紐結びとお祭り

作者:八幡

●誕生日
 それは年に1度、誰の元にも等しく訪れる。そんな日である。
 子供のころはありがたかったその日も、大人になればありがたくないような日になる……そんな日だ。
「はっぴぃぃぃぃ!」
 そんなありがたくないような日だと思っている、藤守・大樹(灰狼・en0071)は取りあえずハッピーになれるかもしれないと思って、ハッピーと叫んでみた。
 みたのだが、ハッピーと叫ぶ程度でハッピーになれるはずも無く。
 何もなかったことにして、何か面白い動画でもないかと携帯をいじってみる。
「お?」
 と、ハッピーになりたいあなたへと言うタイトルの動画を見つけて――。

●紐結び
「よう、おじさんと祭りにでも行かないかい?」
 大樹はチラシを片手に道行くケルベロスに声をかけていた。
 良い歳下おっさんが老若男女問わずに声をかけまくっている姿は中々に胡散臭い……実際シャドウエルフとウェアライダーの女の子がひそひそしながら指をさして居たりするし。
「全然アヤシクナイヨ。本当に楽しいオマツリダヨ」
 しかし、そんな視線に気づいた大樹がアヤシクナイヨとカクカクしながら説明すると、ちょっと気の毒に思ったのか何人かがその話に耳を傾ける。
 集まってくれたケルベロスたちに大樹はほっと息を吐いてから話を始める。
「この祭りはもともとは縁結びの祭りでな。同じ場所に紐を結んだ人が境内を歩くと、仲良くなれるって祭りらしい」
 話を聞いてみれば意外とまともな祭りのようだ……なんだ普通かと言う顔をするケルベロスたちへ大樹は続ける。
「ただ、紐の入手方法がちょっと変わってる。射的、輪投げ、水風船掬い、型抜きなどなど、祭りの出し物で景品を手に入れると、それと交換して紐を渡してくれるらしい」
 なるほど、ちょっとした試練……と言うか遊びを通じて親睦を深めつつと言うことか。
「俺たちケルベロスは、普通に参加しても良し、出店として参加しても良しだ。勿論、普通に綿菓子やらタコ焼きやらもあるから、縁結び関係なく祭りも楽しんでも良い」
 一通りの説明を終えると大樹は、自分の話を聞いてどうしようかと顔を見合わせるケルベロスたちへ一緒に行こうぜと、もう一度声をかけた。


■リプレイ

『あなたのためにおいしくなあれを唱えます☆』
 あかりは、メイド服にエプロンをつけた姿で空を飛ぶアジサイの背に左足を、同じくメイド服を着て仁王だつ陣内の肩に右足を乗せて怪しさ満点の看板を掲げていた。
「あなたのハートを部位狙いニャー☆」
 それから明子が道行く人々に両手でハートの形を作りつつ猫っぽく狙い撃ち的なポーズを決めていた。如何見ても怪しいあかり達を前に人々は顔を見合わせているが……あかりが「妖しくないよ? 怖くないよ??」と主張しつつアジサイと陣内の上から鉄板の上の焼きそば向けて美味しくなれと青のりを振りまけば、それはキラキラと宙を舞う。宙を舞う青のりは何処か幻想的なのだが……大半が陣内の頭の上に降りかかっていた。
「さぁ、選ぶがいい! 青のり塗れで美味しくなったその男がお勧めだぞ!」
 死んだような顔で青のりを一身に受ける陣内に励ますような視線を向けつつアジサイは遠巻きに見守る人々へ陣内をお勧めし、
「そうニャーん。たまぇさんのガバァがオススメニャー」
 明子は美味しくなぁれ! とメイドを極めてないため暴走するメイド・ソウルをこめて紅ショウガを焼きそばへ添える。メイドソウルを燃やし尽くして若干目が死にかけて来た明子とアジサイ。そんな2人におすすめされては道行く人も頼まざるをえまい。
「おいしくな~れ」
 晴れてご指名をいただいた陣内は一瞬死んだ魚の目でアジサイ達を見た後に、意を決したようにメイド服の胸元をガバァと開いて天かすを入れた容器を顔の前までもっていくと……スタイリッシュに焼きそばに添えて見せた。色々な不安を残しつつも完成した焼きそばを受け取った客は恐る恐る口に運んで、美味いと目を輝かせた。そんな客を見てあかりは満足そうに頷くと、
「さー、どんどん美味しくするよ!」
 あかりの言葉に応えるように陣内達は再び、おいしくなぁれを始めて……その動きに呼応するように本物の尻尾が2つ、つけ尻尾が2つ、それぞれに結んだ紐がゆらゆらと揺れていた。

