乙女達の流儀

作者:ハル


「ねぇねぇ、彼、どうだったのぉ?」
「優しかった、かな? それに……上手かった、なーんてね!」
「やだ~、詩織たらっ、やぁらしー!」
 また、その話題が始まったと、朝倉・心は表面上は笑顔で相槌を打ちながら、内心ではウンザリとした心地であった。
 お年頃だから仕方がないとはいえ、最近の話題は専ら『異性』に関すること。自分で言うのもなんだが、心も含め、なまじ容姿が整っている少女が集まっているグループゆえに……。
(「男の子には、あんまり興味ないんだよね……」)
 嫌いな訳じゃないが、心の興味はまだ異性よりもスイーツに惹かれていた。
 それに――。
(「詩織……どうして……」)
 心と詩織は、中学からの親友だった。高校に進学してからもずっと一番の友人だが、最近は少し噛み合わない。その原因が、彼女たちの会話の中に出てくる『彼』にある事は心も理解している。だが心は、少し恥ずかしそうに経験談を語る詩織が、今の友人関係を維持するために無理をしているようにも見えていた。詩織が『彼』を本当に好きなようには見えないのだ。
「ねぇ、今日は心も行くよね、カラオケ合コン? 今日のは医大生だから、ボンボンばかりだよ~? 皆女慣れしてるだろうから、経験ない心でも大丈夫っ!!」
「あっ……う、うん……」
 話題をふられ、心はハッとする。そして、曖昧な返事を返す。行けば、カラオケだけで終わるとは思えないのに。
 詩織と目が合う。詩織がニコッと微笑むが、心はなんとなく後ろめたさを感じ、顔を逸らしてしまう。
『皆と同じ』になることを求められているのだ。
 結局、詳しい話は後という事で、友人たちと離れ、一人になった心。
 そんな心に声をかけたのは――。
「それでいいのか? 他人に合わせて自分を安売りして、本当に後悔しないか? お前にはお前の考え、価値観があるはずだ! もう一度聞く、今日あいつらについて行っても、本当にいいと思っているか?」
 今どき長いロングスカート姿の、まるでスケバンを想起させる女学生。心とは、初対面であるはずだ。そのはずなのに……。
「わ、私は行かない、行きたくない! だって私は……まだ男の子の事なんて考えられない! ましてや、流されるままに『そういう関係』になるだなんて……!」
 心の本心が表面化する。ただ単純に嫌なのだと、主張する。
 そうして覚醒した心に、女学生は鍵を突きさすのであった。
 心の影から生み出されたドリームイーターは、友人二人の背を追った。
 その命を奪い、矯正するために。


「新たなドリームイーターの出現です。日本各地の高校に姿を現しているドリームイーターは、高校生が持つ強い夢を奪うことで、強力なドリームイーターを生み出そうとしている模様です」
 集まったケルベロスに、山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)が告げる。次代を担う若者を狙った許されざる行為であると。
「標的にされたのは、朝倉・心さんという女学生です。彼女は常々周りと空気を合わせ、流されることに疑問を持っていたようで、それを心の隙を見たドリームイーターに狙われてしまいました。また、心さんから生み出されたドリームイーターは、強力な力を有しています。その力の源は『空気を読むことへの疑問』であり、その疑問を少なからず解消してあげることで、ドリームイーターの弱体化に繋がります」
 嫌な事に対し、断固として拒否を示す。通常ならば美徳とされる行為でありが、日本では時として空気を読みことも求められる。人の和を乱せば嫌われてしまう事もあり、辛い思いをするのは当人なのだ。
 しかし――。
「今回の案件は、どうやらそう単純なものではないようです。心さんに関しては、過度な説得を行ってしまった場合、友人たちに唯々諾々と従い、自分の意見を口にできなくなる可能性が高く、仮にそうなった場合は心さんは心と身体の両方に大きな傷を負ってしまう事は明白です」
 出現したドリームイーターは強力だ。弱体化させなければ、易々と撃破できる相手ではない。
「しかし、心さんの感情を現状のまま変えないためには、説得を伴わない状況でドリームイーターを撃破するしかありません。もちろん、心さんの命が大事です。ただ心さんの命を救うだけならば、説得を行い、弱体化したドリームイーターを撃破するのが確実ではあるのですが……」
 その点については現場の判断に任せると、桔梗は頭を下げた。
「敵は、フレンドリィと名乗るドリームイーターが生み出した個体1体のみになります。ドリームイーターが標的とする心さんの友人2人は、今現在も高校敷地内に姿があり、靴箱の前で携帯をいじっているようです。心さんを含めた三人の写真はこちらになります」
 桔梗が画像を表示し、印刷したものをケルベロス達に手渡す。
「下校時間は過ぎましたが、友人2人を含め、校内には依然として大勢の生徒が残っています」
 だが、ドリームイーターの姿さえ見つけられれば、敵はケルベロスを優先的に狙ってくる。避難させるのはそう難しい事ではないだろう。
「誰もが孤独を恐れます。ですが、孤独を恐れるために自身にとって嫌なこと、したくない事をせざる終えないのは、やはりツラいですよね。単純な事ならともかく、心さんのは……」


