水無月に咲く

作者:東間

●蠢く赤
 石造りの階段は色を深くし、生い茂る緑はより色濃く艶めく。
 そこを彩る紫陽花は、葉と共に雫の化粧を纏っているかのよう。
 満開を迎えつつあったそこは、この時期なら人で賑わう紫陽花の道。しかし、まだ暗い時間に降った雨のせいか、朝日が降り注ぐそこはいつも以上の静けさで満ちて──それがほんのいっとき、人々に味方した。
 漂ってきた花粉が、ぴとり、と取り付いたのは、階段を見上げるように咲いていた赤の紫陽花達。
 あっというまに異形と化した紫陽花達は、ふわふわとした手鞠のように赤色を揺らし、大蛇を思わす動きで身をくねらせる。
 僅かな間そうしていたが、周囲には人っ子ひとりいない。
 紫陽花達は階段の先を見上げた後、ぐるり、と反対側を見た。
 今いるのは、紫陽花に彩られた階段のように無数の紫陽花に囲まれた場所。舗装された地面には、駐車場である事を示す白線多数。その先には──住宅街。

●水無月に咲く
 爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出して、暫く。
 攻性植物達は大阪市内への攻撃を重点的に行い、一般人を避難させ、市内を中心として拠点を拡大しようとしていると見られ、大阪に気を配るケルベロスは多い。
 その1人である天見・氷翠(哀歌・e04081)は、謎の胞子により紫陽花型の攻性植物が複数誕生したと聞き、目を伏せた。
「……折角、綺麗に咲いていたのにね」
 だが、このまま放置すればゲート破壊成功率が緩やかに下がっていってしまう。
 紫陽花達は一般人を見つければ殺そうとする危険な状態。人々を守る為に何をすべきか、氷翠は悲哀を浮かべつつも心得ていた。
 視線を受けたラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)が頷き、大阪府内にある紫陽花の名所、その1つをタブレットに表示する。
「攻性植物になった紫陽花達に逃走の恐れは無し、別行動せず固まって動くっていう特徴がある。ただし5体っていう数は見逃せない驚異だし、同じものから生まれたからか、しっかり連携してくるから気を付けて」
 それでも、油断せずしっかり作戦を練っていけば──ラシードはそう言って信頼を覗かせてから、紫陽花達の戦闘能力に触れ始めた。
 鮮やかな緑に染まった茎で戦場を浸食し、敵陣を飲み込むもの。
 赤色の花と萼で彩った枝を鞭のようにしならせ、敵に絡み付き縛り上げるもの。
 黄金果実の恵みによる癒しや、萼に光を集めて放つ破壊光線。
「どれも君達がよく知る攻性植物のものと変わらないね。ヒールを使うのは前衛にいる2体と後衛の1体だけだ。残り2体……これも前衛だね。そっちは攻撃のみ繰り出してくる。強さはどれも同程度だよ」
 戦場となる駐車場は広々としており、戦うのに一切支障がない。
 だが、『早朝』『深夜に降った雨の影響』で人気はないとはいえ、そこは住宅街の近く。氷翠が人々を案じると、ラシードは警察に連絡を入れたから大丈夫と笑みを浮かべた。
「君達が戦闘に集中出来れば、それだけ大勢が守られる。人々も、紫陽花もね」
「……うん、そうだね。それと、あの紫陽花達も」
 助けたい。
 これ以上歪められないように。
 雨に濡れて咲いていただけの赤色が、更なる赤に濡れぬように。


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)
天見・氷翠(哀歌・e04081)
ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)
八崎・伶(放浪酒人・e06365)
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)
リヒト・セレーネ(玉兎・e07921)
翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)

