パカパカ鳥ガラケータイの池

作者:星野ユキヒロ


●パカパカガラケーの哀愁
 某地方都市からすこし離れた自然公園に小さな滝のついた大きめの池がある。その滝から流れ落ち、池の浅いところに沈んで陽の光をキラキラと反射しているのは二つ折りのガラケーだ。
 水の中でもまれ、なんの形なのかもわからないストラップがついているが、どうやら鳥の形のキャラクターであったようだ。
 そんな古びたガラケーに、ちょろちょろと這いよる不届者がひとつ。小型ダモクレスだ。
 水際をぱちゃぱちゃと歩いて近づき、ガラケーの中枢に入り込む!
『クエ……クエエエエエエエエエッ!!』
 ストラップの鳥と融合し、クチバシがガラケーそのものの奇妙なアヒルのような姿になったそれは、巨大化し動き出した!!

●パカパカ鳥ガラケーダモクレス討伐作戦
「オリビア・ローガン(加州柳生の伝承者・e43050)さんがにゃんにゃん鳴く猫耳掃除機を討伐した街から少し離れた自然公園なんすけども、クチバシがガラケーになったアヒルみたいな形のダモクレスが出現する事件が予測されたっすよ」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー)が今回の事件の概要を話す。
「今回は自然公園まるごと封鎖しちゃえばいいし、利用禁止の日にしてもらったんで被害者はまだ出てないっす。でもこのままだと公園から出て街の人が殺されてグラビティ・チェインも奪われちゃうんでそうはさせられないっすね。何も起こらないうちに撃破、お願いしたいっす」

●鳥ガラケーの話
「このダモクレスは型落ちしたガラケーなんすけども、クチバシが折りたたみのガラケーになった巨大なアヒルっぽい形をしてるみたいっすね。クエクエ鳴いてパカパカするんで結構うるさいっす。攻撃はつっつき、石吐き、羽ばたきっす。冗談みたいな格好っすけどすごいデカブツだし、ダモクレスなんで油断は禁物ってとこっすね。暴走するまま当たりを破壊して、人も傷つけるっすよ」
 黒瀬は現場の地図や航空写真を見せて周囲の状況の説明をする。
「警察さんたちには周囲の人払いと封鎖を頼んでて、自然公園の管理者にも話通してあるんで逃げ遅れとかの心配は皆無っす。遠慮なく暴れて、鳥ガラケーを討伐してくださいっすよ」

●黒瀬の所見
「ちゃんと元買った店に持ってくなりなんなりできるのに、誰もいない池に捨てられちゃったガラケーっす。使ってる時は大事な連絡をする仕事を一生懸命やってたっすよきっと。そう思うとかわいそうとも思えるし、止めてあげてくださいっす」


参加者
リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)
大三上・まひる(ホームレスホームガード・e11882)
シララ・クリーブ(デウスエクス絶対掃除ガール・e38987)
ルエリラ・ルエラ(幸運エルフ・e41056)
獅童・晴人(灰髪痩躯の陰険野郎・e41163)
オリビア・ローガン(加州柳生の伝承者・e43050)
蟻塚・ヒアリ(蟻の一穴天下の破れ・e62515)

