魔竜王の遺産~殺戮と悲鳴と

作者:あかつき


 熊本市の市街の一角で繰り広げられる惨劇。一人は肉が捻れ、一人は骨が折れ、そうして息絶えていく。
「うわああああ!!!」
 逃げ惑う男性に襲い掛かる竜牙兵。
「がああああっっ!!!!!」
 竜牙兵は拳を振り上げ、彼を殴り飛ばした。その強烈な一撃で吹き飛ばされた彼は、弧を描き、地面へべしゃりと落下する。ぴくり、と動いた指先。男性はなんとか起き上がり、走り出す。
「た、助けて!!」
 そんな男性へ、竜牙兵は無慈悲な一撃を入れ、命を奪った。
 ばたりと倒れた男性を、まるで地面のように踏みつける一人の女性。彼女の名は、竜闘姫リファイア・レンブランド。うっすらと笑みを浮かべ、リファイアは死を撒き散らすため、次の殺戮場所へと歩き出した。


 ヘリポートに集めたケルベロス達に、雪村・葵はいつになく重い口を開いた。
「大侵略期のドラゴンを復活させていた黒幕が、遂に動き出した。どうやら敵の目的は『魔竜王の遺産ドラゴンオーブ』の探索……そのありかを発見したらしい」
 ざわつくケルベロス達に、葵は更に続ける。
「ドラゴンオーブの力は不明だが、魔竜王の遺産ともいわれており、その力は、魔竜王の再臨の可能性すらあるようだ。ドラゴン達に、ドラゴンオーブを渡す事は出来ない。現在、ドラゴンオーブの封印場所である『熊本市』には、竜十字島より出撃したドラゴンの軍勢『アストライオス軍団』が向かって来ている。なんとしても阻止しなければいけないのだが」
 そこで一度区切り、葵は顔をしかめる。
「敵はそれだけではないらしい。このドラゴンの軍勢に先立ち、敵は魔空回廊を最大限に利用して、配下の軍勢を送り込み、ドラゴンオーブの復活の為のグラビティ・チェインを確保すべく、市街の破壊と略奪を行おうとしているんだ。配下の軍勢は、ドラグナー、竜牙兵、オーク、屍隷兵で、9つの部隊に分かれて、熊本市街の略奪を行おうとしている。竜十字島から出撃したアストライオス軍団が到着するまでに、『ドラゴンオーブの封印解除に必要なグラビティ・チェインを略奪』しようとしているのだろう」
 つまり、と葵は続ける。
「熊本市の戦いで、多くのグラビティ・チェインを略奪されればされるだけ、ドラゴンの軍勢によるドラゴンオーブ奪取を阻止できる可能性が下がってしまう。それだけは、避けないといけないんだ」
 敵が9つの軍団にわかれている。それぞれ一人ずつリーダーとなる指揮官がおり、配下を率いて熊本市を襲うらしい。
 ドラグナーの指揮官は3人。1人目は、竜性破滅願望者・中村・裕美の配下は、ケイオス・ウロボロス。2人目は竜闘姫リファイア・レンブランドで、武術を得意とするレンブランド姉妹の姉。配下は竜牙兵で、同じく武術で戦う。3体目はリファイアの妹、竜闘姫ファイナ・レンブランド。配下は武術家の死体を利用した屍隷兵の軍勢。
 オークの指揮官も3人。嗜虐王エラガバスは自らの血を引く部族を総べる残忍な暴君で、捕らえた女性に対する扱いは苛烈を極める。2人目、餓王ゲブルは『強い女』を求めるオークの王。女性への拘りが強く飢餓状態のオークばかりの集団を率いる。3人目は触手大王。突然変異で触手が異常増殖&異常発達した巨大なオーク。同様に触手が異常発達した配下達を、王子とよばれる3人の息子と共に率いている。
 竜牙兵の指揮官も3人。黒牙卿・ヴォーダンは黒鎧の騎士型竜牙兵。配下も似たような外見だが、馬には乗っておらず、装備も軽装だ。2人目は斬り込み隊長イスパトル。四腕の剣士型竜牙兵。配下は、イスパトルに似ているが、鎧が簡素化されて2本腕になったような外見だ。3人目は黒鎖竜牙兵団長。覇空竜アストライオス直属の軍団長で、剣と黒鎖を武器とする。配下も団長と同じ武器を使い、同じような外見をしている。
 敵部隊は、指揮官の指示に従って、市民の虐殺を行っている。グラビティ・チェインの略奪を目的として行動しているが、指揮官がいなくなれば命令は徹底されなくなり、それぞれ勝手に動き始める。市民を救出しつつ、敵ボスを素早く撃破する事が出来れば、統率は無くなり各個撃破が容易になるだろう。
「ドラゴンとの決戦の前哨戦ではあるが、後の戦いに大きな影響を与える……そして何より、人命がかかっている。熊本市民の被害を最小限に抑えられるように……みんな、よろしく頼む」
 一通り説明を終えた葵は、ケルベロス達にそう言って頭を下げた。


