魔竜王の遺産~嵐の前の災厄

作者:寅杜柳

●緋に染まる
 ビルの壁に赤い飛沫が張り付く。
 一体の竜牙兵が逃げ遅れた青年の足を鎖で捕らえ、剣でその胸を貫く。必死に逃れようとしていた彼の手足は一瞬の痙攣の後、動かなくなった。
 そのような光景がこの都市、熊本市のあちこちに引き起こされている。
 いつもは穏やかな街並みも狂騒の最中、デウスエクスの大群から逃れる人々の悲鳴に溢れ返っていた。
 剣を引き抜いた竜牙兵はまた次の標的を探し、周囲へと視線を向ける。その先の一つ、細い路地から同じ装備の竜牙兵が返り血に塗れた姿で現れたのを見て取ると、別の方角へと歩み始める。
 市内の他の場所では触手を持ったオークが容赦なく人々を蹂躙し、屍隷兵やドラグナーはその能力で惨劇を至る場所で引き起こす。
 これは全て露払い。彼らの主を万全にするための前夜祭、人々にとっては悪夢そのものの惨劇であった。
「大変だ! 大侵略期のドラゴンを復活させていた黒幕が動き出した!」
 集まったケルベロス達に慌てた口調で語るのは雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)だ。
「奴らの目的は魔竜王の遺産……ドラゴンオーブの探索で、封印されていたそれの在処を熊本市だと突き止め、竜十字島からドラゴンの軍勢『アストライオス軍団』が向かってきているようだ」
 ドラゴンオーブの力は不明だが、魔竜王の遺産とも言われているそれは、魔竜王の再臨の可能性すらあるかもしれない、と知香は続ける。
「さらに悪い事に、それに先立って魔空回廊を利用して配下を送り込んで、ドラゴンオーブの封印解除の為のグラビティ・チェインを確保するために、市街の破壊と虐殺を行おうとしている」
 知香によると、配下の軍勢はドラグナー、竜牙兵、オーク、屍隷兵で、9つの部隊に分かれて熊本市街の略奪を行い、『アストライオス軍団』が到着するまでに必要な量のグラビティ・チェインを略奪しようとしているとのことだ。
「ここでグラビティ・チェインを略奪されればされただけドラゴンオーブ奪取を阻止できる可能性が下がってしまうと考えられる。……幸い、まだ虐殺は始まっていない。破壊と虐殺を阻止し、ドラゴンたちの作戦を挫く為にも人々を守り抜いてきてほしい」
 そこまで話すと、知香は資料を広げケルベロス達に説明を始める。
「敵は九つの軍団に分かれていて、ドラグナー、オーク、竜牙兵の指揮官が各種族三体いるようだ。ドラグナーの指揮官は、大侵略期のドラゴンを復活させていた中村・裕美、そして武術に優れるレンブランド姉妹の三体だ。中村・裕美はケイオス・ウロボロス、レンブランド姉妹の妹側のファイナは武術家の死体から生み出した屍隷兵、姉のリファイアは武術を使う竜牙兵をそれぞれ配下に率いている」
 さらに知香が三体のオークが描かれた頁を開き、説明を続ける。
「オークは嗜虐王エラガバルス、餓王ゲブル、そして触手大王の三体が指揮している。嗜虐王は残忍な暴君、捕らえた女性に対する扱いは苛烈極まりないようだ。餓王は『強い女』を求めていて、配下は女性への拘りが強く飢餓状態のオークばかり。触手大王は突然変異で触手が異常に増殖、発達した巨大なオークで、奴と同様に触手が異常発達した配下達を三人の息子……王子と呼ばれているようだが、共に率いている」
 続いて知香は竜牙兵が描かれた資料を開く。
「竜牙兵の指揮官は黒牙卿・ヴォーダン、斬り込み隊長イスパトル、黒鎖竜牙兵団長の三体だ。ヴォーダンは黒鎧の騎兵で、その配下はヴォーダンを馬から降ろして軽装にしたような外見をしている。イスパトルは四本腕の剣士型で、配下はその鎧を簡素にして二本腕になったような姿だ。黒鎖竜牙兵団長は覇空竜アストライオス直属の軍団長で、配下含め剣と黒鎖を武器としている」
 そこまで説明した知香は一息つき、ケルベロス達を見回す。
「敵部隊の目的はグラビティ・チェインの略奪だ。各部隊の指揮官は配下に指示し、できるだけ多くの市民を殺害させようとしている。ただ、各部隊の指揮官を撃破できればその命令は徹底されなくなり好き勝手に動き始めるだろう」
 上手く市民を救出しつつ、速やかに指揮官を撃破できれば有利になるかもしれない、と知香は締め括る。
「……これはデウスエクスにとっては前哨戦。この後竜十字島を出撃したドラゴン軍団との戦いも控えている。だけれどどうか無理せず、確実に勝利してほしい」
 そう最後に付け加えると、知香はケルベロス達を送り出した。


