熊本城ドラゴン決戦~託す希望

作者:真魚

●日暮れの熊本城
 夕日落ち、熊本市にも夜の帳が下り始める。
 戦い繰り広げられた後の熊本城――そこに、再びドラゴンの力が揮われる。
 城目掛け、一直線に飛来するのは侵空竜エオスポロス。彼らはそのまま熊本城へと速度乗せて突っ込んで、あちらこちらで爆発を巻き起こす。
 爆破音、崩れる城。その廃墟から姿を現したのは、恐ろしい力を秘めた『何か』だった。

●託す希望
「熊本市での戦いは、最小限の被害で勝利することができたようだな!」
 お前達なら、やってくれると信じてたぜ。集うケルベロス達へへらり笑って語りかけた高比良・怜也(饗宴のヘリオライダー・en0116)は、けれど言葉と裏腹に落ち着かない様子をしていて。そのまま真剣な表情で口を開けば、事態はいまだ深刻なのだと告げる。
「竜十字島から出撃したドラゴンの軍団が、すぐそこまで迫っている。やつらの目的は、『熊本城』に封じられた『魔竜王を復活させる事すらできる魔竜王の遺産の奪取』に間違いないだろう」
 先のケルベロス達の活躍により、ドラゴン軍団のグラビティ・チェインの略奪は阻止できた。そのため、魔竜王の遺産の封印はいまだ破られていない。しかし――ドラゴン勢力は、その封印を破るために次の手を打つようだ。
「やつら、この封印を無理やりこじ開けるつもりだ。ドラゴンの軍団は熊本城に特攻、自爆することで自らのグラビティ・チェインを捧げ、封印を解放しようとしている。その狙いを阻止するためには……お前達の力が必要だ」
 今すぐヘリオンで向かえば、ドラゴンの特攻に間に合う。熊本の戦いに参加したケルベロス達と合流したら、そのまま熊本城の防衛に参加してほしいのだと、語る怜也はそこで一度ケルベロス達をぐるり見回した。
「敵の目的は二つある。一つは、『侵空竜エオスポロス』の軍団を熊本城に突撃させて自爆させ、魔竜王の遺産の封印を解除すること。そしてもう一つは、覇空竜アストライオスと配下の四竜、廻天竜ゼピュロス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースの儀式により、封印を解除された魔竜王の遺産を、竜十字島に転移させることだ」
 魔竜王の遺産が竜十字島に転移させられてしまえば、こちらから手出しする事は至難となり、ドラゴン勢力の野望を食い止めることは不可能となるだろう。それを防ぐためには、侵空竜エオスポロスを迎撃すると同時に、儀式を行う覇空竜アストライオスと四竜への攻撃を敢行する必要がある。
「強大なドラゴンとの戦いになるが、ここで敗北するわけにはいかない。……やってくれるな?」
 尋ねるヘリオライダー、その瞳は信頼に満ちていて。返るうなずき認めると、怜也はにやり笑って説明を続けた。
「それじゃ、作戦の説明だ。まず、お前達には熊本城に突撃してくる『侵空竜エオスポロス』一体と戦ってもらう。こいつは覇空竜アストライオス配下のドラゴンで、素早い機動と鋭い斬撃、電撃のブレスなどを得意としている」
 敵は一体と言えど、油断のならない相手。更に、此度の戦いは時間との勝負でもある。
「侵空竜エオスポロスは、熊本城突入の十二分後に自爆しコギトエルゴスムとなることで、封印の解除のためのグラビティ・チェインを放出する。これを完全に阻止するには、時間までに敵を撃破する必要がある」
 撃破できなかった場合も、大きなダメージを与えることができれば、自爆の効果が弱まり封印を解除するグラビティ・チェインも減少する。撃破が困難となった場合でも、可能な限りダメージを与え続けてほしいと語って、そこで怜也は一際難しそうな表情を浮かべる。
「そしてこの戦いと同時に、儀式を行う覇空竜アストライオスと四竜への対策もしてもらわないとならない。覇空竜アストライオスは、自爆による封印の解除に失敗した場合、儀式を終了させた配下の四竜を犠牲に捧げてでも、魔竜王の遺産を手に入れ竜十字島に送り届けようとする。これを阻止するには、儀式が完成する前に、覇空竜アストライオス或いは四竜の一体でも撃破する必要があるんだ」
 しかし、覇空竜アストライオスと四竜は、侵空竜エオスポロスの軍団の背後にいるため、侵空竜エオスポロスを突破しなければ戦いを挑むことはできない。困難な状況――これを打破するためには、少数での奇襲作戦が最も成功の可能性が高いのだとヘリオライダーは語った。
「作戦に参加するケルベロスは、飛行可能な状態である必要がある。侵空竜エオスポロスと戦い、大きなダメージを与えた時の隙を突いて突破、覇空竜アストライオスと四竜いずれかに戦闘を仕掛けてくれ」
 飛行可能な状態。それはつまり、戦闘陣形による有利な効果のない状態である。決戦へ向かうためとはいえ、侵空竜エオスポロスとの戦闘でもその立ち位置は危険が伴うだろう。そんな仲間を支える側も、工夫なければ一気に瓦解する恐れがある。それでも――やらなければならないのだ。
「誰が突破役になるか、そいつをどうやって支えるか、よく考えて臨んでくれよ。それから、覇空竜アストライオスと配下の四竜との戦闘。こいつらは互いに連携して戦うことができるため、目標を一体に集中させると他の四竜が連携して妨害してくるから、確実に撃退される。倒すのは一体だけでいいが、狙うのは複数だ。どいつを狙い、どいつを本命とするのか、同じ作戦に参加予定のケルベロス達でよく考えてくれよ」
 そこまで語った怜也は、一つため息をつくとへらり笑顔を浮かべた。
「難しい戦いだ。だが、お前達ならやれるって、俺は信じてる。だから……」
 行ってこい。お前達に、希望を託そう。
 信頼篭めた言葉をゆっくり紡ぐと、赤髪のヘリオライダーはヘリオンの扉を開く。
 向かうは熊本城――どうか無事でと祈る想いをいってらっしゃいの言葉に変えて、彼はケルベロス達を送り出した。


