暗きに潜む者

作者:遠藤にんし


 アーティラリィ・エレクセリア(闇を照らす日輪・e05574)は、正体の分からない胸騒ぎのままに廃ビルの中へ入っていく。
 階段を上り切って、屋上へ。そこにいる女性の姿に、アーティラリィは瞠目して。
「お主……!」
 アーティラリィを待ち受けるように立っていた彼女――それは、アーティラリィによく似た姿をしていた。
 違うのは、彼女の方がアーティラリィより大人びた姿であること。
 そして、背負う翼が黒いことだ。
「まさか、お主は――」
 アーティラリィが言葉を口にするより早く、彼女……死神『ピオーニア・エレクセリア』はアーティラリィへと迫った。


「集まってくれてありがとう」
 高田・冴(シャドウエルフのヘリオライダー・en0048)は手短に礼を言うと、すぐに予知した情報を告げる。
 それは、アーティラリィ・エレクセリア(闇を照らす日輪・e05574)が宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けるというもの。
「急いで彼女と連絡を取ろうとしたんだが、連絡が取れなかった……急いで、救援に向かってほしい」
 アーティラリィと死神のピオーニア・エレクセリアは現在、とある廃ビルの屋上にて対峙している。
「廃ビル、屋上という環境もあって、周囲に人はいない。戦いに専念できる環境だ」
 しかし、だからといって油断はできないと冴は表情を引き締める。
 ピオーニアは手にした向日葵や黒い翼を使って攻撃を仕掛けてくる――決して油断できない敵となるだろう。
「特に、自分に不利な状況となると自ら回復を行うこともあるようだ」
 ピオーニアの狙いは最初こそアーティラリィだが、しばらくすれば、癒し手を狙うことも増えるだろう。
「今から向かえば、アーティラリィさんに何か起こる前に到着できるはずだ。急いで、現場に向かおう!」
 冴が言うと、ケルベロスたちも大きくうなずくのだった。


参加者
リーファリナ・フラッグス(拳で語るお姉さん・e00877)
朝倉・ほのか(フォーリングレイン・e01107)
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)
ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)
アーティラリィ・エレクセリア(闇を照らす日輪・e05574)
ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)
上泉・結奈(やがて剣聖へと至る道・e44365)

■リプレイ


 死神、ピオーニア・エレクセリアは迫る――輝きは黒々と、しかしそれはアーティラリィ・エレクセリア(闇を照らす日輪・e05574)には届かない。
 オウガメタル『紅隈』を纏うレオンハルト・ヴァレンシュタイン(医龍・e35059)の拳が暗闇を押しとどめた――はじき返されたピオーニアが大きく後退するのと時を同じくして、オルトロス・ゴロ太は眼差しに力を込めてピオーニアを睨みつける。
「この一時、私は君の宿縁を断つための刃となろう。存分に振るうがいい」
 言葉と共にアーティラリィの隣に立つのはハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)。実体なき朱光をその手に、ハルの視線はピオーニアへと注がれている。
 朝倉・ほのか(フォーリングレイン・e01107)は星座の輝きを広げながら、気遣うようにアーティラリィへと目を向ける。
(「今がきっと決着を付ける時です」)
 この結果がどうあろうとも、友人として寄り添いたい――そんなほのかの願いを映すかのように、星の瞬きは優しくて。
 輝きに目を細める霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)はピオーニアを、そしてアーティラリィを交互に見て呟く。
「……成程、色んな意味で向こうが上位互換ですか」
 アーティラリィを色々大きくすればピオーニアの姿になるのだろう……そんなことを言いつつも、裁一はサバトオーラを立ち上らせ。
 ――戦場に明かりが灯ったのは、ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)の持ち込んだケミカルライトのため。暗く笑むピオーニアと対峙するルージュは、光満ちる金の瞳を向けて。
「僕も力を尽くすよ。一緒に、戦おう」
「質の悪い死神をとっちめに、気合を入れるとしようか」
 ルージュの言葉にリーファリナ・フラッグス(拳で語るお姉さん・e00877)がうなずく。
 アーティラリィの悲劇の際には何もできなかったからこそ、今回はきちんと助太刀を――傍にいたい、と願いを込め、リーファリナはサキュバスの翼を広げる。
(「しかしまあ、死神か……厄介なもんだぁな」)
 上泉・結奈(やがて剣聖へと至る道・e44365)は思い、喰霊刀の柄に手をかける。
 アーティラリィが身に宿すのは闘気、思い返すのは喪った夫と子のこと。
 ピオーニアと視線が交錯する――パチン、とレオンハルトは扇子を鳴らし。
「竜王の不撓不屈の戦い、括目して見よ!」
 ――戦いが、始まる。


