いかるの誕生日~雨降る中に色とりどりの

作者:あき缶

●ざあざあと
 梅雨に入り、連日の雨。
 香具山 いかる(天降り付くヘリオライダー・en0042)は、傘を差して君たちを迎えた。
「やぁ、最近じめじめしとんね。僕は、結構この雨音とかひんやり薄暗い感じとか落ち着いて好きなんやけど……」
 六月生まれやからかなぁ、と頭を掻き、いかるは君たちに続ける。
「こんな曇った雨の日やからこそ綺麗なものっていうのを見にいかへん?」
 いかるはそう言って、自身の地元にあるという『花の寺』で紫陽花鑑賞をしないかと誘った。
 初瀬山にあるその寺は、四季折々の花や紅葉が楽しめる場所なのだが、今の時期は紫陽花が見事だという。
「結構大きい山寺でな、長い伽藍を登っていくんやけど、そのまわりにぶわーっと色んな種類の紫陽花があって……。綺麗で落ち着くで」
 戦いばかりのケルベロス、たまには静かな場所で心を落ち着け、美しいものを見るのも、癒しになるだろう。
「雨とお花で命の洗濯っていうか……まぁ、僕の地元、ええところやから一緒に行こ?」
 凄惨なデウスエクスの事件ばかり依頼していることを少し気に病んでいるのか、いかるは苦笑しながら、ヘリオンのドアを開けた。


■リプレイ

●ともあるき
 少しひやりとしているけれど息が苦しいほどではなくて、ちょうどいい湿った空気。
 今日もまた止まない六月の雨だけれど、そこまで風も雨脚も強くなくて、壮輔は安堵する。
 花を散らせるような風雨ならば無粋だった、と。穏やかな雨は花の色艶に潤いすら与えてくれているように見える。
 壮輔の瞳に色とりどりの紫陽花の群れ。
 しとしと降る雨は、ゼレフの透明な傘を軽快に叩く。
 待ち合わせ場所の軒先に佇むハンナは、よう。と軽く手を上げた。
「なかなか足腰にキツイ場所にあったろう?」
「どうって事ないさ――と言いたいけど、中々効くね」
 軽口の応酬で笑い合う。
「先日の竜討伐、お疲れさん。互いにヒデェ有様だったが葬式にはならなかったな」
「ああ、お疲れ様。お互い死に損ない記録更新ってわけだ」
 ハンナなりの労りの言葉を受け、ゼレフも同じ温度の言葉を返し、拳を軽く突き出す。
 こつん、と互いの健闘を称え合う無骨な挨拶。
「お互い危険を愛する性分は変わらねぇらしいな。明日、どっちが消えるか分かったモンじゃねぇ」
「ま、見たい物がその先にあるなら仕方ないさ」
 二人は肩をすくめると、長い伽藍を登り始めた。
「急に誘って済まなかった。何だか白紫陽花を見たくなってな」
 瞳李の言葉に、アッシュは目を瞬かせ、
「急って言っても野郎は準備も大して時間もかからねぇしな」
 と返した。
「お前も最近忙しかったみたいだし、息抜きには丁度良いだろ?」
「ま、確かに。ゆっくりするには丁度いいか……俺の事ばっか気にしてるが、お前もきっちり息抜きしとけよ?」
 と会話しながらも、二人が想うのは、この頃に命を喪った瞳李の大切な人のこと。
 彼は、髪に白紫陽花を咲かせるオラトリオだった。
「黙っていれば綺麗だったのにな」
 ぽつりと瞳李は呟いた。あんな清楚な花を咲かせるのに、太陽のような男だった。
 かの人とは対極のようなアッシュは、彼女のつぶやきを拾って微笑み、頷く。
「黙ってれば、な……口を開けばふざけた事ばっか言いやがるからなぁ」
 悼むように懐かしむように。
 水たまりに不意に映った自身の浴衣姿に、姫貴は戸惑い気味に同じ和傘の下にいる、緋霈に何度めかの質問を投げかけた。
「ねぇ……本当に似合ってる?」
 何年も姫貴は男として生きてきたので、女物を纏うのはいまだに慣れない。
「ふふ~紫陽花も綺麗だけど~……今日の姫貴もまた一段と綺麗だな」
 緋霈は彼女の浴衣姿に違和感も何もない様子だ。
