魔竜王の遺産~進撃の九軍団

作者:澤見夜行

●予知された侵略
 それは突然の侵略だった。
 熊本市に突如現れたドラゴン配下の軍勢が、グラビティ・チェインを求め熊本市民の虐殺を始めたのだ。
「サァ、オマエのグラビティ・チェインをヨコセ!!」
「いや、いやぁ――!」
 黒鎖を操り女性の首に巻き付けた竜牙兵が引き摺るように女性を引き寄せると手にした剣で容赦なく切り伏せた。
「グァハハ、モットだ! モット、怨嗟の声をアゲ、グラビティ・チェインをヨコスのダ!!」
 老若男女、構うこと無く竜牙兵の軍勢が凶刃を振るう。
 辺り一帯が、次々に血の海へと変わっていく。
 止まることのない竜牙兵達は、さらなる血とグラビティ・チェインを求め、略奪的進撃を開始するのだった。


 駆けつけたクーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)が集まった番犬達に言葉を走らせる。
「大変なのです、大侵略期のドラゴンを復活させていた黒幕が、遂に動き出したのです!
 敵の目的は『魔竜王の遺産ドラゴンオーブ』の探索であり、そのありかを発見したようなのです」
 クーリャによれば、ドラゴンオーブの力は不明だ。だが魔竜王の遺産とも言われるそれの力は、魔竜王の再臨の可能性すらあるようだ。
 クーリャは力強く言う。
 ドラゴン達にドラゴンオーブを渡すことは出来ないと。
「現在、ドラゴンオーブの封印場所である『熊本市』には竜十字島より出撃したドラゴンの軍勢『アストライオス軍団』が向かってきているのです。
 しかも、敵はそれだけではないのです。
 このドラゴンの軍勢に先立ち、敵は魔空回廊を最大限に利用して、配下の軍勢を送り込み、ドラゴンオーブの復活の為のグラビティ・チェインを確保すべく、市街の破壊と略奪を行おうとしているのです!」
 配下の軍勢は、ドラグナー、竜牙兵、オーク、屍隷兵の九つの部隊。九部隊は分かれて熊本市街での略奪を行おうとしている。
 竜十字島から出撃したアストライオス軍団が到着するまでに、『ドラゴンオーブの封印解除に必要なグラビティ・チェインを略奪』しようとしていると思われる。
「熊本市の戦いで、多くのグラビティ・チェインを略奪されればされるだけ、ドラゴンの軍勢によるドラゴンオーブ奪取を阻止できる可能性が下がってしまうのです。そうならないためにも、皆さんに頑張ってもらいたいのです!」
 続けてクーリャは略奪を行おうとしている九つの部隊について説明する。
「九つの部隊は、部隊を統制する指揮官の下、略奪を行おうとしているのです」
 ドラゴンの封印が解かれる事件を起こした元凶のドラグナー、中村・裕美。
 武術を得意とするレンブランド姉妹はそれぞれの部隊で屍隷兵と竜牙兵を配下に置く。
 自らの血を引く部族を総べる残忍な暴君、オークの嗜虐王エラガバルス。
 『強い女』を求めるオークの王、餓王ゲブル。
 突然変異で触手が異常増殖、発達した巨大なオーク、触手大王。
 竜牙兵からは黒鎧に身を包む騎士型竜牙兵、黒牙卿・ヴォーダンに、四腕の剣士型竜牙兵、切り込み隊長イスパトル。
 そして覇空竜アストライオス直属の軍団長で、剣と黒鎖を武器とする黒鎖竜牙兵団長。
 以上の九部隊が今回の敵となる。
「市民を救出しつつ、敵指揮官を素早く撃破することが出来れば戦いが有利になるはずなのです。
 サーチアンドデストロイで市民を虐殺しようとしていますが、指揮官を倒せば、命令系統に混乱が起き、配下達は好きかって行動するはずなのです。
 そう、たとえばオークなら市民を殺さずに、女の子を追いかけはじめるなどですね」
 うまく部隊に混乱をもたらし、部隊を全滅へと追いやりたいところだ。
 説明を終えたクーリャは資料を置き、番犬達に向き直る。
「魔竜王の遺産、本当に存在するとはびっくりなのです。
 竜十字島を出撃したドラゴンとの戦いも控えているのですが、後の戦いに大きな影響を与えるので、無理せず確実に勝利してほしいのです。