■リプレイ

●自然公園の巨大鳥
 現場である公園に降り立ったケルベロス達は、件の池に向かっていた。時折くええくええとダモクレスのものであろう声が聞こえる。
「ぬおお! なんという具合の良い公園だ! 日当たり、木陰の具合、水の確保! 公園はホームレスにとって自宅になりうる場所……おれにとってもな。 だから守る!」
 大三上・まひる(ホームレスホームガード・e11882)はふんぬふんぬと鼻息荒く、自らの意気込みを口にした。
「ガラケーくん、池にぽちゃんと落ちたのならカビや錆、それと藻が凄そうだ。それに……人を襲っちゃうのは非常によくない!ボクらがお掃除(物理)しなきゃね!」
 シララ・クリーブ(デウスエクス絶対掃除ガール・e38987)が愛用のバンダナを三角巾のようにきりりと締める。
「ガラケーねぇ……。こりゃまた懐かしいものが出てきたものだなぁ、今もまだ使ってる人はいるんだろうけど、携帯端末は新しい物がどんどん出るからねぇ」
 獅童・晴人(灰髪痩躯の陰険野郎・e41163)が持ち前のマイペースさで技術の進歩に思いを馳せた。
「ダモクレスって何にでも取り付くんだ……元に戻せないなら倒すしかないのかな。頑張ろうね、クゥ」
 リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)はサーヴァントのクゥを抱き上げ、落ち着かせるようになでなでしながらそう言う。
「ものを粗末にすると付喪神的なサムシングに呪われると聞いたことが蟻々。これは神とかじゃなくてダモクレスだけど」
 足元の蟻の行列をチェックしながら蟻塚・ヒアリ(蟻の一穴天下の破れ・e62515)はちょっとオカルトなことを言い出す。
「ジャパンでは長く使われた道具にはスピリットがインすると聞きマス。これがいわゆる『ナインティナイン・ゴッド』デスかネ!」
 オリビア・ローガン(加州柳生の伝承者・e43050)がぴょんぴょんしながら割とマニアックなジャパン知識を披露する。ナインティナインと言ったときのジャンプで豊満なバストが99の形にばるんと揺れた。
「ダンテさんの仰る通り、持ち主さんと家族やご友人、仕事仲間との交流を担ってきた携帯さんですから人を傷つけたくないって本当はそう思っている筈です、お止めしましょう」
 土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)はオリビアの話に頷いて、ダモクレスについて優しい解釈をしたようだ。
「ガラケー……? よくわからない……」
 けど、アヒルは可愛い、ダモクレスはそういうところがずるい、とだんだん見えてきた巨大な鳥を目の前にルエリラ・ルエラ(幸運エルフ・e41056)は思った。
 これが、鳥ガラケータイ。でかい!
『くえええええっ!』
 鳥ガラケータイはケルベロス達の姿を認めると、折りたたみクチバシをパカパカ言わせながらうるさく鳴いた!!
 戦闘が始まる!!

●パカパカバトルダック
「みなさん、頑張りましょうね……!」
 リュートニアが地面に描いた守護星が光り輝き前列に耐性を付与する。
 さらにサーヴァントのクゥがリュートニアに属性インストールで耐性を増してくれた。
「あひるさん結構愛嬌がありますね! けど油断はしませんよ! 雷神のご加護を!」
 岳がエレキブーストで自分の壊をアップして戦闘に備える。
『くええ! くえええええ!!』
 クチバシをパカパカさせながら鳥ガラケータイは鳴き声っぽい着メロをうるさく鳴らした。首を伸ばし、後列のルエリラに突っつき攻撃を繰り出す!
 ズシン!!
「ちわー、通りすがりのウィルスバスターズでーす」
 ディフェンダーのヒアリがすんでのところでその攻撃を引き受けた。足元の土がボコッと沈む。さらにチェンソー剣の刃をぎっちょんぎっちょんとうるさく鳴らし、先程チェックしてたアリの情報を武器にのせ影として具現化。強烈な力で鳥ガラケータイに斬りつける! その姿、まるで大顎をもつアギトアリの如し!!
『グワァ!!』
「蟻たちの住む公園を暴れて破壊するのは、蟻かナシかで言ったらナシ」
「ヒアリ、ありがたい。蟻? がたい? ……まあいい」
 庇われたルエリラもヒアリの独特の言語センスについつられながら理力を込めた蹴りをオーラに替え、応戦する。
「いやあ久しぶりに見たよあのパカパカするタイプ……とは言えなかなか苛烈だねぇ。こちらもできるだけ底上げしたほうがよさそうだ」
 晴人が前列の背後でカラフルな爆発を起こし、士気を高めた。パイパーこと夜明けの口笛吹きがポルターガイストであちこちから石つぶてを鳥ガラケータイに浴びせかけ足止めする。
「ケータイ電話はマナーを守って使うデス! 人のグラビティチェインを使うのはマナー違反デスヨ!! DEUS- EXでもKAIJUでもナインティナインゴッズアッヒルでもブッタ斬ってやるデース!!」
 オリビアの背後に巨大なチェインソーアームが現れ、鳥ガラケータイをメタメタに切り刻む!!
『ぐえっ! ぐえっ!!』
「おれの武器はスマホだ!! ガラケーには負けられねえ!! うおおおおおおおおお!!!!! 物理で殴る!」
 まひるが改造スマートフォンの角で鳥ガラケータイを物理で殴る!! すごいちからだ!
 トモエのばらまいた幻影の財宝のピカピカさに、光るものに反応する鳥の習性か惑わされる鳥ガラケータイ!
「《汚染が検出されました、クリーニングプロセスを開始します》……あわあわで綺麗になーれっ!」
 シララが不思議なスプレーボトルから泡を発射すると、鳥ガラケータイの水かき状の足パーツがつるつると滑り、足止めされた。バケツに入ったままのバケットくんもボクスタックルで援護した。
 戦いは始まったばかりだ!

