魔竜王の遺産~活きる拳の活路

作者:幾夜緋琉

●魔竜王の遺産~活きる拳の活路
 熊本県、熊本市市街地の一角。
 様々な所から響き渡るは、悲鳴、怒号……そして、断末魔。
『や、やめろ、やめてくれえええええ! ……ぐぅ……』
 悲痛な叫びが響き渡る熊本市内は、もはや惨状でしかない。
 そして、その声の出元には、多くの熊本市民の痛々しい姿が積み重なっており。
『……』
 と、微かな笑みを浮かべるは、ドラグナーの女。
 指ぬきグローブを嵌めて、手をぐっと握りしめ……その手には、多くの血が滴る。
『さぁ、次!』
 と言うと共に、彼女は配下の竜牙兵達と、次から次へと血祭りに上げて、殺戮していくのであった。
「大変です、皆さん!」
 と、ケルベロスの前に、僅かな焦りの表情と共に表れたセリカ。
「遂に、大侵略期のドラゴンを復活させていた黒幕が、動き出した様なのです!」
「敵の目的は『魔竜王の遺産ドラゴンオーブ』、そのありかを遂に発見してしまった様なのです」
「このドラゴンオーブの力は不明なのですが、魔竜王の遺産とも言われて居る事から、その力は魔竜王再臨の可能性すらあり得るものでしょう……それを、ドラゴン達に渡す事は出来ません」
「今、ドラゴンオーブの封印場所である『熊本市』には、竜十字島より出現したドラゴンの軍勢『アストライオス軍団』が向かってきている様です。でも……敵はそれだけではない様なのです」
「このドラゴンの軍勢に先立ち、敵は魔空回廊を最大限に利用し、配下の軍勢を送り込み、ドラゴンオーブ復活のためのグラビティ・チェインを確保するべく、市街地の破壊と略奪を行おうとしています」
「配下の軍勢に聳えるは、ドラグナー、竜牙兵、オーク、屍隷兵で、合せて9つの部隊に別れており、それぞれが熊本市街の略奪を行おうとしている様です」
「竜十字島から出現したアストライオス軍団が到着するまでに『ドラゴンオーブの封印解除に必要なグラビティ・チェイン』を略奪しようとしているのでしょう」
「熊本市の戦いで、多くのグラビティ・チェインを略奪されればされるだけ、ドラゴンの軍勢によるドラゴンオーブ奪取を阻止出来る可能性が下がってしまいます……それを、皆さんに阻止してきて頂きたいのです」
 そして、セリカは。
「敵は先ほど言った様に九つの軍勢に別れて居ます。そしてその目的はグラビティ・チェインの略奪ですから、市民を出来るだけ多く殺すのが目的……市民を見つけては、殺戮する、の繰返しです」
「ただ、各軍勢のボスを撃破する事が出来れば指揮命令系統はぐちゃぐちゃになり、各々の欲望のままに動く事になるでしょう」
「軍勢についてそれぞれ説明しますが、まずドラグナーの軍勢から説明します」
「一人目『竜性破滅願望者・中村・裕美』。彼女はドラゴンの封印が解かれる事件を起こした元凶のドラグナーで、配下のケイオス・ウロボロスを利用して活動します」
「そして二人目、三人目のドラグナーは『竜闘姫ファイナ・レンブラント』と『竜闘姫リファイア・レンブラント』。それぞれが武術を得意とするレンブラント姉妹で、ファイナの方は武術家の死体を利用した屍隷兵の軍勢を、リファイアは竜牙兵の軍勢を利用し、一般人を殺戮しようとしてくる様です」
「次の軍勢はオークです。四人目『嗜虐王エラガバルス』。彼はとても残忍な暴君で、捕らえた女性に凌辱の限りを尽くす、決して許せない相手で、配下のオークも己が血を引く者で固めて居る様です」
「そして五人目『餓王ゲブル』。これは『強い女』を求めるオークの王の様で、その拘りがとても強く、女に飢えた飢餓状態のオーク集を利用している様です」
「六人目『触手大王』。彼は突然変異により、触手が異常に増殖し、異常に発達しているオークで、同様に触手が異常発達した配下を、王子とよばれる3人の息子と共に率います」
「最後の竜牙兵の軍勢……七人目『黒牙卿・ヴォーダン』は、黒鎧の、騎士型竜牙兵です。配下の者達は、馬から下りて鎧が軽装になってはいますが、外見はヴォーダンに似ている様ですね」
