魔竜王の遺産~熊本防衛作戦・序

作者:秋津透

「コロセ! コロセ! どらごんサマノタメニ、ぐらびてぃ・ちぇいんヲ奪ウノダ!」
 その日、熊本市は地獄と化した。
 いきなり市内の何か所かに魔空回廊が開かれ、大量の竜牙兵、オーク、屍隷兵などのデウスエクスが暴れ込んできたのである。
 竜牙兵、屍隷兵はもとより、いつもは女性は殺さず攫おうとするオークたちも、目につく人間を男女を問わず、無雑作に殺していく。
 中でも、全身を触手に覆われた異形のオークたちが、その触手を縦横無尽に使って、逃げようとする人々を容赦なく叩き潰す。
「コロセ! コロセ! どらごんサマノタメニ、ぐらびてぃ・ちぇいんヲ奪ウノダ!」
 全身を触手に覆われ、ひときわ巨大な体躯をした異形のオーク、その名もおぞましき『触手大王』が、地鳴りのような声で咆哮する。
 そう、この虐殺は、彼らの主であるドラゴンが、更なる大作戦を熊本で行うための露払い、必要とされる多量のグラビティ・チェインを確保するための前哨戦であった。
 ……無残に殺される熊本市の人々にとっては、何の意味もないことだが。

「緊急事態です! 大侵略期のドラゴンを復活させていた黒幕が、遂に動き出しました!」
 ヘリオライダーの高御倉・康が、戦慄と緊張で声を震わせて告げる。
「彼らの目的は、魔竜王を再臨させる可能性すら秘めた『魔竜王の遺産ドラゴンオーブ』の封印解除と奪回です! ドラゴンオーブの封印場所は『熊本市』のどこかで、既に熊本市をめざし、竜十字島より出撃したドラゴンの軍勢『アストライオス軍団』が向かって来ています! 彼らにドラゴンオーブを渡すことは、絶対にできません!」
 そう言って、康は一同を見回す。
「しかも、敵の動きはそれだけではありません! このドラゴンの軍勢派遣に先立ち、敵は魔空回廊を最大限に利用して、オークや竜牙兵、ドラグナーといった配下の軍勢を熊本市内へ大量に送り込み、ドラゴンオーブの封印解除に必要と思われるグラビティ・チェインを確保すべく、熊本市民の大虐殺を行おうとしているのです! ここで多くのグラビティ・チェインを略奪されればされるだけ、ドラゴンオーブ奪取を阻止できる可能性が下がってしまいますが、それ以前に、そんな非道な虐殺を許すわけにはいきません!」
 言い放って、康はプロジェクターに地図と画像を映し出す。
「予知によれば、ドラゴン配下勢力の軍勢は9個の軍団に分かれています。なぜかそれぞれ女性のドラグナーに率いられた軍団が三つ。そのうち一つは、封印ドラゴンの解除に使われていた「ケイオス・ウロボロス」の軍団。熊本市中央区に出現します。二つ目は、武術家の死体から作られたと思われる屍隷兵の軍団。熊本市東区の北側に出現します。三つ目は、なぜか武道着をまとい武術を使う素手の竜牙兵の軍団。熊本市東区の南側に出現します」
 口早に告げながら、康は地図と画像を切り替えていく。
「次に、オークの軍団が三つ。嗜虐王エラガバルスに率いられる苛烈な血族軍団が、熊本市西区の南側に。餓王ゲブルの飢えた軍団が、熊本市南区の北側に。えー、触手大王と三人の王子に率いられる異形の触手オーク軍団が、熊本市南区の南側に出現します。最後に、竜牙兵の軍団が三つ。黒牙卿・ヴォーダンに率いられる黒騎士竜牙兵軍団が、熊本市北区の北側に。四腕の斬り込み隊長イスパトルに率いられる竜牙兵剣士軍団が、熊本市北区の南側に。そして、今回の作戦全体を立案実行する大ボス、覇空竜アストライオス直属の黒鎖竜牙兵団を率いる兵団長が、熊本市西区の北側に出現します。敵の配置は、以上です」
 言い終えると、康は厳しい表情で一同を見回す。
「これから熊本市へ全速急行しますので、どの軍団に当たるか、到着までに決めておいてください。それに従い、降下を行います。既に熊本市では避難が始まっていますが、魔空回廊が開く時点までに全市民が避難完了するのはとても無理で、かつ、ヘリオンの到着は魔空回廊が開いた後になります。つまり、虐殺が始まってしまっている可能性が高いですが、可能な限り、市民を助けて避難させてください。それぞれの軍団の指揮官を倒すことができれば、軍団の統率力が緩み、市民を組織立って狩り出し殺すことができなくなるとは思いますが、市民を放置して指揮官を探し回るのでは本末転倒となります」
 敵の目的は、熊本市民大量虐殺によるグラビティ・チェインの奪取。こちらの目的は、その阻止で、敵指揮官の撃破でも、ましてや軍団の殲滅でもありません、と、康は念を押すように告げる。
