寄生植物の侵略

作者:澤見夜行

●死んでも離れない
 その日、煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)は攻性植物によって破壊された市街地に訪れていた。
 この場所を破壊した攻性植物はすでに番犬達の手によって倒され、周囲もヒールにより修復されていたが、すこし離れた場所にはまだ、攻性植物による爪痕が残されていた。
「あなたの故郷もこのような姿になっていたのでしょうか」
 カナの師にあたる人物の故郷は、ある攻性植物によって滅ぼされた。
 そのことを思い出し、視界に映る情景を重ねて見れば、胸に僅かに暗い影を落とす。
 大阪の市街地でも攻性植物が多く現れていると聞く。このような悲惨な光景を増やすべきではないと、カナは心から想った。
 風に揺れる長い白髪を押さえ、一つ息を零す。同じような被害を出さないために、番犬たる自分が頑張らなければと決意を新たにする。
 そうして、心を固めたところでふと気づく。ゆらゆらと揺れながら近づく人影に。
「――あれは」
 怪しい挙動。今にも倒れそうなその歩き方。
 よく目を凝らして見れば、異様なのがすぐにわかった。
 女性。それも衣服を身につけていない裸体の女性だ。
 美しさすら感じるその女性の視線は定まらず、見開いた目は虚空を映す。
 その女性を覆うように、植物が身体のあちこちに巻き付いている。
 その異様さは、可憐に咲く黄色い花達を邪悪にも思わせる様だ。
 その異様な姿にカナは覚えがある。
「……アイビープラント」
 口元を押さえるようにつぶやかれたその名。
 それはカナの師の恋人に寄生し、師の故郷を滅ぼした攻性植物の名に他ならない。
 ゆらり、ゆらりと寄生された女性がカナへと近づく。有無言わぬ操り人形のごときその女性が手を伸ばす。
 咄嗟に、カナは身を翻した。番犬としての勘が、身体を突き動かしたのだ。
 カナの居た場所に伸びる蔦が、地面を抉る。
「――次は私に寄生するつもりなのね」
 襲い来る物言わぬアイビープラントを前に、カナは覚悟を決め武器を構えるのだった――。


 駆け込んできたクーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)が集まった番犬達に説明を開始する。
「カナさんが宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けることが予知されたのです。
 急いで連絡を取ろうとしたのですが、間に合わず……一刻の猶予もないのです。
 カナさんが無事なうちに、なんとか救援に向かって欲しいのですよ!」
 その言葉に、同行を申し出たセニア・ストランジェ(サキュバスのワイルドブリンガー・en0274)が頷いて、敵の情報について訊ねた。
「敵は攻性植物一体なのです。配下などはいないのです」
 敵はその種子を飛ばし植え付け相手を麻痺させる攻撃に、蔓草を伸ばし捕縛する攻撃、グラビティを活性化し傷を癒やす能力をもっているようだ。
「周辺は戦闘によって破壊された町なのです。人気もなく戦闘に集中できるはずなのです」
「情報を見ると、人に寄生しているようだが、宿主は生きているのか?」
「いいえ、すでに宿主となっている女性は亡くなっているのです。可哀想ですが、攻性植物ごと倒すしかないのですよ」
 セニアの確認に、クーリャは悲しそうに目を伏せた。
 そうして説明が終わると、資料を置いたクーリャが番犬達に想いを託す。
「カナさんを救い、宿敵である攻性植物を撃破して欲しいのです」
「ああ。人に寄生し支配地域を増やそうとする忌むべき相手だ。心して掛かろう」
 そうして現場へと向かうセニア達を、クーリャは送り出すのだった。


参加者
西水・祥空(クロームロータス・e01423)
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
宇原場・日出武(偽りの天才・e18180)
クララ・リンドヴァル(本の魔女・e18856)
リノン・パナケイア(黒き魔術の使い手・e25486)
天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)
煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)
桜衣・巴依(オウガのゴッドペインター・e61643)

