熊本県熊本市――水の都とも、森の都とも称される日本最南端の政令指定都市は、未曾有の危機に晒されていた。突如、9つのもの軍団が熊本市全体を蹂躙したのだ。
――――!!
雄叫びが轟く。血風舞う光景は正に地獄絵図だ。
熊本市を構成する5つの行政区の1つ、人口も最多の東区に襲来したのは、「竜闘姫」を名乗るドラグナーの姉妹。何れも武術を得意とするレンブランド姉妹率いる軍団は、東区を南北に分けて蹂躙する。
――――!!
東区南側を狩場としたのは、姉のリファイア・レンブランド。武闘派の指揮官に従う竜牙兵も又、道着姿で武闘家の肉を削ぎ落としたような骨太の様相だ。
「ぼうやぁっ! いやぁぁっ!」
今しも、目の前で我が子の首をへし折られ、絶叫する母親の首も又、握り潰される。
「た、助け……ぐがぁっ!」
通りを挟んだ向こうの路上では、サラリーマンが胸を蹴り破られ、血反吐を撒いた。
逃げる事も命乞いも許されない。武闘派竜牙兵は、目に付いた市民を片っ端から叩き伏せ、蹴り破り、握り潰し、血の海に沈めてゆく。
――――!!
殊更に怒号と悲鳴の上がる一角は、指揮官自らが虐殺に勤しんでいるのだろうか。
酸鼻を極める界隈のグラビティ・チェインが狩り尽くされるのも、時間の問題だった。
「緊急事態です。大侵略期のドラゴンを復活させていた黒幕が、遂に動き出しました」
常套句もすっ飛ばし、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は厳しい表情で、ケルベロス達を見回した。
「敵の目的は『ドラゴンオーブ』の探索であり、その在り処を発見したようなのです」
現状、ドラゴンオーブの力は不明だが、「魔竜王の遺産」とも言われている。その力は、魔竜王の再臨の可能性すらあるやもしれない。
「ドラゴンオーブの封印場所は『熊本県熊本市』。熊本市には、竜十字島より出撃したドラゴンの軍勢『アストライオス軍団』が向かって来ています。勿論、ドラゴン達に、ドラゴンオーブを渡すなど看過出来ません」
しかも、敵はそれだけではない。魔空回廊を最大限に利用して、配下の軍勢を先んじて送り込み、市街の破壊と略奪を行おうとしているのだ。
「ドラゴンオーブ復活の為、グラビティ・チェインを確保しようとしているのでしょう。配下の軍勢は、ドラグナー、竜牙兵、オーク、屍隷兵で、9つの部隊に分かれて、熊本市街を蹂躙しようとしています」
今回は前哨戦とも言えようが、この戦いで多くのグラビティ・チェインを略奪されればされる程、後のドラゴンオーブ奪取阻止の可能性も下がってしまうだろう。
「ドラゴンの配下は9つの軍団が分かれて、市内全域に襲来します」
熊本市は5つの行政区に分かれている。中央区は「ケイオス・ウロボロス」率いるドラグナー「『竜性破滅願望者』中村・裕美」の軍団が。東区はドラグナーの姉妹、レンブランド姉妹が南北に手分けする。
「東区南部は、姉の『竜闘姫』リファイア・レンブランドが武闘派の竜牙兵を率いています。北部は妹の『竜闘姫』ファイナ・レンブランドの軍団です。こちらは、武術家の死体を利用した屍隷兵の軍勢となります」
オークの軍団も3部隊ある。残忍なる『嗜虐王』エラガバルスは、西区の南側を。飢餓状態のオークを率いる『餓王』ゲブルは南区北側。触手大王なる巨大なオークは、王子と呼ばれる3人の息子と共に南区の南側に侵攻する。
「竜牙兵の軍団も3隊です。黒鎧の騎士型竜牙兵、『黒牙卿』ヴォーダンは北区の北側に。四腕の剣士型竜牙兵『斬り込み隊長』イスバトルは北区の南側。剣と黒鎖を武器とする『黒鎖竜牙兵団』は西区の北側に出現します」
尚、黒鎖竜牙兵団は、今回の黒幕『覇空竜アストライオス』直属の軍団とのこと。
「敵部隊は、何れも指揮官の指示に従い市民を虐殺します。ですから、熊本市民を救出する一方で、指揮官を素早く撃破出来れば、戦いを有利に運べるでしょう」
敵の目的は『グラビティ・チェインの略奪』。故に、熊本市民を出来るだけ沢山殺そうとして動く。各軍勢の指揮官を撃破すれば、この命令が徹底されなくなる訳だ。
まさか、魔竜王の遺産が本当に存在するとは――創は溜息を吐く。
