嗚呼素晴らしき日々

作者:秋月諒

●だってうさぎって無限大だろう?
 背の高い木々に、気の早い芙蓉が花を見せる。
 長雨の前に見えた太陽のおかげだろうか、可愛らしいうさぎのトピアリーたちも間に合えばこの日の為に友人に作ってもらった、ウサギのガーデンオーナメントも見事に揃った。
「やっぱり、好きなものが一番だな。今日が俺たちのデビュー戦だ……」
 今日のアルバイトの店員たちにこいつを渡せば完了だ。
 頑張ろうな、とお気に入りのうさぎのオーナメントに手を置いた青年の向こう、雑木林の向こうでひとつの異変が起きていた。それが商店街の皆が使う倉庫。通りを見下ろすその場所にある可愛らしい小屋の中で、何かがーー光った。
「スッパークル!」
 甲高い音と共に小屋の扉を破壊して飛び出してきたのは巨大な球体に足のついたダモクレスであった。機械的なヒールを施され、その身を巨大化させたミラーボールは、ぎゅいんとその身を回転させーー虹色の光で大地を焼いた。

●嗚呼、素晴らしき日々
「ミラーボールって野外で使うととってもキラキラしそうな気がするので、スパンコールなんでしょうか……」
 小さく、首を傾げたところでレイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)は集まったケルベロスたちを見た。
「都内のある商店街で利用している倉庫に置かれたままになっていたミラーボールが、ダモクレスになってしまう事件が発生することが分かりました」
「……ミラーボールがダモクレスってなんか、すごいねぇ……」
 やたら眩しそう、と苦笑したのは三芝・千鷲(ラディウス・en0113)だ。だからこそ、昼のうちに対応したい所なんです、と応じたレイリが顔をあげる。
「元々は商店街で行うイベントで過去に使われていたようです」
 テーマごとに色々とイベントを行う場所らしい。
 仮装ダンスパーティーなる時期にはよく使われていたらしいが、現在は使用されず長く倉庫に置かれたままになっていたらしい。
「倉庫は商店街を見下ろす場所にあります。幸いにも、まだ被害は出ていませんがーーダモクレスを放置すれば、商店街へと辿り着いてしまうことでしょう」
 ついでに二足歩行だ。
 小さなざわつきに、に静かに微笑んで狐の娘は言った。
「虐殺を起こさせるわけにはいきません。現場に向かい、ダモクレスを撃破してください」

●そしてうさみみの登場
「現場は商店街を見下ろす位置にある雑木林です。倉庫と言っても可愛らしい小屋になっていて、大通りからよく見えるようになっています」
 グラビティチェインを狙う方からしてみれば、向かうべき場所がよく分かる構図とも言えるだろう。
 商店街では丁度、祭りが開かれており中止こそ難しいが、現場近くには近づかないように警備からも指示を出してくれるとのことだ。
「避難指示についてはお任せください。それと敵ダモクレスはある特定の仮装に気を惹かれるようです。それを上手く利用すれば不用意に突破を狙われることはないかと」
 ミラーボールとして商店街で使われていた時の影響か。
「何にしろ、使える手があるのならば使うべき……か」
「えぇ、勿論。それが、これです」
 千鷲の言葉に頷いて、レイリはひょいと『それ』を手においた。
「うさ、みみ……?」
「はい。うさみみです」
 ついでに言えばうさみみのカチューシャって感じですね、とレイリはにこりと笑みを浮かべた。
「皆様には、これをつけて戦っていただければと」
「レイリちゃんいつからそんな話になったんだっけ」
「強いて言えば今からですね、千さん」
 顔を上げた千鷲に笑みで返したレイリは商店街にあるとあるカフェが今日がリニューアルオープン日なのだと告げた。
「現場となる倉庫に一番近い場所となります。討伐が終わるまでお店を開けることはできません。店長さんは被害が出るよりは、と言ってくださったのですが……」
 それではあまりに可哀想だ、と商店街からお願いがあったのだ。
「宣伝になるようなものを、ということでこれを」
 うさみみだ。なんかふわふわのうさみみだ。
 元々は店員がつける筈だったそれは、店の宣伝にもなるだろうし、ダモクレスの気をひく『仮装』としても役立つことだろう。
「特定の仮装が……うさみみだったのかい?」
「過去にラビットパーティーなるものをやられていたそうなので、特に気をひくことができるかと」
 ミラーボール型ダモクレスはクラッシャーだ。
 様々な色の光線を放ち、時には体当たりの攻撃も行ってくる。
 戦場となる倉庫は、雑草の生えたぼこぼことした空間だがそれ以外に邪魔になるようなものはない。
「せっかくのお祭り、それに折角のリニューアルオープンです。被害を出すわけにはいきません」
 それに、なんだか折角可愛らしい感じのうさみみなので。
「楽しくいきましょう。無事に終われば、カフェで飲み物を出して頂けるそうなので寄って見てくださいね」
 それでは皆様に幸運を。


