●近い未来、熊本の市街地
「だめ、やめろ、やめて、下さっ」
ショーウィンドウが紅に染まる。
薙いだ刃が、乞う言葉の息の根ごと摘みとり。
先程まで庇っていてくれた男の首が、玩具のように転がった。
「やだ、嘘でしょ、やだ……、死なないで、ごめん、ごめんなさい、ごめんなさい」
誰に対するものなのかも分からぬ謝罪を漏らす彼女の震える足は、彼女を逃がす役には立ちそうにも無い。
捻じくれた山羊のような角を生やした竜牙兵は、虚ろにぽっかりとあいた眼孔から彼女を見下ろした。
「ひっ」
首に巻き付つけられた鎖に、悲鳴を潰された女の顔がみるみる変色してゆく。
そのまま地に叩きつけられて、完全に静かになったソレを踏み潰す兵。
一帯に広がる悲鳴、憤怒、悲泣、諦念。
竜牙兵達の進撃は全てを飲み込み、人々の命を無情に刈り取って征く。
●今現在、ヘリポート
「最近、大侵略期のドラゴンが復活する事件があっただろう? その黒幕が動き出したみたいだぞ」
ケルベロス達を前に。
レプス・リエヴルラパン(レプリカントのヘリオライダー・en0131)は、片目を瞑り資料を掌の上で展開した。
「敵サンは『魔竜王の遺産ドラゴンオーブ』を探していたようだが、その在処を見つけたようだ。――ドラゴンオーブとやらで何が出来るかは解らねェが、魔竜王の遺産とも言われていてな。ドラゴン共の手に渡っちまえば、魔竜王の再臨の可能性も有るかもしれねェんだ」
彼の掌の上に映る地図は、熊本市を示している。
「ドラゴンオーブの封印されている熊本市に向かって、竜十字島からドラゴンの軍勢『アストライオス軍団』がカッ飛んできているぞ。――しかも、魔空回廊を使って先に配下を送り込むオマケ付きだ」
レプスが空中をタップするように指を動かすと、掌の上の熊本市の各地が赤くマーキングされた。
それは、ドラゴン配下の軍勢が現れる予測地だ。
「コイツらは、ドラグナー、竜牙兵、オーク、屍隷兵で、9つの部隊に分かれて、熊本市街で破壊と虐殺の限りを尽くす。どうやらアストライオス軍団が到着するまでに、ドラゴンオーブの封印解除に必要なグラビティ・チェインを略奪しておこうって算段みてェだな」
ぱ、と地図の横にウィンドウが開いた。
「さっき言った通り、敵サンの配下部隊は9つの指揮官の元に軍団が分かれている。ンで、各指揮官の特徴は、っと――」
指先をくるりと回し、レプスはドラグナーの部隊として纏められた一覧を大きく映し出す。
第1の指揮官、竜性破滅願望者・中村・裕美。
以前の事件に関わったケルベロス達の記憶にも新しいだろう、ドラゴンの封印が解かれる事件を起こした元凶のドラグナーである。配下には、ケイオス・ウロボロスと呼ばれる赤い瞳をした黒いドラグナーを引き連れている。
第2の指揮官、竜闘姫ファイナ・レンブランド。
武術を得意とするレンブランド姉妹の赤髪の妹。配下は武術家の死体を利用した屍隷兵を引き連れているようだ。
第3の指揮官、竜闘姫リファイア・レンブランド。
武術を得意とするレンブランド姉妹の金髪の姉。配下は竜牙兵で、彼女自身と同じく武術で戦う。
「お次は、オークの部隊だぞ」
第4の指揮官、嗜虐王エラガバルス。
自らの血を引く部族を総べている残忍な暴君だ。
今回は、虐殺が目的の為に行われはしないだろうが……捕らえた女性に対する扱いは苛烈を極めるようだ。
第5の指揮官、餓王ゲブル。
強い女を求める筋骨隆々としたオークの王。
何やら強い拘りを女性へ持っているようで、飢餓状態のオークばかりの集団を率いているそう。
第6の指揮官、触手大王。
突然変異で触手が異常発達増殖した巨大なオークだ。
同様に触手が異常発達した配下達を、王子とよばれる3人の息子と共に率いている。
「今回はどの部隊もグラビティ・チェインが目的だからな、指揮官がいる間は女性を追い回したりしねェだろうか――、指揮官を潰した後は保証ができない。オークの部隊を相手にするならば、その辺りも頭に入れておいてくれよな。……さぁてと、次だ」
続いて映し出されたのは、竜牙兵の部隊だ。
第7の指揮官、黒牙卿・ヴォーダン。
黒鎧に身を包み、剣と盾を携えて馬に跨った騎士のような姿をした竜牙兵だ。
馬こそいないが、配下も同様に黒鎧を身に纏っている。
第8の指揮官、斬り込み隊長イスパトル。
四腕の剣士の姿をした竜牙兵だ。
