●熊本城崩壊
夕闇に包まれる熊本城。
堂々たる風格の天守閣へ向かって、大きな羽を広げた影が幾つも飛んでいた。
遠目には鳥の群れに見えるそれらの飛行物体だが、明らかに遠近法がおかしい。
そう。熊本城へ突っ込まんとする彼らは鳥じゃなかった。
蝙蝠のような筋張った翼をバッサバッサと羽ばたかせるドラゴン——侵空竜エオスポロスである。
先頭を飛んでいたエオスポロスの影が熊本城の大天守に重なった刹那、
ドカーー……ン!
突如大天守の壁が爆ぜて、粉塵の中を砕けた屋根瓦がバラバラと滝のように降った。
ドカーー……ン!
エオスポロスが次々と熊本城に乗り込む度に、天守閣のあちこちが爆発する。
ついには天井を支える柱が粉砕され、400年もの威容を誇っていた熊本城は、エオスポロスの大軍によって崩壊させられた。
そして。
崩れた熊本城の中から、ふわりと何者かが姿を現す。
エオスポロス達の自爆と引き換えに活動を開始しただけあって、その者は禍々しいオーラを全身から噴き出していた。
●
「熊本市全域で行われたドラゴン勢力との戦いは、最小限の被害で敵を撃退し勝利する事ができました」
小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が説明を始める。
「ですが、竜十字島から出撃したドラゴンの軍団が、すぐそこまで迫っているであります……」
敵の目的は『熊本城』に封じられた、魔竜王を復活させる事すらできる『魔竜王の遺産』の奪取に間違いない。
「熊本へ先発なさったケルベロスの活躍により、グラビティ・チェインの略奪を阻止できた為、魔竜王の遺産の封印は未だ破られてないであります」
しかし、その封印を無理やりこじ開けるべく、ドラゴンの軍団は熊本城へ特攻、自爆する事で自らのグラビティ・チェインを捧げ、封印を解放せんとしているらしい。
「皆さんには、今すぐ熊本城へ赴いて、熊本の戦いに参加なさったケルベロス達と合流なさった上で、熊本城の防衛にご参加頂きたいのです」
かけらはぺこりと頭を下げた。
「敵の目的は2つあります」
1つは『侵空竜エオスポロス』の軍団を熊本城に突撃及び自爆させて、魔竜王の遺産の封印を解除する事。
「もう1つは、覇空竜アストライオスと配下の四竜、廻天竜ゼピュロス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースの儀式によって、封印を解除された魔竜王の遺産を竜十字島へ転移させる事であります」
魔竜王の遺産が竜十字島へ転移させられてしまえば、こちらからは到底手出しできなくなって、ドラゴン勢力の野望を食い止める事はもはや不可能となるだろう。
「それを防ぐ為には、侵空竜エオスポロスを迎撃すると同時に、儀式を行う覇空竜アストライオスと四竜への攻撃を敢行する必要があります」
強大なドラゴンとの戦いになるが、ここで敗北する訳にはいきません——と意気込むかけらだ。
「まずは、熊本城に突撃してくる『侵空竜エオスポロス』1体と戦って頂きます」
侵空竜エオスポロスとは覇空竜アストライオス配下のドラゴンで、素早い機動や鋭い斬撃、電撃のブレスなどを得意としている。
「侵空竜エオスポロスは、熊本城突入の12分後に自爆しコギトエルゴスムとなる事で、封印を解除する為のグラビティ・チェインを放出するであります」
それを防ぐには、12分経ってしまう前に侵空竜エオスポロスを撃破する必要がある。
「もし撃破できなかった場合でも、大きなダメージを与えられれば自爆の効果が弱まり、封印解除用に放つグラビティ・チェインも減少するので、可能な限りダメージを与え続けてくださいませね」
この戦いと同時に、儀式を行う覇空竜アストライオスと四竜への対策も必要になる。
「覇空竜アストライオスは、侵空竜自爆による封印の解除へ失敗した場合、儀式を終了させた配下の四竜の犠牲を払ってでも、魔竜王の遺産を手に入れて竜十字島へ送り届けんとするであります」
これを阻止する為には、儀式が完成する前に覇空竜アストライオス或いは四竜の一体だけでも良いから撃破する必要がある。
「とは言え、覇空竜アストライオスと四竜は、侵空竜エオスポロス軍団の後方にいる為、侵空竜エオスポロスを突破しなければ戦いを挑む事が出来ません」
検証の結果、侵空竜エオスポロスと戦う傍ら、少数の飛行可能なケルベロスを突破させて覇空竜アストライオスと四竜を奇襲する——以上の作戦ならば、最も高い確率で成功するという。
「非常に危険な作戦となりますが、全てはケルベロスの皆さんの勇気と力にかかっていますので、どうぞ宜しくお願い致します」
かけらは今一度深々とお辞儀してから、ふと思い出したように言い添えた。
「覇空竜アストライオスと配下の四竜は、互いに連携して攻撃してくるでありますから、突破した全戦力を1体の目標へ集中させた場合、他の4竜が連携して妨害してくる為、確実に撃退されてしまいます」
それを回避するには、本命への攻撃の他、残りの4体に対しても少数での攻撃を仕掛けて、連携を妨害すると良い。
