ずぶ濡れ加湿器ロボの襲撃!

作者:柊暮葉



 静岡県。梅雨でもやもやとはっきりしない天気である。
 月に一度の廃品回収の日。指定の公園に古い加湿器が捨てられた。買ってから随分、年数が経った上に故障したので捨てられる事になったのである。
(「故障したって、直してくれりゃいいのに。俺はまだ働けるぞ」)
 加湿器は内心不満であった。
 その加湿器の中にカサコソと潜り込む蜘蛛のような宝石。コギトエルゴスムである。
 その途端にみるみる加湿器は巨大化変形! 加湿器ロボットとして生まれ変わった!
「フハハハハ、俺を捨てた人間どもめ、復讐してやるーっ!!」


 ソニア・サンダースが集めたケルベロス達に説明を開始した。
 萌葱・菖蒲(月光症候群・e44656)は真面目な顔で話を聞いている。
「静岡県の廃品回収の日に公園に捨てられていた加湿器が、ダモクレスになってしまう事件が発生するようです。幸いにもまだ被害は出ていませんが、ダモクレスを放置すれば、多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまうでしょう。その前に現場に向かって、ダモクレスを撃破して欲しいのです」


 ソニアは説明を続ける。
「このダモクレスは加湿器を元にしたロボットのような形をしています。能力もそれにちなむものです」

 ずぶ濡れ……加湿器部分から激しい蒸気飛ばします。 理力 遠単 魔法+ずぶ濡れ。
 超ずぶ濡れ……加湿器部分から超激しい蒸気を飛ばします。 理力 遠列 魔法+ずぶ濡れ。
 物理で殴る……加湿器の角だった部分で殴ります。 頑健 近単 破壊+ブレイク。

「加湿器は回収の日に指定の場所に出されていました。指定の場所は中ぐらいの公園になっており、戦うスペースには困らないものと思われます。朝から小雨が降っていた事もあって、周辺には人はいません。ですが、気になるようならばキープアウトテープなどを張ってもよいでしょう。雨は本降りではありませんので、戦闘の邪魔になるような事はないと思われます……梅雨のじめじめした小雨の日に、加湿器の蒸気……たまったものじゃありませんね……」


 最後にセリカはこう言った。
「罪もない一般人を虐殺するデウスエクスは許せません。必ず討伐してください!」


参加者
安曇・柊(天騎士・e00166)
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
エンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)
浦戸・希里笑(黒蓮花・e13064)
キアラ・エスタリン(導く光の胡蝶・e36085)
染乃指草・紅(輝盾の篇首・e42585)
遠野森・空(虹描き・e44142)
萌葱・菖蒲(月光症候群・e44656)

