィッカが口元に指を当て、冷静にエオスポロスの戦力を分析する。
「それは有り難い限りですっ」
 その分析通り、夢姫の『櫻鏡』が弧を描きながら迫ると、エオスポロスは避けきる事ができない。
「これならどうでしょう?」
 ラインハルトの電光石火の蹴りが、胡蝶がつけた鱗の傷を罅に変える。
「ガアアアアアアアアアアア!」
 ――が、それはシルフィディアが後衛に向け再び爆発を発生させようとした間際の事。
「……ッ……ぅ゛あ゛!」
 後衛に向け、ブレスが放たれた。急所に直撃を受けた夢姫が苦悶を浮かべる。隠密服により若干威力は緩和されているとはいえ、白雷は夢姫達の体の自由を奪おうとする。
 それでも攻撃手が空一人である以上、後衛の火力は欠かせないもの。シルフィディアは、改めて色鮮やかな爆風を生み出した。
「好き勝手にやれるとは思わないことです。ふぅッ!」
 呼気一閃、まるで燃えるようなハンマー『炎山槌マグマカタストロフ』を振り上げ加速した空が、機動力を生かして連続攻撃を仕掛けてきたエオスポロスが両手の黒爪を振り上げる中、ハンマーを叩き付ける。
「仲間は傷つけさせないと言ったはずです!」
 ラインハルトは突っこむ空の壁となり、深い傷を負いながらも咆哮を上げて踏ん張った。
「リッチモンドさん! 今ヒールするわね!」
「碧さん、助かります!」
 夢姫を含め、まだ自分達は大丈夫だと判断した碧。ラインハルトの傷が、彼女の奏でる戦乙女の歌を耳にすることで癒えていく。
「まだまだですっ!」
 夢姫が、エオスポロスに流星の如き蹴りを見舞ってやった。
「……だめね、あの子が傷を負うと肝が冷えるわ。本当なら、戦いの場でこういう思考はいけないんだろうけれど……」
 フッと、胡蝶は吐息と共に夢姫の傷に気を揉む。エオスポロスの核の幻影を鹵獲術で手中に収めると、
(大丈夫、ちゃんと帰らせるわ)
 脳裏に褐色の彼女の姿を思い浮かべながら、その核に口吻を落とした。
「汝、動くこと能わず、不動陣」
 ウィッカが手を翳す。すると、エオスポロスの足元に五芒星の魔法陣が浮かび上がり、魔法結界を構築。
「今度は外しません!」
 結界に囚われたエオスポロスに、バスターライフルを構えたロージーが、触れたものすべての熱量を簒奪する光線を発射した。
 ケルベロスは来たるべき時に向け、着々と段階を踏んでいくのであった。

●突破戦線
 ピピピッ! ピピピッ! ピピピピピピピ……!
 エオスポロスが、後衛に向けて閃光を迸らせる。
 遅れてスマートフォンが奏でるアラーム音に、舞い踊る花びらのオーラを浴びる碧がハッと顔を上げた。纏わり付くような雷のブレスによる余波……痺れを緩和させながら、碧はもうそんなに時間が経っていたのか、そう素直に思った。
「5分経過よ!」
 碧が仲間に周知すると、場の雰囲気が一変する。ケルベロスの意識が、攻めに切り替わったのだ。
「鏡月さん、お願いします!」
「……ええ、そのつもりです。これまで散々焦らされた分、返してみせますよ」
 ラインハルトが、空にエネルギー光球で力を注ぐ。
 満月の加護を得た空は、エオスポロスを見据え、告げた。
「慈悲は要らないようで」
 瞬間――空の蹴りがエオスポロスに炸裂する。12メートルはあろうかという巨体が傾きかける威力を有する蹴りは、神速でエオスポロスの周囲を回り込みながら、幾度も叩き込まれ、蒼い龍の力を宿す踵落としが頭頂部に突き刺さる。
 ケルベロス側における最高火力の一撃に、さしものエオスポロスでさえ踏鞴を踏む。
「死に絶えろ、糞龍共め……!」
 穏やかさを投げ捨て、憎悪を露わにシルフィディアの両腕が地獄の炎で刃を形成する。刃はエオスポロスを無慈悲に切り裂き、鱗に覆われた肉を露出させる。
「撃ち負けはしません、当たるのであればっ!」
 ロージーはその露出部位に向け、バスターライフル、アームドフォートと長距離火器を総動員し、神式斉射術を試みる。
 しかしエオスポロスも甘くはなく、足を鈍らせる苦痛を振り切って、射程外へと脱している。
「年下の子達に囲まれて、その中にお友達が二人もいるとなれば、格好悪い所はみせられないわね……!」
 エオスポロスの移動先に、胡蝶がドラゴニック・パワーを利して追尾すると、力の限りハンマーで殴りつける。
「あら、そのお友達って私と碧さんの事ですか? そう思ってくれるなんて、光栄ですっ!」
 夢姫は螺旋手裏剣を投擲する。エオスポロスは手裏剣を爪で弾こうとするが、その影にもう一枚手裏剣が隠されている事には気づけず、急所に受ける。
「……くっ! こんな時に、ですか……!」
 だが、空の高火力が炸裂したりと幸運に恵まれたケルベロスだが、幸運は突如として終わりを告げた。パイルバンカーに凍気を纏わせていたウィッカの動きが、帯電によりふいに動きを止めたからだ。
(……私も攻撃に参加したいけれど……っ、できそうにないわね!)
