初恋は無理やりにでも実らせたい

作者:塩田多弾砲

 とある高校の、校舎裏。
「恵美、先輩……ボクは……先輩の事が……好きです! 恋人になって下さい!」
 富士宮恵美をそこに呼び出した、美樹原ジュンは……告白していた。
「……嬉しいわ。けど……ごめんなさい。私にはもう……付き合っている人が居るって、知っているでしょう?」
「でも! あんな男より、ボクの方が先輩には相応しいです!」
 ジュンの言葉に、悲し気にかぶりを振り、
「美樹原さん……あなたは女の子、でしょう? その……差別するわけじゃないけど……女性同士で恋人になるのは、私、ちょっと……」
 恵美にそう言われ……、ジュンは呆然としたまま、その場に立ち尽くした。
 その場を逃げるように去った、恵美の背中を見つつ……、
「……ボク、絶対にあきらめない。女同士だからって、なんだっていうんだよ。恵美先輩、成績優秀だし、スポーツもすごいし、綺麗だし、性格も良いし、学園のアイドルっていうべき人だし……高嶺の花とか皆は言うけど、ボクこそが先輩の恋人に相応しいんだ。初めてだもん、こんな気持ち……絶対に……諦めない! 諦めたくない!」
 ぶつぶつと、ジュンはつぶやき続けた。
 そんな彼女の前に、不意に……。
「ふうん、初恋の強い思いを感じると思ったら……」
 少女が、ジュンの前に現れた。
「誰?」
 その少女が着ているのは、ブレザーのような制服。着崩しているためか、どこか遊び慣れた女子高生といった雰囲気。
 髪はセミロングで、年齢もおそらくジュンと同じくらいだろう。
 棒付きの丸い飴を咥えつつ、片手で『鍵』をくるくると回していた。
「ね、私の力で、貴方の初恋……実らせてあげよっか」
 少女は、ジュンに問いかける。
「手伝って……くれるの?」
「もちろん! 初恋って、大事だよねー。諦めるなんて、絶対いやだよねー」
 そう言って、少女はもう片方の手で、飴を口から取り……近づく。
「無理そうな相手でも、初恋実らせたいよねー。なら……力づくでモノにしなきゃ!」
 そして……。
「えっ……」
 戸惑いを覚えるジュンの唇に、少女はキスを。
「んうっ!?……んっ………んっ……」
 いきなりの事に、面食らうジュン。しかし……飴の甘さも手伝い、その心地良いキスに夢中に。
「……んっ……んっ……んんんっ!?」
 そして、胸に『鍵』を指され、ひねられるのも感じ取った。
 その場に崩れ落ちたジュンの代わりに、ドリームイーターがその場に現れる。
「さぁ、あなたの初恋の邪魔者、消しちゃいなさい」
 少女……ファーストキスは、ドリームイーターにそう言い放った。
 それから数刻後。
「……えっ?」
 放課後。恵美は彼氏と校門で待ち合わせ、そのまま帰宅しようとした、その時。
『初恋は、実るべき! その男は邪魔!』
 恵美の前で、ジュンの外見をしたドリームイーターが出現、彼氏に襲い掛かった……。
「前に、女の子を凌辱しようとするドリームイーターが、とある高校に現れましたが、日柳・蒼眞(無謀剣士・e00793)さんたちにより撃退されました。それは良かったんですが……」
 セリカが君たちに、今回の内容を伝える。
「同じ学区の、別の高校……女子校に、また別のドリームイーターが出現しました」
 日本各地に出現し始めた『ドリームイーター』。
 高校生の持つ強い夢を奪って、強力なドリームイーターを産み出す事が目的らしい。
「今回狙われたのは、美樹原ジュンという女子校の生徒です。彼女は『初恋を拗らせた』強い夢を持っており、それが今回のドリームイーターを産み出しました」
 この夢の源泉は『初恋』。それ故に……、
「それ故に、『初恋』を弱めるような説得ができれば、弱体化が可能になります」
 対象……今回は、女子校のアイドルで先輩の、『富士宮恵美』。彼女への恋心を弱めても良いし、初恋という言葉への幻想をぶち壊すのでも構わない。うまく弱体化できれば……後の戦闘を有利に進められるだろうと、セリカは告げた。
 美樹原ジュンは、髪形はショートカット。童顔だが、体型は整っており、胸もやや大きめ。
 元気の良い後輩キャラといった感じで、決して根が悪い少女ではないのだが……何かにのめり込んだら、それに夢中になり、他に目もくれない……と、良くも悪くもミーハー的な性格らしい。
 そしてドリームイーターは、ジュンと同じような外観で、その胸部分にモザイクがある。
 用いるグラビティは、心を抉る鍵、欲望喰らい、モザイクヒーリング。
「場所は、放課後の校門……それも裏門の方で、放課後なので周囲には人の気配はありません。そこで、恵美さんは彼氏さんと待ち合わせていたところでしたが、ドリームイーターはそこに現れました」
 ケルベロスを優先し狙うので、一般人の救出は難しくないという。
「高校生の夢を奪って、ドリームイーターを生み出すなど、許せません。ドリームイーターを弱体化させる事ができれば、ジュンさんの拗らせた初恋への思いも弱まると思うから、うまく説得してあげて下さい」
 ただ……と、セリカは付け加えた。
「やり過ぎると、恋なんていらない! みたいな事になるので、説得する時は、できれば加減してあげて下さい」
 やはり、失恋、そして恋愛の否定で終わるのは、あまりにかわいそうですから。最後にセリカは、そう締めくくった。


