魔竜王の遺産~屍堆く降臨待ち侘びて

作者:質種剰

●中村・裕美、動く
 熊本市の繁華街。
 人口74万を誇る大都市は今、日頃の賑やかさとは別の異質な喧騒に包まれ、そこかしこから人々の悲鳴が聞こえていた。
 逃げ惑う人々をケイオス・ウロボロスが追い詰め、次々と虐殺する様子はまさに阿鼻叫喚の地獄絵図——初夏の青空の下、カラッと晴れ渡った空気にそぐわぬ緊張が張り詰めている。
「フフフ……」
 ケイオス・ウロボロス達が熊本市民の命とグラビティ・チェインを無慈悲に掠奪する中、鳥の囀りのような声で笑い転げている女がいた。
「私が長きに渡る努力の結果完成させた『封印検索演算式』、8717万2485秒は無駄じゃなかった。フフフフフフフフフフ!」
 竜性破滅願望者・中村・裕美。そう、あの中村・裕美である。
「ドラゴン・アストライオスは全てをご存じで私に捜索を託して下さった……フフフフ、応えてみせましょうとも、成し遂げてみせましょうとも」
 約2年10ヶ月もの間、竜十字島は第六混沌玄室に篭っていた彼女が、今は戦場——否、殺戮の場と化した人里で配下たるケイオス・ウロボロスの指揮を取っているのだ。
「さあ、ケイオス・ウロボロスよ。どんどん人間共を狩り尽くしなさい。奴等のグラビティ・チェインを捧げなさい」
 裕美は相変わらずどこか遠くを見るように瞳を移ろわせつつも、はっきりした声で命じた。
「全ては、ドラゴン種族の未来の為に……!」


「大変であります、大侵略期のドラゴンを復活させていた黒幕が、遂に動き出したであります!」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が大慌てで説明を始める。
「敵の目的は『魔竜王の遺産ドラゴンオーブ』の探索でありまして、しかもその在り処を発見したようなのでありますよ」
 ドラゴンオーブがどんな力を持つのかは不明だが、一説では魔竜王の遺産とも伝えられ、その力は、魔竜王の再臨を可能にする危険性すらあるという。
「ドラゴン達に、ドラゴンオーブを渡す訳には参りません」
 現在、ドラゴンオーブの封印場所である『熊本市』には、竜十字島より出撃したドラゴンの軍勢『アストライオス軍団』が向かって来ている。
「しかも、敵はそれだけではありません。このドラゴンの軍勢に先立って、敵は魔空回廊を最大限に利用して配下を次々と送り込み、ドラゴンオーブ復活に必要なグラビティ・チェインを確保すべく、市街の破壊と略奪に及ぶであります」
 配下の軍勢は、ドラグナー、竜牙兵、オーク、屍隷兵。
 奴らは9つの部隊に分かれて、熊本市街を略奪せんとしている。
 恐らくは、竜十字島から出撃したアストライオス軍団が到着するまでに、『ドラゴンオーブの封印解除に必要なグラビティ・チェイン』を急いで掻き集めたいのだろう。
「熊本市の戦いで、多くのグラビティ・チェインを略奪されればされるだけ、ドラゴンの軍勢によるドラゴンオーブ奪取を皆さんで阻止できる可能性が下がってしまうでありますよ……」
 不安そうに告げるかけら。
「それに、熊本市民の命を守る為にも、皆さんには現場へ急行して頂き、9つの部隊の侵攻を待ち構えて……そう、返り討ちにして頂きたいのであります」
 ドラゴンオーブ奪取阻止の前哨戦という意味合いに加えて、この作戦の成功には熊本市民の命がかかっている事も忘れてはならない。
「それでは熊本市へ現れる9つの部隊についてご説明致します」
 ドラグナー、オーク、竜牙兵がそれぞれ3部隊ずつに分かれている。
 先ず、1つめは何体ものドラゴンの封印を解いた元凶、竜性破滅願望者・中村・裕美率いる、ケイオス・ウロボロス部隊。
 続いて、竜闘姫ファイナ・レンブランドが有する部隊。
 彼女は武術を得意とするレンブランド姉妹の妹で武術が得意。武術家の死体を利用した屍隷兵の軍勢を配下に持つ。
 3つめは竜闘姫リファイア・レンブランドが指揮する部隊。
 こちらはレンブランド姉妹の姉で、妹と同じく武術を用いるやたらガタイの良い竜牙兵を従えている。
「次はオークの軍勢であります。4つ目、嗜虐王エラガバルスが君臨するオーク部隊」
 奴はその二つ名に違わず、自らの血を引く部族を統べる残忍な暴君であり、捕らえた女性に対する扱いも苛烈を極めるのだとか。
「5つめ、餓王ゲブルが纏める飢餓オーク部隊」
 『強い女』を求めるオークの王、餓王ゲブル。女性への拘りが強く、飢餓状態のオークのみで構成された集団を擁する。
「6つめ、触手大王を頂く異常触手オーク部隊」
 突然変異で触手が異常増殖かつ異常発達した巨大なオーク、その名も触手大王。同様に触手の異常発達した配下達を、3人の王子と共に統率しているそうな。
