魔竜王の遺産~キル・フォー・ユア・グレイトシング

作者:鹿崎シーカー

「ブヒィィィィハッハァーッ!」
 オークが走りながらショルダータックルを敢行! 暴走特急じみた突撃が必死になって逃げる男性の背中をへし折り吹き飛ばす。水平に飛んだ男は壁にぶつかって爆ぜ、血の染みと化した。
「ハッハー! ストラァイク!」
 ガッツポーズを決めるオークの背後、死体と血だまりが点々と転がる通りに並ぶビルの扉が勢いよく開く。鼻歌混じりに出てきたのは、別個体のオークである。彼は触手をビルから出さないまま屍山血河の通りを見渡し、タックルオークに気安く手を振った。
「おーう。景気良さそうじゃねえかァ兄弟」
「まあなァ。お前はどうだよ。お勤めしてんのか?」
 肩を回しながら近づいてくるタックルオークに、ビルのオークは下卑たクツクツ笑いをしながら屋内に入れた触手を引き抜く。高く掲げられた触手の一本に、触手の先端を噛まされた少女がぐるぐる巻きで縛られていた。
「女じゃねえか……!」
「そうなんだよ。さっきそこで震えてたのを見つけたんだ。どうだ? ちょっくら休憩がてら」
「あー……」
 タックルオークは悩ましげに後頭部を搔く。
「そうしてぇがよお……とにかく殺しまくれってお達しだぜ? 殺した方がいいだろ。エラガバルス様に吊し上げられんの嫌だしよ……」
「それもそうか。……よし、殺そう」
 触手が涙目で暴れる少女の頭をビル壁に向けて全力スイング! 頭を爆ぜさせ死んだ少女を路上に投げ出し、ビルから出たオークは溜め息を吐いた。
「はァ……ちょっともったいなかったか? いい感じだったのによぉ」
「今は我慢の時だぜ兄弟。仕事しねえとよ」
「ンなこと言ったってよー……」
 名残惜しそうに少女の首なし死体を眺めるオーク。タックルオークは彼の肩を軽く叩く。
「イキのいい女なら、後からだって捕まえられるだろ。なんたって、腐るほどいるしなあ」
「…………」
 首なし死体から視線を外したオークが、得心して頷いた。その目が爛々と光り始める。
「それもそうだな! んじゃあ、もういっちょ殺してくるか!?」
「どっちが多く殺せるか……競争だぜ兄弟!」
「おうよ! 負けて吠え面かくんじゃねえぞォ!」
「ハッハー! ほざいてろ!」
 軽口を叩きながら二体のオークは駆けだした。火の手が上がる、街の奥へと!

「はい! 非常招集! ですッ!」
 ちゃぶ台を両手で叩き、跳鹿・穫は力強く話し始めた。
 先日より勃発していた、大侵略期のドラゴンの封印が解かれる事件。その元凶であるドラグナー『竜性破滅願望者・中村裕美』の目的がついに明らかとなった。
 敵の目的、それは『魔竜王の遺産ドラゴンオーブ』の探索であり、なんと彼女はそのありかを突き止めてしまったらしい。
 ドラゴンオーブの詳細は不明だが、その力は魔竜王の再臨の可能性すらあると言われる危険な代物であり、現在は『熊本市』に封印されている。そしてその熊本市に、竜十字島より出撃したドラゴン達『アストライオス軍団』を始めとしたデウスエクスの大軍勢が押し寄せるとの予知が入ったのだ。
 まずアストライオス軍団より先に、ドラグナー、竜牙兵、オーク、屍隷兵からなる九つの部隊が魔空回廊を利用して熊本市に侵攻。グラビティ・チェインを確保すべく、市街の破壊と略奪を行おうとしているとのこと。ここで多くのグラビティ・チェインを略奪されればされるだけ、ドラゴンオーブ奪取の阻止は難しくなってしまうだろう。
 竜十字島から出撃したアストライオス軍団が到着するまで、猶予はある。皆には熊本市に押し寄せるデウスエクス達を排除しつつ、市民を守ってもらいたい。
 先に述べた通り、今回の敵は九つの軍団に分かれて熊本市中に散開しており、虐殺を繰り返している。それぞれの軍団の特徴と担当地域、軍団長は以下の通り。

