マリステラの誕生日~幸せ結ぶ紗砂の道

作者:朱乃天

「天使の散歩道って、知っていますか?」
 ヘリポートの片隅で、マリステラ・セレーネ(蒼星のヴァルキュリア・en0180) がケルベロスの仲間達と会話をしていた時にふと聞いた。
 一日の間に二回だけ、潮が引いた時のみ、海から姿を見せる道。
 それは小豆島にある、島と島とを結ぶ砂州の道――『エンジェルロード』と呼ばれる場所である。
 天使が作ったとも言い伝えられているこの道に、マリステラは興味が沸いたようであり。
 もし良かったら、一緒に行ってみましょう――と、皆に誘いの言葉を掛けるのだった。
 潮が引くのは朝と夜とのそれぞれ二回で、朝は海の色が眩しいくらいに青く輝いていて。
 また夜は、道が綺麗にライトアップされ、空は満天の星を眺めることができるだろう。
 数多の星に照らされて、光の道を歩いてみたら、きっと素敵な光景だろうと、マリステラは目を細めながら思いを廻らせる。
 未だ見ぬ景色を想像しながら胸ときめかせ、微笑み浮かべて告げた日は――6月20日。
 その日は彼女の15歳の誕生日であった。

 潮が引き、海の中から島と島とを繋ぐ一つの道が現れる。
 それは天使が舞い降りて、幸せを運び届ける紗砂の道。
 周りを見渡せば、どこまでも果てしなく広がる空と海。
 青い世界の中に浮かぶ島に通じるこの道は、まさに自然が作った幻想的な風景で。
 しかし時間が経つにつれ、潮が満ちると海に消え、そして日が沈んで夜の帳が下りる頃。
 海が引き、星の世界に誘うように再び道が伸び、天使の奇跡を目の当たりにする。
 もしもこの天使の道を、大切な人と手を繋いで渡ったら。天使が二人を祝福するように、願いを叶えてくれると云う。
 また、島の小高い丘の展望台にある鐘を、想いを込めて海に鳴り響かせたり。
 貝殻の絵馬に願いを書いて掲げれば、浜風が空に想いを運んでくれるだろう。

 天使に導かれた先に待っている、自分だけの物語に思いを馳せながら。
 ――このひと夏の日の想い出が、どうか幸せなものでありますように。


■リプレイ

●陽光射す散歩道
 この日が15歳の誕生日を迎えたマリステラ。
 その彼女を祝福しようと駆け付けたのは、旅団『カナートス・ガーデン』の面々だ。
「お誕生日おめでとう。素敵な一年になることを祈っているよ」
 ユノーが代表して祝辞を述べて、お祝いのプレゼントを手渡した。
「わあ……ありがとうございます。それに贈り物まで頂けて、とっても嬉しいです♪」
 彼女に手渡された贈り物、それは青薔薇のプリザーブドフラワーだ。
 花言葉は『奇跡』や『神の祝福』、13本の青薔薇には『永遠の友情』といった意味が込められている。
「未来の祝福と、末永い友情を願ってね。喜んでもらえたなら嬉しいよ」
 ウィリアムが薔薇に捧げた想いを笑顔で語り、白く輝く歯を覗かせる。
「皆で一生懸命考えたんよ。それにしても……ユノーは本当にマリステラさん大好きなぁ」
 ほこりがクスリと笑うと、ユノーは困ったように俯いて。その様子を微笑ましく眺める友人達がそこにいた。
「ええと……良かったら、皆で手を繋いで歩いて行かないか」
 大切な人と手を繋いで渡ったら、願いが叶えられると云う――エンジェルロードに伝わる言い伝え。
「みんな大切な人だから、のあのお願いも叶うかな? こーやって、思い出たくさん作りたいなーって♪」
 旅団の仲間と遊べることが嬉しくて。のあがにっこり笑顔を浮かべ、一緒に繋いだ手と手に願いを込める。
「トンボロ現象か。実際にこの目で見ると感動的だな」
 潮が引いた時のみ、海から姿を見せるこの道に、隆也も思わず目を細め。周りの海を眺めれば、青く輝く海原が、空の先まで続いているようで。
「……遠くまで景色が見えて、とってもきれいですねっ」
 乃愛も見渡す限りの青が広がる景色に見惚れつつ、足元にかかる小さな波に視線を移し、浅瀬だけでも遊んでみたいと呼び掛ける。
「うん! のあも海入るー♪」
「そうだな、いい機会だ。楽しもう」
 乃愛の誘いに、のあと隆也も同意して。他の面々も、それぞれ足だけ浸かって海の気分を満喫していった。
「海もたのしそーだけど……やっぱり、描きたくなってきちゃったNE☆」
 天才美少女神絵師の卍ちゃんこと、乙女の心に沸き立つインスピレーション。いつの間にやら用意していた白いキャンバスに、乙女は鮮やかな筆捌きで水彩画を描き上げていく。
「冷た……でも、気持ちいい……。そうだ、皆さんで記念写真を撮りませんか?」
 靴を脱ぎ、浅瀬に足を浸して堪能していたレミリアが、思いついたように提案をする。
「写真? 撮るーーっ。ウミネコは、いないかな……?」
「ウミネコ? 海にも猫さんがいるんですか……?」
 ほこりと乃愛のそんな会話も微笑ましくて。レミリアは今日という日を忘れぬよう、そしてまた皆と一緒に出掛けることができたらと、心の中で願うのだった。