参加者
神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)
瀧尾・千紘(唐紅の不忍狐・e03044)
セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)
柊・沙夜(三日月に添う一粒星・e20980)
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)
アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)
ザベウコ・エルギオート(破壊の猛獣・e54335)
木恒・赤成(ヴォルペスパダッチーノ・e60902)

■リプレイ

●豚鬼襲来
 熊本市南部。突如現れたデウスエクスの群に、本来長閑なこの地域も混乱に陥っていた。
 本来欲望に忠実なオークも、人を攫う事無く整然とただ生命を奪い取る暴力を振るい続けるのみ。
 そんな災厄から逃れようと一人の女性が道を走っている。後ろには数体のオークが邪悪な触手を蠢かせ道を往く。焦りからか、女性が足を縺れさせ転んでしまう。振り向いた彼女が見たのは、叩き潰そうと触手を掲げた人類の敵のシルエット。もう駄目だ、ぎゅっと彼女は目を瞑った。
「――神楽火流、討邪の太刀がひとつ、焔耀斬!」
 その瞬間、黒い砲弾と見紛う影が突進し、強烈な斬撃で触手を斬り飛ばす。その影、神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)が倒れこんだ女性を庇うよう立ちはだかる。
 さらに空から無数の刃が降り注ぎ、女性とオークを分断する。
「オークは苦手なんだけどそういう訳にもいかないわよねぇ」
 刃の雨を降らせたのはアミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)。回廊の位置や上空から確認する事はできなかったが、近隣の学校へと向かうオークの一団は視認できた。事前に地図を頭に叩き込んでいた事もあり、惨劇が開始される前に割り込むことができたのだ。
 突如、金属質の音が響いた。発生源はアスファルトの上に転がる表向きの淡黄の金貨。
 振り向くか振り向かないかの間にじゃらじゃらと偽りの金貨が広がり、後方から狙いを定めていたオークを覆う。
「なるほど、表か。幸先がいいねえ」
 廃材で組み上げた異形の左手をもつ青年、卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)が飄々と口にする。
「諦めないで。希望を持って。私たちが近くにいるわ」
 不安がる女性を白狐の仮面を横にかけた金狐のウェアライダー、瀧尾・千紘(唐紅の不忍狐・e03044)が励ます。何かあったら守ってあげますから、あちらへ。力強い声と笑顔で続けられた言葉を信頼したのか、立ち上がりその方角へと避難していく。
(「背水の陣、ですかね」)
 そんな感想を柊・沙夜(三日月に添う一粒星・e20980)は抱きつつ、銀の粒子を展開する。
 さらにセット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)がハンマーより放った砲弾がオークの胴体に命中、その体勢を崩すと赤褐色の狐人、木恒・赤成(ヴォルペスパダッチーノ・e60902)の深緑と黒を纏った刃が奔り、オークを刺し貫き呪詛で汚染した。
「ヒャッハー! 好きにはさせねェぜ!」
「誰……ダ?」
 煽るような言葉に怒りのまま振り向いたオークが目にした存在は、めっちゃ似合っていないプリンセスクロスを纏う筋肉質な男性オウガ、ザベウコ・エルギオート(破壊の猛獣・e54335)、その人だった。その脇には何とも言えない表情のナノナノ、イェラスピニィが杖を構えている。
「本当ニ何ダオ前ハ!」
「ケルベロスだぜぇーヒャッハー!」
 困惑したオークに応えつつザベウコがポーズを決めるとオークの足元から黄金の角が瞬時に伸び、顎を撃ち抜き、倒れ伏す。
 そして数分後。最後に残ったオークにセットの飛び蹴りが突き刺さると、この場に立っているオークはいなくなった。