 そして、どうか熊本市民の被害を最小限に抑えてほしいのですよ。
 どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
 ペコリと頭をさげて、クーリャは番犬達を送り出すのだった。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)
鈴原・瑞樹(アルバイト旅団事務員・e07685)
アレックス・アストライア(煌剣の爽騎士・e25497)
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)
園城寺・藍励(深淵の闇と約束の光の猫・e39538)
病院坂・伽藍(敗残兵・e43345)
円谷・三角(アステリデルタ・e47952)

■リプレイ

●救援へ向かう
 熊本市を襲うドラゴン勢力の軍勢を前に、熊本城周辺に二の丸広場に降り立った番犬達はほどよい緊張の中にいた。
 跪き、両の手を組んだ鈴原・瑞樹(アルバイト旅団事務員・e07685)が目を伏せ熱心に祈りを捧げる。
(「聖王女様、みんなを守るためのお力をお貸しください」)
 深い祈りはしばしの間続く。そうして自らの思いを届け終えた瑞樹が立ち上がるのを確認すると、コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)がその肩を自身の分厚い手で優しく触れ語りかけた。
「さあ、ケルベロスとしての役目を全うしよう」
「はい」
 コロッサスの言葉に力強く頷く瑞樹。コロッサスは瑞樹の手を取り、手の甲へと自然に口付けする。
「そして……君への誓いも果たそう」
 それはいつかの誓い。コロッサスが瑞樹を守り抜くのだと伝えた日の誓いだ。
 その日の出来事を思い出し、瑞樹は思わず赤面した。
 コロッサスは眼前の少女を守り抜くことを改めて誓うと、心の中で想いを言葉にする。
(「瑞樹、愛しているよ」)
 嵐の如き顔は、その時ばかりは少しばかり綻んで、微笑みを湛えた。
 瑞樹もまた、コロッサスに対しての想いを抱き留める。
(「近いうちに私の返事を伝えます……」)
 心の中で立てた誓いを果たすのは、まずこの戦いを乗り越えてからになるだろう。
 二人は頷き合うと、武器を構える。
「ははっ、愛し合う二人ってとこかな? いいね、俺にもそんな相手が欲しいものだ。――それじゃ邪魔なデウスエクスどもでも退治しにいこうか」
 アレックス・アストライア(煌剣の爽騎士・e25497)はそう言って視線を背後へと向ける。飛来するは悪魔のごとき造形のデウスエクス。ケイオスウロボロスが無数。
 周辺には避難させた一般人が心配そうに見つめている。守りながらの戦いとなるが、番犬としての力を見せ安心を与える必要があるだろう。
「わはははははっ! 外道ども、これよりここは死地と心得よ!!」
 服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)が誰よりも速く突撃すると、「ぬわあああああああ――ッ!!」と気合いを上げながらケイオスウロボロスを殴り飛ばす。
 有無を言わさぬその迫力、その力強さに周囲の一般人達が歓喜に沸いた。
「景気付けとはいえ、すごいね。見習うのは……ちょっと遠慮するけど」
 園城寺・藍励(深淵の闇と約束の光の猫・e39538)が苦笑しながら武器を構え、無明丸の後を追う。
「俺も続かせてもらおうか――犠牲者を出させなどするものか」
 封印されていたドラゴンとの戦いで煮え湯を飲まされた病院坂・伽藍(敗残兵・e43345)は、今度こそ負けるわけにはいかないと気負う。だがそれは番犬として、人々の希望でありたいという願いに他ならないだろう。
「我々も続こう」
 コロッサスの言葉に、伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)と円谷・三角(アステリデルタ・e47952)も頷いて、暴虐を振りまくケイオスウロボロスへと立ち向かっていった。