■リプレイ


 静岡県の廃品回収の日、指定の公園で加湿器のダモクレスが発生する――。
 その情報を得たケルベロス達は、迅速に行動を開始した。

 公園への道路をケルベロス達は急いでいる。もうすぐダモクレスが発生する時刻だ。
「梅雨の時期に暴れる加湿器など大迷惑です!! ただでさえジメジメしてるのに……ここでも不法投棄の被害が出てるのですね……」
 源・那岐(疾風の舞姫・e01215)がため息をついている。
 彼女は小雨が降っているのであらかじめレインコートを着ていた。
 森に籠もって霊地を守護してきたために、都会では月に何度か公園に堂々と廃品を捨てて、回収して貰う日があるという事を知らなかったらしい。みんなそれに気がついて、那岐の誤解を解いた。那岐はびっくりしていた。
(「んー、今回の加湿器はちゃんと場所も日にちも守って捨てられてたんだろ? じゃあ、捨てたひとは別に悪くねぇよな。そりゃ、直せば、ってのはあるだろうけど、俺たちみたいにヒールすりゃ良いってワケじゃねぇからお金かかるし、もっと良いの出てんなら修理するより買い直したいだろうし」)
 遠野森・空(虹描き・e44142)はそんな事を考えた。悪いのはデウスエクスである。
「こういう依頼っつーのオレが参加するなンて正直想像してなかった。緊張すっけどよ、加湿器相手じゃ黙ってられねぇよなぁ」
 染乃指草・紅(輝盾の篇首・e42585)は緊張気味ながらも任務に燃えているようである。彼の友人に加湿器の特性を持ったレプリカントがいるのだ。
 彼はあらかいじめ着替えやタオルやらを用意してきた。
「雨が降っているうえに加湿してもっと濡らして来るなんて嫌ですね……ずぶ濡れになってしまう前にさっさと倒してしまいましょう。街の皆さんのためにも、梅雨のジメジメの不快感を増やしたくありませんからね」
 キアラ・エスタリン(導く光の胡蝶・e36085)は小雨が降りしきる空を見上げながらそう言った。
「只でさえこのむせ返る様な湿気で生体部と機械部の接続部分が調子悪いのに……これ以上湿度を上げられたら、錆びる! ……いや、錆防止加工してるから錆びないけども。でも気分の問題、正直あまり水気に機械部を晒し続けたくは無いね。よし早く倒そう、すぐ倒そう、いま倒そう」
 浦戸・希里笑(黒蓮花・e13064)は苛立ちを誘う湿った空気に眉を顰めている。
「……えぇっと、確かにずぶ濡れってBSは言葉の通りにずぶ濡れになるだけ、みたい……? まあ、僕達ケルベロスにお休みはないし、雨の日も雪の日も外で戦ってるから慣れてると言えば慣れてるけど……濡れると翼重いんだよなぁ。この加湿器が本来思っていたことなんて僕には分からないです、けど……このままは、ちょっと可哀想ですから、終わらせましょう」
 安曇・柊(天騎士・e00166)は資料で渡されていたダモクレスの特徴について考え込んでいる。
「……ずぶ濡れって結局濡らすだけか、これ。動きにくいっちゃ動きにくいけど、土砂降りの雨の中でも依頼行ったりするし今更じゃね。そもそも普通の家電に感情があるかなんざ知らねぇけど、結局の所、中に入り込んで動かしてんのはダモクレスだろ」
 エンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)も同じ事を考えているようだった。
「梅雨……蒸し暑い………加湿器? …潰す」
 萌葱・菖蒲(月光症候群・e44656)は腹立たしそうな口ぶりで呟いている。
 口頭で情報の確認をしながら、ケルベロス達は該当の公園に走り込んだ。

 正にそのときであった。
 公園には、業者に持って行ってもらおうと、粗大ゴミが指定の紙を貼っていくつも並べられていた。後は回収の車を待つばかりである。
 その中の一つの加湿器が、あっという間に巨大化変形し、正に巨大ロボットとなったのである。
「フハハハハ、俺を捨てた人間どもめ、復讐してやるーっ!!」
 ロボの瞳を赤い電光で光らせ、怒りと恨みに燃える加湿器ダモクレスは、胸部から鬱陶しい蒸気を大きく噴き上げていた。

「周囲に一般人はいないようですが……」
 那岐は素早く殺界形成を張り巡らせた。
 同じくエンデも公園の内外に鋭く視線を走らせつつ、殺界形成を張っていく。
 菖蒲はキープアウトテープを出入り口に貼った。
 他のケルベロス達も公園の中に飛び込み、ダモクレスの前方に立ちふさがっていった。

「ン? なんだ貴様ら……」
 暑苦しい蒸気を噴き上げながらダモクレスはケルベロスの方へ不機嫌に向き直る。

「ダモクレス! それ以上、暴れるのなら、タダじゃおかねえぞ!」
 雨の中、紅が大きな声で怒鳴った。
「復讐なんて楽しくないぜ。嫌な事は俺のペイントブキで塗り替えてやる!」
 続いて空も叫ぶ。
 ダモクレスは手に手にそれぞれの武器を握った彼らを見て、再び赤い電光の目を光らせた。
「お前ら、ケルベロスだな! 邪魔をするならぶっ飛ばしてやる!!」
 全身から湿っぽい蒸気を噴いて怒りを示すダモクレス。
 そのままケルベロス達の方へ突っ込んで来た。

「これでも喰らえーっ!」
 怒りのままにダモクレスは胸部の加湿器部分から、物凄い勢いで蒸気を噴射した。
 蒸気はまっしぐらに、前列に立っていた希里笑へと襲いかかり、彼女の全身をぐっしょりとずぶ濡れにしてしまった。
 まるで服を着たままプールにでも落ちたような格好になってしまう希里笑。
 そのとき希里笑が着ていたのは白いYシャツにノースリーブのジャケットであった。
 その上で蒸気でずぶ濡れになってしまったら、Yシャツが透けて肌色になり、中に着ていたミントブルーの下着の様子まで分かってしまうことに。
 ピンと来ていなかった男性陣も、これにはどういう効果があったのか理解して慌てて希里笑から目をそらす。
「……」
 無口な希里笑はただ顔を赤くして耐えている。