●田園風景
 高い建物が少なく見渡し易い土地柄、そして隠れるつもりのないオークの行軍もあり、索敵は容易だった。赤成が地図とスーパーGPSで現在位置を確認しつつ一般人を誘導している。また、その過程で数度のオーク部隊との交戦を行いつつケルベロス達は歩みを止めない。
 三度目の交戦、傷ついたオークの体を赤成が素手で引き裂こうとするが、触手に阻まれ弾かれる。けれども幻をもたらす桜吹雪と共に皇士朗の鮮やかな剣閃がオークを切りつけ、さらに沙夜の魔力を込めた咆哮が弱っていた他のオーク達も含め吹き飛ばす。瞑っていた眼を開き、倒れた敵を確認すると握っていた拳も緩んだ。
「……やはり連絡は難しいか」
 皇士朗が残念そうに呟く。無線は酷いノイズ交じりの音を発するばかりで連絡はままならない。市内に広く展開しているデウスエクス達から人々を守る関係上、他班は近くにはいない。武運を祈るしかない。
「みんな落ち着いて、大丈夫だから!」
「慌てなさんな。落ち着いて行動できれば助かる」
 千紘と泰孝が拡声器を利用し、難を逃れ混乱している人々を落ち着かせようと呼びかける。
(「……願いは届くの?」)
 人々の姿を見て千紘は思う。無事を願う彼らの願いが叶うとは限らない。けれど、
「彼らの願いが届かなければ。私たちで繋げればいいのです!」
 ぱちんと己の頬っぺたを叩き、気合を入れる。
「慌てないで下さい。互いに助け合えば乗り切れますから」
 アミルも穏やかに人々に語り掛け、不安を和らげる。
「あっちはダメっすね。道が完全に砕けてたっす」
 人々を避難させる為のルートを探っていたセットが不安げな表情で戻ってくる。それなりの人数の一般人を統率の取れたオークから一気に市外へ逃がすのは難しく、移動可能な道も減っている。瓦礫程度ならはザベウコと沙夜がその怪力で排除しこじ開けられるが。
 ちなみに。ゴリラクロスなザベウコの姿は意外に受けがよく、笑顔と勇気を人々に与えられていた。
 やむを得ず避難所として選んだ付近の学校へと人々を連れて行き、再度人々の救出に向かおうとしたケルベロス達だが、
「……あれは」
 敵の襲来を警戒していた赤成がいち早く気づく。
 青緑のローブを纏ったようなオークが八体の配下とこちらに向かってきている。恐らくは、王子。千紘が信号弾を空に打ち上げるも、乱戦状態である今、援軍は期待しない方が無難だろう。
「主ヘノグラビティ・チェイン、ドラゴンオーブ解放ノ為ニ!」
「ドラゴンオーブか」
 朗々と語る王子の言葉にまた厄介なのが出てきたな、と赤成は眉を顰める。
「なりふり構わず戦力の一点集中、ね。嫌いじゃないぜ、その賭け方」
 珍しい加工の記念硬貨を弾きつつ、泰孝がそう口にする。
「よくわからねェーが、やべェ何かって事はわかったぜ!」
 ザベウコがこくこく頷きながら戦闘態勢をとる。
「竜の宝玉とか、細かいことは今はいいわ」
 王子の言葉にアミルが静かに返す。
「あたし達は人々の命を護る、それだけわかっていれば十分」
 ね、そうでしょチャロ? 相棒の翼猫に確認するよう顔を向けると、肯定するように翼で主の肩に触れる。
「今後正体を突き止めることも必要になるだろうが……今は誰も殺させないことに全力を尽くすぞ」
 皇士朗が二刀を構える。その横にいるセットの表情は勇敢、不安は抱えていても戦いでそれに気を取られるつもりはない。無辜の人々の為に。
「……ここ、は、絶対に、通しません」
 静かに、けれど強い意志を以て沙夜が言った。ドラゴンは怖く、オークは嫌い、とても。けれどもケルベロスがやらねばならないのだ。
「世界の事なんて知ったことではないけれど、この場所に生きる人々の為に倒してみせるんです!」
 紫の瞳で敵を真っすぐ見据え、千紘が己を鼓舞するように宣言する。
 王子のマント――異常発達でそう見えていた触手の群が蠢き、鋭く伸び、オークの方向と共に戦闘が始まった。