■リプレイ

●仇敵
 煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)の救援に向かったヘリオン内で、カナと同じ旅団に所属する桜衣・巴依(オウガのゴッドペインター・e61643)が焦燥を零した。
「お願い、どうか間に合いますように」
 祈るような気持ちの中、肩を叩かれ振り返れば仲間達が出撃を告げた。
 現場上空。眼窩に広がる地上を睨めつけながら一つ頷くと、ヘリオンを飛び出した。
 救援のフリーフォール。カナの為に八人の番犬達が往く――。

 地上ではカナが宿敵たるアイビープラントと対峙していた。
「――ようやく会えました。五年ぶりです」
 それはカナが自身の師匠の元にいた時に戦った時以来。
 あの時は、自身の未熟さ故に、師匠の足を引っ張りアイビープラントを倒す機会を逸してしまった。
 あの時の悔しさ。独立した今でも忘れることはない。
「師匠の大切な人の命を奪い、あまつさえその身体で多くの命を奪ってきたあなたを絶対に許しません! いえ、許さない!」
 カナが全身にグラビティを巡らせる。
 力強いカナの宣言に対し、アイビープラントは黙したままにその屍を動かす。
 グラビティによって加速された種子が放たれる。咄嗟に躱したカナを追いかけるように蔓草がウネウネと伸びた。
「くっ――!」
 更に身体を動かして、同時に反撃を試みる。半透明の『御業』を生み出し、その手を伸ばすとアイビープラントを鷲掴みにする。
 そこに気を咬む弾を撃ち出し、直撃を狙う。吸い込まれるようにアイビープラントにオーラの弾が直撃するが、かすかな手応えを返すだけだ。
 爆音と土煙が去ってみれば、蔓草で自身を保護するアイビープラントの姿。高い耐久性を窺わせるその様相にカナの額から汗が流れた。
 共に一歩も引かぬ攻撃の応酬。だがやはり一人で相手にするには分が悪い。
 徐々に迫る死の足音。
 だがカナは諦めない。自分はケルベロス。共に戦う仲間がいるのだ。
 瞬間、カナとアイビープラント間に影が落ちる。立ち上る土煙。立ち上がる八つの影。
「待たせたな。無事か?」
「みなさん――!」
 降り立った番犬達がカナを守るようにアイビープラントの前に立ちはだかった。

