緑の砂漠 ジャパニーズ・グリーン・モンスター

作者:現人

 大阪府大阪市。
 梅雨の昼下がり、淀川河川敷を跨る阪急千里線の高架を支える石垣とフェンスには、びっしりと葛が絡み付いていた。
 降り止む気配も見せない雨を物ともせず、空を漂ってくるのは花粉めいた謎の物質であった。
 謎の花粉はまるで意思があるかの様な動きを見せて高架下に潜り込むと、覆い茂る葛の葉へと降り立つ。
 するとさしたる間も置かず葛は、生まれ落ちた動物が立ち上がる様に蠢き始めた。
 そして五体の攻性植物として新たな生を得た五株の葛は、緑に覆われた四足歩行の獣めいた動きで高架へと這い上がると、すぐ側にある市街地目掛けて奇怪な進軍を開始した。

 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、集まったケルベロス達へ静かに一礼してから口を開く。
「爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出しています。現在の攻性植物達は、大阪市内への攻撃を重点的に行おうとしている模様です。おそらくですが、大阪市内で事件を多数発生させて一般人を避難させ、大阪市内を中心として、拠点を拡大させようという計画なのでしょう」
 そう言いながら大阪市の北端、天神橋筋八丁目付近の地図を広げる。
 北側は淀川と河川敷が広がり、その南側には日本最長の商店街である天神橋筋商店街を中心とした市街地が広がっている。
「大規模な侵攻ではありませんが、このまま放置すればゲート破壊成功率も『じわじわと下がって』いってしまいます。それを防ぐ為にも、敵の侵攻を完全に防いだ上で、隙を見つけて反攻に転じなければなりません」
 淀川を跨り、大阪市へと流れていく阪急千里線の高架上。そこに紐で繋がった五つの深緑のビーズを、セリカが置く。
「今回現れる敵は、葛の攻性植物です。謎の胞子の働きによって複数の攻性植物が一度に誕生し、市街地で暴れ出そうとしています。この攻性植物達は一般人を見つければ殺そうとする為、大変危険な存在であるのは間違いありません」
 新緑のビーズに相対する南側に、色とりどりのビーズをセリカが丁寧に置いていく。
「敵の数は多いですが、別行動する事無く固まって動き、戦い始めれば逃走などは行わないので、対処は難しくありません……が、数の多さはそれだけで脅威になります。同じ植物から生まれた攻性植物だからでしょうか、互いに連携もしっかりしているので、油断する事は出来ないでしょう」

「今回の殲滅対象は葛の攻性植物ですが、葛と言う植物は大変に繁殖力が高く、アメリカ南部ではジャパニーズグリーンモンスターと呼ばれる程で、侵略的外来種に指定されています。一度繁殖すれば他の植物を駆逐し、周囲一面を葛で覆い尽くす光景は緑の砂漠と称されています」
 そう言いながらプリントアウトした数枚の写真には、葛の葉が周囲を飲み込んだ、正に緑の砂漠と呼ぶにふさわしい光景が写し出されていた。
「その為、この攻性植物は生命力と回復力に特化していると考えていいでしょう。特に梅雨の真っ只中ですので、旺盛に繁殖した蔓に飲み込まれる危険性も高いかと思われます」
 様々な光景が普通の葛に飲み込まれた写真を見せたのは、攻性植物と化した葛がどれだけの繁殖力を持っているのかを想像させる為でもあった様だった。
「これらの攻性植物はリーダーの様な個体はなく、おおよそ似た様な能力であると推察できます。ですが、皆さんの後ろにはすぐに市街地があるだけではなく、ほんの数百メートル先には大阪市全体に広がる地下鉄に続くトンネルもあります。ですので、攻性植物を可能な限り高架上から移動させずに撃破する作戦を考えて頂きたいと思います」
 市街地への被害もそうだが、もしトンネルに一体でも葛が入り込んでしまえば、一体どれだけの禍根が大阪の地下に蔓延する事だろうか。
「一般市民の皆さんの避難や戦闘後のヒールに関しては、美濃戸・いさな(何処へでも声を届ける巫女・en0194)さん達も参加して頂けますので、皆さんは戦闘に集中して頂けたらと思います」
 そこまで言い終えると、地図の上から緑のビーズを持ち上げて再び一礼した。
「今回の攻性植物は連携に長けていますが、皆さんの絆と力で必ずやこの恐ろしい植物を根絶して下さい」


