魔竜王の遺産~殺戮の足音

作者:そうすけ

●おぞましい予知
 崩れた建物の下から細い腕が一本突き出ていた。虚空を掴むかのように、手に残っていた三本の指がぴくりぴくりと動く。その度に血まみれの手首からぶら下がったビーズの腕輪が跳ねて、薄くたなびく煙を乱した。
 瓦礫に埋もれた幼子の命は数分、せいぜいもって三十分後には消えるだろう。
 だが、王の帰還を強く望む彼らはその僅かな時間すら待つことができない。一刻でも早く、少しでも多く、グラビティ・チェインを効率よく確保するために。
 黒い鎖を蛇のように巻きつけた腕が伸びてきて、幼い手首を掴み、力任せに建物の下から引き抜いた。そのまま空へ振り上げて勢いをつけ、力いっぱい地面に叩きつける。
 骨が砕け、肉が潰れて血が飛び散り、黒鎖竜牙兵の黒いグリーヴを赤く汚した。黒鎖竜牙兵は気にも留めなかった。グラビティ・チェインを得るべく新たな得物を求め、ガラスの破片が敷き詰められた地面を歩いていく。
 市街地のいたる所に、頭を剣で叩き割られる男、腹を切り裂かれる女、黒い鎖で絞殺される人々がいた。虫ケラを踏み潰すかのような殺戮のなかで、少女のむごたらしい最後を嘆く者はいない。

 ――ケルベロスを除いては。

●ヘリポート
「大変なことが起きようとしている、みんな早く集まって!」
 サキュバスのヘリオライダー、ゼノ・モルス(en0206)は大きく腕を振って、ケルベロスたちを呼び寄せた。
「大侵略期のドラゴンを復活させていた黒幕が、ついに『魔竜王の遺産ドラゴンオーブ』のありかを発見してしまった!」
 ドラゴンオーブとは、魔竜王を再臨させる力を秘めている宝珠らしい。現時点ではあくまで可能性がある、ということなのだが……。
 人類滅亡に直結しかねない危険なもの――『ドラゴンオーブ』を決してドラゴンたちの手に渡してはならないとゼノは力説する。
「現在、ドラゴンオーブの封印場所である『熊本市』に、竜十字島より出撃したドラゴンの軍勢『アストライオス軍団』が向かっている。
 だけどその前に、ケルベロスは彼らの先兵を倒さなくてはならない。魔空回廊を通じて『熊本市』に先入りした、ドラグナー、竜牙兵、オーク、屍隷兵からなる9つの部隊をみんなで撃退するんだ!」
 9つの部隊は、竜十字島から出撃したアストライオス軍団が到着するまでに、『ドラゴンオーブの封印解除に必要なグラビティ・チェインを略奪』しようとしているのだろう。熊本市の戦いで、多くのグラビティ・チェインを略奪されればされるだけ、ドラゴンの軍勢によるドラゴンオーブ奪取を阻止できる可能性が下がってしまう。
「先入りした9つの敵部隊は、それぞれ指揮官の指示に従って『市民の虐殺』をおこなっている。出来るだけ多く殺すために、効率重視でね」
 ゼノは大きく顔を歪めて、怒りに肩を震わせた。
「……熊本の人々を助けつつ、この外道たちを残さず倒して欲しい。各部隊の指揮官を素早く撃破する事が出来れば、部隊の統率が乱れて戦いが有利になるよ。とくにオーク兵たちは、命令なんて無視して女の子を追いかけ始めるだろうね。ほかのドラグナー、竜牙兵、屍隷兵にしても、仲間と連携した動きができなくなるはずだ」
 作戦を立てるときの参考にして、と言いながらゼノはケルベロスたちに資料を配り始めた。
「今配った資料とボクの説明をよく聞いて、自分たちはどこへ行ってどの敵と戦うのかを最初に決めてね。
 まず、熊本市中央区から説明するよ。
 ここにいるのは、竜性破滅願望者・中村・裕美を指揮官とするケイオス・ウロボロス軍団だ。彼らはガーゴイルのような翼を持っている。
 続いて熊本市東区の北側。
 竜闘姫ファイナ・レンブランドを指揮官とする竜牙兵団がいる。彼らは武術が得意だ。
 熊本市東区の南側。
 竜闘姫リファイア・レンブランドを指揮官とする屍隷兵の軍勢が展開している。屍隷兵は武術家の死体を利用したものだから、彼らも武術メインで戦うよ」
 ここまで上げた指揮官はすべてドラグナーだ。
 ふう、とひと息ついて、ゼノは嫌そうに顔をしかめた。
 次に説明するのがオークたちだからだ。
「え~、熊本市西区の南側……。
 嗜虐王エラガバルスと彼の血を引く部族が暴れている。捕らえた女性に対する扱いは苛烈……オークなんてみんなそうだけど、女性は気をつけてね。
 熊本市南区の北側は餓王ゲブルだ。『強い女』を求めるオークの王が、女性に飢えたオーク集団を率いているよ。……ある意味、正当派のオークたちだね。
 ……熊本市南区の南側。
 触手大王……見た目が……突然変異で異常増殖&異常発達した触手がグロい、巨大なオークだよ。同じように触手が異常発達した配下達を、王子とよばれる3人の息子と共に率いている」
 一刻も早く視界から消し去りたいといわんばかりに、ゼノは資料を乱暴にめくった。
「熊本市北区の北側は雰囲気ががらりと変わって……。
 黒牙卿・ヴォーダンが黒鎧の騎士型竜牙兵を率いている。黒牙卿は鎧をまとった黒馬にまたがっているよ。部下は歩兵だ。
 熊本市北区の南側は四腕の斬り込み隊長イスパトルと剣士型竜牙兵たち。配下は腕が2本しかないけどね。
 あ、熊本市西区の北側を飛ばしてた。
 熊本市西区の北側は、黒鎖竜牙兵団長がいるよ。覇空竜アストライオス直属の軍団長で、剣と黒鎖を武器とする。配下の兵も団長と同型だ」
 ゼノが予知で見たのは彼ら、黒鎖竜牙兵団だという。
「あ、ボクがみた予知夢のことは気にしないで。みんなが一番結果を出せると思ったところを選んで欲しいんだ。というのも、この戦いはドラゴンとの決戦の前哨戦……戦いの結果ひとつひとつが、後の戦いに大きな影響を与えるから。無理せず、確実に勝利してほしい」