●パカパカゲロゲロダック
「ヒアリさん、まだ大丈夫ですか? 大丈夫なら攻撃に行きます!」
「蟻かナシかで言ったら蟻、メディックもいるし」
「わかりました! では攻撃しますね!」
 リュートニアは先ほど傷ついたヒアリに確認をとりつつ、バスターフレイムで攻撃する。べらべらとした炎が鳥ガラケータイの表皮を焼く。クゥのボクスブレスもその炎を風で煽った。
「メディックの私と雷神の加護に任せてください!」
 岳のエレキブーストでヒアリの負った傷が癒えていく。
『ぐえっ、ごえっ、ぐわっぐわっ!』
 そんな岳の方に、鳥ガラケータイが吐き出した巨大な石が飛んでくるが、治療を受けていたヒアリがそのまま再び受けた。
「治したばかりなのに!」
「あれが石吐きか、石って言うにはでかくないかな。根がおおらかなんだな……大丈夫、自分で何とかできるよ岳、蟻がとう!」
「思ったより動きが機敏。少し動きづらくする。禁縄禁縛呪」
 ルエリラの放った御業が鳥ガラケータイを捕縛し、動きを鈍らした。
「Lucifer sam。その猫は、説明のできない『何か』なんだ」
 晴人の召喚したシャム猫はその視線を鳥ガラケータイに向ける。猫が視線を発するのか、はたまたその視線が猫なのか? 鳥ガラケータイは混乱した。さらにパイパーの金縛りがその動きを奪っていく。
 動きが鈍くなったところでオリビアがブラックスライムをけしかけたが、鳥ガラケータイが突然けたたましい鳴き声をあげ、驚いたのかそのままブラックスライムは軌道を逸らしてしまった。
「アララ……まあこういう時もあるネ!」
「今日はディフェンダー冥利に尽きるね。このまま引き付けるのも蟻々ってかんじかな。ほら、怒った怒った」
 ヒアリが天高く飛び上がり、虹をまといながら急降下蹴りで鳥ガラケータイを怒らせにかかる。
『ぐわっ! ぐわっ!!』
「怒ってんじゃねえええええええ!!!! ぬぅおりゃあああああああ!!!!」
 まひるがドスの効いた雄叫びとともに物理で殴る! 物理で殴る!! 物理で二回殴る!!
『ぐわ……バチッ』
 物理で殴っただけのように見えるのになぜか麻痺する鳥ガラケータイと麻痺したその足にかぶりつくトモエ。
「見たかスマホの機能ォ!!」
「さすが、さあ! ボクも汚染は消毒しちゃうよ!」
 シララがバスターフレイムで熱消毒する! 燃え上がる炎!!バケットくんのボクスブレスでもうもうと水蒸気が上がる!
 夜は雨になるかもしれない。