参加者
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)
蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608)
朝倉・ほのか(フォーリングレイン・e01107)
シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)
鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)
荊・綺華(エウカリスティカ・e19440)
植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)
葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)

■リプレイ


「女同士のこう言う、合わさんやつが悪いみたいな空気、うちも好きちゃうからなぁ。まっ、結局うちはハッキリ言うてまうんやけどな」
 朝倉・心の通う高校……靴箱の前で携帯を弄る凛と詩織を視界に収めながら、八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)が深く溜息を。
「個人的には処世術としてはアリだと思うけど、譲れない価値観なんかもあるから、そこは……ね」
 鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)にとって、薄っぺらい言葉は彼女が嫌う最たるものの一つだが、『嫌う』という行為そのものに代償が付きまとうのが世の常である。
「私は八蘇上さんが羨ましいです。私は……多数の意見な流される事も多いので」
 朝倉・ほのか(フォーリングレイン・e01107)は、大学での事を頭に浮かべた。日常の会話から、自分に求められる返事や役割を探る、まるで地雷処理にも似た作業を。
(「意見をはっきり述べるのは、とても勇気がいりますよね」)
 ほのかは、心の心情が理解できた。
「年頃って、難しいわよね」
「多感な時期……だからね」
 蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608)とシェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)が言葉を交わす。二人にとってこの年頃は、あんな時期もあったな……そう思える程昔。行き交う生徒達が、見知らぬケルベロスに疑問の視線を投げかける。
(「お姉さん……そう思ってくれてれば、嬉しいのだけれども」)
 その視線に、カイリが苦笑する。ややもすれば、学生達の両親の中には、二人とそう歳の変わらぬ親がいても不思議ではないのだ。
 だが――。
「キヒヒ♪ めっちゃ見られてるよぉ」
 一番注目を集めていたのは、葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)。大きな目が描かれた眼帯が、存在感を遺憾なく主張しているのだ。ギョッとする生徒達に、咲耶は気にした風もなく手をヒラヒラと振る。
「それはそうよ、あの子達が私でも見ちゃうわ。……それはともかく、今回のドリームイーターは厄介そうな感じね」
 植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)が、肩を竦める。今回は姿を見られて特に困るような敵ではないとはいえ。
「摩擦を生まないためには……自分を殺すことも……大切なのでしょうね……だけど――」
 心が傷つくと半ば確信している以上、荊・綺華(エウカリスティカ・e19440)に見過ごすという選択肢はなかった。
「主張だけみたら正しいんやけどな。デウスエクスは極端やねん」
 仮にドリームイーターが現れなければ、ズルズルと心は後悔だけを残す事もありえた。結果だけ見れば、ドリームイーターのおかげと言えなくもないが、だからといって瀬理達は感謝しようとは思わない。