「浴衣なんて……初めてだから、心配なのよ」
 ぼそぼそと言い、姫貴は真っ赤な顔を俯かせ、緋霈と歩き続ける。
 変ではないかな、女っぽくなったかな……姫貴の戸惑いは、雨と同じく尽きること無く。
 後ろを振り向いたルーチェは、少し遅れてくる傘の彼女に手を伸べた。
「おいで、一つの傘に入った方が話し易いだろう」
 戸惑い気味の彼女、椿姫に、ルーチェはもう一押しと重ねた。
「人の声は傘の下で最も綺麗に聞こえるそうだよ」
 椿姫はそっと傘を閉じる。最も綺麗に聞こえるルーチェの声を聞きたい、と促された彼の横に歩みを進めた。
 二人が入るには少し狭い傘で、ルーチェの肩が濡れていく。
 その優しさと、そして何よりすぐ近くにルーチェがいるということに、椿姫は頬を赤らめた。
 同じように、相合い傘をしている晶とうずまきだが、
(「なんか、マキは緊張しっぱなしだねぇ」)
 晶は苦笑し、うずまきの緊張を解いてやりたいと、声を掛ける。
「雨の中で出掛けるのも悪くねえな」
「え? あ! うん!」
 心ここにあらずなくらいガチガチだったうずまきは、声にびくんと肩を揺らして何度も頷く。
 だがその様子を揶揄することもなく、晶は穏やかに続ける。
「今年の紫陽花もいい感じに咲いてる」
 と、繰り返し会話しているうちに、いつの間にかうずまきは緊張が解けているのに気づいた。
(「ん。こういうとこ、なんだよな」)
 これも全て晶の心遣い、優しさ……うずまきは胸の奥が暖かくなる心地がして、自然に頬をほころばせていた。
 彼女の変化を見て、晶は内心頷く。
(「よかったよかった」)
 好きな子を見るなら、やっぱり笑顔がいい。
 久々にふたりでいる――と、イヴも英世も互いに思っていた。
 長く見ていなかった彼の顔に気恥ずかしさが勝り、イヴはなかなか英世の方を見ることが出来ず、紫陽花ばかり見ていた。
 そんな彼女の様子も微笑ましく愛らしい、と英世は思う。こうして長く会えなくても、怒ることなく再開を恥じらいつつも喜んでくれるイヴに感謝の念も抱く。
「イヴくん」
「はい、何でしょうか?」
 呼ばれて振り向いたイヴは、思った以上に英世が近かったらしく、真っ赤な顔で声もなく口を開閉して戸惑うばかり。
「おっと、肩を濡らしてはいけないね」
 英世は、くすくすと笑いながら手を伸ばす。抱いたイヴの肩は火照って熱かった。
 一華を濡らすまいと、万里は一つきりの傘を彼女の側へと傾けるのだけれど。
 一華は、一華でぎゅうっと万里にひっついてグイグイ押す。
「肩びちょびちょですよ、万里くん! 風邪は万病のもとだから気をつけねば!」
 雨の中で紫陽花を見ながら二人で歩くのは初めてではない。
 あのときは傘は互いに一つずつだったけれど、今は一つを二人で分け合っている。
 その時に購入した紫陽花のピアスは今日も耳につけている。
「……俺、紫陽花好きだよ」
 欠落していた好悪の感情を、一華と一緒にいる時間が取り戻してくれた。
「やだもー万里くんが紫陽花好きなの知って……知、って?」
 一華は、ケラケラと笑おうとして、ハッと目を見開く。彼女は、万里が好悪に関する言葉を避けていたのは知っている。
(「紫陽花を好きだと思えるのも、きっと一華のお陰なんだ」)
 伽藍から見える紫陽花たちを、ぼんやりとエルスと清士朗は手を繋ぎながら眺めている。
「……ね、清士朗様。こうして、なにもしなくて、ただただ時間が過ぎるのを待つのも、なかなかいい感じじゃないかしら」
 エルスの声掛けに、清士朗は頷く。
「そうだな。ただ何もしない時間というのは実はとても贅沢なものだと、最近常々思う。……誘ってくれてありがとう、エルス」
「疲れる時や、やる気ない時、そして雨が降ってて出かけたくない時に、暖かいベッドにコロコロするのも、気持ちいいの」
