オークの群れの前で、スライム忍者・雷霧が訴えていた。
「私のスライムにも活躍の場を! どうか!」
「どうしようかなぁブヒ」
下卑た笑いを浮かべ、渋る素振りのオーク達。
重ねて懇願する雷霧の肌を、オーク達の触手がはい回る。
うっかり叩き切りたい衝動に駆られる雷霧だが、現在の螺旋忍者の立場を考えれば、それが得策でないことも理解していた。
「くぅ……」
「いいだろうブヒ」
悔しさに唇をかむ雷霧の顔を見て満足したのか、オークがスライムを受け取った。
そして、作戦は実行に移された。
「ブヒィィィー!」
「きゃあああブタぁー!」
女性水着売り場に、悲鳴が響く。
魔空回廊より現れたオーク達は、客の女性達目がけ、雷霧のスライムを解放した。
するとなんたることか! 女性達の衣服『だけ』が溶けていくではないか!
「ブヒヒ、あの忍者もさぞかし喜んでいるだろうブヒね!」
一番喜んでいるのはオーク達だった。
「レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)さんのお陰で、オーク達が女の人達を連れ去ろうとする事件を予知できたっす!」
黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)によれば、オーク達が現れるのは、ショッピングモール内にある、女性水着売り場。
「あらかじめ女の人達を避難させると、オーク達が別の場所に出現してしまうっすから」
「お客様の避難は、オークが出現してから、というわけですわね」
そういう事っす、と、レーンにうなずくダンテ。
「それと、戦場にお客さんが残っていると、オークにいけない事をされちゃうかもしれないので、できるだけ全員逃がしてあげて欲しいっす」
何せ今回のオークは、服だけを溶かすスライムを使うのだ。ケルベロスの装備には効果はないが、何やら恐ろしい。
女性水着売り場には、客と店員を合わせて、16名の一般人がいる。全員が女性だ。
それに加え、オークも18体という結構な人数。
「水着売り場は、狭くはないっす。けど、売り物の水着が陳列されてる事もあって、一般人、オーク、そしてケルベロスの皆さんが一斉に行動すると、大変な状況になるっす」
「避難にも気を遣う必要がありそうですわね」
オーク達の実力は横並びで、突出した個体は存在しない。単体でみれば、ケルベロスより少し弱めで、1対1で戦ってもまず負ける事はないという程度の戦力だ。
全員が、備えた触手を操り、溶解液を放ったり、刺してきたり、ビシバシと叩いてきたりする。クラッシャーが8体、スナイパーが8体という布陣だ。
「あのオークがこんなスライムを使えば、まさに混ぜるな危険、迷惑の極みっす。なんとか食い止めて欲しいっす!」
参加者 | |
---|---|
赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103) |
槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436) |
レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990) |
黒江・神流(独立傭兵・e32569) |
星乃宮・紫(スターパープル・e42472) |
苫北・舞火(ミサイルガール・e44710) |
翔羽・水咲(産土水に愛されしもの・e50602) |
舞鶴・雫(オニユリ・e53265) |
●混ぜるな危険、オークとスライム!
まだ平穏な水着売り場。
一般の女性客に混じり、水着を見て回る苫北・舞火(ミサイルガール・e44710)。
「去年の水着、もう胸が入らないんだよね……」
既にMカップの胸は、まだまだ成長の余地を残しているようだ。
同時に店内の通路も把握していた舞火を、突然、怖気が襲った。
オーク達だ!
「きゃあああブタぁー!」
オークの肉感的なボディによる威圧……肉圧と醜悪な外見に、女性客達は悲鳴を上げる。しかし、おののく表情もまた、オーク達の好物。
「今日はとっておきのアイテムがあるブヒよ……喰らえブヒ!」
さっそくオーク達はスライムを握ると、女性達目がけ、ふりかぶって……。
「オーク……ろくでもないものを用意してくれたわね……。けど、この私がいる限り女性には指一本触れさせないわ!!」
試着室のカーテンを開け、さっそうと現れた星乃宮・紫(スターパープル・e42472)の声に、オーク達が、投球ポーズのまま固まった。
「危機ある所に輝く紫の星! スターパープル! 見参!」
「げえっ! ケルベロス!?」
「こっちにもいるブヒ!」
客をかばい、矢面に立つ囮組に、オーク達が思わず引き付けられた。
その間に、避難組が、客の誘導に取り掛かった。
「ほんとオークはどこにでも現れますよね……では避難開始です、皆さん!」
赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)は、ラブフェロモンで客達を魅了すると、店の外へと連れ出していく。
「オークはわたくしたちが倒します。慌てず急がず避難して下さい」
プリンセスモードのレーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)が、客達をオーク達の侵入路とは反対側から逃がす。
割り込みヴォイスの力を借りた槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)の声は、混乱の中でもよく通る。買い物客として紛れ込んでいた時点で、客の進路を誘導していたのも、渋滞の軽減に一役買ったようだ。
一方、紫によって混乱を落ち着けたスタッフ達も、店外へと脱出。
避難活動が続く中、オーク達は、囮班を追い回していた。相変わらず。
「こいつら、女と見れば見境がないとは思ってたが、本当だな」
自分で囮役が務まるかと、少し懸念していた黒江・神流(独立傭兵・e32569)だが、そんな心配は不要だった。その凛々しさと美しさを、オーク達は放っておかないのだ。
「その顔が苦痛と羞恥に歪むところが見たいブヒ……!」
そういう嗜好らしい。
「メイドさん、発見ブヒ!」
囮班の一員、翔羽・水咲(産土水に愛されしもの・e50602)にも、オークの魔の手が忍び寄る。全然忍んでないけど。
「じゃあこっちの眼鏡巨乳メイドさんはオレがいただきブヒ!」
「あ、あぁ……いや、こないでっ……」
舞鶴・雫(オニユリ・e53265)を、オーク達が取り囲む。実年齢的にはぎりぎり幼いラインだが、十分オークのストライクゾーン内だったようだ。
何より、嗜虐心をそそる雫の仕草が、オーク達を昂らせる。スライムと触手が迫る!
