魔竜王の遺産~捧げよ、我等が王に

作者:つじ

 かりかりと、鎖が地面を引っ掻いている。

 同じ姿の者達が、同じ歩幅で進んでいく。黒く、赤く、染まった世界。
 踏み出す度に擦れ合う鎧。濡れそぼったマントから雫が滴る。
 爪先に触れたそれに、手にした刃を突き立てる。
 びくりと動いた感触。くぐもった悲鳴。
 引き抜いたそれを、二度三度、振り下ろす。どろどろと溢れ出す色。僅かな静寂。
 遠くで、軍団長が剣を振り上げるのが見える。切っ先の方向へ顔を向けて、刀身をマントで拭いながらそちらへ踏み出す。

 かりかりと、鎖が地面を引っ掻いている。
 
●竜の下僕達
「皆さん大変です! ドラゴンを復活させていた黒幕が、ついに動き出しましたよ!!」
 ハンドスピーカーを構えた白鳥沢・慧斗(暁のヘリオライダー・en0250)が、いつにも増して真剣な顔で喋りだす。判明している限りでは、敵の目的は『魔竜王の遺産ドラゴンオーブ』であり、それが封印された場所、『熊本市』が狙われているらしい。
「ドラゴンオーブの力は不明ですが、その力を以ってすれば、魔竜王の再臨すら狙えるとのことです! 絶対に渡すわけにはいきませんね!!」
 熊本市に向かっているのは竜十字島のドラゴンの軍勢『アストライオス軍団』。そしてその本隊に先立ち、魔空回廊を最大限に利用して、配下の軍勢を送り込んでくるという。
「どうやらドラゴンオーブの復活には多量のグラビティ・チェインが必要らしいですね! その調達のために市街の破壊と略奪が先遣隊の目的のようです!!」
 配下の軍勢は、ドラグナー、竜牙兵、オーク、屍隷兵から成る9つの部隊。各部隊は、それぞれの部隊長が指揮を執って行動している。
 
 ドラゴンの封印が解かれる事件を起こした元凶のドラグナー、『竜性破滅願望者・中村・裕美』。配下としては、これまでの事件で見られるようにケイオス・ウロボロスを伴っている。
 ドラグナー、『竜闘姫ファイナ・レンブランド』。武術を得意としており、武術家の死体を利用した屍隷兵の軍勢を従えている。
 ドラグナー、『竜闘姫リファイア・レンブランド』。配下は竜牙兵で、妹であるファイナと同じく武術で戦う。
 オーク、『嗜虐王エラガバルス』。自らの血族を総べる残忍な暴君。捕らえた女性に対する扱いは苛烈を極める。
 強い女を求めるオークの王、『餓王ゲブル』。女性への拘りが強く飢餓状態のオークばかりの集団を率いている。
 『触手大王』。突然変異で触手が異常増殖&異常発達した巨大なオーク。同様に触手が異常発達した配下達を、王子とよばれる3人の息子と共に率いる。
 黒鎧の騎士型竜牙兵、『黒牙卿・ヴォーダン』。配下は、馬から降りて鎧が軽装になったヴォーダンのような外見をしている。
 四腕の剣士型竜牙兵、『斬り込み隊長イスパトル』。配下は、鎧が簡素化されて2本腕になったタイプ。
 『黒鎖竜牙兵団長』。覇空竜アストライオス直属の軍団長で、剣と黒鎖を武器とする。配下も団長と同型をしている。
 
「敵部隊についての情報は以上になります! 敵の数は多いですが、指揮官である部隊長を倒せば統率が乱れます。その後であれば各個撃破は容易いでしょう! 市民の方々を救出しながら、迅速に指揮官を倒す事が最良であると思われます!」
 市民への被害を防ぐのは当然ながら、ここでの戦いをうまく運び、グラビティ・チェインの略奪を防ぐことができれば、その後のドラゴン達との決戦を有利に運べるだろう。
「ドラゴンとの決戦の前哨戦ではありますが、どうか敵の狙いを挫いてきてください! 皆さんを信じています!!」
 最後にそう締めくくって、慧斗は一同をヘリオンへ案内した。