 とエルスは朗らかに続けつつも、あ、と小さく声を上げて口を押さえると、恥ずかしげに彼の方を見やる。
「俺も雨の日に寝床でゴロゴロするのは大好きだぞ。今度、休みの日に雨が降ったら一緒にやろうか」
 意外な答えに、エルスは一瞬ぽかんとするも、ぱっと笑顔になった。
「うん、今度、一緒にしてみようね。きっと一人でするより楽しいの」

●ちいさなおどろき
 ぱっと開いた傘の内側が見事な星空で、怜は感嘆の息を吐いた。
「此の景色の中に夜空みたいで不思議だろ? 見せたかった」
 とアベルが言うと、怜は綻ぶように笑った。
 星空の傘の下、そぞろ歩いて紫陽花を愛でるのだけれど、アベルの視線はどうにも白椿に向いてしまう。
 怜に贈った白椿の髪飾りが、彼女の赤い髪に眩しいくらいに映える。
 魅入られるようにそっと伸ばした手に怜も気づいて、彼を振り仰ぐ。
「貴方がくださったものですもの」
 と微笑み、怜は白椿に触れるアベルの手に自らの手を重ねる。
 じっと見つめ合って、そして、怜はアベルの生誕を寿ぐ言葉を囁いた。
 軒下で景色を愛でるロストークの眼の前を、いくつもの傘が通り過ぎていく。
 いま通ったのは、黒、オレンジのギンガムチェック、そして青……それまでの傘も千差万別、紫陽花よりもたくさんの色があって、まるでもう一つの花のようだ。
「あ、ローシャくん。きぐう? だね」
 通りがかった知り合いが、声をかけてくれた。エリヤだ。
「やあ、エーリャも来ていたんだね」
「ねえ、一緒にお花、みようよ」
 エリヤの誘いに頷き、ロストークは傘をさして軒から出る。
 先程、ロストークの前を通った三つの傘の主、環、遥、そしてアンセルム。
「ホント、最近はドタバタでしたよねー。きっとこれからもこんな感じが続くんでしょうねー」
 環がぼやくと、遥が、
「そうですね。最近は息をつく暇もありませんでしたから」
 と頷く。
「明日からまた頑張れるように、今日はのんびりするって決めたんだ」
 ピンクのレインコートを着せた人形を抱きながら、アンセルムが応じる。
 珍しく人形の話をしないアンセルムに、遥も環も内心驚きながらも、
「こういった静かな休息も大切ですよね」
「また来年も、かわらずみんなとここにこれたらいいな 」
 と穏やかに言うので、アンセルムも首肯した。
 最近、物騒になっていく情勢に思いを巡らせる者は他にもいる。
「ビルシャナが来たり、ドラゴンが来たり、本当に気が休まる時はないけれど……」
 コマキは嘆息ひとつ挟み、しかし微笑む。
「それでも、こうやって合間の時を楽しむのが次の戦への力になるのよ、きっと」
 彼女の微笑みを受け、ウルトレスは瞑目する。
 デウスエクスとの戦いは日々激化の一途を辿っている。
 ウルトレスが先日赴いたドラゴンとの戦いでは、コマキに多大な心配まで掛けてしまった。
「去年の末、星空の下で交わした約束を覚えていますか?」
 コマキはウルトレスの問いかけに、ええ、と肯定を返す。
 ――ふたりとも無事でいよう。
 流星群の夜に交わした約束だ。
「なんとか守れています、貴女のおかげで。……これからも、きっと」
 ウルトレスの言葉に、コマキも頷いた。
「私も、貴方がいるから生きて帰ろうって思えるもの。……ええ、これからも」
 互いに互いの生存を祈り、思うことで、明日もまた無事に戻ってこられればいい。
 マサムネは雨に濡れる紫陽花をぼんやり眺めながら、隣のシャルフィンに切り出した。
「シャルフィンは過去の怖い夢って見たりする?」
「俺は過去の出来事を怖いと思った事は余りない」
 シャルフィンは淡々と答えた。そう、と呟いたマサムネの声は暗い。
「オレはするよ」
 故郷と家族を滅ぼされた記憶。
