マージナル・ワークス

作者:洗井落雲

●境界と限界
 夕陽のさしこむ、誰もいない高校の教室で、加瀬清美は一人ため息をついた。
 抱えた数冊のノートは、友人達の、現国の宿題ノートである。これを、明日までに終わらせなければならない。
 別にいじめを受けているわけではない。単に、この科目は清美の担当である、と言うだけだ。
 随分前から、こういった『宿題の分業』を行っていた。最初は無邪気に、自分達の行為を『効率的である』と喜んでいたのだが、次第に罪悪感が心に積み重なっていった。
 よくはない、と思う。
 とは言え、このサイクルに、自分もすっかり浸かっているし、友人達……のみならず、クラスの同年代の子達の価値観は、『真面目に教師のいう事に従うのも馬鹿らしい』と言うものだから、「真面目にやらないと」と言った所で、鼻で笑われるだけだろう。
 最悪、本当に、絶交からのいじめに発展しかねない。
 でも、本音を言えば、このまま続けるのも、後ろめたくてつらい。
 どうしたものか……そう悩みながらも、結局はなぁなぁで、この関係を続けていくのだろう。
「――いや、正しいよ。お前は正しい」
 ふと、教室に、声が響いた。
 誰もいないはずだったし、幾ら清美が思いつめていたとしても、誰かが扉から入ってきたら流石に気づく。
 で、あれば、それは突然現れたのだ。
 清美と同年代位に見える、少女だった。
 巨大な『鍵』を手にした、何処か昔の不良少女じみた姿をした少女だった。
「なのに、押し殺しちまうのか? お前の本当の心は、どこにあるんだ? 他人に合わせて、自分の心を見失っていないか?」
 突如現れた少女は、矢継ぎ早に言葉を繰り出した。つかつかと清美に歩み寄り、清美へ反論を許さず。
「お前はお前で価値があるんだ――お前の考え! お前の行動! それだけに価値があるんだ! 他人に合わせてしまえば、その価値が無くなってしまう!」
 言いながら、清美の顔に、自身の顔を近づけた。ニヤリ、と笑い、少女は告げる。
「――ましてや、お前の考えは絶対に正しい。だから、お前が我慢する必要なんてないだろう?」
 その言葉に、清美がこくり、と頷いた。その目はどこか虚ろで、まるで催眠術かなにかにかけられたようだった。
「そうよね……私が絶対に正しい。だから、我慢しない」
 ぼそぼそと呟くと、清美の目が見開かれた。
 腹部には、少女の手にした鍵が突き刺さっている。少女がそれを引き抜くと、清美は意識を失い、床に倒れ伏した。
 その次の瞬間には、清美によく似た姿の怪人が、教室に突然と現れていた。手には『絶対にNO!』と書かれた棒を持っている。目元がモザイクで覆われているが、その眉毛は吊り上がり、強気な雰囲気を纏っている。
「いっちょ上がり……ってな」
 少女……ドリームイーター『フレンドリィ』は、その怪人の姿を見ながら、ニヤリと笑った。

●同調圧力フレンドリィ
「集まってくれて感謝する。今回の作戦について、説明しよう」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は、集まったケルベロス達へ向けて、そう言った。
 アーサーによれば、日本各地の高校にドリームイーターたちが現れ、高校生が持つ強い夢を奪い、強力なドリームイーターを生み出す、と言う作戦を繰り広げているらしい。
 今回狙われたのは加瀬清美と言う学生だ。どうやら、身内同士で『宿題を分担して行う』事に疑問を感じている所を狙われたらしい。
 被害者から生み出されたドリームイーターは、強力な力を持つが、この力の源泉である夢、つまり『空気を読むことへの疑問』を弱める様な説得ができれば、ドリームイーターを弱体化することができるだろう。
 ただし、その説得をやり過ぎてしまえば、『空気を読むことへの疑問』を完全になくしてしまうことになり、その結果、『他人にあわせてばかりで、自分の意見を言えない弱い心』になってしまう危険性がある。説得をせず、ドリームイーターを弱体化しないまま戦えば、その危険性は無くなるが……。
