魔竜王の遺産~探究の為の犠牲を求めて

作者:長野聖夜

●惨劇の始まり
 ――熊本市北区。
 黒鎧に身を包んだ馬に乗った黒騎士が、配下であろう黒鎧の騎士達に号令を掛けている。
 【彼等】は、一人を除いて黒馬に乗っている者はいない。また、馬に乗る黒騎士達よりも軽装の鎧故に足軽のようにも見えるが……その殺気は本物だった。
 号令に伴い、鬨の声を上げた配下達が手に持つ武器で次々に道行く人々に襲いかかる。
「なっ……なんだっ?!」
「キャー!」
 突如として現れた非日常的存在に人々は恐慌し慌てて逃げ出すが、騎士達はそんな彼等を手当たり次第に虐殺していく。

 ――残ったのは死屍累々の死体達。

 それは、熊本市を突如襲った惨劇であった。

●緊急事態
「皆さん、お集まり頂きありがとうございます。今、大変なことが起きています」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・enooO2)の言葉にケルベロス達が耳を傾けている。
「大侵略期のドラゴンが復活させられていたことは、皆さん御存知だと思いますが、遂に黒幕が判明し、動き始めたのです」
 告げるセリカの言葉はやや重い。
「敵の目的は、『魔竜王の遺産ドラゴンオーブ』の復活にあったのです。そして、それが熊本市に封印されていたことが判明し、それを手に入れるために竜十字島より『アストライオス』軍団が出撃し、熊本市へと向かっています」
 ドラゴンオーブの力は不明だが復活すれば魔竜王の遺産と呼ばれているだけはあり、下手をしたら魔竜王の再臨すら可能になる怖れがある。
 当然そんな危険な遺産をデウスエクスたるドラゴン達に渡すわけにはいかない。
 しかも、熊本市に彼等が向かっている理由はそれだけではない。
「どうやら、彼等は熊本市を破壊し、市民達を虐殺することでドラゴンオーブの封印を解き、更にドラゴンを復活させるためのグラビティ・チェインをも略奪するつもりの様です」
 その為に彼等は、魔空回廊を最大限に利用しドラグナー、竜牙兵、オーク、屍隷兵の9つの部隊に分けて熊本市へと侵略しようとしている。
 当然放置しておけば熊本市の市民達はただで済む筈が無いだろう。
「この様な非道を見逃すわけには行きません。どうか皆さん、熊本市に急行して頂き、熊本市を救うために力をお貸し下さい!」
 セリカの言葉に、ケルベロス達がそれぞれの表情を浮かべ、返事を返した。

●敵戦力
「まず、敵は9つの部隊に分かれております」
 そう静かに告げながら、セリカは、一人、一人の名をゆっくりと連ねていく。
 ――ケイオス・ウロボスを配下とする竜性破滅願望者、中村・裕美。
 ――武術を得意とするレンブランド姉妹が妹、竜闘姫ファイナ・レンブランド。
 ――その姉である竜闘姫リファイア・レンブランド。
 ――自らの血を引く種族を率いる、オークの王が一人、嗜虐王エラガバルス。
 ――『強い女』を求め、飢餓状態のオークを率いるオークの王が一人、餓王ゲブル。
 ――突然変異で触手が異常発達した『王子』と呼ばれる3人の息子と共にオークの軍勢を束ねる触手大王。
 ――黒鎧の竜牙兵を束ねし、竜牙兵黒牙卿・ヴォーダン。
 ――四腕の剣士型竜牙兵として斬り込み隊長を務める竜牙兵イスパトル。
 ――そして、今回の首魁アストライオス軍直属の竜牙兵団長、黒鎖竜牙兵団長。
「……以上、9つの部隊に別れ、熊本市に其々に市民の虐殺を行う様です」
 いずれの配下も各しきかんの指示に従い、己が本能よりも『グラビティ・チェイン略奪』と言う使命を優先している。
 各軍勢の長を撃破出来れば命令は徹底されなくなり、自分の欲求の赴く儘に行動を起こすが、逆に言えば彼等を撃破しない限り、熊本市の市民達が虐殺され続けることを意味する。
「つまり……皆さんには、熊本市民を救出しつつ、且つ各部隊の長を撃破出来る様、作戦を立てて頂く必要があります。どうかそのことを努々忘れなき様、お願い申し上げます」
 セリカの囁く様な言葉に、ケルベロス達が其々に返事を返した。

