魔竜王の遺産~龍宝玉の行方

作者:雷紋寺音弥

●火の国、燃える
 熊本県熊本市。
 古来より火の国と称えられ、かつては肥後国と呼ばれた土地の中枢に位置し、水と森の都としても、人々に親しまれてきた歴史ある町。
 だが、今や熊本の町は悲鳴と絶叫が入り乱れる地獄と化し、その面影はどこにもなかった。
「グハハハハッ! 狩リダ! 待チワビタ、狩リノ時間ダ!」
「死ネ、人間ドモ! ソシテ、グラビティ・チェインヲ、我ラニ、寄越セ!」
 火の手の上がった街中を、大小様々な竜牙兵達が、手に手に武器を持って進軍して行く。目に付く者は、女子供や老人であろうと関係ない。ただ、己の主が命じるままに首を刎ね、腹を斬り裂き臓物を屠る。
「お、お願いします! どうか、この子だけは……」
 幼子を抱えた女性が懇願するようにして蹲り、竜牙兵達の刃から、我が子を守るようにして身を屈めた。だが、それを見た竜牙兵達は実に嗜虐的な笑みを浮かべると、女性の抱いている子ども諸共に、背中から刃を突き立てて串刺しにした。
「クックック……親子揃ッテ、我等ガ王ノ残シタ遺産ヲ、蘇ラセル糧ト成レタノダ。光栄ニ、思ウガイイ!」
 鮮血に染まった刃を引き抜くと、竜牙兵達はそれを掲げ、新たな得物を求めて町の奥へと侵攻を続けて行った。

●竜王の遺したるもの
「緊急事態だ。大侵略期のドラゴンを復活させていた黒幕が、遂に動き出した」
 その日、集まったケルベロス達にクロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)より告げられたのは、ドラゴン勢力の大軍団によって熊本市が襲われるという報だった。
「敵の目的は、『魔竜王の遺産ドラゴンオーブ』だ。どうやら、連中はその在り処を発見したようだな」
 ドラゴンオーブ。それは魔竜王の遺産とも呼ばれているもので、その力を得れば魔竜王を再臨させることさえ可能だという。そこまで話を聞いた時、思わず何人かの間にどよめきが走った。
 魔竜王。宇宙最強の『十二創神』に属するドラゴン勢力の支配者であり、かつて同じ『十二創神』の一柱である、オラトリオの指導者の聖王女と一騎打ちを繰り広げた存在だ。
 その戦いは地球を滅ぼす程であり、正に神の名に違わぬ凄まじい力を持っている。そんな存在の再臨など許したら最後、地球がどうなるかは想像に難くない。
「現在、ドラゴンオーブの封印場所である『熊本市』には、竜十字島より出撃したドラゴンの軍勢『アストライオス軍団』が向かって来ているぜ。だが、敵はそれだけじゃない。連中は魔空回廊を最大限に利用して配下の軍勢を送り込み、ドラゴンオーブの復活の為のグラビティ・チェインを確保すべく、市街の破壊と略奪を行おうとしている」
 現在確認されている配下の軍勢は、ドラグナー、竜牙兵、そしてオークに屍隷兵。恐らくは、竜十字島から出撃したアストライオス軍団が到着するまでに、『ドラゴンオーブの封印解除に必要なグラビティ・チェインを略奪』しようという算段だろう。
「熊本市に出現する敵は、合わせて9つの軍団に分かれているようだな。ドラゴンの封印を解く事件を起こしたドラグナーの中村・裕美に、武術を得意とするドラグナーのレンブランド姉妹。エラガバルス、ゲブル、そして触手大王といったボス格のオーク達に、ヴォーダンやイスパトルといった竜牙兵達の部隊。おまけに、今回の事件の大ボスである覇空竜アストライオス直属の軍団長、黒鎖竜牙兵団長まで現れるぞ」
 敵部隊は軍団を率いるリーダーによって陣容も異なるが、市民の虐殺を目的としている点では同じである。数の上でも質の上でも、真正面から戦えば苦戦は必至。だが、そんな完全無欠に思える軍団にも、やはり弱点は存在する。
「敵の目的は、あくまで『グラビティ・チェインの略奪』だからな。目に付く市民を片っ端から殺そうとしているが、その命令がなくなれば、本能に任せて好き勝手に行動を始めてしまうようだ」