「マサムネは忘れられないだろう。いや、きっと忘れてはいけないんだと思う」
 夫が真剣な面持ちで言うので、マサムネは目を瞬かせて彼を見つめる。
「その記憶で失った人々はもう、マサムネの中でしか残っていないのだから」
「なんだかシャルフィンが珍しく真面目だ」
 呆けたように呟くマサムネに、シャルフィンは誤魔化すように続ける。
「……なんてな。割と適当な事を言った」
 だが彼の言うとおりだ、とマサムネは思う。
(「過去は乗り越えた後も忘れちゃいけない。オレの記憶の中から消えたらそれが二度目の死だ」)
 考え込むマサムネに、シャルフィンはそっと顔を寄せて囁く。
「今が幸せならそれで充分だ。……違うか?」
「本当に感謝してるよ、ありがとう、愛してる、幸せ」
 二人の影がそっと重なった。

●むかしのはなしも
 ノル・キサラギが濡れないように、転ばないように……と心を砕いていたグレッグだが、肝心の自分のことが疎かになっていたらしい。
「!」
 石段の隙間に爪先を取られ、体が傾いだグレッグを、ノルが慌てて支える。
 傘の柄を握るグレッグの手に、ノルのそれも重ねると、恥ずかしそうなグレッグと視線が合った。
 行き交う互いの体温が、二人の心も温めてくれる。
 雨と紫陽花は、なにも今年だけのものではない。去年も同じように降り、そして咲いていた。
 今年、その景色が違うように思えるのは、幸せを互いが互いにくれるから。
 マヒナが持つ傘は、濡れると紫陽花柄が浮き出る傘。
「アジサイ見ると思い出すんだ……このカサを買ってくれた人のこと」
「ふうん」
 隣で、マヒナの話を聞いてくれるのは、梢子とビハインドの葉介。
「ワタシ、その人のこと好きだったんだと思う……。結局それから連絡つかなくなっちゃって、ずっと会えないままなんだけど」
「貴女にとっては、それが成長するのに必要な恋だったのかもね」
 マヒナには今、他に好きな人がいるから、特に引きずっているわけではないという。
「ただその人が元気でいてくれればいいなって思うけど」
 マヒナの思いに、梢子は明るく優しく言ってやる。
「それくらいでちょうどいいのよ、きっと」
 隣にいる厳格な父ヴェルダンディーに、ロゼは懸命に笑顔で話しかけ続ける。
「お父様、紫陽花綺麗ですね! 雨の日に見る紫陽花は特別綺麗で好きなんです!」
 ふぅんというそっけない返事一つだけで、ヴェルダンディーは一瞥もしないが、ロゼはめげない。
 返事があるということは、聞いてはくれているのだ。とポジティブにとらえて笑顔を深める。
 ヴェルダンディーとしては、慕ってくる娘――娘とは認めたくないのだが――に後ろめたさと戸惑いしかない。
(「君は人形の様に都合の良い存在にと育てた筈なのによく笑うな」)
 ロゼに重ねるように、遠く懐かしい最愛の笑顔を思う。もう戻ってこない笑顔だ。
 遠くを見つめるような父の横顔に、ロゼは祈るような気持ちで用意してきた封筒を差し出した。
「あの、父の日少し早いですが!」
 父と言われて、気恥ずかしくむず痒い。ヴェルダンディーが僅かに震える手で封をあけると、妙な生き物……らしき絵があった。ロゼの絵心は壊滅的であった。
 思わず笑ってしまったヴェルダンディーに、ロゼは目を見開く。
(「お父様が笑って……!?」)
 驚きつつも喜びを隠せないロゼに、ヴェルダンディーは雨音に消されそうな小さな声で謝意を伝える。
 それでもちゃんと聞き取れたロゼは、弾けるような笑顔を見せたのだった。
 傘を肩に引っ掛けるようにして、カリンはスケッチブックに鉛筆を走らせる。
 写生しているのは、雨に濡れる紫陽花だ。しかし、どうも納得のできる出来栄えにならない。
 ううん……と唸っていると、
