ミッション破壊作戦～機械の咆哮

■リプレイ

●
　ヘリオンは轟音を鳴り響かせながら魔空回廊のある別子銅山へと飛ぶ。
　既に数回の攻撃を終えた後の作戦であった。
　平・和（平和を愛する脳筋哲学徒・e00547）は別子銅山の地図を確認したり経験者から聞いたり等、攻略地域の情報を調べて仲間達と共有した。基本とは違う撤退経路も検討して共有しておいた。
　ナザク・ジェイド（甘い哲学・e46641）も、ヘリオン内で現地の地形を確認し、可能なら避難経路を何パターンか和や仲間達に相談していた。
　水無月・鬼人（重力の鬼・e00414）は、ヘリオンの窓の外をのぞきこみ、上空から現地を確認した。
　既に眼下には半径30メートルほどの魔空回廊のドームが見えていた。
「悪趣味なもんを置きやがって……」
　ドームとその周辺を見下ろしながら鬼人は呟いた。
「……歴史上有名な場所なのに無くなるなんて残念だな、本当に…。……まあ、今は目の前の敵に集中するだけだな」
　立影・龍牙（黒衣の復讐者・e02504）もまた、遥か地表に広がる光景を見やりながら言った。
「二度目で仕舞いだ。三度目は無い」
　天海・矜棲（ランブルフィッシュ海賊団船長・e03027）は、下方に広がる別子銅山のドームを睨み付け、雄々しくも言い切った。
　セルリアン・エクレール（スターリヴォア・e01686）、ミリム・ウィアテスト（リベレーショントルーパー・e07815）、長谷川・わかな（笑顔花まる・e31807）も、作戦前の最後の確認を行い、デウスエクスの跋扈する地表を見下ろして、想いを新たにした。
「何度目かのミッション破壊で、もろくなっているだろうが、それは敵も承知のはず……何らかの対策を取っているはずだから、油断はできない。これで、解放されればいいが……」
　そう言いながら、鬼人が降下口へと降りていき、他のケルベロス達もそちらへ向かった。

　ヘリオンの轟音、そして突風が向かってくる降下口に鬼人は立った。
　光る小剣グラディウスを鋭く構えると魂の叫びを上げる。
「風光明媚な所に居座りやがって！　観光ついでの占拠ってのなら、他の星で勝手にやり合えばいいんだ！　それも、殺しの道具を量産して配備だぁ…。ふざけるのもここまでくると笑えねぇぞ！　このミッション、必ず壊す。グラディウス起動、我流剣術、鬼砕き！食らいやがれ！」
　鬼人は逆巻く風の中に飛び込んだ。ドームへとまっしぐらへ急降下していき、グラディウスで特攻していく。

　続いてミリムが逆風と轟音の降下口へと立った。ミリムはグラディウスを抱いて叫んだ。
「別子銅山を跡形もなく吹き飛ばしたダモクレス達。これがもし何かの切っ掛けで人の住む街に向けられてしまったとしたら、罪のない大勢の人達が死に絶えてしまう。そんな光景は見たくも考えたくもない。そうなり得るダモクレス達の脅威を黙って見過ごすなんて私にはできない。心無きダモクレス達の侵攻を打ち破るこの機会でその脅威を今すぐにでも取っ払ってやる！」
　光る小剣を構えてミリムは風に飛び込み、ドームへと落下突撃していく。
「ですからこの地から消え失せろぉお！！」
　熱く叫ぶミリム。
「今まで攻略に挑んだケルベロスの積み重ねの跡……！今こそ稔れ！」

「別子銅山には産業遺跡の他にも豊かな自然があった。それはただ有ったんじゃない。かつて鉱山経営によって荒廃してしまった山林、それを復活させようとした先人・伊庭貞剛の尽力と、それに続く人々の努力によるものなんだ。その山林をこんな無残な姿にするなんて許せない！　とっととここから出て行けー！」
　続いて和が叫ぶ。デウスエクスへの激しい怒りを表しながら、光る小剣を抱えて魔空回廊へと急降下突撃。

