魔竜王の遺産~熊本市大混戦!

作者:雪見進


 ここは熊本市の西区市街の北側。そこで、突如現れたのは、漆黒の鎧を身に纏う骸骨。その手には、黒い鎖の絡んだ剣を手にしている。その特徴的な武器は覇空竜アストライオス直属の黒鎖竜牙兵団の証だ。
 魔空回廊から出現した黒鎖の竜牙兵たちは、即座に市民へ襲いかかる。
「キャア!」
「助けてくれ!」
 悲鳴を上げる熊本の市民たち。しかし、その悲鳴は一か所だけでは無い。熊本市の別の場所ではオークの群れや、屍隷兵を率いたドラグナーの姿もある。合計9つものドラゴン勢力が熊本市に同時に侵攻を開始したのだ!
「な、なにが起きているんだ!」
 各所から上がる悲鳴にパニックに陥る熊本市民。平和だった熊本市は、一瞬で地獄絵図と化すのであった。

「大変です! 大侵略期のドラゴンを復活させていた黒幕が、遂に動き出しました!」
 内心では激しく動揺している様子だが、それを抑えながら、出来るだけ冷静に説明をしようとしているのはチヒロ・スプリンフィールド(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0177)。
「敵の目的は『魔王竜の遺産ドラゴンオーブ』の探索であり、その所在を発見したようなのです」
 『ドラゴンオーブ』の力は不明だが、真竜王の遺産という名前から考えれば危険な物である事は間違いないだろう。ドラゴンオーブの封印場所である熊本市には、ドラゴン軍勢『アストライオス軍団』が向かって来ている。
「しかも、敵はそれだけではありません」
 さらに大規模な作戦を仕掛けて来たドラゴン勢力。ドラゴンオーブ復活の為のグラビティチェインを確保すべく、熊本市街へ侵攻を仕掛けて来るのだ。
「熊本市で展開される敵の勢力は9つになります」
 丁寧な図で説明をするチヒロ。熊本市中央に一つ、そして東西南北の地区を北側、南側と8つに分かれ、軍団を侵攻させている。
「敵は指揮官の指示に従って、グラビティチェインの確保を優先しているようです」
 グラビティチェインの確保……つまり、市民の虐殺である。対応するには、市民を救出しつつ、敵ボスを素早く撃破する事が出来れば戦いが有利になるだろう。
「熊本市民の皆さんの被害を最小限にする為に、皆さんの力を貸して下さい」
 そう祈るのような視線で後を皆に託すチヒロだった。


参加者
ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)
一式・要(狂咬突破・e01362)
愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
浜本・英世(ドクター風・e34862)
村正・千鳥(剣華鏡乱・e44080)

■リプレイ


「お願い、間に合って」
 走りながら、心の中で呟くのは愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)。
 ケルベロスたちは、熊本市の東側地区の南側で市民を守りながら、竜牙兵との戦いを開始していた。
 今までのデウスエクスはケルベロスを優先的に攻撃する事が多かったが、今回はケルベロスに目もくれず、市民を殺害しグラビティチェインを奪おうと、攻撃を繰り出す。
「助けて!」
「市民を傷つけさせはしない……!」
 市民を攻撃しようとする竜牙兵を横から蹴り飛ばす螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)。
「避難するんだ!」
 そのまま激しい怒りを込め、流星の力と共に竜牙兵を蹴り潰す。
 ケルベロスたちは戦闘を行いながら、同時に市民に避難を呼びかける。
「とりあえず、ここに」
「簡易避難所よ」
 ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)と一式・要(狂咬突破・e01362)は、周囲の車を怪力無双で持ち上げ、簡易的なバリケードを作り、避難場所を確保する。
「やはり、通信機器は使えないか」
 避難誘導を行いながら浜本・英世(ドクター風・e34862)はアイズフォンで他のケルベロスたちと連絡を取ろうとするが、連絡が繋がらない。しかし、それも想定範囲。地図を手に、救助と行方不明者の捜索を行う。
「ジャマヲスルナ!」
 逃げていく獲物に不快感を表す竜牙兵。英世を狙い攻撃を繰り出す。その竜牙兵は多少外見に特徴がある。
 この地区に攻撃を仕掛けたのは、竜闘姫リファイア・レンブランド。その配下である竜牙兵は通常の竜牙兵と異なり、胴着のような服を身に纏い、武術にて戦闘を行う。
 そこへ割り込むのは要。
「浜本先生!」
 竜牙兵の攻撃を身を呈してかばう要。そのまま身体をひねり、竜牙兵の懐に潜り込む。
「よっ、と」
 そのまま、華麗に竜牙兵の足を払う。
「ギッ!」
 要の足払いで体勢を崩した竜牙兵に英世が追撃する。
「現地市民に犠牲を出すわけにはいかないね」
 一歩距離をとってバスターライフル・凶科学式魔導砲のエネルギー光弾を叩き込む。
「西側の建物の影に、人が!」
 双眼鏡を手に捜索を行うセイヤ。パニックを起こして、隠れてしまっている様子。
「もう大丈夫だよっ!」
 その少女を救い出したのは村正・千鳥(剣華鏡乱・e44080)。
「うわぁぁぁん」
 千鳥の姿を見て、安心したのか泣きだしてしまう少女。その少女を抱きかかえながら、千鳥が優しい笑顔を見せる。
「ソコニモイタカァ!」
 その泣き声に反応したのか、竜牙兵が襲いかかってくる。
 それを防ぐのはフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)。
「アメジスト・シールド、最大展開!」
 少女を抱きかかえる千鳥を守るように展開される紫水晶の盾。
「ジャマダ!」
 展開されたアメジストシールドに殴りかかる竜牙兵。その拳に盾がヒビが入り砕けるものの、多重に展開させ、千鳥と少女を守る。
「よしよし、大丈夫だよ」
 フローネの援護を受け、泣く少女をあやしながら、避難させる千鳥。

