荒廃した世界を飛ぶ鋼鉄の翼たち

作者:河流まお


 とあるマンションの一室にて、テレビモニターを囲みながら一心不乱にゲームに興じる人々の姿がある。
「ついに始まるぜ……教祖様とのバトルだ」
 画面に映し出されているのは荒廃した都市の姿。
 立ち並ぶ墓標の様な無人ビル群の間を、鋼鉄のロボットがブースターを吹かしながら飛んでゆく。
「今回こそは、勝つ!」
 鼻息を荒くしながら気合を入れる熟練ウォーリアーのおっさん。
 機動性を重視した軽装二脚の機体を駆り、この都市のどこかに潜む敵対プレイヤー……すなわちこの教団の教祖であるビルシャナの機体を探してゆくのだが――。
「どこだ……どこにいる?」
 彼がほんの一瞬だけ、広域レーダーに視線を落とした瞬間。
 まるでその隙を伺っていたかのように、左手にあったビル群の隙間から光が瞬いた。
「何ィ!!?」
 ピーッ! ピーッ! ピーッ!
 と、特徴的な発射音で敵の銃から容赦のない光線が浴びせかけられる。
「うッ、ぐわあああッ!!」
 ボボボボ、と瞬く間に炎上したおっさんの機体は空中に弧を描きながら落下し、地面に触れて大爆発。
 ボガーン! と爆華の花が咲く。
 まるで赤子の手を捻るかのような呆気ない勝利。
 このおっさんとて、ネットではランカーの常連として名の知られたウォーリアーだというのに――。
「教祖様の勝利だぁあああ!」
 両手を振りかざしながらギャラリーの信者達が叫ぶと、隣の部屋にいたビルシャナが扉をバーンッと開け放って姿を現す。
「至高のゲームとは何だ!?」
「対戦ロボゲー! 対戦ロボゲー!」
 己の機体のデータを保存したメモリーを掲げながら、信者達は口々にそう応じるのだった。


 とまあ、そんな感じの予知を語り終えたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)がケルベロス達に向き直る。
「というわけで、皆さんにはこの『対戦型ロボットゲームこそ至高の遊戯である!』という教義を唱えるビルシャナの討伐を依頼したいのです」
 鎌倉奪還戦の際にビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で人間がビルシャナ化してしまう事件が多発している。今回の事例もその一つである。
 そして、ビルシャナ化した人間は周囲の人間に自分の考えを布教して、配下を増やそうと目論んでいるのだ!
「今はまだ信者のなり掛けが10人集まっているだけですが、彼等をこのままほうっておくとそのまま洗脳が完了しビルシャナの配下になってしまいます」
 もしそうなってしまえば、戦闘中に身を挺してでも教祖を守ろうとしてくることになるだろう。
「信者化した一般市民は戦闘能力は弱いものの、攻撃すると簡単に命を落としてしまうある意味で厄介な相手になってしまいます」
 今回セリカから提示された作戦の成功条件はあくまでビルシャナの撃破のみであり、一般市民の生死はこれには含まれていないのだが――。
「ですが、可能であれば彼等も助けてあげてください」
 皆さんならきっと出来ます! と言わんばかりのガッツポーズでセリカ。
「そうはいってもなぁ……」
 頭を抱えるケルベロスの面々。
 セリカの話では、このマンションに集まっているのはビルシャナの教義に肯定的な人々であり「危険だから逃げろ!」のような説得では効果が無いとのことである。
 つまり信者の説得を試みるのであれば、ビルシャナの教義を覆すようなパンチの利いたインパクトが必要になるだろう。
「そういえば、このビルシャナの教義では教祖自身こそが『最強にして無敗の伝説の傭兵』であり、特別に神聖視している存在のようですね」
 つまり、それを覆すことが出来れば……。
 予知によれば事件が起こるのは一週間後。
 各自、決戦に向けて己の機体をカスタマイズしてみるのもいいかもしれない。
「では皆さん、どうか宜しくお願いします」
 そう説明を結び、セリカはケルベロス達に深く一礼するのだった。