 碧が歯嚙みする。
「……まだ隙が、見当たりません……!?」
 シルフィディアの耳に、6分経過を知らせるアラーム音が届く。
 加え、エオスポロスが攻撃に転じようとしており、碧含めた後衛は火力を担っている事を見抜かれて狙われる可能性が高い。それを守ろうとするDf陣も着実に削られている。飛行しているシルフィディアが狙われれば、一先ずそちらに労力を割かねばならないのも痛い。
「封印は解除させません!」
「グアアアアアアアアアアアッッ!!」
 マントを風に靡かせながら声を上げ、シルフィディアに攻撃を向かせないようにするウィッカ。直前に隙を晒した事もあり、立て続けにブレスが迫る。
「限界まで……飛ばすぞ!!」
 ラインハルトが驚異的な機動力を駆使し、白虎の力を解放して攪乱しようとするが、エオスポロスはさらにその上を行き、いなされてしまう。
「攻撃が当たらないのであればっ!!」
 しかし、なんとか寸前でロージーが身を張り、ウィッカを守る。
 すかさず碧が痺れを振りきり、地面に叩き付けられた負傷の色濃いロージーを歌でサポートした。
「まだよ! 必ず、突破させるわ……!」
 まだ時間はあると、胡蝶。
「あなたの誇りに口づけを。お眠りなさい。このまま果てなき無明に墜ちて」
 再び、エオスポロスの核の幻影に口付けを。
「そこをどいてください!」
 シルフィディアが突破するに必要なBSは、付与されているはず。颶風を纏う鎌に、さらに空の霊力を重ね、空がエオスポロスの頭部を抉る。
 夢姫も櫻鏡で斬り掛かり、ウィッカが霊体を憑依させたハンマーで攻め立てた。
 その時――。
「こっちですよっ!」
 ロージーが、猛烈な唸りを上げるチェーンソー剣で、エオスポロスの外殻をズタズタに裂く。さらに機転を利かせた彼女は光の翼でシルフィディアとは別方向に向かった。
「……!?」
 突然のロージーの行動に、エオスポロスが警戒を示す。
「――はっ、今です……! 皆さん、ロージーさん、ありがとうございます……!」
 すでにダメージは蓄積されていたが、陽動が駄目押しとなり、シルフィディアが感謝の言葉を残し、急上昇から急降下というフェイントも交えながらエオスポロスの横を突破した!