「地球はお前たちデウスエクスのエサでもおもちゃでもなくてな？　オレらの、そして特別な力をもたない人たちや動物たちの軌跡なんだよ。人々がなんの心配もせず笑って暮らせる世界を作るためにも、この場から疾く消滅させてやるよ。特にお前は雄大な自然をむちゃくちゃに壊したよな？　個人的にその点でも全く許すことができなくてな？　今までお前が理不尽に奪ってきた全ての存在に代わって、ここで理不尽に引導を渡してやるよ」
　セルリアンは光り輝くグラディウスを振りかぶり、ドームを睨み据えながら飛び降りた。逆巻く風の中、しっかりと魔空回廊のバリアを見据える。

「かつてこの地には人の営みがあった。何百年もかけて積み重ねられてきた、発展と希望の道筋。この世で最も美しいのは日々を懸命に生きている普通の人々。最も尊いものは人々が繋いできた命の歴史そのもの。それらを踏み躙るのがどれだけ愚かな事か、身を以て知れ。此処で、終わらせてくれる！」
　ナザクは歴史に想いを寄せながら叫び、輝くグラディウスを携えると、真っ直ぐに胸に構えて風に飛び込み、落下の勢いを借りて特攻していった。

「こんな心無い殺戮機械が残っていたら、また誰かが、誰かの大切な人たちが傷つけられちゃう……そんなこと、私は絶対に許さない！　皆が笑顔でいられるように！　誰かにとっての大切な人が１日でも長く生きられるように！　こんな危険なもの、私が今ここで絶対に壊してみせる！」
　わかなは怒りに身を震わせながら、願いを口にし、グラディウスを構えると逆風の中に飛び降りた。ドームをはっきりと見据えながら、光る小剣を強く握り締める。

「ジェノサイドフォーム？　ハッ笑わせるなッ！　そんなもんでこのオレを倒せると思うなよッ！　今のオレに出せる実力、全部纏めてくれてやるッ！！　その身で味わえッ！！　この一撃でぶっ壊れろッ！！」
　龍牙は己の力と想いを光る小剣グラディウスに乗せながら、躊躇いもせずに風の中に飛び込んで行った。落下しながら突撃する。

　矜棲は手首とグラディウスをストラップで繋いだ。
「今回こそはお前を止める！　お前のその赤い目に怯える人々に平穏と、この地を取り戻すために！」
　矜棲は宿敵の事を想った。その赤い電光の目を思い、闘いの意志を激しく燃やす。その闘志を叫びに変え、想いを光る小剣グラディウスに乗せて、矜棲は魔空回廊へと飛び降りた。全身に叩きつけられる風を感じながら突撃し、その小剣の切っ先をドームへと触れた。

　閃光が瞼を白く焼く。
　耳が割れそうな轟音を轟かせながら爆発が巻き起こる。立て続けに火柱が天を刺し、爆炎は濛々たるスモークをどこまでもたなびかせていった。
　バリアが軋みを上げながら閃光を走らせるたびに爆発と炎が沸き起こる。物凄い煙であった。
　ケルベロス達は煙をくぐり抜けながら予定の場所へと駆けつけた。そして仲間の顔を確認し、ほっと胸をなで下ろす。
　わかなはグラディウスをなくさないようにしっかりとしまった。ナザクもまた胴体にグラディウスを隠した。
「……おい、あれ」
　鬼人が煙の向こうのドームを指差した。
　ケルベロス達の目の前で、バリアが最後の爆発を起こし、音を立てながらドームは崩れ去っていった。
　ケルベロス達によるドームへの攻撃は成功し、バリアは破壊されたのだ。
「……やったな。ひとまずお疲れ様」
　ナザクは矜棲へと笑いかけた。
「作戦は順調。あとひと仕事、気を抜かずに行こう」
「ああ、ありがとう」
　矜棲は胸に迫る想いを抱えながら仲間へと礼を言った。
　後は速やかに撤退である。和達が確認した避難経路を走ろうとした時……。