参加者
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)
サフィール・アルフライラ(千夜の伽星・e15381)
淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447)
レイリア・スカーレット(鮮血の魔女・e24721)
ドロッセル・パルフェ(黄泉比良坂の探偵少女・e44117)
ユノー・ソスピタ(守護者・e44852)

■リプレイ

●救出
「駄目です。やっぱり通じません」
 ドロッセル・パルフェ(黄泉比良坂の探偵少女・e44117)は首を振った。下にいる仲間たちに報告をすませてから、スーパーGPSで現在地を確認し、通った道や敵の有無を地図に書き込んでいく。
 事前の綿密な打ち合わせが功を制し、いまのところ他のチームと救助活動地域はかぶっていない。こうした地道なチェックを他のチームも行っているのだろう。
 信号弾の打ち上げは見送った。他のケルベロスたちだけではなく、敵にも自分たちの位置が知られてしまうからだ。
 ドロッセルはもう一度首を振ると、歯科医院の屋根から飛び降り、仲間たちの所へ戻った。
「まだジャミングは続いているのか。しかし……」
 レイリア・スカーレット(鮮血の魔女・e24721)はたった今、自身が持つグラビティの一つを潰し、切り落とされた腕をつなぐ心霊手術を終えたばかりで苛立っていた。
「大規模作戦時はまずジャミングすべし、とかなんとか。デウスエクスたちの間で決まり事でもあるのか?」
 毒づきながら回復したばかりの淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447)に手を貸して立たせてやる。
「ありかとう、レイリア。あの……ボク、耳を立てて辺りを探ってきます」
「あ、まて」
 サフィール・アルフライラ(千夜の伽星・e15381)が、助けた人々からもらったペットボトルをたくさん抱えて戻って来た。
「これ、飲んで行けよ」
 腕の中から一本取り出し、投げて渡す。
「ずいぶん汗をかいたからな」
 リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)もサフィールからペットボトルを受け取った。キャップを捻って口につけ、半分ほど一気に飲み干す。
 ふう、と息をつき、顎の下を手でぬぐった。
「これほど広範囲で電波障害が残っているとなると、まだかなり敵がいるな。……ドラゴン勢力もいよいよ本気ということか」
 熊本市北区の南側を三チームと分担して巡回していたのだが、ヘリオンを下りていきなり逃げる市民を追い回す竜牙兵たちを見つけ、戦闘になった。以降、北上しながら連戦つぐ連戦で、やっと一息つけたのが今だった。
 助けた市民の数は多すぎて、とても挙げきることができない。それは倒した敵の数にもいえる。
「だが、この後には本隊との戦いも控えている。ドラゴンオーブは奴らの手に渡してはならん。絶対に!」
 リューディガーは残りの水を飲み干すと、ペットボトルを握りつぶした。
 ドロッセルを呼んで現在地を確認する。
「北側担当のチームたちと探索範囲が被りそうだな。一旦、戻ろ――!?」
 建物が作るわずかな影に座って小休止を取っていたケルベロスたちは、異変を察して一斉に腰を上げた。
 最初、死狼にはその音源がわからなかった。だが、近くで雷が落ちたかのような轟音が断続的に発生するのを聞いて、やっと事態が飲みこめた。
 竜牙兵たちの攻撃を受けた市役所の建物が崩壊しそうになっているのだ。
「市役所です!!」
 仲間たちに向けて声を上げたときにはもう走り出していた。助けを求める声が、悲鳴が聞こえる。急がなくては!
「ああっ」
 目の前で市役所の東の外壁がゆっくりと傾きだした。壁の根元には逃げ遅れた親子三人がしゃがみこんでいる。
「大丈夫だ、私に任せろ。死狼たちは逃げた敵を追ってくれ――」
「頼みます!」
 ユノー・ソスピタ(守護者・e44852)は死狼を追い越すと、プリンセスモードを発動させて倒れる壁の下に滑り込んだ。
 子を庇う母親の頭を片腕で守り、もう片方の腕で落ちてきた壁を支える。
 世界が砂ぼこりにゆらぎ、鉄骨がねじれてモルタルが崩れ、ガラス片がばらばらの焦点をなして降り注ぐ。
 永遠とも思える数秒間ののち、静寂が訪れた。
「大丈夫かい?」
 埃まみれになってもユノーの美しさは曇らなかった。太陽のようなに晴れやかな笑顔で怯え震えていた子供たちに勇気と温もりを与えると、さあ、と親子に壁の下から出るように促した。
「いま出してあげるね」
 平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)は駆けつけるなり壁の下に腕を差し入れて、子供の手を引っ張った。小さな女の子を先に、続いてお兄ちゃんを助け出す。
「大丈夫ー? 怖かったよねー……って、あれ? 二人とも泣いてないね。えらいな~」