参加者
リリア・カサブランカ(グロリオサの花嫁・e00241)
泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)
藤守・つかさ(月想夜・e00546)
白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)
ザンニ・ライオネス(白夜幻燈・e18810)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
ヴィルベル・ルイーネ(綴りて候・e21840)
ルチル・アルコル(天の瞳・e33675)

■リプレイ

●ミラーボールと謎の好み
 木々の隙間から、心地よい風が通っていた。ふんわりとした白のうさみみを手に、リリア・カサブランカ(グロリオサの花嫁・e00241)は、ほう、息をついた。
「……でも、場所が場所とはいえうさみみでミラーボール型ダモクレスの気が引けるなんてふしぎな光景ね」
 相手はダモクレスである。ついでに言えば元々は商店街で活躍していたらしいミラーボールだ。
「ラビットパーティーね……。カフェを置いてもうさぎに縁のある街なのかね」
 ふかふわのうさみみを受け取って、ティユ・キューブ(虹星・e21021)は辺りを見渡した。戦場となる倉庫周辺には、他に誰かがいる気配は無い。
「しかしウサミミを狙ってくるってダモクレスの癖に妙な拘りを感じますね……」
 ツーテールに被せるように、ロップイヤー型のうさみみ装着をした白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)とノリノリでうさみみをつけたルチル・アルコル(天の瞳・e33675)にティユは笑みを零す。
「白羽は見せ方心得ているよね、ルチルのも似合ってる」
「……ミラーボールに趣味嗜好とかあるんだね。一つ勉強になったなぁ」
 黒いのがあればローブとの相性がいいかな、とヴィルベル・ルイーネ(綴りて候・e21840)は黒のもふふわうさみみを手に取る。
「服との相性か……」
 思わずそう零したのは三芝・千鷲(ラディウス・en0113)だ。少しばかり遠い目をする男の横、なけなしの勇気を出して泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)は黒のうさみみをつけた。
「……」
 顔が赤い。知った顔が援護に駆けつけているのもあるのだがーーまずは、依頼だ。商店街ではカフェがリニューアルオープンを待っている。
(「こんな再出発の日になんて無粋な……」)
「被害は最小限に留めないとな」
「ーー、そうだな」
 黒のうさみみを藤守・つかさ(月想夜・e00546)は手に取る黒くてふわっふわのやつだ。
「うさみみ……」
 どう見てもどう考えもそいつはうさみみで。なんかこれを好むとかいうミラーボールがいて。
「……忌避感? 元より2本の角があるんだ。今更2本増えたところでね、似たようなものだよ」
 ヴィルベルはそう言い切った。大物である。
「サキュバス的には角を引っ込めるべきか、迷いどころですが、まぁ何とかなるでしょう」
 うんうん、と頷いてザンニ・ライオネス(白夜幻燈・e18810)は言った。
「皆さんも似合ってると思いますよって事で、被害を出さないよう頑張りましょう! えいえいおー」
「おー!」
 重なった声は高く低く。
 斯くしてそこには、9人のうさみみをつけたケルベロスが並んでいた。そう全員だ。つまり、立っているだけでミラーボールさんの方からーーやってきた。「スッパンコール!」
 妙に、テンション高く。
「うさぎ、うさぎ、何見て跳ねる」
 スキップするダモクレスを前に、佐楡葉はその手にハンマーを落とす。とん、と踏み込めば揺れるのはうさみみ。
「おまんの砕け散る姿が嬉しくてつい飛び跳ねてしまうのよぉ!」
「スッパンコーッリング!」
 ドスのきいた佐楡葉の声に、抗議めいたダモクレスの一撃がーー放たれた。