参加者
アルケミア・シェロウ(ユーリカ・e02488)
シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)
ヨルヘン・シューゲイズ(フォールアウト・e20542)
ベラドンナ・ヤズトロモ(はらぺこミニョン・e22544)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)
ブレイズ・オブジェクト(レプリカントのブレイズキャリバー・e39915)
今・日和(形象拳猫之形皆伝者・e44484)
終夜・帷(忍天狗・e46162)

■リプレイ

● 梅雨に葛
 大阪府大阪市の北端、天神橋八丁目の淀川河川敷。
 傘を差さざるを得ない程度の小雨が降り続く梅雨の最中、土手を跨る阪急千里線の周囲にケルベロス達が集まってくる。
 フードで雨粒を防ぎながらやってきたのは、アルケミア・シェロウ(ユーリカ・e02488)だった。
「やれやれだ、もうしばらくは止みそうにないね。余り強い雨じゃないのがマシと言ったところだけれど」
「鬱陶しい雨だな。日に焼けるよりはマシか」
 アルケモアの呟きに、濡れる髪をかき上げながらノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)が答える。
「梅雨時だけあって、普通の葛はそこかしこに繁殖してるな。葛の天敵を研究しておけば良かったかな?」
 キラニラックスを撫でながら、ベラドンナ・ヤズトロモ(はらぺこミニョン・e22544)が緩く首を傾げた。
「普通の葛なら風情もあるのですけれど……攻性植物を増殖させる訳には行きませんわね」
 シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)が僅か物憂げに眉を顰めると、今・日和(形象拳猫之形皆伝者・e44484)が明るい声で返事を投げる。
「あの野原とかで見る雑草の塊がクズさんだったんだね! 元々モンスターなのに、ますますモンスター化しちゃうなんて最悪だよ!」
 梅雨の中でも軽やかな声を聴きながら、緑に飲み込まれた画像を映したアイズフォンを仕舞うと、ブレイズ・オブジェクト(レプリカントのブレイズキャリバー・e39915)が遠くの水道橋を見やる。
「成る程。一体でも逃せば大惨事は免れまい。故に殲滅だ」
 太い水道管には葛がたっぷりと絡み付いており、これから挑む攻性植物を殲滅せんとする意思がその目にはあった。
「邪魔なだけの雑草なんざ、広がる前に根絶やすだけだ」
 憎々しげに吐き捨てたヨルヘン・シューゲイズ(フォールアウト・e20542)の声が静かに響く。
 降り続く雨音と水量を増した淀川の流音の中でも途絶えないケルベロス達の会話を聞きながらも、終夜・帷(忍天狗・e46162)は腕を組みながら油断なく高架を見据えていた。
「おっと、そろそろ時間だな! それじゃ俺達は避難誘導に行ってくるぜ!」
 相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)が力強く宣言すると、傍らの美濃戸・いさな(何処へでも声を届ける巫女・en0194)が戦闘担当のケルベロス達へ嫋やかに一礼する。
「私達の取り分は残さなくて結構ですので、お構いなく」
 彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)は、その言葉に柔らかい笑みを向けた。
「出来る限り努力致しますが、もしもの時は良しなに」
 ケルベロス達は足早に住宅街へと向かっていく二人を見送ると、今回の戦場となる高架に視線を移した。
 淀川を跨ぐ阪急千里線の高架は鉄骨のアーチ橋であり、電車のみが往来する設計の為、線路と点検用の通路のみが通る床面には下が容易く見える程に隙間が多く空いている。
 武骨で巨大なコンクリートの橋脚に支えられた鉄の橋。其処に予知通りに五体の四足獣めいた葛が這い上がってくるのが、見える。
 ケルベロスは街を背にし、雨が降り注ぐ線路を渡って行く。
 攻性植物は川を背にし、雨が降り注ぐ線路を渡って来る。
「人間の住処を荒らされる訳にはいかないんだよ」
「此処は大阪の人々が住む所だもの」
 ぞんざいな口振りのノチユに、シアが凛と同意する。
 然したる間もなく、ケルベロスと葛は高架上にて対峙した。
 ほんの数秒、雨粒が橋を打つ音ばかりが周囲を占める中、裂帛の気合が不意に轟いた。
「ちぇすとーっ!」
 日和の闘気が込もった如意棒が、後ろに陣取っていた葛を狙い違わず突き貫く。
 それと同時、各々に構えていた武器での攻撃に移ろうとしたケルベロス達は、信じられない光景を目の当たりにする。
 打ち抜かれた葛だけではなく、周囲の葛達も一斉に爆ぜた。
 正確に言えば、まるで爆発したかの様な勢いで葛達は一斉に蔓延し、高架に敷かれた線路のみならず、高架を支える鉄骨を新緑が飲み込んだ。
 ほんの数秒であった。
 ほんの数秒前まで時代を感じさせた高架であったはずの場所は、葛の緑によって象られた異形の怪物へと成り果てていた。