 熊本市を救援せんとする番犬達の戦いが始まったのだ――。

●進撃
 飛来するケイオスウロボスの群れを撃破した番犬達は武器を収めた。
「ありがとう! よくやってくれた!」
「助けに来てくれてありがとうー! 助かったわ!」
 敵の脅威が無くなれば周囲から沸き上がる感謝と賞賛の声。番犬達は無事に救えたことを喜ぶと同時に、未だ救わねばならない人々が多数いることを実感する。
「疲労は溜まるけど休んでる暇はなさそうだね。急いで市街地へと向かおう!」
 三角の言葉に一同は頷く。
 熊本城二の丸広場を拠点とし、中央区市街地の救援に向かう。
「アイズフォンや携帯の様子はどうだ?」
 移動しながら確認するコロッサスに、勇名と藍励が首を横に振る。
「だめみたいだよ。電波妨害されてるみたい」
「こっちもつうじない」
 デウスエクスによるジャミングが戦場を支配しているようだった。となれば、連絡手段は用意した信号弾となる。
 番犬達は殲滅完了を伝える信号弾をあげながら、市街地へと向かい進んでいく。
 二の丸広場、熊本城を出た番犬達は市役所前で避難誘導を行いながら、白川を渡る。そのままビルや学校などのある大通りを抜けながら、住宅街である味噌天神前へとさしかかる。
 その間も夥しい数のケイオスウロボロスが飛来し、市民を襲っていた。その悉くを番犬達は身を挺しながら守り、戦い、これを撃破していく。
「皆あれをみるんだ――!」
 アレックスが声を上げる。
 信号弾が熊本城から上がる。それは指揮官の存在を知らせるものだ。
「熊本城に潜んでいたのか」
「周辺は危ないかな?」
 熊本城に敵指揮官がいるとなれば、その周辺の危険性は増大する。二の丸広場を拠点としたこともあり、そこに残した一般人達が心配だ。
「しかし、今から戻るわけにもいきませんね……警察や消防とは連携できています。誘導は彼等に任せるしかありません」
 瑞樹の言葉に、一同は頷く。まだ救援に向かわなければならない場所は広くある。飛来する敵戦力の殲滅が重要だと考えを共有した。
 殲滅完了の信号弾を上げては確認し、一行は熊本市中央区を走る。
 味噌天神前から北上し、市立図書館を経由しながら、県立劇場にたむろする敵を殲滅。
 防具特徴で人々に勇気と希望を与えることで、混乱を最小限とし、多くの一般人を救うことができた。
 疲労はかつてないほどに溜まっていた。連戦に次ぐ連戦。強大な力をもつドラゴン配下の勢力ということもあり、敵も手強く、数も多い。
 傷つきながら、それでも人々を守り抜くのだという強い意志を持った番犬達は中央区の東へ向けて走り続ける。
 中央区の東側に位置する水前寺公園周辺へと辿り着いた番犬達は、出現する敵の数が少なくなってきていることを感じていた。
 これより先は別チームの担当箇所となる。
 と、なればこの周辺の敵の殲滅を完了すれば、一先ずの目標は達成したことになるだろう。
 番犬達は侵入している虫を探すが如く、一匹たりとも見逃さぬように集中しながら、索敵を続けるのだった。

●掃討戦
 水前寺成趣園。
 歴史あるその地に足を踏み入れた時、番犬達の耳に悲鳴が届く。
「向こうだ――!」
 疲労した身体に鞭を入れ、全速力で駆け出して行けば、逃げ惑う一般人の直中で、ケイオスウロボロスが今まさに一般人の女性に手を掛けようとしていた。
「やらせるものか!!」
 金髪の騎士――アレックスが割り込みケイオスウロボロスの一撃をその身を盾に防ぎきる。すぐさま手にした得物――天秤剣Libraを振るいケイオスウロボロスを後退させると、倒れ見上げる女性へと手を差し出した。
「さぁ立てるかい。……大丈夫、俺はケルベロス。君を守りに来たのさ」
 気障に、しかし惚れ惚れするような格好良さで女性を立たせるアレックスは、
「よく立てたね、良い子だ。それに美しい。この戦いが終わったらお茶でもしよう。約束だよ」
 と、イタリア人(というには語弊があるが)よろしく褒めては口説きにかかるのだった。