「八人目『斬り込み隊長イスパトル』は、四つの腕を持った剣士型竜牙兵です。配下はヴォーダンと同様、鎧が簡素化され、腕も二本の姿になっています」
「そして九人目……『黒鎖竜牙兵団長』。彼は今回の大ボスである『覇空竜アストライオス』直属の軍団長であり、剣と黒鎖を武器としている者達です。配下もほぼ同じ姿をしている為、見分け辛い様です」
 そして、セリカが。
「この後、竜十字島を出撃したドラゴン軍団と戦う事にもなるでしょう。ですが、皆さんの力が無ければ、彼らは力を付けてしまう事にもなります。どうか、それを止めてきて頂ける様、お願いします」
 と、深く頭を下げた。


参加者
クロノ・アルザスター(彩雲のサーブルダンサー・e00110)
新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)
村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)
神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
野和泉・不律(ノイズキャンセラー・e17493)
氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103)
櫻木・乙女(星廻りの使徒・e27488)

■リプレイ

●山からの呼び声は
 熊本県熊本市西区。
 熊本市の中でも山間部に位置し、長閑な畑が眼前に広がり、古き良き街並みが広がる。
 ……が、そんな長閑な気配は、今は亡い。
『ぅ……あ、ああ……』
 目前の黒い鎖と、剣を持った竜牙兵達が……市民の前に不意に降り立ち、構える。
 当然ながら死を覚悟したであろうその瞬間……眼を閉じ、恐怖に体を震わせた彼。
「させるかっ!」
 走り込むなり、即座に達人の一撃を閃くは氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103)。
 不意を打たれる様に背後から攻撃を受けた竜牙兵……当然、すぐに別の仲間達が。
『オマエタチ……ダレダ!』
 怒り声を荒げる黒鎖竜牙兵……そして、他のケルベロス達も、竜牙兵に対峙する様居並び。
「魔竜王の遺産、ですか。貴方達が探している者は。まぁ、碌なものではないのは確かでしょうね。貴方達の主である竜共に、変に力を付けさせるのも良くありませんし……こういう虐殺は、きっちりと止めないといけませんね」
 と、物腰は丁寧ながらも、辛辣な言葉を言い放つ神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)。
 そして、それに頷きながらクロノ・アルザスター(彩雲のサーブルダンサー・e00110)も。
「そうだね。ここまであからさまに動いて来るだなんてね。そっちも必死な訳だ」
 肩を竦め、軽く挑発。
 その挑発に対し、黒鎖竜牙兵達は。
『ナンダト! 我ラガ主ヲ侮辱スルカ!』
『命知ラズガ、殺シテヤロウ!』
 剣と鎖を鳴らしながら、怒れる黒鎖竜牙兵。
 そんなやりとりをしていたケルベロス達に、一度は死に瀕していた彼が目を開けて、ケルベロスらを見上げてくる。
 ……そんな彼を安心させる様に、新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)と村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)が。
「ケルベロス推参。我らは力弱き者を助けるために参じた」
「大丈夫? 立てるかな? この地図の赤丸の部分に向かってくれる? 大丈夫、君だけじゃなく、この村のみんな、そこに避難して貰ってるからね」
 恭平が安心させつつ、既に安全を確保した箇所へ逃げる指示を与えるベル。
 その地図を握りしめ、何とか頑張ってその場から逃げる様走り始める彼。
『サセルカヨ!』
 怒れる黒鎖竜牙兵……ただ、こいつらがリーダーかどうかは、分からない。
