魔竜王の遺産~無限の蹂躙

作者:土師三良

●殺戮のビジョン
「た、助けてください! 命だけは! 命だけはぁーっ!」
 サラリーマンらしき中年の男が絶叫していた。
 彼の周りに立っているのは数体のオーク。
「はぁ? なんなの、その捻りのない命乞い?」
「『命だけ』とか言ってっけど、命以外の物はいらねーし」
「さっさと死ねや、この虫ケラが!」
 悪態とともに振り下ろされた触手に頭に叩き割られ、男は絶命した。
 オークの犠牲者は彼ばかりではない。この町――熊本市のあちこちで人々が無惨に殺されている。老若男女の区別なく。
「それにしても、もったいねえよなぁ。女まで殺すなんてよぉ」
「しょうがねえだろ。エラガバルスのオヤジの命令に逆らうわけにはいかねえや」
「まあ、いいじゃん。犯りまくるのは楽しいが、殺りまくるのもけっこう楽しいぜ」
「弱っちい奴をブッ殺すだけの簡単なお仕事でぇーす」
「ぎゃははははは! ウケるぅー!」
 馬鹿話を続けている間も、オークたちはずっと足と触手を動かしていた。目についた者を取り囲み、触手で叩き殺し、あるいは絞め殺し、あるいは刺し殺すために。

●音々子かく語りき
「……というような地獄絵図が熊本市で展開されちゃうかもしれないんですよー! 皆さんの力でなんとしてでも阻止してください!」
 ヘリポートに招集されたケルベロスたちの前で、ヘリオライダーの根占・音々子が興奮気味に語っていた。
「熊本市を襲撃するのは、ドラグナーとオークと竜牙兵と屍隷兵で構成された九つの軍団です。でも、そいつらは先遣隊のようなものでして、いずれドラゴンどもの本隊がやってくるんですよ。あの竜十字島から!」
 竜十字島から出撃した本隊は『覇空竜アストライオス』なるドラゴンに率いられている。彼らの目的は、熊本市に封印されている魔竜王の遺産――ドラゴンオーブを手に入れること。
 ドラゴンオーブの詳細は明かではないが、ドラゴン勢がこれだけ大規模な作戦を起こしてまで求めているのだから、特別な力を有していることは間違いないだろう。もしかしたら、魔竜王の再臨させるほどの力を……。
「封印されたドラゴンオーブを復活させるには大量のグラビティ・チェインが必要だと思われます。それを確保するため、九つの軍団は熊本市で破壊と殺戮の限りを尽くそうとしやがるんですよ。つまり、熊本市の被害が大きくなればなるだけ、ドラゴンオーブ復活を阻止できる可能性が減じてしまうというわけです」
 逆に言えば、熊本市の被害が小さければ小さいほど、ドラゴンオーブ復活を阻止できる可能性が高まるということだ。
「ということで、先程も言ったようになんとしても九つの軍団の虐殺を阻止してください。どの軍団も指揮官クラスのデウスエクスの指揮に従って行動していますから、その指揮官を手早くやっつけることができれば、全体の戦いが有利になると思います。とはいえ、全員が指揮官に殺到すると、多数の兵士が野放しになって、市民の犠牲が増える恐れがあります。指揮官の討伐は他のチームに任せて、兵士たちの掃討に徹するというのも一つの手段ですね。それと、敵を倒すことだけでなく、市民を救助することも忘れないでください」
 続いて、音々子は各軍団の指揮官についての説明を始めた。
 一人目は中村・裕美。大侵略期の封印ドラゴンを目覚めさせようとしていたドラグナーだ。彼女の軍団の兵士はケイオス・ウロボロスたち。
 二人目と三人目はドラグナーの姉妹――竜闘姫リファイア・レンブランドと竜闘姫ファイナ・レンブランド。前者は竜牙兵を、後者は屍隷兵を率いている。どちらの軍団の兵士も武術を得意としているらしい。
 四人目は嗜虐王エラガバルス。自らの血を引く部族を総べるオークだ。非情に残忍な暴君であり、捕らえた女に対する扱いは苛烈を極めるという。
 五人目は、強い女を求めているオーク。その名も餓王ゲブル。率いるは飢餓状態のオークの軍団。
 六人目もオーク。触手が異常に増殖かつ異常発達した触手大王。自らと同様に触手が異常発達した兵士の他、『王子』と呼ばれる三人の息子を付き従えている。
 七人目は黒牙卿ヴォーダン。鎧を纏って騎乗した竜牙兵。配下の姿もヴォーダンに似ているが、鎧は軽装であり、馬にも乗っていない。
 八人目は斬り込み隊長イスパトル。四本の腕を有した竜牙兵の剣士。こちらの配下も指揮官の軽装版であり、腕は二本しかない。
 最後は黒鎖竜牙兵団長。アストライオス直属の軍団長であるらしい。得物は剣と黒鎖。兵士たちも団長と同じ姿をしている。
「以上の九つの軍団の中からターゲットを選んでください」
 そう言った後で音々子はおなじみのエールを送った。
 死闘に臨む戦士たちに。
「過酷な戦いになるかもしれませんが……大丈夫です! 皆さんならできます!」