参加者
ミライ・トリカラード(夜明けを告げる色・e00193)
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
フォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)
輝島・華(夢見花・e11960)
流・朱里(陽光の守り手・e13809)
ラズリア・クレイン(黒蒼のメモリア・e19050)
鉄・冬真(雪狼・e23499)

■リプレイ


 ケルベロス達が熊本城へ到着する頃、ドラゴンの群れはすぐそこまでやってきていた。
 夕闇迫る空を舞う、侵空竜エオスポロス――熊本城を破壊せんと近付いてくる一体へ向け、ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)は『破壊の王』を構える。
 砲撃形態、放たれるは竜砲弾。正確無比な一撃は、敵の体を貫いた。
「……!」
 驚き鳴いて、降下してくるエオスポロス。それが大地へ降り立つより先に、鉄・冬真(雪狼・e23499)が滑るように駆け、肉薄して。
「さあ、早々に退場願おうか」
 言葉と共に、繰り出したのは流星の蹴り。小さくよろめきつつも着地したドラゴンを、きっと睨むのは輝島・華(夢見花・e11960)。
「もう失敗は許されません。ドラゴンの企みは必ず止めてみせます」
 先の市街戦、華の参加した班は苦い敗北を味わった。取り逃がした指揮官、暴走し助けてくれた仲間――しかし、まだやれることはある。悔やむのは後だ。
 どうか待っていて下さい。祈る想いを『ディアンの手』に篭めて、華はオウガ粒子を放出する。仲間を覚醒させるグラビティは、しかし後衛の半数に加護与えるにとどまった。此度の戦いの布陣は、飛行中も合わせて後衛が六人。サーヴァントを連れた華が更に減衰の効果も受ければ、効果の及ぶ範囲はこれがやっとだろう。
 守り手の後ろに展開するケルベロス達へ、侵空竜がじろり視線向ける。そうして敵は、大きく口を開けた。バチリ、大きな音立て放たれる雷のブレス。そのまま首振れば、後衛のケルベロス達が薙ぎ払われる。
 その時、咄嗟に動いたのは流・朱里(陽光の守り手・e13809)だった。彼は草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)の前へ躍り出て、その身でブレスを受け止める。同時にお返しの雷撃を放つが、これはブレスにかき消されてしまった。
「サンキュー! 朱里!」
 にっこり笑う、太陽の如き恋人。彼女を、そして仲間を空へ送るためなら、いくらでも盾となろう。
 彼の決意感じながら、あぽろは『Roar The IRON』を構える。撃ち出すは、時空凍結の弾丸――しかしこれもまた、ドラゴンにかわされてしまう。
 敵は格上、そしてキャスター。狙撃手二人の攻撃は初撃から命中したが、他の者のグラビティが少しの足止めで当たるようになるほど、ぬるい相手ではない。一手目は半数の攻撃が無効化され、そして敵は次の攻撃を放つ。禍々しい翼を羽ばたかせ、空舞う竜は降下と共に爪を閃かせ――狙われたのは、冬真。だがしかし、そこに華のライドキャリバー、ブルームが割り込み攻撃を受け止める。
 その斬撃は強力で、ブルームの体力が半分まで削り取られる。サーヴァントとは言え、守り手の体力を半分だ。敵がいかに強大であるかを感じ取り、フォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)は尻尾をふるる、と武者震いする。
(「ん、ドラゴンと戦うなんて久々なの。ん、しっかりとみんなを守るの!」)
 固い決意は、力となる。
「ん……クルル、冷たいのいくよ!」
 自身のボクスドラゴン、クルルがブルームを癒しているところへ声かけて、フォンは身構える。クルルが一鳴き彼女の尻尾へ蒼く冷たい炎を宿すと、少女は敵へと一直線に駆けた。揮う尻尾、往復でもう一度。その攻撃はドラゴンの熱奪い、凍てつかせる。
 エオスポロスが冷気に身を震わせる、一瞬の隙。そこへ狙い定めて、言葉紡ぐのはラズリア・クレイン(黒蒼のメモリア・e19050)。
「終焉の刻は来たり、星よ導け。あまねく戦禍を消し去り、安らぎを。我は再生を願う者なり!」
 翼羽ばたかせながら敵へ向けるは、『星兎の夢杖』。先より解き放つ蒼き氷晶はその魔力で敵を包み込み、更に体を冷え上がらせる。
 咆哮する侵空竜、その姿は威圧的で。けれど負けられぬ戦いに、ケルベロス達は真剣な表情で武器を構え直した。


