歓迎しよう、殺戮の宴に

作者:一条もえる

 梅雨の合間の晴天。それを幸いに、とあるホテルの屋上にあるビアガーデンは大賑わいであった。
「なんだかんだですっかり遅くなってしまったけれど、我が社にも新たなメンバーが加わってくれました。タカギ君、これからよろしく。乾杯!」
「よろしくお願いします! 乾杯!」
 グラスが打ち合わされ、軽やかな音を響かせる。
 賑わっている一角に、10人ほどの年齢も様々な男女が陣取っていた。見るからに同じ会社の面々で、和気藹々と食事楽しんでいた。
「あ、すいません。ちょっとトイレに……」
 主役の青年がそう言って席を立つ。
「はぁ~。俺、この会社に入って本当によかったなぁ~」
 小便器の前に立ち、青年はしみじみと呟く。
「飲めない俺に合わせて、みんなも『大丈夫、今日は食う日だ!』とか言ってくれるしさぁ。
 給料は下がったけど、残業も少ないし、なによりみんながギスギスしてないし……」
 身体を震わせた青年は手を洗い、皆の元に戻ろうとした。そのとき。
 建物を震わせるほどの轟音が響き渡った。
「な、なんだぁ?」
 トイレを飛び出した青年が目にしたものは。
 床に突き立つ、巨大な『牙』であった。
 呆然と眺めている人々の前で、それは鎧兜を纏った竜牙兵へと姿を変える。
「カカカカ! 酔ウナラバ、酒ヨリモ貴様ラノ血デ酔オウデハナイカ!」

「前途洋々たるところに竜牙兵とは。なんとも不運な」
 事件を聞いたスルー・グスタフ(後のスルー剣帝である・e45390)が嘆息する。
「そうよねー」
 頷く崎須賀・凛(ハラヘリオライダー・en0205)の前では、ジュウジュウと肉が焼ける煙が漂う。そして手には丼飯。
「もぐもぐ……。
 お酒、そんなに好きじゃないから。
 とあるビアガーデンに、竜牙兵が出現するみたいなの。だから急いでヘリオンに乗ってちょうだい」
 凛は焼けたタン塩をすかさず口元に運び、空いた鉄板にテンポよく豚バラを並べていく。
「客は多いのか?」
「もぐもぐ……。
 そうね。駅前にあるホテルなんだけど、結構な賑わいみたい。
 本当なら避難させたいところだけど……」
「人が少なくなれば、竜牙兵どもの狙いも他所になる、というわけか」
「そう。もう、そうなったらお手上げだから。敵の出現を狙っていくしかないわ。
 とにかく、最初だけ敵の攻撃を防いでちょうだい。
 みんなが駆けつけたら、敵の注意はみんなに注がれると思うし。そこからの避難誘導はホテルの人や警察にまかせられるだろうから、みんなは戦いに集中できるわ」
 塩トントロ、そしてカルビへと移行しつつ、凛はケルベロスたちを見渡す。
「次、ロースとハラミはタレで!」
「まだ食うのか」
 呆れるスルーの前で、凛はさらに肉を焼く。白米もおかわりしながら。
「もぐもぐ……。
 現場のビアガーデンは、ホテルの屋上。まず建物の端に階段とエレベーター、それにトイレなんかがあって、そこから屋上に出たところが様々な料理やお酒の並ぶカウンターやテーブル。客席はその向こうね。
 下に降りるには、そのエレベーターのところしかないんだけど。竜牙兵はテーブル付近に出現するから……」
 客たちに、逃げ道はない。予知では、進退窮まった客たちの中には、フェンスを乗り越えようとする者もいたようだが……その先には、空しかない。幾人もが、長い悲鳴を上げて転落したようだ。
 さらにまずいことには、騒ぎを聞きつけてとっさにトイレから屋上に駆けつけてしまった男性などもいるようだ。
 さすがに凛も沈鬱な表情を浮かべ、箸を止める。
「現れる竜牙兵は4体。全員が大鎌を武器にしてるみたい」
 ドラゴンの尖兵である竜牙兵どもは、最後の1体が絶命するまで、戦いをやめないであろう。
 すなわち、生き残るのはケルベロスか、それとも。
「大丈夫、みんななら」
 凛は気を取り直して笑顔を浮かべ、ブチブチと音を立てて焼けるシロコロホルモンを口に放り込んだ。