「ねぇ凜ちゃん、心ちゃんも本気で連れていく気なのかな? 私ならいくらでも付き合うよ?」
「仲間外れはダメでしょ、私そういうの嫌いだしぃ」
「でも心ちゃんに、男の子はまだ早――」
 と、詩織と凜がそんな会話をしている時、彼女は姿を現した。
「あっ、心待ってたよぉ~! って、何それぇ、コスプレか何かぁ?」
 靴箱に背を預けていた凜が、ミディアムボブの美少女を見つけ、声をかける。その弾けんばかりの笑顔は、これからの『遊び』を心の底から楽しみにしている様子であり、悪気の一片すらも感じられない。だが、その手に握られる鉄塊剣には、少々面食らったようだ。
 詩織も凜の隣で驚いたように目を見開くが、まさか本物だとは思っていないのだろう。しかしそれとは無関係に、詩織はどことなく焦っている風にも感じられた。
 ケルベロス達は、その詩織の浮かべる焦りの意味を吟味するよりもまず先に、一斉に行動を開始する。
「彼女は朝倉さんじゃないわ、ドリームイーターよ! 二人とも、下がって!」
「きゃうっ!」
 碧が、心に扮するドリームイーターの元へ駆け出そうとする凜の首根っこをつかみ、詩織を手で制する。
「……ふふっ」
 すると、ドリームイーターが不気味に笑った。鉄塊剣を一凪ぎすると、強烈な旋風が巻き起こり、身構えていた前衛と中衛を斬り刻む。その両手に握られていたものが、正真正銘の凶器である事を知り、場が一気に騒然とした。
「アタイ達ケルベロスがいるから大丈夫よぉ! 落ち着いて避難してねぇ!」
 恐慌に陥りかける生徒達の雑音、悲鳴を掻き分けて、咲耶の声が学校玄関に反響する。
「外へ!」
 胡蝶が示すと、学生達は怯えながらも指示に従う。
 そしてその間。
「今は……何も言うことは……ありませんです……」
「貴方の相手はこちらです。そして、決して逃がしはしません」
 綺華が発生させたカラフルな爆風に背に、ほのかは低い体勢からドリームイーターの腰に組み付いていた。
「さてさて、お手並み拝見といこうか」
 シェイが、凍結の力を宿した霹靂龍牙棒で、ドリームイーターを押し潰す。
 碧が戦乙女の歌を熱唱し、瀬理が電光石火の蹴りを叩き込んだ。
「あなた達も今の内に!」
 瀬理の蹴りによってドリームイーターが吹き飛ばされたのを見計らい、胡蝶が竜砲弾で牽制しつつ、凜と詩織にも逃げるように促す。
「で、でも心がぁ! 大変だよぉ!」
「そ、そうです! 私の親友なんです!」
 しかし、凜と詩織は、大粒の涙を流しながら食い下がる。
「あれは心ちゃんじゃなくて、ドリームイーターなの! ここはお姉さん達に任せなさい、悪いようにはしないから!」
 幸い、ドリームイーターの敵意は既にケルベロスに。カイリは移動を繰り返しながら、機を見て力強く握りしめた木刀で目にも留まらぬ斬撃を浴びせ、ドリームイーターに隙を与えない。
(「そっかぁ、凜ちゃんも詩織ちゃんも、悪い子じゃないんだねぇ。だったらぁ――」)
 負ける訳にはいかないと、咲耶は恐怖を噛み潰しながらエネルギーの矢を引き絞った。矢はドリームイーターを射貫き、精神を掻き乱す。
「今やで、カイリ!」
 瀬理とカイリは凜と詩織の背中を見届けると、それぞれ立入禁止テープと殺気で、人の意識や侵入を遠ざける。
「周りに合わせるのか、自分に素直になるのか。それは君が選ぶべき事さ」
 シェイは、ドリームイーターを眺めながら呟く。
「だけど、君が自分で結論を出すためには、ちょっと野暮な相手を止めなければいけないみたいだ」
 シェイが、古代語の詠唱をする。間近で鉄塊剣を振り上げるドリームイーターにも、泰然自若のまま。
 案の定、先手を取ったのはドリームイーター。
 だが、
「通させはしない」
 飛ばされた悪夢の残滓が、割って入ったほのかに喰らいつく。
「残念だったね」
「くぅ!?」
 意地の悪い笑みを浮かべたシェイは、隙だらけのドリームイーターに魔法光線を放ち、壁に打ち付ける。
 ドリームイーターは、石化を受けた影響を確かめるように手を開閉して身体の自由を確かめている。
 そんな敵に、粘着く催眠を振り払いながらほのかが告げた。
「戦いを始めます」
 ――と。