 だって、信じていたもん。けるべろちゅが守ってくれるって――。

 舌たらずの声が和のヒーロー魂をくすぐった。さらにお兄ちゃんからはケルベロスカードをねだられ、ますます笑みが大きくなる。いや、助けたのはボクじゃないんだけどね。……とはいえ、悪い気がしない。
「悪い奴らを倒して、みんなを助けてくれるよね」
「もちろん。ボクたちケルベロスがあんなのみーんな倒しちゃうから!」
 最後に母親が壁の下から這いだしてきた。直後に壁がぐいっと高く持ち上げられ、横倒しされると、舞い上がる砂埃の中から親子を救った守護者が現れた。
 空から蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)が降りてきた。
「怪我はないか?」
 真琴は母親の左膝がぱっくりと割れて血が流れ出ていることに気づくと、子供たちとユノーを呼びよせ、一列に並ぶよう指示を出した。
 別にいい、と渋る土蔵篭りには、「ついでだ、ついで。見えないところで怪我しているかもしれないだろ」と言って半ば強制的に並ばせた。
「よし」
 想蟹連刃を体の前で立てるようにして持ち、剣に宿る星辰を震わせる。生じた重力を操って地面に守護星座を描き、光らせつつ浮かび上がらせた。頭上まで浮かび上がると、爆発し、星々の海を四方に広げた。
「わぁ、キレイ! ママー、みっちゃん、昼なのにお星さまにさわれたよ!」
 母親の膝の傷はキレイに塞がった。流れていた血も止まっているのを見て、真琴は満足気に頷いた。
 娘の体を片腕で抱き寄せると、母親は何度も何度もケルベロスたちに頭を下げた。
「マジ、すげー! さすがケルベロス。ねえ、お姉ちゃんとお兄ちゃんのカードも全部頂戴! ボク、友だちに自慢するんだ」
 全部はダメ、と苦笑いで受けてそれぞれが持っているケルベロスカードを渡す。
「1人一枚だ。ケルベロスカード必要としている人が他にもいっぱいいるからな。ところで他のみんなは……逃げた敵は倒せたのか?」
「ううん、まだみたいだよー」
 和はユノーの後を指さした。ほぼ同時に指さした方角から低い爆音が聞こえ、ケルベロスたちは足の裏に大地の揺れを感じた。親子が小さく悲鳴をあげてうずくまる。
 瓦屋根の上に遠く見える、青い建物の一角が火を噴いていた。
「ボクたちも急ごう」