「四竜は、覇空竜アストライオスを守る事を最優先に動きます。ある程度の戦力でアストライオスを攻撃しつつ、本命の攻撃を集中させるのが良いかもしれませんね」
そう言って、かけらは説明を締め括った。
参加者 | |
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エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557) |
ラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112) |
紫藤・大輔(機甲武術師範代・e03653) |
因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145) |
富士野・白亜(白猫遊戯・e18883) |
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378) |
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828) |
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412) |
●
日の傾きかけた熊本城。
ケルベロス達が待ち構えているのへ果たして気づいているのかいないのか、侵空竜エオスポロスの群れは自爆特攻を成功させるべく空から突っ込んできた。
「ぬぅ、ドラゴンどもめ……次々と邪悪な企みを実行しおるのぅ……」
ギリッと歯噛みしてエオスポロスを睨みつけるのは、アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)。
白いツーサイドアップの髪や右眼から噴き出す蒼い地獄、紋章の如き美しさを誇る光の翼、胸の大きなリボンがアクセントなセーラーワンピース。
それらの合わさった出で立ちがいかにも戦うヒロインといった趣の、ヴァルキュリアの少女だ。
性格は若干中二病のきらいがあり、日頃から格好良い自分を演出するのにご執心の様子。
「しかし、邪悪あるところに正義あり!」
今も決めゼリフらしき事を言い放ち、アデレードは自らを奮い起たせてエオスポロスへ立ち向かう。
「わらわの目の黒い内は、邪悪をのさばらせるわけにいかぬのじゃ!」
砲撃形態に変じたドラゴニックハンマーから竜砲弾を撃ち出して、エオスポロスの翼を貫通させ、奴がこれから喰らうグラビティを回避しづらくなるよう仕向けた。
「Kontinuerlig angreb」
次いで、エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)が地面へ素早くケルベロスチェインを這わせる。
北欧の血を思わせる金髪と白ウサギらしい赤い瞳を持った、耳掛けヘッドホンがトレードマークなウェアライダーの女性。
少々我侭な性格で、内心やりたくない事には協調性を欠くのも厭わない。
トランスを聴きながらの柔道の稽古が日課という、根っからの稽古好きである。
「……何よりもまずは、仲間がこの戦線を突破して、アストライオス達のところまで向かって貰う事を優先しませんと……」
エステルはドラゴンへの憎悪を瞳にありありと滾らせながら、展開した鎖で器用に魔法陣を作って前衛陣を守護した。
さて。
「滞りない相談の上で、突破役をみんなから任せて貰えたんだもの……期待に応えなきゃね」
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)は、作戦の要たる重圧を背負っても尚、身軽にふわりと滑空していた。
鏡のような煌めきのポニーテールと吸い込まれそうな丸い瞳、形の良い巨乳が魅力的なヴァルキュリアの少女。
青を基調としたビキニアーマーに身を包み、魔剣「空亡」を携えた美しき刀剣士である。
ちなみに刀剣収集以外の趣味は料理で、ヴァルキュリアにとって印象深いオムライスに限らず、何でも器用に作っている。
「あたしが貴方と戦っていられる時間は決して長くないけれど、限りある中でも精一杯全力を出させて貰うわ!」
と、半透明の『御業』をエオスポロスへ嗾けて、その巨体を鷲掴みさせるフレック。
『御業』はエオスポロスの大型バスにも引けを取らない胴体を包み込まんと、ヴェールのように薄く薄く広がっていた。
「彼女のドラゴンに費やした2年10ヶ月を否定した以上、ドラゴンを軽く蹴散らしてやらないとね」
一方、因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145)も盛んに意気込み、額に見覚えのあるグルグル眼鏡を嵌めてエオスポロスに挑む。
そう。このグルグル眼鏡こそ妄執の螺旋鏡——竜性破滅願望者・中村・裕美の遺品であった。
「ドラゴンのデータを打ち込み続けていただけあって、相手の攻撃されたら嫌な部分がわかる気がするよ」
白兎は、おもむろに下げた眼鏡のレンズ越しにエオスポロスを見据えて、両手を真っ直ぐ突き出す。
——ビキビキビキッ!