「彼女の罪悪感はもっともな事だ。倫理的な事を言えば、彼女の考えは正しい……のだが、今回は切っ掛けが問題だ。フレンドリィが利用したのは、『空気を読むことへの疑問』、言い換えれば『過剰な自己主張心』だから、今回は正しいとはいえ、今後彼女が『自分が絶対的に正しい』と自己主張を激しく繰り返しては、後の人間関係に悪影響を与えかねない。今回の件についての正しさと、過剰な自己主張は別物だと区別して説得するのがいいだろうな」
 戦闘現場は、夕暮れの教室の一室になるだろう。あたりに人はいないようだが、念のため、簡単に人払いをしておくとよいと思われる。
 敵はドリームイーター『清美』が一体。本人は、教室の床に倒れており、このドリームイーターを倒すことができれば、目を覚ますだろう。
 『清美』は、校舎内にいる友達を狙っているようだが、ケルベロスが現れれば、ケルベロスを最優先として攻撃を仕掛けてくる。
 なお、フレンドリィに関しては、すでに姿を消しているため、今回は戦う事は出来ない。
 生み出されたドリームイーターへの対処のみを考えてほしい。
「敵を倒し、被害者の心も救う……バランスの難しい作戦だが、君達ならやり遂げられると信じている。作戦の成功と、君達の無事を、祈っているよ」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出した。


参加者
アトリ・カシュタール(空忘れの旅鳥・e11587)
水無月・一華(華冽・e11665)
深風・眞尋(静寂の黒花・e27824)
歌枕・めろ(彷徨う羊・e28166)
未明・零名(ネームレス・e33871)
一比古・アヤメ(信じる者の幸福・e36948)
丸越・梓(月影・e44527)
蟻塚・ヒアリ(蟻の一穴天下の破れ・e62515)

■リプレイ

●限界・限界・限界!
 夕暮れの教室で、ドリームイーター『清美』は手にした棒を振り回した。満足げに頷くと、ゆっくりと、出口へと向かう。と――。
「残念だけど、お前はそこまでだ」
 声が響いた。『清美』が立つ出口と反対側の出口付近に立つのは、蟻塚・ヒアリ(蟻の一穴天下の破れ・e62515)である。
「相手の悩みにつけこむ……聞いてはいたけど、そのやり口、詐欺師やビルシャナのようだな。まぁ、そうした本人は、既に姿をくらましたみたいだけど」
 ヒアリは無表情でそう告げるも、警戒は怠らない。現に『清美』は、そのターゲットを、ケルベロス達へと変更した様子だ。
「すでに人払いは済ませてある」
 丸越・梓(月影・e44527)が言った。ケルベロス達は、事前に人払いを行い、キープアウトテープなどを駆使して、付近を封鎖している。
「俺達を倒さなければ……という奴だ。悩みなら俺達が聞くが、どうだ?」
 梓の言葉に、『清美』は手にした棒を力強く振るう事で答えとした。
「まぁ、そうなるよね」
 一比古・アヤメ(信じる者の幸福・e36948)が苦笑しつつ、言った。
「しょうがない、まずは体当たりで話し合い、と行こうか」
 アヤメの言葉に、ケルベロス達は各々武器を構え、戦闘態勢をとる。『清美』は走った。手にした棒を振りかざし、水無月・一華(華冽・e11665)へと迫る。一華は斬霊刀を抜き放ち、迎え撃った。力任せに振り下ろされた『清美』の一撃を、刀で防御する。打点をそらすように流す一華の防御は、その力を受け止めるのではなく、受け流すことで力を殺す。しかしながら、一華の手にはしびれが残る。受け流した『清美』の棒が、床を激しく破壊した所を見れば、その一撃に込められた力が計れようと言う物。
「あら、まぁ。伺っていた通り、相当の実力をお持ちですのね」
 柔らかい笑顔は崩さず、しかし油断はせずに一華が言う。そのまま、一華は素早く『清美』へと斬りかかった。所作を含め、美しく放たれる一閃が『清美』の身体を斬りつける。一華はそのまま距離をとる。『清美』の身体には斬りつけられた跡が残るが、致命打には至らず。