■リプレイ

●雨香る場所
 緑。土。アスファルト。普段その香りはさほど強くないのに、深夜の雨は色と同じくその存在感を濃くし、朝日の下に漂わす。
 紫陽花に似合いの世界が、そこにあった。なのに。
(「……その姿はあまり君達に似合わない、ね」)
 殺気を広げていくリヒト・セレーネ(玉兎・e07921)の目に映るのは、赤い紫陽花をいくつも咲かせた攻性植物達が『上』を見つめる姿。
 見上げる階段の先へ、行ってみたかったのか。
 それとも、見上げる花であった時の事が残っているのか。
 天見・氷翠(哀歌・e04081)はほのかに青い羽先を持つ白翼を現した。人や地球は勿論大切。だから攻性植物となった彼ら紫陽花は──とは、思っていない。だって、彼らは──彼らはただあそこで咲いていただけなのに。
 氷翠の様子を見て、ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)は迷わずその隣に並び立つ。
「助けるの。攻性植物からわたしたちの紫陽花を、取り戻すの」
「のーちゃん……ありがとう」
 心に浮かんだ痛みに温もりを添え、あそこに咲く紫陽花達を巻き込まないよう『こっちだよ』と呼べば、紫陽花達がゆっくり振り向いた。一斉に向かってくるさなか、みしみし聞こえるのは体を構成する茎や葉の音だろう。
「紫陽花……いえ、紫陽花だったもの。植物が動くというのも、存外気味が悪いものね」
「紫陽花の剪定には少々時期が早いかな。しかし、病気にかかった花は早く摘まなければいけない」
 古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)は敵群を静かに見つめて言い、空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)は向かってくる敵へとクールに告げ、螺旋を放った。
 モカの放った螺旋は『有言実行』を現すように緑を裂き、愛する自然の変わり果てた姿に、翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)も、苦しげな表情を浮かべながらも牙剥く『黒』を解き放つ。
「綺麗に咲いていましたのに……彼らが多くの命を殺めてしまう前に……止めましょう」
 緑芽吹くような箱竜・シャティレのブレスも2人に続くが、別の紫陽花が巨体を滑り込ませ、代わりに焼かれていく。
「成る程な。だが、まずはてめぇからだぜ!」
 相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)は裸足で力強く踏み込み、輝く右手で巨体を掴んですぐ闇色の拳を叩き込んだ。次の瞬間、別の個体へとリヒトが光と音爆ぜる一撃を見舞う。
 轟音と共に緑と赤の破片が散り、他の紫陽花達が頭を持ち上げる。
 その向こうに咲く普通の紫陽花は今しか見られない彩りだ。雨の日が多少なり鬱陶しく無いのは、鮮やかな緑の中にしっとりとその色を咲かせてくれるからだろう。
「綺麗に咲いてるところをお邪魔するぜ。さっさと片付ける、暫く煩いが見守ってくれ」
 八崎・伶(放浪酒人・e06365)は無数のドローンで仲間達の周囲を固め、その上を1つの箱──箱竜・焔が飛んでいく。それを別の紫陽花──敵のディフェンダーが庇い、庇った側と庇われた側の持つ緑がぐるりと形を変えた。溢れ出した黄金の輝きは巨体に刻み付けた傷をいくらか癒し、何体かに加護をも与えていく。そして。
「範囲攻撃、来ます!」
 気付いたリヒトが声を上げると同時、前衛陣の足下が砕け、隆起した。