(1)熊本市中央区。
 『ケイオス・ウロボロス』で構成されたドラグナー軍団。軍団長は『竜性破滅願望者・中村裕美』。

(2)熊本市東区(北側)
 武術家の死体を利用した屍隷兵の軍勢。軍団長は武術家ドラグナー姉妹の姉『竜闘姫ファイナ・レンブランド』。

(3)熊本市東区(南側)
 武術を操る竜牙兵の軍勢。軍団長は武術家ドラグナー姉妹の妹『竜闘姫リファイア・レンブランド』。

(4)熊本市西区(南側)
 『嗜虐王エラガバルス』率いる、彼の血を引くオークの部族。

(5)熊本市南区(北側)
 『餓王ゲブル』と飢餓状態のオーク集団。

(6)熊本市南区(南側)
 『触手大王』と彼同様に突然変異で触手が異常増殖&異常発達したオーク達。

(7)熊本市北区(北側)
 黒鎧の騎士型竜牙兵『黒牙卿ヴォーダン』とその配下の竜牙兵達。配下は鎧を軽装にし、馬を取り払ったヴォーダンのような姿をしている。

(8)熊本市北区(南側)
 四腕の剣士型竜牙兵『斬り込み隊長イスパトル』率いる竜牙兵の軍勢。配下はイスパトルを二本腕にし、軽装鎧に変えたような姿。

(9)熊本市西区(北側)
 覇空竜アストライオス直属の軍団長であり、剣と黒い鎖を武器とする『黒鎖竜牙兵団』。配下の竜牙兵達は団長と同じ姿をしているという。

 戦えるのはこれら九軍団のうちどれか一つ。軍団員は皆それぞれの軍団長の指示に従って虐殺を執り行っており、一丸となって市民を殺し回っている。が、各軍勢のボスがいなくなれば統制は崩れ、各々が好き勝手に行動し始める。こうなれば各個撃破してしまえるが、あまりボスにばかり気を取られると市民の虐殺、ひいてはグラビティ・チェインを奪われることに繋がってしまう。そうなると、ドラゴンオーブを守り切るのが難しくなる。
 市民を守りながら配下と軍団長を倒すのは、そう容易ではない。作戦をよく練って挑む必要があるだろう。
「魔竜王の遺産、復活の秘宝……これを渡したらきっと酷いことになる! なんとしても阻止しないと!」


参加者
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)
篁・メノウ(紫天の華・e00903)
クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)
灰野・余白(空白・e02087)
カーネリア・リンクス(紅天の華・e04082)
スヴァルト・アール(エリカの巫女・e05162)
マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)