参加者
クィル・リカ(星願・e00189)
御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)
バレンタイン・バレット(ひかり・e00669)
平坂・サヤ(こととい・e01301)
ヴェルセア・エイムハーツ(ブージャム・e03134)
ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)
西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)
ミカ・ミソギ(未祓・e24420)

■リプレイ


 瓦礫が地面のあちらこちらに散らばり、誰かの泣く声、叫ぶ声、そして助けを呼ぶ声が至るところから聞こえてくる。
「覚悟はしていたけどね」
 跳ねるように地面を蹴って進みつつ、左右に目を向け探索を続けるバレンタイン・バレット(ひかり・e00669)。他のメンバーより聴覚が優れていると自負する彼は、ただただ聞こえる凄惨な声の数々に、顔をしかめる。
「バレくん、とにかく、急ぎましょう」
 バレンタインの背を押すように、クィル・リカ(星願・e00189)は声をかけ、何度目かにはなるが一応スマートフォンをポケットから出して確認する。先ほどは電波の状況からろくに使えそうに無かったが、もしかしたらと思ったからだ。しかし、電波妨害のためにやはり使えそうに無い。今回は恐らく電子機器は役に立たないだろう。クィルは諦めて、スマートフォンをポケットにしまった。
「ええ。指揮官さえ倒せば屍隷兵など烏合の衆……より多くを助けるために、指揮官を倒すのが先決です」
 毅然とした態度で頷くのは、ルーンアックスで瓦礫や地面にマーキングを施している西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)。彼としても、その声を助けに行けないのは非常に辛い。しかし、正夫はもう二度と間違えないと覚悟してきたのだ。以前、ハクロウキを逃したときと同じ失敗はしない。
「早く、指揮官ファイナ・レンブランドを倒さなければ」
 正夫と同じく瓦礫にチョークでマーキングを施しているヴェルセア・エイムハーツ(ブージャム・e03134)が小さく頷いた。
「面倒な事をしてくれるゼ」
 そんなヴェルセアに、ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)も同意を示す。
「指揮官を倒すこと、それが虐殺を止めるための最善策だ」
 左右を探索し、そして騒ぎの大きい方へと足を向ける。そんな彼らの元へ、傷ついた五人の女性が走って逃げてきた。
「みなさん、大きな怪我は無さそうですね?」
 さっと視線を走らせて、平坂・サヤ(こととい・e01301)が彼女達に声をかける。
「はい、私たちは大丈夫です」
 そうは言うものの、擦り傷や切り傷はあちらこちらにみられる。
「良かったらこれ、使って」
 ミカ・ミソギ(未祓・e24420)が手渡した救急キットを受け取った五人は、頭を下げる。
「あの、実は……」
 彼女達のうち一人が何かを言いかけたその時。
「やめ、う、うわぁぁっ!!」
 聞こえてくるクリアな悲鳴と、物騒な物音の数々。距離が近い。
「あの、助けて下さい! 友人なんです、お願いします!」
 すがりつくように嘆願する五人に、彼らは顔を見合わせ、そして。
「放ってはおけないよね」
 呟くバレンタインに、御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)が腰に交差させ装備している七ツ月と七ツ影に手をやりながら、薄く笑う。
「あっちに、指揮官がいるかもしれない」
 白陽は言うや否や、割れたコンクリートを蹴って悲鳴の方へと駆け出す。それを追うように、メンバー全員が動きだす。
「アンタ達は、東に逃げろ。そっちなら、安全だ」
 五人の女性達に向け、ルースはそう声をかけ、他のケルベロス達の後を追って駆け出した。