 要するに、市民を救出しつつ、各軍団のボスを早期に撃破することができれば、敵は指揮系統が混乱して命令が徹底されなくなるということだ。
 こうなれば、敵は統率を失った烏合の衆。その混乱に乗じて一気に叩けば、被害を最小限に食い止めつつ勝利することも可能となる。
「魔竜王の遺産……まさか、本当にそんなものが存在していたとはな。だが、ここで敵の侵攻を食い止められなければ、後の戦いに深刻な影響を与えることにも成り兼ねないぞ」
 竜十字島を出撃したドラゴン軍団との戦いを有利に進めるためにも、この戦いは負けられない。それでなくとも、市民が無差別に殺されるのを、黙って見逃すわけにもいかないだろう。
「熊本市……いや、この惑星の未来は、全てお前達に掛かっていると言っても過言ではないからな。一人でも多くの市民を救出し、ドラゴン勢力の野望を打ち砕いてくれ」
 最後に、それだけ言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
草間・影士(焔拳・e05971)
天音・迅(無銘の拳士・e11143)
アシュレイ・ヘルブレイン(生まれたばかりの純心・e11722)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
春日・春日(電気羊の夢を見る・e20979)
リィナ・アイリス(もふもふになりたいもふもふ・e28939)
櫻田・悠雅(報復するは我にあり・e36625)

■リプレイ

●触手アンブッシュ!
 熊本市南区。
 ドラゴンオーブを狙って熊本市に攻め入った戦力の一角。異形のオーク、触手大王の軍勢を倒すべく現地へ急行したケルベロス達だったが、彼らの予想に反し、南区の農村地帯は静かだった。
「静か……ですね」
「ああ、そうだな。気味が悪いくらいの長閑さだ。……気に入らん」
 油断なく周囲を警戒する羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)に、櫻田・悠雅(報復するは我にあり・e36625)が張り詰めた表情のまま答えた。
 ここまで来る途中、現れたオークの群れは数匹程度。さしたる強敵というわけでもなく、どれも簡単に倒せてしまうような相手ばかりだったが、それだけに奇妙だった。
「オレ達に恐れを成して逃げた……にしては、ちょっと変だよな?」
「油断はよくないのです。……とはいえ、さすがにおかしいですね」
 軽口を叩くような口調で言った天音・迅(無銘の拳士・e11143)を春日・春日(電気羊の夢を見る・e20979)が諌めたが、しかし彼女もまた何がおかしいのか、具体的に言うことはできなかった。
「畑……ばっかり……。でも……誰も、いない……」
 首を傾げるリィナ・アイリス(もふもふになりたいもふもふ・e28939)。敵の目的は一般市民の虐殺なのに、これでは既に避難が終わった後ではないか。
「確かに、景色だけなら平和そのものですよね。藁束積まれて、なんとも長閑な……!?」
 そこまで言って、アシュレイ・ヘルブレイン(生まれたばかりの純心・e11722)は、何かに気が付いたような表情になって言葉を飲み込んだ。
 今の季節は夏。収穫期とは程遠いのに、それでは畑の各所に置かれている藁の束はなんだ。その答えを彼女が尋ねるよりも先に、果たして藁束の中から飛び出して来たのは、剣と盾を携えた、さながら騎士を思わせるオーク達。
「ブハッハッハ! まんまとかかったな、ケルベロス!」
 突然、民家の屋根の上から声がした。思わず振り返れば、いつの間に立っていたのだろう。
 そこにいたのは、全身を茶色の触手で覆い固めた、なんとも勇ましいオークの騎士。周りのオーク達と比べても、明らかに別格の強さを持っているのが離れていても感じられる。
「どうやら、待ち伏せをされていたようだな。品性のない下劣な種族だと思っていたが、中には知恵の回る者もいたようだ」