 究極の戦闘種族。そう言われるだけあって、エオスポロスは強敵だった。ポジションによる加護もあり、ケルベロス達の攻撃はよほど命中精度が高くなければ当たることはなく、逆に彼の攻撃はケルベロス達の体力を確実に削っていく。
 それでもめげずに足止めして、それをジグザグで増やして。四度目の攻撃は幸運も重なり全員が成功したから、勝機はあると彼らは感じる。
 ――けれど次の瞬間、ケルベロス達を不運が襲う。敵が翼で加速し揮った爪が、ブルームに強力な一撃を繰り出したのだ。
「ブルーム!」
 主である華が叫ぶが、止められない。その身飾る花が、箒が、斬撃に切り刻まれていく。
 静かに倒れ、消えてゆくライドキャリバー。その光景に、ケルベロス達には緊張が走った。
 同時に、戦場に電子音が響き渡る。冬真がセットした、四分経過を知らせるアラームだ。
「時間だね。力を合わせて切り抜けるよ」
 一体が倒れたって、まだ作戦は続行できる。決意した冬真は、手にした刀を持ち直した。妻から借りた、『天狼』。共にこの戦場へくることはできなかったけれど、心はいつも共にあるから。
 小さく息吐き出し、地を蹴り駆ける。真正面から、敵を惹きつけるように。その手には黒き短刀が現れて。
「――終焉を、」
 敵が反応し動くより一瞬早く、冬真は身を屈めて竜の視界から逃れる。困惑するエオスポロス、その喉元に彼は『哭切』を突き付けた。
 一刻も早い終焉を。急所狙う攻撃に、侵空竜が咆哮する。その姿に気持ち引き締めて、ミライ・トリカラード(夜明けを告げる色・e00193)は地獄の炎を噴き出す。
「うん、ドラゴンの野望、絶対阻止しなきゃね!」
 言葉と共に、描く魔法陣。完成したそれから伸びるのは、赤、黄、青の炎纏う三本の鎖達。それらは避けようとする侵空竜を執念深く追いかけ、ついにその体を捉え体力を奪っていった。
 悶える敵を前に、ミライはちらりと後方を飛ぶ仲間へ視線を移す。
(「二人を決戦に送り出せるよう全力を尽くすよ!」)
 胸に誓う想いはきっと、ここにいるケルベロス皆共通。
 此度の戦いは、目の前のエオスポロスを倒すだけでは足りない。彼らが戦う熊本城の上空、そこで儀式を行う覇空竜アストライオスと四竜を、阻止することも重要なのだ。
 どちらも強敵、危険な作戦。けれど、ケルベロス達はその困難にもひるまずあぽろとラズリアの二人を突破させようと決めていた。
 そのためにグラビティを選び、状態異常を重ねて、彼らは奮闘する。
 しかし、敵に隙が生まれる様子はない。突破口を探っていたラズリアも、機ではないと悟って杖から魔法の矢を放つ。
「まだ足りないでしょうか」
「そうみたいだな」
 うなずくあぽろも、グラビティを繰り出す。瞬間、放たれるブレスが彼らを襲う。後衛が六人と偏らせた陣形をとった結果、侵空竜は執拗に後衛への攻撃を続けていた。守り手が早々に一人欠ける程の威力だ、範囲攻撃だろうと放置するのは危険だが――突破のチャンスは、あと一度。賭けるしか、ない。
 華は掌の中に、魔力を集中させる。生成されるは、桃、青、紫の鮮やかな花弁。
「さあ、よく狙って。逃がしませんの!」
 声を発すれば、応じるように風が巻き起こる。花弁踊らせる風は小さな嵐となり、花弁がドラゴンの身に次々傷をつけていく。
 そこに続けと蝶呼び寄せるのは、ソロ。敵の死角へ回り込むオラトリオが悟られぬよう、彼女は挑発の言葉を紡ぎ出す。
「こっちだ、覇空竜の小間使い。ゴルティメーデンの方がまだ手強かったぞ!」
 意味まで伝わったかはわからないけれど、かかる声にエオスポロスはソロへ向き直った。彼女は即座に蒼白き魔蝶を羽ばたかせ、敵の視界を覆いつくしていく。
 さらに、朱里が刀を掴み前へ出る。仲間達より練度の低い彼の攻撃は、ここまでなかなか命中していない。だが、この戦いのためできる限りの鍛錬はしていたから――その力を、今叩き込もう。
「斬り捨てる」
 短く言葉紡いだ彼の手の中で、刀納めた黒き鞘が雷を纏う。次の瞬間それは電撃を放ち、『SUNLIGHT』の黄金の刀身が姿を現す。電撃砲の勢い乗せた、超速の抜刀術。卓越した技術で操るその一撃は、竜の体を袈裟に斬りつけた。
 ありったけの力を篭めた、連続攻撃。氷のダメージも重なれば、その瞬間火力は強大で――ついに敵が、大きく体勢を崩した。
「今だ! 空は頼んだよ、二人とも! 地上はボクたちに任せて!」
 ミライの声に応えるように、あぽろとラズリアは同時に動く。羽ばたく翼、固まらぬようバラバラに飛び立った二人は、見事エオスポロスを振り切り上空へと舞い上がる。
「ありがとうございます。ドラゴン達の策略、必ず阻止致します」
 仲間の声が、背中を押す。想い受け取って、ラズリアは凛とした顔で上昇していった。
 突破は、二人とも成功。その成果に高揚しながら、ソロは二人の背を見送る。大切な義妹、そして相棒。自分は、置いてけぼりになった形だけれど。
(「それで良い、二人でクソッタレの陰謀を食い止めてくれ。そのためなら……命を賭ける!」)
 湧き上がる決意、皆も同様に士気が上がる。
 けれど、その喜びもつかの間。突破を許した侵空竜が咆哮し、大きく羽ばたく。
「ん、危ないの……!」
 敵の狙いを察知しフォンが動くが、間に合わない。
 閃く爪、襲う斬撃。降下の勢い乗せた攻撃に、力尽き倒れたのはクルルだった。