●光
 色鮮やかな閃光が圧となって、戦場に叩きつけられた。眩しさを感じた次の瞬間、感じたのは言いようもない熱さだ。熱の後、痛みは全身を駆け巡る。
「大丈夫か」
「うん」
 ティユの声に、佐楡葉は頷いて軽く頭を振った。狙われたのは後衛ーーうさみみをつけたメンバーの数が多い隊列を狙ったか。
「とはいえ、一帯を焼こうとした分、威力は疎らだ」
 動ける、と落ちたヴィルベルの声を耳に、壬蔭は前に出る。
「ならば、倒すまでだな」
 地を蹴り、踏み込みと同時に間合いを詰める。握る拳に、バチ、と小さく空気が震えた。それは雷の霊力。纏う雷光を、一撃と共に鏡面に叩きつけた。
 ガギン、と音が戦場に響き渡った。ミラーとは思えない音に、手に返る感触もひどく重い。
「反射まで再生したのか……。少し眩しいな」
 敵の気をひく様に、間合いを然程開けずに置く。力一杯気をひく気であれば、うさみみを使ってのアピールが有効だろうがーー今はひとつ、視線の誘導だけに近場で拳を握る。
「ギィ」
 ミラーボール型ダモクレスがその身を向ける。一瞬、だ。だがその隙を佐楡葉は逃さない。振り上げたハンマーが砲撃の形態へと代わり咆哮が、響いた。
「行きます」
 竜の咆哮は宣誓と共に。
 空を叩く佐楡葉の一撃は、真っ直ぐにミラーボールへと届いた。
「!」
 ガウン、と轟音が響き、僅かに何かが軋む音が耳に届く。ギィイ、と音を響かせ、一気に敵の視線が後方を向く。
「ス、パーク!」
 ぴょん、と一度器用に跳ねたミラーボールの声が響く。ギュイン、と重く回転を始めた球体を前に、佐楡葉は短く告げた。
「三芝さん、スナイパーで。ある程度制約がハマったら敵をうさうさぴょんと切り崩してあげてください」
「仰せのままに」
 さて先ずは、と頭のうさみみを揺らし千鷲は撃鉄をひく。
「こいつだよ」
「ーーなら、まずはこれでいくか」
 手の中、ぽちっとつかさはボタンを押す。ばふん、と前衛の背にカラフルな爆発が発生する。
「ミラーボールに恨みはないけど、ダモクレス化したなら、倒して破壊するしかない……よな?」
 うさみみに妙にテンションが高いミラーボールであっても、その高さのまま突き進んだ先で起きるのは殺戮だ。
「賑やかな儘ーーか」
 小さく、息を落としティユは星座を宿す剣を構える。指先が刀身をなぞれば、戦場に描かれるのは守護の陣。耐性を紡ぎあげる光を視界に、まっすぐに敵を見据えればペルルが仲間へと癒しを届けていた。
「なら、抜かせはしない」
 煌めきを指先に、ティユは告げる。耐性をその身に、リリアは月光の力と共に行く。
「キラキラしててキレイなのに、ダモクレスなんて残念だわ」
 その鏡面が力を放つより早く、白百合の天使は舞う。高い跳躍、背に構えた斧をリリアは振り下ろした。
「キィイ!? スッパーク!」
 ガギン、と鈍い音が戦場に響き渡る。暴れる様にその身を回すミラーボールに、リリアは着地の場から身を飛ばす。た、と横に抜ければ何かが地面に落ちていた。
「破片ね」
「欠け落ちるんだね。……、前衛に耐性をいれるよ」
 ヴィルベルの掲げた杖が、雷光の守りを前衛へと紡ぐ。重ね付けられた耐性が、分厚い加護となる。
「後衛の回復は請け負おう」
 己を含め、先の一撃で受けた傷がある。ルチルの起こしたカラフルな爆風が後衛へと耐性を癒しを届ければ、指先に痛みより熱だけが残っている。
「ルービィはディフェンダー、見切られないように攻撃せよ」
 頷くように、ぱかっと口を開いたミミックが獲物を構えて行く。なら、とザンニは後衛への守護を選んだ。
「行くっすよ」
 肩に乗っていた鴉のドットーレが、伸ばす男の手に収まる様に翼を広げる。青い瞳がキラ、と光、手に収まった杖と共にザンニは星座の光を大地に描きあげた。紡ぐ光は癒しと耐性を。消えた傷に気がついてか、ギュインン、と鈍い音をたてミラーボウルはその回転を強めた。