■リプレイ

 熊本市変電所。地を狙う超巨大砲塔列車の超巨大砲台の先端に仁王立ちした灰野・余白(空白・e02087)はカッと目を見開き地面を示した。
「撃てぇいッ!」
 砲撃された地面が大爆発し上がる黒煙! その上方から前方回転物体が飛び出し余白の後方に着地する。イスパトルは立ち上がり、挑発。
「コノ程度カ」
「すましおって。なおのことここで止めんとの!」
 振り向きざまのガトリング乱射を高速四刀ラッシュで撃ち落としたイスパトルがジグザグスプリントで余白に迫る! その背後、交叉した両手の指に投げナイフを挟んだカーネリア・リンクス(紅天の華・e04082)が跳躍!
「待ちやがれ骨野郎! 篁流射撃術、『霧雨』ッ!」
 燃えるナイフが投げられると同時、急制動をかけたイスパトルは左下の剣を余白に投げて反転! 上二本の腕でナイフを弾いてカーネリアに向かう。剣は盾にされた銃と余白の頬を裂いて後ろへ抜けた。
「やりおるわッ……!」
 顔をしかめる余白の視界にバク転ナイフ投擲を続けるカーネリアとそれを弾きながら進むイスパトル! ブーメランめいて戻る剣をキャッチして加速する剣士に踏み込む篁・メノウ(紫天の華・e00903)がカーネリアとすれ違った。
「悪ぃメノウ! 頼むぜ!」
「任せろ! 篁流剣術!」
 横向きに構えたメノウの刀の柄から鞘まで紫色の冷気が包む。紫光の刀を腰だめに構え、抜刀!
「『寒月・蕾』!」
 居合から噴き出す紫の吹雪! イスパトルは四本腕を右半身側でまとめて振りかぶり、直撃寸前に斬り上げる。吹雪霧散!
「ヌルイ!」
「メノウ、伏せて!」
 メノウの頭上を蒼い光線が貫きイスパトルへ直行した。イスパトルは前傾姿勢になり床の砲塔を自分ごと斬り落として光線を回避。銀の長銃から目を外したマキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)が叫んだ。
「余白!」
 傾く砲塔の先でバランスを崩す余白を襲うイスパトルのドロップキック! ガトリングを捨て腕を交叉する彼女を踏み台に、イスパトルは再跳躍し前方回転しながら残った砲塔に復帰した。
「この野郎ッ!」
 毒づいたカーネリアがイスパトルへ疾走! その隣に黒刀を構えたメノウが並ぶ。
「行くぜメノウ!」
「りょーかい。とっとと退かそう!」
「ハーッ、ハーッ、ハーッ……!」
 乾いた笑い声を上げ、竜牙兵は四つの剣を手中で回す。そして腰を落とし、二人を正面から迎え撃つ!
『でああああああああッ!』
「ハァーッ!」
 火花散るラッシュの応酬! 剣をさばく二人の服や拳、顔に裂傷が生まれ血飛沫が跳ねる。顔をしかめた二人は下二本の剣を弾き、振り下ろされる上二本を見上げた。
「オラぁッ!」
「せいッ!」
 斬り上げとアッパーが迎撃! だが即座に下二刀のハサミじみた斬撃が二人の腹を斬り、跳ね上がった上二刀のV字斬りと下二刀の刺突が二人を吹っ飛ばす! 伸ばしたツルで二人を受け止めたマイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)は地面に広がる巨大三重魔法陣の中央でイスパトルをにらむ。
「Aegis protection……貴方の剣では、誰も死なないわ」
「小癪!」
 イスパトルがマイアに走り右二本の剣を振りかぶる! 琥珀の光で二人を癒やす彼女を左腕を立てたスヴァルト・アール(エリカの巫女・e05162)が庇い、斬撃を受ける!
「ぐっ……!」
 歯を食いしばったスヴァルトは右腕二本を回し蹴りで打ち払い、続く左腕二つの斬撃を右手と脇腹で受ける。血を零しながらも左手で青いカードをドクロの顔面に叩きつけた!
「ウムッ!?」
「はッ!」
 怯むイスパトルをサイドキックでのけ反らせたスヴァルトの人差し指から桃色の光が放たれ、カードに当たり変色させる。