「後のドラゴンとの戦いに大きな影響を及ぼす前哨戦です。熊本市民の被害は、最小限に抑えて下さい。皆さんの健闘を、祈ります」
参加者 | |
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結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032) |
鵺咬・シズク(黒鵺・e00464) |
椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768) |
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020) |
ラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288) |
シフォル・ネーバス(アンイモータル・e25710) |
岩櫃・風太郎(閃光螺旋の紅き鞘たる猿忍・e29164) |
中村・憐(生きてるだけで丸儲け・e42329) |
●幸運の邂逅
熊本県熊本市、上空――ヘリオンの窓から、椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768)は熱心に双眼鏡を覗く。
「……よく、判らないざんし」
目的は西区の南側の防衛。更にはこの地区の首魁たるオーク、嗜虐王エラガバルスだ。降下前から索敵に勤しむが、雲に遮られたりして状勢の把握は厳しい。
「カメラのズームにも限度があります。降下してからなら、また別のやりようもあるでしょうけど」
カメラを手に、ラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288)は溜息を吐く。肩を竦めるヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)。
「仕方ない。降下地点は上代城かな」
坪井川南の丘陵、城山――そこが上代城の城跡であったとされる。城山全体が墓地となっており、ケルベロス達は城跡の石碑近くに降下した。
「よもや都市を丸ごと潰すつもりとは……」
降下して初めて判る殺伐の空気に、小さく息を呑む岩櫃・風太郎(閃光螺旋の紅き鞘たる猿忍・e29164)。ドラゴン軍の大胆さに、怒りを通り越して感服さえ禁じえない。
「だが、熊本市の人命は決して奪わせぬ!」
「流石に今日は、何の用事か忘れたなんて言ってられませんわね。1人でも多くの住民の皆さんを助け出す為にも……エラガバルスを倒してみせますわ」
シフォル・ネーバス(アンイモータル・e25710)の常はとぼけた風情も、今日ばかりは影に潜む。頷き返した中村・憐(生きてるだけで丸儲け・e42329)のバトルオーラも、剣呑に揺らめいている。
「携帯は……駄目か」
思わず顔を顰める鵺咬・シズク(黒鵺・e00464)。特に今回は、『封印検索演算式』を完成させる程コンピューターに強い敵がいる。デウスエクスの技術力なら、携帯電波のジャミングなど造作も無いだろう。
早速、特製信号弾を撃ち上げようとして、風太郎はふと逡巡する。
信号弾の報せは敵味方関係ない。今回のように、数多が虐殺に散っていれば尚の事、或いは敵だけを集める羽目にもなりかねない。『遅滞無い情報共有』の難しさを実感する。
シフォルも難しい表情だ。ヴァルキュリアの光の翼は瀕死の気配を漠然と感じ取る。しかし、今回の襲撃は同時多発的。その気配も少なからずで向かうべき方向を絞りきれない。
「あれ、麓の病院……もしかしなくても、ビンゴかも」
だが、事態は急進する。ヴィルフレッドの声に、高台の際から身を乗り出すケルベロス達。
「病院の窓から、オークらしい影が見えたよ」
笙月が双眼鏡を覗けば――麓の病院の屋上に、禍々しい剣を握る影。眼の赤光が炯炯として、厳つい大柄に青紫の触手が蠢く。
「あれが、エラガバルスざんしか……最初から当たり籤を引いたようで」
「急ぎましょう!」