●虹色の日々
「スッパークル!」
 妙に高い音と共に、虹色の光線がケルベロスに向かって放たれた。全員がうさみみをつけたているというこの状況がダモクレスのテンションをあげているらしい。一撃は重くともーー炎は、その身を焼いてはいない。重ね紡がれた耐性が前衛を炎から守っていた。
「その分、少しこちらは熱が残ったけれどーーこのくらいなら」
 ひとつ、佐楡葉は息を吸う。顔を上げれば頭のうさみみがゆるり、揺れた。
「いける」
 声をひとつ落とし、佐楡葉が行く。踏み込みに、は、と顔をあげたミラーボールが回転を強めた。
「スッパークル!」
「いいや、届かせない」
 その光の前に、ティユが踏み込む。盾役として、その一撃を受け止めきれば賭ける佐楡葉の背が見えた。見せる背を、告げる言葉の代わりに至近にて少女は告げる。
「――See you later」
 放たれるのは最大出力での魔力弾。その熱量に、ギギギギ、とミラーボールは軋みを上げ、割れた。
「スッパーク!?」
「やっぱり、これが弱点ですね」
 頑健によって紡がれる術。
 その一言に、ミラーボール型ダモクレスは破片を散らしながら鈍い光を放った。
「ギィイイ!」
「させると?」
 踏み込みの狙いは後衛までの突破か。鋼の足が地面を叩いたそこにつかさは指先を伸ばした。
「我が手に来たれ、黒き雷光」
 黒雷は、踏み込む鋼の足を射抜く。暴れる様にミラーボールは足を動かした。だが、びくり、とその身が小さく震える。
「かかったか」
 つかさのその声を耳に、ザンニは銃口を敵へと向ける。
「こっちっすよ」
 撃ち抜けば鋼は軋む。鈍る回転は重ねかけた制約だ。
「だいぶ、動きも鈍くなったすね」
「あぁ。ならばーー」
 ティユは息を吸った。
「振り撒こう」
 広げる両の手に、指先に乗るは煌めき。真昼において星々の煌めきを灯し、少女は星の輝きを波の様に仲間へと届けた。制約が振り払われたのは後衛。なら、とヴィルベルは指先を空へと掲げた。
「回復を」
 振り上げた腕に、黒のローブがはためきーー次の瞬間、薬品の雨が前衛へと降り注いだ。腕に、肩に触れれば傷を癒すその雨は大地に残ることなく、駆けるその身の力となる。
(「……此処が勝負かな」)
 後衛を狙うことの多かった敵の動きも、盾役のメンバーのお陰で変わってきた。光注ぐ戦場は加速する。攻撃の隙を作る様、気をひく様に動いた分、壬蔭に怪我はあったが問題ないと告げた男は戦場を駆ける。
「弱点も分かってしまえば、だな」
 ルチルは地面を蹴る。焼けた石を飛び越え、飛ぶ様に前に出れば割れたミラーが目につく。
「お前は敵だが、少しの同情はある」
「ギ、ギギ、スパー……!」
 ギュイン、と回転を始めるミラーボールの前、その姿をしっかりと見据えてルチルは言った。
「だからだ、この戦いは楽しもう、お前と楽しく踊ってやろう」
 そして、機械少女の機能は解放される。
 それは人工的な幻視の魔眼。ぐらり、とミラーボールはその身を揺らした。回転が一瞬、緩む。ギ、とほんの僅か軋む音だけが届く。
「反射も無くなったし一気に片付けるか」
「えぇ」
 壬蔭の言葉に、リリアは舞う。
「誓約の舞、魅せてあげる」
 青翠の風を纏い、舞う娘の指先から放たれた比礼の風が鋼を断つ。
「ギ、ギギギ……」
「vermiculus flamma」
 握る拳は大気に触れ、瞬間熱を帯びた。踏み込んだ間合いで男は告げる。は、と顔を上げたミラーボールへ、その鏡面に壬蔭は拳を叩きつけた。
「スッパン、コー……」
 ぐるり、ミラーボールは揺れる。くるりその身を回し、最後に空へ賑やかな色彩を写しミラーボール型ダモクレスは、崩れ落ちた。

