魔竜王の遺産~己が戦場へ

作者:森高兼

 熊本市街に無数の断末魔が響き渡った。それはドラゴン勢力たる9つの軍団による虐殺が開始されたから。
 黒鎧を纏う騎士型竜牙兵の指揮官と外見は同じような配下も、軽装の歩兵として獲物を探し回っていた。命令に従って市民を発見しては無慈悲に蹂躙する。
 グラビティ・チェインを求める者達にとって、抗う術の無い人々は動く資源に過ぎないだろう。
 至る所で血飛沫が舞い、赤い池のように広がる鮮血。
 人々の命で催される血の宴は……まだ始まったばかりだ。

 サーシャ・ライロット(黒魔のヘリオライダー・en0141)が説明の場に足を運んだケルベロス達へと、忙しなく資料を配ってくる。
「来てくれて早々だが、早速本題に入ろう。大侵略期のドラゴンを復活させていた黒幕が動こうとしているようだ」
 資料の最初を確認してみれば、『魔竜王の遺産ドラゴンオーブ』という記述が目についた。
「敵の目的は探索で、その在り処を発見したらしい」
 ドラゴンオーブの力は不明とはいえ、魔竜王の遺産と言われ、探し求められていたもの。魔竜王再誕が可能だったとしても……何ら不思議ではないだろう。
「封印場所の熊本市に、竜十字島から出撃した『アストライオス軍団』が向かっている。奴らにドラゴンオーブを手に入れさせるわけにはいかない」
 さらに魔空回廊を利用し、先立って虐殺を行う配下も送り込もうとしている。ドラゴンオーブの封印を解除するためには、膨大な量のグラビティ・チェインが必要なのかもしれない。
「熊本の危機はアストライオス軍団の他にもあるのだ」
 略奪されるグラビティ・チェインの分だけ、ドラゴンオーブの奪取を阻止することが困難になる。
「先遣隊の軍勢は『ドラグナー』、『竜牙兵』、『オーク』、『屍隷兵』で構成されている。9つの部隊に分かれて熊本市全体を襲撃しようとしているぞ。詳細については資料をよく確認してくれ」
 配下は各部隊の指揮官に従順のようだ。裏を返せば……命令が途絶えることで統率は乱れるはず。
「人々を救出しながらは大変だろうが、迅速に部隊長を討てれば、その後は戦闘が有利になると考えていい」
 これから交戦する敵部隊を1つに絞らなければならないケルベロス達を、サーシャが切れ長の目で静かに見つめてくる。
「一部隊としか戦えないからこそ……君達が赴くと決断する戦場には、私も責任をもって送り届けよう」


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)
七星・さくら(日溜まりのキルシェ・e04235)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)
エージュ・ワードゥック(もちぷよ・e24307)
四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168)