参加者
日柳・蒼眞(無謀剣士・e00793)
秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)
須々木・輪夏(翳刃・e04836)
風魔・遊鬼(風鎖・e08021)
アナスタシア・ジークリンデ(亡き友等に立てた一つの誓い・e19213)
楠木・晴翔(もふりたいならもふらせろ・e33150)
皇・晴(猩々緋の華・e36083)
ユッフィー・ヨルムンド(夢見るブルーベリー・e36633)

■リプレイ

●実らせたかった初恋
 恵美の前に現われたのは、ドリームイーター(DE)・ジュン。
 その姿は、ジュン本人とほぼ同じ。手にナイフのような武器を握っていたが、よく見たらそれは『鍵』だった。
『初恋は、実るべき! その男は邪魔!』
「美樹原さん? な、何を!?」
『言ったでしょ、先輩。その男より、ボクの方が……先輩の恋人に相応しいって!』
 狼狽える恵美に、
「……恵美、一体何が?」
 何が何やらといった感の、恵美の彼氏。
『お前を殺しに来たんだよ! 先輩の恋人は、ボクだ!』
 DEジュンが切りつけようとした、その時。
 周囲に霧、または煙のような気体が漂い……。
「待て!」
 そこから現れた青年の斬霊刀。それが彼女の『鍵』を受け止めた。
 彼の銀色の瞳……日柳・蒼眞(無謀剣士・e00793)の眼差しが、DEジュンを見返す。
『誰だ! 邪魔しないでよ!』
「悪いが……人を殺させるわけにもいかないんでな!」
 互いに弾き、距離を取る両者。蒼眞の後ろから、彼の仲間たるケルベロスが現れる。
「……早く逃げて」
「は、はいっ」
 須々木・輪夏(翳刃・e04836)、青き瞳のシャドウエルフに促され、恵美は彼氏とともに煙の中に……バイオガスの中に姿を消した。
 代わりに、煙の中から出てきたのは……三人のケルベロス。
「キープアウトテープ、張り終えましたよ……」
 赤い瞳の、細身の男。螺旋忍者にして刀剣士、風魔・遊鬼(風鎖・e08021)。
「ったく、恋ってのは本当に厄介だな。ここまで一人の人間を狂わせちまうなんて、な」
 白髪に、桃色の瞳の少年。楠木・晴翔(もふりたいならもふらせろ・e33150)。
「助けに来ました。……恵美さんと、ジュンさんを」
 シャーマンズゴースト『彼岸』を引き連れた、男装の麗人。皇・晴(猩々緋の華・e36083)。
『お前ら……お前らも、ボクを邪魔するのか! ボクが誰かを好きになる事が、そんなに悪い事なのかよ!』
 蒼眞と輪夏、遊鬼に晴翔に晴と、五人と対峙しても……DEジュンは怯むことなく、雄たけびを上げる。
「悪いわけ……ねえよ」
 そんな彼女に、蒼眞は声をかけた。
「……当たり前だが、先輩の彼氏を殺したところで……その後で君が恋人になれるわけじゃないぞ」
『……なんですって?』
「それどころか……大抵は彼氏を、元彼を殺した相手なんて、憎まれて恨まれるだろうから、余計に恋人の座は遠のくだろうな。それに……」
 一呼吸ついて、言葉を続ける蒼眞。
「それに、思い出は美化されるものだ。先輩に好きになって貰おうにも、死んだ人間と比べられたら、勝ち目なんて無いぞ……」
 正論を以て諭そうとしたが、
『……だったら、ボク自身の魅力を分かってもらうように、知ってもらう! 先輩は優秀だから、きっとわかってくれる……』
 正論を、狂気と身勝手な思考で否定するDEジュン。
「……それ、『恋愛』でなく」
 それに対し、遊鬼が、
「……『憧れ』や『憧憬』じゃないでしょうか」
『なんだと?』
 それに、DEジュンが反応する。
「本当に好きなら、『自分が相応しい』『自分でなければならない』とは、言わないはずです。むしろ、振り向いてもらえるように努力するはずでは?」
「ああ、そうだな。オレもその意見に賛成だ」と、晴翔が続く。
「オレから見たら、お前はスペックの高い先輩を『モノ』として考えてる風に見えたんだけど」
『そんな事ない! そんな、事は……』
 二人に対しても否定するが……、図星を突かれたのか、言葉に詰まっていた。