●らびっと!
 ミラーボールは地面に崩れ落ちると完璧に壊れてしまった。残った破片が煌めきと共に消え落ちる。戦場となった場所をヒールすると、一行はカフェへと向かった。
「自分はウサギのラテアートが気になっておりまして」
 メニューに覗くウサギのイラストにふ、と笑ってザンニは顔をあげた。
「撮影OKなら携帯で一枚撮らせても頂きたいっす!」
「えぇ勿論! それと、今日はデザートはおまけでありますので。助けてくださった皆様に。ラビットカフェ特製のパンケーキです」
 そうしてやってくるのはカップから顔を出すウサギのラテアート。甘い香りはパンケーキだ。
「見て楽しい、飲んでも楽しい素敵なカフェ。今度はご友人と一緒にお邪魔させて貰いたいとも思うっすよ」

「兎のラテアートなんてお願いできます?」
「うさぎの耳が付いたひつじさんの絵がいいなぁん!」
 佐楡葉に続いて、チェザが謎生物を爆誕させた。
「らっむはまた変なの頼んで――え、出来るんです?」
「今、イメージががんがん湧いて来ましたので!」
 今ってあれか、目の前の提案者のもっふもふにか。良い笑顔で頷いた店主に、この子らの分もとティユはデザートをと告げれば、今日はサービスですよ、と店主は言った。
 そうして、甘い香りと幸せな時間はやってくる。
 蜂蜜の甘い香りと共にやってきたもっふもこラテアートにチェザは目を輝かせた。
「ふぉぉぉ…しゅごんい……。なんだか飲むのがもったいないねー」
 そんなことを言いつつもずずーと容赦なく味わう。ふんわり甘いラテアートに舌鼓をうちつつ、しかし、と佐楡葉は顔をあげた。
「私はティユさんがバニースーツで来てくれなかった事に遺憾の意ですよ。ちっほもそう思いますよね?」
「!?」
 返事が来ると思ったの? と目を白黒させる千穂に、頷くようにティユは息をついた。
「ここでバニーは無いだろう……?」
 ほう、と落とした息に、ラテアートのうさぎが揺れた。

「え、猫も出来るなら、是非! ねーさんと一緒に食べられるお菓子もあればそれもお願いします」
「承りました」
 ねーさんの美猫っぷりを撮影した画像を借り受けた店主が奥に下がれば、ふわり漂うのは甘い香りだった。ぴん、とねーさんが耳を立てれば、おまけのパンケーキと一緒に猫耳の目立つラテアートがやってくる。
「上手く書けるものだな……」
「可愛い……!  飲んじゃうの勿体ない位だね」
 ぱしゃり、と写真をとって、ご機嫌ねねーさんに小さく笑みを零すと、涼香は視線をあげた。
「さっきの泉賀さんのウサミミも可愛かったなー?」
「2人で着けて撮影するか?」
 なら、と壬蔭の声に、涼香は息を詰める。小さく首を傾げて見せたひとと一緒に見えるのはあのもふもふのうさみみで。
「……う、もう一度泉賀さんがつけるなら、私もつけるよ?」
 小さく、告げた。

