とびっきりの圧倒的パワー!

作者:霧柄頼道

 校内の敷地に設置された武道場。その中では空手部の練習が行われている。
 繰り出される拳や蹴りの一発一発には精魂が乗り、その熱気は陽炎のように室内を揺らめかせた。
 そんな様子をわずかに開けられた扉の外から覗いていた進藤卓は、一つため息をついて鞄を握り直し、いそいそと裏門から家路に着こうとする。
「あなた……自分の事で何か悩んでいるんじゃない? 良かったら聞かせてみて」
 その時、横合いから不意に声をかけられ、ぎょっとして振り向く。物陰に立っていたのは見覚えのない女子生徒。銀髪で、いやに自信ありげな表情をしていた。
「いや……その。僕、身体も貧弱で、内気で、下ばっかり見てて……そんな自分を変えたいのに、なかなかうまくいかなくて」
 オーラがあるというか、押しの強い感じのする相手に思わず、ぽつぽつと抱えている悩みを話してしまう。
「ちなみに、身近にいる知り合いや友達なんかじゃ、どんな人になってみたい?」
「……空手部主将の、山沖武くん……かな。前に助けられた事があって、それからあんな風に強くなってみたいなって」
 そっか、と笑う女子生徒の手元には、いつの間にか鍵が構えられており。
「理想の自分になるためには、その理想を奪えばいいじゃない」
 何をする暇もなくその鍵に貫かれ、ドリームイーターを生み出された卓はばったりと倒れ込んでしまったのだった。

 そのしばし後、練習を終えた武道場には一人、最後まで後片付けをしていた部の主将、武がそろそろ帰ろうと外へ出ようとしていた時。
「ふははッ! 俺は強い、俺は明るい、あと背筋もぴんと立ってて姿勢もいいぞォ!」
 空手家っぽい道着姿だけどなまっちろい体格の顔面モザイク野郎がだしぬけに駆け込んで来て、襲いかかって来た。
「な、なんだァ貴様は――ぬおおおぉぉぉぉああああッ!?」

「日本各地の高校にドリームイーターが出現しているっす。このドリームイーター達は、高校生が持つ強い夢を奪って強力なドリームイーターを生み出そうとしているらしいっすよ!」
 集まって来たケルベロス達へ、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が事件の発生を告げた。
「今回狙われたのは、進藤卓という学生で、理想の自分と現実のギャップに苦しんでいる所を標的とされたみたいっすね。被害者から生み出されたドリームイーターは強力な力を持つっすけど、この夢の源泉である『理想の自分への夢』が弱まるような説得ができれば、弱体化させる事が可能っす!」
 気弱な性格ともやしのように貧弱な肉体ゆえに、友人である空手部主将の山沖武に強いあこがれを持っており、いつかああなりたいと思いつつもその一歩が踏み出せず、ああだこうだと理由をつけては放課後にただ武道場を覗く日々を過ごしているようだ。
「理想の自分になっても良い事はないとか諭したり、今のままでも魅力がある! みたいな説得が有効っすね。うまく弱体化させる事ができれば、戦闘を有利に進められるっすよ」
 『今の俺は無敵!』と思い込んでいる相手が相手だけに、話の流れによってはいつ戦いが始まってもいいよう備えはしておくべきだろう。
 とはいえ殴り合いながらの説得も、それはそれで熱が入って効果が上がるかも知れない。
「ドリームイーターのポジションはクラッシャー、及びバッドステータスを付与するグラビティを使う猛アタッカーっす。時刻は放課後、空手部の練習が終わった頃に凄い勢いで武道場へ現れるので、先んじて武さん達部員のみなさんを避難させて、奴を待ち構えるのがいいっすね。一人きりで増援もなく、撤退もしないので戦闘に集中して問題ないっす」
 学園ドリームイーターの目的は『高校生の強い夢から、強力なドリームイーターを生み出す』事が目的であるため、ケルベロスとの戦闘を最優先するように命令されている。
 よって万が一ドリームイーターと一般人が鉢合わせても、ケルベロスさえ割って入れば逃がすだけの時間は稼げるのだ。
「けどもあまり強く説得し過ぎると向上心が折られて、理想そのものを捨て去ってしまう可能性もあるっす。強くなりたいという卓さんの願望は男なら誰もが一度は抱くもの。ここは一つ、どうかうまいこと収めてあげて欲しいっす!」