「指揮官はいないか」
 なら、速やかに排除する。白陽は状況を瞬時に判断すると、小さく呟き、姿勢を低くし地面を蹴る。壁際に追い詰められていく男性と、そこへ拳を振り下ろそうとしている屍隷兵。まだ息があるのは何人か、恐らくはそう多くは無いだろう。対して、屍隷兵は三体。人間を痛め付けていた屍隷兵達は、誰かに邪魔される可能性など微塵も考慮していなかったとでもいうように三体とも前衛だった。白陽は腰の白刃を抜き放ち、そして、男性に一番近い屍隷兵の身体へ、斬撃を飛ばす。舞うは幻惑を纏わせる桜吹雪。
「ぐがっ!」
 姿勢を崩した屍隷兵。そんな屍隷兵へ、ミカの制圧射撃が命中する。
「今のうちに逃げてください」
 屍隷兵の注意が逸れた隙を狙い、正夫は壁際に追い詰められた男性の腕を引く。
「あなたも逃げるです。走れなければ、建物の影で隠れてて下さい」
 地面にへたりこんで動けなくなっていた男性に、サヤは駆け寄り立ち上がらせる。
「ありがとう……!!」
 よろめきながらも走って逃げる二人に、屍隷兵ははっとする。そして、追いかけようと足を踏み出した時。
「いかせませんよ」
 正夫のルーンアックスが光を纏いながら、屍隷兵へと叩き込まれる。
「ぐぎっ!!」
 痙攣するように歯軋りする屍隷兵は、その拳にバトルオーラを纏わせる。くるりと視線を向けたのは、先程斬撃を放った白陽。
「っ!!」
 僅かな隙を狙うような一撃に身構える白陽だが、その間に飛び込むようにバレンタインが割り込む。
「危ない!」
 バトルオーラを纏った拳を受け止め、バレンタインは側方へと吹き飛ばされる。
「回復しますよ」
 サヤが即座に動き、バレンタインに気力溜めで回復を施す。
「ぎぎぎぎっ!!」
 再度拳を構える屍隷兵に、ルースはファミリアロッドを向ける。
「妙にしつこいね」
 放った火の玉は、三体の真ん中で炸裂し、その身体を焼いていく。
「ぐぎぎぎぎっ!!」
 倒れ、消し炭のようになった身体。小さく息を吐き、ヴェルセアは一体ずつ順番に確認していく。一体め、二体めともう崩れていく身体に肩を竦めたヴェルセアは、ぼろぼろと崩れていく三体めに駆け寄る。
「ぎ……」
 僅かに呻き声を上げる三体の襟首辺りをひっつかみ、問いかける。
「おい、お前らの指揮官はどこにいル?」
「ぎぎぃ……」
 しかし答えらしきものは得られず。ため息を吐いたヴェルセアは、その身体にドラゴニックハンマーを叩きつけた。彼が残った布からぱっと手を離し、踵を返したその時。
「あ、あのっ……!!」
 先程サヤが助けた男性が、建物の物陰から顔を出す。
「ここは今のところ安全ですか、念のため早く逃げて下さい」
 そう言う正夫に、男性は道の向こう側を指差した。
「指揮官っていうんですか? 他のと違うのがいるって、逃げてきた人に聞いたんです。そしたら、さっきのが追いかけてきて」
 男性からの情報に、ケルベロス達は顔を見合わせた。