 7つめからは竜牙兵。黒牙卿・ヴォーダンは、自らの黒鎧を軽装にしたかのような騎士型竜牙兵部隊を率いている。
 斬り込み隊長イスパトルは四腕を持つ剣士型竜牙兵。こちらも己が鎧を簡素化して2本腕になった配下達を従える。
 黒鎖竜牙兵団長は、剣と黒鎖を武器に同型の配下達と攻めてくる。
 加えて、今回の大ボスである覇空竜アストライオス直属の軍団長でもあるそうな。
「竜十字島を出撃したドラゴン軍団との戦いも控えてるでありますが、ご無理なさらず、手堅く勝利を目指して下さいませね。宜しくお願い致します……」
 かけらは説明を締め括ると、彼女なりに皆を励ましたのだった。


参加者
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)
藤・小梢丸(カレーの人・e02656)
因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145)
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)
月白・鈴菜(月見草・e37082)
ウィリアム・ライムリージス(月を渡る紅・e45305)

■リプレイ


 熊本市は中央区。
 ケルベロス達は、竜性破滅願望者・中村・裕美が熊本城へ潜伏していると見当をつけて、本丸御殿前にヘリオンから降下した。
「……世界の破滅の為にドラゴンを利用……合理的ね……」
 月白・鈴菜(月見草・e37082)は抑揚のない声で呟く。
 ちなみに中村の所業を皮肉ったつもりはなく、ただ衒いなく思った事を口にしただけに過ぎない。
「……単純に考えれば戦場を俯瞰して見渡せるような高い場所か……大勢の配下に守られた場所にいると思うけど……」
 この緊急事態では流石にぼうっとしていられないと思ったのか、真剣に中村の居場所を推測する鈴菜。
「……ただ……引き籠りの方なら地下室や閉め切った部屋のような……誰かの視線を気にしないで済む場所にいるような気もするわね……」
「それだ!」
 仲間の推理に声を上げて賛同するのは、因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145)。
「僕が裕美だったら、まずは生活インフラ——特に電気を確保する! デウスエクスの技術力は判らないけど……あれだけ長期間演算を続けていたんだ。現地で電力を調達した方が楽だしそうしても不思議じゃない……グラビティを掠奪しようとしてる奴らなら尚更」
 中村の行動を読もうと真剣に考えれば考えるだけ、白兎の表情が苦いものになっていく。
 何故なら、彼はどうやら中村・裕美の事を一方的ではあるものの知っているようで、中村の事を密かに気にかけていたからだ。
「後は、作戦の進捗がすぐに判るよう、中央区の虐殺を見渡せて指揮しやすい場所にする……例えば市役所、県庁、タワーマンション——」
 それでも白兎はある種の確信を抱いて、聳える天守閣を見上げた。
「——熊本城」
 白兎の推測に、藤・小梢丸(カレーの人・e02656)も力強く頷く。
「うん、僕の予想でも多分高い所にいるんじゃないかなぁって思うよ。ドラゴンとか好きなんでしょ?」
 黒縁眼鏡に青いポニーテール、ジャージの上下という出で立ちの人型ウェアライダーだ。
「そんでもって電力バンバン使ってそうだから、そういった設備の整ったところ……誰か電気の流れとか見えないかね」
 果たして自宅警備員なお陰かは判らないが、引き籠り疑惑のある中村の思考をなぞりやすいようで、
「引き籠りらしいし、その生き様をトレースオンして、自宅警備員臭がする方に当たりをつけて探してみようか」
 自信満々に断言する小梢丸だ。
「賛成です。ネット環境が整っていて引き籠れそうな所……ネカフェも該当するでしょうかね」
 ウィリアム・ライムリージス(月を渡る紅・e45305)は、スタイリッシュ変身後の——いつにも増してキラキラした出で立ちで周囲を見渡した。
「う~ん。お話を聞く限り、陣頭に立つタイプではなさそうですし……敵陣中枢や後方等安全そうな、戦局が見渡せる見晴らしのいい所にいそうですよね」
 そう言うウィリアムの視線も、自ずと熊本城に吸い寄せられている。
 すると、
「……ここが最重要拠点だとよくぞ見破った」
 剣呑な声が遥か頭上から降ってきた。
「だが、たかがそれだけの戦力で、私を殺せると思うなっ!」
 同時に長い黒髪を外気に晒して、中村・裕美が天守閣の中から颯爽と飛び降りてくる。