参加者
千手・明子(火焔の天稟・e02471)
矢野・優弥(闇を焼き尽くす昼行燈・e03116)
アップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569)
エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)
篠村・鈴音(焔剣・e28705)
ジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)
李・風美(胡乱でチャイナな瓶底眼鏡・e40773)

■リプレイ

●暴風の如く
 熊本市西区の城山は名前が示す通り城跡のある山だ。
 その山の麓に位置する高台の病院こそ、嗜虐王エラガバルス一党のいわば本陣であった。
 もっとも、待機しているオークはさして多くない。それもあって、病院の敷地内は不気味な静寂に包まれていた。
 と、思いきや――、
「エ~ラガバルス、エラガバルゥ~ス! オマエの触手、糸コンニャ~ク!」
 ――関西弁のイントネーションによる悪態と激しいブレーキ音の二重奏が響き渡り、『上村工務店』と記された軽トラックが駐車場に滑り込んできた。
「なんだ、てめえら!?」
「ここをエラガバルスのオヤジの牙城と知ってのローゼキか、こらぁーっ!」
「ブヒブヒブゥー!」
 慌てふためきつつ病棟から飛び出してくるオークたち。
 その十数対の視線の先でトラックが停止し、先程の声の主であるジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)を含む八人の男女と一体のビハインドが運転席や荷台から降り立った。
 言うまでもなく、彼らはケルベロス。ヘリオンから城山に降下した後、乗り捨てられていた車を拾い、事前に定めたチェックポイントを巡ってエラガバルスを見つけ出そうとしていたのだが――、
「――最初のポイントでいきなり見つけちゃった。せっかく、市内の道路マップを頭に叩き込んでおいたのにぃ」
 自分たちを取り囲むオークたちなどには目もくれず、千手・明子(火焔の天稟・e02471)が病棟を見上げた。
 剣を手にした恰幅のいいオークが屋上の縁に立っている。
 エラガバルスだ。
「ふん!」
『糸コンニャク』呼ばわりされた触手を忌々しげに震わせるエラガバルス。
 次の瞬間、彼の姿は屋上から消えた。
 地面が揺れ、オークたちの後方で土煙が巻き起こる。
 そして、彼らが左右に分かれると同時に土煙が晴れ、エラガバルスの姿が再び現れた。
「正気か、貴様ら?」
 エラガバルスはケルベロスたちを見回した。アスファルトに減り込んだ足を引き抜きながら。
「たったこれだけの数で挑んでくるとは……」
「『たったこれだけ』じゃないアルよ! 頼もしい仲間、いっぱいいるネ!」
 レプリカントの李・風美(胡乱でチャイナな瓶底眼鏡・e40773)がグルグル眼鏡をキラリと光らせて、中国服の大きな袖から信号弾を取り出した。
 しかし、それを撃つまでもなく――、
「嗜虐王エラガバルス! 貴様の鬼畜外道の所業は最早これまで! 我らケルベロスが天誅を下さん!」
 ――ニホンザルの獣人型ウェアライダーを始めとする八人のケルベロスが山から駆け下りてきた。
「ほらネ?」
 と、風美は得意げに微笑んだ。