■リプレイ

●敵将の行方
 ケルベロス達は熊本市東区に降り立つと探索を開始した。出発地点の東側は畑などが多い郊外で、一帯は安全地帯になってくれるかもしれない。
 しかし、東区は中央区に次ぐ人口密度を誇る都心部。本来は人が溢れているはずの街中には、物言わなくなった人々の亡骸が無惨な姿で転がっていた。皆より先にやってきたデウスエクスにとっては宝の山だったようだ。
 『竜闘姫ファイナ・レンブランド』を一刻も早く討つために不本意な交戦を避けるべく、四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168)は仲間の目が届く範囲で斥候した。
(「……敵影は無いか」)
 物陰に隠れながら手で仲間に合図を送る。それを何度か繰り返して付近に敵がいないことの確証を得た。
「ここなら『断末魔の瞳』を発動しても大丈夫そうだよ」
「確認ありがとうな」
 水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)が惨劇の顛末を探ろうと、近くの死んでいる女性に歩み寄る。
「悪りぃが、記憶を見させてもらうぞ」
 起きてしまったばかりの出来事は鮮明に見え、被害者視点で目の端に映った軍勢に気づいた。
(「さぞ、無念だったろうなぁ。その無念、必ず晴らすから、よ」)
 最期の灯を無駄にしまいと集中し、挙動の変な屍隷兵に命令を出していたファイナの様子について皆と情報を共有する。
 今も誰かの悲鳴が何処から聞こえてくるかもしれず、フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)は竜派の凛とした顔を歪めた。
「守りたいものを守れない。私は、それが悔しい、辛い……!」
 犠牲を強いられた故郷の戦いで自らも命を落としたフィストの父親。その彼にも思いを馳せずにいられなかったのだ。
 ウイングキャット『テラ』が独白したフィストの顔に擦り寄り、柔らかな純白の毛並で彼女を慰めた。
「……弱音を吐いている場合ではないか」
 七星・さくら(日溜まりのキルシェ・e04235)も心を落ち着かせるように、無意識で2つの首飾りに触れて大切な者達のことを想う。
(「わたしに勇気を分けてね」)
 ピンクトルマリンと化石珊瑚、それぞれの首飾りは大事な贈り物だった。帰りたい場所の温もりを思い出していると、やっぱり力が湧いてくる。
 女性の傍らには娘と思われる少女が横たわっており、シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)は唇を噛んでいた。
 ケルベロスといえども、絶望的光景を目の当たりにしていては動揺を隠せない。
 エージュ・ワードゥック(もちぷよ・e24307)が苦手な重苦しい空気に耐えかねてシルに話しかける。
「背負いすぎないでほしいなぁ」
「……うん!」
 真剣な表情ながらもエージュの口調は、どこか脱力しそうなものだった。それがシル達の負担を少しでも減らすことになれば丁度良い。
 敵の代わりに地図と格闘したシルが、ファイナ達の去った方角に建つ『西日本病院』に注目する。
「ここを指揮の拠点にしてたりしないかな?」
「戦域の中央にあるからなぁ」
 鬼人と共にファイナの所在に目星をつけ、母子に数秒の黙祷を捧げた。
 通信はジャミングの影響で不可能だったものの、連携班が目立つ痕跡などを辿っているならば合流に時間はかからないだろうか。
 西日本病院の敷地手前まで来ると、円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)は耳を澄ませてみた。ファイナが配下達に指示を出すために声を張り上げていると考えてのことで、それらしき大声が聞こえてくる。
「確定のようね。信号弾の準備を……アロン?」
 オルトロス『アロン』が病院側を幽梨と警戒するのを中断し、別方向を見やっていた。
 どうやら、連携班も辿り着いたようだ。

●手向けの戦い
 合流できた連携班に病院からの声を耳にしていたことを聞き、渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)が教えてくれたルース・ボルドウィンに告げる。
「外にいることは間違いなさそうだな」
「駐車場があるようだからな。そこにいるのかもしれない」
 恐らく、周辺を見渡せる駐車場に陣取っているのだろう。
 ケルベロス達は病院の駐車場に攻め込み、敵軍と対峙することができた。
 現時点で虐殺に出向いていない屍隷兵は14体おり、ファイナが不機嫌そうに皆を睨みつけてくる。
「何、あんた達。邪魔しにきたの? それとも……私にやられに来たの?」
 戦端が開かれると、ファイナの苛烈な攻撃が連携班に向いた。
「とっととやられて頂戴!!」
 ファイナは屍隷兵の大半を前線に置き、呪力を付与されると厄介な間合いから攻撃してくるつもりのようだ。
 こちらの班ではファイナに攻撃を集中する者が多い。
 シルの強烈な蹴りが屍隷兵に遮られ、愛用の斬霊刀に空の霊力を帯びさせる鬼人。
「盾になることを命じられているようだな」
 集中攻撃の妨げになる者を露払いするべく、傷を負った敵の足に鋭い一太刀を浴びせる。
 数汰がファイナに重力の宿った煌めく飛び蹴りをかました。正確無比の一撃で動きを鈍らせた敵から離れて挑発してみる。
「お前も武闘家の端くれなら、手下に頼らずその拳で俺達と立ち会え」
「数だけなら、あんた達の方が多いでしょ」
 屍隷兵はそれ程強くない上に、数でも確かにケルベロス側が有利。
 しかし、ファイナの力は連携班が受けた強撃からすでに察している。
「取り巻きはあたし達で何とかするよ」
 鞘型のオウガメタルを掲げた幽梨は、多量のオウガ粒子を放出させて前衛陣の超感覚を強く刺激した。今しばらくは屍隷兵の妨害があろうとも……やがてファイナを捕捉していくだろう。
 さくらは前衛陣の元にドローンを展開させ、テラが呪力耐性を向上させるために後方から羽ばたく。
 仲間も敵もいない背後へと、エージュは指向性の連鎖爆破スイッチを向けた。
「派手にいくよ~!」
 『爆導索』のスイッチを押してカラフルな爆発を巻き起こす。自分の役割は援護が基本で、後衛陣の士気高揚はキアリと数汰のためだ。
 無傷の屍隷兵はファイナを狙うキアリの攻撃に割り込んできた。
 屍隷兵達が皆を殴ったり、足を払ったりしてくる。拳にオーラを纏っているようでオーラの拳を飛ばす者もいた。
 先程は連携班に襲いかかったファイナが、拳の禍々しく赤黒いオーラを増幅させてくる。屍隷兵とは比較にならない巨大な拳のオーラが作り出された。それが隕石のように鬼人の頭上から落ちていく。
「やらせるものか!」
 鬼人を庇ったのはフィストだった。オーラが着弾すると爆裂して彼女に追い打ちをかける。守備重視でもかなり負傷させられた。
 シルは6色の宝石が光るマインドリング『精霊石の指輪』から、精霊の力を引き出した。光の剣でファイナを斬りつけ、激しく傷ついたフィストに呼びかける。
「無茶はしないでね!」
 瀕死の屍隷兵は鬼人が倒し、数汰も敵の前衛に一度攻撃しておいた。
 フィストが雷の霊力によって神速の突きをファイナに繰り出す。貫くことができたのは……またもや無傷の屍隷兵。だが3体目の邪魔者は判明した。
 紅水晶の蕾が眠る銀枝のライトニングロッド『Lightning Blossoms』に、さくらが想いを魔力に変換して雷光を纏う桜花を咲き誇らせる。
「回復に専念しているエージュちゃんには及ばないけれど」
「すまないな」
 守り手同士のフィストに電気ショックを放って生命を賦活させた。彼女の比較的軽い打ち身が治っていく。
 鬼人を標的にしてきた際のファイナは、まるで凶暴な猫のようだった。
 キアリが四肢に重力を集めていき、獣化させた黒猫の手足で音もなくファイナに接敵する。
(「とどめは……」)
 願わくはシルが引導を渡してほしい。それを望むことは自由であり、今度こそ定めた対象に高速かつ重い打撃を叩き込んだ。