「……ン、なかなか難しいのですネ」
 引き上げた水風船が再び水の中に落ちて水飛沫を上げる様子を見つめていたエトヴァは、ジェミへと視線を向ける。
「やってみると、なかなか難しいよね」
 視線を向けられたジェミもまた丁度水風船を落としているところだった。水飛沫がのった風船がきらきら綺麗なのは縁日の魔法みたいなもの? 何て考えるジェミだがその水飛沫のせいで紐が切れるのだから、油断ならないと頬をぺちぺち叩いて気を取り直す。とはいえ何回もやるとコツはつかめるもの……数度の挑戦で2人ともに水風船を手に入れる事ができた。
「少し、じっとしていて下サイ」
 お揃いの空色の紐を手にしたエトヴァはまずジェミの髪の尻尾を掬い丁寧に、その付け根に紐を蝶結びにする。それから髪を触られてくすぐったそうなジェミの髪を結んだ空色の紐に目を細める。
「やってみたかったんだ、これ」
 そんなエトヴァの髪の毛を今度はジェミが結ぼうとするが……エトヴァの髪はさらさら過ぎて結ぶの難しいようだ。少し身を屈めてエトヴァは待つも苦戦しているジェミの手と自分の髪が首筋を擽り、ジェミがじっとしていなかった理由が何となくわかった。
「あ、なかなか良い! 首筋のあたりがすっきりして涼しそう」
 それでも何とか結び終えるとジェミは良い感じだねと笑い、エトヴァも微笑みを返したのだった。

「敬重くん」
 薄ピンク色の生地に桃色の尖晶石を思わせる花が咲いた浴衣を着ためびるが両手を後ろに組んで、敬重の前に立つ。どうかな? と少し恥ずかしそうに笑うめびるに敬重は一言「綺麗だ」と呟き……それを聞いためびるは「ありがとう」と俯いてから敬重の袖をつまむ。
「あ、風船掬いがあるよ」
 それから2人が暫しの間祭りの喧騒の中を黙って歩いているとめびるが風船掬いの出店を見つけ、敬重が気合を入れて風船掬いに挑戦する。めびるの期待を一身に受けた敬重は難なくピンク色の水風船を手に入れ、それをめびるに渡してやり更に手に入れた2つ水風船を紐と交換する。
「これからもずっと一緒に居よう」
 紐を結びながら敬重は願うだけではなく努力もすると約束を籠めて、めびるはこれからもずっと一緒に居られますようにとようくお祈りしながら、お互いの小指に紐を結ぶ。そうして結んだ紐をお互いに見つめ合い……めびるが照れたように笑うのを合図にするように、敬重はめびるの手をしっかり握って――もう暫くの間祭りを楽しむ事にした。

「型抜き! 初めて見た。これは運命ね、こいつで紐を狙――」
 型抜きは簡単そうね! なんて型抜きを始めた芙蓉だったが、開始1秒で真ん中から型抜きは砕けた。だが芙蓉は諦める事の無く2つ目、3つ目の型に挑戦するが、その悉くを1秒以内に砕いて見せた。
「ねえ真介、これ昭和の人じゃないとできない奴なのだわ……?」
 そして10個目の型を砕いたあたりで芙蓉は漸くその事に気付き、共に来ていた真介の方を見るが、
「そうだね」
 芙蓉の倍近くの型を前に真介は既にしょんぼりしていた。気付いたのだ、並大抵の技量では型抜きは成功せぬのだと。次に行くのだわ! としょんぼりする真介の手を引いて、芙蓉は射的へと向かう。射的ならばそんなに技量は要らない、そう考えたのだが、芙蓉は射的の弾を銃口にぎゅうぎゅうに詰め込んで、
「……? この弾私が可愛いから離れたくないのかし……当ててるー!」
 ぎゅうぎゅうに詰め込んでは射的の弾は飛ばない。そんな芙蓉とは対照的に適切な詰め込み具合で銃を構え、狙って……狙う……そう、真ん中よりもやや上の方、言うならば急所と狙いをつけて撃った真介の弾は、でっかい兎のぬいぐるみの額に直撃して落とした。
「落ちたー。芙蓉、見た? 見た? 取れた」
 この世の全てに自信を失っていた真介だが、今ので多少は回復したようだ。凄いわー! 世界一! とぴょんぴょん跳ねながら褒めてくる芙蓉に小さいガッツポーズで返すほどに。それから真介は「私が可愛すぎるから弾が飛んでいかない」と主張する芙蓉の代わりに、景品をもう一つ落として紐と交換する。
 それから交換した紐を手にお互いに向き合うと、
「お前の事は、縁ごと大切にすると決めているの。ずっとね」
「なんというか、うん、これからもよろしく、芙蓉」
 お互い戦う身ゆえ、いざという時、互いの声が聞こえるようにと、交換した紐をお互いの耳に結んで、少しだけ目を細めた芙蓉に、真介は小さく頷いた。