●繋がる緑、繋ぐ牙
 亀裂から飛び出した無数の茎が鞭のように伸びる。間を置かずもう一波。
 前に立つ全員を狙ったのだろう。だが盾であるシャティレが伶を突き飛ばし、モカがノーザンライトの前に割り込んだ為、それは叶わない。
 シャティレ目がけ放たれた光線を今度は伶が庇って──と互いに互いを守った直後。
「人間は肥料じゃない」
 ここを通りたければわたし達を倒して以下略、と、ノーザンライトが中ボスのような言葉の後に紡ごうとしたのは幻影竜を呼ぶ呪文。が、ふと思い出す。
「ごめんドラゴン、リストラ。槍騎兵さんカマーン」
 喚ばれ降り立った氷結の騎士は敵へと真っ直ぐ向かい、るりは紫陽花達を見つめ、呟いた。
「良い連携。……ああ、攻性植物になる前から一緒だったのよね」
 高い火力を誇るクラッシャーも厄介だろう。早めに倒すべきだが、まずは。
 るりの周囲に一瞬で現れた神槍のレプリカが、指し示された通りに空を切って飛ぶ。
 激突する音を耳に氷翠は守護星座を描いた。溢れた光は高い治癒力と共に前衛陣を包み、何人かに加護を与えていく。
 その『何人か』であったモカは、1歩踏み出した瞬間、意識にかかっていた靄が晴れたのを覚えて唇に笑みを刻んだ。ドリルのように高速回転させた腕を叩き込み──飛び退く。
 目の前を駆け抜けた暴風が数体を覆っていた加護を砕き、鮮やかな緑や赤に、次から次へと真っ黒な触手が絡み付いていった。リヒトとるりの攻撃が敵を一瞬止める。
「もう一度……」
 癒し、支える為に氷翠は再び星辰の剣を揮った。地面に描いた守護星座の輝きは泰地にも加護を与え、確かな支えを受けた全身が、ぐっ、と盛り上がる。
 凄まじい旋風となった瞬間は、死角を取られた敵からすれば姿が消えたに等しい。気付いた時には凄まじい蹴りが叩き込まれ、その衝撃で奥へと伸びた緑がバツンッ、と音を立てた。
 瞬間、巨体が1つ霧散するが紫陽花達の動きは止まらない。高く上がった頭部に咲く花から灼熱の光線が2発放たれ、黄金果実の光が降る下、飛び出した根がケルベロス達を呑もうとする。
 だが彼らは冷静に次の標的──火力担う1体へと狙いを向けた。
 ノーザンライトの声に応えた槍騎兵が突撃し、それを別の1体が庇った隙を伶と焔が突く。『虚』纏った斬撃を容赦なく繰り出し、封印箱ごと体当たりをして枝葉を散らす。攻撃の流れから、風音は癒しを繋いだ。
「シャティレ、モカさんをお願いします」
 風音の声を受け、大きく羽ばたいたシャティレの力がモカに注がれる。風音はそんなシャティレへ癒しの音色を響かせ、氷翠と視線を交え頷き合った。
 ケルベロス達は連携してくる敵との戦いに備えて役割を分担し、状況に応じて動けるよう考え、しっかりと心を繋いできた。それは5体──今は4体となった紫陽花が連携をしてくるとしても、そう簡単に崩れはしない。
 モカから立ち上ったオーラがノーザンライトの意識にこびりついたものを祓い、敵の癒し手、その頭にリヒトが光のハンマーをドゴンと振り下ろす。ハラ、ハラリと赤が散って、頭部がほんの少し左右に揺れた。
 緑の中に咲くいくつもの赤をノーザンライトは見つめ──特殊文字を刻んだナイフの刃を一気に鋭く波立たせる。
「攻性植物だけ取り除けたら、良いんだけど」
 ビルシャナとの契約や、誰かが攻性植物の宿主とされる事件とはタイプが違う。その願いは叶わないと解っているが故に繰り出すのは、妙技・ジグザグ剪定スラッシュという名のジグザグスラッシュ。だが。
「……紫陽花の剪定って、どこ切るんだっけ」
 聞こえた氷翠の唄に振り返る。雨を想い、攻性植物となった紫陽花が少しでも安らげるよう──仲間達には、希望への導になるように。唄を終えた氷翠は少し考えた。
「どこを切るんだろう……知らなくてごめんね、のーちゃん」
「いいんだひーちゃん、回復サンキュー……はっ」
 稀なデレが慌ててツンッと引っ込み、どう、と倒れた紫陽花の体がぼろりと解け消えていく。『じゃあ』という声は後ろから。
「全部倒した後に、調べてみるといいんじゃないかしら。最近はインターネットに色々載っていて便利だし」
 そう言ってるりは次の標的を指す。瞬間、神槍が風を裂くように飛んだ。