「……少しばかり、舐めていたかしら?」
 碧が、負った傷を抑えて苦悶を浮かべる。
「……かなぁ?」
 十字に重ねられ、威力が一段増した鉄塊剣が咲耶の細身な肢体を切り裂き、易々と吹き飛ばした。
「早く貴方達を殺して、凜と詩織を矯正しないと!」
 ドリームイーターは、嬉々とした様子で間合いを詰める。それに対し、ケルベロス側はジリジリと後退させられ、苦戦を強いられていた。
 これだけの精鋭が集まっていれば、説得を行っていれば容易く決着は着いただろう。だが、万全の状態である強力なドリームイーターと相対するには些か準備不足の面があり、精鋭だからこそ互角の状態になんとか持ち込めているのが現状だ。
「なんとか……凌ぎきりますです……ばすてとさまは……スノー様と協力して……援護の継続をお願いします……咲耶様はわたしがヒールしますので……碧様はご自愛ください」
「助かるわ、荊さん」
 綺華が告げると、ばすてとさまが前脚でスカーフを払いながら翼を羽ばたかせる。
 碧がスノーにアイコンタクトを送ると、白雪のような毛並みを震わせて邪気を払った。
「父よ……あなたは何でも……おできになります……この杯を……わたしから……取り除けてください……」
「綺華ちゃん、こっちもありがとねぇ」
 綺華が天に祈りを捧げ、咲耶の傷を緩和される。
「……ッ」
 碧も自身の傷をオーラで癒やす。だが、催眠によってドリームイーターに付与してしまった攻撃力増強のエンチャントに、碧は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
「そういう顔をするものではないよ。私達なら、なんとかなるさ」
 言いながら、シェイがドリームイーターの「進化可能性」を奪い、僅かながら押し返す。
「邪魔をしないで!」
 すると、苛立たしげにドリームイーターが頰にかかる髪を耳に掛け、精神を集中。他者に侵されない自己を再確立する。シェイが付与し、咲耶が増殖させた凍傷が瞬く間に消えていく。
「いつまでもあんたみたいなパチモンに構うてる時間はないで!」
 ようやく攻撃の手が緩んだのを見て取った瀬理が、ドリームイーターの気脈を狙って指先を突き刺した。
 逆に、攻勢をかけるケルベロス。
「これまでのお返しよ、如何かしら?」
「きゃっ……ッッ!!」
 ドラゴニック・パワーで急接近した胡蝶が、ハンマーをドリームイーターの急所に叩き込むと、
「あら、そろそろ効いてきたかしら?」
 ニッと笑ったカイリは、空の霊力を帯びさせ、風のように振るった木刀に確かな手応えを感じる。
「――来ます」
 ドリームイーターが旋風を発生させると、身構えるほのか達を範囲攻撃が襲う。
「……う゛ッ!」
 胡蝶を庇う綺華が、全身を刻まれて呻く。
「荊さん、弱体化しない以上は無理は禁物です」
 ほのかが、鉄神を巧みに操ってドリームイーターに一撃を加える。ドリームイーターの怒りを買っている彼女だが、敵が鉄塊剣での攻撃を軸としているため、回避や防具によってダメージを抑えることができていた。
 そして、それは瀬理も同様であり、電光石火の動きで彼女も蹴り掛かる。
「ルゥさん!」
 碧が、シェイにオーラを溜めた。
 鉄塊剣での攻勢により膝をつきかけたシェイだが、碧の援護を受けて立ち上がる。火力役として、催眠の影響を受けづらい彼は、事故や不発が起こりにくい。終盤に来て、蹴りを放つシェイの攻めは、苛烈さを増していた。
「まだまだぁ!」
 痛みに怯みそうになる弱気に負けず、咲耶が矢を放つ。

