雨上がりの青空と気まぐれな死神

作者:麻香水娜

●雨上がりのアジサイと
 ゲンティアナ・オルギー(蒼天に咲くカンパーナ・e45166)は、鼻歌混じりにアジサイの並ぶ遊歩道を歩いていた。
「いい天気ね」
 雨上がりに広がる青空を見上げて目元を和らげる。
(「こんな時間なのに人がいなくて静かでいいわ」)
 気付くと周辺に人気がなくなっていたが、余計な雑音が耳に入らなくていい。
『ねぇ、私、配下が欲しいの』
「!?」
 いきなり背後から声をかけられ振り向くと、黒いドレスを纏った少女が無邪気に微笑んでいた。
「……ポルチュラーカ・グランディフローラ……」
 咄嗟に飛び退いて距離を取ったゲンティアナの口から少女──死神の名が漏れる。
『イヤだと言っても、なってもらうけどね』
 手にした大鎌の刃が陽光に煌いた。

●救援要請
「まずい予知が見えました」
 眉間に皺を刻んだ祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が口を開く。
「ゲンティアナ・オルギーさんがデウスエクスの襲撃を受けてしまうのです。急いでオルギーさんに連絡を取ろうとしたのですが、繋がらなく……」
 ゲンティアナを襲撃するのは罪切のポルチュラーカ・グランディフローラという死神だ。
 首を刎ねて命を奪ったものをサルベージし、配下として使役するようで、斬首する事からツミキリと呼ばれている。
 気まぐれで無邪気な性格をしていて、どうやらこの時は配下が欲しい気分になっていたようだ。
「一刻の猶予もありません。急いでオルギーさんの救援に向かって下さい」
 時刻は14時すぎの遊歩道。
 幸いな事に周囲に人影はなく、一般人を巻き込む事はないようだ。
「この死神は、周囲の怨念をかき集めた怨霊弾を放ってきたり、手にした鎌で攻撃をしてきます」
 鎌は簒奪者の鎌というわけではないが、生命力を奪う攻撃をしてくる。
「また、呼吸を整えて怨念を集め、傷を癒す事もしますので戦闘が長引く危険性も考えられるでしょう」
 見た目は可愛らしい少女であるが、死神らしく周囲の怨念を操る事に長けているので、充分注意して下さい、と続けた。
「随分気まぐれな性格のようですし、偶々オルギーさんを見かけて配下にしたくなったのか、それとも前々から配下にしたくて狙っていたのかは分かりませんが、まずはオルギーさんを救出するのが先です。どうか、死神を撃破し、オルギーさんを救って下さい」


参加者
燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)
ズミネ・ヴィヴィ(ケルベロスブレイド・e02294)
スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)
ラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)
山内・源三郎(姜子牙・e24606)
柔・宇佐子(ナインチェプラウス・e33881)
陽月・空(陽はまた昇る・e45009)
ゲンティアナ・オルギー(蒼天に咲くカンパーナ・e45166)