 結奈は魂うつしを経て喰霊刀を振るい、真空の刃を生み出す。
「上泉の剣が壱、空の刃! 受けてみやがれ!」
 轟音と共に発生した風がピオーニアを押し潰さんばかりに襲い掛かり、結奈の青い袴をも大きく揺らす。
 風圧に身動きの取れないピオーニアの元へとアーティラリィは躍り出て。
「その身体も、魂も、今こそ解き放とうぞ」
 弾丸に変貌する闘気はまるで小さな太陽。無数の熱を浴びるピオーニアの唇が刻むのは、アーティラリィの名だ。
 青の双眸は互いだけを目に焼き付けて――憎しみはピオーニアが向けるものなのか、それともアーティラリィ自身の向けるものが彼女の瞳を鏡にしているだけなのかも分からない。
「そんなにも、余が恨めしいか? 生きれなんだ自分と比べ、命ある余が」
「アティ――会いたかった、殺したかった――アティ、私が」
「……ピオ。お主を止められなかった余の不甲斐なさこそ、余は恨むべきなのかもしれぬな……」
 言葉は互いに一方通行、交わされるだけで会話ではない言葉を舌の上で転がしながら、ピオーニアは凍てつく弾を放って。
 氷塊を打ち砕くのはゴロ太。足元に転がるそれらを踏みつけたゴロ太はくわえた刃でピオーニアに迫り、氷塊を力の限り両断した。
 それでもなお言葉を継ごうとするピオーニアへと、ハルは境界剣《ブレードライズ》を突きつけ。
「悪いが邪魔させてもらう。彼女は一人ではないし、これ以上貴様に奪わせもしない」
 携えたもう片方の剣、魔滅刀“陰緋剣”にも雷が宿る――Xを描くように斬り裂けば、雷の力は強大なひとつへと収束し。
「受け継ぎし刃、その身に刻め。雷神――双滅天光衝ッ!」
 両断――妖精弓『梓弓』を引いて、レオンハルトは仲間たちへと声を張り上げる。
「一人で頑張り過ぎるものではない! 連携して分散するんじゃ!」
「ああ、任せてくれ!」
 応えるルージュの手には日本刀。こぼれる呪詛を刃に乗せてピオーニアに迫り、優美な斬撃を叩き込む。
 斬撃を加えたルージュが大きく後退するのと同時に踏み出したのはほのか。戦闘を始めます、という言葉をスイッチにして戦いに挑む。
「斬れないものは殆どない!」
 ピオーニアを刃が撫で上げれば、一拍遅れて血がこぼれる。闇に滴る真紅を見下ろす裁一が生み出すオーラは、ゆったりと辺りへ広がって。
「今は! ヒマワリじゃなく! 紫陽花の季節!!」
 言葉を強めるごとに強まるオーラを力にして、リーファリナは数多の砲門を開く。
「全てを打ち砕く界の怒りよ。力の猛り、轟きをもって我が敵を討ち滅ぼさん」
 噴出する炎がピオーニアを包み込む――夜闇を照らす光は、幾重にも満ち溢れた。