「み、皆さんの狙いを上げます!」
 柊は希里笑を見ないようにしながら、全身の装甲から輝くオウガ粒子を放出し、仲間達の超感覚を目覚めさせ、狙いを定めさせた。
 彼のボクスドラゴン、天花はボクスブレスでダモクレスを攻撃した。
『我が力、祝福の力となれ!! 白百合よ、我と共に舞え!!』
 那岐は風の舞姫の御神楽・白百合(セイクリッド・シルフィード・ダンス・リリィ)を踊り、花の力を借りて仲間達に正しい道筋を示す。
「まずはBS耐性を上げて……」
 空は紙兵を散布して仲間達の耐性を高めた。
「守るッス」
 紅は地面にケルベロスチェインを展開していき、仲間達を守護する魔方陣を描く。
 防御を固めている間に勝手に希里笑の状態は回復していった。
「廃品は止まれ!」
 エンデは電光のごとく閃く蹴りでダモクレスの膝の関節を蹴り上げた。脚が麻痺して動けなくなるダモクレス。
「……迷惑」
 希里笑は反撃に転じる。バスターライフルを構えると、魔法の光を充填して発射、ダモクレスを焼き払おうとする。
「まずは動きを止めます!」
 キアラはエアシューズで高々と跳躍すると、流星の尾をたなびかせ、重力を宿しながらダモクレスに跳び蹴りを炸裂させる。
『…May the Lord smile、 and the Devil have mercy…』
 笑う顔(ヘブンスマイル)を使う菖蒲。
 菖蒲は奇妙な笑い声≪マニアカル・ラフ≫をあげながら自爆≪スーサイド≫する怪物を召喚した。怪物はいつも笑顔だが、よく見ると眼は笑っていないことがわかる。恐怖の笑顔のままダモクレスに抱きついて自爆する怪物。

「ぐう……やりやがったな……」
 ダモクレスは、たちまちのうちにダメージを受けて唸り声を上げる。
 ロボットでなければ顔が真っ赤になっていた事だろう。
「俺を舐めるな!」
 そう叫ぶとダモクレスは拳を振り上げた。
 変形しているが、加湿器の角だった部分が鉄拳となり、紅に向かって振り下ろされる。
 強烈な物理攻撃。紅はダメージを半減して持ちこたえるが、その勢いに後ろに退いてしまう。

「コノ野郎--! お前ももっと、誰かの事潤したかったよな。お前に誰かを傷つけさせンのは、オレさせられねンだわ!!」
 紅はシャウトを上げて自分を回復していった。
 空はネクオローブで那岐を占い、その結果を告げる。
「風の姫よ。あなたの選ばれし力は敵の最大の妨げとなるでしょう……」
 那岐のポジションの力が上がっていく。
「ありがとうございます!」
 那岐は即座にドラゴニックハンマーを砲撃形態に変えて構える。猛烈な勢いで発射された竜砲弾はダモクレスを貫き、足止めにしていく。
『……目を離したら、消えてしまうかも』
 柊は一番星(スターライト)で光を放つ。
 闇に浮かぶ儚い星のように、美しく瞬く光は彼らの目を惹き付ける。強く、強く。見逃せば最後、失ってしまうかもしれない。
 天花は紅に属性インストールを行い全快にした。
「蒸し暑いの…嫌いだ…わ…」
 柊が敵を引きつける一方で、菖蒲は尋常ならざる美貌の放つ呪いによって、ダモクレスを呪縛していく。
「許さない……」
 希里笑は阿頼耶識から眩い光を放ってダモクレスを麻痺させた。
「いきます!」
 キアラは恐るべき速さで計算しながら敵の弱点を一発で見抜き、その箇所をゲシュタルトグレイブの一撃で破壊した。
「……そこかっ」
 キアラが壊した箇所を狙い、エンデは日本刀に無数の霊体を乗せながら刃を閃かせ、ダモクレスを斬りつける。その傷口から汚染されていくダモクレス。