●災厄砕き
「さあ、いきますわ♪」
 景気よく、嵐のように千紘が真紅の弾丸を、皇士朗がアームドフォートから無数のレーザーを前衛のオーク達にばら撒く。さらに続けて泰孝が左腕の廃材に捻り込んでいた剣を引き抜き星座の力を解き放つと、呼吸を合わせたアミルの夕闇の色合いの四翼から輝きが溢れ、光線が罪深いオーク達を撃ち抜く。
「ヒャッハー! オーク共、ここは通さねェーぜ!」
 気合を入れたザベウコが力任せにハンマーを振るい砲弾を射出、ガードを固めたオークに受け止められる。
 それと同時、宵闇の髪の少女の解き放った銀の粒子、そしてカゲの羽ばたきが起こした清らかな風が前衛を包み、集中力と耐性を向上させる。
 ケルベロス達を無視し、横を突破し避難所へと向かおうとしたオークの足元に轟竜砲の砲弾がめり込む。
「男女問わず、この人達はお触り禁止よ。貴方達みたいな下衆が穢していい命じゃないの」
 凛としたアミルの言葉が響き、止まった瞬間に距離を詰めた赤狐が深緑の刀身に無数の霊体が付き従わせ、その一太刀でオークを汚染する。
 しかしオーク達も黙って倒されるわけがない。その触手を鋭く伸ばし、あるいは叩きつけ手近なケルベロス達を狙うが、護り手達が上手く分散して庇う。
 そんな彼らをセットの展開したドローンの群が警護するよう飛来、
「むかしむかしあるところに小人たちが住んでいました……」
 さらに沙夜が魔導書の頁を捲り、記された御伽噺を語り始めると七人の小人がその周りに現れ、どこまでも響くような高らかな行進曲を歌い始め、負傷を治療していく。

 そして数分。中々倒れる者のでないまま戦いは続いていたが、転機が訪れる。
 皇士朗の桜花剣舞が閃き、盾となっているオークを纏めて切り裂くが、まだ倒れない。反撃に触手を伸ばそうとしたオークだが、その視線が虚ろになり隣の仲間をぶっ叩いた。重なった催眠の発動、好機だ。
「これでどうっすか!」
 青空からの霹靂、そう見紛う蒼竜の飛び蹴りが攻撃されたオークの頭部を捉え蹴り飛ばすと、
「ご褒美をあげましょう♪」
「ナニヲシガッ!」
 千紘が微笑み、指をパチンと弾く。するとどこからか落下してきた複数のタライがオーク達の頭に命中、何事か言いかけた口を強制的に閉じさせ――打ち所が悪かったのか、そのままオークは崩れ落ちた。
「災難と思って諦めな」
 さらに、赤成が体当たりするように距離を詰め至近距離から大型ハンドガンの引き金を引く。命中した弾丸はオークの生命力を赤成のものへと転化、増幅させる。連戦に備えていた彼の攻撃は、癒し手の負担を減らす一助となっている。
 イェラスピニィがハート光線で王子の動きを鈍らせるのに合わせ、青チェックのマフラーをしたふくよかな三毛の翼猫が重たく面倒くさそうな所作ではあるが、飛び掛かり鋭い爪で思いっきり引っ掻く。
 さらに泰孝がスイッチを押すと、一斉に起爆した見えない地雷が爆発、後列のオークを纏めて吹き飛ばす。それを辛うじて逃れた王子が触手を伸ばすが、ザベウコが受け止める。
「演算速度最大、同調生体制御開始!」
 セットが呟き、ドローンを介してザベウコの立体映像が眼前に表示させる。それを元に彼の傷を治療、さらにザベウコが伸ばした鎖が地面に陣を描き、イェラスピニィもハート形のバリアを展開し、守りを固める。ドローンや主の鎖の陣と共に、何度も展開されているそれは、千紘のばら撒いた弾丸による前衛へのプレッシャーも相まって連戦の割に傷を減らす助けとなっていた。
 さらに沙夜のステップを踏む音に合わせ、花弁のオーラが降り注ぎ前衛の負傷と呪縛も癒され、その間も続く連撃に最後の配下の倒れる音が響いた。
 阻むモノは粗方排除。触手の壁を纏うオーク、王子へと皇士朗が七哭景光と鬼哭景光を同時に振るい、衝撃波を放つ。同時に千紘の放った氷結の螺旋が王子を捉えるも、触手で緩和されているからかあまり堪えた様子がない。赤成と泰孝がそれぞれ霊体と空の霊力を纏わせた刃で斬り上げ、薙いだが、その密集した触手の弾力で振りぬく前に弾かれてしまう。反撃を警戒し、二人は飛びのき距離をとる。
 しかし、王子はその異常発達した触手を伸ばし、四方から泰孝へと叩きつける。狙い澄ました鞭のような攻撃を避けきる事はできず、仲間の庇いも間に合わずに深い傷を刻まれてしまう。
 即座に沙夜が手に出現させた球体が放ち、よろめいた彼の傷を癒やす。
「この子達はとってもやさしいの」
 しかし、直撃による深手はそれでも癒しきれていないと確認したアミルが、色とりどりのビオラを咥えた燕達を召喚。彼らの落とす花弁が泰孝の周りを舞うと、残っていた傷も完全に癒された。
「……オークといえど相手にとって不足なし」
 まぎれもなく強者、剣を交わせる事に狐の悪漢は僅かに高揚した。