「魔竜王の遺産が本当に存在するとは……正直予想しておりませんでした。ですが、今回の戦いはあくまでもドラゴン達との決戦の前哨戦になります。この戦いが、今後のドラゴン達との戦いの趨勢に大きな影響を与えることを決して忘れないで下さい。……どうか、誰一人欠ける事無く帰って来て頂けるよう、お祈り申し上げます。……お気をつけて」
 セリカの祈りに背を押され、ケルベロス達は戦場へと向かった。


参加者
楡金・澄華(氷刃・e01056)
守屋・一騎(戦場に在る者・e02341)
リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)
レヴィアタン・レクザット(守護海神龍・e20323)
シトラス・エイルノート(碧空の裁定者・e25869)
清水・湖満(氷雨・e25983)
陸堂・煉司(冥獄縛鎖・e44483)
村崎・優(未熟な妖剣士・e61387)

■リプレイ


 ――熊本市東区。
 熊本市では2番目に大きな地区と言う事もあり、道路も舗装され、様々な店舗や住宅が等も並び、普段であれば多くの人々が行き交い、極平凡な日常を送ることが出来る賑やかな都市である。
「……流石にダメっスね、通信機器は」
 手持ちの通信機器が使用できないのを確認し、守屋・一騎(戦場に在る者・e02341)が呟く。
(「こうしている間にも被害が出ているんスよね。きっと……」)
「デウスエクスにも通信妨害が出来る相手がいるんじゃねぇかな。なら、俺達が敵を全員切って捨ててやればいいってことだろう、一騎」
 陸堂・煉司(冥獄縛鎖・e44483)の言葉にそうっスね、誤魔化す様に淡く笑む一騎。
(「魔竜王……聖女王様ですら、相討ちとなる程の力を持った者。その様な方が復活する可能性が僅かでもあるのなら、ドラゴンオーブを、彼等に渡すわけにはまいりません」)
 そして人々の命も、奪わせはしない。必ず、自分達が守る。
 リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)がきつく目を瞑り祈る様にしている様を見ながら、レヴィアタン・レクザット(守護海神龍・e20323)は自身の竜化した翼と耳、そして尻尾が緊張を帯びて鋭利な刃の様になるのを感じていた。
「湖満、此度は何処も苛烈な戦場となるだろうな。乱戦に混戦、苦戦は必死だろう」
「そうやろな。でもレヴィ、私達は負けられへんやろ。市民の命が掛かっておるんやからな」
 レヴィアタンの覚悟に清水・湖満(氷雨・e25983)が軽く頷きを返し、同意とばかりに楡金・澄華(氷刃・e01056)が首肯した。
「その為にも、一体でも多く斬り捨てる。それが私の役割だ」
「頼りにさせて貰いやす、澄華」
 湖満がそう言った時、周囲への警戒を怠らず、じっと様子を見ていたシトラス・エイルノート(碧空の裁定者・e25869)が柔和な表情のままに煉司達へと視線を送る。
「皆さん、南の方に急ぎましょう。市民の皆さんが襲われているのが確認できました」
「……了解だ。急ごう」
 村崎・優(未熟な妖剣士・e61387)が黒影の刃を持つ喰霊刀『暗牙』と、透明な刃を持つ我零刀『織心』を無意識に擦り合わせていた。
(「誰かが目前で殺されるのは、もう嫌だ」)
 かつて目前でエインヘリアルによって殺された者達の事が脳裏を過り、己が心を締め付ける。
 今はこの位ですむがもしそれを目前で見てしまえば、自分の心は脆くも崩れ去ってしまう。大虐殺となれば尚更だ。
 ――だから。
(「僕は守る。一人でも多くの市民を助け、これ以上僕自身が傷つかない為にも」)
「急ぐぞ! 私達の手で市民を守る!」
 澄華の号令に押される様に、優達は南に向かって走り出した。