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)の声に、病院への最短距離で斜面を下り始めるケルベロス達。だが、当人は躊躇の素振りで立ち竦む。
(「足も手も震える……でも逃げる訳にはいかない!」)
深呼吸を1つ。一転、意を決した表情で、レオナルドは仲間を追う。
「あっちです!」
――地響きが、こちらまで伝わった。ラリーが指差す先、病院前の駐車場に土煙が立ち上る。少なからずのオークがひしめき、その向こうに既に1チームいた。
「嗜虐王エラガバルス! 貴様の鬼畜外道の所業は最早これまで! 我等ケルベロスが天誅を下さん!」
屋上から飛び降りたのか。土煙の中に首魁に相応しい大柄を見て取り、風太郎は声を張る。
「熊本の英雄、左門豊作先生に代わってクソオークにお仕置きっす」
オーク越しに、チャイナドレス姿の瓶底眼鏡の女性が微笑むのが見えた。やはり不敵な笑みを浮かべ、憐は大見得を切る。
「退屈しのぎに相手してやるよ。抜きな」
シズクの冷ややかな言葉に、エラガバルスは駆け付けたケルベロス達を睨め付けた。
●集中打の応酬
「ふん! 人間如きがわらわらと。女子供も容赦せんぞ!」
次の瞬間、禍々しい殺気がシズクを掠め飛んだ。
「……っ!」
剣を掴んだ触手がのたくり強襲した。身構える暇こそあれ、凶刃がラリーを貫く。
「卑怯な!」
キッと睨み返したシズクをせせら笑うエラガバルス。挑発に乗ったように見せて、その実、打たれ弱い所から狙ったのだ。敵も眼力を具える。命中率から実戦経験を看破したのだろう。
斯くて、戦いの火蓋は切って落とされる――位置取りは先行チームが右翼、こちらは左翼。やはり左右に分かれた配下のオークも、次々と触手を振るう。こちらを攻撃してきた何れもがラリーを狙う周到さ。
「むっ!?」
咄嗟に触手の軌道に割り込むレオナルド。シズクも二刀を交差させて1度はラリーを庇った。
「どいつが……」
敵のポジションを見極めんと風太郎を目を眇める。配下のオークは数えて16体。同族であるからか、見た目に大きな違いは無い。
――――!!
更に、撃破の順序をポジションで定めていた。そのポジションを見定める為、配下にも先手を取られる結果となったのが悔しい。例えば、右か左か――1人でも取っ掛かりを示唆していれば、先制攻撃も叶っただろうに。
「わたしは、まだまだ大丈夫ですから!」
歯を食い縛ってヒールドローンを展開するラリーに、シズクは分身の術を重ねる。ダメージが癒えきらない所からして、クラッシャーの存在が窺えた。恐らくは嗜虐王も。
応酬に、レオナルドの稲妻突きとシフォルのヴァルキュリアブラストがエラガバルスを狙うが、それぞれ配下に阻まれる。
すかさず、庇ったばかりのディフェンダー目掛けて風太郎の紅蓮大車輪と笙月の【暴走する殺戮機械】が奔る。
「前衛はエラガバルス含めて10……多いな」
「残りは中衛でござるな」
巻き込んだ敵数に、思わず眉を顰める笙月。風太郎も射程から敵の陣営の見極めていく。眼力が報せる命中率は、配下全員に殆ど差異は無い。となれば、中衛7体は全てジャマーだろう。オークの陣形は一塊ながら、配下は半数に別れてケルベロス2チームと対峙する様相か。
「たまには被虐的快感を満たしてみなよ、手伝ってあげるからさ」
そんな中、少しでも早くエラガバルスを『的』に墜すべく、ヴィルフレッドと憐、スナイパー2人は轟竜砲をぶっ放す。オーク相手でも油断はしない、その気構えこそ良し。
「前線は部下任せにして高見の見物……所詮はドラゴンの走狗か」
「ほざけ! 走狗にも劣るドブネズミどもが!」
一方、右翼チームも果敢に攻める。ラリーも知る凛々しい声が挑発すれば、覿面に反応したエラガバルスが剣を以って薙ぎ払う。
引き続き、配下の半数は執拗にラリーを狙う。再び、彼女に分身の術を重ねるシズク。ラリー自身も気力を溜めて凌がんと。
(「このままでは、拙い……」)
メディックはラリー1人。心情的にも戦術的にも、彼女を落とす訳にはいかない。此方の盾は2枚。全ての攻撃を庇えるとは限らない。配下の集中攻撃はまだしも、エラガバルスにまで狙われては厄介だ。