「おっと、これは良い絵だね。動物だったら、記念に一枚というところだったけど」
 シャッターを切る仕草を見せながら言う三角。
「あはは……抜け目ないね」
「なんだ、きねんさつえいか?」
 藍励が苦笑し、勇名が見当外れのことを言うと、瑞樹もクスりと笑った。
「数は多いですが……なんとか間に合ったのです。絶対に被害は出させません」
「ああ、これ以上好きにはさせるものか。みんな、一気に叩くぞ!」
 瑞樹の言葉にコロッサスが頷いて、全身に力を入れる。
 番犬達が到着したことで、周囲で逃げ惑っていた一般人達も徐々に混乱が収まっていく。
「さあ、落ち着いて避難するんだ」
 伽藍が割り込みヴォイスと隣人力を発揮し、一般人を誘導し、徐々に周囲から人気がなくなっていった。
「キキキキィィィ!!!」
 邪魔されたことにケイオスウロボロス達が怒りの咆哮を上げる。
 無数のルビーアイがぎょろりと番犬達を睨み付け、長く尖った爪を軋り合わせて耳障りな音を立てる。
 腰に重心を下ろせば、それは戦闘態勢に入った証だ。
「わははははっ! さぁ! いざ尋常に勝負いたせ!!」
 やはり誰より先に動くのは無明丸だ。勢いと全身に漲らせる気合いを元に殴りかかると同時にグラビティを迸らせる。
 グラビティによって生み出されるは『氷河期の精霊』。敵群を氷に閉ざす吹雪となって襲いかかる。
「もういっぱぁつっっ!!」
 渾身の左フックから放出されるは星座のオーラ。無数にいるケイオスウロボロス達へと叩きつけられる。
「負けてられないな――いくぜディケー」
 天秤を宿した星降の剣を素早く振るえば、味方の士気を上げる爆風が生み出される。
 その爆風を背に受けながら、疲労を物ともしない動きで、ケイオスウロボロスに肉薄すると、星座の重力宿した、あらゆる守護を撃ち貫く横薙ぎを見舞った。
「問わん。我が一撃は審判の一撃。汝に義あるか、理あるか」
 アレックスの動きは止まらず。煌めきと共に振るわれるは重力の波動。『飛ぶ斬撃』は相手を切り裂く必殺の一撃となった。
 無数に飛びかかるケイオスウロボス達の薙ぎ払いは番犬達を苦しめる。鋭い一撃に肌が切り裂かれ痛みに奥歯を噛み締める。
「やらせはしないぞ!」
 仲間へと至る攻撃を、その身を盾に防ぎ、金剛神将としての姿を見せるコロッサス。
 光り輝く守護の盾を生み出し、仲間を守護する。
 自身の傷を厭うこと無く戦い仲間達を守るその姿に、番犬達は鼓舞された。
 逃げ遅れた少女がケイオスウロボロスに標的にされる。
 いち早く気づいた藍励が、超加速で敵群を蹴散らしながら一気に近づくと、少女を抱き起こした。
「大丈夫? 怖かったよね……もう大丈夫。うちらが、必ず護るから」
 少女の頭を撫で安心させてあげると、少女を逃がす。少女探しに来た親が少女を連れ避難していった。
「これ以上は……やらせないよ」
 意志に呼応し、様々な形状に変化する愛用のアームドフォートから焼夷弾が放たれ敵群を炎に包む。
 そして今一度超加速による突撃。薙ぎ払うように突き進む藍励の一撃に幾体かのケイオスウロボロスが倒れ息絶えた。
「皆さんのことは、私が支えて見せます――!」
 仲間達を癒やし、治療する瑞樹。連戦により疲労と共に傷ついた番犬達を支えているのは瑞樹の力だ。
 瑞樹もまた消耗しているが、そんなことをお首も出さず必死に仲間達を支援し続けていた。
「お前達の思うようにいくと思うなよ」
 伽藍が疾駆する。
 炎を充填した如意棒を大きく回転させれば、敵群を炎の直中に包み込んでいく。
 動きを止めず間合いを取れば、手にした武器を持ち変える。瞬時に手にした槍を上空へと射出すると、槍は遙か天空で分裂し、敵群を飲み込むように降り注いだ。
 幾体ものケイオスウロボロスが無数の槍の直撃を受け、串刺しとなり動きを止めた。
「みぎに二体いった。うしろからもう一体くる」
 後衛に位置し、戦況を観察し、仲間達に声を上げ伝えるのは勇名だ。
 勇名がいち早く状況を伝えることで、番犬達は即座に対応することができていた。
 攻撃手としても、勇名の活躍は目を見張るものがある。