■リプレイ

●配下になんかさせない
「随分長い間姿を見せなかった癖に、今更何の用よ!」
 ポルチュラーカの手にした鎌が陽光に煌いた瞬間、ゲンティアナ・オルギー(蒼天に咲くカンパーナ・e45166)が、顔の前に腕を交差ながら咄嗟に後ろに跳躍する。
「……っ!!」
 しかし、鎌の切っ先は顔を庇った腕を斬り裂いた。
「ケルビー、Assemble! ヤローども、殺っちまえ」
 ──ドン!
 その時、上空から燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)の声が響き、ゲンティアナとポルチュラーカの間に割って入るように降下してくる。
「ぁ? 騎兵隊の到着だよバカヤロー」
 ポルチュラーカを見据えながらペインキラーを発動させた。
「待ちなさい──ぽ、ぽぽポルチュラーカ・グランディんフローラ!」
 注意を引こうとズミネ・ヴィヴィ(ケルベロスブレイド・e02294)が声を上げ、共に殺神ウイルスのカプセルが投擲される。
『!?』
 いきなり現れた亞狼以外にもいると、声に目を向けたポルチュラーカは咄嗟に回避した。
「オルギーさんから離れろ!」
 しかし、タイミングを合わせたラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)が隙ができたと如意棒を伸ばし後方へと突き飛ばす。
「もらった!」
 すると、突き飛ばされたポルチュラーカの背後に、光学迷彩に身を包んだスミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)がいつの間にか回り込んでおり、必殺の一撃を見舞った。
 背後からの攻撃に前のめりに数歩足を動かして体勢を立て直そうとした瞬間、
「しずかな風景に私、参上なのよ!」
 可愛らしい声を響かせた柔・宇佐子(ナインチェプラウス・e33881)が、正面から電光石火の蹴りで腹を貫く。
「うーむ、雨上がりのアジサイ通りに美少女……敵とはいえ倒さにゃならんのは嫌じゃのう……」
 山内・源三郎(姜子牙・e24606)が右手で頭をかきながら、緊張感のない呟きを漏らした。
「が、そうも言ってられんか」
 小さく息を吐くと、スッと鋭い眼光でポルチュラーカを見据える。かと思うと、光の翼を暴走させて全身を光の粒子に変えて猛突撃した。
「梅雨にしては珍しい晴れ模様。デウスエクスが来ちゃったから嬉しくなくなったね」
 ぽそりと陽月・空(陽はまた昇る・e45009)が呟くと、光輝くオウガ粒子を放出し、前衛の超感覚を覚醒させながら、ゲンティアナの傷を癒す。
「……」
 ゲンティアナは次々と駆けつけた仲間達に驚き、言葉を続けられない。
(「今の私はあの時みたいに一人じゃないわ」)
 頼もしい仲間達。お節介な程優しい人達。
「もう、あんたのおもちゃにはならないわよ!」
 キッと睨みつけ、助走をつけて跳躍した。
『!!』
 咄嗟に避けようとしたポルチュラーカだったが、先程の攻撃で体が痺れて反応が遅れてしまう。
「ケルベロス、私もそうなったんだから」
 煌く足で太股に飛び蹴りを命中させ、ずしりと重力の錘をつけた。

●怨念を操る死神
『ぞろぞろと鬱陶しいわね……』
 ポルチュラーカは周囲の怨念をかき集め、一番数の多い前衛に放つ。
「きもちがわるいのよっ」
「さがりなさいっ」
 宇佐子が顔を歪めると、ゲンティアナがその前に立ち、2人分の攻撃を請け負った。
「可愛い顔してえげつないのう」
 怨念の重い空気に源三郎が眉を顰める。
「しゃらくせぇ!」
 ペインキラーを発動させていた亞狼は痛みなど全く気にせず、ポルチュラーカにのみ見える強烈な日輪を背に浮かべ、不気味な熱波を浴びさせた。
「死神ねー、ちょっとお近づきにはなりたくないから……」
 地球人であり翼を持たぬスミコがペイルウイングと呼ぶ義翼を展開し、スラスターで加速を得ながら急接近。稲妻突きを放ち、即座にペイルウィングで後方に離脱した。
「一席設けました」
 ズミネが祈りを捧げると、前衛の前に黒い結界が展開する。
「『頑張って負けないで信じているから私がついてる、あなたは絶対勝つんだもの』と、黄色い騒音が爆発すること必至ですよ」
 彼女の言葉からは想像に難しい、血と汚物を塗りたくったような狂気的な漆黒の結界。
 しかし、見た目に反して内側にいる仲間達は、怨念による毒素を抜かれ、体力を回復させていた。
「助かったわい。向こうが怨念なら、こっちは冥界パワーじゃ」
 源三郎がズミネに軽く笑いかけて、表情を引き締める。
「闇の深淵にて揺蕩う言霊達が呼び覚ませしは降魔の波動、彼の者の前に驟雨の如く撃ち付けよ!」
 朗々と紡がれる言葉と共にポルチュラーカの頭上に闇が広がると、そこから豪雨の如く闇が降り注いだ。
「どっかんダメージいくのよ!」
 宇佐子が光輝く左手で引き寄せようとすると、これ以上攻撃を受けてたまるかと、痺れの走る体を無理矢理動かして抗い、後方に飛び退く。
「おい、美少女。地獄がどんな場所か知ってるか? 人の世界には炎の地獄と氷の地獄があるらしいが……お兄さんが地獄見物に連れてってやるよ」
 ふっと表情を若干和らげたラギアは、その返答を待たずして高々と跳躍。ポルチュラーカの頭上からルーンアックスを振り下ろした。
「もうちょっと……」
 宇佐子の攻撃が回避され、空が再びオウガ粒子を前衛に放出する。
 感覚が研ぎ澄まされたゲンティアナは、竜や狼の様な人造モンスターを呼び出した。
「あんたが消えた後、身に付けた技よ」
 言い放つと、人造モンスターをけしかける。
『く……!!』
 肩に強く噛みつかれたポルチュラーカの体がぐらりと傾き、地面に片膝をついた。