参加者
ノル・キサラギ(銀花・e01639)
ラティクス・クレスト(槍牙・e02204)
二藤・樹(不動の仕事人・e03613)
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856)
伊庭・晶(ボーイズハート・e19079)
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)
禍芋・野鳩(紛い物ハート・e36800)

■リプレイ

●1、戦闘モード起動
 荒廃した世界での覇権を賭けて相争う2つの巨大企業。
 その企業間戦争の請負人として、巨額を投じて雇われたウォーリアー達。
「――これは世界の安定と平和に繋がる重要な任務。さあ、始めましょうか」
 アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)の瞳に決意の光が宿る。
 投下と同時に背部のブースターを吹かし、無人都市の空を飛ぶ濃紺色の軽装逆関節型機体『ミーティア』。
 腕にアサルトライフルとレーザーライフル。肩にはパルスキャノンを装備した高機動射撃スタイルの機体だ。
「……この世界の空を飛ぶのは鋼鉄の翼のみ、か」
 霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)が溜息と共に呟く。
 長く続く戦争の影響で、この世界の空は汚染物質に埋め尽くされている。
「それでもなお見た目だけは変わらずに、空が青く美しいままなのは、なんとも皮肉な話ですね」
 操るのは鋭角的なフォルムを持つ暗緑色の軽装二脚型の『ラプター』。
 右腕に散弾銃、左腕に重散弾銃を持ち、背部には追尾性能を重視したミサイルを積んだ機体である。
「敵は伝説の傭兵『アルカイック』が率いる『チーム・ガンダーラ』か。
 ネット上で非合法に行われている『賭け』では圧倒的にガンダーラ側が有利とされているようだぜ」
 オッズ表をモニターの外へと消し去りながらラティクス・クレスト(槍牙・e02204)が苦笑する。
 彼が搭乗するのは軽装二脚の機体『グングニル』。
 選んだ武装は広域レーダーとスナイパーライフル二丁。戦場での情報収集と、援護射撃を意識した構成か。
「ったく、敵企業のヤツラら一体どんだけの金を積んだんだか」
 伊庭・晶(ボーイズハート・e19079)が敵のメンバー表を再確認し愚痴めいた呟きを放つ。
「揃いもそろって、ランキングの常連ばかりじゃねーかよッ!」
 深青色の重装二脚型『魁皇弐式』が大地に降り立つと、その衝撃でアスファルトが砕け割れる。
 右腕を換装して取り付けた大型パイルバンカーと左腕の特殊合金のシールドが特徴の機体。装甲の厚さを重視した重突撃機だ。
「まぁ、最悪の敵ではあるけど、こちらの想定通りともいえるね」
 廃墟群を駆け抜けてゆくのは強化人間01639号ことノル・キサラギ(銀花・e01639)。
「みんな、敵を発見したらまず機体を確認。個別対策を思い出して、決して焦らずにね」
 剣のエンブレムを輝かせる銀色の中装二脚型機体『レーヴァテイン』は、ライフルとレーザーブレード、肩に多弾頭ミサイルを搭載。このゲームにおいて正統派といえる機体構成だ。
「ハッ、最強無敗の傭兵ね。面白いじゃないの! この一週間、皆でさんざん特訓してきたんスよ! ブチのめしてやりまさァ!!」
 立ち並ぶビルの壁面を蹴りこみ、三角飛びでレーヴァテインに追走してゆく黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856)。
 中装四脚型のその機体は『マシーネン・ネコキャット』。
 メイン武装は特殊鋼材をも断ち切る自慢のクロー。追加ブースターで機動力の底上げも図っている。
「夢中なのはいいが、程々にな」
 廃墟に乗り捨てられている乗用車をキャタピラーで次々と粉砕しながら、ゆっくりと進撃を開始する禍芋・野鳩(紛い物ハート・e36800)。重装タンク型の機体名は『ノーハート』だ。
「で、出た……。ガチタンだ」
 ギャラリーの信者がその機体構成を見て思わず呟く。
 その武装でやはり目を惹くのは雄々しき艦載用のキャノン砲と巨大なハンドミサイルか。
「あれなの? ビルシャナの間でこのゲーム流行ってるの?」
 先々月に戦艦竜の背の上で相対したゲームビルシャナのことを思い出しながら呟く二藤・樹(不動の仕事人・e03613)
 根無し草のように空中を漂い続ける中装二脚型の機体は『モラトリアム』。
 武装は射程を重視した小型ミサイルと、極限まで軽量化を施した最新鋭のハンドガン。
 両肩には航空機を思わせるホバーブーストを搭載した無限浮遊機である。
 さて、そろそろ足の早い軽装機たちがマップ中央に到達する。恐らくそこが最前線となるはず。
 だが、その時――。
「おっ?」
 誰よりも高い位置から戦場を俯瞰していた樹は、都市の一角から光が瞬くのを見た。