「侵入者発見。……ケルベロス、ケルベロス――殲滅――」
　爆発音のために電子の声ははっきりとは聞こえない。そこにダモクレス……レイドライバー・ジェノサイドフォーム吼が現れた。
「出たなー、諸悪の根源！　叩きのめしてやるんだから！　ぷんすか！」
　和はジェノサイドフォーム吼を指差して怒鳴った。
　宿敵の姿を見て、矜棲は羅針ドライバーの操舵輪型バックルを回して変身した。
「変身！　さあ、錨を上げるぜ！」
　ドライバーが音声を上げる。
『オモカジイッパーイ！　リベル！　ヨーソロー！』
　ある程度予測していたケルベロス達は、レイドライバー・ジェノサイドフォーム吼の前に隊列を組んだ。

「敵。敵――戦闘の意志あり」
　赤い瞳を輝かせながらジェノサイドフォーム吼がヘルフレイムドライブを行う。白く明るい炎がジェノサイドフォーム吼を包み込み、その力を高めていく。
　そうして、間髪与えずジェノサイドフォーム吼は虐殺の光を斉射した。その機械の体の砲門全てが開き、白熱の光線がケルベロス達を次々に打ち倒していく。圧巻の攻撃力であった。

　声も立てずに地面に伏した前列。
　わかなは冷静に薬液の雨を降らせて前列達を回復させていく。怯んでいる暇はない。
　矜棲もまた、ゾディアックソードで守護星座を地面に描き、その光で仲間達を守護した。
「備えあれば患いなし、ってなぁッ！」
　龍牙はケルベロスチェインで地面に魔方陣を展開し、仲間を守護し回復していく。
　和は全身の装甲から輝くオウガ粒子を放ち、仲間達の力を超覚醒させていく。
　一気にこれらの加護を受けた鬼人は、巨大な鉄塊剣を大きく振り回すと、単純かつ剛胆無比な動きでジェノサイドフォーム吼に振り下ろし、叩き潰そうとした。
『幸せな嘘を。偽りの愛を。有り触れた絶望を。―――貴方に、夢を』
　或る嘘吐きの詩 -Merry Bad End-（メリーバッドエンド）を行う。
　鬼人が怒りで引きつけている隙に、無数の花弁を飛ばして敵の目を攪乱し、その隙に惨殺ナイフで斬りつける。花弁は暫く残り敵の行動を阻害する。
　セルリアンは満月をなぞるような緩やかな弧を描く斬撃で、ジェノサイドフォーム吼を捕らえていく。
　ミリムはバスタードソードで独特の深い構えを取る。否応なしに高められていく甲冑騎士の力。

　苦戦であった。
　ジェノサイドフォーム吼は、ヘルフレイムドライブで己を回復し、耐性の力を得ながら攻撃してくる。
　遠列によるジェノサイドビームは何度もケルベロスの前列を焼き、打ち倒した。
　回復から攻撃への速度が異常に速く、精度が上がっているのは確実であった。
　しかしケルベロス達は連携で回復していき、なんとか持ちこたえた。
　二度目のジェノサイドビームが来た直後、ナザクが殺神ウイルスをジェノサイドフォーム吼に放り込んだ。
「時間が無いんでね。悪く思うな」
　続いて龍牙が音速を超えた速度でジェノサイドフォーム吼に殴りかかっていった。その鉄拳で吹っ飛ばした刹那、ジェノサイドフォーム吼の耐性の守りが打ち砕かれた。

「……敵、殲滅――殲滅――」
　無感動な電子の音を繰り返しながらジェノサイドフォーム吼は機械の動きを繰り返す。
　赤い電光の目が動く。レイドライバー・ジェノサイドフォーム吼は剣のように伸びたアームを伸ばし、機械の輝きを見せながらセルリアンを攻撃した。
　メタルメテオール――。
　流星の閃光を見せつけながら機械の刃がセルリアンを襲う。
　刹那、龍牙が飛び出てセルリアンを庇った。肩口から大きく鮮血を噴き上げる龍牙。
「ここで倒れる訳にはいかねぇんだよッ！！」
　しかし龍牙は不敵に笑ってみせる。