●戦闘
「ぜったいに逃がすもんか!」
 なぜなら、このまま大人しく引き上げるはずがないからだ。やつらの狙いはグラビティ・チェインを大量に集め、この地に眠っている『魔竜王の遺産・ドラゴンオーブ』の封印を解くこと。逃げ切った途端にその場で殺戮を始めるに違いない。
 死狼は走った。
 道路を横断し、畑や田んぼを突っ切って、逃げた竜牙兵のうち二体が黄色い看板が立つフェンスの入口を折れ、平屋根の大きな建物の中へ入っていく。青果市場だ。
 セリの時間外らしく、人の姿はみあたらないが、代わりに――。
「え……すい、か?」
 平屋根の下は吹き抜けになっていて、スイカが低く――三段積み上げられていた。割れているものが多いようで、赤い色が見える。収穫期前だからだろうか、どれも小ぶりだ。
 竜牙兵たちは重ね置きされたスイカの上をポンポンと飛び越えて追っ手から距離を取ると、後ろにしゃがみこんで身を隠し、攻撃してきた。
 横に跳んでかわす。
「おっと、危ないあぶない」
 死狼は身を低くして、スイカを盾にすべく駆け寄った。どれほど敵の攻撃を防げるか怪しいものだが、仲間が駆けつけてくるまで耐えなくてはならない。
 ないよりマシ、と思ったその時、スイカが切断された人の頭であることに気づいた。動揺し、集中力が途切れる。
 そこへ気咬弾が飛んできた。邪悪なオーラがレイリアに繋げてもらったばかりの腕に食らいつく。
「――っ!」
 痛みに耐えていると、とん、とアスファルトを叩く靴音が聞こえた。顔をあげると、ドロッセルがスイカ――いや、人々の頭を飛び越していくところだった。
「ただグラビティ・チェインを集めるだけにとどまらず……悪趣味極まりないですよ!!」
 天竺牡丹が赤く半月を描き、呪われた斬撃で竜牙兵を覆うバトルオーラごと切り伏せる。
「人を、命を……何だと思っているんですか!」
 切られた竜牙兵は起き上がると、探偵少女の問いに答える代わりにまたしても気咬弾を撃ってきた。愚問だと言わんばかりに、邪悪な魂のかけらが無防備にさらされた白い喉に食らいつく。
 倒れるか細い背をサフィールの手が支えた。
 死狼は痛みをこらえながらサイコフォースを撃って、ゾディアックソードを振ろうとしていた敵を牽制した。
「此処には沢山の幸せが、笑顔があった筈なんだ。こんな風に醜く塗り潰されてはならないものが……!」
 サフィールは傷ついた仲間を腕に抱いたまま足を鋭く蹴り上げ、怒りでたぎる重力を敵にぶつける。
 足から飛び出した流星は、煌めきを置き去りにしながら大気をぶち抜いて行き、竜牙兵の頭を砕いた。
 仲間を失い、焦った竜牙兵が再び逃走する。
「何処へ行く。此処が、貴様の墓場だ!」
 黄金色に閃く光が疾く建物の外を過ぎて行き、逃げる竜牙兵の先で旋回した。光の翼を暴走させて全身を光粒子そのものに変えたレイリアは、そのまま正面から突撃して竜の骨から成る敵の体を粉々にした。
 よし、倒したぞ。その場にいた誰もが少し気を緩ませたところへ、市役所内の人々を避難させえたリューディガーが屋根の下に駆け込んできた。
『目標捕捉……動くな!』
 リューディガーの怒鳴り声に全員が動きを止める。だが、銃の形につくられた指が向けられたのは、ケルベロスに気づき、半死半生の怪我人を捨てて逃げ出す別の竜牙兵たちの背中だった。
 猛き銀狼が牙をむく。
 指先から飛び出した重力弾は、竜牙兵を一気に追い詰め、うなじに噛みつき、地面へ叩きつけた。
 サフィールはドロッセルをレイリアに託すと、急いで怪我人の元に駆けつけ、応急手当を始める。
 その間にリューディガーがうつ伏せになったままもがく竜牙兵に近づいて、元警官の鋭い観察力を発揮、見抜いた弱点を固く握った拳でぶち抜いてトドメを刺した。
「……くそ! なんてこった」
 並べられた人の頭を見て、常々冷静な男が色をなした。
「こいつらの部隊がどこかこの近くで人々を襲っているはずだ。急いで見つけないと犠牲者が増えるぞ」
 親子救出に当たっている三人以外は全員が青果市場の平屋根の下にいて、ドーンという爆発音を聞いた。
「いまのはどこだ?!」
 真琴が飛んできて、建物の外の駐車場に降りたった。
「ここから少し南に下がったところにある青い建物だ。ここに来るまでに工場から人が逃げ出すのが見えた。ユノーと和が向かっている」
 さっと辺りを見渡して状況を把握すると、真琴は質問を省いてすぐさま治療を始めた。
「動けるものは先に行け。傷を癒したら俺たちもすぐに後を追う」