「こうなったら!」
ヴィルフレッドのフォーチュンスターを配下が遮った直後、飛び出したレオナルドの鉄塊剣が唸る。腕力だけで御した重厚無比の一撃は、幸いにもエラガバルスを抉る。
「貴様ぁ……」
憤怒の声音に怖気を震うもぐっと堪えるレオナルド。その間に、庇って被弾したディフェンダーオークを集中攻撃。笙月の戦術超鋼拳、シフォルのデスサイズシュートが立続けに突き刺さり、風太郎の螺旋掌がまず1体目に引導を渡した。
●仮借なき猛撃を
「……ッ!!」
剣先が揺れるのも束の間。忌々しげに歯を剥き、エラガバルスの剣はレオナルドの得物を砕かんと叩き付けられる。続いて配下も追従するようにレオナルドを狙った。
「森羅万象、大いなる癒しの息吹よ」
ディフェンダーであっても、防具耐性そぐわぬクラッシャーの一撃は重い。すかさず、半透明の御業の花を咲かせる笙月。清めの造花の癒しを注がれながら、レオナルド自身も気力を溜める。ジャマーの厄も侮れなければ、ラリーはスターサンクチュアリを描いた。
まずは前衛、ディフェンダーから狙うのは、両翼に共通して。レオナルドとヴィルフレッドは牽制も兼ねてエラガバルスへ攻撃を続行するが、先に配下の掃討を優先する。
(「死を許さない。それがわたくしの矜持です」)
故に、死を撒かんとするオークもけして許さない。光翼を暴走させ、光の粒子に変じて突撃するシフォル。その一撃は真っ向から配下1体を強襲し、更には鋭くターンしてかわす暇も与えず轢き潰す。
「随分とよれよれじゃないか。なぁ?」
又、右翼より列攻撃を重ねられ、それでも何とか踏み止まっていた1体を見逃す訳も無い。憐のアイスエイジインパクトと風太郎に熾炎業炎砲に揉まれた追い討ちに、シズクはサイコフォースを以って爆砕する。
攻撃を集中させるのは、オークも同じく。だが、ケルベロス達はヒールを重ねて凌ぐ。
「誰も、倒れさせません!」
ラリー自身、メディックの役割は初めてだが、その決意は生真面目なまでに一途。自身も攻撃に晒されながら、過剰に回復するくらいが丁度良いと判断して気力を注いで回り、ヒールドローンを展開させる。
一方で回復と攻撃の役割を入れ替えながら、じわじわと配下のオークは減じていくケルベロス達。
「お前らの所業は許さんっす。死して詫びよ!」
一球入魂! 掌中にエネルギーボールを形成し、力一杯投擲する憐。オークは咄嗟に身を伏せるも、球の軌道は大きく湾曲。防御を掻い潜ってオークの鳩尾に抉り込む。
「グハァッ!」
これまで配下に命懸けで庇われながら、顔色1つ変えなかったエラガバルスが、歯軋りして斬り込んでくる。
「貴様ら、よくも我が一族を……!」
レオナルドを中心に、前衛の加護を一気に砕く重撃は確かに脅威。だが、右翼より飛んで来た熾炎業炎砲の射線を遮って、最後のディフェンダーオークが潰える。
「また庇われてしまいましたか。しかし――これで前衛は全滅です」
修道女めいたビハインド伴う巫術士の青年の言う通り。いよいよ、エラガバルスの盾は亡い。
「命ず、御業タタリ! 今こそ、汝の威を示せ!」
スナイパー達がエラガバルスに轟竜砲を砲撃する一方、御業タタリと憑依合体した風太郎が燦然と輝く光の一撃を放てば、シフォルのデスサイズシュート、シズクの絶空斬が次々と。黒翼の如き袖を翻し、笙月が戦術超鋼拳でジャマー1体に引導を渡す。
「ええい! 増援はどうした!?」
倒れた配下の骸も蹴飛ばす勢いで右翼に突進するエラガバルスに恐れをなしたか、ジャマーの触手がラリーを叩くも、ケルベロスの勢いは止まらない。
ラリーを庇った返す刃で嗜虐王の横腹にレオナルドの稲妻突き、ヴィルフレッドのフォーチュンスターが今度こそ爆ぜる。
「何度もやらせはしない!」
この期に及んで、エラガバルスの触手が後衛へ毒刃伴い飛べば、その射線を二刀で受け流したシズクが序盤の雪辱を晴らした。感謝の気持ちも込めて、ラリーは彼女に気力を注ぎ込む。
「いい加減、他の攻撃もしようか」
再び嗜虐王へ突撃するレオナルドを見送り、ヴィルフレッドは初めて、アブソリュートボムを投げ付ける。
――――!!