●2
 超遠距離から放たれたビルシャナの光線は、それでも正確にモラトリアムを捉える。
「ってオイ。どう見てもロックオン範囲超えてるだろそれ。手動エイムかよ」
 咄嗟に身を翻し、コックピットへの直撃までは避けた樹。
「敵ランカーウォーリアーを確認。3時の方向だよ。たぶんこいつがビルシャナだ」
 高度を上げながらすぐさま反撃を撃ち込む樹。パシュと音を吐き、白い尾を引いて敵を追尾してゆくミサイル。
「了解。信者達の機体はオレのレーダーで確認した」
 ラティクスは仲間達に大まかな位置を伝達。
「まずは分断だ。頼んだぜ、皆」
「「「おう!」」」
 ラティクスの言葉に頷きを返し、ミサイルを一斉に発射させるケルベロス達。
 青空に幾筋もの白線が引かれてゆく。
「OK。敵がいい感じにバラけたよ」
「んじゃ行くかモラトリアム。ビルシャナは見失っていないよな?」
「モチのロン」
 強敵ビルシャナの足止めをするために動く樹とラティクス。
「あいつか――」
 ビルの隙間に一瞬だけ見えた赤と黒の機体。
 敵は光線銃を機械補正のロックオン無しでも遠距離から当ててくる恐るべき腕前。
「だがこのスナイパーライフルなら……」
 敵の攻撃有効範囲外を維持すれば、こちらが一方的に攻撃することが可能である。
(まぁ理論上は、だけどな)
 言うのは簡単、行うのは至難。それはラティクスも理解している。
 だが、一人では困難なことでも二人なら――。
「まぁやるしかないっしょ。ポチッとな」
 敵を見失わないように追尾ミサイルを次々と吐き出してゆく樹。
 伝説の傭兵に2機で挑む樹とラティクス。
 この二人の戦いぶりがこの戦闘の行く末を左右することになるのは間違いないだろう。

●3
 戦いは硝煙の中で加速してゆく。
 ビル群の間を縫うように飛行しながら敵機を追うラプター。
「まずはその身を削らせて貰いますよ」
 両腕の散弾銃で交互に射撃。ばら撒く鉄弾は一発一発の威力は低いが、素早い相手にも当てやすいのが特徴だ。
「チッ、オレの機体とじゃ相性が悪いな……」
 軽装四脚を操る信者が舌打ちを一つ。
「マシーネン・ネコキャット。そちらの右方向に敵機が行きます。カウントにタイミングを合わせて下さい」
「おっ、了解っすよ!」
 敵をうまく仲間の位置まで誘導する和希。自機に瞬間火力がないならば、仲間に補ってもらえば良い話だ。
「3、2、1」
 タイミング通り、角を曲がってきた敵機に対し躍りかかる物九郎。
「さすが、いいトコの雇われさん達。イイ武器で固めてるじゃニャーですか。んでも――!」
 振り抜く爪が敵の頭部を一瞬の内に斬り飛ばす。
「使わせる隙なんか、与えねえっすよ!」
「んなッ!? ば、バカな……この俺がァア!」
 ノイズ交じりの断末魔を残しながら爆散する信者機。
「お見事です。さぁ、次行きましょうか」
 自機の長所、短所を踏まえて冷静適切に対処してゆく和希。