●パカパカバサバサ
「えい!」
 ローラーダッシュの摩擦を利用した炎を乗せた蹴りを放つリュートニア。炎がずいぶん乗ったようだ。クゥのブレスでさらに上乗せされる。
「あひるさん……誰にも手にとってもらえず、人と人を結びつける役割が全うできない……さぞお辛いでしょう。いままでつないだ絆を思い出して、ダモクレスの支配をどうか断ち切ってください!」
 岳が地面を激しく叩くと地脈を通じ光の衝撃波が放たれる。それは月長石の青白い輝きを帯びて、「純粋な愛」の概念が鳥ガラケータイを翻弄した。
『くええ、くえええ……くえーっ!!』
 ふらふらと首をふる鳥ガラケータイは、そのまま大きな翼をばさりと広げた!
『くえーっ!!!!』
 バサバサと翼を振ると、パカパカと開閉するクチバシから火花が飛び、羽毛に引火、後列に降り注いだ!!
 リュートニア、クゥ、ヒアリのディフェンダーたちが後列をかばったが、一人ルエリラがかばいきれず、炎を浴びた。
「熱い……! 列攻撃、やっかい」
 自らも炎を浴びながら、ルエリラは前列のディフェンダー二人と一匹に癒しの花びらのオーラを降らせ、すぐさま斬撃と炎を回復する。
「あひるくん、少し頭を冷やそうか」
 晴人が達人の一撃を繰り出したが、まだトドメには早いようだ。続けてパイパーが飛び散った氷塊をポルターガイストで礫にして叩きつけた。
「今度は外さないデース!」
『グエーッ!』
 オリビアが再び召喚剣での重厚な攻撃をお見舞いする。ガラケークチバシにヒビが入る音がした。
「ボロくなってきた。また怒りを蟻ったけのっけてあげようね」
 ヒアリのファナティックレインボウが唸る。
「うおおおおおおおぜってえ負けねえええええええ!! 自分でも攻撃しやがれえええええ!!」
『くえー?』
 まひるが高速スワイプで改造スマートフォンを操作し、なんやかんやの洗脳を施す!! ダメージを受けるともに鳥ガラケータイの液晶にぐるぐるとした渦巻きが映った。トモエはエクトプラズムでえいえいと攻撃している。
「そろそろお片づけさせておくれ!」
『クワーッ』
 シララは鳥ガラケータイの膝(?)裏部分を如意直突きでドンと突いた。鳥ガラケータイはがくんとバランスを崩す。バケットくんの水のブレスで飛び散った泡が綺麗に流される。手際の良いお掃除だ。
 決着は目の前!

●もうパカパカしない
 攻防戦はまだ少し続いた。鳥ガラケータイのクチバシはもうボロボロにヒビが入り、元気がない。
「神様なら、もうお空に帰るお時間デース!! また次のサムシングに宿るといいデース!!」
『くえええええええええ!!!!』
 オリビアのチェインソーアームがパカパカ部分を逆パカに破壊し、鳥ガラケータイは爆発四散した!!
 ボロボロのストラップがちぎれ飛んで行くのが見えた。戦いは終わったのだ。

●ゴミは拾って片付けましょう。
「クゥ、お疲れ様。ありがとうね。ヒールと後片付けしよう」
「私もお手伝いします、あひるさん、倒すことでしか救えなくてごめんなさい……」
「片付けが終わったら黙祷してあげようね」
 リュートニアと岳が、後片付けを申し出た。しょんぼりした岳に晴人が優しく声がけする。みんなで片付けをしながらいろいろと話す。
「ガラケーくんは一人になっちゃって驚いたのかな。ボクは一人ぼっちでもお掃除するけどなあ」
「まひる、ガラケーって、結局どういうもの……よく知らない、教えて欲しい」
「スマホもガラケーも本質は変わらねえ、生まれた時代が違うってだけだ。どっちがいいか悪いかってことはねえ。悪いのはこんなところに捨てた奴だな」
 斜め上の想像をするシララを見て、ルエリラは戦っている間にも気になっていたことをまひるに尋ねるが結局よくわからなかった。
 瓦礫の中に、ボロボロのガラケーが落ちているのをオリビアが見つけ、アヒルのストラップを自分のスマホにつけてみる。しかし。
「ドーデス? 似合いますかネ? あ、ああ。オーウ……」
 ストラップは次の瞬間粉々になってしまった。
「こういうの届ける先はケータイショップだっけ、リサイクルショップだっけ。まあ、蟻がとうくらいは言ってもらえるかもしれないし」
 ヒアリの提案で、ケルベロス達は壊れたガラケーをしかるべきお店に届けることにした。モノにだって命が宿っているのだから、大事にしないといけないのだ。

作者:星野ユキヒロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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