参加者
ギル・ガーランド(義憤の竜人・e00606)
ラハブ・イルルヤンカシュ(通りすがりの問題児・e05159)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)
ロフィ・クレイドル(ペインフィリア・e29500)
水町・サテラ(サキュバスのブラックウィザード・e44573)
斑鳩・眠兎(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e45153)
犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)

■リプレイ


「私達はケルベロス……敵が迫っているので、あなた達には避難してもらいたい……」
 夕暮れも深まった放課後、武道場にまでやって来た四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)は、隣人力も使いつつ稽古に精を出していた部員達に声をかける。
「どんな奴か知らないが、部員を傷つけようとするなら俺が相手になってやる!」
「残念だけれど、相手はデウスエクス。だからここは私達に任せて、今日の所は下校してもらえないかしら?」
 息巻く武に水町・サテラ(サキュバスのブラックウィザード・e44573)が説明するとそれで納得したらしく、彼らは身支度を済ませいそいそと帰宅していく。
「……強くなりてぇ、か。大人になってもその思いが続いてる奴も居るからな……焦る事もないし、目標を持ってるって良い事だと思うぜ」
 部員達を守るため最後まで残り、それからやっと立ち去る武の背中を眺め、その背を追っている少年について思索しながら、ギル・ガーランド(義憤の竜人・e00606)は呟く。
「だが、今はそれを利用された被害者だ……助けてやるぜ、おっさんがよ」
「学校側にも事情を説明し、この場に人が近づかないよう手配してもらった。これで事態が収拾するまで誰かが通りかかる事もないだろう」
 ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)が合流すると、同じく戸口から斑鳩・眠兎(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e45153)がひょいと顔を出す。
「そっちもお疲れ様ねー。この建物をぐるっと回って見たけれど、特に遅れた人はいないみたいよ。あと、裏門の駐車場のあたりで例の男の子が気絶していたから、とりあえずアザとか残らないように隅の方へ移動させておいたわ」
 残るは道場内で敵を待ち受けるのみだが、この後はどんなお菓子を食べようかと眠兎はすでに一仕事やり終えた感を出していたり。
 と、先制攻撃に備えて前面に出ていたロフィ・クレイドル(ペインフィリア・e29500)が、こちらへやってくる人影を認める。
「どうやらいらっしゃったみたいですね……みなさん、準備はよろしいですか?」
 直後、ドリームイーターがとてつもない勢いで道場内へ躍り込んできた。
「あなたが進藤さん……ですよね?」
 犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)が問いかけると、ドリームイーターはぶんぶんとかぶりを振る。
「違うッ! この俺こそは無敵の空手部部長、山沖武である! 覚えておけ、弱者ども!」
 なるほど、こういうわけだ。その様子に一つ息を吐いたラハブ・イルルヤンカシュ(通りすがりの問題児・e05159)が、戦闘態勢を取りながら独白する。
「こうなりたい、こうあるべきだと思い努力の目標となるものが『理想』。努力せずに奪ったものは、理想どころか夢想ですらない……この人のこれが、理想の姿なんかであってはならない」
「所謂草食系男子というやつかしら? 身体の優れた人に憧れてしまうのはしょうがないと言うべき? でもそれだけが男の魅力というわけではないはずよ……異性の目線からのアドバイス、聞いてもらえるかしら?」
 こちらは少々困った子を微笑ましく見るような目のサテラだが、それがドリームイーターの神経を逆なでするようで。
「くっ、貴様らも俺をコケにするのか……だが俺は生まれ変わったのだ、その力、ここに見せつけてくれるわ!」
 元の卓の人格が見え隠れするセリフに、志保も表情を引き締め、身構えた。
「憧れだけじゃ何も変わらない、少々制裁が必要みたいね。……ええ、強い奴は大好物よ、かかってきなさい!」


