熊本県熊本市。
その日、ドラゴンが有する強襲型魔空回廊『八代轟炎竜獄』を通って、竜牙兵、オーク、ドラグナーの大軍が市内へと雪崩を打つように攻め込んできた。
熊本の空を、海を、大地を、侵略者の群れが覆いつくしてゆく。
逃げる場所はどこにもない。
熊本に住む70万を超える市民たちは、ドラゴンの配下たるデウスエクスたちによって成す術なく虐殺され、そのグラビティを奪いつくされたのである。
熊本県西区、北側。
西には島原の雲仙岳を望むこの地もまた、例外ではなかった。
騎士の装束に身を包んだ痩身の竜牙兵たちは一糸乱れぬ統率された動きのもと、逃げ惑う人々の首を雑草でも刈り取るかのようにはねてゆく。
黒鎖の巻き付いた剣が振るわれるたび道路は血に染まり、助けを求める声は止んでゆく。
この日、熊本の街は、地球上から永久にその姿を消そうとしていた。
「――以上が、予知された未来の情報だ」
ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は、いつもより重々しさを感じさせる声で、そう言った。
ドラゴン勢力の大軍が、熊本に侵攻する――。
得られた情報の断片を繋ぎ合わせるように、王子はケルベロスたちに情報を伝えてゆく。
ドラゴンを復活させていた勢力の真の目的が『魔竜王』と呼ばれたドラゴンの遺した遺産『ドラゴンオーブ』の探索であること。現在、このオーブは熊本市のどこかに封印されていて、封印の解除には大量のグラビティ・チェインが必要となること……。
ドラゴンオーブの持つ力は、現時点では不明だ。これまでに行われた調査によれば、魔竜王の再臨すら可能とも言われるそうだが、これとて真偽を確かめる術はまだない。
「熊本に派遣された軍団はドラゴンの先遣隊だ。彼らとの戦いの後にはアストライオス――ドラゴンとの決戦が控えていると思ってほしい」
先遣隊の目的は至ってシンプル。本隊到着までにオーブの封印を解くことだ。
どうやって?
決まっている。熊本70万の民を虐殺し、彼らのグラビティ・チェインを略奪するのだ。
「グラビティを奪われるほど、ドラゴンオーブが奴らの手に渡る可能性は高くなる。それはそのままケルベロスが、地球が、絶体絶命の窮地に陥る危険をはらんでいるのだ」
熊本を襲ったドラゴン勢力は、全部で9つの軍団に分かれている。
ドラグナーを率いているのは、事件の元凶である「中村・裕美」。そして武術を得意とするレンブランド姉妹の「リファイア」と「ファイナ」。
オークを率いているのは「嗜虐王エラガバルス」、「餓王ゲブル」、「触手大王」。
竜牙兵は「黒牙卿・ヴォーダン」、「切り込み隊長イスパトル」、「黒鎖竜牙兵団長」。
いずれもドラゴン勢力の精鋭ばかりで、非常に高い戦闘能力を有している。
「各軍団の詳細は、これから配布する資料に書いてある。必ず目を通すように」
ケルベロスに資料を配りながら、ザイフリートは話を続ける。
「敵はいずれも軍団の指揮官によって統率されている。彼らを素早く撃破できれば、配下たちの連携は乱れ、確固撃破も容易になるだろう」
敵の目的はグラビティ・チェインの略奪である。無抵抗の人間を発見すれば問答無用で殺しにかかるだろう。今回の戦いでは市民救出も仕事のひとつ。過酷な戦いが展開されるであろう事は想像に難くない。
ザイフリートは言う。
集団対集団の戦闘では、突出した戦力よりも仲間同士の密な連携が勝敗を分ける。
故に、戦いには必ず、意思を統一して臨むようにと。
それが出来なければ、勝利は覚束ないと。
「熊本の命運はお前たちにかかっている。どうかケルベロスとして為すべき事を為し、ドラゴン勢力の魔の手から熊本を、オーブを守ってくれ――武運を祈る!」
ザイフリートはケルベロスに礼を取り、ヘリオンの操縦席へと乗り込んだ。
参加者 | |
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月隠・三日月(暁の番犬・e03347) |
リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168) |
上里・もも(遍く照らせ・e08616) |
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754) |
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801) |
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597) |
エレアノール・ヴィオ(赤花を散らす・e36278) |
海乃宮・玉櫛(海神の衛士・e44863) |
●
熊本県熊本市、西区北東部。豊かな緑に囲まれた山間の路にケルベロスはいた。
昼だというのに太陽が見えない。街から立ち上る墨のような煙が青空を覆っているのだ。絶え間なく鳴り響くサイレンと、時折遠くから聞こえる爆発音が、月隠・三日月(暁の番犬・e03347)の心を妙に騒がせた。
「皆、頑張ろうぜ! 必ず竜牙兵を追い払うんだ!」
檄を飛ばしながら、上里・もも(遍く照らせ・e08616)が道路を駆ける。オルトロスの『スサノオ』と共に。
(「神ならぬ身で、何処まで護れるか判らんが――やれるだけやるさ」)
先頭を走る櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)の精神は、真水のように澄み切っていた。
戦場において、恐怖や怒りは判断力を奪う。感情に溺れては負けだ。そして彼には負ける気も、ましてや死ぬ気もない。
(「生きて帰って、見たい顔もあるしな」)
長い一日になりそうだ――呪符を手慰みに道を走る千梨の横で、エレアノール・ヴィオ(赤花を散らす・e36278)と海乃宮・玉櫛(海神の衛士・e44863)の拡声器を介した声が周囲一帯に警戒を呼び掛けている。
「わたくし達はケルベロスです! 慌てずに建物の中に避難して下さい!」
「外は危険だぜ! 建物の中に避難して、外に出るなよ!」
建物に入れ。外に出るな。ももたちと一緒に避難を呼びかけるリューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)は、愛用のレイピアを無意識に握りしめた。
(「この街に竜牙兵の軍団がいる。きっと奴らは、今も人々からグラビティを……」)
彼の脳裏をよぎるのは、かつて竜牙兵に心臓を奪われた記憶。地獄化した心臓を燃え上がらせる、デウスエクスと戦う決意だ。
「俺はもう、貴様らを恐れない。だが……」
この怒りは、決して忘れない。リューデは小声で呟いた。
「……そっちはどうだ?」
一方、ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)は周囲を索敵しつつアイズフォンで他班との通信を試みていた。だが、返ってくるのは砂の混じったノイズだけだ。
「駄目だ、電波状況が悪い」
「くそったれが」
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)の返答に、ハンナは悪態をついた。
(「いざって時は、こいつの出番か」)
ハンナは携帯の特製信号弾に目をやった。敵に捕捉されるリスクを考慮すれば、そう気軽には使えない。スーパーGPSで現在地を確認して、ハンナは西の方角を指さした。
「向こうに学校がある。まずはそっち行くか」
「そうだな、そうしよう」
ハンナの言葉に、三日月の顔が険しくなった。
(「学校は、大勢の無力な民間人を襲うのに最適の場所。竜牙兵がいる可能性は高い」)
ケルベロスたちは一路、学校へと駆ける。
●
辿り着いた8人が見たのは、校門前を警戒する竜牙兵の姿だった。
(「あいつら……!」)
敵の数は3体、見張りを兼ねた門番だろう。本隊は既に侵入した後に違いない。リューデは体中の血が逆流するのを感じた。
「貴様ら、子供たちをどうした!」