そして、両手の平から空気すら凍てつかせる氷結の螺旋を放ち、エオスポロスへ氷点下の極寒と凍傷の苦痛を味合わせた。
「時限爆弾ドラゴンってことか。面白い、破裂する前に殴り壊してやる——ついでに目論見ごと全部な」
富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)は、その無表情からは窺い知れぬ好戦的な気性を覗かせ、手にしたエクスカリバールでブンブンと空を切ってみせた。
長くうねった白い髪が上品でピンと立った耳が凛とした雰囲気を漂わせる、白猫の人型ウェアライダーの少女。
感情をなかなか表に出さない分、猫耳が感情豊かにぴこぴこ動くのが特徴だ。
「そのためにきっちり仲間も送り出す、大変だがやり切ってみるか」
白亜は鋭い目つきでエオスポロスを睨めつけ、エクスカリバールを正眼に構えて跳びかかる。
バリバリバリッ!
まるで猫が障子を前脚で貫くかのようにエオスポロスの腹部へエクスカリバールの先端を引っ掻け、容赦なく鉤裂きにした。
「……チッ、妙に嫌な予感がしやがるぜ」
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)は、一度はポケットから出したコインをこの日に限って何故か弾かぬまま仕舞い直していた。
ともすればダメ人間と見られがちで、融通無碍な言動の多いレプリカントの青年だ。
「ま、焦っても仕方ねぇ。手筈通り、サマを織り交ぜるだけさね」
泰孝はニヒルに笑うや、右手の爆破スイッチをカチリと押す。
ドーーーン!
すぐに『見えない爆弾』がエオスポロスの脇腹で作動、骨も砕けよとばかりに大きな爆発を起こして、言い知れぬ威圧感を与えた。
他方。
「黒塗りの立派なお城ですね。竜と対峙するには十分な貫禄です」
振り返って熊本城を見上げ、ただでさえ細い目を更に細めるのはラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112)。
雨蛙を思わせる緑が濡れ濡れとしたロングヘアに、陽の光が透けて輝く水晶にも似たツノや翼。
それらに加えてスレンダーなプロポーションや褐色の肌が神秘的な印象を与える、ドラゴニアンの女性だ。
表情が常に笑っているように見えるせいか、マイペースな性格の中にもどこか底知れないものを秘めているラーナ。
「落とすわけには行きません、なんとしても」
今は気魄も充分にルドラの子供達を振りかざして、稲光が絶え間なく疾る雷の壁を構築。
前衛陣の傷を治癒すると同時に、彼らの異常耐性を高めた。
「ドラゴンどもの思い通りにはさせないぜ!!」
紫藤・大輔(機甲武術師範代・e03653)は熱く叫ぶや、エオスポロス目掛けて飛びかかっていく。
ワイルドな顔立ちと左眼を通る傷が特徴の、逞しい体躯を持つレプリカントの男性だ。
その元気溌剌な表情や筋骨隆々とした肉体に違わず、性格は根っからの熱血漢。
かつては巨大コンピューターへ繋がれたダモクレスだったが、守るべき民の犠牲でケルベロスに覚醒したという数奇な運命を持つ。
「さあ派手に行くぜ!!」
気合充分、大輔は戦術機動輪『島風・改』を履いた足で地面を蹴り、高々と跳び上がる。
そして、エオスポロスが炎を吐こうと下げた首の先、脳天へ重力のいや増した飛び蹴りを炸裂させた。
「ググググググ……!」
エオスポロスは苦悶に満ちた唸り声を上げるも、炎を吐き出す勢いは当然ながら衰えず、火事に勝るとも劣らぬ広範囲を一気に燃え上がらせた。
「フレックさんを無事に突破させる、それが私の第一目標」
エステルが身を呈してフレックを庇い、大きな火球に巻かれた。
●
フレックがエオスポロスの戦線を潜り抜け、アストライオスと四竜の元へ向かうまでの猶予は後4分。
「この戦いに勝って正義をなすぞえ!」
アデレードは気炎を上げてライトニングロッドを振り下ろす。
刹那、杖の先端部より青白い光が迸ってエオスポロスの顔面に直撃、全身へ電流を駆け巡らせて強い衝撃を齎した。
「私はお前たち全てを切り刻む刃となる!」
味方への礼儀正しさをかなぐり捨て、敵へ対する苛烈さを露わにするのはエステル。
「死の運命から逃げられると思うな!!」
エオスポロス——否、アストライオス陣営への溢れんばかりの憎悪と強く深い拒絶を示し、魔力のこもった咆哮を奴へ浴びせた。
「ちょっと失礼しますね」
ゴスッ!