配下の腕は二本ではあるが、イスパトスによく似た姿しているようだ。
そして、第9の指揮官、黒鎖竜牙兵団長。
今回の黒幕である覇空竜アストライオス直属の軍団長で、山羊に似た捻じくれた角を生やしている。剣と黒鎖を武器として戦う竜牙兵だ。
配下も同じ様な山羊に似た捻じくれた角と武器を携えている。
「一気に説明したが――、ヤツらは各部隊にいる指揮官の指示に従って、グラビティ・チェインの略奪を目的にできるだけ多くの市民を殺そうとしている。って訳で、お前達には市民を助けながら、指揮官達をすばやく撃破して欲しいと思っているぞー」
頭を失って統率が無くなってしまえば、敵部隊の各個撃破も容易となるだろう、とレプスは瞳を閉じ。
「コイツらの虐殺を食い止めたとしても、まだこちらに向かってきているドラゴン達との戦いも控えているが……、ここで出鼻を挫く事で後の戦いにもかなり影響を与える事になるだろう。――ちっと大変な戦いにはなるだろうが、しっかり皆を助けてやってきてくれよな」
首を傾げて瞳を再び開いたレプスの表情には、ケルベロス達への信頼の色。
頼んだぜ、と彼はヘリオンの扉を開いた。
参加者 | |
---|---|
ソーヤ・ローナ(風惑・e03286) |
シータ・サファイアル(パンツァーイェーガー・e06405) |
円谷・円(デッドリバイバル・e07301) |
八上・真介(夜光・e09128) |
紗神・炯介(白き獣・e09948) |
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388) |
リカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893) |
ネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221) |
●襲い来る敵
異形が踏みしめたタイルが、足の形に弾け砕けた。
逃げようと走り出した群衆。
「あ……」
足を縺れさせて転び、その場で思わず身を竦めた少女に迫る、大きく広げられた翼。
全身が黒い鱗に包まれたドラグナー、ケイオス・ウロボロスの鋭い爪が迫る。
「もう大丈夫」
少女を背に。
低く落ち着いた声音。薄紅の花弁を散らし、構えるは黒き鎖。
紗神・炯介(白き獣・e09948)の鎖と爪が噛み合い、軋んだ音を漏らした。
瞬間。
高く高く掲げられた炯介の踵が虹を纏い、ケイオス・ウロボロスの頭を横薙ぎに弾き飛ばす!
サングラスが光を照り返し、不敵にきらめいた。
スーツにサングラスを纏った黒い翼猫――エクレアの翼が大きく風をはらみ、皆に加護を与える柔らかな風が戦場を吹き抜ける。
「ひゃ」
同時に風に乗って。
少女の視線を遮るように飛び込んできたのは、ケープに包まれたふわふわ毛玉だ。
ぴょこり。毛玉から耳と翼が生える。
そのまま毛玉――ウイングキャットの蓬莱はのっしりと尊大な態度で、少女の頭の上に居座ると翼をはためかせた。
少女は少しだけ驚き、そして少しだけ安堵した表情を浮かべる。
――ああ、ケルベロス達が来てくれたのだ!
「とーうっ」
蓬莱の突撃に軌道を逸らされた、横から迫っていたもう一体のケイオス・ウロボロスを貫く『不可視の虚無』。
虚無に貫かれたケイオス・ウロボロスは、勢いを殺されたまま蹈鞴を踏んだ。
「させないよーだっ、いこっ、ネリシア!」
エアシューズの踵で地をきゅっと踏みしめて。
あかんべをして見せた円谷・円(デッドリバイバル・e07301)の後ろから、走り込んで来る青い毛並み。
「……うん」
円の合図に合わせ、ネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221)は身を低く低く構えると、そのまま踏み込んだ。
「大地の根源より、求めし物の記憶と息吹を手繰り寄せん」
なんとか転ぶ事無く。踏み留まったケイオス・ウロボロスは身を引こうとするが、すでに遅い。
「この鎧装の主の元に大地の剣を創造せんが為に」
ネリシアが両手でしっかりと握りしめた剣柄より先が眩く輝き、彼女の求める『形』を成した。
「ガイア――チャージキャリバーッ!」
爪を弾いて突き上げる形で、桜肉の一之太刀。
返す手で袈裟斬りに、揚げ豚足の二之太刀を浴びせかける!