「ここは必ず撃破します」
 天に猛烈な勢いで飛翔する友の背に、ウィッカが誓う。
「……そっちもご武運を、ね」
 胡蝶は告げると、この2分で数多の傷を負ったエオスポロスに、魔法光線で追い打ちを。
「お役に立てたなら何よりですっ!」
 ロージーは煌めくような笑顔を浮かべると、爆乳を揺らしながら凍結光線を放つのであった。

「まだまだ! 僕は生きてる、最後まで立ち続けてやるんだ!」
 ラインハルトが咆哮を上げながら、エオスポロスが吐き散らすブレスの前に身を晒している。戦闘開始からすでに10分。突破された要因の一つとなり狙われた事に加え、序盤から尻尾での攻撃を多用された結果、ロージーが1分前に戦闘不能になった事により、ラインハルトは壁役として力を振り絞っていた。
「ラインハルトさん、何とか耐えてください!」
「あと一歩ですっ!」
 ウィッカと夢姫が、エオスポロスを覆う凍傷の範囲を広げる。ケルベロス側の攻撃を食らう度に凍り付いた鱗がボロボロと剥げ落ちていき、すでにエオスポロスも瀕死の状態だ。
「……がはっ! こ、ここまで、ですか……くっ……!?」
 だが、エオスポロスも最後の意地を見せる。元々彼等に命を惜しむ理由などどこにもない。変わらぬ決死の覚悟で爪で襲い来ると、空の腹部を串刺しにして地に伏せさせる。精度の面で不安が残るドレイン以外に回復の手段を持たぬ空は、その一撃に抵抗する術を持たなかった。
「鏡月さん!?」
 間に合わなかった碧が、悔しそうに眉根を寄せる。攻撃手がいなくなった事で碧はエンチャントの付与を諦めると、ラインハルトに戦乙女の歌を贈る。
「……これで前衛はラインハルトさん一人ですか……」
 ウィッカは、自分も前衛に加わるべきか思案する。
「まだ行けます!」
 満身創痍ながら、ラインハルトが断言した。シルフィディアの突破以降、耐える事、立ち続けることのみに専念していたラインハルトには、まだ若干の余力があった。元よりウィッカ自身、余裕のある状態ではない。
「11分よ! ……最後の2分ね」
 碧が告げる。
「そういう事なら、道は一つね」
 見ればエオスポロスの自爆のために蓄えた熱量は臨界点に達しようとしている。さらに、ここまで与えてきたダメージの影響で、エオスポロスの攻撃の手が止まった。
「逃がさないわよ?」
 その隙を胡蝶は見逃さず、竜砲弾でエオスポロスの強靱な肉体に風穴を開ける。
 スノーが、尻尾の輪を放った。
「避けらるものなら、避けてくださいっ。終わりですっ――!」
 トドメを刺すべく、夢姫が螺旋手裏剣を投げた。

●決戦・貪食竜ボレアース
 一足早く突破に成功した者もいたが。
「み、皆様、お集まり、でしょうか? で、では、参りましょう……!」
 明らかな緊張を浮かべつつも、ビシッと空を指差す相川・愛(メイド見習い魔女見習い・e23799)に硬さを解され、ケルベロス達は突破できた11名全員合流後、目当ての姿を求めて飛翔する。上空まで昇っていくと……。
「……見つけました」
 罪咎・憂女(刻む者・e03355)が、覇空竜アストライオスを筆頭に四竜を目視する。
 それぞれのドラゴン達は一旦儀式を中断し、突破してきたケルベロス達を見据えている。
 複数のケルベロス部隊が、それぞれのドラゴンに狙いを定める中、「もちろんお前も逃がさんだぜ?」タクティ・ハーロット(重力喰尽晶龍・e06699)が、標的である貪食竜ボレアースに向け言った。
 大口を開け、ドラゴンというよりはトカゲじみた異形のボレアースは、ケルベロス達など眼中にないとでも言いたげに、覇空竜アストライオスの元に向かおうとこちらに背を向けていたが。
「よう、ちょっくら殺しに来たぜッ!」
「黒曜牙竜のノーフィアより貪食竜ボレアースへ。剣と月の祝福を」
 相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)とノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)両名がそれぞれのハンマーから竜砲弾を放ち、その意識をようやく向けさせる。
「…………?」
「あわわわわっ……た、食べないでくださーい!」
 飛行が苦手なのか、ドシドシ……そんな擬音がつきそうな様子で振り返ったボレアースの、知性や理性の感じられない紅の複眼。まるで昆虫と相対した時のような無機質な眼光に射竦められ、生理的嫌悪感から愛がビクビクと震え上がった。
 瞬間!
 涎を垂らしていたボレアースが、それまでの鈍重な印象から一変する。ボレアースが冷気を溜めると、凍り付いた尻尾から迫り上がるように氷が全身を覆い尽くす。一連の動作はケルベロス達が瞬きする間より早く、冷気はブレスとなってボレアースの口から放散された。
「ぐっ!」
「このっ……!」
 アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)、シルフィディア……その場にいるケルベロス全員がその脅威に呻いた。四竜の名は伊達では無いという強力無比な威力。救いは、厄介な凍傷に襲われる危険は最小限に留まっている点ぐらいか。
「今だよ、攻めるんだよっ!」
「だね、僕達を行かせてくれた仲間のためにも!」
 しかし、ただの一撃で怯んでいては、ボレアースの足止めなど望むべくもない。ボレアースの初撃に対し、優れた耐性を有していたスノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)、ルードヴィヒ・フォントルロイ(キングフィッシャー・e03455)が一早く体勢を立て直し、時間を凍結する弾丸と石化の光線で攻め立てる。
「――――ォォオ」
「貴方達は確かに最強の竜種だ。ですが、ケルベロスの矜持として、これ以上の力は渡せません」
 憂女が可聴域を超越した龍の咆哮を上げ、据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)と愛が、光り輝く粒子を散布する。
「どこにも、……行かせない。だから、足元……注意……。……もう遅いけど」
 支援を受けた空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)は、空中に生み出した大量の槍でボレアースを串刺しにしようと目論む。が――!?