「願わくば、数多の敵と縁を結び、この身を一刀となして打ち破らん事を」
 そんな願いごとをしに来ていた一刀が持ち込んだ甘い飲み物を片手に共に管をまいていた大樹を見つけた雨音は相変わらず尻尾はもふもふにゃ~と大樹の尻尾をもふもふする。
「お誕生日おめでとうにゃ~♪ 紐、結んであげてもいいにゃ?」
 それから雨音は持っていた紐を自分と同じく耳に付けるとこれからも仲良くしようにゃ~と笑って去っていった。
「平和じゃなぁ」
 そんな雨音の姿を見てしみじみと呟く一刀に大樹も同意するように頷いた。
「ハッピーバースデー、同志! いや我々ほどの歳になるとあまりハッピーでもなかろうがね!」
「よう、誕生日おめでとーぅ。祝いに芋でもどうだ? 余りまくってんだ食ってけよ」
 そんな風に頷いていると何やら芋の露店を出していたコントと、人影が売れない芋を片手に現れた。確かに全くハッピーではないが稀に可愛い女の子がお祝いを言ってくれるのがせめてもの救いだろう。後は見知った顔に祝われるのも悪くは無い……のだが、
「それにしても全く売れん。我々の何が間違っているというのかね?」
 そんな事よりもと、芋が全く売れない理由に首を傾げる仮面にマント姿のコントに対応する人影は、
「はははやめろよ伯爵。いや褒めるのはそのままで良いからまずはその不審者スタイルをやめろ」
 口調は笑っているが、目が全く笑っていなかった。
「平和じゃなぁ……」
 再び出店へと戻ったコントと人影の背中を見送り一刀が死んだ魚のような眼で呟くと、大樹は大きく頷いた。