左右の猛撃に、中衛も残るは3体。狙い誤たず、絶対零度に硬直したオークを、風太郎の如意棒が旋回して焼き払う。
麗かなる香り、清浄なる謳、苛烈なる燃ゆる想い、静謐なる静寂の刻印――シャーマンズカードを掲げ、笙月が召喚したランページ・マシーンが中衛を席巻する。
列攻撃三連撃を経て――よろけるオーク共に引導を渡すのは、単攻撃三連撃。
シズクの絶空斬が、憐のアイスエイジインパクトが、シフォルのデスサイズシュートが。完膚なきまでに、オークの戦列を壊滅せしめた。
●嗜虐王の最期
雄叫びを上げ、エラガバルスは剣を振るう。だが、その破れかぶれに怯むケルベロスはいない。
右翼より吹き荒れる小銭の嵐――次々と撃ち抜かれていく巨体に、攻撃が殺到する。
「そろそろ、決着といこうか」
笙月に応え、その全身を覆ってゆく全身を覆うオウガメタル「ティンクルシオ」。「鋼の鬼」と化した、一撃は嗜虐王の装甲を強かに砕く。
「オノレェッ! ユルサンゾォッ!」
「ハハッ、嘘つきは誰だい……君かな?」
冷笑を零し、その背後を取ったヴィルフレッドのガジェットは、エラガバルスが振り向く前にその頭を撃ち抜く。
(「心静かに――恐怖よ、今だけは静まれ!」)
オークの攻撃に晒される琴も厭わず、その実、込み上げる恐怖とも戦い続けてきたレオナルドは、静かな表情で居合いの構え。次の瞬間、心臓の地獄炎が陽炎うや、高速の斬撃を連続して浴びせ掛ける。
「時の彼方、空の彼方より来たれ、死を焼き尽くす苦しみの炎よ!」
それは、稀人の炎――シフォルに息づくあらゆる死を強く恐れる想いが、この世の理から外れた炎を呼び出す。デウスエクスの不死の身に重力の楔を穿たんと。
「このケルベロスボール3号でお前の脳天粉砕してみせるっす! 躱せるものなら躱してみよ!」
大いに気炎を吐いた憐のピッチングは、正確にヴィルフレッドの銃撃の軌道をなぞる。爆ぜる血潮が、オークの獣頭を斑に染めていく。
「王を自称しようが所詮サンシタ! 辞世の句を詠め! イヤーッ!」
「……成敗!」
閃光螺旋によって黄金に発光する風太郎の突撃と同時に、シズクが頭上に掲げた光刃――天衝星墜剣が横薙ぎに一閃された。
それでもまだ、エラガバルスは倒れない。
「輝く刃をもって……正義に祝福を、邪悪に裁きを!」
初めて、攻撃に転じたラリーは、空中に白く輝く光の短剣を作り出すや撃ち放つ。
「フンッ!」
エラガバルスは事も無げに剣を一閃、白刃を叩き落す。力に依るグラビティを重ねてきたラリーの挙動は、容易く看破されていた。
「今です! エリオットさん!」
しかし、敵の侮る表情も構わず、ラリーは腹の底から声を張る。嗜虐王の注意をこちらに向けた、それこそが1番の狙い。
ゾディアックソードが奔る。空の霊力を纏った精確な剣筋は、星辰の煌きを帯びて。
「邪悪にして卑劣なる暴君に今、正義の鉄槌を!」
「なにが正……ぎゅえっ!?」
エラガバルスの言葉は途中で断ち切られた。体が棒立ちになり、剣を構えていた手が触手ともどもだらりと垂れ下がる。
「……」
無言でゾディアックソードの血を払い、青年は踵を返す――十二分に距離が開いたところで、前のめりに倒れるエラガバルス。斜めに割られた顔から血と肉片と脳漿を撒き散らしながら。
「やった……やりました! 騎士は悪に対抗し、正義を貫くべし、です!」
快哉の声を上げるラリーの喜色に目を細めながらも、シフォルはすぐ表情を引き締める。
(「これはあくまで、ただの前哨戦。本戦はこれから……」)
これ以上、ドラゴンの良いようにやらせはしない。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年6月23日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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