「敵が市内に大量にいるんや、早急に市外へ避難を!」
 シトラスが見つけた4体の竜牙兵の群れに襲われる人々へと湖満が叫ぶ。
 その時、竜牙兵の一体が曲刀を市民へと振り下ろそうとしていたが。
「大丈夫っスよ、俺達が守るから」
 一騎が市民と竜牙兵の間に割込み、『捕食モード』と化したその腕に纏ったブラックスライムで曲刀事その腕を喰らわせながら市民達に声を掛ける。
 竜牙兵の内の一体が暴風を纏った回し蹴りを放ちその衝撃波で市民達毎一騎達を倒そうとするが。
「その様な攻撃で、私達の守りを破る事は出来ぬぞ」
 レヴィアタンが鋭利化した翼をバサリと展開し避難誘導を行うシトラスを庇うと同時に飛び上がり大きく竜の羽を羽ばたかせる。
 羽ばたきによって生み出された海龍の起こす大嵐を思わせる暴風が竜牙兵達を飲み込み、彼らを尽く斬り裂き、レヴィアタンへの理不尽な憎悪を抱かせた。
「レヴィ、あまり無理はせんといてや」
 市民と澄華の盾となりながらシトラスと共に人々を避難させていた湖満が雨乞いの踊りを舞う。
 湖満の舞と共にシトシトと癒しの雨が降り注ぎ一騎達の傷を癒していく。
「皆さん、市外ならば安全です。此処にいる竜牙兵達は僕達が抑えますから慌てず、騒がず避難してください」
「ケルベロスか! たっ、助かる!」
 シトラスの言葉に背を押され、市民達が市外へと避難しようとするのに竜牙兵の一体が追撃しようとするが。
「うあああああぁぁぁぁああああああああっ!!!」
 優が狂った様な絶叫と共に、喰霊刀『暗牙』と我零刀『織心』を扇形に広げ、今までに喰らって来た呪詛を解き放つ。
 広げられた二振りの刃から生み出されたその呪詛は、一言でいうならば『黒竜の翼』。
 羽ばたきと共にすさまじい斬撃が繰り出され、目前の4体の竜牙兵達をまとめて斬り刻み、その動きを重圧で絡め取っていく。
「……全員斬って、捨てんぞ、てめぇら。後悔しても、し切れねぇ様にしてやる」
 煉司が告げながら、ドラゴニックハンマーに集約した妖気を砲撃モードにして撃ち出す。
 竜を象った砲弾が、恐らくは守り手であろう竜牙兵の一人を撃ち抜きその隙を見逃さず澄華が走った。
「攻撃は最大の防御とはよく言ったものだ。……その言葉、私が体現して見せよう! 刀達よ、私に力を……!」
 澄華の言葉と共に斬龍之大太刀【凍雲】の蒼く輝く刀身と雪の様な波紋が雪の女王を思わせる美しい輝きを放ち、黒夜叉姫の漆黒の刀身が美しき黒き輝きと共にその力を解放。
 澄華の想いに応える様に、真の力を解放した二刀を解き放ち空間事、煉司の一撃により痛手を被っていた竜牙兵を斬り裂く。
 その攻撃は易々とその骨を断ち哀れかの者は砂の様になって消えて逝く。
「続けて行きます」
 人々を湖満に任せたシトラスが駆け、自らの背の緑の『光の翼』を暴走させて粒子となりそのまま守り手であろう一体に襲い掛かる。
 粒子化したシトラスの動きについていけない竜牙兵に一撃を加え素早く離脱する彼を逃がさぬ、とばかりに2体の竜牙兵の一体が袈裟切りで、もう一体が手に持つ棒を振るいながら襲い掛かる。
 双方からの攻撃の内の一撃から一騎がシトラスを庇うが、もう一撃には間に合わずその攻撃が腹部を貫こうとする。
 だがその時……。
(「必ず、守って見せます」)
 何処か悲哀を感じさせる美しい歌が紡がれた。
 それは、リコリスの歌。
 願いの込められた、癒しの歌。
 歌と共に『御業』が半透明の鎧となって呼び出され、其れがシトラスの身を守る盾となり、竜牙兵の突きの一撃を受け止め彼への負傷を最小限に抑え、更にその周りを淡く光る輝きが覆った。
 その様子を見ながらリコリスが悲哀の色の眼差しのままに静かに息を一つつく。
「申し訳ありませんが……此処から先は、通すわけには参りません」