「いいだろう。いかなる困難な戦いだろうと、踏み越えてみせよう」
 スルーはそう言って、剣把を叩いた。


参加者
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
サラ・エクレール(銀雷閃・e05901)
葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)
ネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221)
ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)
エリザベス・ナイツ(見習いワッフル売り・e45135)
スルー・グスタフ(後のスルー剣帝である・e45390)
名無・九八一(奴隷九八一号・e58316)

■リプレイ

●ビアガーデンは大盛況
「はぁ? ワッフル?」
 デウスエクス襲来という心胆震え上がる報を聞かされたホテルの従業員は、続いた言葉の意味が心底分からず、阿呆のようにオウム返しした。
 その、しばらくあと。
「ワッフルワッフルおいしいぞ♪ そのまま食べてもいいけれど。
 ベーコン、チーズにフライドチキン! いろいろ包んでお楽しみ……♪」
 スルー・グスタフ(後のスルー剣帝である・e45390)は聞きほれるような美声で、なにやら愉快な歌を披露していた。
「ビールにもよく合う、おいしいワッフルよ!
 生地はふんわり。ほかにチキンやほうれん草入りのものまであるのよ!」
 エプロンをつけたエリザベス・ナイツ(見習いワッフル売り・e45135)が、ビアガーデンの客たちに呼びかけている。右に左にと声をかける拍子に、フリルのついたスカートが揺れる。
 いかにも間に合わせでこしらえられた……というか、明らかに別のもののために用意されたカウンターの向こうで、ネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221)が持参した型に生地を流し込んでいた。
 『首謀者』は彼女。
「お菓子だと思っちゃうでしょ? でも……主食にもなる可能性は十分にあるんだから」
 と、自信たっぷりの笑みを浮かべる。目的を忘れてなければいいが。
「さて、うまくできたらご喝采」
 その近く、テーブルを退かして作ったとおぼしき開けた一角で、名無・九八一(奴隷九八一号・e58316)がひらりと宙返りして見せた。
 ビアガーデンの客がどよめく。
「……今年はずいぶんと、賑やかになってるなぁ」
 10人ほどの、様々な年齢の男女が座っているテーブルから呟きが漏れた。
「キヒヒ、お待たせしましたぁ。ウーロン茶でぇーす!」
 そのテーブルに、怪しげな眼帯で顔を隠したウェイトレスがグラスを運んできた。
 言うまでもなく、葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)である。
「あぁ、これはお腹が空いてきますね……」
 気配を隠して佇み、焼かれるサイコロステーキを眺めつつ、サラ・エクレール(銀雷閃・e05901)がため息をついた。
「楽しい宴を邪魔しに来るなんて、実に許し難いね」
 いかにも関係者ですという顔で潜り込んだピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)が、肩をすくめる。
 その言葉に呼応したわけでもあるまいが。空気を引き裂いて飛来した巨大な牙が、ホテルの屋上に突き立った。衝撃で付近にあったテーブルやイスが倒れ、吹き飛ぶ。
「カカカカ! 酔ウナラバ、酒ヨリモ貴様ラノ血デ酔オウデハナイカ!」
 それは4体の竜牙兵へと変じ、大鎌を振り上げて人々を威嚇した。
「出たな! きっちり片づけて、ガーデンでビアするぞー!」
「私たちケルベロスが、その野望を打ち砕いてみせます!」
 ピジョンとサラとが、得物を手にして飛び出す。
「ああああ! まだ焼いてる途中なのに……!」
 敵と手元とを交互に見て、ネリシアが悲鳴を上げた。
「こればかりは仕方がない。行くぞ!」
 スルーが得物を構え、最終決戦モードへと変形させつつ飛び出す。緊急の出動だったのである。やむなし。
「せっかくの憩いの場を襲うなんて、そして美味しいワッフルを無駄にしたこと、許さないわ! このエリィが相手よ!」
 エプロンを払いのけたエリザベスが、杖を竜牙兵どもに突きつけた。
 苦渋の表情でネリシアもエプロンと頭巾をはずし、ガスの火を消して竜牙兵どもを睨む。
「『くーる』な実験を始めようか……!」
 一方、そのころトイレでは。
「いやホント、転職してよかったわぁ」
 手を洗っていた青年は、入ってきた掃除夫とぶつかりそうになって身をよじった。
「あ、すいません」
「いや、問題ない」
 ずいぶんと偉そうな掃除夫だなと思われたのは、ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)である。
 ヴィクトルは手にしたモップで床を、見るからに大雑把に磨いていく。
 そのとき、外からの轟音が届いた。
「な、なんだぁ?」
 飛び出そうとした青年……タカギを、ヴィクトルはモップの柄で押しとどめる。
「待て。今、デウスエクスが現れた。お前さんは落ち着いて階段まで行くんだ。いいな?」
「で、でも会社の……」
 こいついい奴だな、と思いながらヴィクトルは口の端を持ち上げる。
「ビアガーデンにも仲間がいる。俺たちで片づけるから、心配するな!」
 そう言い残して、モップを投げ捨て、駆ける。
「楽しい『お掃除』と行くか!」
 少なくともトイレ掃除よりは、性に合っている。