●アイビープラント
「こいつが煉獄寺の言う宿敵か」
 誰よりも前に立ち、アイビープラントを睨めつけ言うのは相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)だ。
 手にした髑髏の仮面を被ると油断無くアイビープラントを見やる。
「ええ、そうです。――アイビープラント。私の倒すべき相手です……!」
「立ち向かう覚悟はできてるようだな。ちょっと前にも言ったが、露払いは任せな」
 一歩前にでる竜人。それに反応してアイビープラントが狙いを竜人に定め攻撃へと転じようとする。
「挑んでくるか? 上等だ――!」
 先手を取るのは竜人だ。アイビープラントが攻撃を開始するよりも先に動き出し、機先を制する。一呼吸遅れて放たれる種子を躱しながら刹那の呼吸で距離を詰めると同時に、自身の右腕を竜の物へと変える。
「ああ、竜が相手だ。逃げても誰も咎めねえぜ? ――咬み千切ってやるよ!」
 顕現する竜の黒き腕は見るもの全てを圧倒する。全てを薙ぎ払うように振るわれる剛腕がアイビープラントを殴り伏せる。
 死体とは思えぬほど機敏に、そして即座に体勢を整えながら間合いを取ろうとするアイビープラントに竜人が追撃する。竜鳴より放たれる竜砲弾の雨が降りしきり、アイビープラントの足を止めた。
「死んだ人間は動かねえ。ソイツがルールだぜ」
 竜人は側面から背後に周り込むように動くと、アイビープラントの注意を引く。竜人を狙い攻撃を繰り返すアイビープラントの注意が番犬達から逸れた。
 この動きに番犬達が呼応する。
 竜人と同じように仲間達の前に出ていた天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)がヒールドローンを展開し仲間達を警護させると同時に、独立機動砲台に攻撃命令を与え狙いを定める。
「なかなか嫌がらせポイントの高い賢しい植物だね――だけど」
 思い道理になどさせはしない。
 地獄化された炎の翼を広げ上方へと飛び上がると同時に、砲台の主砲を一斉に放つ。
 轟音を上げる砲弾がアイビープラントを釘付けにし、身体の動きを抑制する。
 上がる爆煙。その土煙の中から蔓草が蛍へと伸びる。身体を捕縛しようと伸びる蔓草を炎の翼で防ぐようにしながら耐える。
「このっ、しつこいよ――!」
 死んでも離さない。アイビーの花言葉のごときしつこさを見せる蔓草に手を焼くも、空中を飛行し縦横無尽に飛び回る蛍は必死にその攻撃に耐えていた。
 その状況にリノン・パナケイア(黒き魔術の使い手・e25486)が走る。
「……狩れ」
 それは『とある魔術師』から教わった魔法の一つ。生まれ出でた影は魔物のシルエット。影が動きアイビープラントの首を狙う。
 影の攻撃に大きく体勢を崩しながら、新たな敵対者であるリノンへターゲットを変えるアイビープラント。だが、攻撃に転じるより先にリノンの接近を許すこととなる。
 寡黙な彼は、淀みない動きでアイビープラントへと肉薄すると、美しい軌跡を描く斬撃を放つ。呪詛の載ったその一撃がアイビープラントの肌を赤く染め上げた。
 その二連撃はアイビープラントに対する有効打を明らかにする。魔法による攻撃に対し大きく蹌踉めいたアイビープラント。それを察知したリノンはハンドサインで仲間達にそれを知らせた。
「カナとお前の因縁などわたしには知らぬことだ。
 だが、村長として、ケルベロスとしてあるのは村民を助けなきゃならない事。そして、デウスエクスは倒さなきゃならないことだ――!」
 (自称)天才の宇原場・日出武(偽りの天才・e18180)が自信に溢れた表情で高らかに宣言しながら戦場を駆ける。
 敵の注意が向いた仲間に注意を促しながら、手にした得物のルーンを発動させ、光り輝く呪力と共に得物を振り下ろす。
 日出武は流れるような動きで身体を回すと流星纏う蹴りを見舞い、重力の楔を叩き込む。
 乱打を受けるアイビープラントが反撃の種子を飛ばすが、
「天才なので、効かぬ! 通じぬ!」
 と、明らかにダメージを受けていながらも日出武は止まらない。気脈を断つ指突きがアイビープラントの身体を硬化させていった。
「寄生された肉体を傷つけるのは本意ではありませんが――」
 西水・祥空(クロームロータス・e01423)はしかし、冷たい空気を纏いながら疾駆する。仲間達の後ろから敵の隙を見つけるように走ると、逃すこと無く攻撃に転じる。
「これより私の権限において、あなたを投獄します」
 祥空の伸ばした手の先で、アイビープラントの動きが鈍くなる。
 生み出された『過剰なグラビティ・チェインで満たされた小規模封鎖領域』がアイビープラントを拘束し、中毒とも言える症状へと陥らせたのだ。
 祥空はアイビープラントを拘束したまま、精神を極限まで集中させると、まともに動くことの出来ないアイビープラント周辺を遠隔爆破させる。爆炎に巻き込まれた蔓草が千切れ飛んだ。
 ゆらりと土煙の中から現れるアイビープラントは、しかしまだその敵意を失ってはいない。全方位に放たれる種子の弾丸が番犬達を襲う。
「人の姿をそのまま利用するとは、なかなかに悪知恵の働く敵ですね」
 『不変』を冠する魔女クララ・リンドヴァル(本の魔女・e18856)が地面に守護星座を描きだし、仲間達を守護する光をもたらす。
 恥ずかしがり屋で大人しいクララだが、デウスエクス相手には容赦をすることはない。
 これ以上の犠牲者が出ないように、ここで終わらせる心算だ。
 文字通り草筋一本残さずに。
「速いですが、やはり植物ですね」
 アイビープラントの動きに対応するように、オウガ粒子を放ち、仲間の感覚を鋭敏にするクララ。続けて、禁断の断章を紐解き詠唱すれば、味方の脳細胞に常軌を逸した強化を施していく。
「あ、あのっ……! 竜人さんは私が見ます……。セニアさんは蛍さんをお願いします……!」