対する竜牙兵もケルベロスに気付き、剣を抜いて襲い掛かってきた。
「敵襲ダ! 応戦シロ!」
「ケルベロスが来たゾ!」
向かってくる敵を、三日月は冷静に観察した。
(「古びたマントに、黒い鎖が巻き付いた大振りの剣。黒鎖竜牙兵団に間違いない」)
敵への攻撃の命中率は全て同じ。つまり、あの中に兵団長はいない。
「邪魔だ、どけ」
「メンドクセェから纏めて行くぜ」
シャーマンズカード『無幻』をかざし、グラビティで拵えた猫の群れをけしかける千梨。それを追いかけるようにハンナの多弾頭ミサイルが発射され、敵の懐で炸裂した。
真っ赤な爆炎を突き破り、突撃してくる竜牙兵。キリノの金縛りを振り切り、スサノオのソードスラッシュを弾き飛ばし、三本の鈍色の剣閃がケルベロスに襲いかかる。
「貴様の罪を自覚させテやろう……傷が痛むたび、ワタシを想ウがいい」
三日月を庇った眸が、竜牙兵の間合いに飛び込み『Guilty/Scar』を叩き込んだ。
碧い炎をまとう眸の機械剣が直撃し、痛みを刻み込まれた竜牙兵が怒の咆哮をあげる。
「皆、行くぜ! どんどん行くぜ!」
仲間を『やせ我慢上等』で塞ぎながら、ももは彼我の戦力差を冷静に俯瞰した。
敵はさすがに精鋭だけあり、攻撃力が高い。リューデの百戦百識陣ともものヒールでは、回復で精一杯だ。とても後衛の支援までは手が回りそうもない。
「ロストワード殿、上里殿! 加勢する!」
それを察した三日月が掌中の鎖を投げて、サークリットチェインを仲間に施していった。この戦いはスピードの勝負だ。1秒の遅れが人々の生死に直結する。
「さあ、跪け」
敵意を露わに轟竜砲を発射するエレアノール。直撃を頭に受けて、ぐらりと傾く竜牙兵。そこへ玉櫛のファナティックレインボウが飛来し、竜牙兵は矢襖になって絶命する。
「ふむ。耐久力がさほど高くないのは救いか」
「櫟殿、敵が来たぞ!」
氷騎兵を召還する千梨めがけ、敵は黒鎖に取りつけた小鉄球を振り回して突撃してきた。
騎兵の氷槍と眸のコアブラスターで、体のあちこちが吹き飛ぶのも構わず放たれた竜牙兵の鉄球が次々と襲いかかる。
玉櫛は鉄球の片方を身代わりに受け、竜牙兵に狙いを定めた。自らを球状に覆う血化水紋陣の血が、ひときわ赤い輝きを放つ。
「厄介だな。守りの薄いところを的確に狙ってきやがる」
「お前らハイエナか、竜牙兵ども。トドメってのはこう差すんだよ」
玉櫛の血装刺突法とハンナの如意直突きに体中を砕かれ、2体目が斃れた。
「月隠さん、ケガは平気か!?」
「ありがとう、このくらい大丈夫だ」
三日月はもものルナティックヒールに感謝を返すと、体に絡まる黒い鎖を解き、リューデと一緒に仲間の傷を塞ぎ始めた。
「そういえば、最後の敵は?」
「片付きましたよ上里さん、ほら」
エレアノールが指さす先では、千梨と眸、サーヴァント達の集中砲火を浴びた竜牙兵が物言わぬ骸となって転がっていた。
「本当に残念です――待っていろ竜牙兵ども、次会った奴は私がとどめを刺してやる」
エレアノールは声のトーンを瞬時に切り替えて、仲間達と共に学校へと突入した。
●
「皆、あれを!」
突入後すぐに、リューデが前方のグラウンドを指さした。
そこに見えるのは、中央に集められ、怯えた表情を浮かべる子供と教師たち。
そして、隊列を組んでこちらへ殺到する4体の竜牙兵の姿だ。
「足止めモ出来ヌトハ! 使えヌ奴らダ!」
「生カシテ返スナ! マトメテ叩き潰セ!!」
先頭に3体。その後ろに1体。
剣と鉄球をふりかざし、まっしぐらにこちらへ向かってくる。
「……月隠、奴らの中に団長は?」
リューデの問いに、三日月はかぶりを振った。
「ならば問題はない。まとめて片付けル」
眸は機械剣を構え、矢のように先陣を突出して駆けた。
もとより地球人に捧げると決めた命、惜しくはない。先頭の1体をデストロイブレイドで切り伏せながら、眸は言った。
「貴様の相手はワタシだ……来い」
「あの男を狙エ! 大剣を担イダ、金髪の男ダ!!」
竜牙兵の刃が、黒い鉄鎖が、次々に眸へと殺到する。