「中村・裕美さん……貴女達に負ける訳には……好き勝手させる訳にはいきません……!」
 着地した中村を見るや、アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)が毅然とした佇まいで宝虹花フノシルを構える。
 水色のドレスに白いエプロン、頭に結ったリボンが童話を基にした有名映画の主人公のようで可愛らしい。
(「早々に裕美さんを見つけられたのは良いものの……熊本城が占拠されているのは、市民の皆さんの避難先に使えなくて困りましたね……」)
 アリスは思案を表情に出さず、宝虹花フノシルを『砲撃形態』へと変形。
 竜砲弾を狙い定めて射撃し、中村の大腿部へ見事命中させた。
「さあ、ケイオス・ウロボロス達……自らグラビティ・チェインを捧げにきた人間どもを歓迎してやりなさい!」
 中村・裕美は、彼女の周りに浮かぶインターフェースのひとつを操作して、甲高い叫び声を発する。
 次の瞬間。
「キキキキィー!」
「ケキャケキャケキャ!」
 大天守と小天守の至るところから、ケイオス・ウロボロスの黒い影がうじゃうじゃと湧き出し、続々と石塁を駆け降りてきた。
「オリュンポスの首魁様……大規模な作戦のせいか中間管理職みたいに胃が痛みますが、後は実戦で僕の務めを……、……!?」
 中村と遭遇した時点で信号弾を空へぶっ放していたソールロッド・エギル(々・e45970)も、突如ケイオス・ウロボロスに取り囲まれて、目を白黒させている。
「英雄よ何度でも立ち上がれ、ハコにされても、絶対服を脱がせたい、潰えぬ闘志が勝利を呼ぶ〜」
 気を取り直して、即興で作った英雄の詩を歌い上げるソールロッド。
「待ってそれもしかして俺が探し当てた脱麻ビルシャナの話!?」
 思わず久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)が、どんどん増えるケイオス・ウロボロスに気を取られつつも、即座にツッコんだ。
「それでもどうしても勝てない時は、己で生み出せ、理想のヌード〜♪」
「うん、完全に俺の説得の話だな! ……まさかこの非常事態にツッコミに回るとは思わなかった……」
 前衛陣の異常耐性が強まったのは有難く思う反面、仲間を讃えたという歌詞の内容へ苦笑いする航。
「全く大盤振る舞いだな。それだけ敵も本気って事か」
 航は襲いかかってくるケイオス・ウロボロスに反撃すべく、日本刀で緩やかな斬撃を見舞う。
 その時である。
「妾らが来たからにはもう大丈夫じゃ!」
 幼くも落ち着きのある声音が響いた。銀のサイドテールとモノクロの巫女服が戦場に舞う。
「――Don't get so cocky!」
 敵味方の視線が集まる中、紅髪のウェアライダーが目にも留まらぬ速さで居合いを抜いた。
 誰の目にも、ケイオス・ウロボロス数体が天守閣の屋根から独りでに落ちたようにしか見えない。
「中村くんには借りがあるから、ボクの代わりに返してくれるとありがたいなー、あはっ」
 別のケイオスへ煌めく飛び蹴りをかまして、白髪糸目の少年が笑う。
 次いで、こちらに向かってくる個体を二基の巨大キャノンから伸びた光の帯が焼き尽くす。
「スーパージャスティ、参上」
 藍色の髪と真紅の外套靡かせて正義のヒロインが堂々名乗りを上げた。
「雑魚共は引き受けた!」
 黒猫を思わせる小柄な少女は、ドラゴニアンならではの吐息でケイオス数体を炎に巻いた。
 30体はいるかと思われたケイオス・ウロボロスの群れへ、あちこちで他班のケルベロスが攻撃を仕掛け、注意を分散させてくれている。
「ありがとう、皆! 必ず裕美に一矢報いてみせるよ!」
 班こそ違えども共に戦う仲間へ向かって、白兎が声の限り叫ぶ。
「本当、助かったよ。これで中村を集中して攻撃できる!」
 航もケイオスの長い爪と日本刀で斬り結びつつ、明るい顏つきで味方へ応えた。
「そうね、全身全霊をもって中村に挑む事を誓うわ!」
 フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)も、戦闘意欲に溢れた面持ちで、豊かな胸を張ってみせる。
「なぜ貴方はドラゴンに忠誠を誓ったの? そうまで……世界が許せなかった?」
 雷の霊力帯びし切っ先を中村へ向けて、神速の突きを繰り出すフレック。
 刀身は深々と中村の腹部を貫き、白いブラウスが血で真っ赤に染まった。
「今は世界の一部、いずれはドラゴン様の力の一部となる人間に、教える必要がある?」
 中村は口の端を歪めて嗤い、左手に抱えていたタブレットを操作。
 ——ボンッ!