 ――竜牙兵達が、憎悪と怒りに彩られた気配を纏った。


 ――暫くして。
「言ったろ? 全員斬って捨てるってよ」
 ドラゴニックハンマーに卓越した妖気を纏わせて振るう煉司。
 その一撃が3体目の竜牙兵を砕き。
「あぁぁぁぁぁぁっ!」
 優が喰霊刀『暗牙』と我零刀『織心』を擦り合わせながらその後ろに音も無く近づき、黒き刃で隠れた透明の刃で最後の竜牙兵の急所を抉り、止めを刺した。
「皆さん、ご無事ですか?」
「怪我人がいらっしゃれば仰ってください。直ぐに治療いたします」
 シトラスとリコリスの言葉を受け、避難中の人達の中でも怪我を負った人達がおずおずと手を挙げる。
 リコリスが湖満と共に手当てを施す間に、未だ避難の終わっていない人々を一騎達が確認していた。
 その中で逃げ遅れた老人や子供達を見つけ、優が優しく手を差し出す。
「……大丈夫か? 自分で歩ける?」
「……うん。ありがとう、お兄ちゃん……」
 その時だった。
「た、助けてくれい!」
「キャ……キャぁ!」
 悲鳴と共に、此方に向かって逃げてくる人々の姿を澄華が見つける。
 その後ろから追ってきている者達が誰なのかも直ぐに気が付き、タン、と一足飛びに、戦場へと駆けていた。
「私の首級を上げんとする猛者はおらんのか!?」
 半ば抜き打ち気味に斬龍之大太刀【凍雲】と黒夜叉姫の二刀を暴走させ、蒼と黒の美しい光の線を引かせながら、突出してきた竜牙兵を十文字に斬り裂く。
 斬り裂かれた竜牙兵がお返しとばかりに、袈裟切りに刃を振るうがその時には、上空からレヴィアタンが飛び込み、その攻撃を龍の翼で受け止めお返しとばかりに竜の翼を羽ばたかせ、再び水龍を思わせる竜巻を解き放っていた。
「例え貴様達が如何に束になって掛かってこようとも、私達は決して市民を犠牲にするものか! 湖満、煉司!」
「レヴィアタン、分かってるぜ。リコリス、爺さんの保護、任せたぜ」
「分かりました」
「レヴィ、勿論や」
 転びかけていた老人を受け止めて立ち上がらせた煉司が、リコリスに彼を任せて戦場へと疾駆しながら足を擦過。
 身に着けていたエアシューズが摩擦を起こし、其れが強大な炎となって澄華が十文字に斬り裂いた竜牙兵を襲ってその身を焼き尽くし、湖満が左手で鞘に納められた日本刀に手を掛けすり足で接近。
 煉司によって生み出された隙をつく様に自らの刀を手ごと凍結させながら抜刀。
「邪魔や。退いて」
 碧い光、と形容される一閃と共に、十文字に斬り裂かれその身を火傷で覆われていた竜牙兵を武器事凍てつかせ、にこりと笑う。
「ほら、早くキュアせぇへんとあかんやろ?」
 湖満の挑発に触発されたが、後衛の竜牙兵が息吹を放ち、凍てつき焼かれる竜牙兵の傷を癒すが。
「うあああああぁぁぁぁああああああああっ!!!」
 絶叫と共に優が再び突進、喰霊刀『暗牙』に籠められた揺ぎ無き怒りの呪詛と我零刀『織心』で喰らった魂によって抱えた呪詛を解き放ち前衛にいる4体の竜牙兵を薙ぎ払う。
 傷だらけの1体を1体が庇い、他の2体はその攻撃に身を斬り裂かれながらも、怒りに満ちた表情でレヴィアタンへと接近、片方が鍵爪でその身を断ち割ろうとし、もう一体が斧でその身を叩き割ろうとする。
「おっと、其れをやらせるわけには行かないっスね」
 呟きながら一騎が素早くレヴィアタンの前に陣取り鍵爪に胸を斬り裂かれ、斧で右の肩の肉を斬り裂かれるが、一騎は決して怯まない。
「湖満さんの負傷分散の作戦のお陰で余裕がまだあるっスね」
 呟きながら、一騎が左腕を覆う攻性植物を蔓触手形態にして先程回復を受けていた竜牙兵を締め上げその動きを牽制する。
 ――だが……。
(「此処で苦戦していたら、他の人達はどんな目に遭わされているっスかね」)
 最悪の想像が脳裏を過るが、その不安を市民達に気取られぬ様、陽気そうな笑みを浮かべる一騎。
「貴方達は、レヴィアタンさんに気を取られ過ぎですよ」
 微笑しながらシトラスが手の甲に刻まれた紋章を地面へとそっとつける。
 その光に応じて姿を現したのは、一体の黄金色のユニコーン。
「これで終わりにしましょうか」
 嘶く黄金のユニコーンに跨ったシトラスが黄金の光となって戦場を疾駆し、4体の竜牙兵達を串刺しにする。
 深手の1体、そして先程深手を庇ったもう1体が、斧竜牙兵を庇う様に立つが、一角獣は決して止まることなく突き刺され、付けられた2体の竜牙兵の傷は決して軽微ではない。
「数さえあれば勝てると思っているのでしたら、大間違いですよ、貴方達」
 柔和な笑みを浮かべてシトラスが告げる間に、老人を守る様に立っていたリコリスが再び美しい悲哀を感じさせる歌を歌う。
 奏で上げられたそれが上空からオーロラの様な光を生み出してキラキラと澄華達を覆ってその傷を癒す。
 その支援を受けながら澄華が斬龍之大月【凍雲】に無数の霊体を憑依させて傷だらけの竜牙兵を袈裟斬りにした。
 氷が全身を貫き氷の彫像と化した竜牙兵を斬り捨て、澄華が続けて黒夜叉姫を振るう。
 それは斧による一撃を受け止めていたレヴィアタンに追撃を掛けようとしていた鍵爪竜牙兵の動きを阻害し、連携する様に、煉司が動いた。
『……瘴霧一閃。―――呪縛、解放。』
 煉司が自らの抑制していた呪詛を一斉解放し自らのドラゴニックハンマーに妖気を纏わせ、大剣の如き妖刀を具現化。
 同時に己を呪詛が蝕もうとするが。
「ただじゃねぇぜ、後悔してもし切れない殺し方をしてやる!」
 静かな怒りと敵を滅ぼすと言う執念を交えて叫んでそれを吐き出し、容赦のない斬撃を、やはり傷だらけの竜牙兵へと叩きつける。
 肩から胸にかけてを斬り刻まれ絶叫する竜牙兵の懐に優が潜り込みつつ、双剣の刃を擦り合わせた。
 刃と刃の擦れる嫌な音、そして黒と透明の不協和音が自らのエゴを具現化させ、漆黒の無数の鎖を生み出す。
「あぁぁぁぁぁっ!」
 優の絶叫と共に放たれた暗黒縛鎖達が生き残りの竜牙兵達を締め上げ、動きを止める隙を見逃さず、湖満がその足を水の様に澄んだ光で纏い、すり足で近づいていた。
「さあ、さっさと消えな」
 はらりと微かに着物を風に靡かせながら放たれた澄んだ光に覆われた蹴りが、鍵爪型の竜牙兵を捕らえその足を折る。
「さて……どないしますかな?」
 やんわりと微笑む湖満を憎々し気に見つめる竜牙兵の周囲の時を、リコリスの音色を変えた悲哀を感じさせる歌が止めて凍てつかせた。
「今です」
「任せて貰おう!」
「では、行きましょうか」
 レヴィアタンが電光石火の蹴りでその身を砕き、シトラスが咎闇の鎌に呪詛を載せ月を思わせる弧を描いた斬撃を放ち、残った斧持ちを斬り裂き止めを刺していた。