連撃に堪らず足を縺れさせた敵に重ねる形で、きらきらと妖精の靴を煌めかせた霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)はオーラを星のように散らして踏み込んだ。
「さあ、こちらにどうぞですのっ」
ケイオス・ウロボロスがびくんと大きく跳ねて、動かなくなる前に少女を抱き寄せ。
敵が倒れる様を見せつけぬように。
ちさは少女の瞳を縛霊手の影で覆った。
ぎ、と小さな鳴き声を漏らした、もう一体のケイオス・ウロボロス。
仲間が倒されて、尚この人数に立ち向かうのは無謀だと考えたのか。
ケイオス・ウロボロスは、一目散に後ろを振り向き――。
「どこに行くつもりだ?」
生真面目そうな声音と共に、カラフルな爆煙がその行く先を包み込んだ。
「こっちは行き止まり」
手のひらの中で、爆破スイッチを弄んだリカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893)が氷鎚を横に薙ぎ。
通行止めと氷鎚と交わす形で、白銀の槍を構えた八上・真介(夜光・e09128)が道を塞いだ。
「……どうしても、通ると言うなら。通行料を貰おうか」
チリと真介を突き動かす地獄が紫に薫り。
稲妻めいた付きは、正確に敵の足を貫く。
「私の前に立ち塞がった以上、通すつもりは無いがな。ドラグナー」
高く跳ね飛んだシータ・サファイアル(パンツァーイェーガー・e06405)の、ドラゴニックハンマーが大きく展開される。
体重、重力、踏み込み。
全ての力を叩き込む勢いで、思い切り上半身を捻じって振り上げた鎚が振り下ろされると同時に砲が炸裂した。
爆ぜ焦げる、黒い鱗。
交わすように構えた2本のエクスカリバールに、金色の雷を纏わせて。
逃亡を図った敵に、トドメを叩き込んだのはソーヤ・ローナ(風惑・e03286)だ。
「ひとまずココの周辺の敵は片せたようですが……、予想はしていましたが、やはり通信機器は使えないようですね」
肩を竦め、ソーヤは首を左右に振った。
おそらく、ジャミングが成されているのであろう。
ソーヤが耳に装着したインカムより時折漏れる声音は断片的で、殆どざあざあと雨音のようにノイズが騒いでいる。
「……ん、携帯もやっぱりダメそう」
「そうね、使えないかもと予想はしていたけれど……、ともかく皆を避難所に案内――」
真介が瞳を細め、携帯を服に押し込み。熊本城方面にシータが視線を向けた、その瞬間。
空に信号弾の光が煌めいた。
「おや」
リカルドはバイザーを上げて、空を見上げる。
「わ、あれって中村発見の閃光弾の色だよね?」
「……避難所の予定地、……変えた方が良さそうだね」
円が片掌を瞳の上に当てて空を眺め、ネリシアがこくんと頷いた。
光が上がったのは熊本城の真上。
つまり、敵の本丸は城であったと言う事だ。
その言葉に不安げに瞳を揺らした少女は、ちさの腕をぎゅっと握りしめ――。
「大丈夫ですわ、落ち着いてほしいですわ」
柔らかく呟く、ちさが巨大な縛霊手ごと少女を包み込むように抱き。
炯介は少女の頭の上に、掌を載せた。
「ちゃんと僕達が守るからね」
へにゃ、と少女は表情を崩して、笑う。
「そうだよっ、おねーさん達が皆を守っちゃうんだよ! 皆、がんばろっ」
少女と同じ位のぴかぴかの笑顔で、円は腕を突き上げた。
●閉じ込められた人々
続く剣戟は、様々な場所で幾度も重ねられ。
傾き出した太陽のもと。
ケルベロス達は、崩された瓦礫でスーパーの入り口が封鎖されて、動けなくなった人々達を背に戦っていた。
外套を揺らし、横から放たれた光弾を反射的に避けたリカルドは、軍人めいた動きでステップを踏む。
「油断をしていると、どこからでも湧いて出てこようとするな」
蒸気に加護を重ね、バイザー越しに眺める敵の数は無数。
一匹一匹はケルベロス達にとってはそこまで強敵で無いとは言え、市民にとっては勿論脅威である。