●屋上の死闘
「死ネィッ!」
「アタイはまだ、死にたくはないねぇ」
 中年男性に向かって振り下ろされた大鎌を、咲耶は光り輝く盾で受け止めた。
 同じくピジョンも、杖を掲げてそれを防ぐ。
「僕たちが来たからには大丈夫。落ち着いて、階段の方へ!」
 と、恐怖のあまりフェンスをよじ登ろうとしていた若者に声をかけた。
「生成開始、……鬆餅焼成ッ!」
「えぇいッ!」
 ネリシアとエリザベスとが、目配せしあう。
 ネリシアが大地の力をそそぎ込んで焼き上げたワッフル。型を振りかぶって、敵めがけて投げつけるのと同時に。エリザベスが気合いの声を上げた。
 ワッフルは高笑いする竜牙兵の口に飛び込み、そしてエリザベスの極限まで高められた精神力と合わさって大きな爆発が起こった。
「ゴォッ!」
「さて……こいつらの相手になるか?」
 駆けつけたヴィクトルが紫煙をくゆらせると、それはネズミの獣人の形を取った。
「ケタケタケタケタ!」
「ケタケタケタケタ!」
 囚人服を着た亡霊どもは耳障りな笑い声とともに、エネルギー弾を放つ。
 竜牙兵どもは身を堅くしてそれを受け止めた。爆風が辺りを襲い、グラスがいくつも倒れて割れる。
「ち。簡単に倒れちゃくれないな」
「コノ程度デ、我ラガ倒セルモノカ!」
 竜牙兵どもがテーブルを乗り越え、飛びかかってくる。
 だが、その前に立ちはだかったのは。
「果てしない海、遙かな蒼穹! ここに立つのはただ一人!」
 ピジョンが見せた幻影。その『無人島』にいるのは、竜牙兵と相対するのは、彼ひとり。
 その隙に、ビアガーデンの客たちはスルーらにも導かれて階段の方へと避難を行うことができた。
 しかし、その代償は。
「小賢シイ真似ヲ!」
 怒りにまかせた竜牙兵の刃が、ピジョン一身に降りかかる。ひとつを跳び下がり、ひとつを杖で弾いたものの、体勢を崩したところに狙いを定めた刃が払われた。
「ぐ……!」
 腹部を深々と割られ、鮮血が吹き出る。生命力を奪われていく、嫌な感触。
 俯いたところに、さらに大鎌が振り下ろされた。『死』の力を纏った大鎌によって首を落とされる……寸前で、地に身を投げ出して倒れ込み、かろうじて致命傷だけは避けた。
「カカカカ!」
「……強いね」
 九八一が抑揚に乏しい声で呟いた。その手には、ケルベロスチェインが握られている。そして地面には、仲間たちを護る魔法陣が描かれていた。
 それがなければ、危なかったはずだ。一撃一撃が、重い。
 ピジョンのテレビウム『マギー』の顔に、主を応援する動画が浮かび上がった。
「しっかりしろ。戦いはこれからだぞ」
 スルーがピジョンの前に、光の盾を浮き上がらせて防ぐ。
「確実に狙いを定めなければ……」
 サラが纏うオウガメタルが、彼女自身や仲間たちに輝く粒子を放出した。
 竜牙兵どもが大鎌を閃かせるたびに、会場が破壊されていく。
「ネリの本気、見てよ」
 敵の足下から、溶岩が吹き出す。
 敵がのけぞったところに、エリザベスは杖をファミリアに戻し、魔力を込めて射出した。
「えぇいッ!」
 しかし、竜牙兵は大鎌を構えて、それを弾く。さきほど顎を吹き飛ばされ、深手を負っているはずだが。それでも戦意には全くの衰えを見せない。プレッシャーを受けながらも、前に出てきた。
「カカッ!」
 竜牙兵どもは笑い、次々と大鎌を放ってきた。
 エリザベスは身をよじり、咲耶は庇うために前に飛び出る。しかし避けきれず、それぞれ肩と、腕とを切り裂かれた。
「痛いけど……負けないよぉ」
 己を奮い立たせ、咲耶は『サークリットチェイン』を自分と、仲間たちに施した。ピジョンもそれに続く。
「迷惑な連中だぜ」
 身を屈めて、ヴィクトルは刃をかいくぐる。髪の毛が数本だけ切られて舞い、狙いをはずした大鎌はその先にあったビールサーバーを真っ二つにした。あふれ出たビールと泡とが、床を濡らしていく。
「ことに、酒と食い物の恨みは恐ろしいぞ、ってな……!」
「しっかり狙えよ。恨んでるのはお前だけじゃないんだ」
 スルーが、ヴィクトルらに向けてオウガメタルの粒子を放出した。
「ありがとよ」
 ヴィクトルは目にも留まらぬ早業でガジェットを構え、銃弾を敵の手元に撃ち込んだ。返ってきた大鎌をつかもうとしたところを狙われ、竜牙兵はそれを取り落とす。