●虚ろな壁を超えて
 アロンが邪魔者の減った敵の前衛に瘴気を解き放ち、鬼人が同じく屍隷兵に斬りかかった。攻撃の集中でファイナも徐々に消耗はしているだろう。
 息吹で剣気を練り上げ、緩慢な居合の構えをとる幽梨。
「……受けてみろ!」
 屍隷兵に裂帛の気合を迸らせ、日本刀の『黒鈴蘭』を抜き打った。編み出した自己流の抜刀術で美しき刃の切れ味を発揮し、敵を一刀両断する。
 フィストは場所、仲間、人々を自身の故郷で守りたかったものに定義して頭に思い浮かべた。詠唱を始めると足元から暖かな黄金の光が滲み出す。
「幼き我が記憶を以ってここに顕現せよ! グリューン……」
 詠唱が進んでいくにつれて光の輝きは増していた。
「サルヴ!」
 その一句をもって光が瞬時に拡散していき、周囲を美しい黄金の葦原の結界と化す。
 猛進して結界へと足を踏み入れてくる屍隷兵。
 幻想的な光景に感心しながら、さくらがシルを殴ろうとした屍隷兵に立ちはだかる。
「とても綺麗で素敵ね」
 敵の鉄拳をくらいつつも、仲が良いシルには指一本触れさせない。
 ファイナは前衛陣との距離を詰めてきた。脚部の爪で薙ぎ払うように皆の足を切り裂き、屍隷兵の攻撃も回避を難しくさせてくる。
 屍隷兵から思わぬ痛手を被ることになりそうだが、攻撃する分には支障なかった。
 『シルフィード・シューズ』による風の力で俊敏に移動し、シルがファイナの前で跳躍する。
「こんな傷なんかに負けないよっ!」
 大きな翼の意匠を持つ白銀の装飾を施された空靴にて、ファイナに痛烈な飛び蹴りを炸裂させた。
 守りの堅い屍隷兵に鬼人が斬りかかる。
 数汰は掌に絶対零度を下回るかのような負の無限熱量を発生させた。
「全てが静止する永劫の無限獄にて魂まで凍てつけ!」
 マイナスエネルギーはファイナに打ち込みたかったが、屍隷兵が接近してきている。迫り来る屍隷兵にぶつかると、急所に当たっていたようで氷結と同時に砕け散っていった。
 こちらの集中攻撃に邪魔な障害はようやく無くなったはずだ。
 しかし、エージュが戦況を過信せず、前衛陣を警護するドローンを発進させた。
「この後がふんばりどころかなぁ?」
 オーラの拳は屍隷兵のものでも油断できない。それが防御を顧みずに突撃する者ならば尚更危ういだろう。
 前衛の屍隷兵を地獄の瘴気で包み込んだアロンは、すかさず後ろにジャンプした。キアリが追い込まれることのないように、迫っていたオーラの拳を全身で受け止める。
 『無名刀』に空の霊力を注ぎ込み、鬼人が攻撃目標に定めたのは瘴気で一番弱っている屍隷兵だ。
「情け容赦は……一切、かけん!」
 愛刀を振り下ろして斬り伏せ、また一つ人々の仇をとった。