「忘れないでいただきたいのですが、この後、本戦というか、竜十字島を出撃したドラゴン軍団との戦いが控えています。一人でも多くの市民を助けて、グラビティ・チェインの奪取を防いでほしいのはもちろんですが、そのために無理をして、後の戦いに参加できなくなっては元も子もありません。どうか、御身大切に。ご武運をお祈りしております」
 そう言って、康は深々と頭を下げた。


参加者
エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)
千斉・アンジェリカ(空墜天使・e03786)
鏡月・空(蜃気楼だけが見えている・e04902)
月宮・京華(ドラゴニアンの降魔拳士・e11429)
フィアンセ・リヴィエール(オークスレイヤー・e22389)
之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)
鷹崎・愛奈(死の紅色カブト虫・e44629)
晦冥・弌(草枕・e45400)

■リプレイ

●触手大王を強襲せよ!
「……敵の布陣は、広く薄い感じね」
 熊本市南区南側、上空。双眼鏡を使ってヘリオンから地上を見やっているエルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)が、努めて事務的な口調で告げる。
「どこかに籠っている人たちに、集中して襲い掛かるって状況ではなさそう。散開して探してるけど見つからない……いい兆候だわ」
「あ、指揮官が見えました。ほぼ、真ん中あたりです。資料の通り、触手まみれのでかぶつですね」
 同じく双眼鏡で地上を窺っていた之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)が、こちらは素で淡々とした口調で言う。
「周囲のオークの数は、まあ、そこそこくらい? 王子らしいのは見当たりません。人を襲ってるようでもなく……散開した配下の報告を待っている感じ?」
「直接強襲……いけそうですか?」
 敵の指揮官、突然変異オークの触手大王を宿敵とするフィアンセ・リヴィエール(オークスレイヤー・e22389)が、抑えた声で訊ねる。
「状況としては、いけると思います……でも、他の班と連絡できるようなら、その上で……」
 しおんが応じるとほぼ同時に、ヘリオライダーから通告が入る。
「広範囲に強力な電波障害が生じていて、携帯スマホはもちろん、ヘリオン同士の通信もできません。そのため、他班が降下を始めているかは不明ですが、信号弾の発射はまだ確認できていません」
「なるほど」
 鏡月・空(蜃気楼だけが見えている・e04902)が、静謐な表情でうなずく。
「触手大王の近くには、王子も一般人もいない。ならば、連携等を考えずに、私たちだけで強襲撃破するしかありませんね」
 想定とはだいぶ違う感じですが、臨機応変で行きましょう、と、戦闘経験豊富な空は淡々と告げる。
「ヘリオンを、敵指揮官の上へ寄せてもらいましょう。飛行可能な方は、先に出て」
「りょーかい!」
 元気よく応じ、ドラゴニアンの月宮・京華(ドラゴニアンの降魔拳士・e11429)が真っ先に飛び出す。そして、オラトリオの鷹崎・愛奈(死の紅色カブト虫・e44629)と千斉・アンジェリカ(空墜天使・e03786)が京華に続き、緊張した表情のフィアンセが、その後に従う。
「信号弾青確認……って、これはこっちのメンバーが撃ったものね。北の方で黄色? ……雲にまぎれて、よくわからないな」
「では、行きますよ」
 空が告げ、ヘリオンから飛び出す。エルネスタとしおんも、すぐに双眼鏡を閉まって空に続く。ほとんど間を置かずにドワーフの晦冥・弌(草枕・e45400)が跳び、八人全員が戦場へと飛び込んだ。

「しかしまあ……近づいてみると、つくづく馬鹿でかいわね」
 最初に標的、触手大王へと接近した京華は、なかば呆れた口調で呟く。
「高い位置から攻撃かければ、庇いはない……かな?」
 試してみよう、と、京華は巨大な触手大王の頭部へと、重力蹴りを叩き込む。ところが、跳ね上がるようにして雑魚オークが割り込み、一撃で粉砕されたものの、攻撃は触手大王に届かない。
「ありゃ……」
「襲撃ダ! 空ヨリ敵ガ襲イ来タ! 皆ノ者、我ヲ守レ!」
 触手大王が吠え、散開気味だった雑魚オークが、わっとばかりに王の傍へ集まる……いや、意志とは関係なく集められているのだろうか?