●暴虐に抗い
「ふん! 人間ごときがわらわらと。女子供も容赦せんぞ!」
 エラガバルスが手から触手へと剣を持ち替え、その触手を繰り出した。標的となったのは、新たに加わった面々のうちの一人。騎士装束の娘。
 左右に分かれた配下たちもケルベロスに攻撃を始めた。向かって右の群れは、軽トラックで突っ込んできたチームに。左の群れは、山から駆け下りてきたチームに。
「容赦しないのはこちらも同じ! 女子供だからといって、甘く見ないほうがいいですよ!」
 篠村・鈴音(焔剣・e28705)が『シールド・バレット』を発動させた。オウガメタルが分裂して飛び散り、右翼チームの前衛陣に張り付いて防御力を上昇させ、傷を癒していく。
「私は攻撃に専念しマス」
 前衛陣の一人――レプリカントのアップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569)がエラガバルスにペイントラッシュをぶつけた。
「ヒールとエンチャントはお任せしてもいいデスカ?」
「ビアンシュール! めっちゃ気張ってヒールするさかい、アップルちゃんたちはどんどこどんどこ攻めたってくださーい!」
 スターサンクチュアリの守護星座を描いて前衛陣に異常耐性を付与するジジ。
 その頭上を一つの影が飛び越えた。道路マップが入力された頭を戦闘モードとでも呼ぶべき状態に切り替えた明子だ。
「熊本はとっても良いところ! オークなんかに汚させるわけにはいかないわ!」
 裂帛の気合いとともに放たれた技はスターゲイザー。舞踊用の下駄の形をしたエアシューズがエラガバルスの胸板を抉る。
「あんたたちの汚らわしい足跡を汚らわしい血で洗い流してやる!」
「ああ。洗い流してやろウ。ジャブジャブと!」
 レプリカントのアリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)が敵の前衛陣に桜花剣舞の斬撃を浴びせて回り、地面に散った塗料の斑点(アップルのペイントラッシュの残滓だ)に新たな色を加えた。明子が言うところの『汚らわしい血』の飛沫を撒き散らすことで。
 その二色の斑点に紅蓮の火の粉が彩りを添えた。エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)のグラインドファイア。
 間髪を容れず、新たな色彩が戦場を染め上げた。今度は白灰色。風美が発射したマルチプルミサイルの煙である。
 ミサイルに翻弄されるエラガバルスの配下たちに向かって、風美は笑顔で尋ねた。
「叉焼、角煮、酢豚――ご注文はどれかネ?」
 配下たちは返答の代わりに悲鳴や罵声を投げかけてきたが、沈黙を守っている者が二人だけいた。続け様の猛攻に耐え切れず、死んでしまったのだ。叉焼でも角煮でも酢豚でもなく、ただのミンチと化して。
「親玉はともかく、手下どものほうは手応えがありませんね」
 矢野・優弥(闇を焼き尽くす昼行燈・e03116)がケルベロスチェインを地面に展開し、鈍色の魔法陣を描いた。
 その魔法陣越しにエラガバルスを睨みつけて、エリオットが吐き捨てた。
「前線は部下任せにして高見の見物……所詮はドラゴンの走狗か」
「ほざけ!」
 剣を触手から手に戻し、右翼チームへと襲いかかるエラガバルス。
「走狗にも劣るドブネズミどもが!」
 禍々しい瘴気を漂わせた肉厚の刃が横薙ぎに走り、優弥、アップル、エリオット、鈴音、アリャリァリャを斬り裂いた。
 いや、斬り裂くだけでなく――、
「――クソッ! エンチャントを吹き飛ばしやがっタ!」
 血塗れになって悪態をつきながらも、アリャリァリャがチェーンソー剣を振って果敢に反撃した。
「自分の顔面がブレイクしてるからって、こっちのエンチャントまでブレイクすることないじゃないですかー」
 エラガバルスを挑発しつつ、鈴音が再び『シールド・バレット』を発動させた。斬撃を浴びた自分たちではなく、後衛陣に対して。エラガバルスが最初に見せた剣と触手による遠距離攻撃を警戒しているのだ(あの攻撃を受けた騎士装束の娘は後衛だった)。
「頼むぞ、ミズキ」
 優弥もまた後衛にエンチャントを施した。こちらはメタリックバースト。それを受けたビハインドのミズキシュターデンがポルターガイストを用いして石礫を飛ばしていく。
 そのさざ波じみた飛翔音が消えぬうちに明子がエラガバルスの懐に飛び込み、体を沈めて愛刀『白鷺』で敵の足の腱を挽き潰すように断ち切った。『挽崩し(ヒキクズシ)』という名の攻撃。
 そして、彼女が素早く後退すると――、
「空に輝く明け星よ。赫々と燃える西方の焔よ。邪心と絶望に穢れし牙を打ち砕き、我らを導く光となれ!」
 ――エリオットが『いと高き希望の星(スター・オブ・エアレンディル)』の呪文を詠唱し、ゾディアックソードを振り下ろした。
 切っ先から光が放たれ、エラガバルスに向かって伸びていく。
 しかし、射線上に配下の一人が飛び込んだ。
「伯父貴ィ!」
 その叫びを残して、配下は息絶えた。
 盾となったのは彼ばかりではない。別の配下も身を以て防いでいた。左翼チームのシャドウエルフの少年がエラガバルスめがけて繰り出したフォーチュンスターを。
 しかし、配下たちの文字通りの献身に対して、エラガバルスはなんの反応も示さない。
「非情デスネ。手下が命懸けで守ってくれているのに、眉一つ動かさないなんて……」
 アップルがアタッシェケース型のガジェット『ブルーローズ』を拳銃形態に変えて、魔導石化弾を撃ち出した。
「よう見ると、眉毛はありまへんけどねー」
 ジジが二つ目の守護星座を描いて前衛陣の傷を癒し、ブレイクされたエンチャントを再び付与した。『めっちゃ気張ってヒールする』という宣言通りに。
「でも、眉毛がないのは好都合アルよ」
 風美が両の袖口を胸の前で合わせたかと思うと、すぐにまた腕を広げ、ロックオンレーザーを袖の奥から次々と発射した。
「料理の際に毛を毟る手間が省けるからネ!」

