イチゴ甘いか酸っぱいか

作者:坂本ピエロギ

 梅雨が滴る山の麓に設けられた農園のハウスでは、赤いイチゴが鈴なりに実っていた。
 時は6月。イチゴ狩りの時期もそろそろ終わり、夏イチゴの収穫が始まる時期である。
「ふんふんふ~ん♪ イチゴ、イチゴ、イッチ~ゴ~♪」
 一般的に、イチゴの旬は春とされる。しかし、スイーツや贈答品に欠かせない素材であるイチゴの需要が途絶えることは1日とてない。
 需要あるところ供給は生じるもの。ここは、そうした夏から秋にかけて用いられるイチゴを栽培している場所なのだった。
 そんなイチゴ農家の農園に、彼女――甘菓子兎・フレジエがやって来る。おかしな歌を口ずさみ、変なダンスのリズムを刻み、供回りのストロングベリーを引き連れて。
「ふんふんふん♪ 夏イチゴ~お味の方はどうかしら~ですぅ~♪」
 ハウスから勝手にもいできたイチゴを一口食べるなり、フレジエは眉をひそめる。
「むぅ……このイチゴは私にふさわしくないですぅ。ヘビ苺でも食べた方がマシですぅ」
 そして彼女は、肩を怒らせて立つ3体のストロングベリーに命令した。
「こんなイチゴ必要ありませぇん♪ ナメクジの餌にでもしちゃってくださぁい♪」
 むくつけき肉体に物をいわせてハウスを破壊するストロングベリー達を背に、フレジエはさっさと農園を去っていった。

「爆殖核爆砕戦で動き出した大阪城周辺の攻性植物達は、今も活動を続けてるっすね……」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)はうんざり気味の顔で頭を振る。
「このまま放置したら大阪市は攻性植物に占領されてゲートの破壊成功率も漸減するっす。それを防ぐためにも、奴らの侵攻は完全に防がないといけないっす!」
 今回ダンテが予知したのは、甘菓子兎・フレジエが起こす事件だ。イチゴ農家を襲撃し、収穫を控えたイチゴハウスを破壊しようとするフレジエ一味を阻止するのが目標である。
「フレジエはすぐ現場を立ち去るので、戦う事は無理っす。けど、配下のストロングベリーは戦って倒す事が出来るっす。どうか皆さんの手で苺を守ってほしいっす!」
 敵は攻性植物『ストロングベリー』が3体。出現時刻は昼過ぎだ。
「農家の方には俺から連絡するんで、避難誘導は必要ないっす。皆さんはストロングベリーのいるイチゴハウスに向かって、奴らをブッ倒してほしいっす」
 ストロングベリーは屈強な肉体を駆使し、レンジの遠近を織り交ぜた多彩な攻撃を行う。攻撃力が高い反面、回復能力は持たないという。
「戦いが終わったら、農家の娘さんが農園に来るみたいっす。彼女は洋菓子の職人さんで、イチゴ系のお菓子は専ら親父さんの作った物を使ってるっす」
 無事に事件を解決できれば、彼女の店でイチゴのお菓子を食べながら、ゆっくり過ごす時間も作れることだろう。採れたての新鮮なイチゴの味を満喫して帰って来てほしい。
「夏のイチゴはこれからが本番っす。王冠みたいなケーキの天辺で、宝石みたいにキラキラ輝くイチゴ……それを叩き潰そうだなんて、フレジエは悪魔っす! 邪神っす!」
 そこまで言ってダンテは我に返り、取り乱したことをケルベロスに詫びた。
「すいませんっす。大事なイチゴとそれに愛を注ぐ人のため、皆さんにはストロングベリーを残らずブッ飛ばして欲しいっす!」
 そうしてダンテはヘリオンの操縦席へと乗り込むのだった。


参加者
アイン・オルキス(矜持と共に・e00841)
板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)
尾神・秋津彦(走狗・e18742)
ヨミ・カラマーゾフ(穢桜・e24685)
月島・彩希(未熟な拳士・e30745)
ノルン・ホルダー(黒雷姫・e42445)
逸見・響(未だ沈まずや・e43374)