 朝日が昇る空見上げ、メリルディが心に抱く想いはただ一つ。
 彼女の隣にいる彼と、漆とずっと一緒にいられたら。
 楽しいことだけではない人生も、彼とだったら笑い合えると思うから。
「……漆は、何をお願いしたい?」
 彼女の問い掛けに、今度は漆がその返事を口にする。
「……家内安全ですかね。俺はずっとリルの側に居ますから」
 彼の言葉に、改めて家族になったのだと実感し。二人は互いの手を取り合い、幸せの道を歩むのだった。

 手を繋ぎたいと鬼人の申し出に。もちろんいいよと、笑顔で手を差し出すヴィヴィアン。
 手と手が触れ合い、天使の道を渡り歩いている途中。ヴィヴィアンは、朝日を浴びて輝く海を見て、まるで天使が祝福しているみたいと喜び燥ぐ。
 鬼人はそんな彼女につい見惚れ、振り向く少女と目が合った時。思わず赤面してしまい、昂る心は治まらず。話す言葉もたどたどしくなって、後で鐘を鳴らしに行こうと、声を絞り出すのが精一杯だ。
 それでも少女は嬉しそうに頷いて。そんな彼女に、鬼人は天使の姿を重ね見た。

 朝日に光る砂辺の貝殻は、まるで地上に落ちた星のようでいて。
 あかりと手を繋いで白砂の道を歩く陣内の、見つめる視線は遠い南の彼方を向いていた。
 脳裏に故郷の景色を思い出し、そんな自分を見ている少女に気が付いたのか。苦笑いを浮かべながら陣内は、口を開いて思い出話を語り出す。
「――聞いてほしいんだ。君に」
 泉のように湧き出る話を、あかりも興味を抱いて耳を傾けて。古いアルバムの中の景色が色鮮やかに、目の前で映し出されるような気持ちにさえなって。
「――あなたを形作る、すべてのもの。そういうものが、見れたら良いな」
 それとデートスポットは、僕がオトナになってから。その頃にはきっと、とびきり綺麗な乙女になっているからと、少女は無邪気な笑みを零すのだった。

 普段は海に沈んでいる道が、地上に現れ、歩いて渡れるなんて何だか不思議だと。
 そのうち天使様にも合えるかも、そんな風に息吹が期待しながら海を見回せば。
 その天使だったら隣にいますよと、ベルノルトが優しく笑みを携えて、手を取る少女に聴こえるように囁いた。
 息吹は彼の言葉に赤らむ顔を、誤魔化すように頬膨らませ。でもこうして一緒にいられることがやっぱり嬉しくて。心弾ませ繋いだ手を揺らし、青一面に染まった景色を眺め、周りは全部彼の色だと言いながら、ベルノルトの青い瞳を覗き込む。
 それなら漣に輝く白い砂浜は、正に彼女の色であり。二人はお似合いなのだと互いに笑みを深め合う。
 この後展望台の鐘を鳴らしに行けば、幸せの音が二人の心に響き渡るだろう。