 配下の黒鎖竜牙兵も、リーダーの黒鎖竜牙兵も、どちらも……ほぼ同じ様な姿をしているから、見分けが付かないのである。
 そんな黒鎖竜牙兵の鎖と剣の一閃を、クロノのライドキャリバーのエアと、野和泉・不律(ノイズキャンセラー・e17493)のライドキャリバー、スウィートはエンジン音を響かせ、身を呈する。
 そして、敵陣の攻撃を一巡受け止めると、攻撃を受けたエア、スウィートにベルが。
「最初から飛ばして来ますねー。勿論、それに怯んで帰るようなら、ケルベロスは務まりませんけど」
 と言いつつ、サークリットチェインを前衛陣に掛け、更にマロン・ビネガー(六花流転・e17169)も。
「そうですね。ともあれ、余り時間を掛ける訳にも行きません……強化しますから、一気に仕掛けましょう」
 と祝福の矢を結里花に付与。
 そしてクロノと結里花が。
「これも大変なミッションになるけど、極力被害が出ない様に力を合わせて頑張ろうか」
「ええ。神宮寺の巫女として、きっちり仕事を果たしましょう」
 と頷き合うと、先ずクロノが先に、達人の一撃を叩き込む。
 そして同列の櫻木・乙女(星廻りの使徒・e27488)も。
「ええ……この辺りは、私の大切な故郷です。そこを破壊する貴方達は、絶対に許せません!」
 並々ならぬ気合いと共に、スターゲイザーの足止め付与の攻撃。
 そして、続くジャマーの恭平と、ベルのシャーマンズゴースト、イージーエイトは。
「我らが前の不破の盾となれ!」
 と黒曜氷壁を展開し、BS耐性を展開する一方、イージーエイトも祈りを捧げる、で回復とBS耐性の付与を重ねる。
 又、不律は脚部からスピーカーを展開し。
「……それでは、始めます」
 とメタリックバーストにより、更なる強化。
 そして、最後に動く攻撃の要、クラッシャー。
「伸びろ! 如意御祓棒!」
 と如意直突きで突き立て……集中攻撃を受けていた一体を討ち倒す……その強さからすると、まず倒したこいつは、リーダー格ではないだろう。
「うーん……団長さんじゃない様ですね。そう、団長以外の竜牙兵さんにはお名前が無いです? 呼びづらいです」
 とマロンのあどけない言葉。
 それに黒鎖竜牙兵は。
『チッ……フザケヤガッテ!』
 更なる怒りを露わにしながら、黒鎖を振り回す黒鎖竜牙兵。
 だが、決して怯む事はなく、対峙し続け……竜牙兵を、決してこの先には通さない様、強い意志を持って立ち塞がる。
「熊本は死守、なのです!」
 と、決意の言葉と共に、仲間へ更に祝福の矢による強化を付与。
 またベルも、後衛を補助する為のライトニングウォール。
 防御を強化した上での……反撃攻勢へ。
 取りあえず攻撃を当てるべく、恭平は。
「刻め!」
 と短く呟き、クリスタルファイアの一撃を放ち、クロノはサイコフォース、乙女がスカルブレイカー。
 骨を砕く画如く、渾身の力を叩き込み、骨を砕く。
 そして不律はブレイブマインで戦力強化を行い、結里花が。
「潰せ、白蛇の咢!」
 ドラゴニックスマッシュに加え、緋桜は。
「いいか、命が惜しい奴は戦う前にさっさと失せろ! 逃げるなら命は奪わない!」
 と敢て降伏勧告を行うものの……既にヒートアップし尽くしており、その言葉を聞き届けることも無い。
 そして……怒濤の如きケルベロスの攻撃で以て、黒鎖竜牙兵を一匹ずつ、確実に仕留め……取りあえず、先ずの第一陣を討ち倒す。
「……ふぅ、どうにか一陣完了、か」
 と、軽く汗を拭い去る……が、すぐに。
『キャアアアア!!』
 また別の悲鳴が響く。
 その声の方向にすぐ乙女が。
「……あっちですね」
 と直ぐに方向を指示。
「流石に連戦ね……まあ、仕方ないけれど」
「ええ……でも一般人は絶対に傷付けさせません……!」
 クロノに頷く結里花が、力強い言葉で頷くものの、ベルが。
「そうだね。あ、乙女さん連絡は……そっか、出来ないんだっけ」
 と溜息を吐くと、頷く乙女。