「フン……見くびってもらっては困るな。我は触手騎士王子! 触手大王の忠実なる片腕にして、触手王子の中でも最強の存在なり!」
 草間・影士(焔拳・e05971)の挑発に乗ることも無しに、触手騎士王子は右手と一体化した刃を振るった。それは一瞬にして身の丈の数倍にも伸び上がり、それに続けて周囲に控えていたオーク達も、触手の先から溶解液を発射して来た。
「……っ! しまった、信号弾が!?」
 触手剣による斬撃と、降り注ぐ溶解液の雨によって、ケルベロス達の用意していた信号弾の発射装置が煙を上げた。どうやら、こちらが仲間を呼ぶことまで、敵は織り込み済みだったようだ。
「さあ、もはや逃げ場はないぞ。まずは手始めに、ケルベロス……貴様達を殺し、そのグラビティ・チェインを奪ってくれる!」
 圧倒的な数に加え、地の利と待ち伏せを生かした先制攻撃。早くも己の勝利を確信している触手騎士王子だったが、しかしそんな状況においても、ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)は微動だにせず。
「笑止! 女性を辱め、あまつさえ身を隠して不意打ちを狙うような者に、騎士を名乗る資格などなし!」
 迫り来るオークの職種や狂刃を捌きながら、戦斧の先端を触手騎士王子に向けて突き付けた。
「我が嘴を以て……貴様の野望を破断する!」
 どの道、触手大王と同じく、王子も倒すつもりだったのだ。向こうから来てくれたのであれば、好都合。本物の騎士の力を見せてやるとばかりに、漆黒の巨体が迫り来るオークの群れに突撃して行った。

●不滅の触手騎士
 迎撃を予測し、敢えて待ち伏せをすることで、ケルベロス達の裏をかいて来た触手騎士王子。彼らとの激闘が始まるや否や、長閑な田舎の風景が広がる熊本市の南区は、瞬く間に触手と怒号の舞う戦場と化した。
「ブヒャハハハッ! どうした、地獄の番犬さんよぉ!」
「ブヒヒヒ……どうせグラビティ・チェインを集めるなら、そこの女どもを犯しつくして殺すのも悪くねぇなぁ!」
 騎士とは名ばかりの下劣な台詞を叫びながら、触手騎士王子の率いるオーク達が、一斉にケルベロス達へと襲い掛かって来る。さすがに、3王子の中でも最強を名乗る者の配下だけあって、個々の強さも精鋭揃いだ。
「いいですか? みんなを守る壁になるのですよ!」
 自らのウイングキャットを壁にして仲間達のフォローに回る春日だったが、正直なところ手が足りない。敵はやたらと数が多いだけでなく、質もそこそこに高いのだ。その上、こちらは火力より撹乱と防御を特化した布陣になっており、瞬間の突破力がどうしても不足してしまっている。
「随分と好き勝手してくれる。敵は多いが、倒すしかないなら倒すだけだ」
 迫り来る触手を手刀で捌きつつも、影士がカウンターで降魔の一撃を叩き込んだ。さすがに、攻撃の要である彼の攻撃を食らっては、精鋭のオークも白目を向いて倒れ込んだ。
「後ろは任せて。活路は開く」
「路払いは、こちらでもやらせてもらおう。頭さえ倒せば、敵も統率力を失うはずだ」
 氷結の螺旋を放ち、アシュレイが王子の周りを固めるオークの内の1体を凍結させたところで、悠雅が光の戦輪を投げ付けた。ある者は避けようと、ある者は身を固めようと、それぞれオーク達にバラバラな行動を取らせることで、今まで一糸乱れることのなかった敵の隊列が、微かに崩れた。
「……オークさん……ニガテだけど……今は、こっちを見て欲しいのー」
 駄目押しとばかりに、リィナが魔眼の力でオーク達を魅了する。どこまで効果があるかは解らないが、これで同士討ちでもしてくれれば儲け物だ。
「おっと! 女子に色目使ってる場合じゃ無いんじゃねえの?」
 幻影を纏いつつ、迅がオーク達を挑発する。その隙にジョルディが戦斧を掲げ、紺に破壊のルーンの力を降臨させた。
「今だ! やつの右腕を狙え!」
「任せて下さい! バッチリ決めてみせますとも!!」