「恨み、ね。うん。食べられないのは、辛いからね」
 九八一は首を傾げて呟きつつ、惑星レギオンレイドを照らす黒太陽を具現化させた。絶望の黒光に照らされた敵群が、わずかにたじろぐ。
「いきますッ!」
 その隙を見逃さず、サラがテーブルを飛び越えて間合いを詰める。
 握りしめられた、鋼の鬼と化したオウガメタルと一体となった拳が、竜牙兵の胸を打った。
 胸当てにヒビが入り、粉々に砕け散る。
「ガァァッ……!」
 顎を砕かれていた竜牙兵のうめきは、言葉にならない。
「今です!」
「任せて」
 笑顔を浮かべてさらに応え、古代語を唱えたピジョンが魔法の光線を放つ。敵は全身を石化させながら、息絶えた。
「いくら精緻な石像でも、これはいただけないね」
「オノレッ!」
 竜牙兵は罵声を浴びせて、大鎌を投げつけてきた。肩を割られた咲耶の服が、大きく裂ける。
「キヒヒッ♪ お返しだよぉ」
 気丈にも笑った咲耶が、懐から札を取り出す。それに封じられていた呪は絶対零度の氷塊を生み出して、敵陣めがけて降り注いだ。
 触れただけで、全身が凍てつく氷塊。竜牙兵どもは氷に苛まれながらも、大鎌を振り上げようとしたが。
「引っ込んでやがれッ!」
 彼方まで響きわたる、ヴィクトルの咆哮。竜牙兵どもが怯んだように、足を止める。
「畳みかけるぞ!」
「わかった」
 スルーと九八一とが目配せしあう。
 スルーの気合いとともに竜牙兵の兜が爆発し、九八一のブーツからは星空のオーラが発せられた。
 しかし竜牙兵は、
「ヌオオオッ!」
 必死の叫びをあげ、床を転がるようにしてそれを避けたではないか。
「ネリシアさん、敵の動きを止めて!」
「うん。……うまく焼き上がってるよ」
 エリザベスの声に応え、ネリシアが再びワッフルを叩きつけた。
 起きあがろうとした竜牙兵が、痺れたように動けなくなる。
「ありがとう。次はエリィの番よ!」
 微笑みを浮かべて、エリザベスが杖を高々と掲げる。
「フォーリングスターッ!」
 星々から抽出された魔力が、流星群となって竜牙兵に襲いかかった。それは宵闇を切り裂いて降り注ぐ、光の矢。
「ゴ……!」
 わずかな叫びを漏らしただけで、竜牙兵が四散する。吹き飛ばされた兜だけがむなしく、フェンスに引っかかった。
「図ニ乗ッタ真似ヲ……!」
 同胞を失った竜牙兵が、サラに向かって大鎌を振り下ろす。
 避けきれず、肩口を深々と貫かれたサラではあったが、
「それが、彼我の実力だとは思いませんか……?」
 サラは慇懃な物言いながらも不敵に笑い、刀を握り直す。その刀身に無数の霊体が群がり、胴を割られた竜牙兵はうめき声を上げながら膝をつき、大量の血を吐き出した。そればかりか、傷口はじくじくと異臭を放ちながら泡立つ。
 敵は残り2体となったとはいえ、ケルベロスも疲弊している。決して楽観はできないが。
「もう一踏ん張りだね」
 九八一が仲間たちを見渡すと、咲耶とスルーもそれぞれ頷いた。仲間たちの傷を癒し、護る。
 ヴィクトルの、囚人服の亡霊が相変わらず不快な笑いとともに敵に襲いかかった。
「クソッ……!」
 竜牙兵はそれを振り払い、大鎌を投げつけようとしたが。
「ネリの方が、速いよ」
「残念だったねぇ」
 ネリシアが敵の眼前に、バスターライフルを突きつけていた。眩い光線、そして登ってきた月を背にしたピジョンの蹴りが、竜牙兵を貫いた。
 胴に大穴を開け、そして頭蓋骨を割られ、敵はピジョンに怒りの目を向けつつ、事切れた。
「あなたが最後よ!」
 飛び込んでくる竜牙兵の眼前で、エリザベスは精神を集中させて爆発を起こす。
「クッ……」
 目の前で起こった爆発に、敵は思わず顔を背けてしまった。
 サラが腰の刀に手をかけたまま、床を蹴る。
「ケルベロスメェッ!」
 竜牙兵は喚きつつ、渾身の力で大鎌を振り下ろした。
 だが、その狙いはわずかに逸れていた。身を屈めたサラは髪を一筋切られながらも、ついに間合いに入る。
「我が閃光、その身に刻めッ!」
 抜き放たれた刃が、敵を胴から肩まで両断する。敵は吹き飛ばされてフェンスに衝突し、それを破って、はるか下へと落下した。