「銃の腕なら少しだけ、自信があるのですっ!」
 射的で景品を得た虹は得意そうに胸を張ってから、少しだけ名残惜しそうにその景品を桜色の紐と交換してもらう。それから後ろを振り返れば既に紐を手に入れた猫丸が翠色の紐を手に虹を手招きし、猫丸の周りでは各々の左手首に紐を結んでいるところだった。
「自分で結ぶの、ちょっと難しいね……」
 とはいえ自分の手首に紐を結ぶのは中々困難だ。形兎は紅白に縫った紐をようやく自分で結び終えてから小さく笑い、悪戦苦闘していたキカにも青色の紐を結んでやる。
「ありがとう」
 キカが自分の手首に結んでもらった紐を夜空に翳し満足そうに頷いてから他の仲間達へ視線を向ければ、皆それぞれに紐を結び終えていて、
「わちき、食べ物などどっさりと抱え込んでしまいそうでにゃんす」
 並ぶ出店の数々を前に待ちきれないと言った様子の、猫丸に促されるように一行は出店を回り始めた。
「りんご飴にチョコバナナ……出店グルメは何故かそそられるよな」
 出店を回る中、改は深緑の紐を結んだ手で口元を押さえる。
「食べたいものがあるなら、買ってきては?」
 そんな改を見たマリアムが小さく笑いながら砂色の紐を結んだ手をひらひらと振るも、改はいやなんでもとそっぽを向く。
「やっぱり屋台といえば綿菓子。えーっと、でっかいのを……ふたつ!」
 だが向いた先では、堂々と屋台のおじさんに注文したニコが赤の紐を結んだ手で大きな綿菓子を受け取る姿があり……譲葉が藤色の紐を結んだ手に持つリンゴ飴をがりがりと齧っている姿があった。
「食べるか?」
 そんな改の視線に気づいた譲葉が食べかけのリンゴ飴を見せつけてくるも流石にそれを受け取る訳にもいかず、
「チョコバナナの方が良かった?」
 助け舟を出すように形兎から差し出された綿あめを受け取り、え? あぁ、ありがとう……と挙動不審になりながらも、ふわふわした白い塊に口をつけた。改の挙動を微笑ましく見守りつつマリアムはキカやニコそれから猫丸と焼きそばを分け合ったりカステラや綿あめを分け合ったりしながらふらふらと屋台を巡り、
「あ、金魚すくい!」
 暫くするとキカが金魚すくいの出店を見つける。
「やはりお祭りといえばこれでにゃんすなぁ。ふっふ、実はわちきも手先の器用さには自信がありまして」
「勝負だな」
 そんな金魚すくいを見て猫丸が得意げにポイを手にすると譲葉の目がキラリと光った。そして2人揃ってそぉい! とポイを水に突っ込んで……あえなく轟沈する。それでも諦めずにポイを突っ込んでは破る2人を横目に改は器用に出目金などを掬い「流石です!」と感心した様子のマリアムにコツなどを教え始めた。
「きぃ、一回もすくえた事ないの。虹はやった事ある?」
 皆それぞれに金魚すくいを楽しむ中、キカも2つ目のポイを破いたところで少ししょんぼりしながら虹へ話しかければ、
「皆さんと一緒なら何だか上手くいく気がします!」
 虹は得意ではないけれど何だか行ける気がする! と水の中にポイを突っ込んで……破れたポイの穴を見つめながらやっぱり幻想でしたと肩を落とした。2人揃って肩を落とすキカと虹にも改がコツを教え……漸く皆がそれなりに金魚を掬えるようになったころ。譲葉と共にポイを破りまくっていた猫丸はふと周りを見回して仲間達が大量の金魚をとっている事に気付いた。それから赤くて小さいのがかわいいと言いながら全ての金魚に名前を付けている形兎の姿を見て、
「いやぁ、大漁も大漁。皆々様お上手でして! お店で飼うとならば……ふむ、庭に池でも掘るべきでしょうか」
 大量に飼うなら池を作ろうと提案する。
「本屋の奥、店長の机に置かれた金魚鉢なんて風情ある姿を想像してたけど。そうだね、これだと庭に池を作る事も考えた方が良さそうかな」
 その提案を聞いたニコも猫丸の提案に賛同し、キカや譲葉も本屋の池に泳ぐ金魚を想像して賛成する。
「縁結びの結びには産霊……新しいものを産み出す目に見えない力、という意味もあるらしい」
 それから猫丸を中心にどんな池にしようかと話し始めた仲間達の手首……そこに結ばれた色とりどりの紐を見つめながら、新たな縁が生まれた事に感謝しないとなと呟くように改は口にする。
「生まれる縁、ですか」
 そんな改の言葉を聞いてマリアムは感慨深く頷き、自分の手首に結んだ紐を見てニコは微笑む。不器用ながらも手首に結んだ皆の紐。この輪を巡るようにこの先も多くの縁を繋いでいけたらいいですね、と。