●4
 視界の左上の端に敵機の姿を捉えた野鳩。
 キャタピラーがアスファルトの地面を噛み、細やかな火花を散らす。
「そこだッ!」
 ロックオン時間を惜しむように、感覚をだけを頼りにしたノーロックの旋回射撃。
「う、ぐあぁああ!?」
 銅鑼を撃つような快音が響き、敵機の胴部がアルミ缶のようにひしゃげる。
 一瞬の内に大型弾に搭載された爆薬に火が付き、広範囲を焼き尽くす。
 紅蓮の中で敵機が沈むのを確認し、野鳩は小さく苦笑する。
「昔を思い出すな」
 だが、こんな感傷も、戦場で感じる昂揚感も――。
「これも地獄化した心がそう思わせているだけなのだろう」
 雑念を振り払うように、再進軍を開始してゆく野鳩。
「うーむ、カッコいいなぁ……」
 その背中を見ながら、最前線で共に防衛を担う晶が呟く。
 元々ロボット系が好きな晶にとって、完全フルアーマーな野鳩の姿はちょっと刺さるものがある。
「って、見とれてる場合じゃねーか」
 前線を、大盾を構えながらゆっくりと押し上げてゆく晶。
 このゲームの戦闘マップには抑えるべき有利な場所というものが存在する。見通しの利く高台や、咄嗟に逃げ込めるような場所といったものがそれに当たる。
「俺の機体じゃ高機動戦闘にはついていけねー……でも」
 ゆっくりと確実に前線を押し上げてゆくことこそが、このゲームの集団戦では一番重要なことなのだ。
「ち、こんなの相手にしてたら弾が切れるぜ……」
 晶の堅さに業を煮やしたのか、敵信者がブレードを抜き放って距離を詰めてくる。
 だがそれは――。
「こっちの望むところなんだよッ!」
 キュイイインと高音の駆動音を響かせ、オーバーブーストを炸裂させる晶。
 すれ違いざまにパイルバンカーを射出し、敵機体の胴体を文字通り串刺しにする。
「ぐ、がはぁ!」
 風穴を穿たれた敵機は一瞬だけショートする様子を見せたのち爆発炎上。
「よし、中央は抑えたぜ!」
 カションと鉄杭を再装填させながら晶は仲間達に通信を送る。

●5
 地上での戦いと同時に、上空では制空権を賭けた高速戦闘が行われていた。
 敵はスカートのようなホバー脚部を備えた中装の射撃型機体と、アンテナの様な頭部パーツを持つ軽装逆関節のミサイル型機体。
 対するは――。
「悪いがこっちも仕事なんでな。消えてもらおう……」
 お決まりのセリフと共に多弾頭ミサイルを発射させるノル。
 そしてミサイルの回避動作を取るホバー型に、ライフル銃で狙いを定める。
「ぐ、こいつ……!」
 教科書通り、それゆえに強烈。
 基本に忠実、だからこそ崩しがたい。
「だがな! そのやり方は俺達兄弟だって得意なんだよぉおお!」
 ホバー型がサインを送ると、アンテナが応じるように次々とミサイルを射出してゆく。 標的となったのはアリシスフェイルだ。
「――ッ」
 群がってくる無数のミサイルを振り切るために、機体の全性能でもって空中を舞い踊るアリシスフェイル。
「逃がすかよ!」
 追走しするようにホバー型がこの空中の円舞曲(ロンド)に加入。
 両腕のガトリングガンで連弾を奏でるホバー。ミサイルの回避動作中にあるアリシスフェイルには、これを全て躱しきることは不可能だ。
「ひっひ、後ろから女を撃つってのは最高だなァ」
 恍惚の表情を浮かべるホバー。
 だが――。
「ノル!」
 アリシスフェイルが叫ぶ。
 そして、アリシスフェイルが自分の方へと逃げてきた理由を、ノルはこの一瞬の内に理解した。
「成程、任せてくれ」
 それはまさに以心伝心。
 ノルはライフルを構え、彼女の背中を追っていたミサイル群を狙い撃ち、次々と誘爆させてゆく。
「――感謝します。ノル」
 追尾ミサイルから自由になったアリシスフェイルは機体を反転させてホバーと相対。
「空の底へようこそ。あなたには此処で果てて頂くわ。理由はお分かりよね?」
 優雅な仕草に苛烈な感情を隠しながら、敵機を舞踏会へと誘うアリシスフェイル。
 縦横無尽に空を駆ける高速戦闘は、まさにこのゲームの華。