「ひあぁっ! メイド服が……やめて、やめてよぉっ! いやっ!? にゅるにゅるするぅっ!?」
雫の囮効果は絶大……というか、引き付けすぎだった。
●ケルベロスVSオークと愉快なスライム達
「良い体してるブヒ……!」
オークが、舞火の鍛え上げられたボディラインを欲して、追いかけてくる。
「オークに見せるために鍛えたワケじゃないんだけどね……!」
まあ、囮の役目を果たせたなら良しとするべきか。
「ブヒブヒ……ん?」
「いつの間にか数が減ってるブヒ」
一般客やスタッフの避難が完了していた事に、オーク達もようやく気付いた。
ケルベロス達の戦闘態勢も、既に整っている。
「まさか本当に水着売り場にオークが出るなんて。しかも変なスライムまで持っているし。これは徹底的に退治しないといけませんわね」
そう言ってレーンが、片手を掲げた。生成されたのはスライム……ではなく、エネルギー球。
さしものオークも危険を察知。だが球体は、逃げるオークを追尾すると、その後頭部に着弾した。
オークを駆逐するレーンに、ボクスドラゴンのドラヒムが属性の力を注いだ。オーク達のおかしなものに汚染されたら困る。
「また出ましたね女の敵。じっくり苦しんで、この世に生まれた事を世界に謝罪しながら死んでください」
そう宣言する紫織の顔には、怖い笑みが張り付いていた。
オークへの怒りと憎悪がメイク道具。紫織がミサイルをばらまき、前面のオーク達を次々と爆砕していく。
「さぁ、オークども。私からの贈り物だ」
追われる立場から追う立場に。ブースターで加速した神流が、オークの前から掻き消えた。次に現れた時には、その豊満ボディに、斬撃と銃撃が叩きこまれた後だ。
「こうなりゃ力ずくブヒ!」
「最初から力ずくブヒけどな!」
オークのクラッシャー担当は、率先してケルベロスに襲い掛かった。
触手で刺しにくる者。触手を鞭のように振るう者。どさくさに紛れてスライムを投げる者。そして、攻撃をまんまとかわされる者。
遅れは取るまいと、スナイパー達も、触手を振り回した。どう見ても有害な液をばらまき、ケルベロスと売り場を汚していく。
オークの笑い声を掻き消すように、いちごが歌う。清らかさと優しさを併せ持つ旋律が、オークによる傷を癒し、オークに苛立つ心を落ち着かせてくれる。
ボクスドラゴンのアリカも、オークと仲間の間を縫って、傷ついた者達を回復している。
いちごを補佐すべく、水咲がエクトプラズムを駆使して、仲間達の傷を治療する。大丈夫、傷は浅い。
「パープルシェイキング!」
スターパープル……紫の突き出した拳が、虚空を打つ。発生した重力振動波は、オーク達を襲うと、そのでっぷりとした腹の肉を激しく揺らした。
いちごを守るという使命感と、オークへの恐怖の間で揺れ動きながら。雫が血染めの包帯を振るった。光の桜吹雪が舞い、仲間の傷を塞いでいく。
仲間にスライムをお見舞いしようとするオーク。その背後から、舞火が蹴りかかった。電光石火の一撃に、オークが負傷箇所を押さえ、びくんびくんと床でのたうち回る。
しかし、倒れる仲間には見向きもせず、オークはケルベロスへ触手を伸ばす。
「ひでえ奴等ブヒ……このブタ野郎が!」
「お前もだよ!」
全方位からツッコミが入った。
●オークハンターケルベロス
「やられた、ブヒ……!」
ぱたり。ケルベロス達の、妙に鬼気迫る攻撃に圧倒され、また一匹のオークが散華した。
だが、
「本当に数は多いですわね……!」
新たに一匹をほふったレーンが、そんな言葉をこぼすのも無理はない。単体の実力は大したことなくとも、潰していくのは骨が折れる。
それに、オーク達の攻撃は、色々な意味でいやらしい。
ブースターの加速を巧みに制御し、高速移動でオークを翻弄する神流。わざとスレスレで触手をかわし挑発を続ける。だがしかし。
「!?」
床に落ちていたスライムが、その足を滑らせた。
こんなチャンスを逃すオークではない。
「防御の硬い奴は、間接か装甲の隙間を狙うのがセオリーだブヒ」
隙間から次々侵入してくる触手に、神流の凛々しい表情が、苦悶に歪む。
その一方、別の場所で、新たな悲鳴が上がる。
「いっ、いやぁぁぁっ!」
「いちごお嬢様は勿論、雫さんにもあぶない目には……ひゃうっ!?」
オークにもてあそばれる雫の危機を救おうとした水咲を、オークが後ろから羽交い絞めにした。
「ブヒヒ、ケルベロスの防具は溶かせなくても」
「なんかとってもやらしいブヒ」
もう一体のオークによって、スライムまみれにされる水咲。
惨状につぐ惨状。そこに参上、ミサイルガール・舞火!