●暴君を討つ
 ケルベロスの容赦ない攻撃によって、一人また一人と倒れていく配下たち。
 戦いが始まってから五分ほどが経過し、生き残っている配下の数が十人を切ると、存在しない眉を動かさずにいたエラガバルスもついに怒りと焦りの色を見せ始めた。
「貴様ら、よくも我が一族を……!」
 歯ぎしりしながら、左翼チームの前衛陣に切り込んでいくエラガバルス。だが、その間にまた配下の一人が死んだ。エラガバルスに放たれた熾炎業炎砲を代わりに受けて。
「また庇われてしまいましたか。しかし――」
 熾炎業炎砲を撃った半透明の御業の横で優弥がニヤリと笑った。
「――これで前衛は全滅です」
 そう、盾を務める配下は死に絶えた。残る敵はエラガバルスと中衛に陣取る八人の配下……だったのだが、すぐに七人になった。左翼チームの人派ドラゴニアンの戦術超鋼拳の直撃を受けて、また一人絶命したのだ。
 その死体を蹴飛ばすようにして(不甲斐ない戦死者を鞭打ったのか、あるいは蹴躓いただけか)、エラガバルスが今度は右翼チームに突進した。
「ええい! 増援はどうした!?」
 苛立たしげに配下たちに怒鳴りながら、アップルめがけて剣を振り下ろす。
 しかし、その強力な一撃を受けたのは鈴音だった。自分の身を盾にしたのだ。エラガバルスの配下たちと同じように。エラガバルスの配下たちよりも強い心で。
「どんなに待っても増援は来ませんよ」
 鈴音は傷をものともせずに斬霊刀の『緋焔』を一閃させて、絶空斬で反撃した。
「そうさ。絶対に来やしねえゾ。ギヒヒヒ!」
 アリャリァリャが敵陣の中を哄笑とともに駆け回り、数度目の桜花剣舞で二人の配下を仕留めた。
「なぜなら、他のチームが――」
 エリオットがグラインドファイアを放った。
「――市街地のオークたちを足止めしているはずですカラ」
 後を引き取ってガジェットガンで追撃したのはアップル。
 その直後、彼女たちの後方でブレイブマインが炸裂した。
「それに市民の皆様を救助してるチームもいてはりますのー!」
 と、爆破スイッチを手にしたジジが爆発音に負けぬほどの大声を張り上げる。
「そうよ!」
 明子がオークのお株を奪い、触手を伸ばした……と、見えたのは錯覚。それは触手ではなく、墨の香りを有したブラックスライムだった。
「他のチームが市街地で奮闘しているから、わたくしたちはここで戦っていられる! 他のチームが市街地で奮闘しているから、わたくしたちは負けるわけにはいかない!」
「……っ!?」
 槍状に変じたブラックスライムを額に受けて、エラガバルスは頭を仰け反らせた。王冠が後方に吹き飛び、スライムの毒が混じった血が額の傷口から流れ落ちていく。
「あらあら。思っていた以上に汚らわしい血ね」
 明子がわざとらしく眉をひそめている間にまた一人の配下が倒れた。
 続いて、また一人。また一人。また……。
 そして――、
「後は貴様だけダ!」
 ――アリャリァリャがチェーンソー剣を振り上げ、エラガバルスに斬りつけた。最後の配下が左翼チームに息の根を止められる様を視界の隅に捉えながら。
 エラガバルスはその攻撃を躱し(ただし、実に無様な動きだったが)右翼チームに向かって剣を薙いだ。破れかぶれの一太刀。
 もちろん、そんなものでケルベロスの勢いは止められない。