■リプレイ

●マッスルイチゴ討伐作戦
 梅雨の晴れた昼下がり。
 緑したたる山の麓に広がる農園の一角へと、ケルベロスは向かっていた。
「いやーほんと、苺の攻性植物とか悪魔っすね! 邪神っすね!」
 完熟苺のように赤いケルベロスコートを翻し、意気揚々と先頭を歩く板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)の鼻息は、荒い。
「滅ぼそう! 滅ぼそう! 全員叩き潰してくれるわー!」
 拳を突き上げえにかが吼える。その両隣を歩く、ノルン・ホルダー(黒雷姫・e42445)とヨミ・カラマーゾフ(穢桜・e24685)も、敵への怒りを隠せない様子だった。
「苺を粗末にするなんて、許せない。ぶっ倒してジャムにしてやる」
「いちごは、すき。それを、なくすだなんて……」
 ヨミは静かに声を震わせた。実際のところ、戦いの後の苺スイーツが気になるのは否定しがたい事実。だが、それ以上にヨミの心を満たしているのは、フレジエへの怒りだった。
「そのわがままな心を、氷みたいに、砕いてあげる」
 畦道を歩き、農園の門を潜ると、苺のビニールハウスが綺麗に整列していた。日照時間や温度を徹底的に管理しているらしく、見知らぬ機械があちこちで忙しそうに動いている。
「夏が旬の苺も有るのか……まだまだ知らないことが多いな」
 逸見・響(未だ沈まずや・e43374)は、鈴なりに実るハウスの苺を見て、赤く輝く星座のようだと思った。この苺たちもいずれ、全国の菓子屋や百貨店へ出荷されるのだろう。
「こんなにも精魂込めて育てた苺を蔑ろにしようなど……断じて許せませぬ」
 尾神・秋津彦(走狗・e18742)は、愛用の喰霊刀『天狗切正國』をぎりりと握りしめて、唸るような声で言った。
「出荷を待つ人々の為、この後のおやつの為にも、容赦なく討ち果たしてくれますぞ」
 そうして歩くこと数分、開けた庭へと出た一同は、地面に妙なものを見つけた。それは、小さな足跡に交じって残る『大』の字の跡。子供が踊って転んだ、そんな痕跡だった。
「……フレジエ、か」
 足跡の主を察するノルン。あの甘菓子兎がすでにここを去った後ということは――。
「皆、あれを見ろ」
 そう言ってアイン・オルキス(矜持と共に・e00841)が指差した苺ハウスの前では、『イ』『チ』『ゴ』のポーズを取って侵入を試みるストロングベリーの姿があった。
「……何だあれは。何かの儀式なのか」
「まったく。同じイチゴを潰すことに何の感慨もないのですね、攻性植物は」
 呆れ顔のアインの横で、メルカダンテ・ステンテレッロ(茨の王・e02283)は柳眉を釣り上げると、ストロングベリーたちにぴしゃりと告げた。
「待ちなさい俗物。無辜の民の努力を灰燼に帰そうとすること、わたくし達が許しません」
 どこに耳があるのか、3体のストロングベリーは同時に振り向くと、各々が変なポーズを取り合って、一斉にケルベロスへと襲い掛かってきた。
「攻性植物の……屈強な肉体……? 苺が……? なんで……?」
「本当にスゴい見た目の敵なの……でも!」
 響は珍獣でも見るような顔で、縛霊手の紙兵を前列へとばら撒いてゆく。
 息を合わせるように、月島・彩希(未熟な拳士・e30745)が爆破スイッチに指をかけ、
「丹精込めて育てられた苺を、滅茶苦茶にはさせないよ!」
 スイッチオン。
 庭の周囲を派手な爆発が包み、戦いの開始を告げた。