「生命力も充分……ドリームイーターの自信ももっとも、と言った所でしょうか。ですが少々、勢いと力に頼りきっている所が見受けられますわね」
「なら、しっかりとお話ししてあげないといけないわね」
 歌枕・めろ(彷徨う羊・e28166)がそう言いながら、オウガメタルより輝きを放ち、味方のケルベロス達を援護する。ボクスドラゴン『パンドラ』は、一華へと自身の属性を注入して、その傷を癒す。
「力を削ぐ……という理由もあるけれど、清美さんの悩みも解決してあげないといけないわ」
 と、そんなケルベロス達の合間を縫うように、翡翠色の鳥が飛んだ。グラビティで生み出されたそれは、旅人の行く道を守護する者である。
「そうだね」
 瞳を閉じ、翡翠色の鳥へと祈りを捧げていたアトリ・カシュタール(空忘れの旅鳥・e11587)が、そう言いながら目を開いた。
「清美さんを救ってあげたい。ドリームイーターの手からも、今の悩みからも」
「なら、ひとまずは足止めと行こうかな」
 アヤメが言いながら、飛んだ。様々な軌道を描き、アヤメが宙を舞う。その動きに幻惑された『清美』は、アヤメの姿を見失った。なれば、次に繰り出されるのは必殺の一撃である。
「白雪に残る足跡、月を隠す叢雲。私の手は、花を散らす氷雨。残る桜もまた散る桜なれば……まずは一撃、いざ!」
 『清美』の死角よりの飛翔。手に集めた螺旋力を一気に開放し、『清美』へと叩き込む。燐光、そして血しぶき。その様は、まるで連なる花を連想させた。
「なるほど、その一撃、蟻(有り)だね」
 続くヒアリが、ガトリングガンにて銃弾を叩き込む。
「では、私から」
 深風・眞尋(静寂の黒花・e27824)はそういうと、『清美』を優しく見やる。
「「絶対にNO」と言える気持ち、確かに大事だと思います。それに、貴方の疑問は最もだと思います。けれど……「絶対NO」と、お友達につきつけるだけでいいのですか?」
 眞尋は攻性植物より黄金の果実を結実させ、その輝きにより仲間達を援護する。
「貴方は周りの空気が読める賢い女性。だから苦しんでいたんですよね? そんな貴方だからこそ……他にもお友達と話せる事があると思います。一方的に正義を押し付けるのではなく、妥協点を見つける、とか。……例えば、たまには分業じゃなくて一緒にやってみるのはどうかってお友達に相談してみるのはどうでしょう? もしかしたら皆で楽しく勉強できるかもしれませんよ」
「次は私の番、かな。マーナ、手伝ってね?」
 未明・零名(ネームレス・e33871)が声をあげる。ボクスドラゴン『マーナガルム』は、主の言葉に、小さく吠えて答えた。
「あのね、私は、世の中に「絶対正しい」ことはないと思うんだ。清美ちゃんの考えも確かに正しいけど、お友だちの意見が間違いってわけじゃない。清美ちゃんも最初は効率がいいって思ったよね?」
 言葉を紡ぎながら、零名はゾディアックソードの力を解放した。足元に守護星座の魔法陣を描き、その輝きをもって仲間達を守護する。
「自分の考えが絶対だと思っちゃうのは。視野が狭まっちゃう気がするよー」
 マーナガルムはとてとてと戦場を駆けまわり、ケルベロス達へ自身の属性を注入、その力を分け、援護を行う。
「宿題は自分でやりたいって、とても偉いし大事な意見だと思うの。だから、お友だちの意見も尊重しながら、上手く折り合いがつけられるといいなって思う、かな!」
 おしまい、と零名。『清美』の様子をうかがうが、果たして言葉が届いているのかはわからない。しかし、届いていると信じ、言葉を投げかけ続けるのだ。
 梓は『清美』へと、穏やかな声色で話しかけた。
「空気を読むのもこの社会では必要であるが、『NO』と言える勇気もなければ自分を護れないよな。その点では君はきっと正しい」
 淡々としてはいたが、その言葉に乗せた色はとても優しい。
「君は優しくて真面目で、だからこそ悩んでいるのだと思う。――けれど過剰な自己主張はいらぬ争いを呼ぶもの。何も『空気を読む=周りに従順に従う』ってことではないんだ」