　わかなは迅速にショック打撃と魔術切開による緊急手術を行い、龍牙を回復していった。
　龍牙は簒奪者の鎌に「虚」を纏わせ、鋭くジェノサイドフォーム吼を斬りつけるとその生命力を吸収していった。
　ナザクは惨殺ナイフをジグザグに変形させると、縦横無尽に機械の体を切り裂いていく。回復不能の傷を増して行くジェノサイドフォーム吼。
　ケルベロス達は一斉に畳みかけていった。
『裂き咲き散れ！』
　ミリムは緋牡丹斬り（ヒボタンギリ）を行う。
　彼女の懐から取り出された使い捨ての剣は緋色の闘気を纏う。
　その刃が素早く複雑な緋色の牡丹を描きながらジェノサイドフォーム吼を斬り刻んでいった。
『――これから先に、キミは必要ない　故に、疾く逝け　空虚の彼方へ』
　セルリアンの殺月禍（イクスフォス）。
　ジェノサイドフォーム吼の意識と無意識の狭間に潜り込み、認識困難な暗殺術の斬撃を放つ。不自然なほどに自然極まる斬撃は、途切れる事を知らない。
『知恵を崇めよ。知識を崇めよ。知恵なきは敗れ、知識なきは排される。知を鍛えよ。知に勝るものなど何もない。我が知の全てをここに示す』
　全知の一撃（ディクショナリー・クラッシュ）を用いる和。
　己が全知識を一冊の本として錬成し、敵の頭上に出現させ、その質量でもって痛恨の一撃を加えるのだ。
『我流剣術「鬼砕き」、食らいやがれ！』
　続いて鬼人の鬼砕き（オニクダキ）。
　刹那の間に、左切り上げ・右薙ぎ・袈裟の順に斬り、その三撃の刃筋が重なる中心を刺突でぶち抜く荒業だ。いかに強固な鎧を纏っていようが、斬撃の重なりで弱くなった一点を打ち抜く為、必ず相手を仕留める事が出来ると言われている。
「カッコいい一撃、頼むぜ天海さんッ！！」
　宿敵に気合いをこめていく矜棲に龍牙が叫んだ。
『これで決めるぜ！　【羅針ドライバー電子音声：オモカジイッパイイッパーイ！　アンカーストライク！　ヨーソロー！】』
　そこで矜棲がアンカーストライクを行った。
　グラビティで造り上げた巨大な錨を敵に撃ち込んで動きを封じる。そして、その錨ごと、敵を跳び蹴りで粉砕していく。
　グラビティの錨が飛び取ると同時に、レイドライバー・ジェノサイドフォーム吼も粉々に砕け散り、トドメを刺された。

●
　戦闘が終わった。
　龍牙はなんとか守り切れてよかったと、密かに胸をなでおろした。
　鬼人は恋人からもらったロザリオに手を当て、無事を祈った。
「わかなちゃんはボクがちゃーんと、恋人のところに送り届けてあげるから、安心してね！」
　和はわかなにえっへんしてみせた。
　後は速やかに撤退である。セルリアンはグラディウスを落とさないように握り締める。
　爆発の白煙はどこまでもたなびいていく。
　その煙の影から影へとケルベロス達は走る。
　山中から新居浜駅方面へ撤退し、他のケルベロスに用意して貰った車でミッション参加者が多くいそうな香川県方面を目指した。前回使用した経路を、矜棲が仲間を先導して進む。もし自分に何かあれば前回一緒した平に頼む予定だ。
　車の進む前方には梅雨の晴れ間の青空が広がっていた。空が、ケルベロス達のミッション成功を、祝福しているかのようであった。

作者：柊暮葉	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年6月25日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 9／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。