●赤い苺に囲まれて
「先陣の牽制はお任せあれ!」
 秋津彦が疾駆する。
 残像すら見えかねない駿足で即席の円陣を組み、ストロングベリーを取り囲むと、秋津彦は炎を纏った如意棒を一閃させ、前列の2体を紅蓮の業火で包み込んだ。
「敵は3匹おりますからね……順番に、しっかり狙っていきましょう」
 転げまわって火を消そうともがくストロングベリーたち。攻撃を逃れた中衛の1体に狙いを定めると、メルカダンテはエアシューズ『Karlen』の踵を鳴らして地を蹴った。
「アイン、頼りにしていますよ」
「了解した。あんな連中に農場を破壊されては、たまったものでは無いからな」
 二輪の轍で優雅に曲線を描きながら、ストロングベリーへと迫るメルカダンテ。いっぽうアインは砲撃形態へと変形したドラゴニックハンマー『Eraser Head【OW】』を軽々と担ぎ上げ、ストロングベリーの赤い頭へと砲口を向ける。
「『こいつ』の本懐は叩き潰すことだが、こんな使い方も出来る」
 メルカダンテの蹴りで炎上する苺の頭に照準を合わせ、轟竜砲のトリガーを引くアイン。グラビティの砲弾が放物線を描いて着弾し、衝撃波がビリビリと空気を震わせる。
 攻撃を受けたストロングベリーたちは怒り狂い、炎にまかれるのも構わず反撃に出た。
 最初に仕掛けたのは、ジャマー。
 丸太のように太い両腕を勢いよく地面に差し込んで、ちゃぶ台のようにひっくり返した固い大地をケルベロスの前衛へと叩きつけた。
 続いてクラッシャーとディフェンダーの頭部が真っ赤に発光。完熟した苺のような赤色の怪光線が、ジャマーの攻撃を避けたメルカダンテとノルンを襲う。
「アカツキ!」
 彩希のボクスドラゴンが雷の如き速さで跳躍しノルンを庇った。属性インストールで回復するアカツキをフォローするように、えにかのメディカルレインが前衛へと降り注ぐ。催眠が解けて我に返り、敵に向けた紙兵を急いで引っ込める響。
「醜悪なイチゴ怪人どもめ! ケルベロスの力を思い知るがいい!」
 胸を張って高らかに笑うえにか。だが実際のところ敵ジャマーの催眠攻撃は厄介だった。1度目の催眠攻撃は凌いだが、連発を許せば自陣は大混乱に陥ってしまう。
(「まずは後ろのイチゴを倒さないと!」)
 ノルンは敵ジャマーに狙いを定め、氷河期の精霊を召喚した。
 足止めを付与された影響でジャマーの動きは鈍っている。必中とは言えない命中率だが、モタモタすれば再び催眠攻撃が来るだろう。
「行けっ!」
 意を決し、攻撃を命じるノルン。しかしジャマーは身を躱し、氷の息吹を避けてしまう。
 そこへ狙いを定め、叩き込まれるヨミのスターゲイザー。
「ドント・マインドですぞ、ホルダー殿。あれが再び来るまで、まだ猶予があるはず!」
 秋津彦は得物を喰霊刀に持ち替えると、召喚した刀剣を雨あられと敵前衛へ浴びせ、中衛を孤立させにかかった。
 対する敵も連携を断たれまいと、反撃の手を緩めない。ジャマーの光線とクラッシャーの蔓触手が前衛に降り注ぎ、ディフェンダーの足元ちゃぶ台返しが後衛を襲う。
 しかし秋津彦の妨害によって、前衛の攻撃力は目に見えて下がっていた。序盤で彼が付与した炎も、ボディーブローのごとくじわじわとストロングベリーの体力を奪っていく。
「無様に踊れ」
「摘んでやろう、この鎌で」
 メルカダンテのイガルカストライクが、アインのデスサイズシュートがジャマーに迫る。進路へ割り込み、凍気をまとい射出されたパイルを盾となって防ぐ敵ディフェンダー。その脇をアインの鎌が、空を裂いて飛んでゆく。
 ビームの刃にわき腹を切り裂かれたジャマーが、もんどりうって転倒。ふらつく足で立ち上がったところへ、
「苺を犠牲にする奴は許さないよ!」
 ノルンの振り下ろすハンマー『オルトリード』に頭を潰され、斃れるストロングベリー。
「よしっ! どんどん攻めよう!」
「さーて、次はどいつがナメクジの餌になりたいかー!」
 シャウトで炎をかき消す彩希。後方のメンバーを癒す、えにかのメディカルレイン。
 前方では響が秋津彦に混じり、2人がかりの高速立体起動で敵をかく乱していた。
「遅いよ」
 エアシューズの速度に巧みな緩急をつけて敵クラッシャーを翻弄し、見出した一瞬の隙。千載一遇の好機を響は掴む。
「筋肉! おばけな! 苺なんて!! お断りだ!!」
 『雷電鳴リ響クガ如シ』。絶え間なく降り注ぐ無数の雷撃が、敵の身体を痺れさせ、葉脈を焼き切ってゆく。バランスを崩したストロングベリーが手をついた地面、そこを覆っていたのは土ではない。ヨミのブラックスライムだった。
「かかった……喰らえ」
 トラバサミの如く足元から襲い掛かるレゾナンスグリード。とっさに身を躱し致命傷を避けるストロングベリー。食いちぎった爪先をブラックスライムが咀嚼する音が農場に響く。