参加者
霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)
スプーキー・ドリズル(シーファイア・e01608)
物部・帳(お騒がせ警官・e02957)
葛籠川・オルン(澆薄たる影月・e03127)
日月・降夜(アキレス俊足・e18747)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)

■リプレイ

●想定の範囲?
 ドラゴンによる軍勢の脅威に晒される熊本市、その中央に派遣されたケルベロス達は、熊本城を中心拠点と定めた。
 城の確保に動く班が三つ。残りの三班はその近郊へ。
 ミミックのスームカと共に着地し、走り出しながらフィアールカ・ツヴェターエヴァ(赫星拳姫・e15338)が片目を瞑る。
「アイズフォン、通じないのー」
「無線も同じく、だ」
 翼を広げて滑空しながら、スプーキー・ドリズル(シーファイア・e01608)も無線機を仕舞う。
「まぁ、しゃーねぇな」
「この辺りは予想の範囲内ですね」
 しなやかに、音も無く着地した日月・降夜(アキレス俊足・e18747)と葛籠川・オルン(澆薄たる影月・e03127)がそれに続く。
「ああ、事前の取り決め通りに動こう」
「こうして熊本城を中心に『前線』を押し広げて行けば、安全地帯を確保しながら戦えるという寸法でありますな!」
 方針については物部・帳(お騒がせ警官・e02957)の言う通り。
 ここ、中央区は熊本市の中でも人口が多い地帯だ。区内の全域でモグラ叩きをやっていては埒が明かないだろう。そういう意味でも、複数班で連携してのこの作戦は有効であるはず。
「指揮官――中村・裕美も、早めに押さえたいところだな」
「正統派ビン底眼鏡っ娘か。いや……」
 それは、とりあえず置いておこう。エヴァンジェリン・ローゼンヴェルグ(真白なる福音・e07785)の言葉に、軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)が首を横に振った。眼鏡好きなら捨て置けない相手ではあるのだが。
「彼女を探す事も意識しておきましょう! 見つけ次第信号弾で皆にお知らせを――」
 と、帳がそこまで言ったところで信号弾が上がった。
 光と音は、彼等の走る後ろから。
「――は?」
「どういうことなのー?」
 振り向いて、フィアールカが首を傾げる。
 信号弾は、明らかに熊本城から上がっている。見れば、城の中から件のケイオス・ウロボロスらしき影がわらわらと湧いてきていた。
「ジャックポット、ってとこかい?」
「こういうこともあるんだなー」
 思わず足を止めながら、スプーキーと降夜が言う。
 そう、ケルベロス達と同じく、敵側の指揮官も熊本城を拠点として選んでいたのだ。
 これは理想的な展開と言えなくもないはず、頭を掻きながら、帳が唸る。
 熊本城の確保に動いている班はそのまま目的通り戦闘に入るだろう。救援要請が上がってこないのなら、こちらも打ち合わせ通りに動くべきか。
「あー……御覧の通り避難場所の第一候補が使えなくなりました。とりあえず向こうに見える病院や、公共施設を足掛かりに進んでいく感じでどうでしょう?」
「妥当な線ですね。それでいきましょう」
「あの辺りのビジネスボテルも目印に丁度良い。利用できないか?」
 オルンと霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)がそれに頷く。気を取り直し、彼等は市民の救出のために駆け出した。