「おすすめは何かしら? あればぜひ頂きたいわ!」
「こちらのカフェラテと、デザートでしたらこのエッグタルトがおすすめです」
 ラハティエルに合わせて、リリアは甘さ控えめの焼き菓子も注文しておく。丸テーブルに焼き菓子が先に届けば、ふと、思い立ったリリアがクッキーをはふり、と口にくわえた。
 そこに悪戯っぽく笑って、ラハティエルは唇を寄せた。
「!」
 可愛らしくくわえられたクッキーのその端を、さくりとくわえて食べてしまえば、同じようにさくり、と食む彼女と距離は近づいて。頬を染めるリリアに、ふ、と笑ってラハティエルは最後の一欠けらより甘くーー口付けた。
「私の可愛い奥さま、世界で一番貴女が綺麗で優美で素敵だよ。いつも優しくしてくれて、ありがとう。そして……愛しているよ、リリア」

「つける?」
 珈琲を満喫した後に、ふとヴィルベルはナディアにうさみみを差し出した。断られるのは火を見るよりも明らかなそれに、だが、差し出した先は少し悩んでーー。
「携帯端末を此方に寄越すのなら付けてやってもいい」
「……熱でもある?」
 青天の霹靂だ。
 伸ばした手に、携帯端末を握るでもなく、掌は熱を測るように額に向かえば、一転して顰めっ面のナディアが掌を払い除けた。
「……たった今怒りが沸き立ったところだ」
 一応はナディアとしても考えたのだ。先程の戦いで彼のうさみみ姿をじっくり観賞した身としては、ここでこれを付けないのはフェアでないような、と。攫うようにカップを取ればラテアートのうさぎが困ったように表情を崩していた。
「!」
 運ばれて来たカフェラテにはミュゲの姿が描かれていた。立体的なラテアートだ。ひょっこりと顔を出すそこにはお揃いのうさみみだ。これ! とつかさの腕のなか、ワクワクそわそわしていたミュゲが二人を見上げた。
「ミュゲ、写真撮るから帰ったらまた見ような?」
「♪」
 目を輝かせるミュゲの頭を撫でて、ふ、とレイヴンは笑った。カメラを向ければ、お揃いのポーズをとるミュゲにレイヴンは口元を緩めた。
「こういう可愛いって感じの店はちょっとどうかとおも……ったけ、ど……」
 そう言えば、可愛い物、割と好きだったな、この人。とつかさは思う。ミュゲも楽しそうだし、来てよかったと。
「流石に本物のうさぎは居なかったけど、こういうのもありだろ? また三人で来ような?」
 カップを手に視線を向ければ、ふ、と吐息を零すようにレイヴンは笑った。
「ああ、とても楽しかった……また三人で来ような」
 ふわり、ふわり甘い香りは踊る。パンケーキにナイフを滑らせ、ふとルチルは顔を上げた。
「恋と呼んでいいかわからないんだ。はるるんはいつ恋だと気づいた?」
「恋だと気付いた瞬間は、わたしの場合、ちょっと特殊なの。話すと長くなっちゃうから今度詳しく教えるね」
 でも、と春乃は微笑んだ。ちゃんと恋してるよ、と。
「ただ楽しいことばかりじゃなくてね。彼に会えない時間はさみしくて、ふとしたときにでも彼を思い出すの。今、何してるかなって考えちゃう」
 るちるんは、どう?
 カップを置いた少女の視線の先、ルチルは言った。
「さみしいは、いつも感じてる。そうか、この会いたいも恋なのだな」
 小さく落ちた呟きに、春乃は頷いた。
「うん、その会いたいは――恋よ」
 甘い香りの中、紡ぐ言葉は柔らかに。うさぎの彩るカフェは二人を包む。不意に響くドアベルに、うさみみを見かけてと聞けばあの戦場かSNSで見たのだという声が届けば、佐楡葉達のお陰だろう。
「どうぞこちらに!」
 店主の声が響く。お気に入りのうさぎと一緒に嬉しそうに店主は笑った。

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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