 そう諭す梓は、何処か年下のきょうだいに接する兄のようでもあった。
「そう極端に振り切れる必要もないさ。進路を理由にして遠回しに周りに働きかけてみてはどうだろうか。押し付けるのではなく、あくまで提案として」
 ケルベロス達の言葉に、『清美』は苦しむようなそぶりを見せた。しかし、『清美』は棒を振りかざすと、叫び声をあげながら振り下ろした。巻き起こる熱風が炎となって、ケルベロス達を包み込む。
「だ、大丈夫?」
 零名が思わず声をあげるのへ、マーナガルムとパンドラが、くぁ、と鳴いて答えた。二匹で顔を見合わせ、その後、フルフルと首を振っている。
「激しい炎の攻撃でしたね……あるいは、これが彼女の悩みの深さの表れなのでしょうか?」
 眞尋の言葉に、
「いずれにせよ、このまま放っておいては彼女が危険だ」
 梓が言った。
「彼女の考えは正しいと思う。……だからこそ、その正義に溺れては、いつか身を滅ぼす。ここでできれば助けてやりたい」
「あの子をドリームイーターから助け出して、悩みからも助け出す。二兎追うものは……何ていうけれど、私達ならできるよね」
 アトリは穏やかに笑いながら、そう言った。
「うん! あの子に届くよう、もう少し頑張ろう」
 零名の言葉に、ケルベロス達は頷いた。再度『清美』へと相対する。
「加瀬さんはとても真面目で頑張り屋さんなのですね。そして、同じくらい友達想いさん」
 一華がゆったりと、言葉を紡いだ。
「強い言葉で“違う”と言ってしまえばそれまでやもしれません。でも、本当はもっと伝えたい言葉があるのではないかしら? ただ否定するだけではない、あなたなりの言葉」
 一華は、頬に手を当て、「例えば……」と呟き、考えるそぶりを見せた後、
「……「一緒にやらない?」とか、「ここを教えて?」とか聞きあったり、「ここはこうだよ」と教えあったり……分け合いながらも一緒にやることは、人に笑われる『真面目』では無いと思いますわ。まずは、一人で悩まず、お友達と相談はいかが?」
「そうね、一華さんの言った通り、皆で一緒に、と提案するのもいい事だわ」
 続いてめろが、言葉をかける。
「友達と一緒に、特異な科目を教え合って宿題をするのも、楽しいと思うの」
 めろは微笑んで、続けた。
「清美さんの気持ち、めろは偉いと思うわ。人と違う意見を声に出すのはとても勇気があることだもの。でも、自分の意見も大事だけど、他の人の意見を聞くのも大事。友達と話し合ってみたらどうかな?」
「友達と始めた事、断りづらくなっちゃうの、分かるなぁ……」
 ちょっと苦笑を浮かべつつ、アトリが言う。
「でも、自分の思いを強く伝え過ぎるのは、友達とやり辛くなっちゃうかも知れないね。……あのね、本当の友達っていうのは、言いづらいことでも相談しなきゃいけない時があると思うの。でも、そういう事を相談できるから、信頼できるし、安心できるんだと思う」
 だから、とアトリは言うと、
「皆で勉強しようよって話してみるの、いいと思う。そろそろ将来のことも考えなきゃいけないし……お姉さん、そう言うのも大事だと思うよ。うん」
「空気を読めるって長所だと思うけどね、僕は。君が分業のことを気になってるならそれを活かして、物言いするんじゃなくて誘導するって手も蟻(有り)だと思うよ」
 ヒアリが続ける。この年頃の子達を考えると、過剰な自己主張は取り返しのないことになるだろう。そんな事を考えつつ、
「例えばノートに目を通すぐらいはしないと、テスト結果に関わって先生に怪しまれるかもってさり気なく言ってみたり、とかね。少しずつ誘導するのも蟻(有り)かな」
 『清美』はさらに苦しむ様子を見せた。自身が形作られている土台、それが崩れていくように感じているのかもしれない。
「ボクの言いたいことは大体仲間が言ってくれたから。ボクからはこれだけ」
 アヤメが言った。
「ま、何が正しいのかはその時その時で悩めば良いんだからさ。そして、君が悩む、そのためにも、助けるよ。今すぐに」