●終焉
 ガラス板が飛んできた。
 手前のラインに落ちて割れ、破片の一つがユノーの頬を切り裂いた。白い塗装がされたフレームの上に赤い血が散る。
 幸いにも、間の通路にうずくまった人には当たらなかったようだ。
「……たく、ここは何を作っているところなんだ?」
 ガラス板を運ぶフレームのような機会がいくつも並んでいるかと思えば、自動車工場などでよく見るアームロボットが並んでいたりもする。細かな部品を作っているわけではないらしい。ともかく、ダモクレスが見たら喜びそうな工場だった。
 だが、十二体の竜牙兵たちは整然と並ぶロボットにまったく興味がないようだ。手あたり次第壊しては、部品を弾幕代わりに投げてくる。おかげで逃げ遅れた人に当らないかとヒヤヒヤしっぱなしだった。
「しかし、場所がどこであれ、相手が誰であれ、一人でも多くの命を救う。その為に全力を尽くす」
 血族の守護神から受け継いだ名に誓いを立てて防御を固めると、横目で和に合図を出した。
 隠れていたロボットの影から白銀の鎧姫が飛び出すと同時に、和は掌にはめた縛霊手を開いた。
「けちょんけちょんにしてやるぞー」
 生産ラインの向こう側に向けて巨大な光弾を大量にバラ撤き、竜牙兵たちを牽制してユノーの救助を援護した。
「私が盾になる。さあ、早く逃げろ」
 立ち上がり、自らの体を盾にして作業員の逃走を助けるユノーに、竜牙兵たちは集中砲火を浴びせる。
 だが、先ほどの御霊殲滅砲によって痺れを受けたために命中率が著しく下がっているらしく、攻撃のほとんどの微妙に外れた。
「すまない、遅くなった」
 逃げる作業員とすれ違うようにして、レイリアたちがやって来た。
 レイリアは光の翼を広げ、凍刃槍を構えて敵陣に飛んでゆく。
「貴様らの目論見、阻止させて貰う。魔竜王は再臨させん!」
 超高速の突きが凍れる槍の先に稲妻を生み出した。貫かれた竜牙兵は雷に打たれたかのように体を痙攣させて横向きに倒れた。
 リューディガーが投げたゲシュタルトグレイブが工場の高い天井で分裂し、竜牙兵たちに降り注いだ。
 慌てふためく敵一体を、サフィールが紅蓮大車輪で焼き切りる。
 死狼は捕まえた敵の一体と背中を合わせ、冷たい骨の手足をブラックスライムとケルベロスチェインでしっかりと固定した。両の眼が金色に輝く。
「ボクは、オレは! お前たちを許せない!」
 高く跳びあがった。空中で姿勢を変えて頭から落ちる。
「うおぉおぉぉ!」
 ぶつかる直前に拘束を解くと、竜牙兵の頭と体だけ床に叩きつけた。
 敵を仕留めたのはよかったが、落ちたところが悪かった。複数の死神の鎌が体に振り下ろされる。
 ドロッセルは手を床に打ちつけた。黄泉比良坂の戸を開く。
『怨みの刃は地に落ちて尚、折れはしない。我流・月陰 千本輝夜』
 グラビティ・チェイン――無数の悪霊たちが一斉に床の下から槍のごとく突きあがり、簒奪者の鎌を振り降ろした竜牙兵たちを串刺しにして天井まで伸びた。
 流れ出す大量の血を前に真琴が祈る。
『慈愛深き天と水の乙女よ。我が盟約に従い、その力を顕現させよっ! ――来い、「ピアリィ」!』
 青き羽根を重ねて作られた一枚のカードに重力を込めて投げ放ち、式神――天へもとどく翼を持ちし水の乙女を召喚した。乙女の歌声が深手を負った仲間を癒す。
 ケルベロスたちは八人で結束しながら、残りの竜牙兵たちを一体ずつ倒していった。

 撃破後、工場から出て偵察に向かった真琴は、空の上から混乱して撤退していく敵の姿を目撃した。
 間もなく、通信障害が解かれ、斬り込み隊長イスパトルの報が撃破した二チーム双方からから届いた。

作者:そうすけ 重傷:淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月23日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 3/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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