魔竜王の遺産~護るべきもの

作者:遠藤にんし


 熊本市――。
 竜牙兵は、手にした剣で人々を貫く。
 上がる悲鳴、吹き上がる血。全身にそれらを浴びながらも、竜牙兵の侵攻は止まらない。
 黒い鎖が人々を捕らえ、力任せに断ち切る。
 ――悲鳴と血飛沫は、いつまでも止むことはない。

「――大侵略期のドラゴンを復活させていた敵が復活した」
 高田・冴は告げる。
「敵の目的は『魔竜王の遺産ドラゴンオーブ』の探索。どうやら、そのありかが発見されたらしい」
 ドラゴンオーブの力は分からない。
 しかし、魔竜王の遺産とも言われている。魔竜王の再臨の可能性すらあるだろう。
「ドラゴンオーブは熊本市に封印されている。ここには、竜十字島から出撃した『アストライオス軍団』が向かっている」
 また、軍団に先立って、多数の配下を送り込んでいる……グラビティ・チェインの確保のために、市街の破壊と略奪を行うつもりなのだ。
「配下はドラグナー、竜牙兵、オーク。9つの部隊に分かれて、ドラゴンオーブの封印に必要なグラビティ・チェインを略奪しようとしているらしい」
 この戦いで多くのグラビティ・チェインを奪われれば奪われるだけ、ドラゴンオーブ奪取の阻止が難しくなってしまうのだ。
「敵部隊は、それぞれの種族ごとに3つの部隊……あわせて9つの軍団に分かれており、それぞれに指揮官がいる」
 ドラグナーの指揮官は『竜性破滅願望者・中村・裕美』、『竜闘姫ファイナ・レンブランド』、『竜闘姫リファイア・レンブランド』。
 オークの指揮官は『嗜虐王エラガバルス』、『餓王ゲブル』、『触手大王』。
 竜牙兵の指揮官は『黒牙卿・ヴォーダン』、『斬り込み隊長イスパトル』、『黒鎖竜牙兵団長』。
「すべての部隊は、指揮官の指示のもと、市民の虐殺をしている。もしも指揮官を撃破すれば、残党はそれぞれ勝手に動き出す」
 グラビティ・チェインを奪われれば奪われるほど、今後のドラゴンとの戦いは厳しいものになっていく。
「被害を最小限にすることで、今後の戦況も変わってくる。どうか、気を付けて行ってきてほしい」


参加者
三和・悠仁(憎悪の種・e00349)
水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)
槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)
レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)
市松・重臣(爺児・e03058)
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)

■リプレイ


 熊本県熊本市西区へと、ケルベロスたちは向かう。
 そこかしこで起こる悲鳴、ケルベロスたちの戦う音――その中を駆け抜け、救援の手薄だった西側、市街地にて戦いの準備を取る。
「落ち着いて避難してください」
 割り込みヴォイスで呼びかけながら、三和・悠仁(憎悪の種・e00349)は凝念靴サクルフへと意識を向ける。
 背後から得物を振るい上げる竜牙兵へと、振り向きざまに一撃。竜牙兵は吹き飛ぶことでダメージを軽減しようとしたが、市松・重臣(爺児・e03058)はそれを許さない。
 その手にあるのはドラゴニックハンマー。砲撃の形に変貌したそれを正面に食らわせると、すかさずオルトロスの八雲が神器の瞳を向ける。
「どうか助け合うて避難を」
 アルティメットモードが、そして竜牙兵と対峙するその後ろ姿が、人々を元気づける――足早に駆ける人々と竜牙兵を隔てる火炎は、レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)によるもの。
「砲兵は戦場の女神ですわ!」
 広範にわたって辺りを舐める炎。竜牙兵を次々焦がし突き進む劫火の合間を縫ってボクスドラゴン『ドラヒム』は飛翔、属性を注ぐことで仲間の支援に回る。
 竜牙兵は多数いるが、それでも市民への攻撃は防がなくてはならない。ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)は善き霊の力で己に癒しを満たし、市民へと攻撃をしようとした竜牙兵の前に立ちはだかる。
「おっと、その攻撃は通しませんよ?」
 言葉は竜牙兵にだけ――護り手である以上、ジュリアスは敵と肉薄せざるを得ない。ケルベロスに助けを求めてこちらへ来る者がいないようにという気遣いだった。
「今日は長い一日になりそうですね」
 呟くテレサ・コール(黒白の双輪・e04242)はジャイロフラフープ・オルトロスの白い方を磨き上げ、手法を一斉斉射。
 ライドキャリバーのテレーゼも竜牙兵を牽制するように炎を噴き上げ、竜牙兵を追走する。
 追われて一か所に集った竜牙兵が爆風に吹き飛ぶ――爆発を作り出した水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)は周囲を見回して、先ほどの攻撃で怪我をした者がいないか注意も忘れない。
 不格好に地へ伏せる竜牙兵の鼻先に、何者かの影が落ちる。
「ごきげんよう……さぁ、戦いの一時、楽しませて頂きましょう♪」
 重武装モードでありながら軽やかな微笑の旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)。跳ね起きようとした竜牙兵は、竜縛鎖・百華大蛇に戒められてもう一度地に伏せる。
 ケルベロスたちが押しとどめているから、竜牙兵の得物が一般人まで届くことはない。その分もケルベロスたちには傷が重ねられている。
 槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)は薬液の雨を降らせることでその傷を癒しながらも、数多の敵を前に人々が逃げ惑う姿に痛みの記憶を喚起され、顔を青ざめさせる。
「ドラグナー、竜牙兵、オーク……」
 紫織の言葉は怒りに震え、脳裏にはかつての悲劇が蘇る。
 喪ったものは数えきれない……あんなことは、もう二度と起こって欲しくなかった。
「……いずれドラゴン共々、一匹残らず地球上から駆逐してやるわ……!」