「かりそめの力に頼って……安易な強さを手に入れようとする……それは単につらい事……苦しい事から逃げているだけ……違うかしら……?」
「な、なんだと……俺の力が偽物だとでもッ!」
「ええ……それではどんな力を手に入れても弱いまま……武道場の外で言い訳していた時と何も変わらない……その力は強さではない……それを今から証明してあげる……」
 千里の瞳の色が緋色に変じ――それが戦闘開始の契機。
 突貫するドリームイーターに対し、一足飛びに接近したのはヒエルだ。
「お前は不良から助けるという『人を守れる強さ』に憧れたのではないのか。今のお前は人に襲い掛かり奪おうとしている……!」
 強烈な拳撃を、己が腕にオーラを集中させて突き出し、滑らかにいなすようにその一撃を防いでのける。
「それはお前が憧れた武の強さではなく、お前を襲った不良の暴力だ!」
 びりびりと拳圧が散って踏ん張った足が押されるが、そこに突進したライドキャリバーの魂現拳がドリームイーターを弾き、やおら直後に。
「お前の攻撃は必ず当たる。これまで培ってきた経験が生きるはずだ」
 強められたオーラが前線を構築する仲間の意思を増幅させ、恩恵を受けたロフィがドリームイーターへと挑みかかる。
「さぁ、思う存分に痛めつけて下さいませ……! 戦いを通して、暴力というものの現実をお見せしましょう……」
「な、なんだァ貴様は……面妖な!?」
 それもそのはず。説得の材料は自身の肉体。精密な突きを放てば、ドリームイーターもおののくというもの。
「さっきから妙に上機嫌な様子だけど、そんな与えられた力に振り回されている自分が理想だったのかしら? 貴方の見ていた武くんはそんなものなの?」
「ふ、振り回されてなどいるものか……っ!」
「少なくとも今のあなたには魅力なんて一つもないけれど、ね」
 切迫しながらくすりと笑んだサテラが、かざした惨殺ナイフから敵のトラウマを呼び起こし、じわじわと後退させる。
「理想の自分ってのはよくわからないけど、無理は良くないわよね。頑張り過ぎずに自分に出来る範囲でやるのが一番じゃないかしらー」
「無理などしているものか! しているように見えるのか!? いや見えない!」
「反語とか、もう見え見えじゃない。ほら、無理し過ぎると頑張っても楽しくないしね!」
 眠兎の放つ斬撃とドリームイーターの拳がかち合い火花を散らすが、交わされる会話はのほほんとしたもの。敵も敵で真面目すぎてシュールな感じになっている。
「その力が本物だってんなら、まずは俺を越えていきな……リウ!」
 ギルが防御姿勢を取って割って入り、その頑強な守りで敵を弾く。そこへボクスドラゴンのリウがブレスを吐いて、間合いを開けさせた。
 卓はまだ若い。その可能性を摘み取らないためにも、あえて説得はしない方針としたギル。一般人の身体はもちろん、心までをも守るのがケルベロスというものだ。
「悪いもんはブッ飛ばすに限る。……ぶはぁ、やってやろうぜ!」
 酒を一気に飲み干すと急上昇したテンションが仲間達にも伝わり、力を湧き上がらせる――のだが、とりあえず普段と変わらない無表情のラハブが、敵へと追い迫っていった。
「『強くなりたい』は間違ってない。『強くなるためにどうするか』が問題。強奪は間違い。諦めろ」
「黙れ! 貴様に何が分かる!」
「努力してこその理想。努力せずに奪ったものは、理想なんかじゃない――もっと醜悪な何か。だったら存在残さず食い潰す」
 全身を地獄の炎で覆い尽くし、すでに青鱗のドラゴニアンとしての姿を現したラハブが、三つの龍の顎で敵の両腕、そして頭部に食らいつき、引きちぎろうと振り回す。
「……あんた、期待外れね、全然弱いじゃない」
「なんだと!?」
 無理くり身をもぎ離した敵へ志保が追いすがり、太ももを狙った鋭利なローキックを打ちこむ。
「身体的な問題じゃないわよ、私が唱えているのは精神面よ。何の為に強くなるの? 強くなって、何をしたい?」
 双方ともに至近距離で繰り出されるラッシュが衝撃を巻き起こす。ウイングキャットのソラマルが援護するも敵の猛攻は激しく、押され始めたところへ回復支援役の千里とテレビウムのクーが踏み出した。
「その傷を破壊……催眠状態の方も解いてしまうね……」
 回り込みながら志保と視線を合わせ、発動した瞳術が蓄積したダメージを爆散させる。クーも応援動画で、前線を張る前衛達をどんどん癒しにかかっていた。
「くっ、どいつもこいつも、僕……この俺を認めないつもりなのか! 俺は弱くない、僕は強いんだ……!」
 ぎりりと拳を握り込むドリームイーターだが、覇気は萎んできている風。説得の効果に手応えを感じ、ケルベロス達は一層気を引き締め直すのだった。