 アラームが鳴るまでの時間、敵への攻撃命中は安定していなかった。それゆえ突破に必要なダメージが不足しているのは皆理解していたし、最後のチャンスをつかみ取れたのは、瞬間火力のおかげだ。だから一斉攻撃を選択したのは、突破のためには絶対的に必要なことだった。
 だが、それでも。積み重なったダメージを回復したいこのタイミングで、癒し手が落ちたのは痛手だ。
 二人が抜けた今、後衛に減衰の効果はなくなり――エオスポロスの範囲攻撃は、より威力を増していた。華の列回復だけでは敵のダメージを癒しきることはできず、ケルベロス達の体は少しずつ疲弊していく。さらに、敵の攻撃の一つには足止めの効果があった。頭数が減った今、行動できない者が多くいては撃破が間に合わなくなる。故に、単体回復のみを行うわけにもいかず、華はジレンマに苦しむこととなってしまった。
 朱里の癒しも適宜もらいながら戦い続けるケルベロス達だったが、突破から三分後に限界が訪れる。
 空を舞う侵空竜、揮われる爪。狙われた冬真を守るために庇ったフォンが、その体に深い傷を受け崩れ落ちたのだ。
「ん……っ」
「フォン様!」
 華の悲痛な声が、戦場に響く。しかしその声に、フォンはぴくりとも動かない。
 それでも、戦い続けなければ。唇を噛みながら、華はケルベロスチェインを展開し守護の魔方陣を描き出した。
 ――此度の戦場でケルベロス達が採った戦法は、氷の状態異常で大量の追加ダメージを与えること。
 それ自体は、確かに有効な戦法である。しかし、この戦法を強大な敵相手に使うのであれば、もう一つ気を付けなければならないことがある。それは、『手数を多くすること』だ。いかに大量の氷を敵につけ追加ダメージの期待値を上げたところで、攻撃が当たらなければその効果は発動しない。
 では、手数を多くするにはどうすればいいのか。『一人も倒れてはいけない』、そんな覚悟で戦えばいいのだ。
 しかし、ケルベロス達の用意した装備やグラビティを見れば、その構成は攻撃最優先。攻守のバランスがとれていたとは、決して言えなかっただろう。
 例えば、防具。赤髪のヘリオライダーは敵のグラビティを予知できていなかった。それなのに、なぜ彼らは敏捷攻撃と破壊ダメージに対応した装備で統一していたのだろうか。結果、敵の使う単体高火力攻撃が防具で軽減することができず、回復の間に合わない事態に陥ってしまった。そして、敵もそこに戦ううちに気付いたゆえに、そのグラビティばかりで攻撃してきたのだ。
 それでも、守りのエンチャントがあれば、もう少し耐えられたのかもしれない。思い返せば、狙撃手以外の攻撃がなかなか当たらなかった前半。あそこで、堅実に支援グラビティを使う手もあったのではないだろうか。
 結果として、彼らの攻撃が最大に効果を発揮したのは、突破を図った六分目で。時間の経過と反比例するように下がり続ける総火力では、苦戦を強いらされたのも仕方のないことだった。
 苦しい戦いにも退くことはできず、彼らは懸命に侵空竜の体力を削っていく。
 だがしかし、先に朱里が倒れた。残るは一分――残された四人の総攻撃に望みを託すしかない。
 ソロが石化の光線を放ち、華が花弁を舞い踊らせる。さらに冬真が流星の蹴り食らわせれば、その度エオスポロスの体蝕む氷が追加のダメージを与えていく。
 しかし、まだ敵は立っている。ミライは三色の鎖を召還し、最後の一撃に全てを篭める。
「侵空竜! じ、ご、く、に――落ちろおおおおおっ!!」
 魂の叫び、勢いよく襲う鎖。しかし――竜は大きく仰け反っただけで、翼打って体勢整え、そのままソロへと接近した。
「っ……!?」
 瞳を見開くソロ、揮われる斬撃。その攻撃は、運悪く彼女の急所を幾度も抉って――。
(「あぽろ……ラズ……」)
 無意識に動いた手。あぽろの指輪を嵌めた手でラズリアの髪飾りに触れたソロは、そのまま意識を手放す。
 その時無常にも、十二分経過のアラームが鳴り響いた。