「もしもーし。折角の服が濡れてしまいますよ、お嬢さん」
 と声がかかった。
 カリンが声の方を見やると、アシュレイが苦笑しながら立っている。
 誰だろう、とカリンはメモ帳を探し始めた。すぐに記憶が飛んでしまう彼女は、メモ帳がないと眼前の青年が既知なのかもわからない。
「はじめまして」
 メモを見る必要はない、とアシュレイは『初対面の挨拶』をしてくれた。
 だから、カリンはメモ帳を探すのを止めて、同じように挨拶を返す。
「はじめまして」
 そして、恥ずかしそうにカリンは打ち明ける。
「私……ちょっとわすれっぽいんよ。なんでも書かないとすぐ虫食いになる。こんなにきれいな景色、忘れたくなくて」
「それは殊勝なことで。よし、お兄さんが手伝いましょう」
「よかった。そんなら教えてほしいところがあるんよ」
 とカリンがほっとしたように笑う中で、アシュレイは背後からビハインドの視線に気づく。
「なに複雑な顔してんすかぃ、リチャード。過去は過去、ですってば」
 とサーヴァントに笑いかけ、アシュレイはカリンに絵の指南を始めた。

●おめでとう
 ぼんやりと、いかるは紫陽花を眺めている。
 エクトプラズムの傘をさしたミミックを伴って、イッパイアッテナが近づいてきた。
「おめでとうございます! こういう場所へはよく来るのでしょうか」
「うーん、いろいろ忙しいさかい、よくは来ないんやけど」
 傘の下でいかるは儚げに微笑んだ。
 イッパイアッテナは、ドワーフ故に曇天でも明瞭に紫陽花が見えると楽しげに言って、通り過ぎていった。
 次に軽快な足取りでやってきたのは、ハチ。
「いーかーる、誕生日おめでとうっスよ!」
「うん、ありがとうな、ハチくん」
 しかし交わす会話が最近の情勢になると、互いに笑顔が消えていく。
「自分、番犬の一人として、頑張るっス、精進するっス。その……戦友、みたいなものかなって……勝手にっスけど、思ってて」
 ハチはポツポツと、しかし信念を持っていかるに親愛を伝えた。
「僕、戦ってへんのに。そんなふうに思ってもらえるんか……」
 じーんと感動しているいかるに、ハチは思い出したようにポケットをまさぐった。
「そうだ、これ、ペパーミントの精油っス。ハンカチとかに垂らすと、気分が上向くんスよ」
 少しでも悩めるいかるの助けになるようにと考えたプレゼントを、いかるは嬉しげに受け取った。
「ねえ、いかる。いかるは、流れ星を見つけたら何を願うっスか……」
 ハチが尋ねていると、
「あっ、お耳発見」
 明るい声がいかるの背中から聞こえた。
 振り向けば、纏が、ダレンと相合い傘で立っている。
 纏は、ん。と左手をかざすと、そっぽを向いたままのダレンの脇腹をつつく。ダレンは羞恥の極みと言わんばかりに眉と口を曲げて逡巡していたが、渋々同じく左手をかざす。
「おぉーっ!」
 いかるは、二人の左手の薬指に輝く指輪を見て、耳と尻尾をピンと立てた。
「報告しておきたかったのだけど、こんなご時世だから」
 静かに笑う纏と、照れたダレン。
「いや、まァ……そういうコトってカンジでして。今後とも宜しく頼むわってコトで!」
 逃げるようにダレンが纏の手を引いて、歩き去る。
 二人の背に小さく手をふると、いかるはハチに向き直り、
「流れ星なぁ……。こんなご時世だからって言わんでも、派手に友達の結婚が祝える世界になりますように、かなぁ。今は」
 と悪戯っぽく笑って先程の質問に答えるのだった。

作者:あき缶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月17日
難度:易しい
参加:40人
結果:成功!
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