 紺の手に握られた宝珠より、繰り出されるは熱を持たない水晶の炎。それは万物を斬り裂く刃となり、触手騎士王子の右腕を一体化している刃ごと斬り捨てた……のだが。
「ふっ……その程度で、我に勝ったつもりか? 甘く見られたものよ!」
 右腕を斬り落とされているにも関わらず、触手騎士王子は余裕の表情を崩さなかった。果たして、そんな彼の言葉は正しく、傷口から夥しい数の触手が溢れ出すと、転がっていた腕に絡み付き、そのまま引き寄せて接合した。
「おいおい……。こいつ、不死身かよ?」
 悪態を吐く迅。これは想像以上に強力な相手だ。中途半端な攻撃を食らわせたところで、この王子を仕留めるには至らない。
「さあ、恐怖するがいい、番犬どもよ! そして、我らが触手の前に平伏すがよい!」
「「ブッヒョォォォッ! 突撃だぁぁぁぁっ!!」」
 触手騎士王子が叫ぶと同時に、オーク達が一斉にケルベロス達へと襲い掛かる。触手がうねり、粘液が爆ぜ、津波の如く戦場を押し潰して行った。

●邪道なる騎士の末路
 触手大王の息子であり、その中でも最強の戦闘力を誇ると自称する触手騎士王子。その言葉に偽りはなく、彼はケルベロス達が今までに戦って来たオーク達の中でも、極めて強力な存在だった。
 その触手は肉体と武具を融合させるだけでなく、様々な攻撃に対する鎧としても作用する。身体の欠損は触手を媒介にして繋ぎ合せ、触手部分を氷や炎で覆われれば、その部分を強制的に破棄した上で、凄まじい再生力によって修復してしまう。
 それはさながら、自己修復能力を保有した、触手の全身鎧といった方が正しいだろう。どれだけ斬られ、撃たれ、貫かれても立ち上がって来る様は、底知れぬおぞましさを想像させるのに十分だった。
「ブヒャッハァァァッ! もらったぜぇぇぇっ!!」
 回復に集中していた春日の背後から、一匹のオークが溶解液を浴びせて来た。すかさず、彼女のウイングキャットが庇いに入ったが、残念ながらそれが限界だった。
「壁を破られました……ですか。そろそろ、本気で危ないですかね?」
 そう言って傷付いた仲間へと気を送る彼女自身、既に肩で息をしている状態だ。やはり、多勢に無勢な状況で、癒し手が一人しかいないのは荷が重過ぎる。
「なかなかやるな……。だが、その余裕がいつまでも保つとは思わないことだ」
「ここまで来て強がりはよせ、番犬よ。どの道、貴様達には未来などない」
 戦斧と触手剣を斬り結び、互いに一歩も引かぬまま、一進一退の攻防を繰り広げるジョルディと王子。ともすれば、個の力では王子の方が上回っていたが、しかしそれでもジョルディは今までの斬り合いで、確かな手応えを感じていた。
「ふっ……どうかな? 確かに、貴様の触手鎧は素晴らしい性能だ。だが……いかに再生を繰り返す鎧とはいえ、さすがに限度があるようだな?」
「……っ!?」
 その言葉を聞いた瞬間、触手騎士王子の表情が途端に変化した。
 見れば、彼の身体を覆う触手の鎧は、ところどころが解れ始めている。それだけでなく、再生には体力を消耗するのか、明らかに敵の動きが戦い始めの頃よりも鈍い。
「打ち止めってやつか? だったら、もう遠慮はいらねぇな!」
「残る雑魚はこちらに任せろ。ここから一気に押し切るぞ!」
 迅の拳が近くにいたオークを吹き飛ばし、同じく悠雅の繰り出した燃え盛る一閃が、触手諸共にオークを焼き捨てる。気が付けば、後に残されたのは触手騎士王子のみ。ここから先は、もはや守りを考える必要もない。
「戦い争う者の宿命です。どこへ行こうと、決してあなたを逃しません」
 戦いの中で散っていた者達の怨嗟を集め、紺はそれを触手騎士王子に解き放つ。そして、魔性の幻影に苦しむ王子の後ろから、アシュレイがドサクサに紛れて透明な針を投げ。
「ちょっとチクッとするだけですよ……。凍てつけ、必滅定めし非情の理……アクアロギア!!」
「グゥッ! な、なんだ、これは……!?」
 非情なる心の結晶で触手騎士王子を貫けば、それは中から敵を氷漬けにさせる楔となる。
「……見惚れて、いたら……ケガ、するの……!