 共に仲間を支えるセニアと連携を取りながら、仲間の治癒を担う。この戦いにおいて継続的に与えられる行動阻害に対応できるのはクララの活躍があってこそだろう。
 万全の状態で戦える番犬達は有利に状況を進めていた。
「一人のケルベロスとして、旅団でも面識薄いけど仲間の危機に駆けつけるのは当然でしょう。助力致します」
 カナにそう語りかけ自らもアイビープラントへと立ち向かっていくのは巴依だ。
 間に合ったことへの安堵。旅団員の仲間としてカナと一緒に戦えることへの安心感。そして戦いへの高揚感も合わさって心の充実を見る巴依は気負うこと無く戦闘に参加していた。
「緋椿、行きますよ――!」
 サーヴァントのライドキャリバーに跨がり炎を纏う突撃を行う巴依。タイミングを合わせて竜砲弾を放つことで精度を上げる。
 反撃の一打をその身で受けながら間合いを取ると、桜衣家代々に伝わる陣術を描く。
「その身に蝕むあらゆる毒を祓いたまへ……」
 白き輝きを纏う狛犬が召喚され、仲間の身体を冒すあらゆる毒を祓いながら治癒する光を振りまいた。
「人に寄生するだけでも許せないが、それが美しい女性となればなおのこと放ってはおくわけにはいかないな。カナ、微力ながら助太刀させてもらうぞ」
 セニアはグラビティを放ち仲間達を支援する。
 仲間達へと浴びせた混沌の水が、傷を癒やし、邪なる力をかき消していった。
「皆さん、力添えありがとうございます――アイビープラント、今度こそあなたを倒します!」
 仲間の支援を受けてカナもアイビープラントへと攻撃を重ねていく。
 半透明の『御業』駆使し、動きを封じ確実な命中性を誇るオーラの弾で着実に弱らせていく。
 互いに機敏に、そして捕縛と射撃の応酬が繰り返される。それは先に繰り返された光景。
 だが、今は一人ではない。
 迫る死の足音は消え、今はただ仲間と共に仇敵を打ち倒すのだという決意の鼓動が聞こえるのみ。
 傷つく身体を突き動かして、カナは力の限りグラビティを振るい続けた。
 ――高い耐久性を誇るアイビープラントとの戦いは長期戦となった。
 敵の足を止め、行動阻害や状態異常を与えながら確実にダメージを稼ぐ番犬達は、一歩ずつ確実にアイビープラントを追い詰めていっていた。
 番犬達の連続的な攻勢は続く。
「らぁッ――!」
 竜人がするどい蹴りを放ち重力の楔を打ち込むと、続けて身体を回しながら炎纏う蹴撃を放つ。
 吹き飛ばされるアイビープラントに、髑髏の仮面の下から冷たく、だが熱の篭もった言葉を投げかける。
「安心しな。テメエを無理くり動かしてる糸切って、きちっと死体に戻してやるからよ」
 竜人の畳み掛ける連撃は仲間達の動きをも加速させていく。
「そこね――!」
 まるで戦闘機のように翼で加速しながら攻撃と防御を担う蛍。
 仲間へ放たれる種子の砲弾を炎の翼で受け止めながら突撃する。独立機動砲台による支援攻撃を重ねながら、自身も『特別製』のヒーリングバレットによって仲間達を支援した。
「後もう少し! みんながんばろう!」
 自身が一番傷ついていながら蛍は明るく仲間へ声を掛ける。その声に背を押され、傷ついた仲間達も今一度武器を構えた。
 リノンが一足飛びに駆け、アイビープラントに肉薄すれば手にした白刃をアイビープラントの腹部に突き刺す。刃から伝わる呪詛が魂を汚染し、アイビープラントを苦しめる。
 冷静に、黙々と仕事を熟すようにリノンは力を振るう。だが、それは間違いなくカナや仲間達を守るためだ。心の奥底にある芯の通った思いがそこにはあった。
「あたたたた――ッ!」
 日出武が凄まじい速度で拳や足を繰り出していく。約百裂拳と呼ばれるその技は、その名の通りいろいろ曖昧な技だが、その効果もいまいち曖昧だ。
 とはいえ、グラビティを乗せたその連撃はたとえデウスエクスといえど無視できる物ではない、回避すべく身体を動かそうとアイビープラントが動く。
 そこを狙って祥空が攻撃を放つ。瞬間的な爆発がアイビープラントを包み身体を蹌踉めかせる。
 踏みとどまるアイビープラントが祥空に蔓草と種子の同時攻撃を行う。回避不能の一撃に奥歯を噛み締めるが、即座にグラビティを迸らせる。
 身体を包み込む水色の地獄の炎。傷口を塞ぎながら戦闘能力を強化する。
(「――ぼろり、ぼろり」)
 クララも攻撃へと転ずる。それは太古より地球を覆う不変の法則を操る魔女が懐剣。
 腐敗の呪詛が、解明不能なプロセスを経て進行する。アイビープラントの身体が赤茶けた粉と化していく。
 定命のそれより遙かに悲惨な、錆び朽ちた死を与えるのは不変を冠する魔女リンドヴァルだ。
「煉獄寺さん、この力使ってください」
「往け、カナ! この力お前に託すぞ――!」
 巴依がグラビティによって生み出した塗料で、カナの肉体に力沸きがある絵を描くと、セニアが混沌の水を浴びせカナの秘められし力を現出させる。
「皆さん、本当に――」
 覚悟を決めて見据えた先、アイビープラントは竜人の攻撃によって大きく身を崩した。
 仲間達の視線がカナへと向く。止めを刺すのはお前だと告げていた。
「師匠……あなたの技、模倣ですけど使わせていただきます!」
 グラビティが迸る。風を喚び、渦巻く奔流が徐々に形作られていく。
 そうしてグラビティと霊力で生み出されるは一振りの刃。
 追い詰められたアイビープラントが、最後の力を振り絞り宿主を変えようとカナへと夥しい数の蔓草を伸ばす――その悉くを刃で振り払い、そして最後は――。
 飛翔する霊力の刃。刹那の呼吸の元に飛ばされた刃がアイビープラント本体を一刀の元に斬り伏せる。
 宿主となっていた女性の身体が唐突に力を失うように地面に倒れた。
「さようなら、師匠の想い人。どうか、安らかに……」
 カナの呟きは静かに風に乗り、空へと昇っていくのだった。