させじと射線に飛び込んで盾になる、スサノオと玉櫛。
「皆、心配するな! ケルベロスが必ず助けるぞ!」
「もう大丈夫だぜ、私達が来たからな!」
リューデとももは前衛の味方を回復しながら、グラウンドの子供たちを懸命に励ました。それを聞いた子供たちの目に、希望の明かりが灯っていく。
「よし皆、攻撃だ!」
三日月が爆薬を放り投げて、スイッチ起動。カラフルなブレイブマインの陣幕を合図に、ケルベロスは一斉に攻撃に出た。
竜牙兵に食らいつくハンナの御霊殲滅砲と千梨の悪戯猫。
玉櫛のファナティックレインボウと、エレアノールの時空凍結弾。
キリノの金縛りとスサノオのソードスラッシュ。
グラウンドの地形を変えるほどの膨大なグラビティが、濁流となって竜牙兵を呑み込む。
(「早く倒れろ! 早く……!」)
『やせ我慢上等』で前衛を元気づけて、ももはリューデと共に仲間の回復に専念する。
間断なく浴びせられる敵の攻撃がじわじわ味方を蝕み始めている。盾を務める眸と玉櫛、支援を最優先に動いている三日月は、特にダメージが大きい。
「犬ドモノ血デ大地ヲ染メロ!」
「殺セ殺セ殺セエェェェ!!」
土煙を背に、竜牙兵が雄叫びをあげて迫る。剣がうなり、鉄球が空を裂き、ケルベロスを殲滅せんと襲いかかる。標的になったのは、ハンナとエレアノールだった。
「ぐううっ!」
ハンナへの攻撃を庇いつつ玉櫛は血装刺突法で敵を振り払う。ダメージの蓄積が著しい。あと一回、直撃を受けると厳しそうだ。
「海乃宮、決して無茶はするな。あまり飛ばすともたないぞ」
碧の炎を帯びた大剣を振るい『Guilty/Scar』で敵を射抜く眸の隣で、千梨が言った。
「大丈夫だって櫟さん、多少の無茶も盾役の仕事っしょ。それに――」
言葉を切る玉櫛。その前方で、千梨の氷騎兵で竜牙兵が串刺しにされて動かなくなる。
「もたせるぜ、あいつら倒すまでは。オレは絶対に『できない』と言わない男だ!」
「ハハッ、上等よ。男の子はそうでなきゃな。ヴィオ、右の奴を狙うぞ」
「承知しました――さっさと落ちろ死に損ないが。逃がすか!」
ハンナはエレアノールに声をかけ、敵中衛の1体に火力を集中させた。
子供たちを刺激しないよう、エレアノールは小声で『エクスプロード』を発動。気咬弾と灼熱の火球が標的めがけて吸い込まれ、回避を試みた竜牙兵を木っ端微塵に破壊する。
「よーし、残るは1体だけだな!」
「油断するな上里殿、来るぞ!」
ももと三日月が回復している前衛めがけ、最後の1体が決死の攻撃を仕掛けてきた。横薙ぎの剣捌きを千梨は身を切って避けると、
「悪いな、これで終わりだ」
デスサイズシュートを袈裟懸けに振り下ろし、竜牙兵の胴を両断した。
敵の全滅を確認すると、ハンナはすぐさまスーパーGPSで次の戦場を探す。
(「近くに大きな公民館がある。多分、そこでラストだな」)
次なる戦いに備え、玉櫛とリューデ、眸とももは、サーヴァントと共に隊列を交代した。
リューデとももは前衛。玉櫛と眸は後衛。現状で組み得るベストの陣形だ。
「それじゃ行こう、皆!」
助けた人々に見送られながら、ももを先頭に、8人は最後の戦いへと向かう。
●
ケルベロスが辿り着いた先、公民館の駐車場の中央に空いたスペースには、竜牙兵に剣を突きつけられた市民が何人も並ばされていた。
「よう、楽しそうなことしてるじゃん。ちょいと邪魔させてもらうぜ!」
敵の気を引くように大声で自分たちの存在をアピールするもも。竜牙兵たちはケルベロスの姿を認めると、怯える市民には目もくれずに襲い掛かってきた。
数は5体。T字を逆にしたような陣形だ。いずれも団長でないことを三日月は確認する。
「いい加減うんざりだ、さっさと倒れろ」
「――覗いてみるか?」
ケルベロスの砲火が敵の前列に浴びせられた。ハンナの御霊殲滅砲を食らった竜牙兵を、金色の槍の如きリューデの地獄の視線が残らず薙ぎ払う。
「怯ムナ、殲滅セヨ!!」
防御をかなぐり捨てた突撃で弾幕を潜り抜け、次々とケルベロスへ襲いかかる竜牙兵。