●果てなき宴
 施設は修復できたが、飛び散ったビールばかりはどうにもならない。
 残った飲み物は……コーラくらいのものだ。
「仕方ない……竜牙兵を許せない理由が、もうひとつできたな」
 グラスに注いだヴィクトルが犬歯を見せて、笑う。
「そうだねぇ。僕にもくれる?」
 と、ピジョンがグラスを持ってやってくる。
「仕方ないから、コーラで祝杯といこうか!」
「私はもともと酒は飲めませんが……コーラだって、勝利の美酒と思えば、最高ですよ」
 サラが水滴がたっぷりと浮かぶグラスを傾けて微笑んだ。
「こっちは無事だったよ」
 ネリシアが焼き上がったワッフルを、次々と持ってきた。
 鮭フレークとチーズに葱、ベーコンとチーズ、それにほぐしたチキン入り……。どれからも豊かな香りが立ち上り、実に食欲をそそる。
「スルーくんには、これ。ほうれん草入り生地で焼いた、野菜サンド」
「おう、ありがとよ。……うん、うーまーいーぞー!」
「宣伝はもういいんだってば。はい、また焼けたよ~」
「そうだった。……崎須賀もなぁ。肉ばっか食べてたけど、野菜も食べさせないとな」
「やけに心配してるわね。お母さんみたい」
 と、エリザベスが笑う。
「よう、さっきは驚かせたな!」
 ヴィクトルが戻ってきたタカギに向かって、グラスを掲げた。
 食べ物の多くが駄目になってしまい、ネリシアのワッフルに人が群がる。
「料理をお待ちの間に、私めが皆様をお慰めいたしましょう。まずはじめに……」
 九八一が地獄の炎を巧みに操って、客の目を引いた。
「アタイにもひとつ、やらせてもらおうかねぇ」
 咲耶が束にした御札を取り出して、それに加わる。
「まだまだワッフルはありますよー!」
 月光に照らされて、宴は月が傾くまで、和やかに続いたのだった。

作者:一条もえる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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