● 蛇の目、五つ
「……成る程。これは脅威だ」
 平素と変わらず機械的であるはずのブレイズの呟きに、もしやすれば感情を感じ取れたかもしれない。
「これだから雑草は……!」
 言葉の最後を歯ぎしりで搔き消しながら、ヨルヘンは忌々しげに緑の怪物を見上げた。
 彼らがそれぞれ画像で見たであろう、緑の砂漠。
 高架を骨とした大蛇めいた姿を取ったジャパニーズ・グリーン・モンスターは、順調に高架を飲み込みながらそこかしこから枝を奇怪に蠢かせ、更なる成長と外敵の駆除を目論んでいるのは誰の目にも明らかである。
「流石にぞっとしないな……まさか、端から剪定していく訳にも行かないよね」
 ベラドンナが辛うじて叩いた軽口に、葛を見据えるノチユが口を開いた。
「嗚呼……確かに面倒だ。いっそ全部燃やしたいと思ったが、それじゃ埒が開かない。よく見てみろ、あの葛の中を動いてる膨らみが幾つかある」
 その言葉に、ケルベロス達は視線を凝らす。
 すると、怪物の中を素早く動き回る膨らみと、まるで泉が湧き出る様に枝葉を繁殖させている膨らみが見える。
 蛇の目の如き膨らみは、合わせて五つ。
「なるほど、自分達の身体で大きな隠れ蓑を編んだって訳だ……蓑の中に本体が隠れてるって寸法か。じゃあ、わたしがあいつらの注意を引く」
 そう言うが早いか、アルケミアは仲間達に視線一つもくれずに濡れた線路を駆け抜け、心を鋼に合わせていく。
 緑の怪物の咢に飛び込んだアルケミアを上下左右から捕えていく、数えるのも億劫な枝葉。
 無数の枝葉を切り裂くのではなく、隙間を縫い上げる様に飛んだのは帷が放った螺旋手裏剣であった。
 緑の巨体を這う攻性植物に突き立った手裏剣の鈍い煌めきは、続く仲間達の目標となるには十分な役割を果たしている。
 しかし葛は自らに刺さった手裏剣を自分の中に取り込んで隠してしまおうとする様に、急激な成長を始め――。
「よーしっ、クズさんクズさん出ておいでーっ!」
 隠れ切る前に、日和の見えざる手に掴まれ、蔓を引き千切られながら中空へ引きずり出されてしまう。
 高架に絡み付いた蔓から引き剥がされた攻性植物の本体は、巨大に肥え太った葛根であった。
 青々と茂る怪物とは打って変わり、泥人形めいた根が必死に逃れようとのたうつ姿はグロテスクな印象を禁じ得ない。
「ちょ、ちょっと重いかな。それーっ!」
 まるで重力や物理法則を無視した様に、根はアーチへと恐ろしい勢いで打ち付けられた。
 膨大な枝葉の絨毯でさえその過大な衝撃を和らげるには至らず、高架全体で鈍い打音を響かせながら根は砕け、崩れ落ちる。
「葛は根を残せば、幾らでも再生しますからね」
 今もなお高架を飲み込み続ける葛を溢れさせ続ける根にシアは照準を定めたが、線路の下から這い出てきた蔓が彼女の足を捕えようとする。
「絶対にここは通しません!」
 しかし蔓の動きを見止めて尚、シアは回避よりも攻撃への専念を選択した。
 ケルベロス達の僅か数百m先には、大阪市全体に広がる地下鉄へ入るトンネルがある。
 もし一体でもトンネルへの侵入を果たしてしまえば、その繁殖力がどの様な結果をもたらすのかは考える必要もない。
 そして何より、街を守る防壁として高架に立つのは一人だけではない。
「対象の攻撃を確認。ここは任せろ」
 シアと蔓に間に割って入ったブレイズが伸び来る蔓を掴み、その身に蔓を巻き付かせることを厭わなかった。そうなれば、必殺の一撃を放つには十分過ぎる余裕が発生する。
 続け様に撃ち込まれた弾丸が、根を守る大量の枝も葉もまとめて飲み込み、その活動を停止させる。
 蛇の目、三つ。