 グラビティで作った塗料で白クマとペンギンを描き上げて、リィナがそれに氷の魔力を吹き込んだ。仮初の命を与えられた絵画は途端に意志を持って動き出し、触手騎士王子へと纏わり付き。
「ブォォォッ! さ、再生が……ま、間に合わぬ……」
 内だけでなく外からも、徹底的に凍らせて行く。
「覚悟は出来てるのか? まだなら……目を閉じる暇くらいならあるかもな」
 これで終わりだ、下劣な騎士め。氷に抱かれて死ぬのを拒むなら、地獄の業火に焼かれて消えろ。そう結んで、影士は周囲の大気から、炎の力を拳に集め。
「貴様らを倒す理由は数多あるが、此処で見逃す理由は一つとしてない。この拳……否、刃を以って、引導を渡してやる」
 その言葉を言い終わらない内に、凄まじい速度で触手騎士王子へと肉薄する。そのまま、勢いに任せて殴り飛ばしたところで、炎の刃を力任せに上から叩きつけた。
「ブギャァァァッ! ば、馬鹿な……我は3王子最強にして、不滅の存在……! そ、それが……こんなところでぇぇぇぇっ!!」
 氷の結晶と化した肉片を撒き散らしながら、炎に消え行く触手騎士。溢れ出る業火のエネルギーは留まるところを知らず、凍結していた触手騎士の肉体を、木っ端微塵に粉砕した。

●束の間の凱旋
 戦いの終わった畑にて、春日は辺りに漂う臭気に、思わず顔を顰めて鼻を摘まんだ。
「あー、気持ち悪い……。早く帰りましょうです」
 そこら中に転がるオークの死体。そして、血と涎と溶解液が混ざった、なんとも言えぬ凄まじい臭い。
 勝利の対価としては、あまりに酷過ぎる置き土産だ。が、それでも3王子の中でも最強たる、触手騎士王子を撃破できたことは十分過ぎる程の戦果である。
「他の場所に向かった方々は、どうしたでしょうか?」
「連絡はないが、敵の増援もない。恐らくは、敵の撃破か撃退に成功したのだろうな」
 アシュレイの問いに、悠雅が静かに答える。担当地区の敵を掃討できた以上は、ここに留まる理由もない。
「……みんな……お疲れ様、なのー」
「いいチームだったよな。また組もうぜ!」
 リィナと迅も帰還の準備を進める中、少しだけ訪れる安堵の空気。だが、それがいつまでも続かないということは、この戦いに挑んだ全ての者が知っている。
「一先ずは、これで片付いたが……」
「戦いは、これからが本番だな。ドラゴン勢力の本体は、オークなどとは比べ物にならないほど強力だろう」
 ジョルディの言葉に、影士が油断なく頷いた。残念ながら、ここで気を抜くのはまだ早い。この戦いはあくまで前哨戦。ドラゴンオーブを狙うドラゴン勢力との戦いの、ほんの一幕に過ぎないのだから。
(「それでも……どんな局面でも冷静さを失わなければ、必ず道は開かれるはずです……」)
 最後に、胸元の首飾りに手を添えて、紺が静かに空を仰いだ。
 魔竜王を復活させることさえも可能と言われる、ドラゴンオーブの争奪戦。ケルベロス達の過酷なる戦いは、まだ始まったばかりだ。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月23日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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