●実らぬ初恋
「……ジュン、僕は思うんだけど」
 晴が、あと一押しとばかりに口を開いた。
「無理やり手に入れる愛……『略奪愛』というものも確かにありますが……。それで手に入れた愛が、本当に欲しかったもの、なのでしょうかね」
『そ、それは……』
「僕はあなたの事も、あなたが好きになった先輩の事も知らない。けど、あなたを見ていると、先輩さんは色々優れたものを持った、素敵な人だって事くらいはわかります。そんな先輩さんに好かれたい、自分のものにしたいと思う気持ちも……」
『………』
「うん。先輩のこと好きっていう、ジュンの気持ちは、私たちもわかった、よ」
 と、輪夏が晴に続き言葉を。
「でも、先輩の気持ちって、ちゃんと考えてる?」
『……先輩の、気持ち?』
「うん。わたしも、相手が本当はどう思ってるかなんてわかんないけど、相手が嫌がることはしたくないって思ってる。だって……わたしがされたら悲しいし、嫌だから」
『…………』
「彼女の、輪夏さんの言う通り……相手の事を思いやる気持ちが、必要ではないでしょうか」
 晴がうなずきつつ、あくまで優しく、穏やかに言葉を紡ぐ。
「きっと先輩さんも、思いやりをあなたに期待していると思いますよ」
『……ボクに、期待?』
 再び、輪夏が。
「置き換えて考えて、ジュンは先輩と付き合えたとして、誰かに先輩殺されたら嫌じゃない? そんなことしたら、先輩悲しむし嫌われる、よ」
 ……ジュンもそんなこと、本当は嫌なんじゃない?
 そう問いかけられ、
『……そんなこと、ないもん』
 篭絡されかかった自分を恥じるように……、DEジュンは叫んだ。
『そんな事ないもん! ボクが先輩と付き合えたら、殺そうとするやつは逆に殺してやる! 思いやり? それって……結局はボクに先輩をあきらめろって事じゃないか!』
「おいてめー、いいかげんにしろ!」
 晴翔が声を荒げた。
「好きな相手を思いやるのは、当たり前の事だろうが!」
『うるさい! 恋もしなけりゃ恋人もいないようなあんたたちが、偉そうに言うな!』
「オレも恋はしたし、初恋が実って恋人もいる! だからこそ、自分勝手な思いを正してやりてえなって……」
 そこまで言った晴翔は、
『……そうか、恋が実ったから、失恋したボクを……みんなで笑いものにするつもりなんだな!』
 血の涙を流す、DEジュンの顔を見た。
『許さない……絶対に許さない。恵美先輩も、彼氏も、お前らも……みんなみんな殺して、ボクも死んでやる!』
 眼に見えるくらいに濃密な『負』のオーラが、DEジュンの周囲から漂い出る。
「……悪い、オレの失言だ」
「いや晴翔、仕方ない。今は、彼女の攻撃を防がなきゃ……」
 蒼眞が身構えるが、
 DEジュンは、地面に膝を付き……泣いていた。
『なんで……なんで皆、ボクをいじめるんだよぉ……! ボクが恋したのが、悪い事なのかよぉ……』
 先刻までの『殺気』が……『憐憫』に変化していた。
 その様子を見て、ケルベロスたちもさすがに哀れさを感じてしまう。
『こんなんだったら……恋なんて……しなきゃ良かった……ううん……』