● ジャパニーズ・グリーン・モンスターの逆襲
 増殖を司っていた攻性植物を撃破した事で、巨大蛇の伸長は一先ず鈍りを見せる。
 しかし同種達が容易く撃破された事により、残る攻性植物は警戒の度合いを最大にまで引き上げているのは、この場にいる全員が理解できた。
 高架に蔓延した葛を両手にそれぞれ構えた巨大剣で切り払いながらも、ブレイズは巨大蛇の前で共に立ち塞がるアルケミアに声を投げる。
「奴らの回避能力は予想よりも高い。俺はここで防御に専念するのが最善と判断する」
 アルケミアもまた、絡み付く蔓を引き千切りながら言葉を返す。
「奇遇だね、わたしもそう思ってたよ。じゃあ我慢比べと行こうか。制限時間は、みんながこの節操のない葛を伐採してくれるまでの間だ」
 生命力に特化していた二株を駆除したのも束の間、大阪市側に伸びる高架を覆い尽くした葛の中を自由自在に走る残り三株は恐ろしいしぶとさを見せていた。
 当たれば容易く勝利を決められる一撃であっても、当たらなければ何の意味も持ちはしない。
 しかし高架全体を自らの身体と化した攻性植物は、上下左右前後と幾らでも都合のいいタイミングと方向から蔓を伸ばし、隙あらば更なる浸食さえ行ってくる。
「ああもうーっ! ボクをこれ以上怒らせるなって言ってるのに!」
 日和の叫びと共に放たれる阿遮一睨すら、せいぜいが根の端を破裂させるのが関の山。
 返礼とばかりに上から落ちてくる葛の固まりに絡み付かれて振り解くのは、もう何度目の事だろうか。
「……やれやれだ」
 気怠さを平素より煮詰めた声が、ノチユの唇から漏れた。
「緑は嫌いじゃないけどさ……いい加減邪魔だよ。僕の役目を果たす事にする」
 彼の手に握られていたスイッチが、親指で押し込まれたと同時。
 高架中を浸食し、蔓延し続けていた蔓が飲み込んでいた地雷が一斉に炸裂した。
 ケルベロス達はただ無為に時間を浪費していた訳ではない。ノチユの爆破準備が整うまでの間、懸命に耐え忍んでいたのだった。
 地雷を埋設する必要などない。一切合切を飲み込む勢いで繁殖していた葛は線路も通路も鉄骨も、地雷さえも構わずに飲み込んでいた。
 高架を覆っていた葛は中からの爆発に成す術無く消し飛び、攻性植物達は致命傷には届かずとも、雨空の下へと引きずり出される。
「雑草に雨宿りなんて必要ないだろ……可能な限り惨く死ねよ」
 嫌悪を隠さないどころか、可能な限りのおぞましさを上乗せしたヨルヘンの声。一株の攻性植物は、声の主に恐怖を感じたのだろうか。それは誰にも判る筈も無い。
 千載一遇の好機を逃さなかった帷が打ち放ったオーラの弾が、その株を爆発四散させていたからである。
「殲滅だ。俺の全機能を駆使して狩り尽くす」
 ブレイズの手に握られたチェーンソーが、辛うじて残っていた葛を切り払いながら当たるを幸いとばかりに振り回される。
「さぁおいで、――わたしが相手だ」
 まだアーチにこびりついている葛の中へ逃げようとする攻性植物にぴたりと迫るのは、アルケミアであった。
 隠れ蓑を剥ぎ取られた今、どれだけ俊敏な動きが出来ようとも、彼女が作り出す一対一の舞台から降りる事など許される筈がない。
 葛が繰り出したせめてもの反撃は、最早苦し紛れ以外の何物でもない。
 彼女の細首をへし折ろうと巻き付いた根には、チョーカーの様に形を変えたオウガメタルごと砕ける力は残っていない。
 アルケミアの徒手で吹き飛ばされた先には、満を持してチェーンソーを振りかぶったブレイズが立っており、大上段から振り下ろされた駆動する刃が一切の慈悲なく葛根を斬り潰した。
 残る蛇の目は、一つ。
 最後の一株となった葛は逃走を選ばずアーチへと取り付くと、残る力を振り絞って再びの爆発的蔓延を行い始める。
「其処があなたの終わりだよ」
 雨音の中、ベラドンナの声と共に涼やかな鈴の音が響き渡った。彼女が仕組んでいた幾つもの策の陣の一つが、攻性植物を死地に追い込んでいたのだった。
 再びアーチに絡み付こうとした枝や葉や蔓ごと、祝福を受けたシアの砲撃が葛を木っ端微塵に吹き飛ばしていた。
「本当に強かったですわね……ですけれど、私達も退く訳には行きませんでしたの。御免あそばせ」
 雨が段々と小降りになっていく中、根を砕かれた葛の蔓は見る見るうちに枯れて朽ち、雨に流され落ちていった。