「まず邪魔者ぶっ飛ばさないと、攻撃が通らないね!」
 京華に続く愛奈が告げ、早々とオリジナルグラビティ『「戦士たちの足跡」(センシタチノレキシ)』を発動させる。
「我が想う故に、彼らあり。命燃やして生き抜いた瞬間を再び今!」
 愛奈の宣言に応じ、地球を守るために戦い散った戦士たちの幻影が現れる……はずなのだが、この場に出現したのは妙に雄々しいオークの一団だった。
「あ、あれ?」
「我ラハ、人間ノ女性ヲ愛シ、愛スル女性ヲ守ルタメニ定命ノ道ヲ選ンダ、おーく・じぇんとるまん!」
 戸惑う愛奈とは対照的に、出現したオークの幻影たちは高らかに叫ぶ。
「一族ノ裏切者トシテ、我ラハ抹殺サレタ! シカシ、愛ノタメニ生キ、愛ノタメニ死シタ生涯ニ悔イナシ! ソノ熱キ想イ、今、蘇ラン!」
「あ、そか……このグラビティ、敵にトラウマを与えるんだっけ」
 愛のために死んだオークが実際にいるのかどうかは知らないけど、オークにとってはそーゆーのはトラウマなのかな、と、愛奈は苦笑する。そして愛奈のグラビティが具現化した幻影のオークたちは、圧倒的な強さで雑魚オークを蹴散らす。
「おばあちゃんが言っていた。人はいつか必ず死ぬけれど、想いを繋げてくれる人がいれば、生きた証は永遠に続くって」
「ま、誰の加勢をもらおうと、勝てばよかろう、だねっ♪」
 お気楽に言い放ちながら、アンジェリカが大鎌をぶん投げ、触手大王の首を狙ったが、雑魚オークに阻まれる。
 そして、お返しとばかりに、アンジェリカに向かって触手大王の巨大な触手が叩き付けられる!