●水無月の向こうへ
 代わりに貫かれた紫陽花の花が1つ、ぼとりと落ちる。まだ付いている花が萎むように形を変え、実った黄金の光が周囲を照らした。
 光を浴びた紫陽花2体は誇るように体を起こし、破壊に満ちた光と浸食の根を繰り出してくる。その間に、落ちた花は早送りするように萎れ、消えていった。果実を実らせた花は、いつの間にか元に戻っている。
 捕らえようとしてくる根から泰地を庇った伶は、腕に残る痛みをぺしぺし払いながら敵を見上げ、笑んだ。
「花は花のままに。無粋っつーか野暮だよな、お前らはいつも」
 緑を成し、陽を浴び、風に揺れて、花を咲かす。あらゆる植物に取り付いては、ただそこに在ったあり方をねじ曲げていく。
「ああけど、一緒に動くのは、やっぱり花の固まった紫陽花としての特性みたいなのがあるのかね」
 そう言って竜の力を噴出させれば、手にした槌が豪速で紫陽花を叩き潰し、焔のブレスが巨体を包み込む。
「さあ覚悟しやがれ!!」
 その向こうから伸びた輝く手──巨体を引き寄せた泰地の拳が大きなへこみを作り、小枝がそうなったかのように緑が一気に吹き飛んだ。
 揺らいだ巨体が僅かに止まり、全身から軋む音をさせながらゆっくり動き出す。その様子にリヒトは後ろを振り返る間も惜しんで声を上げた。
「風音さん!」
「ええ。シャティレはもう一度ヒールをお願いします……!」
 ──響け、我が歌声。彼の者へと届くまで。
 いくつもの思いを乗せた歌声はどこまでも強く、どこまでも真っ直ぐに響き、とうとう3体目が倒れた。
 残り2体が、大きく長い体をぐわんぐわんとくねらせ、頭をもたげる。全身に咲く赤い紫陽花が、風もないのに揺れていた。
(「仲間が倒されて、怒ってるのかな」)
 リヒトは胸の奥がちくりとしたが、蠢く巨体の向こうに見えた赤、青、紫──階段を彩る花達を見て、凛と2体を見上げる。誰も、何も傷付けさせない。
(「だから負けない。それだけは譲れない」)
「では、君も摘ませてもらおうか」
 モカは揺れる巨体を華麗に避けながら盾を努めていた敵へと迫り、武器へと変えた己の腕を見舞う。その時、ぱらら、とかすかに聞こえたのは紙の音だった。
 『ファースタリ』を開いたるりは、大人しく静かな瞳に敵の持つ紫陽花を映す。雨まで好きになれそうな気がする、紫陽花の上品な色。攻性植物になるだけで、こうも印象が変わるなんて。
「花の命は短くて……なんて、誰が言ったのかしら」
 よく守るディフェンダーとメディックだわ、忌々しい。
 ぼそりと声が零れた瞬間、境界から現れた漆黒の触手が敵の生命全てを喰らおうと迸る。絡み付かれた巨体が滅茶苦茶に動きながらも、その根でアスファルトを侵して牙を剥き、もう1体が果実の光で暴れる仲間を照らし出した。だが。
「攻性植物って要は、草花に付く寄生虫。そのまま文字通り、散華しろッ」
 ノーザンライトがミサイルのように空を舞──いや、諸々の事情で『突撃して吹っ飛ばす』事にのみ行動特化した箒に乗って、疾風の如き勢いで突っ込んだ。
 パワーに満ちた一撃は巨体を貫き大穴を空け、轟音と共に倒れた巨体を通過した焔のブレスを追うように、伶が駆け上がっていく。
「そろそろ静かにしたいんでね」
 揮う大鎌の刃にほの暗い力を纏わせ、閃かせればざくりと手応え。そして僅かに癒える傷。
 風音も最後の1体へと橙の眼差しを向ける。鮮やかな緑や、ふわふわとした鞠のような形で咲く花を見ると瞳が震えるが──。
「あなた達の行いで多くの命が奪われるとなれば、私はその虐殺を止める為に戦います……!」
 束ねた妖精弓から放った神殺しの巨大矢が、決意と共に紫陽花の頭部を射る。
 巨体を構成する緑が一気に波打ち、仰け反った。それが、がくんと逆側へ。聖なる光で輝く拳と、真逆の闇を纏ったもう片方の拳。泰地の叩き込んだ一撃はそこから天辺へと流れていき──割れた風船のように、緑と赤が弾け飛んだ。