 ……ボク自身も、生まれなきゃ良かった。

 その言葉とともに、彼女が自らへと殺意を向けるのを……ケルベロスらは気が付いた。

●実らなかった初恋
 まずいと、駆けだそうとした晴と輪夏だが、そこに、
「……ジュンさん、初恋、おめでとうございます」
 煙をかきわけ、ユッフィー・ヨルムンド(夢見るブルーベリー・e36633)が、姿を現した。
 藍色の瞳をした、低身長のドワーフの女性は……見るからに淑やかなプリンセスといった佇まいを見せている。
「悪い事じゃないよ! 絶対……恋は、悪い事じゃない!」
 彼女に続き、秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)が、
 そして、
「……好きになるのは結構だがな。結ばれたい挙句に、別の奴を傷つけて奪い取ったとして。相手はお前を好きになると思うかね?」
 ドラゴニアンの凛々しい女性、アナスタシア・ジークリンデ(亡き友等に立てた一つの誓い・e19213)が、
 それぞれ現れた。
「アーニャ? すまん、後、頼めるか?」
「ああ、晴翔。任せろ」
 自分の恋人に請け合い、アナスタシアは……DEジュンへと眼差しを向けた。
「恵美さんたちは、安全な場所に避難させたよ!」と、結乃。
「ええ。あとは、お任せください」
 と、ユッフィーは……DEジュンへ歩み寄った。足元には、ボクスドラゴンが。
『……なんだよ、おめでとうって。莫迦にしてんのか!』
「いいえ。恋したという事は……あなたも素敵なレディとして、大人への一歩を踏み出した事です。相手が誰だろうと、本気で誰かを好きになれた。この事は祝福に値する事です」
 でも……と、ユッフィーは言葉を続ける。
「でも、相手を力尽くでモノにするのは……乱暴な『子供』が、他の子の玩具を強引に取り上げるようなもの。恵美さんは、あなたにとって『モノ』ですか?」
『モノ、だって? そんな事ない! 先輩はボクにとって希望で、全てなんだ!』
「そうでしょう? 血の通った人間、大切な方でしょう? 人として好きならば……玩具を奪うように、人を奪ってはいけません。その事はもう……ジュンさんもわかっておられるのではないですか?」
『それは……』
「私からも、いいか?」
 今度は、アナスタシア。
「今から訊ねる事は、あくまで『疑問』だ。責めたり、問い詰めたりするつもりはない。同じ恋する女性同士、答えてほしい」
 落ち着いているDEジュンに、アナスタシアは……訊ねた。
「仮に先輩さんを、これから彼氏を殺して奪い取ったとしても、それは相手を傷つける行為だ。先輩さんは、自分を傷つけた相手を好きになるような奴なのか?」
『……それ、は……違う、と、思う……』
「……もう一つ。先輩は傷ついたら、悲しむだろう。悲しんだそんな顔をした相手の隣に、お前は……『罪悪感』を抱かず、側にいられるのか?」
『…………』
 アナスタシアは、言葉を選び、『期待』しつつ、問うた。
 あくまで自分の言葉は『疑問』。様々な思惑……憎悪、嘲笑、怒り……は、『無くした』うえで問いかけている。
 ……その事をジュンに『理解してほしい』と、『期待』しつつ。
「ねえ、ジュンさん」
 返答の無いDEジュンへ、結乃が。
「初恋は、とっても大事なのはわかるよ。わたしも今……というか、16年ごしで、初恋真っ最中だしね」
『そう……なの?』
「うん。でも、あなたがどんなにその先輩に相応しかったとしても……周りが見えないまま、想いの強さだけを力尽くにしても……それは絶対、かなわないと思う」
『…………』
「初恋が失敗する遠因は、だいたいそれ、だしね。わたしも……それで、失敗しかけたし……」
『じゃあ、どうすれば……』
「うん。少なくとも、無理やりするのは、止めた方が良い、と思う」
 結乃の言葉が、優しく響く。
「初恋は、一生に一度だけ。だからこそ、とっても大事なもの」
 だからこそ……、
「だれかを想うことはひとりでできても、だれかと想いあうことはひとりではできないから……。無理やりは、絶対にいけないと思うの」
『玩具を、奪うように……人を、奪っちゃだめ……って、こと?』
「ええ……、そのとおりです」
 ユッフィーが肯定し、アナスタシアもそれに頷いた。
『先輩……恵美先輩……大好き、大好きだから……幸せに、なって欲しい……』
 DEジュンは、その手から『鍵』を取り落した。そして……泣きながら……祈るように、手を合わせ、目を閉じた。
「……悪く、思わないでほしい」
「ああ、悪く思うな」
「…………」
 蒼眞と晴翔、遊鬼が、その隙に……斬霊刀、惨殺ナイフ、ゾディアックソードを手にしてDEジュンに近づき……。
 泣いている彼女に、斬撃を放った。
 最初から、避けるつもりは無かったのか。ジュンの姿をしたドリームイーターは、抵抗せずにそのまま切られ……引導を、渡された。