 確かに王子は強力だった。けれども配下を失った状況で多勢に無勢、堅実に戦闘を進めるケルベロス達を前に、少しずつ弱っていく。
 千紘が両手に構えたガトリングガンから弾丸が放たれ、王子の肉体にハート型の弾痕を穿つ。千紘に気を取られたオークの側面から距離を詰めた赤成が、その深緑の妖刀をオークの胴体へと差し込む。呪詛に魂を汚染される感覚に王子が触手を広げ、滅茶苦茶に嵐のように振り回し千紘を狙うが、間一髪割り込んだセットが庇う。沙夜が満月に似た球体を飛ばし、カゲが面倒くさそうにリングの星飾りを揺らしながらその翼で清らかな風を送る。ドローンは衝撃で叩き落され加護を崩されたが、セットは回復を任せ轟竜砲で反撃する。
 連続攻撃に弱ったのか壁に手をついた王子の手を黄金の角が穿つ。
「壁も床も瓦礫も、全部俺の角が生える場所だ」
 得意気にそう言ったザベウコに怒りを向けるが、裂帛の気合と共に突進してきた皇士朗が、加速度を乗せた重い斬撃を見舞う。王子の全身を覆う触手を切り落とし、それに守られた足にまで到達、血飛沫と刀の輝きが燃え上がる炎のような軌跡を残す。しかし、まだその体は崩れない。
「くれてやる、拾いな」
 泰孝が手放すような気軽さで偽の金貨を放り投げると、黄鉄が王子を覆うように広がり縛り付け、呼吸を合わせたアミルが纏うブラックスライムが槍のように伸び、王子を貫く。
「……申シ訳ナイ……」
「……その賭け方、嫌いじゃないんだがな。まあ、今回は俺達の勝ちだ」
 どこかに許しを請いながら王子は倒れる。全てを失った敗北者、そうにも見えるオーク達の骸に泰孝が呟いた。

●嵐のとき
 王子を撃破したケルベロス達は、避難所を基点に一般人の救助を行っていたが、急にオークの統制が乱れ始めた。これを幸いとケルベロス達は掃討へと移る。
 泰孝が放り投げた偽の金貨が突撃しようとしたオークの足を止め、連携して皇士朗が突撃、加速を乗せた斬撃で斬り捨てる。己の欲望に従いばらばらに行動を始めたオークは蹴散らす分には組しやすい。
 そして暫くの掃討戦の後。その間に重なった傷も沙夜が確実に癒し、誰一人倒れず戦い抜くことができた。
 オークの影はなく、セットとアミルが空から確認してもその影はない。
「よォーし、大体片付いたな。後は、ドラゴン共が来る前に市民の奴らを市外に脱出させねェと」
 ザベウコがそう口にする。少しでも人々を熊本城から離れさせられれば生存率は上がるはずだから。
 大型の車両に老人や子供、病人等の人々を乗せ、脱出の準備を整えていた千紘が不意に嫌な気配を感知し、金の尾を逆立てる。
「……本隊の到着か」
 苦々しい表情の赤成が見遣る東の空にはドラゴンの影。
「大丈夫、必ずあたしが護るわ」
 近くにいた不安がる少年の手を、アミルがそっと握り励ます。

 そして、嵐の時が来る。

作者:寅杜柳 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月23日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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