敵メディックの鉄球の一撃が三日月のENを剥ぎ取った。続くように、敵の攻撃が怒濤のように浴びせられる。
(「人々を守ル。そしてワタシ達も勝って帰ル」)
眸はすぐさま前列の負傷をフローレスフラワーズで癒した。無傷の者は誰もいない。誰がいつ倒れてもおかしくない状況だった。
「ちっ、しぶとい奴らだ」
体に巻き付いた鎖を解きながら、ハンナが舌打ちした。
前列の1体はディフェンダーのようだ。クラッシャーの仲間を庇い、消耗を最小限に抑えながら反撃の機を伺っている。
ジャマー1体は未だ無傷。メディックは千梨の氷騎兵に切り裂かれ、サーヴァントの集中砲火とエレアノールの轟竜砲の直撃を受けて沈んでいた。
残る4体の竜牙兵は態勢を整え、再度の突撃を仕掛けてくる。死なば諸共の覚悟で、狙いを三日月に定めたようだ。
「やれやれ、なりふり構わないってことか――上里殿」
血の溢れる脇腹を抑え、三日月はルナティックヒールを発動しようとしたももを制した。
この戦いに入った時から覚悟はしていた。どうやら、その時が来たようだった。
「ありがとう、もう十分だ――他の皆を頼む」
「えっ……」
三日月は最後の気力を振り絞り、シャウトで傷を癒す。あとは一撃でも多く耐えるのみ。
一瞬の逡巡の後、ももが前衛をやせ我慢上等で癒した直後、一斉に敵が突っ込んできた。
「しつこいぞ骸骨どもが」
「紅深く、宴も酣……落ちろ」
ハンナのミサイル群の炸裂と、千梨の散幻仕奉『宴鬼』が竜牙兵を包み込む。
宴鬼の紅葉を散らす爆風。しかし、腕がもげ、肋の骨が飛び散ってもなお、竜牙兵は狂犬のごとき突撃をやめない。
「どうした? てめぇの相手はこっちだぜ!」
玉櫛のファナティックレインボウに誘われ、1体の鉄球が狙いを逸れる。
さらに1体、パラライズで動きが止まる。
三日月めがけて放たれる鉄球の連撃。1撃目をガードし、そして――。
「……あとは、頼んだ」
二撃目の鉄球に吹き飛ばされ、そのまま三日月は意識を失った。
敵への怒りを叩きつけるように、一斉に反撃に出るケルベロスたち。
リューデが、エレアノールが、サーヴァントたちが、残らず敵前衛へと攻撃を注ぎ込む。
「ギャアアアアア!!」
パラライズで身動きが取れないクラッシャーが、全身に攻撃を浴びて道路に転がり死亡。
「ガッ――」
続けて敵ディフェンダーが残る前衛を庇い、防御態勢のまま絶命。残る2体は盾となった仲間の骸を蹴り飛ばし、なおも突撃をかけようとする。
だが、そこまでだった。
「射線上だぜ、そこは。食らいやがれ」
ハンナの気咬弾に頭を吹き飛ばされ、死体となって転がるクラッシャー。
最後に残ったジャマーにケルベロスの攻撃が集中し、
「終わりだ」
千梨の振り下ろすデスサイズシュートとともに、戦いは幕を下ろした。
●
目を開けると、煙に染まった空が視界一面に広がった。
「う……」
「あっ、気づいたかな?」
意識を取り戻した三日月を、ももが心配そうに覗き込む。
「みんなは……?」
「無事だよ。仲間も、街の人達も」
「よかっ、た……」
緊張が解けると同時に、どっとした疲労が三日月を襲う。
再び薄れゆく意識のなか、遠くからリューデの声が聞こえた。
「おい、あれを見ろ!」
視界に映ったのは、南西の河内山の方角から打ち上げられた指揮弾だった。
恐らく、敵の指揮官と接敵したのだろう。
「あたしらも長居は無用だ。帰投すっか」
ハンナの言葉に頷くと、ケルベロスは三日月を抱えて回収地点へと戻っていった。
仲間の無事と勝利、ただそれだけを祈りながら――。
作者:坂本ピエロギ |
重傷:月隠・三日月(暁の番犬・e03347) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年6月23日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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