 指揮官発見を仲間たちへと知らせる信号弾を準備するクィルとバレンタイン。道中、交戦箇所を避けて進んだ甲斐あって、全員ダメージは少ない。メディックとディフェンダーの分担についてはこのままでも良さそうだ。二人が頷いたのを合図に、西日本病院へと向かう一本の道へと足を踏み出すケルベロスたち。しかし、その直後、彼らの足が止まる。
「なんだ、もう来てたのか」
 ミカがぽつりと呟く。その視線の先には、一足早く到着していたもう一つのチーム。彼らの前に聳え立つ西日本病院、そこの敷地からはファイナのものとおぼしき、屍隷兵に指示を出す声が聞こえる。外にいるのだろうか、その声はクリアに聞こえる。確か、この病院には大きな駐車場があった筈だ。
 先着していたチームに合流し、ケルベロス達は病院の方へと目を向ける。
「外にいることは間違いなさそうだな」
 渡羽・数汰の判断に、ルースも頷く。
「駐車場があるようだからな。そこにいるのかもしれない」
 視界の良い駐車場で指示を出していると考えれば、なるほど納得もできる。2チームのケルベロス達は互いに顔を見合わせ、駐車場へと駆けていく。果たしてそこにいたのは、14体の屍隷兵と、屍隷兵に指示を出しているファイナ・レンブランド。
「何、あんた達。邪魔しにきたの? それとも……私にやられに来たの?」
 例え相手が強敵だとしても、ここにいるケルベロスは全員、道中の凄惨な現場を目の当たりにしている。そして元より、デウスエクスを取り逃がす気など、微塵もない。絶対に倒す、と確固たる意思を持つケルベロス達を見て、ファイナはにぃと口角を上げ、その瞳を猫のように細めた。
「じゃあ、とっととやられて頂戴!!」
 言うや否や、ファイナは脚を振り上げる。そこへ装備されているのは、鋭い爪。気合いと共に繰り出された蹴りが、前衛のケルベロス達を襲う。
「っ……さすが、指揮官ですね」
 傷口をおさえ、クィルが呟く。強烈な一撃は、確実にケルベロス達の体力を削る。
「ここまで荒らした報いは、きっちり払って貰いませんと。取り立てのお時間ですよ。逃がしませんとも……!!」
 サヤは素早く体勢を立て直すために動き出す。
「おかえりなさい」
 観測:再起で回復を施していくサヤ、そこへ走るのはファイナの配下の屍隷兵。握った拳にバトルオーラを纏わせて、突進しながら振りかぶる。
「させませんよ」
 間に割り込む正夫がその一撃を身体をもって受け止める。
「ぐっ……!」
 吹き飛ばされる正夫だが、ファイナよりも軽い一撃に対し、その体力には幾分かの余裕がある。
「余裕だナ?」
 配下たちがケルベロス達に殺到するその間に小さく息を吐き体勢を整えるファイナに向け、ヴェルセアがドラゴニックハンマーを構え、竜砲弾を射出する。しかし、弾はファイナに命中する前に割って入った屍隷兵に阻まれた。顔を歪めるヴェルセアに、ルースが肩を竦めつつファミリアロッドを構える。
「届かなくて、残念だったな」
 そう言いながら炎を放つルースに、ヴェルセアは更に顔を歪めた。
「邪魔だよ」
 ぐらりと姿勢を崩した屍隷兵へ向け冷気を帯びた刃を振るうのはミカ。その一閃に、屍隷兵は倒れ伏す。しかし、他の屍隷兵の勢いは衰えない。まだまだ数の多い屍隷兵は、ケルベロス達へと向けて各々の拳を振るう。
「まずは敵の数を減らさければ」
 呟き、クィルは吹雪の形の精霊の力で、屍隷兵へと氷を放った。そこへ駆け込み、白陽が桜吹雪を纏い、斬撃を叩き混んでいく。
「雨宿りなんてさせないぜ!」
 隊列を崩す屍隷兵へと、バレンタインが高く跳び、弾丸を雨のように降らせていく。その間、もう片方のチームも攻撃を繰り返しており、屍隷兵のダメージもかなりのものとなっている。倒れている屍隷兵もいるようだ。彼達は体力に気を配りつつも、攻撃の手を緩めない。まずは配下を片付ける事、あわよくばファイナにダメージを与えていく事。そしてなにより、ファイナ達をこの場から逃がさず、ここで倒すという事。そのためには攻撃の手数を減らす訳にはいかない。その目的だけはしっかりと頭に刻み付け、彼らは武器を振るっていく。屍隷兵の隙間から見えたファイナの瞳は、殺気を宿しケルベロス達を見詰めていた。