「……モウ、オソイ?」
 首を180度傾けながら疑問を呈するボレアースの声色は、まるでケルベロス達を嘲笑うかのよう。それが必然であるように、無月と彼女に続くケルベロスの攻撃が空を切った。11人という広範囲をカバーしようとする支援では、効果が薄いのだ。
 逆に、悍ましいボレアース……その紅の複眼が妖しく輝く。ケルベロス達は、輝きに魅入られそうになり……。
「催眠です……!」
 その輝きの意味を察したシルフィディアが注意を促す。
 広範囲の支援と同様に、催眠の力も妨害を受けるとはいえ、ボレアースのそれは身を蝕む魔的で暴力的な影響だけでも洒落にはならない。まして、ケルベロスを守るもののない空中で、運悪く催眠が発動されれば……。
「まっ、なんとかなるんだぜ! さぁ、笑えよ! すべては夢だったってな!」
 苦しい状況で……だからこそ、タクティは破顔した。ボレアースの周囲をいくつもの不運な結末を暗示する結晶が飛び交い、内面から揺さぶりを掛ける。
「……良く言った、まったく同意だハーロット。絶望的な……実に俺に似合いの戦場ではないか」
 アジサイも、ボレアースに負けず劣らず大口を開けて笑う。
「少しはやりやすくなるだろう」
 笑いながら、赤煙に続いて、ノーフィアにもボレアースの『緩み』を可視化できるドローンを補佐につける。
 赤煙はアジサイと連携し、竜牙杖から雷を迸らせた。
 元より、圧倒的不利は承知の上。今は、少しでも動きを鈍らせ、止めるために。
「いずれ必ず、根絶やしにしてくれます……!」
 怒りと憎悪を燃やしつつ、頭だけは冷静に。シルフィディアが激しい雷の雨を降らせた。

●対貪食竜ボレアース耐久戦
 憂女が炎を纏わした『刻』による蹴りで、ボレアースに牽制を加える。
 ボレアースは、複眼と氷のブレスで絶え間なく、広範囲での攻撃を仕掛けてきていた。誰か一人が攻撃を受けるのではなく、防具の性能によって差こそあれ、11名全員が体力を奪われていく。
「スノーエル! 俺と手分けして、お前は別の奴にヒールを――」
 最早、誰から手をつけていいか……ケルベロス達自身にすら分からぬ状況だ。ヒールをかければまだ踏ん張れそうな無月にオーラを溜める竜人が、序盤から共に回復に奔走してきたスノーエルを振り返った。
「……ご、ごめん……な……だよ……」
 だが、そこにほわほわとした笑顔を浮かべるスノーエルはいなかった。あったのは、ボレアースの大顎によって半身を貪られ、力なく地上へ落下していく背中のみ。
 タクティが、変形させたハンマーガントレット、ligulaの引き金をを引く。だが、竜砲弾はボレアースの影すら踏めない。
「……っ、まだ足りないというのですか……」
「そんな……!?」
 赤煙が眉根を寄せ、愛が涙目になる。赤煙と愛、そして憂女が揃って仲間の命中を最低限引き上げたものの、依然精度は確実とは程遠く、手数を無駄にした感すらあった。
「……せっかくの空……なのに」
 無月が、星と龍を想起させるライフルから、流星の如きエネルギー光線を射出する。彼女の大好きな空は今、狂騒に満ちてしまっていた。
「喰い砕け、収縮する世界!」
 ドローンの補佐を得たノーフィアが手を翳すと、漆黒の球体が生成される。ノーフィアは、その球体にボレアースを超重力場で引き寄せ圧殺しようと試みるが、現実はボレアースの強靱な前脚から伸びる棘を破壊できただけだ。
「守りたいものは、僕の手で守ってみせる!」
 ルードヴィヒの心を飢えが支配する。
「Remember you can always stoop and pick up nothing」
 求めるがまま、ルードヴィヒはボレアースの鱗と筋肉が覆う体表に狼の牙を突き立てようとする。
 ――と。奮闘するケルベロス達は、ふいに地上方面からもの凄い轟音が響き渡るのを耳にする。
「今の音は……そうか、ちょうど12分経ったのだな。と、いう事は……!」
 アジサイの脳裏に、エオスポロスの自爆が過ぎる。凄まじいあの音から察するに、少なくない数のエオスポロスが自爆したのだろうが……。
「……どうやら、気にしている暇はないようだな」