「そうですね、中央区は他の地域よりも人口が多いですから。敵も多く配置されているのかもしれません」
一気に加速したソーヤは相槌を打ち、突撃で敵郡を一気に蹴散らし。
勢いを殺さぬように壁を蹴って距離を取った。
この地域に人口が多い事は事実で、この地域に派遣されたケルベロス達は一番多い。
だからと言って、他の地域の戦力が足りているとは限らない。
できるだけ均等に戦力を配分したという事は、一点突破を狙わぬと言う事だ。
――それは、裏を返すと平等にすべての地域の戦力が『手薄』であるとも言える。
細く息を吐くと、ぎゅっとエクスカリバールを握りしめ。
「……今は集中をしましょう」
小さく呟いたソーヤは、気持ちを確かめるかのように得物を横に薙いだ。
「……随分この地区の、敵も減らしては、いると、思うけど……、――グラファイト!」
敵の赤い目がらんと輝き、ネリシアに向かって飛び跳ねた。
ネリシアは自らのオウガメタルの名を呼ぶと、蠢いた彼は形を変え。
その流れのまま、ネリシアはワッフルめいた盾をガードに上げる。
散る火花。
ガリガリとアスファルトが割れ、砂煙を撒き散らし。
勢いに足の形に轍を生みながらも、反対の手で杭を振り抜くと――、そのまま弾き飛ばされた。
「っく……」
「ネリシアさま!」
彼女がガラス壁に衝突する前に、間に滑り込んでその身を緩衝材としたのは、ちさだ。
「痛いの痛いの飛んでいくのですわ~」
蓬莱の翼に癒やしをはらむと同時に、ぽんやりとした呪文と共に身体を癒やす祝福。
お嬢様の祝福は絶対だ。
そりゃあ癒やされるにきまっている。
「絶対に皆は護るの! そっから動いちゃだめ、――近づかせない、から!」
敵と二人の間に円が滑り込み、ゆらりと瞳の色が赤く怪しげに揺れた。
それは幻惑を産む力。
円の投擲した白き三日月型の鱗は敵を貫き。
敵が更に踏み込もうとしたその動きが、ぴたりと引き止められた。
その隙を逃さずシータのアームドフォートが一気に狙いを定め、キンと甲高いを立てて銃口に光を灯す。
「ああ、ドラグナー……、いいや、ソレだけでは無い。この街を――ドラゴン共の好きにさせてなるものかッ!」
一斉に放たれたミサイルと共に、シータの吠える声音がビル間に響く。
しかし、敵の数は多い。
彼らの目的はグラビティ・チェインだ。
人々を殺す事が出来れば上々、ケルベロス達を倒すことができれば僥倖。
一瞬足を止めた仲間を壁に。
ミサイルが止んだ瞬間に、瓦礫を割りながらスーパーに向かって飛び込み、狂爪を振り上げるケイオス・ウロボロス。
闇を纏った爪が、空を薙ぎ。
武器飾りが揺れた。
「捕まえた」
炯介がガードに上げた腕に深々と爪が刳り止められ、流れる朱は肌を、髪をしとどに染めるが構わない。
反対の手で敵の腕を掴んで地へと引き倒すと、藻掻く動きもそのまま。薄紅の花弁を散らして、蹴りを叩き込んだ。
「行き着く先は天か、海の底か、それともそれ以外か」
眼鏡の奥で細めた瞳。
真介は欠片を握りしめて、倒れ伏した敵を見下ろした。
触媒にグラビティが漲り、懐中電灯が熱を持った事を服越しに感じる。
生まれた数多の光の槍は、皆を照らしだす。
●灯る希望
「紡げ糸凪、影を縛り、禍を留めよ」
風が紡ぐ糸。
「縛れ、暇を紡ぐ『凪縫』よ」
リカルドがまっすぐに敵を見据え、氷鎚を突き出した。
紡がれた風の糸は敵を縫い付け――。
「……何、そのうち分かるさ」
真介の吐き捨てるような詠唱は、殺到する光槍に飲み込まれた。
槍と風を全身に受け止めながら動かなくなった仲間を盾に、一体のケイオス・ウロボロスの鎌が迫る。
「あ」
懐に深く切り込まれた真介が自らの鎌を噛ませてとっさに後ろに跳ねるが、深々と切り裂かれた装束に眉根を下げた。
「あともう少しだよっ! 皆っ、合わせて!」
入れ替わりで飛び込んだ円が流星を宿した蹴りを叩き込み、バランスを崩した敵の背を馬跳びのように飛び跳ねる。
「……任せて!」
転ばされながらも、爪を振り抜こうとした敵の一撃をスライディングのように滑り込む事で回避したネリシアが相槌を打ち。