「ばすてと……さま……!」
 ぼすてとさまが、鉄塊剣で粉砕される。綺華は悲痛に眉を寄せ、同時に危機を感じ取っていた彼女は、自分のために天に祈った。
「くっ……!」
 咲耶を庇って催眠を受けたほのかが、咆哮を上げる。
 しかし、ようやく天秤がケルベロス側に振れ始める。
「疾走れ逃走れはしれ、この顎から! ……あはっ、丸見えやわアンタ」
 瀬理が、本能のままにドリームイーターを追い詰め、牙――パイルバンカーを突き立てる。
「……い゛!」
 力のままに振り抜くと、ドリームイーターが床の上を何度もバウンドした。
「あなたの誇りに口づけを。お眠りなさい。このまま果てなき無明に墜ちて」
 胡蝶がドリームイーターの心臓の幻影を捕らえると、その動きがピタリと静止する。
「そこね!」
 隙を見て、碧が痛烈な一撃を叩き込んだ。
 オウガメタルを纏い鬼を浮かび上がらせる咲耶も拳を突き刺す。
 さらに、シェイがハンマーでラッシュをかける。
 スノーとばすてとさまの耐性により、前衛の火力を落とされにくくなったのも一役かった。
「我が身模するは神の雷ッ! 白光にッ、飲み込まれろぉッ!」
 ドドメに、カイリは文字通りの白光と化す。消失した――かのようにさえ見えた彼女は、天高く昇り、そこから一筋の雷となってドリームイーター目掛けて降り注いだ。
 ……轟音。
 雷が去った現場には、ドリームイーターの塵一つ存在しなかった。


「こんな、爆発してまうまで我慢しとるとか、アホやねぇあんた」
 無事目を覚ました心に事情を説明した後、瀬理は呆れ混じりに口火を切った。
「自分の考えをはっきり言うた上で、空気も読んで合わせたったらええやんか。薄っぺらい笑顔見せるんやなくて、スイーツでも今度食べに行かへんか、とかな」
 言いながら、心のミディアムボブをグシャっと掻き乱すように雑に撫でる。
「そう、だよね」
 心は髪を整えながら、苦笑交じりに頷いた。今までの自分が馬鹿だったと、そう認めるように。
「いずれにしても、目が覚めて良かったわ」
「お姉さんでよければ、貴方の話に付き合うわ。何かあったら、連絡頂戴?」
 胡蝶とカイリのお姉さん組が、甲斐甲斐しく世話を焼く。
「嫌悪している事まで、空気を読んで合わせる必要なんて……ないのよ。取り返しがつかない事だってあるし……もしあったら、後悔しかないわ」
 そのためには、適当にはぐらかして逃げるのも手だと、胡蝶はアドバイスを。
 ――と。
「お疲れ様、現場は綺麗にしておいたわ。後は……彼女達次第ね」
 教室のドアが開くと、碧が顔を出した。報告を済まし振り返るとそこには、
「心ちゃん、お待たせぇ」
「知る限りの事情はお話しています」
 咲耶とほのかが。そしてそのさらに背後には、神妙な面持ちの凜と詩織の姿がある。
「ほのかさんっていう人から聞いたよ……心、合コンに興味ないんだって」
「……うん」
 咲耶に背中を押され、凜が一歩前に出る。心が迷いながら頷くと、凜は泣きそうになりながら、ガバッと勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさいっ! 私が大好きな事だから、心も喜ぶと思ってたのぉ!」
「……っ」
 突然の謝罪に、心は何と返していいか分からない。
「意志は……伝えなければわからないです……」
 そんな心の耳元で、綺華が囁いた。
「私こそ何も言わなくて、ごめんね。本当は私、男の子にあまり興味ないんだ」
「……うん」
 意を決して、心が告げる。凜がもう一度、「ごめん」そう言った。
「本音で付き合うんが、大事な友達ちゃうか?」
 和解する二人を眺める詩織の背を瀬理がポンッと叩く。詩織は頷くと、
「凜ちゃん、実は私も合コンとか男の子には興味ないんだ」
「えぇ?!」
 ハッキリと言った。
 凜にとっては青天の霹靂だろう。凜の前での詩織は、演じていた。すべては――。
「私、心ちゃんの事が大好きだから。心ちゃんを男の子なんかには触れさせない」
 愛ゆえに。心に寄ってくる男をすべて自分で堰き止めようとしていたようだ。
「ゆ、友人らはええキャラしとるやないの。あんたも見習うんやで?」
 予想外の展開に、少し動揺しながら瀬理が言う。
「ま、男の私からすると、こんなかわいい子にお近づきになれないのは残念だけどね」
 詩織にギュッと抱きしめられ、そして満更でもなさそう心に、シェイは置き去りにされアワアワと落ち着かない凜を慰めつつ、一服したい気持ちに駆られるのであった。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。