 立体映像が点滅して複数の座標を示すと同時に、前衛陣の手や足へ爆発が起こった。


 中村が号令をかけた30体ものケイオス・ウロボロスはそれぞれ命令通りにケルベロス達を襲っていたが、中には彼女を守るように側から離れない個体もいた。
「クケケケキャキャキャ!」
 護衛のケイオス・ウロボロスは、どいつも鋭い牙や爪を剥き出しにして、こちらの装備を引き裂いたり燃え盛るブレスを吹きつけてくる。
「ルーのまま齧りつくなんて、さては相当なカレー好きだな?」
 ケイオスが噛みつこうとしたフレックを背中に庇って、小梢丸が不敵に笑う。今回も懐に入れていたケルベロス特製万能型強化防弾カレールー(中辛)が大活躍だ。
「熊本市民はカレールーに救われるのである」
 人的被害を防ぐという強い意志をカレーに乗せて、天高く跳び上がる小梢丸。
「たまにはカレーの代わりに虹を出すのも良いよね」
 七彩の弧を描く急降下蹴りを食らわせて、ケイオス・ウロボロスに怒りが込み上げるぐらいの激痛を与えた。
「熊本の人々を守る為、キミ達を食い止めるのも大切だけど……僕は裕美に話があるんだ!」
 普段の飄々とした態度が鳴りを潜めた白兎は、早くケイオス達を一掃せんと身につけていたオウガメタルを解放。
「裕美、君は道を間違えた。だから君の8717万2485秒を否定する!」
 中村へ届けとあらん限りの声で叫び、惑星レギオンレイドを照らす『黒太陽』を具現化、絶望の黒光を護衛のケイオス全員へ浴びせかけた。
「……何を……言っているの……?」
 白兎の真剣な宣言を聞いて、鈴菜がチラリと剣呑な目線を向ける。
「……裕美の行動の善し悪しは兎も角……ああなったのは周囲の無関心……無自覚な悪意に晒され続けた結果でしょう……?」
 批難めいた物言いで私見を述べる傍ら、九尾扇から『物質の時間を凍結する弾丸』を精製。
「……それなのに……その痛みや想いも……約二年十ヶ月の執念も否定するの……?」
 声音にも負けない冷気のこもった弾でケイオス1体の胸を撃ち貫いて、確実に息の根を止めていた。
「あたし自身は尊敬しているわ。彼女の執念……一念……並のデウスエクスでもできる事じゃない」
 カッと光の翼が眩さを増し、ケイオス目掛けて突撃するのはフレック。
「それほどまでにドラゴンへ心酔したという事……そのために何かを成す事はその結果と方針がどうあれ、愚弄するべきじゃない」
 『光の粒子』に変じた全身で奴へぶつかりながら、フレックは独自の哲学を語った。
「魔竜王さんの遺産……そんな物の為に……一般の方を虐殺なんて……私は許せません!」
 アリスは【Eat Me!】リングの嵌まった手を翳して、念の入った弾丸を創造する。
 時空凍結弾がケイオスの薄い胸部を抉り抜いて、全身の血が逆流するかのような寒気を与えた。
「ええ。たかが魔竜王如きの為に、虐殺を許すわけにはいきません」
 と、マインドリングから光の戦輪を具現化するのはウィリアム。
「それにしても……潜伏先が本当に熊本城だったとは、因幡くんの読みが当たっていたのは何よりでしたね」
 マインドスラッシャーを飛ばしてケイオスの肩を斬り飛ばしつつ、ふっと思案顔になった。
「ドラゴンオーブね。何でそんなもんがこの辺にあるんだかな」
 航は、ドラゴンオーブの重要性を決して軽く見ず、かと言って思考に没頭する事もなくケイオスへ肉薄。
「……ま、今考えてもしゃーないか。気合い入れないとな」
 エンブレムミーティアからヒントを得たという、紋章の力を借りての突きを素早く仕掛けて、ケイオス1体にトドメを刺した。
「神経擦り減る連続出動、いざ食い止めん菩薩累乗会〜その活躍の影では、頭悩ます台本担当〜何度蹴られても支援する~」
 ずっと光の盾で小梢丸やウィリアムの回復に努めていたソールロッドは、今再び英雄の詩を歌って前衛陣を後押しする。