敵の股の間をすり抜け、背に潜り込むと『彼女の求めし物』と化した剣を突き下ろした。
それは熊本ご当地名物、ひともじぐるぐるだ。
「――降されし力を、ここへ!」
ネリシアが背から攻めるのであれば、ソーヤは真正面からだ。
残る力を振り絞って身体を振るったケイオス・ウロボロスを、文字通り叩きのめす形で跳躍したソーヤは『力』の流れを掌に感じる。
膨れ上がる『力』を敵の頭へと叩き込むと、そのままぐらりと倒れ伏せるケイオス・ウロボロス。
「まだまだァッ、この十秒の間、可能な限り敵に撃ち込む!」
「了解」
シータのアームドフォートが変形し、鈍く音を立てて幾つもの砲門が開かれる。
炯介が首肯し、残る敵達を金色の瞳が睨めつけた。
「行くぞ! リミッターリリース、オーバードライブシステム――」
光のモニタが現れては消え、チカチカと翔けるプログラムがシータの身体を駆け巡り。
炯介がグラビティを練り上げると、左目の奥で何かが燃え焦げるようだ。
「ブースト!!」
「散れ」
シータと炯介の声音の色は全く真逆だ。
そして、その攻撃の質も。
しかし、その中の本質は、同じなのかもしれない。
爆煙を上げて叩き込まれる弾幕の奥に、幻惑の薔薇が咲く。
純粋なる痛みの奥に根付く妄執。
「私も本気ですの!」
えいっと星を散らし蹴り上げた、ちさの一撃がケイオス・ウロボロスを沈黙させ――。
こうして、見える限りのケイオス・ウロボロス達は全て動かなくなったのであった。
喜ばしき勝利。
しかし、その中にで深刻な表情を曇らせる者が一人存在した。
「……これ、借り物なんだけど」
真介だ。
深々と切り裂かれた装束を見て、あのウサギはどのような顔をするだろうか。
「ワッペンをつけるのはどうだ?」
リカルドが真面目な表情で首を傾げた。
リカルドはきっと本気なのだろう。
真面目系の本気のボケなのだろう。
そういう目をしている。
真介は目を瞑ると、小さく頷いた。
●無数の影
「あの、……ケルベロスさん達、助けてくれてありがとう!」
スーパーから出てきた少年が、母親らしき女の手を握ったまま言った。
「怪我は無いみたいで何よりだ」
「キミもお母さんをちゃんと守って偉かったよ!」
礼にもあまり表情の変わらぬリカルドが人々に癒やしを与え、円が笑って少年に手を振った。
円の上では、不遜な態度で蓬莱が鎮座して尾をゆらゆら揺らしている。
「無事に皆避難できているようで、何よりですわ」
エクレアを肩に載せたまま。
援助を頼んでいた警察達がスーパーに閉じ込められていた人々を避難所に送っていく姿に、ちさは安堵の息を漏らした。
「……他の地域も、無事に撃退できていれば良いんですが」
少なくともこの辺りの地域には、もう敵の気配は感じられない。
ソーヤは呟き、そして目を見開いた。
「……わ」
ぞっとするような気配に、ネリシアは思わず声を漏らす。
東の空を黒く染める、大量の影。
あれは、竜十字島より出撃したと言うドラゴンの軍勢に違いあるまい。
「……まだ、来るね」
「どれほどの数のドラゴン共が攻めてこようが、……絶対に罪なき人々を犠牲にさせたりしないわ」
シータが空を睨めつけ、拳を握りしめる。
懐中時計を指先で撫で、眼鏡の奥で瞳を細める真介。
少し、破れてしまった外套が揺れる。
「――……」
並び空を見上げる炯介の瞳の奥には、静かな静かな、しかし確かな感情が色づいていた。
茜色の空を引き連れまだ遠くに見える無数のその影は、これから始まる戦いの激しさを感じさせるようであった。
作者:絲上ゆいこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年6月23日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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