●十字路
 熊本城周辺から少し離れ、その先は庁舎に続く道もある、大通りだ。普段は人々で賑わうその場所も、今は別の様相を呈している。
 街頭に激突し、乗り捨てられた車を乗り越え、ドラグナーが雄叫びを上げる。せせら笑うような黒い影、ケイオス・ウロボロスは逃げ惑う獲物の一団に首を向けて、大きく息を吸い込んだ。
 静寂は一瞬。集められた空気が悲鳴を上げ、灼熱となって解き放たれる。
 赤が広がり、アスファルトに黒く線が引かれる。その侵攻を押しとどめるように、フィアールカがその身を晒した。
「スームカ、お願いなの!」
 もとい、直に身を晒したのはミミックだったが、とにかくブレスを防ぎ切った彼女等に代わり、降夜の割り込みヴォイスが辺りに響く。
「ケルベロスだ、救出しに来た!」
「下がっていてくれ、俺達の後ろは安全だ!」
 逃げ惑う人々へ、方向を示すべく。エヴァンジェリンもまた凛とした風を纏わせて避難を促した。
 市民の盾となるように立つケルベロス達の姿に、救われた人々の顔に輝きが戻る、が。
「ありがとう、助かった!」
「ああ、待ってくれ、まだあそこに――」
 歓声に混ざる切迫した声に従い、視線を向ければ、そこには。
「――車の影。いけるか?」
 気を失っているのか、横たわる子供の姿を認め、奏多が金属粒子を展開しながら仲間へと声をかける。
 大通りの交差点に位置するこの場所には、付近にいたケイオス・ウロボロスが既に集まってきている。時間的な余裕は無いに等しい。
「お任せください。でも失敗したらフォロー願いますよ!」
 帳が拳銃を抜き放つのと同時、こちらも子供に目を付けたドラグナーがおもむろに腕を伸ばす。敵の目的と身体構成を考えれば、一捻りでその子供の生は失われるだろう。
 その中で、帳のリボルバーの引き金が引かれる。生じたのは黒い蛇、ゆらりと一瞬空を泳いだそれが敵の腕に喰らい付く。
「そこ、どけよ」
 そしてその間に追いついた降夜のパイルバンカーが、疾走の勢いを乗せてドラグナーの横っ面に叩き込まれた。凍気を伴うそれが黒い竜鱗を穿ち、敵を一歩後退させる。
「よし、確保だ」
「ああ、今の内に避難させておくぜ」
 降夜と共に、子供を抱えた双吉が下がる。憤りの声を上げる一体に呼応するように、三方から迫るケイオス・ウロボロス達も牙を剥いて追いすがる。
「そこまで、だ」
 一旦距離を置こうとする二人と入れ替わりに前に出たスプーキーが、尾を鞭のように振るって敵の群れを牽制、勢いを削いだ。
「とりあえず、第一目標達成かな」
 背後の人々を敵から隠す様に翼を広げ、スプーキーが視線を横に走らせる。敵は、複数体固まって動いていたようだ。ならば、この騒ぎで付近に居た個体は纏めて釣れるか。
「前衛は任せてほしいの!」
「油断しないでください、何体来るか分かりませんよ」
 フィアールカ、そしてオルンのブレイブマインが戦場を彩る。警戒し、威嚇するような仕草を見せる敵の方へ、エヴァンジェリンが踏み出した。
「さぁ、いこうか……」
 伸ばした片腕に、オウガメタルが絡みつく。手始めはやはり正面の敵へ、液体金属を纏った腕での破鎧衝を放った。
 衝撃に、ドラグナーの赤い瞳が揺れ動く。だが一体がダメージを受けたところで、他が止まるわけでもない。別方向から飛び掛かる敵が、多数。
「ドラグナー総数、今のところ5体です。殲滅しましょう!」
「了解したのよ!」
 帳の制圧射撃に次いで、フィアールカとスームカがエヴァンジェリンの左右に並び、それぞれに攻撃を受け止める。突き立てられる爪、そして牙をその身で止めて、彼女等は反撃を開始した。
「歯ァ食い縛れなの!!」
 螺旋を描く気を纏い、フィアールカの拳が奔る。