 『清美』が吠えた。苦しむような声である。言葉は尽くした。想いは届けた。
「後は、ドリームイーターを倒すのみ……!」
 眞尋が言った。説得の可否はさておき、このドリームイーターは倒さなければならない。ブラックスライムを変形させ、『清美』を飲み込ませる。『清美』は抵抗しつつも、その身体はスライムがへばりつく。
「まっててね、今、助ける!」
 零名はエアシューズで滑るように駆け出した。マーナガルムはそれを追う。零名の炎を纏った蹴りの一撃が『清美』を切り裂き、マーナガルムのタックルがそれへ追撃する。
「シス、食らいつくせ。彼女の悪夢を、その悩みごと」
 梓が呟く。その言葉と共に梓の影がうねると、そこから浮かび上がる様に、巨大な黒い毛並みの犬が現れた。その犬――シスは主へ、赤い瞳を向け、頷きを返すように見つめた。そして、光を切り裂く一条の闇のように、それは『清美』へと向けて駆けだし、その魂へと食らいつく。
 『清美』はうめき声をあげると、その身を震わせた。苦し紛れにはなつ炎は、先ほどまでの勢いはない。
「真面目なお嬢さんを誑かすなんて……斬られても致し方無し、と」
 その炎の合間を縫って、一華は走った。刃を煌かせ、神速の一閃。『清美』が悲鳴をあげる。深々と切り裂かれた身体からは血は出ないが、何かオーラのようなものが漏れ出しているように見えた。
「それじゃあ、これで――」
 めろが言った。手にしたゲシュタルトグレイブを素早く突き出す。
 稲妻の如きその一撃は、『清美』の身体を貫いた。
「悪い夢も、悩みも、全部――お終い、よ」
 めろがゲシュタルトグレイブを引き抜く。『清美』がぐらり、とその身体を揺らし、地に倒れ伏した。傷口からしゅうしゅうと煙を吹き出しながら、やがて溶けるようにその身体は崩れ、消えて行ったのである。

●境界線から日常へ
「大人への反発、友人との関係……思春期らしい悩み、でしたわね」
 のんびりと笑いながら、一華が言った。
 戦闘後、教室内はヒールにより元通りになり、後は清美がその目を覚ますのを待つばかりである。
「悩んで悩んで……大きくなって。未来への選択肢を増やしていくのですわね」
 一華の言葉に、
「そうだね。素敵な未来と、素敵な友達……彼女も、そんな大切なモノを見つけられると良いなぁ」
 アトリが頷きつつ、そう言った。
「学生時代か……そう言えば、ボクは修業時代の学業はサボっていたよ。そう考えると、彼女は偉いよね。うん」
 うんうんと頷きつつ、ヒアリが言った。
「あら、清美さん、目が覚めたみたいね?」
 めろが言う。その言葉通り、梓によって介抱されていた清美が目を覚ました。清美は、自分に何があったのかを覚えていたのだろう。大慌てで立ち上がると、「ごめんなさい!」と頭を下げた。
「わわ、そんなに頭を下げないで! 大丈夫だよ!」
 零名が慌てて声をあげる。マーナガルムも主を真似るように、わたわたと手を振った。
「君が悪いわけじゃないからね。それより、何かおかしなところはない?」
 アヤメが尋ねるのへ、清美は頷いた。どうやら、異常はない様だ。説得もしっかり届いた、という事だろう。ケルベロス達は胸をなでおろす。
「私達の言葉は……多分、既に伝わっていると思います」
 眞尋が言った。
「だから、これ以上は、僕達からは何も言いません。とにかく、あなたか無事でよかった」
 眞尋の言葉に、清美は気恥ずかし気に頷いてから、改めてケルベロス達に礼を言った。
「礼を言われるような事じゃないさ」
 梓が言う。
「君の罪悪感は正しいものだし……っと、これ以上は野暮と言う物だな。友達と、上手くいくと良いな」
 梓の言葉に、清美は頷いた。

 少女の命と、少女の心。
 二つのかけがえのない物を、ケルベロス達は見事に守り切ったのであった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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