「ひっ!?」
「させません!」
 危うく触手に叩き潰されかけたアンジェリカを、着地直後の空が飛び込んで庇う。
「あ、ありがと、そらくん……だいじょーぶ?」
「心配は要りません。楽ではありませんが、そのためのディフェンダーです」
 応じると、空は雑魚オークの群れに向かって、オリジナルグラビティ『零式・死天剣戟陣(ゼロシキ・シテンケンゲキジン)』を放つ。
「穿ち封じる!! 零式発動!!」
 品のない触手は機能不全にしてやりましょう、と、空は不敵な表情で言い放つ。このグラビティは、バッドステータス「パラライズ」を付与するので、機能不全を狙って放ったのだが、雑魚オークの大半は麻痺に至る前に寸断されて斃れる。
(「減衰入ってるはずなのに、すごい威力……クリティカル出てるのかな?」)
 この人倒されちゃったら勝ち目ないね、と、続いて着地したエルネスタは、すぐさま空にオーラを送って治癒する。空はディフェンダーでダメージ半減しているので何とか無事だったが、アンジェリカが喰らっていたら一撃で戦闘不能になったかもしれない、極めて苛烈な攻撃だ。
 続いて降り立ったしおんは、幻惑をもたらす桜吹雪を伴う剣舞で、雑魚オークを切り伏せ、惑わす。
 更に、最後に着地した弌が、自らの血を飛ばして空に大治癒を行う。
「……取り巻きを減らさなくては!」
 自らの宿敵でもあり、圧倒的な存在感を備えた触手大王の巨体から敢えて目をそらし、フィアンセはオウガメタルから絶望の黒光を照射。雑魚オークを吹っ飛ばす。
 そして空が、大きくジャンプして大鎌『シュトルムスラッシャー』を振るう。
「おりゃあああああっ!」
「守レ! 皆ノ者! 我ヲ、王ヲ守レ!」
 触手大王が切迫した声で叫び、雑魚オークが空の前に立ちふさがって両断される。
(「親玉に届かないのはもどかしいですが……ドレイン効果は、雑魚を斬っても発揮される。この攻撃は、これでよし、ですね」)
 声には出さずに、空は呟く。
(「そして、親玉は雑魚を自分の盾に使うことしか考えていない……たとえ雑魚でも、この数が一斉に攻撃してきたらタダでは済まなかったはずですが、親玉は攻撃命令を忘れ、雑魚には自主的に攻撃する気力がない……千載一遇の好機です!」)
 王子の軍勢が救援に来る前に、急いで仕留めましょう、と、空は巨大な敵を射抜くように見据えた。

●触手大王の最期  
「王子タチヨ! 助ケヨ! 汝ラノ父、王タル我ヲ助ケヨ!」
 触手大王が、天地を揺るがすような大音声で叫ぶ。しかし、幸いにもとしか言いようがないが、今のところ、見渡す限りに救援軍らしき存在はない。
(「他班が、巧くやってくれている……のでしょう、きっと」)
 確かめる術はありませんが、と、しおんは声にせず呟く。緑の信号弾が何度かあがった……ような気もするが、激闘の中、確認している余裕はない。
(「触手大王は知性が高いとか分身するとか、事前情報がいろいろありましたが、逆に、ここまで大きいという情報はなかった。巨大化したり、王子を生み出したりした分、失ったものも多いのだろう、たぶん……と考えておきましょう」)
「突破します」
 言い放って、しおんはダブルジャンプで宙高く跳び、オリジナルグラビティ『原始棒銀(ゲンシボウギン)』を放つ。ついに庇いに出る雑魚がいなくなり、触手大王の片目が潰れ、顔面から血とおぼしき粘液が噴き出る。
「ギャアアアアアアア!」
 痛手を受け、触手大王は咆哮する。ぶん、と巨大な触手が唸り、しおんを叩き潰そうとするが、エルネスタが飛び出して肩代わりをする。
「つつつ……さすがに痛い」
 呻いて、エルネスタは自分自身に緊急手術を施し、傷を癒す。予定では、エイティーンを使って触手大王の気を惹くつもりだったが、彼我ともに、そんな小細工をしている余裕はない。
(「相手のボーンヘッドにも助けられてるけど……でも、真っ向の力勝負、決して負けてない!」)
 半ば自分に言い聞かせるように呻くエルネスタを、弌の大治癒が癒す。
(「確かに強力な攻撃だけど……でも、恐ろしいとは思わないな」)
 ケルベロスになって日の浅いぼくだけど、もっとずっと恐ろしい敵との心も凍るような対決も経験している。でかいだけの触手豚なんかに負ける気はしない、と、弌は不敵に呟く。
「通りますか、単体攻撃!」