「思い出せ……お前が並び、そして超えたいと願った力は、そんな禍々しいものなのか!」
 勢いを増す攻防の最中、ヒエルは全身に乱打を浴びせかけられながらも一歩も退かず、揺るがぬ意思とともに呼び掛ける。
「お前が望んだ力の一端を、俺達が示そう……!」
 オーラは湧き上がる気力を表すように輝きを強め、その恩恵は背後に守る仲間を回復させる。魂現拳もまた一心に突撃を繰り返し、ドリームイーターは後退を余儀なくされて。
「ふふふ……どうですか……? あなたが望んだ理想とは、このような力ですか……?」
 待ち構えていたのはクーの応援動画を背に、艶然とした笑みを湛えるロフィである。
「ふおぉ!?」
 敵は思わず引きつった声を上げ連続して足刀を見舞うも。
「んっ……私としては吝かではありませんが……けれど、これは、あなたの進むべき道ではありません……ふぁ……っ。さぁ、どうかお考え直し下さい……」
 説得しているはずなのだがこれまた艶やかな喜悦に満ちた嬌声を上げつつ、鞭のような蹴りを返していく。
「戦況はうまく動いているけれど……みんな、無理はしないように……」
 たまらずガードに入る敵を好機と見て、千里がマインドリングを緋眼の力に呼応させる。
「ええ、分かってるわ。この盾を破れるかしら? なんて」
「おいおい、ちゃっかりしてやがるぜ……まぁいいけどよ」
 緋色のエネルギー盾に守護してもらうのみならず、素早くナイフを一閃させて敵を斬りつけたサテラは、とんぼ返りするようにギルの影へ身を潜めた。肉盾扱いされた方は苦笑しつつも肩をすくめ、迫り来る敵と交差させるように蹴撃を噛み合わせる。
「いいわね、私も守ってー」
「やれやれ……リウ、そっちのお嬢さんは任せた」
 すり抜けざまに敵を叩き斬りながらささっと後衛へ戻る眠兎には、リウが護衛につく。
「無敵の俺にここまで逆らうとは……所詮周りの奴らはいつもこうだ、いよいよもって許すまじ!」
「無敵? 他人の強さに甘えるのも大概にしろ」
 その概念ごと喰らうとばかり、拳の嵐をかいくぐって肉薄したラハブが三つの首で続けざまに殴り飛ばし、壁へ叩きつけてからじっと見下ろす。
「理想と現実比べる前に、理想をちゃんと『理想』にしてから出直してこい」
「理想だぁ……完璧なんだぁ……それが分からない現実なんかぁ、必要ないぃ……」
「本当に情けない男ね。憧れの人は弱いあんたを守ってくれたのに、それを奪うなんて馬鹿よ」
 がら空きになった胸ぐらを志保が掴むと、容赦なく鉄拳をぶち込み、悶絶する顔面をソラマルがばりばりとひっかきまくった。
「言っておくわ、あんたはあたし達より弱い。今のままで強くなるなんて、夢のまた夢よ!」