「助けに来たよ……!」
舞火は絡みつく触手を振りほどくと、スライムとオークを放り出す。
「2人とも大丈夫ですかっ?!」
メイド達を守ろうと、走り寄るいちご。その年齢ゆえに、オーク達の直接的な被害からは免れている。
「ああっ、お嬢様ぁっ……!」
「わぷっ……!」
しかし、雫に勢いよく抱きしめられ、その胸の谷間に、いちごの顔が埋没した。
何とかたわわから脱したいちごは、へたりこんだ水咲の手を取ろうとして。
むにゅっ。
「!?」
いちごがつかんだのは、水咲のたわわ……胸やお尻。そうなれば、サキュバスの本能的が覚醒するのもやむをえず。
「おおおじょうさま!? そ、そこは……! お、お口があたって、ふあぁぁぁっ!?」
「あわわ……すみません」
思わぬとらぶるの連続に、いちごもあたふた。
「いいもん見せてもらったブヒ。……さて」
「獲物のメスもいなくなったことだし、そろそろおいとまするブヒ……」
だが、ケルベロス達が、オーク達を逃がすはずもない。怒涛の攻撃。
ドラヒムの吹きかけたブレスがオークの傷を悪化させ、レーンの繰り出した気弾が、オークの肉を食いちぎる。
紫織の爆撃にさらされたスナイパー達が、悶え苦しむ。
舞火の繰り出した渾身の拳が、オークの汚れた魂を噛み砕く。
神流のガトリングガンの掃射を全身に受け、オークが死のダンスを踊った。
水咲が混沌の水で生成した矢に射抜かれ、間抜けなポーズでその場に凍り付くオーク。他のオークにぶつかり倒れ、砕け散る。
その間にいちごが、桃色の霧をまき、オークの毒を浄化。
オークだらけの水着売り場から、一刻も早く逃れたくて。雫が恐る恐る、追尾矢を放った。
パンチ、エルボー、ヒップアタック……次々と技を叩き込んでいく紫。そしてトドメは、
「パープルキィィィック!!」
必殺のジャンプキックが、オークを完膚なきまでに撃破した。
「こ、ここはいったん引き上げ……ブヒッ」
逃げようとするオークの触手が、がしっ、とつかまれた。振り返ればそこには、紫織の笑顔。
「うふふ。痛いのと苦しいの、どちらがお好みですか?」
「ブ、ブヒっ……気持ちいいのでお願いしたいブヒ……」
「わかりました。それじゃあ、遠慮なく両方行きますねぇ♪」
「ブヒぃぃぃぃぃ!?」
キラリ、輝く青の瞳。
紫織による麻酔無しの切除術が、触手をゆっくりと、かつズタズタに引き裂いていく。
かくして、オークによる女性水着売り場襲撃計画は、水泡に帰したのであった。
●オークどもがユメのアト
無事、大きな負傷もなく、勝利したケルベロス達。だが、程度の差こそあれ、皆、スライムまみれになっている。
サーヴァントであるドラヒムやアリカまでも、とばっちりを受けていた。迷惑。
スライムやらオークの汗やらを浴びた神流も、シャワーで全身を綺麗に洗い流したい気分だ。
色々と大変な事になった紫織達に、替えの服やタオルを配って回る水咲。
「あ、あぁぁ……おわった、の?」
未だ泣きやまぬ雫をなだめるいちご。
「もう大丈夫です、大丈夫ですから……」
「ぐすっ……ありがとう、ございます……お嬢様も、ご無事でよかったです……」
見れば、水着売り場も割と大変なことになっている。
勝利のガッツポーズを決め終えたレーンは、舞火や神流らと共に、水着売り場のヒールに取り掛かった。
片付けを終え、落ち着きを取り戻したところで、試着室に入る紫。
普段の服装に戻った紫は、一転して気弱そうな眼差しで、水着売り場を見回した。
「無事に終わった事だし、水着でも選んでいこうかしら……」
梅雨が明ければ、いよいよ本格的な夏。
オークには現れないで欲しいものである……。
作者:七尾マサムネ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年6月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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