 的確に、確実に弱り切った敵を狙い仕留めていく。逃げようとする敵も逃すことはない。
「うごくなー、ずどーん」
 敵の足元すれすれを飛ぶ小型ミサイルが、敵の両足を粉砕する。
 敵の物量によって味方が押し込まれるとみれば、
「ぼかーん」
 と、擬音語を漏らしながら、焼夷弾をばらまいて炎に包み込んでいった。
「支援も大事なポジションだよね。こっちは任せてね」
 戦闘経験的には他のメンバーに劣る三角だったが、自分の役割をしっかりと認識し、支援に徹する動きで、仲間達をサポートしていく。
 無理に攻撃をすることなく、仲間を庇い、人々を守り、時には治癒の手助けを行いながら、戦闘に貢献する。
 役回り上、戦況を見通す目が必要となり、決定的な機会を逃さず動く立ち回りが求められるが、そこは動物カメラマンというところか。機会を窺い決定的なチャンスを物にする堅実な動きを見せていた。
 その支援、戦闘方法も実にユニークで、グラビティとカメラ機器の融合を見せる。現像液がを用いて現出させる紋様は色鮮やかな色彩とともに仲間に力を与える。カメラのフラッシュなどは、逃れられない破滅の閃光となってケイオスウロボロスを襲った。
 ユニークな攻撃方法を前に、さしものケイオスウロボロスも対応ができず、次々と倒れていった。
 水前寺成趣園での戦いは激戦となった。
 次々と飛来するケイオスウロボロス達だったが、徐々にその数を減らしていき、遂に残す数を一体というところまで追い詰めた。
 だが、そこに至るまでに番犬達の精魂も尽きる直前だ。
 回復不能の傷は戦闘不能間近まで迫り、今や全員気力だけで立っているも同然だった。
 一瞬でも気を抜けば、倒れてしまうだろう。
 それほどまでに辛い戦いだったが、それももう終わる。
「わ、わはははっ! さぁ覚悟せい!!」
 気合いだけで立つ無明丸が最後の力を振り絞り、ケイオスウロボロスに肉薄する。
 同時に伽藍と藍励も疾走し、武器を構える。
「これで……」
「終わりだ――!」
「ぬぅああああああ――!!」
 三人による同時攻撃は、寸分違わず同時にケイオスウロボロスの肉体を貫き、耳障りな咆哮を上げながら最後の一体が動きを止めた。
「はぁ、はぁ……終わった?」
 答えを聞くこともなく、全員が腰を下ろす。否、足が悲鳴を上げて立つことをやめたのだ。
 大きく息をついた番犬達は、殲滅完了の信号弾を打ち上げる。
 空を仰ぎ、戦況の行方を待っていると、次々と空の彼方で信号弾があがるのが見えた。どれも勝利の報告ばかりだ。
 その一つ。
 近しい距離の西の空。
 何よりも目立つ色の信号弾が高らかに上がった。
「指揮官、撃破……!」
 熊本城から上がった信号弾を確認すると、番犬達に歓喜が満ちあふれる。
 周辺の敵はほぼ殲滅、懸念のあった熊本城も指揮官、中村・裕美を撃破したとなれば、残る残党を殲滅するのも容易くなるだろう。
「わははははっ! この戦い、わしらケルベロスの勝ちじゃ! 鬨を上げい!」
 拳を突き上げ朗々と勝利宣言をする無明丸。同じように手を上げていた番犬達は、勝利に打ち震えていた。
 ――その時、瑞樹の目が見開かれた。
「あ、あれは――」

●東の空に迫る影
 勝利の喜び、歓喜に満ちて疲労した身体を労っていた番犬達。
 ふと空へと視線を向けた瑞樹が、東の空に映る影を見た。
「み、見て下さい。あれは――」
 指さした方角を番犬達が見やる。
 目を凝らして見れば、それは翼はためかせ飛び交うドラゴンの軍勢。
「まだ、戦いは終わっていないようだな……!」
 一つの激戦を終えた番犬達の元に、新たな脅威が迫ろうとしていた――。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月23日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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