「よ、よくもォ!!」
 装甲の何カ所もを破壊されて、ダモクレスが喚く。
「これだから人間は嫌いなんだよ! 絶対に復讐してやるんだ! 貴様らなんかーっ!!」
 後は支離滅裂な単語を叫びながら、ダモクレスは胸部を大きく展開していった。
 そして先程とは比べものにもならない大量の蒸気を噴出、ケルベロス達へとぶっかけてくる。
 ただでさえ小雨が降る中のその大量の湿った蒸気は、もう、水分による暴力だ。
 それをもろに受けてしまうケルベロスの前列。
「!」
 希里笑は再び下着が見えるほどのずぶ濡れに。
「あーあ、何してくれんだよ……」
 紅もまたタオルぐらいではどうしようもないほどの濡れ具合。
 エンデは長い耳の中まで濡れたようで、思わずプールから上がった時のように顔を横に傾けてトントンジャンプ。
「エンデって長耳だったんだね……」
 柊はそう言った。柊は羽が水分を含んでずっしり重くなってしまい、なんだかしょんぼり。
「お前もオラトリオだったんだな」
 耳の中の気持ち悪さに辟易しつつも、エンデも羽しっとりの柊に向かってそう言った。

「はいはい、回復して、楽しく攻撃!」
 空が紙兵を散布して耐性を高めて回復していく。
「それ以上、させませんっ」
 那岐は半透明の「御業」を操り、その巨大な掌でダモクレスを鷲づかみにして捕らえた。
「恐怖は……足を止める理由になりませんっ」
 柊はその隙に、オウガメタルを「鋼の鬼」と化して特攻し、ダモクレスの胸部の装甲を打ち砕いた。加湿器が仕えなくなるダモクレス。
 続いて天花がボクスタックルを行った。
「もう、怒った」
 さらに希里笑が肘から先をドリルのようにモーター回転しながらダモクレスに殴りかかり、貫く。腹部の装甲も打ち砕かれて、ダモクレスの弱点が全てさらけだされていく。
「…暑い…だる…い…」
 そこに菖蒲が卓越した技量の一撃を放ち、ダモクレスを凍結させた。
「最初で最後の一発--!!」
 紅は光の翼を広げて、暴走させていく。自らも荒れ狂う「光の粒子」と変化すると、ダモクレスに突撃していき撃ち貫いた。
『雪の翼を纏いて、胡蝶は羽ばたきを続ける……。耐えられますか?身も凍る胡蝶の舞に』 雪月胡蝶(バタフライ・スノウ)を使うキアラ。
 彼女がお札から呼び出したのは極低温の光の胡蝶。胡蝶達は銀色の光を放ちながら、ダモクレスの周りを舞い踊り、急激にその体熱奪っていく。胡蝶の舞に見惚れたまま、ダモクレスはみるみる凍え、活力を失っていく。
『――さようなら、美しい世界にお別れを』
 そしてエンデのAuf Nimmerwiedersehen。(エイエンノケツベツヲキミニ)。
 黒猫は届けよう。凶刃を以て、この美しい世界との永遠の決別を君に。
 何も持たぬように見えた拳、その両手のガントレットに巧妙に隠された、手指の延長線のような鋭い仕込み爪による左右からの素早い挟撃。
 唯、何よりも。眼前の敵を確実に殺し尽くす為に、手段は問わない。殺す事が本懐なれば、この身は唯その為だけに。
 ダモクレスは滅びた。


 戦闘後。
 女子達はみんな、近くのコインランドリーに飛び込んで行った。
 ずぶ濡れ攻撃を受けなくても、小雨の中の戦闘でコートの下まで濡れてしまっているのである。
「公園の修復は野郎どもにでも任せて女性陣は着替えだよ!」
 特に被害を受けた希里笑は顔を真っ赤にしてそんなことを言っていた。
 ぷるぷるしながら速攻で着替えを取りに行った希里笑は、コインランドリーの死角を利用してうまく服を取り替え、温かい飲み物を飲んでやっと落ち着く。
 那岐はコートを脱いで濡れた服に気休めながらもクリーニングをかけた。彼女は薄着を好むため、すぐに上着を脱いでしまうのだ。
 キアラもちゃんと着替えた。
 菖蒲はその場で上の服を脱いで絞った。
「着替えてぇ……のはやまやまだなンだけどよ。もし加湿器がボロボロになっても残るなら、修理とかリサイクルとか……それか使えるトコだけでも資源物に回すとか、何か出来ねぇかなぁ」
 紅は、ダモクレスの残骸の中から、まだ仕えそうな部品を取り出して、リサイクルに持って行く事にした。

 そんなこんなで梅雨時の事件は解決した。
 これからはゲリラ豪雨なども気になる季節。体調を崩さないように気をつけていきたいものである。

作者:柊暮葉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。