「……なんとなく、わかったよ。先輩が、ボクをお断りした、その理由……」
 DEジュンが倒された後、本体のジュンはすぐ見つかった。
 そして、彼女は……なんとなくではあったが、皆に言われた事を理解していた。
「ね……皆さん。先輩と、彼氏さんは……どこ?」
「? 何を……」
 遊鬼が警戒するが、ジュンはかぶりを振った。
「……ボク、謝りたくて。それに……フラれたなら、ちゃんとケジメもつけたいと思って」
「……わかった。こっちよ」
 結乃が、彼女の手を取った。

●次は、実らせたい恋
「……謝って、きたよ」
 数刻後。
 ジュンは皆に見られながら、恵美の元へ向かい……謝罪して、戻ってきた。
 恵美は困惑しつつも、それを受け入れ……彼氏とともにその場を去った。
 そしてジュンも、ケルベロスたちの元へと戻る。
「皆さんも、ごめんなさい。ボクのせいで……ご迷惑を、おかけしました……」
「……ジュン、大丈、夫?」
 輪夏が、胸を苦しそうに抑えているジュンを心配する。が、ジュンは……涙を流しつつ、うなずいた。
「大丈夫。胸がすごく、痛いし、苦しいけど……大丈夫……」
 そして、無理やりだが、笑顔を浮かべる。
「……今の、その気持ち。忘れないで、ね」
 輪夏の言葉が、優し気にその場に響く。
「その分だけ、人に優しくなれるから」
「うん。……ボク……また……恋、できるかな?」
「できるよ! きっと、素敵な人と、必ず出会えるって!」
 結乃の言葉も、どこか優し気に。
「……女の子同士、でも?」
「もちろんですわ。恋愛に性別も、種族も関係ありません」
 そう言ってユッフィーは、足元のボクスドラゴン・ボルクスへ……彼女自身が、愛する存在へ、視線を向けた。
「必ず、あなたにも、互いに愛し愛される、大事な人が見つかります」
「……うん、その時が、楽しみ……」
 そこまで言ったジュンは……せき止めていた気持ちが、決壊したかのように……、
「……なら……失恋した、今は……うう……」
 顔が徐々に崩れ、涙があふれ、
「ボク、泣いて……良いよね?」
 先刻のドリームイーターと同じく……号泣した。
「ううぅ、うああああああ! あああああああ! あーっ! あーっ!」
 アナスタシアと晴翔は、それを見て……、
「…………」
「…………ちっ」
 なぜか自分たちも、胸に苦しさを感じていた。たとえ必要な事ではあっても、自分たちが、彼女を失恋させた事には違いない。
「いいよ……今は、泣いていいよ!」
 結乃は、思わず彼女を抱きしめた。
「…………」
 輪夏も、無言でジュンを、包み込むように抱きしめる。
「……ジュンさん。あなたは絶対、素敵なレディになります! このわたくしが、保証しますわ!」
 ユッフィーもまた、ジュンの痛みを分かち合うように抱きしめ、
「…………きっと、見つかる。痛みを知った君なら、愛し合える相手が……」
 晴は、そう言って抱きしめるのが精一杯だった。
 しばらくの間、その場には。
「うあああああ! あーっ! あーっ! あーっ!」
 号泣するジュンと、彼女を抱きしめるケルベロスたちの姿があった。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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