●揺れる心
 ダメージだけではなく、体の不調に眉を顰めるポルチュラーカは深く息を吸い、周囲の怨念を集めるとその傷を回復させる。全ての不調を取り払えたわけではないようだが、痺れは軽くなり、足の重みも亞狼に抱いていた敵愾心も消えたようだ。
 ふらふらと立ち上がり、再び体勢を立て直す。
「まだ毒が残ってますね」
 仲間達の状態を確認したズミネは、宇佐子の分のダメージまで受けたゲンティアナと源三郎に毒が残っているとライトニングロッドを翳して、前衛の前に雷の壁を構築する。2人の毒を取り去ると共に、前衛4人の状態異常耐性を高めた。
 亞狼が釘を生やしたエクスカリバールで回復し切れていない傷口を広げるようにフルスイングする。
『……ッ!』
「ぁ? 勝ちゃ何でもいんだよ」
 その衝撃にポルチュラーカが強く睨みつけたが、亞狼はそんな視線など何処吹く風とばかりに鼻を鳴らして言い捨てた。
「こっちにもいるんだよ」
 亞狼を睨みつけているポルチュラーカの背後からスミコが槍で腹部を思い切り貫く。
「こんどこそ! びょういんおくりの てっけんぱんち!」
 宇佐子がしっかり狙いを定め、小さな体に全体重を乗せて思い切りポルチュラーカの鳩尾を殴りつけた。
「しぶといのう」
 呟いた源三郎が再び全身を光の粒子に変えて猛突撃する。
「思っていたより醜いな」
 可愛らしい外見とは裏腹に怨念を操るその様に眉を顰めたラギアが、素早く駆け抜けて氷獄竜の拳で殴り飛ばして凍結状態にして、再び地に膝をつかせた。
「そろそろ、もぐもぐタイムが取りたいな。だから……」
 早く倒しちゃって、と言わんばかりに手元のスイッチを押して前衛の背後にカラフルな爆発を起こし、士気を高める。
「もう逃がさないわよ、私の人生をめちゃくちゃにした責任を取らせてやるわ」
 ゲンティアナはポルチュラーカを睨みつけた。
 仲間の支援のお陰で感覚は冴え渡っている。絶対外さない。これで終わりにする。
 そんな強い意志を瞳に宿して。
『……』
 黒い可愛らしいドレスはボロボロになり、敗北を悟って歪む顔からは悔しさや恨みが溢れている。
「……」
 その姿を見たゲンティアナの中に様々な感情が暴れ出した。
 懐かしさと、急に居なくなった怒り。気紛れに振り回された事。今の自分の力。
「終わりにするのよっ」
 己の中で渦巻く様々な感情をねじ伏せるように、太い竜の尾を出し薙ぎ払う。
『……』
 避ける力もなく、ぎゅっと目を瞑ったポルチュラーカだったが、何時まで経っても衝撃は訪れない。
 目を開けると、背を向けたゲンティアナが崩れ落ちて地面を見つめていた。
 どうやら彼女のテイルスイングは空振りに終わったらしい。
『……なんだか分からないけれど……』
 ポルチュラーカは鎌を杖代わりに立ち上がると、ゲンティアナ目掛けて振り下ろす。
「オラっどけや」
 動けずにいるゲンティアナを乱暴に足蹴にした亞狼がその鎌を受け止めた。
 ズミネがすぐさま亞狼に緊急手術を施し、傷を回復させる。
「また回復……しぶといな!」
 スミコはペイルウイングを展開し、稲妻突きで麻痺させた。
「これで終わりじゃ」
 源三郎がポルチュラーカの首筋に鎌を振り下ろす。
『!!!!!!』
 声にならない叫びを上げたポルチュラーカの体がぼろぼろと崩れだした。
「俺はあんたに恨みがあったわけじゃない。ただ、生きていたいだけないんだ。みんな。たぶん、あんたも……」
 ラギアが近くに咲いていたアジサイを一輪摘んで差し出す。
 ちらりと崩れ落ちているゲンティアナを視界の端に入れながら。
『…………』
 ポルチュラーカは差し出されたアジサイに手を伸ばした。しかし、受け取る前に手は崩れる。
「……」
 ラギアの手には受け取られなかったアジサイだけが残った。