「ええ……何故か分かりませんが、ノイズが一杯で声が全く聞こえません。空は……信号弾も打上げられていない様ですし、まだボスは現れていない様です」
「了解。ならばやるべき事は一つ……一般人を救いましょう!」
 と、仲間を促し、ケルベロス達は次なる黒鎖竜牙兵の下へと急行していった。

●襲い来る影は続く
 そして叫び声のした箇所に付くと……どうにかこうにか、逃げようとしている一般女性。
 そんな女性と黒鎖竜牙兵の間に割り込む様に立ち塞がると……不意に懐に潜り込んでのサイコフォースをクロノが叩き込む。
 そして、乙女も。
「折れぬ心は、朽ちぬ魂は、深淵をも伐ち祓う無限の勇気。勇敢なる魂よ、今此処に集いし戦士達の導となれ」
 と、『魚座/真「Ame du baresark」』を最初から叩き込み、一気に体力を減らす。
 又、ベルは。
「ねえ、ドラゴンオーブとやらの情報持ってるのかなー? 持ってれば教えて欲しいんだよねー」
 と言うものの、その黒鎖竜牙兵は目立った反応を帰す事は無い。
「残念だね、君達も団長じゃないみたいだし……それじゃ、さっさと仕留めていくよ」
 とベルは敢て問いかける事で、黒鎖竜牙兵の確認をした様で。
 勿論、その間に地図を渡し、一般女性を避難所に逃げる様指示を与え、逃げて貰う様にする。
 そして、逃走阻止しようとする黒鎖竜牙兵に対しては、他のケルベロスが立ち塞がる事で、絶対に一般人への被害を及ばない様に。
「……させませんよ」
 と、不律は呟きながらも、ブラッドスター。
 又、敵の数が多い中では結里花が。
「二人心を合せれば、その一撃は金を断つ!! 連携奥義断金一式!! 疾風迅雷!!」
 『連携奥義「断金一式」』の一撃で敵陣に一斉攻撃すると、緋桜も『最後の一撃』。
 確実に一撃、また一撃を食らわせることで……一匹ずつを仕留め続ける。
 数体倒された所で。
『クソッ!』
 と怒れる言葉と共に、その場から撤退する黒鎖竜牙兵も……。
 ……いや、それだけではない。
 仲間達が仕掛けたのだろうか……傷を負った黒鎖竜牙兵が、其の場を通りがかると。
「させません!」
 と、乙女はバッ、とその前にも立ち塞がり、対峙。
 対峙する黒鎖竜牙兵は、どうにか命を維持すべく、逃げようとするのだが……並々ならぬ乙女を初めとした、ケルベロス達の意志で、逃がさない。
 勿論、一度に対応する人数が増えれば増えるほど、戦闘の難易度は上がるのだが……。
「紅蓮よ、邪悪なるものを焼き払え!」
 と結里花の紅蓮大車輪や、緋桜の『最後の一撃』。
 そしてクロノも。
「風よ! 私を導いて! ロンドバルデュリアー!!!」
 『疾風の尖撃』で攻撃。
 撃ち抜き、体力を減らし……殺す。
 ただ、黒鎖竜牙兵を倒しても、まだまだ数多くの黒鎖竜牙兵が現れ、対峙。
 連戦に続く連戦に、かなり疲弊してくるケルベロスだが……決して諦める事無く、連戦に次ぐ連戦。
 そして……多くの黒鎖竜牙兵を倒し、その波が収まる……だが、ケルベロス達はもう、殆ど力尽きている位の状態。
「……ふぅ。どうやら、波は過ぎた様ですね」
「ああ……ここでは勝てたな、お疲れ」
 と結里花に頷く恭平……と、そこにマロンは。
「むぅ、熊本なので、あのクマに会えると思ったのですがデウスエクスです! がっかりです!」
 とぷんぷんと怒るのだが……まぁ、それはさておき。
 ふと空を見上げると……東の空に、米粒の様に……近づいてくる影。
「……あれは……何です?」
 とマロンの言葉に、緋桜が。
「……あれは……ドラゴン、か……?」
 ……米粒の様な姿から、段々と大きくなりつつあるドラゴンの姿。
 その姿に、次なる戦いの予感を感じずにはいられなかった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月23日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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