「甘美の蝶、夢幻の舞姫……秘密のひとときはいかが?」
 桃色の閃光と無数の蝶を噴出させた。蝶はイスパトルを包むように渦を巻いて激しい竜巻に変化。桃色の稲光をほとばしらせる!
「グオオオオオオオッ!」
 竜巻の中でイスパトルの絶叫が響く。機械銃のスコープをのぞいたマキナはマイアの桃色の霧を浴びるスヴァルトに宣言。
「スヴァルト、あれを叩き落とすわよ」
「わかりました」
 銃を三連で撃つマキナ! 蒼光弾三発がピンクの竜巻に突っ込み三連爆発! 弾けた光から叩き出されて膝を突くイスパトルの額にスヴァルトの跳び膝蹴りが直撃!
「グアッ……!」
「せえあッ!」
 横面めがけた追撃の回し蹴りが剣に阻まれる。うめくイスパトル!
「甘ク見ルナ……!」
「!」
 瞬時に体を丸めたスヴァルトに高速ラッシュ! 無数の切り傷を作る彼女の腰にツルを巻いたマイアが引っ張り戻し、代わりに飛び出したマキナがサファイアを投擲!
「起爆!」
 マキナの令を受け光る宝石をイスパトルが斬った瞬間、マリンブルーのガスが噴出! 上がる蒼煙を見止め、遥か後方から全力疾走してきたランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)は両手に持った二体の二刀流竜牙兵を投げた!
「うおおおおおおおおッ!」
 飛翔する二体がガスに突っ込みイスパトルを弾き出す。靴底から火花を散らして後退する彼の胸元で下級竜牙兵二体が蒼い砂じみて崩壊。イスパトルにランドルフは胸元や背中の切り傷から血を流しつつ突進!
「よくもココまでやってくれたなァ! クリュの仇だってのを差っ引いても許せるワケねえッ! 食らいやがれッ!」
 勢いづいたダッシュ飛び蹴り! 両脚を踏みしめたイスパトルが上二本の剣でこれをクロスガードするとランドルフは反動で宙返りする。鎖を巻いた左腕を高々と掲げ、イスパトルに叩きつけるように振り下ろした!
「クリュ、やれッ!」
 鎖の先に繋がったクリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)が緋色の刀を振りかざして天空から急降下斬撃! イスパトルが掲げた剣一本でこれを防ぐと共に鉄同士が激しい軋み声を上げ、橙色に熱を発する。剣を挟んだ二人はアイサツ!
「ドーモ、クリュティア・ドロウエントにござる」
「ドーモ、イスパトルデス」
 クリュティアの目が真紅に輝き、全身を走る血の筋が紋様を描く。彼女は下段からの突き上げを刀を押して跳び避け、再度逆手の刀で斬りかかった。
「イヤーッ!」
「シャッ!」
 またも神速の打ち合い! しかし四本の剣が防御を抜け肌を次々引き裂き、血の紋が戻るそばから叩き斬る。クリュティアが血液混じりの汗を垂らしたその時、彼女の背後からランドルフが殴りかかる!
「落ちろぉぉぉッ!」
 銀色の剛腕が骸骨の顔面を撃ち抜き宙に浮かせる。隙を突いて屈んだクリュティアは刀持たぬ方の手で拳を固め、甲冑の鳩尾めがけてジャンプパンチを撃ち出した!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
 ロケットめいて飛ぶイスパトルに、照準を合わせたマキナがランドルフを呼ぶ。
「ランドルフ! クリュティアを引き離してくれるかしら!」
「シルヴァリオン!」
 ランドルフのパンチが伸びクリュティアの足首をつかんで引き戻す。直後、マキナは長銃の引き金を引き蒼白のレーザーでイスパトルを狙撃、砲塔の外まで押し退ける! それを遠目に、マイアが両腕のツルを空に突き出した。
「アンバーミストルティン!」
 琥珀の果実を光らせながら植物が爆発的に成長! 龍じみて飛翔するツルに乗ったメノウは錫杖を取り出し、スヴァルトは腕に桃色の光を宿す。
「好き放題斬ってくれましたね……」
「倍返しだッ! 篁流長柄術!」