 そんなパニックを起こして逃げれられない人もいるし、病人や足が不自由な人もいる。避難可能な人には避難してもらい、それ以外の人には簡易的な避難場所を確保し、そこに集まってもらう形となる。
「出来ることをやりましょうか」
 避難してきた人たちの不安そうな視線を受け、ドレス姿で凛とした立ち振る舞いを見せる一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)。
「もう、大丈夫ですよ」
 非現実なドレス姿と大人のレディの優雅な振る舞いで、ここが一瞬避難所である事すら忘れそうな状況に、少し安心した様子の市民。
(「人助け、なんて何だかこそばゆいですが」)
 内心では、そう感じながらも悪い気はしていない様子。そんな瑛華を狙い、腰を落とした正拳突きを見せる竜牙兵。その拳からオーラの弾丸が飛来する。
「少し……」
 そのオーラ弾丸をまるでダンスでも踊るかのように、蹴り落とす。
「……邪魔ですね」
 そのまま星型のオーラを形成し、竜牙兵へ蹴り込む。
「おおぉ!!」
「……カッコいい」
 そんな瑛華の姿に、見惚れる市民もいるようだが、ともかくケルベロスたちの尽力により、少し安心していく市民たち。
「一旦、ここに隠れてね」
 そんな一時避難場所にノーフィアがボクスドラゴンのペレと共に、駆け込んでくる。その背中には足の不自由な女性を背負っている。
「シネェ!」
 そんなノーフィアを狙い拳を握る竜牙兵が迫る。それを迎え撃つのはペレのブレス。さらに、背負った女性を支えるノーフィアの手から、ブラックスライムが伸び、竜牙兵に毒の槍を突き刺す。

「アソコダァ!」
 避難する人々が集まってくると、それを目指し、竜牙兵たちも集まってくる。竜牙兵独特の骸骨的外見に加え、胴着という組み合わせだけで、かなりの威圧感を与える。
「虐殺を狙うドラゴン軍、これ以上進ませるわけにはいきません!」
 そこへ立ち塞がるのはフローネ。ダイヤモンドハンマーを地面に叩きつけ、金剛の輝きを煌めかせる。
「やーやー、我こそは天才美っ少女妖剣士、千鳥ちゃん! 熊本市の平和は千鳥ちゃんたちが守りまっす!」
 千鳥も大きな声を出して、皆を鼓舞する。
「ケルベロスのお兄ちゃん、お姉ちゃん、頑張って!」
 そんな声に答えるように、ケルベロスたちに保護された子供たちが大きな声援を送る。
「えい、えい、おー」
 そんな声援に、とても嬉しい気持ちをハイテンションに変えて、元気よくぴょんぴょんと飛び回る千鳥。そのまま踊るように、妖刀蛇之村正と、オウガメタル・都牟刈を構える。
「我流村正……かごめかごめ」
 静かな唄と共に放たれたのは、斬撃の檻。それが竜牙兵を閉じ込める。
「……そこで見てなさいな。あっという前にあいつら、やっつけるからね!」
 普段はのほほんとしている要だが、状況が状況なので、かなり真面目モード。
「頑張って!」
「頼んだぜ!」
 ケルベロスたちの様子に、比較的落ち着いてきた市民たち。
「民の盾となり、必ず阻止しましょう!」
「みんなみんな助けます!」
 フローネとミライの声で、気合いを入れ直すケルベロスたち。
 同時にミライの歌声が響き出す。その歌に背中を押され、竜牙兵の群れを迎え撃つケルベロスたち。これからが本当の戦いだ!