● 葛の旬
「酷い目に遭った。何も事が終わってから雨が止まなくてもいいだろうに」
 ブレイズが人数分用意していたタオルで頭を拭きながら、ヨルヘンが遠慮なく愚痴りつつヒールを続ける。
 ケルベロス達のその身を挺した奮闘により市街地への被害はなく、高架をヒールさえしてしまえば大体の後始末は終わったも同然であった。
「何事も過ぎたるは何とやらだよ、降り過ぎも降らなさ過ぎも困るし、葛もあんまりしぶと過ぎるのは困る」
 目を瞬かせながら顔を拭くアルケミアに、ベラドンナも頷いて同意する。
「緑の砂漠になるのも困るし、でも本当に砂漠になるのも困るよね」
「でも残念だよ、そうかなーって思ってたけど、やっぱりクズさん達は倒したら消えちゃったね。くずもち作ろうって思ってたのに」
 残念そうな日和の言葉に、いさなが軽く苦笑しながら口を開いた。
「葛粉を作るなら、旬は冬なんですよ。それに作る手間がものすごい掛かる割に、葛粉はほーんのちょっとしか出来ませんし……漢方の材料にするなら、今時期の根が向いているんですけど」
 その言葉にブレイズが真面目な表情を崩さずに言葉を紡ぐ。
「攻性植物の根にはどの様な薬効があるか確認したかったが、残念だ。だがあの生命力では根の一欠けらでも残っていれば、またあの怪物に育った可能性がある」
「普通の葛でも十分過ぎる位強いですからね。誰も大事が無くて幸いです」
 シアが柔らかな声と共に微笑みながら、雲の隙間から差し込む日光に目を細めた。
「…………」
 無言のままヒールを続ける帷だったが、注意深く見れば様々な表情が浮かんでいるのが判ったかもしれない。
 攻性植物と化した葛の圧倒的繁殖力、この様な機会でなければじっくりと観察をしてみたいと言う好奇心を充足させる事は出来なかったが、しかしまるでモンスター映画の様な体験が出来てしまった気持ち。
 そして何より、無事に街を守り通した経験は何物にも代え難いのは確かな事実であった。
「俺達も一般人に流れ弾が飛んでこないかって構えてたんだぜ! まーた俺の鍛え上げた筋肉の出番がなくてよかったよかった!」
 かんらかんらと笑う泰地の声が、雨上がりの空に気持ち良く通る。
 ややあって戦場付近のヒールが完了すると、悠乃が嫋やかにケルベロス達へ一礼した。
「では、私は所要がありますのでお先に失礼致します。皆さん、どうもお疲れ様でした」
 その言葉を切っ掛けに、ケルベロス達もまたそれぞれ思い思いの方向へと歩き出す。
 ノチユも歩き出しながら、ふと空を見上げて呟いた。
「……雨が上がれば、虹も出るか」
 ほのかに浮かぶ虹にほんの僅か視線を奪われ、どんな表情を浮かべたかは彼のみが知る事であった。

作者:現人 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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