●終焉、ストロングベリー
 残る敵は、あと2体。
 秋津彦が序盤から炎と武器封じを浴びせ続けたことが功を奏して、ケルベロスはかなりのアドバンテージを確保できていた。
「天狗の代わりに斬るのが苺のヘタでは、まるで笑い話でありますが――」
 喰霊刀の天狗切正國を構える秋津彦。狙うはクラッシャーのストロングベリーだ。
「葬頭河まで見届けましょう――彼岸の先へは独りにて」
 抜き身の胴田貫が絶殺の妖気に煌き、蔦と葉でできた体を氷で蝕んでいった。
 ストロングベリーはなおも抵抗し、イチゴ光線と蔓触手でメルカダンテを襲う。
「その攻撃は止めてみせる。皆、とどめを」
 絡みつく蔦を、身代わりとなって庇う響。
 メルカダンテは光線に体を焼かれるのも構わず、エアシューズで一気に距離を詰める。
「逃しはしません」
 流星のごとき跳び蹴りがクラッシャーの首を捉えた。太い蔦の千切れる手ごたえと共に、くるくると独楽のように回転するストロングベリーの頭部。
 腹腔から覗くシャレコウベをアカツキのボクスタックルが粉砕したところへ、彩希と響のコンビネーション攻撃がトドメとなって炸裂する。
「もっと速く……ッ! もっと鋭く……ッ! この一撃を!」
「……蹴り砕く」
 魂までも凍らせる彩希の手刀。速度と重さをあらん限り込めた響の蹴り。
 青と白の光が敵の頭で交差し、ボウリング球ほどもある巨大苺が派手な音を立てて破裂。ストロングベリーはその場に倒れ、あっという間に枯れ果てた。
 アインのアイスエイジインパクトとヨミのディスインテグレートが、最後の1体めがけて襲い掛かる。氷に覆われ凍りついた体を虚無の球体がとらえ、ストロングベリーの手足を、分解しながら塵へと還してゆく。
「みんな頑張れー! どんどんいけー!」
 飛び跳ねるえにかのルナティックヒールで漲る力を、愛剣『シュヴェルトラウテ』に全て注ぎ込むノルン。その身に降ろした剣の英霊が、ノルンの黒い髪を金色に染めあげ、波打つような長髪へと変えてゆく。
「剣神解放――ワタシの『剣神技・神皇滅牙』、受けなさい」
 潜在能力を解放して放つ斬撃が敵の防御を突き破り、攻性植物の体を宙へと吹き飛ばす。
 ストロングベリーは地面に叩きつけられ、深手を負った体でなおも立ち上がると、アインめがけてイチゴ光線を発射。えにかが直ちに、ダメージをルナティックヒールで塞ぐ。
「はーい回復だよー。思いっきりぶちのめせー!」
 秋津彦に絶空斬を叩き込まれたストロングベリーの体は、炎と氷に覆われて、もはや原形を留めていない。アインはメルカダンテと息を合わせ、とどめを差しに動いた。
「正面から攻め入る。狙いは奴の喉笛だ……!」
 アインは電撃で生成したコンドルを放ち、敵をかく乱しにかかる。頭部の巨大苺めがけて降下するコンドルの嘴をガードし、がら空きになるストロングベリーの胴体。そこへ呪いを込めたメルカダンテの指先が迫る。
「奇跡を殺せ、ルクスリア――『貫く槍』」
 ストロングベリーの背中に生える両腕。
 鈍い音と共に穿たれた大穴から、メルカダンテの顔が覗く。
 命を奪われたストロングベリーはしおしおと枯れ果て、戦いは幕を下ろしたのだった。