 竜牙兵どもはケルベロスを挟み撃ちにするように陣形を整えて殺到――蒼月は襲い来る攻撃を捌き、大きく後ろに跳んでから遠隔爆破して敵の陣形を大きく乱す。
(「ドラゴンも必死になってきたのか、それとも予定通りなのか……」)
 蒼月が思うのは、ドラゴンの意図。
 いずれにせよ面倒なのに変わりはない……考えながらも、攻撃の手を緩めることはなかった。
 テレーゼにテレサが飛び乗れば、テレーゼは高速で駆け抜ける。けたたましい音を立てながら疾駆するテレーゼの上から、テレサはジャイロフラフープを手に叫ぶ。
「切り裂け!! デウスエクリプス!!」
 勢いよく突き進むテレサ――見やった重臣も負けじと敵に肉薄して。
「最早問答無用――我が真髄を刮目せよ!」
 力いっぱい拳を打ちつける。正面から貫かれた竜牙兵は崩れ落ち、重臣はその最期を見届けることなく、次なる敵へと立ち向かう。
「生きた証、辿った歩み、今生一切まで」
 悠仁の身からは、黒炎が噴き上がり。
「その存在の全てを認めず、許さず。僅か燭燼すらも、尽き果てよ」
 ただの炎と侮ってか突っ込んでくる竜牙兵。
 竜牙兵が手に持った刃の切っ先が、悠仁の首に届こうとしたその時。
「――【塵境毀壊・軌跡断ち】」
 纏わりつく炎が炸裂、悠仁の眼前で竜牙兵は跡形もない残骸へと変わった。
 乱戦となる戦場であっても、ジュリアスは仲間へと目を配ってはゴーストヒールで癒しを施す。
「やれやれ、今日はヒールゴースト酷使の日ですねぇ」
 乱戦状態の中でヒールをしてもすぐにダメージは負ってしまう。それでも深刻な傷を負うものがいないのは、ジュリアス、そして紫織が癒しを広げているお陰だった。
「悪性異常除去波動構築……完了。『手当て』を開始します」
 治癒の波動が戦場へ広がる……激しい閃光が散るのはレーンのオウガメタル。
 オウガ粒子の眩さの中を駆け、あるいは飛行する八雲とドラヒムもおのおののやり方で攻撃を重ね、竜牙兵を一体ずつ仕留めていく……しかし、距離を取ろうとしても追いすがる竜牙兵どもの妨害もあり、思うように進まないところもあった。
「雲霞のごとき竜牙兵の群れ……。それでもやらせはしませんわよ」
 呟くレーンは果敢にも攻撃を続け、竜華は魂喰らう拳を竜牙兵へ向ける。
 攻撃を受けてか、竜牙兵の視線が竜華へ。数体の竜牙兵もつられたように竜華へと駆けようとして――。
「……?」
 ふいに視線をあらぬ方向へ向けて、動き出す竜牙兵。
 見れば、他の竜牙兵の動きにもばらつきが生まれ、隙が大きくなっていく。
「これは、もしかして……!」
 その声に宿るのは希望。
 ケルベロスたちは武器を握る手に力を籠め、再度竜牙兵へと立ち向かう――。