 戦いを始めてから、かなりの時間が経ったように思われるが、実際は数分程度だろう。屍隷兵の数は半分程度に減り、ファイナへのダメージも重なってきているが、こちらのダメージもかなりのものだ。
「はぁぁぁぁぁっ!!!!」
 赤黒いバトルオーラを纏ったファイナの拳が、天空から叩きつけられる。狙いは回復役のサヤ。身構えるサヤの前に、バレンタインが立ち塞がった。
「ぐうっ!!」
 辛うじて受け止めたものの、隕石のように落ちて爆ぜた拳の威力で、バレンタインは病院の壁に叩き付けられる。
「バレくん!」
 そう声を掛けるクィル、その身体から放たれた蒼い光が地面を走る。そして、再度構えをとるファイナの足元を捉えた。
「逃がさない、――氷り咲けるまで」
 天に向け氷立つ氷の柱が、ファイナの身体を貫いた。その間に、すぅ、と息を吸ったサヤはブラッドスターでバレンタイン始め消耗の激しい前衛へと回復を施した。その間に、隙を見たミカはファイナへと重力を帯びた跳び蹴りを叩き込む。しかしその一撃は、決定打とはならず。
「大丈夫ですか?」
 回復したバレンタインだが、それでは少々足らないと見てとった正夫がマインドシールドを施す。
「なんとか……!!」
 歯を食いしばって立ち上がるバレンタインだが、その足元はふらついている。
「しつこい!!」
 苛立たしげに叫ぶファイナに呼応して、屍隷兵がケルベロス達へと飛びかかってくる。
「おまえらも、しぶといナ」
 屍隷兵の蹴りを食らい、ぐらりと膝をつくヴェルセア。そこへまだ拳を振り上げる屍隷兵へ、ルースの針が刺さる。
「痛みが悪だと、誰が決めた?」
 細く、深く刺さった針により、屍隷兵はかくりと動きを止める。屍隷兵の背後から振るわれた白陽の空の霊力を帯びた刃は、屍隷兵に止めを指した。その間、連携チームはファイナにダメージを与えつつも屍隷兵の数を減らし、残りは片手で数えられる程度。その後、連携チームはファイナを優先し、攻撃を仕掛けていく。攻撃を受け、ファイナの意識が連携チームへ向いている隙に、こちらのチームは体制を建て直す為に回復の手段を持つものは回復に努める。しかし、こちらのチームも前衛は屍隷兵とその後ろに控えるファイナへの攻撃の手を止める事はなく。
「邪魔だ……!」
 チャンスと見てとった白陽のその鋭い一閃は、屍隷兵一体を地に伏した。それとほぼ同じ頃、シル・ウィンディアの放った想い人との絆のグラビティがファイナを捉える。そして、その後の畳み掛けるような攻撃により、ファイナはがくりと姿勢を崩す。それでもその闘志は衰えてはいないようで、彼女の獰猛な瞳がシルに向けられた。次はお前だ、とでも言うように、ファイナはにやりと口角を上げる。
「こっちの相手もしてもらいます」
 このままでは向こうのチームが危ない、と判断したクィルが動いた。気を引く為に敢えて声を発し、それから手元の弓を引く。さっと身を翻し攻撃を避けようとするも、放たれた矢は妖精の加護を受け、ファイナへと突き刺さる。その一撃は致命傷にはならないまでも、傷付いたファイナの集中を乱すには十分だった。そして、その一撃の行方を見届けるより早く、ミカは地面を蹴った。
「幾度でも巡り廻る」
 光の翼を刃に変え、突撃していくミカ。すれ違い様、身体を切り裂かれたファイナはその猫のように爛々と光る目を見開き、膝をつく。
 しかしファイナは顔を上げ、最後の力を振り絞るように、拳に赤黒いバトルオーラを纏わせる。そして作り出した巨大な拳は、隕石のようにミカの頭上へと落ちてきた。
「させませんよ!!」
 間に入ったのは正夫。構えた那羅延金剛で爆ぜる拳を受け止めるが、その威力は凄まじく、吹き飛ばされる。しかし、狙った相手に攻撃が届かなかった事実にファイナは舌打ちを溢す。不愉快そうに歪めた顔が、攻撃後の隙を狙っていたヴェルセアの姿を認めた瞬間、驚愕と焦りの色を見せる。
「止めダ」
 それを視界の端に捉えつつヴェルセアが呟くと同時、広がっていくまっくろ沼。悪辣の沼に飲み込まれたファイナは、天を仰ぐ。そしてそのまま、信じられないといったように、破壊の限りを尽くした大地へと倒れ伏す。それを確認し、クィルは白の信号弾をーーー指揮官撃破を知らせる信号弾を、共にこの地で戦うケルベロス達へ届くように、空へ向けて撃ったのだった。

作者:あかつき 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月23日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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