 二人は自由落下をしかけるイスパトルから飛び降り、ドクロの頭に紫雷の錫杖と拳を振り下ろした!
「『地神鳴』ッ!」
「せいッ!」
 渾身の力でぶち落とす! 流星めいて地面に激突したイスパトルは後転して体勢復帰。それを見た余白は配下竜牙兵をハイヒールの前蹴りを打ち靴裏を爆発させて吹っ飛ばした。そして近くに降り立ったカーネリア達に片目を閉じて不敵な微笑みを見せる。
「待っとったで?」
「案外平気そうだな」
 カーネリアが返すと、彼女達の周囲を十体の二本腕竜牙兵がぐるりと取り囲んだ。胸の下で腕を組み、マイアが気だるげに言い放つ。
「わらわらと……面倒くさいわね」
「ハーッ、ハーッ、ハーッ……呼ンダノハ、オ前達ダ。信号弾……斬新ナ宣戦布告デアッタ」
 笑うイスパトルに、マイアは耳にかかった黒髪を搔き上げる。
「ふうん。……それより、探し物の情報を置いて帰ってもらえないかしら。それなら見逃してあげなくもないけど」
「ハーッ、ハーッ、ハーッ……!」
 イスパトルが笑い、配下も笑う。カサついた哄笑を止めた切り込み隊長は右上の湾刀を肩に担いだ。
「遺言ハ、ソレカ? ナラバ……」
 左上の剣を高く掲げると配下達が腰を落とし、ケルベロス八人も身構える。静まる戦場の空気が張り詰めた次の瞬間、包囲竜牙兵の一部に別のケルベロス達が突撃!
「ヌゥ!」
 そちらを見るイスパトルに対し八人は配下に突撃! 銀の腕から拳銃を生み出したランドルフが吠える。
「あいつら間に合ったか! 丁度いい、まずは雑魚からだ!」
「邪魔でござる! イヤーッ!」
 加速したクリュティアが先頭の一体の斬撃を刀で受け止め下顎を蹴り上げてから縦一閃! 直後に横合いから飛ぶ攻撃をバク転でかわした所にランドルフの銃撃にけん制された別個体に余白は溜めた右手を突き出した!
「凍りつけぃ!」
 灰色の冷気が竜巻を為して飛び、竜牙兵を氷像に変える。凍った兵を蒼光弾で銃殺したマキナの前にイスパトルが着地する。
「なッ……!」
「グルルルァッ!」
 下段からの二重剣閃を受けたマキナが錐揉み回転しながら吹っ飛んだ。四本の剣を牛の角めいて構えたイスパトルの高速突進の前に割り込んだカーネリアとスヴァルトが刃を二本ずつつかんで防ぐも勢い止まらず!
「ぐぉッ、クソ……このッ!」
「……ッ!」
 踏ん張る二人がイスパトルに押し飛ばされ、翼状に生えたマイアの植物にダイブした。マイアは植物翼をもう一対生やして羽ばたき、桃色の突風をけしかけるもイスパトルは四刀剣技で風を斬って走る! だがその途中で彼は突如のけ反った!
「ガッ!」
 彼の背中に首に鎖を巻かれた竜牙兵! 鎖を手繰って疾駆するクリュティアは緋色の刃をぶつけた竜牙兵の眉間をイスパトルの背中ごと貫通殺! 刀をねじ入れる彼女の目が真っ赤に燃える。
「オヌシには……誰一人として殺させぬ!」
「吠エルワ……三下ガ!」
 イスパトルは肘鉄をクリュティアの額に入れて打ち払い、振り向きざまに斬撃を浴びせダッシュ! 走りながらの連続剣技が防御姿勢を取った彼女をズタズタに引き裂き血飛沫をまいた。
「ヌゥーッ……!」
「クリュティア!」
 空中からマキナのレーザー! イスパトルはクリュティアを前蹴りで押しのけこれを四連刺突で迎撃して散らした。その足元、低く屈んだメノウが黒刀を手にして身をひねる!
「篁流剣術……『月出』ッ!」
 跳躍回転斬撃を繰り出すメノウ諸共イスパトルが宙に浮く。手近な竜牙兵を蹴り殺して跳んだランドルフはブロウでドクロの顔面を撃ち抜き、反対の手を引き絞った。
「ぶっ飛べええええええッ!」
 追撃のブロウを食らいイスパトルがすっ飛んでいく! その背中を剣で刺す二刀竜牙兵!
「ごはッ……!」