●梅雨明けゆく朝に
 ぱらぱらと降り注ぐ攻性植物の欠片が、アスファルトに触れる直前で消えていく。それをノーザンライトは静かに見送った。
「やっぱり、全体が攻性植物になっているか……」
 氷翠も手を伸ばしてみる。僅かな間は掌に乗っていたが──やはりそれも消えていき、欠片を惜しむように掌をぎゅっ、と握り締めた。
(「おやすみなさい……助けられなくて、ごめんね」)
「氷翠さん。大丈夫ですか?」
「……うん。大丈夫だよ。ありがとう翡翠さん」
 風音はそっと頷いて仲間や周辺の状況を確認し、伶も彼女と共に必要な所へヒールを施していく。全てが終われば、周りにあるのは戦っていたのが嘘のような静けさと──少し薄れた気がする、雨の名残。
「綺麗なもんだな。なぁ、焔? 何だ、気になんのか?」
 じりじり紫陽花に近付いた焔の黒い爪先が、紫陽花の葉をちょんちょんと突いている。そこにあるのが『普通の』紫陽花だと理解したのか、いつもの様子で紫陽花とは逆を向き、ぽひゅっと小さな火を噴いた。
 インドア派、かつ読書と料理が趣味のるりとしては、湿気で本や食品が傷むので気になる所ではあるが。上へと伸びる紫陽花の道に目を向ければ、だけど、と思う。
「雨上がりの朝って素敵ね」
 共に目を向けた風音は、足下に寄り添うシャティレへ微笑みかけ──紫陽花達を悼んだ。
「紫陽花達……どうかまた、美しい花を咲かせてくれますように」
「ああ、来年も美しい花を咲かせてほしいものだ。悪い病気にかからずにな」
 葉化病、うどん粉病等、色々と恐ろしい病はある。今回のような攻性植物化も含め、悪いものが付かなければ、彼らは紫陽花として次の梅雨を優しく彩ってくれるだろう。
「また来年……」
 リヒトが見つめる先、階段の始まり部分は少し寂しくなってしまったが──来年、あそこに仲間が増えたとして。今のように色とりどりの紫陽花が仲良く咲いて、もっと綺麗になるだろうか。
(「……あの子達も皆一緒に空へと旅立てたかな。そうだったら、良いなぁ」)
 変えられてしまう前のように、仲良く並んで咲いていますよう。
 祈りが終わった時、泰地がパシッと手を合わす。
「それじゃあ、オレは一般人や警察に討伐完了の報告をしに行ってくるぜ。不安がっているだろうしな」
 攻性植物の勢力拡大阻止の為、まずは確実に出来る事をした。いつか更なる機会が訪れるかもしれないが、今度は次の事をしなくては。
「あ、警察への連絡は俺がやっていいか?」
「おう。頼んだぜ、伶!」
 駆け出した泰地を見送ってから電話をかけると、警察にはすぐに繋がった。早朝から騒がせて悪かったと詫びを入れ──た瞬間、『命がけで守ってくれたケルベロスに文句を言う人はいません』と断言され、更に、雨の名残も吹っ飛ぶ熱い礼が何度も返ってくる。
 くしゃり笑う伶から『無事完了』とジェスチャーを受け、氷翠は空を見た。
 気付けば空の青さは来た時よりも鮮やかで、雫化粧を纏う紫陽花達も、陽射しの影響でキラキラ輝く粒を纏っているようだった。
 『彼ら』が咲いていた場所に近寄り、そのすぐ傍に咲いている淡い青色紫陽花へ口を寄せる。
「私も覚えているから……貴方達も、覚えていてあげてね」
 あの色を。あの姿を。
 そして──水無月の頃に、また。

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 0
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