●エンゲージリング
 枯れ草のようになったアイビープラント。その死骸を退けながら、宿主とされた女性を調べるカナ。
 その様子を、戦い終えた番犬達は静かに見守っていた。
「あった……」
 カナは女性の指に嵌められたリングを見つけると、一度祈りを捧げてから、そっと指から外した。
 指輪には名前が彫られている。カナの師匠、その恋人である彼女の名が。
「ユミコさん、もう大丈夫です。
 あなたを苦しめるものはもういません。
 だから、安らかに……」
(「師匠、ユミコさんはもう大丈夫です――」)
「どうか安らかにお眠りくださいませ」
 目を伏せユミコを弔うカナ。祥空も倣い鎮魂を祈る。番犬達はしばらくの間そうして黙祷を捧げると、カナが仲間達へと振り返った。
「皆さん、本当に……本当にありがとうございました」
 カナの一礼に番犬達も安堵の息を漏らす。戦いは終わったのだと実感した。
「お疲れ。飯でも奢ってやろうか」
「ふふ、それじゃお言葉に甘えましょうか」
 竜人の誘いに微笑んで、カナは誘いに乗るのだった。
 救うことができなかった人への想い。そして、確かに救うことができた想いの結晶――エンゲージリングを握りしめ。
 カナと番犬達は、ゆっくりとその場から立ち去るのだった――。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。