「……マトメテシネ!」
 目標を一時避難場所に定めたのか、竜牙兵たちが集まり、突撃を繰り出してくる。
「アメジストシールド展開!!」
 それを迎え撃つのは、フローネの紫水晶の盾。その盾の一部を鋭角に展開し、そのままアメジストバスターとダイヤモンドハンマーを正面に構え、竜牙兵に突撃する。
「統率は取れているようだが、所詮は命令を遂行する兵士か」
 従来の竜牙兵のように適当に動く兵士ではないものの、連携の取れたケルベロスたちであれば対処出来る。
「何、敵は多いが、この面子ならば、心配ないさ」
 的確に状況を把握しながら、英世はフローネの突撃で乱れてた竜牙兵へマルチプルミサイルを打ち込む。
「そこね!」
 フローネと英世の攻撃で乱れた竜牙兵の群れに踏み込み、一体を蹴り上げる要。
「よっと」
 そのまま後ろ回し蹴りで竜牙兵の胴中央を蹴り抜き撃破する。
「そこだね!」
 その動きに合わせてノーフィアが隣の竜牙兵を狙う。腕が伸びたかと思うとそれはブラックスライム。まるで腕の延長のような動きで竜牙兵を捕らえ、そのまま丸呑みにする。
 ノーフィアと要は何度も戦いを一緒に乗り越えてきた仲間。それもあるだろうが、そうでなくても戦場で出会えば息を合わせる事が出来るのが、ケルベロスたちの一番の強みではないだろうか?

「貴様等は……」
 強い怒りを露わにし、拳を握るセイヤ。そのまま拳の一撃を叩き込むと同時に抜刀。
「全て叩き潰す……!」
 抜刀と同時に弧を描く剣先が、竜牙兵の関節を斬り伏せる。
「ジャマヲスルナ!」
 怒りからか、少し突出したセイヤに迫る竜牙兵。全身に特有のオーラを身に纏い、鋭い踏み込みを見せる。
「……捉えました」
 しかし、その前に後方より瑛華の狙撃が竜牙兵の足を貫く。
「いっくよー!」
 狙撃に合わせたように、千鳥が踏み込み、鋼の鬼と化したオウガメタルの斬撃を繰り出す。
「お願い、クッキーちゃん♪」
 歌声を響かせ、市民を勇気付けると同時に、オウガメタル・クッキーちゃんにお願いして、オウガ粒子を放出させるミライ。その光が仲間たちの傷を癒し、同時に感覚を覚醒させていく。さらに、ボクスドラゴンのポンちゃんが属性インストールで仲間たちを支援する。
「北側に、竜牙兵の群れを確認!」
 セイヤが双眼鏡で敵の動きを確認する。すでに、かなりの数の竜牙兵を倒したはずだが、次々に現れる竜闘姫リファイア・レンブランド配下の竜牙兵。
 ここで引くわけには行かない。
「誰も絶対に見捨てないのです……!」
 ミライの言葉で気合いを入れ直すケルベロスたちであった!


 それから、さらに数体の竜牙兵を倒したものの、熊本市の混乱は治る様子は無い。
 周囲の人命救助及び避難誘導を終えたケルベロスたち。
「……元気だしてね、ね?」
 激しいドラゴン勢力の攻撃に、市民の護衛に動いたケルベロスが多く、この地区では大きな被害が出ていない。それでも、建物などには被害が出ている。
「ああ、家が……」
「友達は大丈夫かな……」
 心身共に傷ついた市民は少なくない。それにケルベロスたちも無論無傷ではない。重症な者こそ居ないものの、激しい連戦でダメージが蓄積している。
「他の地区でも、ケルベロスたちが尽力しているはずだ」
 連絡手段の無い現状では、他の地区の情報は分からない。
「他の場所でもケルベロスのみんなが頑張ってるから!」
 怯える子供達を元気な声で勇気付けてあげる千鳥。
「クッキーでも食べるかい?」
「う、うん。ありがとう!」
 それが分かっているからこそ、笑顔を見せ、子供にクッキーを配る要。
 そんなケルベロスたちの様子に元気を取り戻し、勇気を持ち始める市民たち。
「頑張って!」
「頼んだよ!」
 救助された市民の声援を背にケルベロスたちは進む。
「任せて!」
 市民の声援に背中で答え進むと、すぐに別の竜牙兵の集団に遭遇する。一休みする余裕も無い。
「シネェ!」
 殺意を溢れさせ、襲いかかってくる竜牙兵たち。ケルベロスに休む間すら与えてくれそうに無い。
(「……ごめんね」)
 激しい殺意の中でも、ミライの心情は複雑であった。彼女は出来れば敵であっても救いたいという想いがある。しかし、それが出来ない事も知っている。
「みんなみんな助けるって、決めたのです!」
 そう言葉に出す事で、覚悟を決める。そんなミライの背中に優しく触れるのはフローネ。
「……必ず守りましょう」
 多く語らず、触れた手から『分かっています』という想いを込め、それを守る力へと変える。
「俺の仲間をこれ以上傷つけさせはしない……!」
 激情を込めた言葉を吐き、気合いをいれなおすセイヤ。戦いはまだ続くのだ!