 厚い護りの層を築くケルベロス同様、ピオーニアもまた己に癒しを施す。
「ヒマワリに良く効く枯葉剤です。お納めください」
 ピオーニアの背後に回り込んだ裁一は彼女の豊かな胸元へと注射。薬物に身を苛まれながらもピオーニアは裁一へと視線を向けようとするが。
「余所見をするな、こちらだ死神」
「いくぜ、痛い目見せてやる!」
 ハルと結奈の挟撃が、それを許しはしない。
「ハルもいると戦いやすいな。頼りになる」
 力強い攻撃につぶやくリーファリナの生むミストは角の色に似た赤。癒しと護りを主眼に置く戦いで傷を負った者へ癒しを重ねれば、こちら側の護りは盤石だった。
 ……とはいえ、回復不能ダメージは蓄積する。ディフェンダーとして最前に立つリーファリナとレオンハルトの顔に疲労が覗いているのもまた、事実ではあった。
「無理はするなよ!」
 それはリーファリナも分かっていることなのだろう、レオンハルトへ声をかけると、レオンハルトも力強くうなずく。
 ダメージの蓄積はピオーニアも同じこと。それが分かっているから、ほのかは一歩前へ出てルージュへと言う。
「合わせます。一気に畳みかけましょう」
「ああ、任せてくれ」
 応えるルージュの瞳に宿る地獄――疑似的な演算の横でほのかは黒の疾風と化し、ピオーニアへと肉薄して。
「焦がれる程の抱擁を」
 アーティラリィよりずっと大きい体を抱きしめた――生命力を奪われたピオーニアは小さく呻いて、それでもアーティラリィへ手を伸ばす。
「離れないで、アティ。離れては駄目……アティ、私を見ていて」
 蠱惑的な言葉が紡がれるたび、日輪は暗きを増していく。
 暗黒をも包み込む地獄の瘴気はゴロ太のもの、しかしかき消しきれない暗黒がゴロ太を包み、限界を迎えたゴロ太の体はしばしの消滅を迎える。
「ピオ……お主は、余の愛するものをまた傷つけるのか」
 ゴロ太の消えた虚空、傷ついた仲間たち、その中でも傷の深い護り手の二人。
「お主は、余からまた奪うのか」
「アティは生きているからそんなにも苦しいのね。アティの魂が私のものになれば、貴女には何の苦しみもないのに」
 視線を合わせているはずなのに違うものが想起される――護るためには必要なことなのか、そんな思いと共に、アーティラリィは頭上の向日葵に手を伸ばし。
 ――その手が向日葵を抜き去るより早く、その手を、小さなものが叩いた。
 ぽつ、ぽつと。粒はアーティラリィの手を、頬を濡らすやさしい雨。
 それはアーティラリィだけではない者をも濡らす……レオンハルトの、ウィッチドクターとしての本領発揮。
「落ち着けと言う方が酷だとしても、今だけは頭を冷やすんじゃ!」
 冷たいはずなのに温かなメディカルレイン。
 サーヴァントを失い、己も傷つきながらも激励を口にするレオンハルト。
「まだ慌てる時じゃないです。はい、深呼吸しましょう、深呼吸」
 そんな裁一の言葉も受けて、アーティラリィは頭上から手を離し。
「そうじゃな……余には、まだ出来ることがある。レオン殿、裁一、助かったぞ」
 頬を伝い、あごから落ちる雨粒。
 度重なる攻撃に膝をついたピオーニアを見下ろせば、彼女の頬にも粒は落ちる。
「一つ一つは小さくとも、集いし力は強大なり」
 向日葵の輝きが、強くなる。
「無数の光よ、数多の熱よ」
 夜風が熱を孕んだ――その熱は、アーティラリィの掌へと。
「余の手に集いて力となれ!」
 ピオーニアの胸へと手を当てて叫ぶ――同時に炸裂する光、熱が、辺りを白で埋め尽くして。
「……力とは、収束してこその力じゃ」
 ――やがて光が晴れ、辺りに夜が戻ってきても。
 ピオーニア・エレクセリアの肉体は、決して戻ってくることはなかった。


「お疲れさん」
 静寂が戻った屋上にて、結奈は一言告げてその場を後にする。
 残る面々はしばらく沈黙を守っていたが、それを破ってリーファリナは言う。
「さて、どこか飲みに行くか」
「結構じゃよ」
「悪いが逃がさん、今日の私もしつこいぞー」
 一度は断ったアーティラリィも、そこまで言われては断りはしない。
「すまんの、世話をかける」
「ふっふっふ、今日は私の胸に飛び込んできてもいいんだぞ、アティ?」
 苦笑を浮かべての言葉に、いつも通りの雰囲気で語り掛けるリーファリナ。
「では、私もご一緒しますね」
 ほのかも優しく微笑んで、裁一もうなずく。
「ヒマワリィが真面目? まさかシリアスを出来ただなんて……ちょっとよくわからないので、飲むしかないですね」
 そんな裁一の様子にルージュは小さく微笑んで。
「それなら、僕も一緒に行かせてもらおうかな」
 レオンハルトはアーティラリィの肩をぽんと叩いて、微笑を向ける。
「君は間違ってはいない。この結末は先に進むために必要な事だった」
 ハルも言葉を贈る……仲間たちの温かい言葉に、アーティラリィは微笑んで。
「うむ。では、行くとしようかの」
 頭上で揺れる向日葵と同じように、その表情は眩いものだった。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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