 ――そして最後の一体も、また。
 煉司のグラインドファイア、優のシャドウリッパー、一騎の旋刃脚による連続攻撃を受け、そして……。
「刀たちよ、私に力を……!」
 澄華の叫びと共に真の力を解放された二刀の蒼と黒の一閃に、成す術も無く斬り裂かれたのだった。


「多くの人達が避難できた様やね」
「はい。他の班の皆さんも尽力してくださった結果でしょう」
「そうだな」
 湖満の呟きにリコリスが頷きを返し、レヴィアタンも又満足げに頷きを一つ。
 首領狙い班の為の露払い。市民の保護。乱戦と混戦。
 課せられた使命を果たすことのが出来た充足感は、レヴィアタンに満足を与えている。
(「最悪の想像は、免れられたのは、良かったっスね。でも……全てが救えたわけじゃないっスか」)
 安堵と、自分達がいないところで起きたであろうそれを想像し一騎が内心で全ての人を救えないと言う痛みを忘れずに戦い続けようと、改めて決意を固めた時。
「おい、あれはなんだ?」
 煉司が空を見上げてそう告げた。
 煉司に促され、上空を見上げたシトラスが柔和な笑みを浮かべたまま息を呑む。
「巨大な竜の群れ……どうやらこれからが本当の戦いの様ですね」
「だが、負けるつもりはない。私達がいる限り、奴等の好きにはさせない」
「レヴィの言う通りやね。私達は今出来ることをやるだけの事やわ」
 レヴィアタンと湖満の応酬を聞きながらリコリスが静かに祈りを捧げる。
「聖女王様……皆様に、光を」

 ――リコリスの祈りが、優達の心に更なる戦いの予兆を感じ取らせた。

作者:長野聖夜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月23日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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