 血を吐き滞空するランドルフの真下を抜けたメノウのタックルが敵の体勢を崩し、スヴァルトの急降下キックが竜牙兵頭蓋破壊殺! 地に足をつけた彼女に打ち込む別の一体の前に蒼い菱形クリスタルが飛び込みバリアを形成し防御する。マキナの手から次々と飛び立つクリスタル群。
「マイア、回復手伝うわ」
「お願い。丁度辛くなってきたところよ」
 返すマイアは手に結ばれた植物のリースを手裏剣めいて投擲。背中に張りついたリースから琥珀色の光を浴びたクリュティアはクナイをマシンガンじみて射出し追加で現れた竜牙兵も含めて横殴りの雨を叩き込む!
「イィヤアアアアアアアアアアアアッ!」
 高速で撃ち出されるクナイが竜牙兵達の動きを封じ、余白とスヴァルトがバリアの援護を受けて特攻を仕掛けに行く。耐えず手を振り回すクリュティア背後にゆらりと現れる四ツ腕の影! イスパトルは上段斬り下ろしでリース諸共クリュティアを斬り伏せた!
「グワーッ!」
 倒れ伏すクリュティアを襲う左腕二本での突き下ろしを割り込んだカーネリアが手甲でガード!
「後ろからたぁ卑怯じゃねえか……だったらこっちもやってやる! メノウッ!」
 錫杖を逆手に持って跳躍したメノウ! そちらを見上げたイスパトルの剣を押しのけたカーネリアはクリュティアをつかんでハイジャンプした。紫の電光を錫杖に溜めながらメノウが叫ぶ!
「みんな跳べえッ! 篁流長柄術……『降雷流し』!」
 飛んだ錫杖が地面に刺さり紫雷の波動を放つ。走る稲妻がイスパトルを、竜牙兵達を焼いた! 轟く絶叫を聞きながら、滞空したスヴァルトとマキナが目配せをした。
「残りは私達でなんとかします」
「こちらは任せて。私の心を賭して守ってみせるわ、熊本の人々を」
「邪魔はさせねえさ」
 ランドルフが告げ、マイアが広げた植物翼が放つ桃色の霧と光が仲間達の傷をふさぎ血を止める。
「決着、つけるんでしょう。付き合ってあげるわ」
「かたじけない……世話になるでござる!」
 紫電が止んだ瞬間、マイアが桃色の追い風で仲間達を加速させた。残る竜牙兵にスヴァルト、マキナ、ランドルフ。イスパトルにメノウ、カーネリア、余白、クリュティア!
「行くぞ! 篁流二連撃!」
「おう!」
 先陣を切るメノウとカーネリアに左右からイスパトルの斬撃! だが二人は植物の巻きついたクリスタルを投げてバリア展開して防ぐと跳び上がり、同時に刃を振り下ろす!
「『鏡面満月』!」
 火と紫の剣閃が四本腕を切断! がら空きの胸に余白のドロップキックがぶち当たり靴裏爆発! 勢いで宙返りする余白とメノウ、カーネリアの間を赤黒の竜巻が突破する。
「ほれ、後は任せたで」
 つぶやく余白の前で鮮血じみた波動螺旋を宿した拳を振りかぶって突撃するクリュティア! 最後の竜牙兵を殴り倒し、ランドルフが咆哮した。
「過去は変えられない、ならば断ち切れクリュ! お前の手でッ! 明日を! 未来を! 掴むためにッ! 行けえええええッ!」
「イィヤアアアアアアアアアッ!」
 波動螺旋がイスパトル撃ち抜き、地面に打ちつけてバースト! 大地が陥没し、天に伸びた螺旋はやがて破裂して消滅。残滓の中、イスパトルのマウントをとったクリュティアは荒い息を吐きつつドクロの眉間に緋色の刀を突きつけた。
「……殺セ」
「無論。しかしその前に答えよ。お主らが言っていたヒメサマとやらはドコにいるでござる」
「言ワズトモ、今ニワカル。オ前ノ、死ニ時トトモニナ」
「……ハイクを詠め」
「竜ノ牙、折レドモ果テヌ、血ノ飢エナ」
「イヤーッ!」
「サヨナラ!」
 刀で眉間を貫かれ、イスパトルは爆発四散した。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月23日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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