 祭りの喧騒から少しだけ外れた場所に、その交換所はあった。夜を駆け抜ける風は掛けてある様々な色の糸を揺らして何処かへと消えていく。その様を見つめていたアイヴォリーは風に揺れた紐の中に一房に目を奪われていた。
「皆はどれを選ぶ?」
 一見地味な紐をとるアイヴォリーを横目に、夜が問えば、
「空間そのものが芸術作品みたい。ため息が溢れちゃいますね」
 しずくは小さく息を吐き、ミレッタは並ぶ紐を順々に見て回っていた。この並んだ紐を千紫万紅とアイヴォリーは言い表したが、人と人の繋がりはまさに千紫万紅。人の数だけ、想いの数だけそれはあり。どれ一つとして同じものがない。故に、今必要な色と形をした紐が、探せば必ずある。
 紺青から朱鷺へと移る夜明け色の平打紐を手にした夜は、それを自分の手に巻いてみるが……片手で紐を結ぶ事は難しい。上手く結べぬと早々に諦めた夜は、誰か結んでと片手と腕を差し出した。
「任せて」
 一人で、片手では難しい。当たり前の話だが言われて気付く事もある。夜の言葉にミレッタは微笑みを返して差し出された手に紐を結んでやる。
 それから順番に紐を結んでいく様が一つの組紐みたいだとミレッタは両手を胸の前で合わせ、
「さぁさミレッタ、ご縁を結ばせて下さいな」
 縁を結ばせてくださいなと、しずくが片手を差し出すとミレッタはにこやかに合わせた手を取った。ミレッタの手には、芽吹いて枯れてまた芽吹く、懐かしい環を思わせる若緑と茶鼠を繰り返す平打紐があり、しずくはそれをミレッタの手首に巻いていく。それからこれからもどうぞよろしくと気持ちを込めて蝶々の形に紐を結んだ。
「しずく、わたくしにも結ばせてくださいな」
 結び終わった後に微笑みをミレッタへ返せば、今度はアイヴォリーがしずくへ声をかける。声をかけて来たアイヴォリーへ差し出されたしずくのしなやかな白い手には、真っ白な……否、よくよく見れば細い銀の糸が丁寧に織り込まれていて光を受ければ虹のように輝く平打紐が握られていた。
「――完璧! これで絆の安泰さも間違いなしです」
 アイヴォリーはその紐を渾身のスキルを駆使してしずくの手首へ結んで満足そうに頷き、しずくもまた満足そうに手首に結ばれた紐を見つめた。
「最後は君だね」
 そして最後に夜がアイヴォリーの手を取って、その手に在った深い緑の平打ち紐を見つめた。
「まるで星降る夜の廃園――我々の秘密基地に、似ているでしょう?」
 一見地味だが、密やかに縁取る瀟洒な金色、落ち着きの中にある輝き。とても嬉しそうに目を細めたアイヴォリーを少し眩しそうに夜は見つめ……その手に確かな絆を結んだ。縁がぐるっと円を描いたところで、しずくが回りを見回せば、皆もまぁるい笑顔になっていた。
「どうぞ此れから永く続く縁を宜しく」
 しかし願いは神頼みでは無く自ら成すものと夜は片目を瞑って笑み。皆の手を拝借する。
「「いよぉー」」
 そしてその手で縁を掴み続ける事を願うようにと、一行は手を合わせた。

「ね、結んでも良い?」
 ヴェルトゥはまるで自分を表すかのような、紺色から薄花色へと移り変わる組紐を手にするとエレオスへと向き直る。
 問われたエレオスは微笑んで……ヴェルトゥはエレオスの三つ編みの結び目に重ねるように組紐を結んだ。綺麗に結べるだろうかと不安になりながらも結んだ組紐だが、
「宝物にしますね」
 三つ編みの先に結ばれた整った星夜の色を見たエレオスは花開くように無邪気な笑顔を浮かべた。エレオスの笑顔にヴェルトゥは満足そうに頷いた。
「次は私に結ばせて下さいね?」
 お返しにと、今度はエレオスは自身の瞳と同じ色の房付きの細い組紐を手に問えば、ヴェルトゥは快く頷いて……エレオスは自分に結ばれた組紐と同じ場所になるようにと慎重にヴェルトゥの髪へ組紐を結ぶ。
「――完璧です」
 人に髪の毛を触られる感触にこそばゆさを感じつつもヴェルトゥがされるがままになっていると、エレオスは自分が結んだ組紐の色とそこから垂れる房飾りが夜風に揺れる様を見て少し得意そうに笑っていた。
 それから2人はお互いが結んだ組紐を確かめるように触れて……この縁が途切れる事なく続くようにと目を閉じた。

 一人で夜空を見上げる。
 夜の風は心地よく、祭りの喧騒で火照った体を冷やしてくれるようだ。
 そうして暫く風に当たっていると、何処か見た事がある人が近づいてきて……それが誰であるかを理解して、普段とは違うその姿に見惚れる。
 それから苦労して手に入れたであろう紐を手に、そっけなく紡がれた言葉に目を細め――紐を持つ、その手の先に触れた。

作者:八幡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月30日
難度:易しい
参加:45人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 12/キャラが大事にされていた 3
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