 差し伸べられた手に手を重ね、白砂の道を歩いて進む二人の男女。
 茫洋とした海原を、ティアンがぐるりと首を廻らせて。視線の先の青空に、背の高い彼の姿が映り込む。
 レスターは視線に気付かぬ振りをして。歩幅を合わせるように歩みを緩め、触れる少女の白い掌に、血の通った温もり感じていると。何を願うと訊ねる声が耳朶に響く。
 大した事じゃないと呟いた後、こういうのは『いい人』相手の方がいいだろうと言葉を返すレスターに。ティアンは小首を傾げ、生まれた時からいるとそれだけ答えを述べるのみ。
『――地獄を抱えたまま歩む未来、どんな罰を受けても越えていくから』と。
 少女の決意に、レスターは声には乗せず静かに願う。
『――彼女の道が、今日のようにあかるくあるように』

 二人が出逢った春から季節は巡り、初めて共に過ごす夏。
 絃の隣には、チェックのオレンジワンピースを着た月夜がそこにいて。その華やかな装いに、絃は眦細めて愛おしそうに彼女の手を握る。
 柔らかな砂を踏み締めながら、転ばぬように指を絡めて廻る青い世界。
 空は玻璃の如くに澄み渡り、湛う水面は光を鏤め宝石のように輝いて。
 風と波音と、二人の声が奏でるコンチェルト。
 この道を渡って、世界の涯まで往けたら良いのに、と。
 天使の道を歩いて辿り着いた先、鐘の在処に二人は顔を見合わせ、微笑んで。紐を手に、想いを海に向かって響かせる。
『――どうか永久に、あなたの傍に』
 遥けし世界に届ける音色に、月夜は身を委ねるように想いを乗せる。
『――この先も変わらぬ愛を、共に奏でよう』

●天地に星燈る路
 まるで物語のような幻想的な光景を、恋人二人が手を繋ぎ、歩幅を合わせて渡り行く。
 進んだ先は道半ば、アイヴォリーはふと立ち止まり、星と一緒に隣の彼を仰ぎ見る。
 もしもこのまま潮満ちて、海の底へと沈んだら。それが最も美しい結末かも知れないと、冗談めかして笑ったものの。少女のショコラの双眸は、涙に濡れて、零れる雫が頬を伝う。
 流れる雫は空の星より美しく。夜は黙して瞑目し、気が付けば、無意識の内に彼女の身体を抱き寄せていた。
 肌に伝わる彼の温もりと、響く胸の鼓動の音は、少女の生の旅への道標。
 夜もまた、命の限り、未だ見ぬ数多の冒険譚を、二人の物語の旅をしてみたい――微笑みながらそう告げて、彼女の眦に、浮かぶ涙に口付けた。

 眼下を飾る人工的な光だけでなく、煌めく夜空の星にも目を奪われて。
 忙しなく視線を動かす眠堂に対し、フェンリルは意気揚々と、学んだばかりの星座知識を披露する。
 南の空を指差して、星を結んで線を描き、おそらくあれが乙女座だろうと語る自信は曖昧で。もし違っても、それはそれだと暢気に笑う。
 そんな彼女の気ままさに、一人では気にも留めない輝きだからと、眠堂も楽観的に返して苦笑する。
 そしてこの満天の星を瞼に焼き付け、心に深く刻み込み、最後は貝殻の絵馬にお願いを。
『ユーシスと、楽しい日々が続きますように』
 そう記して願掛けする青年に、フェンリルは隠すようにこっそり絵馬を掛けるのだった。
 そこに名前は書かないけれど――『また遊べますように』と。

 普段の女装姿から一変し、男性用の衣装で決めたエーゼット。
 お手をどうぞと微笑みながら手を差し出せば。いつもと違った男らしさを見せる彼の言動に、勇華は照れ臭そうに笑ってその手を繋ぐ。
 ライトアップが照らす白砂の道を、展望台に昇って振り返り。幸せ奏でる鐘を前にして、二人は星に届けるように音色を鳴らす。
 彼等が願う想いは唯一つ――『いつまでも幸せに過ごせますように』
 勇華の白いワンピースが夜風に靡く。
 少女は風に吹かれるように彼に寄り添い腕を抱き。触れ合う肌の温もりに、二人は幸せ感じて星を眺めるのであった。