 先ほどまでよりも戦いやすくなったと感じるのは、竜牙兵の陣形に大きな乱れが生まれているためだ。
 時を同じくして、人々の避難も完了していた……ジュリアスは如意棒を手に急接近、勢いよく竜牙兵を打ち据える。
「避難が終われば後は敵を倒すだけですね……!」
「はい、いきます……!」
 ジュリアスの言葉に紫織はうなずいて、CORD:Valkyrieを纏う肉体に力を漲らせる。
 ヴァリアブルバレルライフルが放つのは凍てつく力。今まさに攻撃をしようとしていた竜牙兵はその力を全身に浴びると、力なくその場へと倒れ込んだ。
 紫織の放った攻撃に怖れを成したのか、背中を見せて逃げようとする竜牙兵の姿もある。その背中を追うように、テレサはミサイルを発射。
 着弾、炸裂にもテレサが表情を変えることはない。専用メイド服【ペイルクライス・ミクス】の裾をひらりと揺らし、テレサは呟く。
「ポジション移動は必要なさそうですね」
 作戦上必要になるかもしれないとは思っていても、このまま戦うことが出来たらという気持ちはあった……安堵の気持ちを無表情の中にも覗かせるテレサの横、悠仁は竜牙兵の元へと迷いなく駆けていく。
 統制は明らかに乱れが見えている。逃げる者もいれば立ち向かうもの、出鱈目に武器を振り回すものなど、竜牙兵の動きはバラバラ。――だが、悠仁にはそんなことは関係なかった。
 何であれ、殺せるならば問題ないのだから。
 放たれる力に抗うことも出来ず骨の骸へ還る竜牙兵。その残骸を踏みしめて、蒼月は自身の影へと誘いかける。
「いいよ、出てきて一緒に遊ぼうよ」
 言葉に呼応して、蒼月の影が蠢き始める。
 影が作り上げたのは猫の姿。大小はさまざまな猫は蒼月の影の中から這い出ると、迷いない足取りで竜牙兵の一体に群がり、研がれた爪と牙で襲い掛かる。
 悲鳴を上げるより早くテレーゼが掃射、ドラヒムはブレスで竜牙兵を苛むあらゆる傷を暴き立て、弱りだしたところを竜華は紅蓮と共に急襲。
「炎の華に呑まれ、舞い散りなさい……!」
 鎖に抱き寄せられ、炎に撫でられたところへ大剣を手にした竜華が迫る。
「私の炎からは逃げられません……!」
 逃げ場を奪われて剣を受けるしかない竜牙兵――瞬く間に劫火に包まれたその体は、二度と元には戻らないだろう。
 炎が戦場を舐める間にレーンもチャージ完了。改めて両腕を掲げて、拡散荷電粒子砲によって数えるばかりとなった敵を薙ぎ払う。
「さぁ、どうぞ行ってくださいな!」
 レーンの叫びにうなずき、重臣はその手に竜種の力を込めて。
「非道な骨と目論見は噛み砕くに限る――のう八雲よ!」
 言葉に応じるように果敢に飛び出す八雲の刃が斬りつける。
 刃にたたらを踏む竜牙兵が、迫る重臣に気付いた時には、もう遅い。
「冥府へ送ってしんぜよう」
 重臣のその一言と共に、竜牙兵の命は刈り取られた。


 ――見渡せば辺りは静かになっている。
「指揮官も倒されたようですね」
 先ほどまでの竜牙兵の様子を見ていたジュリアスはつぶやき、竜華もそれにうなずく。
「ええ、そのようですわね」
 スカートの裾をつまみ、残骸となった竜牙兵へ一礼。その後仲間のヒールを始める竜華を見て、テレサもドローンを飛ばす。
「よかったです……皆さんが、無事で……本当に……」
 紫織の言葉がどこか震えているのは、かつての惨状の記憶が棘となってあまりにも痛いから。
 レーンはそんな紫織に静かに寄り添いながら、辺りへヒールを施していく。
 悠仁の静かな眼は遠く――熊本城の方へと向けられている。それに気づいた蒼月は、力強くうなずいて。
「熊本にあるっていう封印されてる奴? 破壊しちゃおう。全力で粉々にして燃えるゴミの日に出しちゃおう!」
 言ってから、燃えるのかなと首を傾げる蒼月。
 そんな蒼月に微笑んでから、重臣もその方角を見て。
「来たる本陣も必ずや食い止めよう」
 ほどなくして始まる戦いへ向けて、闘志を胸に抱くのだった。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月23日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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