 ヒエルが思い切り腕を振りかぶり、魂の乗った拳打を浴びせて殴り飛ばす。すかさず魂現拳がスピンしながら敵を打ち上げ、後につなげる。
 敵はしゃにむに蹴りを放つが、それは寸時に飛び出したロフィが身体で受け止め。
「赤、緋、紅い水。命を抱きし紅い水。再生せ燦たる紅い水」
 大の字になって吹っ飛びながらも悦楽の形に歪む唇が呪言を紡ぎ出し、その指先から一筋の血液が流れ出る。
「赤き川が辿り着く時、汎ゆる罅は紅に染まる。生命を復し紅に染まる」
 作り出された紅の川がサテラの傷を修復し、状態異常を治癒すると、そのまま駆け出して瞬時に敵へ追いつく。
「どこまでも付き纏う追星! 最大火力で凶事を跳ね除けなさい!」
 撃ち出されたのは疑似衛星。しかも二つに分裂し、逃げ惑う敵を挟み込むように両側からぶちかまし、派手に薙ぐ。
 すかさず脇を抜けたギルが追撃のストレートをぶち込むと、逆方向からは体当たりするように突っ込んだ眠兎が敵の脇腹に拳を叩き込んでいた。
「歯、食い縛りなさい。これはあたしからの愛の鞭よ」
 棒立ちになる敵へ歩み寄った志保が右に左に往復ビンタを食らわせて体躯を揺らし、正拳突きで盛大にぶっ飛ばす。
「もう一度だけ言う。お前のそれは理想でもなんでもない。それでも、それを『叶えた理想』だと言うのなら」
 距離を取ろうとする敵を逃さず、ラハブが迅速に懐へ踏み込み。
「――そんなものは、私がこの場で食い荒らす」
 振るわれた左側の首が敵の胴体を鋭く引き裂き、その『理想』を否定した。
「まだだァ! 僕はまだ、終わりたくな」
 敵がふと動きを止める。胸から突き出た刀の切っ先が、するりと引き抜かれたからだ。
「気づいたときにはもう遅い……さよなら」
 それが背後に回っていた千里による『千鬼流伍ノ型』の刺突なのだと分かった時には、すでに体内へ流し込まれていた重力エネルギー塊が膨張し――次の瞬間、ドリームイーターは爆裂。
 彼女の瞳は茶色へ戻った。

 ケルベロス達が武道場の修繕を終えて裏手へ回ると、卓は意識を取り戻していた。
「人は誰しも力の在り方や使い方を間違う事もある。お前は過ちを犯す前に気付く事が出来た。気付いたのならば、まずは一歩、踏み出してみるといい」
 事情を説明すると案の定うなだれてしまう卓に、ヒエルが穏やかに諭す。
「でも、僕は何もできないし」
「勉強できるってのは、今のお前には何よりの力だと思うぜ。勉強できればできるほど、選択肢ができる。選択肢が多い程自分に誇りが持てる。誇りが持てれば全てが変わる。焦るなよ。別に強くなんのは俺みてぇなおっさんになってからでも遅くはないぜ?」
「……だけど、確実に変われるとは限らないし」
「こうならなきゃダメだ、は理想じゃなくて強迫観念。レールに乗るのが嫌なら飛び降りる覚悟をすべき。努力は覚悟の後」
 言い訳を垂れる卓だが、二人の言葉に思う所があったのか、それ以上の弱音は消えた。
「付け焼刃じゃ程度が知れるってわかったでしょ? でも理想を追い求めて努力をすればそれはきっと裏切らないわ。元気だして! ほら、これはサービスよ」
 その肩をぽんと叩き、サテラが胸元から栄養ドリンクを取り出して渡すと、卓は顔を赤らめ、こくこくと頷いて受け取った。
「ああもう、おやつ用に取っておいたこれ……あげる」
 見かねた眠兎が一口チョコを卓へ押しつけ、照れ隠しのようにそっぽを向く。
「大丈夫です、貴方は強くなれます。また戦いませんか、今度はお互いに真剣勝負で!」
 志保が爽やかに微笑みかけ、卓とぱんと拳を打ち合わせた。するとロフィも微笑を浮かべ。
「その時は私もお付き合いさせて頂けませんか……? いくらでもお相手しますよ」
「は、はひっ!」

作者:霧柄頼道 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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