●弔いの時
 ファイナが連携班に強襲する隙に、態勢を整えるケルベロス達。
 再び禍々しきオーラを拳に纏わせたファイナが、鬼人の懐に入ってくる。直接の殴打は加護に守られながらも凄まじい衝撃だった。命中した部分の防具がいとも簡単に崩れていく。
「我流剣術『鬼砕き』……」
 鬼人は血反吐を吐きながらも良業物の日本刀『越後守国儔』を下段に構えた。
「くらいやがれ!」
 刹那の間に屍隷兵を左から斬り上げ、右に薙ぎ、袈裟懸けに斬る。三撃によって生じた刃筋の重なる中心には刺突した。
「急いでヒールしないとねー」
 シャボン玉のように軽くて壊れやすく大きいエネルギー球体を、エージュがどこからともなく取り出す。
「ほいっ」
 とても繊細な球体は投げられて鬼人に接触すると一瞬で破裂した。膨大なエネルギーが彼の治癒、防具の修復を両方とも済ませる。
 幽梨が『黒鈴蘭』で介錯するように、弧を描く斬撃を屍隷兵に見舞った。
「これで5体目か」
 スズランの焼き絵がされた白鞘に刀身が納められた瞬間……鬼人によって特徴的な傷痕のできていた屍隷兵が膝を突いて倒れる。
 両班のケルベロス達によって屍隷兵を殆ど失ったファイナ。だがその強さは本物であり、次は誰が強力な攻撃に晒されるのか。
 シルが澄んだ空のような雰囲気の指輪を薬指に付けた左手を突き出す。隣に現れた想い人の残霊がグラビティを龍の形に具現化し、自身は光の剣を生み出した。
「あの子とのコンビネーション、簡単に防げるとは思わないでね!」
 目を見開いたファイナに残霊の少女と乱舞を仕かけていき、最後にハイタッチを交わす。
「わたし達の絆の力、まだ終わらないよっ!」
「そうだね。シルちゃんに続くよ」
 シルから尊敬されている数汰も、彼女と呼吸を合わせてファイナに肉迫していた。刃をジグザグの形状にさせたナイフで敵を斬り刻み、退く最中に前進してきたキアリに一声かける。
「次はキアリちゃんの番だ」
「知っている人が多いのは、本当に心強いわ。全員で帰りましょう」
 くしくも同じ隊列についている同僚に、キアリは素直な気持ちを吐露した。『捕食モード』のブラックスライムをファイナに喰らいつかせ、後退してさくらに繋ぐ。
「わたしがやれることは、やったわ」
「後はおねーさんに任せといてね、キアリちゃん」
 既知の間柄ではないさくらとキアリだが、シルという共通の仲間がいる2人の協力だ。
 さくらが超感覚を研ぎ澄ませたまま、童謡のようなリズムを紡ぐ。
「ぴぃぴぃ、ぴりり、ちぃちぃ、ころり……おいで、おいで」
 囀りながら出現する雷光を纏った小さく丸い雛鳥達。餌を要求するようにファイナに群がっていき、その鋭いクチバシで容赦なく全身を啄んだ。
 そして、バトンは連携班に回る。
 畳みかけの直後にシルを獰猛な瞳に捉えてきたファイナは、こちらに対する反撃を許さない連携班が止めを刺した。
 信号弾の発射は連携班の者に託し、フィストがゾディアックソードの剣先を敵に突きつける。
「まだやるべき事があるな」
 敵とは……ファイナ討伐を優先したがゆえに屠っていなかった屍隷兵達しかいない。
「守りたいものを守るんだ」
 父親に誓ったように彼の形見たる『ドラゴンスレイヤー』を振るい、眼前の屍隷兵達だけは掃討するのだった。

作者:森高兼 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月23日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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