 寄せては返す波の音に、耳を澄まして眺める星は格別で。
 アラドファルは自分が一体何処に居るかと、ふと隣に視線を遣れば、見知った少女の姿がそこにあり。
 満天の星を見上げる春乃の隣には、彼女だけの一番星が輝いていて。
 握ったその手の温もりは、この夜だけの特別で。少女は自然と口元緩んで笑みを零す。
 彼女は何を願うと気にする素振りの青年に、春乃は唇に人差し指を添え、今は内緒と恥ずかしそうに頬染めて。
 彼の手を引き小高い丘の展望台へ。小さく鳴らした鐘の音に、聞き入るアラドファルの耳には、愛しい少女の囁きが。
 そっと背伸びをし、耳許で紡いだ彼女の想い。
『――君と、ふたりで生きたいの』
 その願いはきっと叶うと、青年は星空眺めて微笑んだ。

 星空映す海に架かる、幻想的な砂州の道。
 レッドレークとクローネは、天使に導かれるように手を繋ぎ、夜の散歩を楽しんだ。
 いつか凍った湖の上を歩いた時みたいだと、過去の思いを廻らせながら星を観て。
 空だけでなく、潮風に揺れる水面も星明かりに照らされて。
 宇宙を散歩するのはこんな気分かな、なんて思いに浸るクローネだったが。気が付くと、隣の彼を見つめる自分がそこにいた。
 レッドレークは彼女の視線を感じて振り返り、少女の月のような金の瞳のその奥に、夜の幻想的な海の景色を重ね見る。
 ――これからも、好きな人と一緒に『好き』をたくさん増やしていけますように。
 少女は心の中でそう願いつつ、今度は幸せの鐘を一緒に鳴らそうと、彼の手を引き展望台に誘うのだった。

 空と海とを隔てる砂州の道。それは恰も縁を結ぶ糸みたいだと。
 天使が叶える願い事、お主は何を願うとカノンが問えば。今日のような日を、共に楽しむことが願いだと。うつほは言葉を選んで告げながら、視線は彼の方へと向けられて。
 それを聞いたカノンは顔を綻ばせ、ならば叶えてみせようと、彼女に手渡したのは貝殻の絵馬だった。
 うつほは仄かに頬を染めながら、それならそなたの願いを、ここに書こうと揶揄い気味に話題を逸らしてみるのだが。
 彼女のそうした言動も、他の人には見せないものだと考えたなら。カノンは妙に嬉しくなって、畏まったように手を差し出した。
「――お手をどうぞ。我が姫君」
 恭しく誘う彼の振る舞いに、うつほは慎み深く膝を折り、ふわりと笑って手を添えた。
「ええ、喜んで――」

 降り注ぐような星空の下、白く輝く砂浜を、手を取り歩く二人の夫婦。
 妻のチェレスタは、繋いだ指先絡ませて。感じる彼の温もりに、愛しい想いが言葉にせずとも伝わって。
「――『あの日』もこうして二人で寄り添って、星を眺めていましたね」
 天と地上の星が照らし出す、光の海に包まれながら、愛を誓ったその夜の日を。
 リューディガーも勿論覚えていると、繋いだ手を離さないまま身を寄せ合い、愛する人が傍にいる、その喜びを心の中で噛み締める。
 空に遍く星達は、悠久の時の中、命を見守り続ける永遠なる光。
 星と天使の祝福を。二人は願う想いを鐘に乗せ、天使に届けるように夜風に幸せの音を響かせる。
 今日の幸せが、その先の未来へ続きますように――。

●祝福は星の海に満ち
 満天の星も綺麗だが、ロゼにとってはアレクセイの翼と角が一番素敵な星空で。
 夜色の翼をはためかせる青年を、戯れるように抱き締めて。
 貴女だけの星になりましょうと彼が囁けば、私の薔薇は貴方のものと呟き返すロゼ。
 最愛の彼女と一緒に天使の道を歩めることが、アレクセイにはこの上なく嬉しくて。
 しかし彼には心に決めたことがあり、抱きつく彼女の耳元で、静かに告げた一言は――。
「貴女の元へ、婿にいくのはやめたよ」
 その代わり、ロゼをお嫁にもらおうと。エイアロージェとして自由に生きてほしいから。
 そう言って、手を差し出す彼に、少女は瞳を潤ませながら、言葉を紡ぐ。
「――どうかわたしを攫って」
 二人が紡ぐ幸せの糸。この日の星の煌めきは、彼等の未来を祝福するように――。