 敵の一団の侵攻を阻む内に、双吉とスプーキーが救い出した子供を市民に預ける。
「あ、ありがとう! 奴等が来た時はもうダメかと……」
「ああ、この子も大きな怪我はしてないみたいだ、さっさと連れて避難してくれ」
 声を震わせるその男性の肩を叩き、双吉はまた戦場へと意識を戻した。
「この先に病院があったはずだ、念のためそこで診てもらうと良い」
 スプーキーもまた、その後に続く。
「ここを片付けたら僕達も様子を見に行く。病院に集まっている人々が居たら、そう伝えてくれ」
 くしゃ、と子供の髪を撫でて、もう一度銃を手にした。
 この親子も、きっと今日こんな目に遭うとは想像もしていなかったはずだ。悲劇も理不尽も、この世の中にはありふれたものらしい。
 ――だからと言って、決して看過できるものでもない。そんな思いを胸に、奏多が同列のオルンへと呼び掛ける。
「そちらは任せて構わないか?」
「ええ。こんなところで脱落されては困りますからね」
 この先を含めた見解を口にしたオルンは、奏多に合わせてウィッチオペレーションを実行。施術により、フィアールカとスームカの負傷がそれぞれ軽減された。
 そして同じく、不条理こそ振り払うべきだと、降夜は敵の動きを緩めるべく前に出る。地面沿いぎりぎりで放たれた旋刃脚は、ドラグナーの足首部分を深く抉った。
 そんな攻撃に翻弄され、バランスを崩したドラグナーが牙を晒して吠える。抵抗するケルベロス達を焼き尽くす様に、降夜に向けて炎が伸びた。しかし。
「ぬるいな」
 燃え盛る光と熱、その中から現れた腕が、ブレスを吐いたケイオス・ウロボロスの頭部を鷲掴みにした。
「ドラゴンの贄になるのが役割なんだろ? 俺にもちと分けてくれよ、そのエネルギー!」
 炎を割って進み出た双吉が、腕力に任せて敵の身体を引き裂いた。
 返り血と苦鳴が、辺りを染める。
「美味いものでもないだろうに。だが――」
 力を奪うという発想は悪くない。そう言って、エヴァンジェリンはまた別の個体へとナイフを振るい、黒の竜鱗をズタズタに切り裂いていった。
 仲間が倒れ行く中で、残った一体はなおも敵に抗う姿勢を見せる。忠誠の成せる業か、それとも統率によるものか。
 閉じる牙を眼前で避け、スプーキーが銃口を跳ね上げる。
「君達の慕うドラゴン様とやらは、それほど立派なものではないよ」
 ドラゴンではなくドラゴニアンとして、その眸に浮かんだのは、憐憫か。
「……お腹を空かせた、憐れな駄々っ子だ」
 引き金が引かれる。放たれた真紅の弾丸が、敵の赤い瞳を砕いて炸裂した。

●掃討
 塞がれた扉に爪を突き立て、ドラグナーが嘲笑するように吠える。市民達の必死の抵抗による産物も、その足取りを僅かに緩める程度に過ぎない。それでもわざわざバリケードに一撃を加えるのは、病院内に逃げ込んだ人々の恐怖を煽るためだろうか。
「楽しそうだな」
 しかしその真後ろ、現れた降夜が音速の拳でその個体を殴り飛ばした。
「――!!」
 病院への侵攻を防がれ、付近に居たケイオス・ウロボロス達が色めき立つ。
「全く、ゆっくり休んでいる暇もないですね」
「贅沢言ってられる状況でもねぇからな」
 追いついたオルンが溜息と共に、ライトニングウォールを展開、双吉達前衛の傷を癒す。だが、回復よりここへの移動を優先した甲斐はあったというものだろう。
「よく頑張ったな。……もう少しだけ、頑張れるか?」
「は、はい! ありがとうございます!」
 降夜がバリケードの隙間から病院内に呼び掛けて、居合わせた消防、警察の人間に、帳が指示を出す。
「奥に隠れていてください。あ、窓も塞いでくださいね! あいつら飛びますから!」
「……早めに様子を見に来てよかった」
「全くだ。……もう、これ以上の好き勝手はさせん」
 安堵の息を吐いたスプーキーが鋭い爪を出す横で、エヴァンジェリンがゾディアックソードを抜き放った。
 星座の輝きが、こちらを窺うドラグナー達を凍てつかせる。牙を剥くスームカを先頭に、両者は各々の敵に向かって飛び掛かった。