「あ痛!?」
ガスッ!
「ショック療法です」
ラーナはルドラの子供達を棒術のように操り、エステルへショック打撃を与えて火傷を治療、体力も大幅に回復させる。
「我が手に来たるは大いなる父神が神槍! 刹那たるこの時にてその力を示せ!!!」
己が光翼を鋼鉄の刃群へと変化させるのはフレック。
偉大なるアスガルドの主神が振るったとされる神槍をひらりと舞う刃の羽根で再現、エオスポロスへ投げつけた。
戦闘開始から4分。
「どうした、テメーらドラゴンにとっちゃ取るに足らない虫けらみてーなオレ一匹倒せねーのか?」
ついさっき不誠実な裁定でエオスポロスの怒りを買った泰孝が、尚も挑発すると共に竜砲弾を撃ち込む。
「どんどんこうやって傷口を広げさせてもらうよ!」
チェーンソー剣を構えて威勢良く斬りかかるのは白兎。
——ザクッ!
しっかり気持ちを切り替えたと判る鮮やかな太刀筋で、エオスポロスへ切り傷を重ね、泰孝への怒りをますます煽った。
そして、遂に戦闘開始から5分が経過して。
「猫も捉えられないようじゃ、お前の実力もたかが知れてるな」
今まで懸命にエオスポロスの前をうろうろして、少しでもフレックの被弾率を下げようとしていた白亜が、やはり無表情のまま嘯く。
その手に握られているのは、すっかり竜の血に塗れたエクスカリバール。
フレックの突破が上手くいくよう願いつつ、少しでも命中させ易いグラビティでエオスポロスにダメージを与えんと、渾身の力でバリケードクラッシュを見舞った。
「喰らえ!!」
自身のエネルギーを太陽が如き球状へ収束させるのは大輔。
「この光は未来を照らす、黄金の太陽の光! 輝け! 旭光剣爛、ヘリオライトバースト!」
帯状に放たれたエネルギーの光輝は、名に恥じぬ破壊力でもってエオスポロスの胸部を貫き、酷い火傷すら負わせた。
「命投げ捨てる前に脆弱な番犬一匹倒せず、自爆もできず無駄死にたぁお笑いだな、コイツはよぉ」
泰孝も3つのサイコロを投げつけ、エオスポロスの未来を再び裁定する。
何せ全ての面を六の目にしたイカサマダイスなれば、不正なる結果が否応無く怒りを呼び覚ますのも当然であろう。
(「無事に送り出してみせましょう」)
ラーナも今ばかりは回復の手を休め、2本のライトニングロッドでエオスポロスの翼を何度も打ち据え、体内へ雷を流し込む。
そして。
「あたしは貴方達を尊敬している——最強でありながらもその誇りを失わず奢りも持たず命を懸けて戦い抜く姿は、最強であり続ける要因だったのでしょう」
アデレードとエステルのディフェンダー陣に守られ、被弾した際はラーナのサポートを受けたフレックが、エオスポロスを振り切って前進を始める。
「だからこそ……あたしは挑む。そして勝つ……どんな手を使ってでもね!」
なるべく泰孝に攻撃を集中させようと焚きつけ続けた白亜や白兎の尽力もあって、フレックは鋭い爪を振るうエオスポロスの脇をすり抜け、ついに喪亡竜エウロスを目指してバッサバッサと飛び去っていった。
●
「グギャォオオオォォ!!」
侵空竜エオスポロスは、フレックの突破を許してしまった事を理解しているのか、大気撼わす唸り声を上げ、血走った目で鋭い爪を開き、斬りかかってきた。
「フン、無闇に力を誇示するばかりで正義を挫けると思うか?」
大輔を庇って肩を裂かれたアデレードは、不敵な笑みを浮かべると同時に、蒼い地獄をめらめらと燃え上がらせる。
右眼から広がった真っ青な炎はやがて彼女の全身を包み込み、肩の傷を綺麗に塞ぐだけでなく、アデレードの戦闘能力をも大幅に増幅させた。