 電子音が響く中、エオスポロスはぴたりと動きを止めた。そして体を反転、熊本城の方を向くとふわり空へ浮かび上がる。
 満身創痍のケルベロス達に、それを止めることはできなかった。彼らの目の前で侵空竜は翼を大きく広げて――猛スピードで、熊本城の壁へと頭から突っ込んだ。
 ぶつかると同時に、起こる爆発。動かぬ仲間を助けようとした三人の肌を、爆破による熱が焼いていく。
 次の瞬間、轟音と共に爆風が巻き起こり、彼らの体は宙を舞った。
「これ以上は危ない、このまま撤退しよう!」
 冬真の張り上げた声に、ミライと華がうなずきを返す。仲間の体を抱えながら、爆風に乗って距離置いて。
 やがて城外へとたどり着いた三人は、城を振り返り目を見張った。
 爆発は、一つではなかった。熊本城はあちらこちらに穴を開けられ、そのままガラガラと崩壊していく。
 もうもうと立ち込める砂煙。その中に瓦礫となった城が埋もれていくのを、彼らはただ茫然と眺めていたが――煙が晴れた時そこに現れたもの見れば、小さく息を呑む。
 『それ』は、天守閣があった辺りに浮いていた。
 魔竜王の遺産。怪しく輝く――ドラゴンオーブ。
 目の前の状況を見れば、封印解除の阻止には失敗したことがわかるが、上空の戦いはどうなったのだろうか。
 不安に思いながらも、三人は城から離れるように撤退していく。
 傷深い彼らの背後で、ドラゴンオーブはただ不気味な輝きを放っているのだった。

作者:真魚 重傷:ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月7日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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