「……蹴られるような事をするから……」
 鈴菜はくるくる回って光線を乱射、ケイオス達を圧倒しつつ洩らした。
 戦闘開始から5分。
「『封印検索演算式』だっけ? よくは分からないが、そんなもん組み上げたりできるような、能力のある奴が敵に回るとほんと厄介だよなぁ。や、お互い様なんだろうけど」
 雷刃突を放ち、護衛ケイオスの体力を着実に削っていくのは航。
「――是は、不思議の国の不思議な戦い――受けて下さい、ヴォーパルの剣閃……!』
 アリスは空色の地獄の焔纏わせた『ヴォーパルソード』を手に、オラトリオの力を込めて閃光の疾さで斬りかかる。
 空色の光焔が強大な奔流と化して、護衛ケイオスのあらゆる護りを貫き、命の灯すら掻き消した。
 戦闘開始から7分が経過。
「貴方は本当に英雄だったのね。でも……其れで散る命……それを見過ごす事は出来ないわ」
 フレックは愛刀とグラビティを共鳴させて、中村の時空間ごと切り裂く太刀筋を披露した。
「白兎くん、チャンスです。中村は大分弱っているようですよ……!」
 残り1体となった護衛へ幽兵を嗾け、生気と戦意を奪う傍ら、ウィリアムは白兎を気遣った声を投げる。
「因幡っち、カレー食べる?」
 小梢丸の気遣いは戦闘中な事を鑑みれば斜め下でも、これが通常運転だから仕方ない。
「カレー神話はいついつまでも~パスタやすき焼き蹴散らして」
 お陰でソールロッドの即興曲が冴え渡る。
「自分が傷つけられたからって人を傷つけて良い訳じゃない……だからどんなに凄い努力でも道を間違えていれば僕は否定する……でも」
 白兎は、鈴菜やフレックに対して毅然とした答えを返すも、
「何でこんな……ドラグナー……世界破滅させるような道を選んだのさ! 辛いことがあったなら、話せば力になれたかもしれないじゃん!」
 中村へ向けたチェーンソー剣の切っ先は、刃つきのチェーンこそ回転していたものの、震えていた。
「こっちに戻ってくることはできないの?」
 白兎の切ない問いかけにも、中村は憎悪を剥き出しにして言い返す。
 グルグル眼鏡の奥から覗くのは、目に映る世界全てを憎み、全ての破滅を望む澱んだ双眸。
「私は負ける訳にはいかないのよ! だって、もうすぐ、覇空竜アストライオス様がここに来てくださるんだもの……」
 元より説得など通じない相手、全ては手遅れと判っていた。
 それでも倒す覚悟を決めるには、中村の揺るぎない意志を見せつけられるより他なかった。
 自らの後悔と怒りを煽る以外なかった。
「世界はさ、楽しいもので溢れてるんだよ。だから、ドラゴンに壊させる訳にいかないんだよ」
 複雑な感情が渦を巻く中、白兎は見た。
 握り締めた手の先、回転する刃が中村の胸を引き裂き、車輪が進むように減り込み無理やり彼女の傷を開くのを。
「……私、この戦いが終わったら……南の島にバカンスに行くんだ……」
 血泡を噴いて倒れた中村が、虚ろな目で呟く。
「ゆうみ?」
「……竜十字島では、玄室に篭りきりだったから……青い空の下で……」
 8717万2485秒の不眠不休……取りもど、
 そこで言葉は途切れた。
「裕美!!」
 思わず白兎が中村を抱き起こすも、二度と彼女が目を開ける事はなかった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月23日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 12/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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