「嫌だ……わからない……許せない……認めない……認めたくない……だから……嫌いだ……消えてしまえ……」
エステルは、デウスエクスは許されざる存在で死滅させるべきとの憎悪とそれが揺らぎはしないか恐れる不安を縒り合わせた、硬い背骨に支えられて今ここに立っている。
一本通った芯を骨組みに造り上げた拒絶の壁を糧に、エオスポロスから負わされた傷を自ら癒した。
ちなみに彼女、ファナティックレインボウを積み忘れてハウリング以外に攻撃手段が無かった為、フレックが飛び去る際の一撃は残念ながら敵に見切られてしまっていた。
「敵の防御剥がしは任せろ!」
と、チェーンソー剣をぶん回して無慈悲な斬撃を仕掛けるのは白兎。
実は彼も、因幡の傷薬・typeBをエオスポロスにお見舞いする筈がtypeAを持ってきていたりする。それでもチェーンソー斬りで仲間への怒りを増幅できたお陰で、幸いジャマーとしての立ち回りに不都合はなかった。
フレックが離脱してから2分が過ぎ。
「必ずやドラゴンどもを叩き落としてぶっ潰す!!」
未だ覇気に満ち溢れた大輔は、黒炎滅龍刀『真武・荒魂』をすらりと抜き払ってエオスポロスへ肉薄。
三日月のように緩やかな弧を閃かせ、奴の前脚を的確に斬り裂いた。
「こうだったでしょうか?」
うろ覚えのコマンドから鋭い蹴りを繰り出すのはラーナ。
テキトーではあるものの力の籠った足技がエオスポロスの首へ見た目より遥かに重い打撃を与えた。
「どうした、このままじゃケルベロスの大勝、自爆もできずに戦果もオーブもこっちの総取りだぜ?」
エオスポロスに何度焼かれても、攻撃の合間にイカサマを挟むのは泰孝。フレックの離脱後も挑発をやめないのは、全体の損耗を抑えたいが故か。
そして戦闘開始から数えて10分。
「そら、猫たちのお通りだ」
白亜は、蜂蜜色の地獄の炎で作り出した小さな猫の群れを、エオスポロスへ向かって突撃させる。
猫達はその跳躍力を活かしてエオスポロスへ飛びつき、尖った歯を立てて噛みついたり細く鋭利な爪で引っ掻いたりを繰り返し、
——ズシーー……ン!
遂には奴の体力を削り尽くして、その息の根を止めたのだった。
息の根だけではない。12分よりも早く余裕をもって戦闘を終わらせたお陰で、侵空竜エオスポロスの自爆を食い止める事ができた。
「他のチームの援護に行くぞ!」
大輔が息巻いて走り出すも、それは叶わない。
何故なら、彼らが他班の戦場へ辿り着く前に、熊本城のあちこちから爆発音が響き渡ったからだ。
「熊本城が……」
ラーナの表情が強張る。
エオスポロスの影が天守閣へ吸い込まれる度に大きな爆発が起こり、次第に城郭全体が砂煙に包まれていく。
「……」
ドラゴンへの怒りを新たに崩壊した熊本城を苦々しい顔で見つめていたエステルだが。
砂煙が晴れて、天守閣跡に浮かぶ物体へ気づくや、声を上げる。
「まさか……ドラゴンオーブ?」
遠目にも判る大きな球は、何者をも寄せつけない威圧感を放っていた。
「空間が歪んでる……?」
白兎が思わず耳を伏せた。
「いや、もっと禍々しいものじゃろう」
アデレードの眼に険しさが増す。
この場に居続けるのは危険と判断して、撤退する7人。
後はフレック達突破組の無事を祈るより他なかった。
作者:質種剰 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年7月7日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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