●苺と憩いの一時を
 農家に挨拶し、現場をヒールで修復してケルベロスが案内された店は、密かに人気のある店のようだった。
 店内のショーケースには苺を使った菓子が綺麗に並んでおり、常連と思しき客がテーブルで菓子に舌鼓を打ちながら、世間話に花を咲かせている。
 美味しい料理は、人を寡黙か、逆に饒舌にさせる。この店の料理は後者らしい。洋菓子、和菓子、氷菓子……苺を使ったものならば大抵の品は揃っていそうだ。
「さーて、どのスイーツにしようかなっと。ショートケーキと、タルトと……美味しかったやつはテイクアウト頼もうかな」
「洋菓子か……良いね、嫌いじゃない」
 ケーキに鎮座する真っ赤な苺の輝きに目を奪われながら、ノルンが溢れる涎を拭う。
 響はすでに苺のタルトを買い求め、テーブルに着席していた。白い皿に盛った品のほか、持ち帰りに包んでもらった品もある。誰かへのお土産なのかもしれない。
「本当にいただいてよいのでしょうか? おまえたちはこれで生計を立てていて、少なからず畑にはダメージが……」
「菓子か。何にするかすぐには思い付かんな……少し待て」
 メルカダンテは、最初は遠慮がちだったものの、隣のアインが苺のロールケーキを注文するのを見ると、そっと小声で、
「……いえ、そうですね。では、いちごのゼリー、なんてありますか?」
 ほんのりと恥ずかしそうに、持ち帰れそうなものがあれば、と付け加えた。
「ほう、苺とマシュマロのピザ! そんなのもあるんでございますか」
 遅れて着いたえにかは、涎を引っ込めつつ、加工苺コーナーの品々を見回していた。
 設備のヒールに畑の修復、ビニールハウスの張り直しと、本業顔負けの活躍で体を動かし続けたせいか、彼女の腹の虫はずっと抗議の声を上げている。
「生の苺以外なら何でも頂戴しますよ。コンポートにジャムサンドもよろしいですね!」
 いっぽう彩希が注文したのは、イチゴアイスと、それから生の苺が幾つか。
「この時期のイチゴって甘いのかな? 酸味が強いのかな?」
 そんな素朴な疑問から、調理に使う新鮮な苺を特別に分けてもらったのだ。向かった先のテーブルでは、既にヨミと秋津彦が着席して待っていた。
 そして数分後。
『いただきます!』
 ケルベロスは注文した苺料理に口をつけ、他愛のない話に花を咲かせ始めた。
「この王冠みたいなケーキ、美味しいね。頭に載せちゃいたいくらい綺麗」
 苺のトッピングされたケーキを恍惚の眼差しで見つめるヨミ。と、隣に座る秋津彦が、
「うーん、極上の甘美――口中が苺色になってしまいそうであります。ジェラートにタルトにショートケーキ……どれも絶品だったであります」
 そう言って目を輝かせ、ヨミの皿に目を向ける。
「ヨミ殿のケーキも美味しそうですな。このタルトと一口交換しませぬか?」
「いいよ、食べさせてあげる。はい♪」
 ヨミはケーキをフォークに刺し、期待に尻尾を振る秋津彦の口に運んでやった。
「……わぎゅ」
 加減を誤ったか、口いっぱいに宛がわれたケーキに目を丸くする秋津彦。
 ノルンはそんな彼を微笑まし気に見つめると、そっと店の光景を視界に収めた。
 そこに映るのは、お茶と一緒にティータイムのお供を務める、赤く瑞々しい苺の姿。
 テーブルを彩る甘い星々を、ノルンと仲間たちは優しい笑顔で見つめるのだった。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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