●6
 やがて戦いも終盤に差し掛かってくる。
 この頃になると、さすがにケルベロス側も無傷とはいかない。
 機体の装甲の厚さ活かし、積極的に囮となっていた野鳩。
 度重なる銃弾を受けてそのキャタピラーが断裂し、走行不能状態に陥ってしまう。
「皆すまないが、あとを頼む」
 モノアイの瞳で仲間達の背中を見送る野鳩。
 そして、ビルシャナの相手をしていたラティクスと樹も――。
「……最後まで生き残ることがオレの仕事ではない」
 そも、この強敵を相手に、命を惜しんでいて勝てるはずなど無いのだ。
 誰かの犠牲が必要ならばと、この危険な足止め役を買って出た樹とラティクス。
「まぁ、傭兵なんて備品扱いされてナンボじゃない? 誰かの役に立ったのなら、それで御の字だよ」
 炎上を始めた機体の中で仲間達に最後の通信を送る樹。
 撃墜されたというのに相変わらずな相棒の言葉にラティクスは苦笑。
「きっちり仕事は果たした。あとはお前達の手で、あい、つ……を」
 ノイズの後にザー、と無情な音が響き、2機が通信不能となる。
「手間取らせやがって……。さて、残りは死に損ないが5機か」
 弾切れした光線銃を投げ捨て、パルス銃に切り替えながらビルシャナ。
 5対1の状況だというのに、まるで焦った様子はない。
「鳥のくせに……」
 高空から銃撃の雨を撃ち込むアリシスフェイル。
「大袈裟な伝説も、ここで終わりだよ」
 小ジャンプを駆使ししながらライフル弾を放つノル。
「まだだ…まだ戦える! ここが…ッ! この戦場が、僕達の魂の場所だ…ッ!」
 軋み、悲鳴を上げる機体を奮い立たせながら、敵の死角から散弾を放つ和希。
 だが、ビルシャナはその猛攻を、驚くべきことに距離を詰めながらで回避。
「遠距離型かと思っていたのに、こいつ!」
 急接近してきたビルシャナにパイルバンカーを撃ち込もうとする晶だが、ビルシャナはこれさえも紙一重で躱しきる。
 最高位ランカーの回避能力は予知能力に近いと言われていたが、まさか、これほどとは――。
 ポポポゥと放たれるパルス銃の連射が正確にケルベロス達を射抜く。
「くッ!」
「フッ……所詮は企業の犬どもか。
 ……まぁ、今からでも遅くはない。私に忠誠を誓うならば教団幹部として迎えてやろう」
 パルス連射に追い立てられながら、物九郎は歯を噛む。
「確かに俺たちゃその日暮らしの傭兵稼業……。
 でもな! 売ってやれないプライドくらいあるんスよ!」
 機体を強引に回頭させ、隠しておいた秘密兵器、尻尾のブレードウィップを放つ物九郎!
「何ッ!?」
 これは流石のビルシャナも予想外だったらしい。だが、その恐るべき反応速度で以て咄嗟に腕で胴体と首を護るビルシャナ。
 パルス銃を持つ右腕は切り飛ばしたものの、ビルシャナ未だに健在。
「貴様……!」
 即座に左腕のブレードに切り替えて、怒りのままにマシーネン・ネコキャットを切り刻むビルシャナ。
「どうしたんスか? 化け猫にでも化かされましたかよ?」
 切り札は使い切った。あと物九郎が出来ることといえば、憎まれ口を叩いて敵の注意を惹くことだけか。
 だが――。
「見事だ、物九郎殿」
 その声が響く。
 物九郎はただ逃げ回っていたわけでは無かったのだ。
 目指したその場所は、生き残った最後の仲間が待っている場所。
 走行不能に陥っていた野鳩がいる地点だ。
「これで、終わりだッ!」
「!?」
 大気を震わせる轟音と共に最後のキャノン砲が、見事ビルシャナを撃ち抜いた。

 信者を正気に戻し、ビルシャナを撃破したケルベロス達。のちにウォーリーアー達の間で長く語られることになる戦いは、こうして終わったのだった。

作者:河流まお 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 18/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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