 俺に見惚れて足を滑らせるなよと、ゼフトが冗談交じりに気遣えば。
 エアーデは、大丈夫、と言った傍から躓いて。照れ笑いを浮かべながら彼の顔を見る。
 二人は貝殻の絵馬に願掛けをして、星空照らす天使の道を、仰ぎ見ながらゆっくり歩く。
 まるで天の川を渡っているような、ロマンチックな気分にさせられて。
 ゼフトは繋いだその手を引き寄せて、彼女の身体を抱き締める。
「俺の許を離れないでくれよ?」
 想いを告げる彼の言葉にエアーデは、微笑みながら顔を近付けて。
「――どんな時だって、貴方の側にいるわ」
 星に捧げるように誓いの言葉を添えながら、彼の頬へと口付けを――。

 二人の少女が幸せを噛み締めるように手を繋ぎ、展望台への道を歩み行く。
 絵馬を手に、アンゼリカが書いた願い事。『天紅がいつまでも幸せでいてほしい――』
 片や天紅が、貝殻の絵馬に込めた想いは『ずっとアンゼリカに幸せでいてほしい――』
 ふと二人の目が合って、願い事を言い合おうかと提案するアンゼリカ。
 それに対して天紅は、恥ずかしそうにはにかんで。視線を逸らすように空に向け、この景色を空から見たいと、取り繕うように誤魔化した。
 すると白い羽持つ少女は、愛しい姫たる彼女を抱き上げて、翼を広げて空へと舞う。
 光輝く道を眼下に眺めつつ、互いに愛の言葉を囁き合って。
 想いを重ねるように、唇合わせ――満天の星の下、二人は至上の幸福感に包まれた。

 曄にとってはこの日が初デート。
 肩が開けた白いワンピースを身に纏い、大切な彼と並んで歩く足取りは、緊張しているせいかぎこちなく。
 潮が満ち始め、爪先に触れる波を感じた那智は、足を濡らさぬようにと彼女を両手で抱き上げる。そうした彼の行動に、曄は戸惑い顔を赤らめて。腕の中で甘く身動ぐ彼女の熱に、那智は幸せ噛み締めながら、顔を近付けて――。
「……あきら」
 潮の満ち引きのように絶え間なく、何度も囁く彼女の名。曄は瞳を潤ませて、彼の首の後ろに手を回す。
「……俺のことを、選んでくれてありがとう」
 愛を語らう唇を、塞ぐように重なる那智の顔。
 淡くて優しい甘い口付けに、伝わる想いを零さぬよう。
 伸ばしたその手は離すことなく、いつまでも――。

 空と海とに星光煌めく景色に息を呑み。光が導く天使の道を、フィストと御幸は手を取り合って歩いて渡る。
 フィストが込める願いは、決意にも似て。生命を守護する一族の、使命を全うする為に。ただ誰かの為に戦うだけと、自分の幸せは、まだ当分先と決め込んで。
 そんな彼女の頑張りを、御幸は知っているから支えてあげたいと。二人で一緒に幸せに、思い出を作っていけるようにと告げた一言は。
「――愛してる」
 島の岩場を影にして、彼女にそっと口付けを――。
 触れた互いの唇が、離れようとするその間際。御幸の耳元で、フィストが呟く声がする。
「……“ナイア”」
 それが彼女の真の名と。教える意味は、二人にとっての契の証。
 誓いを交わし、二人は想いを確かめ合うように、互いの身体を抱き締めた。

 マリステラの誕生日を祝福する二人の男性。
 ここが幸せ届ける天使の道なら、彼女こそがその天使だと。シズネが明るく笑ってお祝いすると。ラウルは今宵の星々をと添えて、星色の金平糖に満ちた硝子壜を差し出した。
 二人は展望台で貝殻の絵馬に願いを込めて書き、海の香薫る貝殻を、月に翳して託す想い――星の数程の幸せが、かの少女に降り注がれますように。
 この願いが天に届くよう、手を繋いで歩こうかとラウルが聞けば。シズネは勿論と、声に出すより先に手を取って。
 満ちる青の世界に、一筋伸びる砂の路。揺蕩う煌きに、眸を游がせながら、ラウルが隣の彼に微笑んで。
 星の海に迷って溺れぬよう、この手を離さないで――。
 そう囁く彼に、シズネは子供のような笑み浮かべ。その時は引っ張り上げてやるからと、繋いだその手はずっとそのままで――。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月26日
難度:易しい
参加:46人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 1
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