●広がる青空
 ポルチュラーカの完全な消滅にケルベロス達は肩の力を抜く。
「首を斬るなんて無理をいわなけりゃワシが配下になってもよかったのに……」
 源三郎がぽつりと呟いた。
「確かに何でも許して甘やかしたくなる美少女だったな」
 はは、とラギアがポルチュラーカの姿を思い出して軽く笑う。
(「……わたしは……どうして……」)
 ゲンティアナは、無言で最後に攻撃ができなかった己を責めた。しかし、無関係な自分を助けてくれたお節介な程に優しい仲間達に感謝を伝えなければと立ち上がる。
「ごめんなさい。助かったわ」
 その声に全員がゲンティアナに視線を向けた。
「きっと一人じゃ死んでいた。我ながら情けないわ」
 ぽつりと付け加えて。
「無事で良かったよ」
「それがいちばんなのだわ!」
 スミコが、ぽんと軽くゲンティアナの肩を叩いて笑顔を浮べると、宇佐子もにっこり微笑む。
「初対面ではあるが、同じケルベロスの危機を見過ごすわけにはいかないからな」
「食べる?」
 ラギアが微笑むと、空がいつの間にか取り出して1人もぐもぐと食べていたクッキーの入った箱を差し出した。
「……戴くわ」
 特に何かが食べたい気分ではなかったゲンティアナだが、その気遣いに1つクッキーを摘まむ。
「折角綺麗なアジサイも酷い有様ね」
「綺麗にして帰らなければなりませんね」
「おそうじするのだわ!」
 仲間達の笑顔や気遣いに気を取り直したゲンティアナが周辺のヒールに取り掛かると、ズミネが頷き、宇佐子が元気に周囲のゴミを拾い出した。
 全員がそれぞれヒールやゴミ拾いに取り掛かる。
「んじゃ後ぁ任せたぜ。ん、今日は酒の肴どーすっかなぁ……このへんでなんか買ってくか」
 面倒な事は任せる、と仲間達に背を向けた亞狼は、振り返りもせずに歩き出した。
「帰りにこの辺のをちとばかり拝借していこうかの」
 簡単にゴミを拾いながら源三郎が呟く。美しいアジサイを切花用に持ち帰ろうと花の具合を確かめながら。

「今日は本当にありがとう」
 全てが終わると、ゲンティアナが深々と頭を下げた。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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