 ケルベロス達と集まってきたドラグナーがぶつかり合い、互いに牙を突き立て合う、そんな中。
「ここは任せな」
「ああ、頼んだ」
 エヴァンジェリンに代わって双吉が敵の攻撃を受ける。爪の狙いが逸れた事を悟り、そのドラグナーは飛び上がってぎゃあぎゃあと威嚇するように吠える。
「……!」
 その動きに、奏多が反応した。
 ここまで回復に徹していた分、彼は全体の状況を的確に掴んでいる。それは、味方の消耗のみならず、敵の動きにも言える事。その違和感を逃さず、奏多は銃口を向けた。
 銀の終極。放たれた銀の弾丸が触媒として作用し、氷の飛礫を生み出す。そのまま欠片にとどまらず、凍てつく波は無数の氷刃となり、不用意に飛んだ敵の翼を切り裂く。
 墜落した敵を待っていたのは、フィアールカの透き通ったピンヒール。
「これなるは女神の舞、流れし脚はヴォルガの激流! 呑み込んであげるの!」
 サラスヴァティー・サーンクツィイ。踊るように、舞うように、怒涛の如く放たれる蹴撃が、敵を貫き、戦闘不能に持ち込んだ。
「これは、指揮官が倒れたか……?」
 乱れた敵の動きに、確信を深める奏多。残る一体は、敵わぬ状況に戸惑ったか、こちらに背を向けていた。
「逃げるつもりか?」
「そうはいかん」
 瞬く間に距離を詰め、降夜がケイオス・ウロボロスを蹴り落とす。敵の足止めを彼に任せ、エヴァンジェリンは両手を高く掲げていた。
 天を裂く極光の白刃。構えた手の内に光が生じ、空へと伸びる。
「……これで、仕舞いだッ!」
 そして、極大の光刃が振り下ろされる。光の奔流に飲み込まれ、ドラグナー塵すら残さず消滅した。

●迫り来るもの
 そこからの活動は、より容易いものになった。ケルベロス達は担当区域を回り、統率の乱れた敵を各個撃破していく。
 多少予定外の事はあったが、結果としてこの地帯の被害は最小限に抑えられていた。

 一つ、二つ、銃声がビルの間をこだまする。
「よく響くでありますなー」
「それだけ、辺りが静かになったということだろうね」
 硝煙の上る銃を手に、帳とスプーキーが言葉を交わす。そんな二人の間に、上空から降ってきた黒い影が、ぐしゃりと音を立てて墜落した。
「着地成功、なの!」
「いえーい」
 一緒に降ってきたフィアールカとツインテールの美少女が、敵をピンヒールで踏みつける形でポーズを決める。きらっ、と星が流れた後、美少女の幻の中から双吉が出てくるわけだが。
「終わりだ。貫け」
 足下の敵からナイフを引き抜く双吉の横で、降夜がダメ押しの一撃を加える。びくん、と最期に大きく跳ねて、そのドラグナーは動かなくなった。
「これで何体目だ?」
「どうだろうな。見つけた分は、全て仕留めていると思うが」
 首を鳴らす双吉に、別の個体を真っ二つにしてきたエヴァンジェリンが答える。落ち着く暇もない連戦、それによる疲弊が隠せなくなる頃ではあるのだが。
「まだまだいけるのよ!」
「流石ですね! その調子で本官の分までがんばってくださいフィアールカ殿!」
「局長も働くのよ?」
 丸投げしようという試みは、結局笑顔で封じられた。
「そうだな、そろそろ陣形を変えても良い頃だろう」
 それでも滲み出る消耗を察し、前衛と後衛の入れ替えを奏多が申し出る。腕を拭っていた降夜も、それに頷き返した。
「これで全部なら話は早いんだがな。まだ近くに居そうか?」
「分かりません、ですが――」
 答えたオルンが、鼻先を上に向ける。風の臭いを嗅ぐように、そして変わり行く空気を探るように。
「――ここまでのようですね」
 東の空に、小さな影が見える。距離からして大きさは定かでないが、羽ばたく軍勢が、こちらに向かっているのは確かだ。
 援軍、という言い方は正しくないだろう。敵陣営にとってはあれこそが本命、あれこそが本隊。
 それは、竜十字島から飛び立ったという、ドラゴンの群れ。
「本番はこれからってわけかよ。キッツいねぇ……」
 双吉が呟く。
 ドラグナーを打ち払い、得られたモノは一時の静寂。だが迫り来る嵐は、既に彼等の眼の前まで来ていた。

作者:つじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月23日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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