 バスターライフルに中和光弾を充填させるアジサイの眼前で、ボレアースが裂けんばかりに開いた口からブレスを放つ。
 その直撃を受け、タクティと愛が。さらにほとんど間を置かずノーフィアと、地上にサーヴァントを残してきた者、単体回復の準備が間に合わなかった者が、次々と意識を失い落下していった。
「わたしは……わたし達は、まだ倒れる訳にはいきません……! ましてや平和を侵す糞龍共の思い通りになんて……!」
 シルフィディアが、せめて範囲攻撃は耐えられるよう、憂女にオーラを溜めて傷を癒やす。
「……助かります、シルフィディアさん。あなたの仰る通り、この意識が途絶える瞬間まで、たとえ齧り付いてでも食らいつくしかありませんね……」
 憂女が、今度は自分のために咆哮を上げる。
「気脈の流れはグラビティチェインの――」
 なんとかボレアースの行動を制限しようと考えた赤煙。だが、流れ……そう続けるべき言葉が彼の口から出てこない。鍼の形に凝縮されたオーラ。ボレアースに向けられるべきそれを、赤煙はルードヴィヒに突き立ててしまう。
「据灸庵! フォントルロイ!」
 アジサイが瞠目する。催眠の影響であるのは明らかだった。
 竜人が、ルードヴィヒに懸命にヒールをかける。
 赤煙が、唇を強く噛みしめた。
 だが、ボレアースも既に動き出している。
 ケルベロス達は誰もが、自分を喰え! そう思った。単体攻撃であるならば、戦闘不能は必至だが、少なくとも一網打尽にされる事だけは避けられるからだ。
 しかしボレアースは、そんな祈りを嘲笑うように、竜人と無月以外とは極めて相性の悪い禍禍しい複眼を光らせてくる。耐え忍んだ者は、アジサイとルードヴィヒが倒れる様をただ眺めることしかできなかった。

 状況は刻々と変化していく。
 それは、自爆の轟音から2分後の事。
「……見て……あれ……」
 無月が、白い鱗を纏うドラゴンが地に堕ちていく様を目にする。そのドラゴンは、間違いなく廻天竜ゼピュロスであり……。
「撤退するぞ!」
 牽制という自分達の役割を果たせた事を確信した竜人が、髑髏の仮面の下から僅かに上ずった声で告げた。
「ええ、……そうしましょう」
 それに、憂女が頷く。
 同じ四龍の仲間であるはずのゼピュロスの死に様を、やはり無機質な瞳で見下ろすボレアースをその場に残し、ケルベロスは地上への帰還を果たすのであった。

●ドラゴンオーブ
 それは、数分前――シルフィディア達が上空で例の轟音を耳にした時の地上の様子。
「厳しい戦いでしたが、なんとか時間内に撃破できましたねっ」
 夢姫が、突き刺さった複数の螺旋手裏剣をエオスポロスの肉体から引き抜く。ドス黒い血が溢れるものの、エオスポロスはピクリとも動かず、絶命しているのが見て取れた。
「作戦、上手く行きましたかね?」
 儀式を阻止できたのか……ラインハルトが天を仰ぐ。
「皆さん、あれを!?」
 その際、ラインハルトは熊本城に何体ものエオスポロスが突入し、自爆する様を目撃する。
「――っっ!!」
 爆音、地響きに碧が身を竦ませた。砂煙が空高く舞い上がり、辺り一帯の視界を白く染め上げる。
 そして数分が経過し、ようやく視界が戻ると。
「あれが、ドラゴンオーブですか?」
 ロージーが、熊本城跡地で怪しく輝くドラゴンオーブを発見する。
「……これは空間が歪んでいるのでしょうか?」
 ウィッカが試しに近づいてみようとするが、オーブの周辺には行けなかった。不可視の何かに、弾かれてしまうのだ。
「危険ね、一先ず撤退よ」
 胡蝶が、嫌な予感がすると背筋を震わせた。
 ケルベロス達は空を背負い、その場を後にした。

作者:ハル 重傷:鏡月・空(蜃気楼だけが見えている・e04902) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月7日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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