「キサマラァ!」
 作戦の邪魔をするケルベロスたちに激しい攻撃を繰り出してくる竜牙兵。
「生憎、あたしらはしつこいんだ」
 隙あらば市民を狙い、攻撃してくる竜牙兵の武器を水の気弾で打ち抜き、攻撃を封じる要。
 そこへ踏み込むのはセイヤ。激しい怒りを込め全身に漆黒のオーラを漲らせる。
「打ち貫け!」
 そのオーラで利き腕を黒龍を象り竜牙兵へ突撃する。
「魔龍の双牙ッッ!!」
 その拳が竜牙兵を貫くと同時に、漆黒のオーラが龍の顎となり、竜牙兵を飲み込み喰らう。
「……」
 次の瞬間に、竜牙兵は雲散霧消した。
「……錆びついていないか、少々心配だが」
 小さな呟きと同時に、三枚の歯車状刃を形成する英世。
「……切り裂け、ギア・スラッシャー!」
 三枚の歯車を遠隔操作しながら投射し、三方向から竜牙兵を包囲し、切り裂き抉る。
「ひゃっほー!」
 ハイテンションに二刀を振り回しながら竜牙兵へ突撃する千鳥。二刀の攻撃をフェイントに、そこから流星の力を込めた蹴りで竜牙兵のバランスを崩させる。
 そこへ追撃するのはフローネと瑛華。同時にドラゴニックハンマーを砲撃形態へ変形させ、竜砲弾を放つ。
「誰が為の真理? 誰が決めた真理? 誰も信じない真理でもね、我思う故に我あり。それでいいじゃない真理♪」
 ミライの歌声が響き、歌に込められた憧れと葛藤を力に変え、仲間の背中を押す。
「我、流るるものの簒奪者にして不滅なるものの捕食者なり」
 その歌を背中に受け、動くのはノーフィア。竜牙兵の背後を指差すとその背後に展開される魔法陣。
「然れば我は求め訴えたり、奪え、ただその闇が欲する儘に」
 直後、魔法陣に吸い込まれ魔法陣内部で圧壊し、消滅した……。


 この地区の市民の安全は確保された。これから、付近の竜牙兵を掃討しながら中央へ向かう事になるだろう。
 携帯電話等は相変わらず不通となっていて、他の地区でどうなっているかは不明。
「他の皆さんはどうなっているのでしょうか?」
 現状では、竜牙兵の指示系統に乱れは見えない。つまり、指揮官である竜闘姫リファイア・レンブランドが健在である可能性が高い。しかし、今の彼らに出来る事は急ぎ中央を目指す事だけだった。
「大丈夫でしょうか?」
「……皆さんを信じましょう」
 救援へ急ぎながらも、不安が胸の奥をくすぶるケルベロスたち。
「テッタイダ!」
 そんな中で、遠方の竜牙兵たちが突如、撤退を開始した。
「勝った……のか?」
 誰ともなく呟く声が、撤退を開始する竜牙兵の騒めきにかき消される。
「ともかく、市民救助が最優先だ!」
 逃げ出した竜牙兵の追撃もそこそこに、再び市民の救助活動に移るケルベロスたち。
 竜闘姫リファイア・レンブランドがどうなったのか不明だが、今は出来る事を最優先に動くケルベロスたち。しかし、その胸中では、まだ終わっていないという直感を感じていた。
「な、なに……あれ……」
 それを裏付けるように、東の空から何か強い気配のようなモノが感じられた。これからが本当の戦いなのかもしれない……。

作者:雪見進 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月23日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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