 瞳に炎を燃やし、フィアンセがオリジナルグラビティ『地獄の磔刑(ジゴクノハリツケケイ)』を発動させる。
「父と子と聖霊の御名において……オーク死すべし!」
 十字架状の地獄の炎が放たれ、触手大王の胴中を直撃。強烈な臭気と黒煙があがり、巨大なオークはよろよろとよろめく。
「王子タチヨ! 王子タチヨ!」
 触手大王は絶叫するが、救援のくる気配はない。
 そして、大きく跳んだ空が、触手大王の血を噴く顔面に、渾身の拳を叩き込む。
「ハウリング……フィストォ!」
「ブヒイイイイイイイッ!」
 普段、冷静沈着に闘い、技の名を叫ぶことなど滅多にない空だが、ここは勢いというものだろう。めき、めき、めり、と、触手大王の巨体から異音があがり、そして、大きくよろめいたかと思うと、地響きをあげて転倒した。
「おっと!」
 倒れてきた側にいたケルベロスたちは素早く避けるが、雑魚オークが何体か、巻き込まれて潰れる。ケルベロスに殺されたのではないから、コギトエルゴスムに変じたはずだが、確かめている余裕はない。
「そのまま寝てろ! 起きてくんな!」
 言い放って、京華がオリジナルグラビティ『縛眼(バクガン)』を発動させる。倒れた触手大王の巨体が、びくんびくんと痙攣するように動く。
「ざっつ、ちゃーんす!」
 アンジェリカが敵の耳元に取り付き、オリジナルグラビティ『血咲き唄(チサキウタ)』を吹き込むように放つ。
「咲いた、咲いた、赤い薔薇。咲いた咲いた大きな薔薇。赤い花は彼岸へ流し、彼方の空へ♪」
 歌詞を文字にしただけではさほどのことはないが、彼女は歌声を地獄化したブレイズキャリバー。その声は、まさにこの世のものとは思えず、吹き込まれた諸種大王の耳から、どっとばかりに血が噴き出る。
「王子ヨ! 王子タチヨ! 助ケロ! 助ケテクレエ!」
 喚く触手大王の声は、もはや泣き声。生き残った雑魚オークが、パニック状態で周囲を走り回ったり、大王の巨体にすがりついたりしているが、ケルベロスたちは目もくれない。
「ええい、見苦しい、潰れちゃえ!」
 エルネスタがオリジナルグラビティ『穿鵠御霊箭術(センコクゴリョウセンジュツ)』を発動。縛霊手『エルのミシンハンド Ver.64』から御霊を載せた針を発射し、血みどろの触手大王の頭へと容赦なく突き刺す。
「ブヒ、ブヒ、ブヒイイイイイイイッ!」
「どりゃあああっ!」
 愛奈が重力蹴りを叩き込み、しおんが斬霊刀『星薙ぎ』にグラビティを乗せて斬りつける。弌はちょっと考えたが、前列に破壊力上昇の爆発を送った。
「ありがとうございますっ!」
 派手な爆発を背景に、フィアンセが十字架型のパイルバンカーを高々と振りかざす。
「再びっ! 父と子と聖霊の御名において……オーク死すべし! 死すべし! 死すべし!」
 抉り込むように死すべし、大事なことなので三回言いましたっ、と、錯乱寸前の興奮状態で叫びながら、フィアンセは宿敵の頭部へパイルバンカーを全力で叩き付ける。
「デッドエンドインパクトォ! これで死ねえええええええ!」
 がぼっ、と濁った破壊音があがり、触手大王の頭部が完全に割れる。
 すると、割れた頭で、巨大オークはぼそぼそと呻いた。
「王子タチハ、我ヲ見捨テタカ……シカシ、我ガ死ンデモ、王子ノ誰カガ大王トナリ、必ズヤ……」
 そこまで言ったところで、触手大王の頭蓋は木っ端微塵に砕け散る。
 ブヒーッ、と、悲鳴をあげて、生き残った雑魚オークたちが逃げ散る。
「逃がしはしません!」
 フィアンセが即座に追撃にかかり、他の者たちもそれぞれ残敵を掃討する。
(「王子たちは、王を見捨てたわけではなくて、たぶん、他の班に討ち取られたのでしょうね」)
 あの世で再会してがっかりするがいいです、と、冷淡に呟きながら、しおんはふと、触手大王の頭蓋と身体の残骸に目をやったが、それは早くもぐずぐずに崩れ果て、形あるものは何も残っていなかった。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月23日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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