「女性を苛烈に扱ってばかりいたという自称『嗜虐王』さんに――」
 敵の剣が残した軌跡を逆向きになぞるようにして、明子が『白鷺』の白刃を走らせた。ジグザグ効果を持つ絶空斬がエラガバルスの傷口を斬り広げていく。
「――本当に苛烈な苦痛を教えてあげちゃうわ。冥土の土産にね!」
「ついでに冥途の渡し賃もあげよか。ちょっと色付けといたげるわ」
 風美が(なぜか関西弁になっていた)がま口から何枚かの硬貨を取り出し、頭上に放り投げた。それは『硬貨絢爛・金吹雪(コウカケンラン・カナフブキ)』なるグラビティ。硬貨群は空中で一瞬だけ停止した後、高速回転しながらエラガバルスに降り注ぎ、またもやジグザグ効果で状態異常を悪化させた。
 左翼チームも猛攻を加えていた。
「そろそろ、決着といこうか」
 そう言って、人派ドラゴニアンが戦術超鋼拳を叩き込んだ。
 その隙にシャドウエルフの少年がエラガバルスの背後に回り込み、振り返る暇を与えることなくガジェットで撃ち抜いた。更に他の者たちも次々と攻め立てていく。
「輝く刃をもって……正義に祝福を、邪悪に裁きを!」
 仲間たちに続くべく、最初に攻撃を受けたあの騎士装束の娘が光の短剣を生成して撃ち放った。
「ふんっ!」
 エラガバルスが剣を振り、いとも簡単に光の短剣を叩き落とす。
 しかし――、
「今です! エリオットさん!」
 ――騎士装束の娘の叫びに応じて、エリオットが飛び出した。
 ゾディアックソードを手にして。
 エラガバルスに向かって。
「邪悪にして卑劣なる暴君に今、正義の鉄槌を!」
「なにが正……ぎゅえっ!?」
 エラガバルスの言葉は途中で断ち切られた。体が棒立ちになり、剣を構えていた手が触手ともどもだらりと垂れ下がる。
「……」
 エリオットは無言でゾディアックソードの血を払うと、エラガバルスにくるりと背を向け、ゆっくりと歩み去った。
 エラガバルスの体がぐらりと揺れ、前のめりに倒れた。絶空斬によって斜めに割られた顔面から血と肉片と脳症を撒き散らしながら。
 そこにジジが近付き、にっこりと笑いながら――、
「オーララ! ホンマ、不味そうな糸コンニャクやわー」
 ――王冠も配下も命も失った嗜虐王の醜悪な触手を厚底ブーツで踏み潰した。

「敵もかたづいたことですし、この辺りをヒールをしておきまショウカ」
「いえ、その暇はなさそうですよ」
 ゴッドグラフィティの準備を始めたアップルを優弥が止めた。
「……え?」
 アップルは訝しげな目を優弥に向けたが、彼がこちらを見ていないことに気付き、その視線を追った。
 そして、息を呑んだ。
 いくつもの黒点が東の空に浮かんでいる。
 なにも知らぬ者が見たら、鳥の群れだと思うかもしれない。
 しかし、もちろん、鳥ではない。
 今は距離があるので小さく見えるが、実際は小さくないはずだ。
 体も。
 その体の内にある力も。
「来ましたね。ドラゴンの本隊が……」
 アップルの横で鈴音が呟いた。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月23日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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